新潟西海岸における飛砂対策について

新潟西海岸における飛砂対策について
北陸地方整備局 企画部 防災課(前新潟港湾・空港整備事務所)
北陸地方整備局 新潟港湾・空港整備事務所
北陸地方整備局 新潟港湾・空港整備事務所
北陸地方整備局 新潟港湾・空港整備事務所
松井
佐藤
澁谷
赤塚
康彦
敏文
覚
亘
これまでの飛砂対策については,ネット及び単管パイプによる2列フェンス(海側H=2m,陸
側H=1m)と翼垣(H=2m)を組み合わせた飛砂防止柵が最も効果的という結果を得ていたこと
から,景観の観点から冬期間のみ対策を講じ毎年設置・撤去していた.しかし,毎年設置・撤
去ではコスト面等で問題がある.
そこで経済性の観点も踏まえ長期的な飛砂対策を検討し,フェンス(葦簀による翼垣(堆砂
垣)及び静砂垣)・除砂帯(トレンチ)・植栽帯を組み合わせた4パターンの工法を試験施工し,
効果を検証した.
キーワード 養浜,飛砂,除砂帯,翼垣(堆砂垣),静砂垣
1.はじめに
新潟港海岸(西海岸地区)(以下「新潟西海岸」とい
う)では,潜堤・突堤・養浜を組み合わせた「面的防護
工法」により,豊かな砂浜が復元しつつあり,夏季には
海水浴場やイベント会場など親水空間として多くの方に
利用されている.一方,復元された砂浜から発生する飛
砂が背後の住宅区域や海岸道路に侵入する問題が懸念さ
れたため,飛砂に関する調査を進め,現在,ネット及び
単管パイプによる2列フェンス(海側H=2m、陸側
図-1 長期的な飛砂対策工 配置図
H=1m)と翼垣(H=2m)を組み合わせた飛砂防止柵が最
も効果的という結果を得ていたことから,冬期間のみ対
海側
陸側
策を講じているが,景観を損なうため,毎年設置・撤去
静砂垣
パターン1 翼垣
している.そこで景観性を損なわず,同時に経済性に優
海岸道路
れた恒常的な飛砂対策を検討し,除砂帯(トレンチ)及
び植栽帯の現地実験により効果が確認できたことから,
除砂帯 植栽帯
これらを踏まえ「平成20年度新潟西海岸技術委員会」に
パターン2
おいて,フェンス(葦簀による翼垣及び静砂垣)・除砂
静砂垣
海岸道路
翼垣
帯・植栽帯を組み合わせた4パターンの工法が提案され,
平成21年度に試験施工を実施し,その効果を把握するた
め現地調査を実施した.本論文では,その効果を確認し を想定)
植栽帯
除砂帯
(トレンチ)
た調査結果について報告するものである.
パターン3
静砂垣
海岸道路
2. 長期的な飛砂対策工の提案
フェンスと除砂帯,植栽帯を組み合わせた4パターン
の対策案を図-1,2に示す.パターン1は翼垣のトラップ
により植栽の海側に砂丘帯を形成するため,眺望を損な
うことはなく,砂丘による飛砂抑制効果を期待するとと
もに,除砂帯(砂丘帯が形成されれば相対的にはトレン
チの効果が期待される)に堆砂した場合には,除砂して
植栽帯
除砂帯
(トレンチ)
静砂垣
パターン4
植栽帯
除砂帯
図-2 長期的な飛砂対策工 断面図
海岸道路
植栽に飛砂を堆砂させないことを考慮した案である.パ
ターン2はパターン1の除砂帯をトレンチとし,堆砂した
ら除砂する案である.パターン3はパターン2の翼垣をな
くし,植栽帯前面にトレンチだけ設け,堆砂したら除砂
する案である.パターン4は植栽への堆砂を許して将来
的には砂丘化することを許容する案である.
3. 調査項目
器を設置して観測した.
表-1 捕捉器設置位置
設置地点
対策工前面
St.①~④
対策工背面
St.⑤~⑧
設置高さ
地盤上0.2m,0.5m,1m,2m
地盤上
0.5m,1m,2m,3m,4m
b) 風況調査
図-3に示す箇所に風向・風速計を設置し,飛砂発生の
主要因となる風データを観測した.なお,第1突堤の影
響も考慮し、2箇所設置している.
4. 調査結果
横断測量及び3Dレーザースキャナ-測量を表-2,浮
遊飛砂捕捉調査を表-3に示す時期に実施した.
表-2 横断測量及び3Dレーザースキャナー実施時期
図-3 調査位置図
図-3に示す範囲において,地形測量及び浮遊飛砂捕捉
調査を実施した.また,飛砂発生の主要因となる調査対
象箇所の風データについても観測を実施した.
縦断・横断測量
(3Dレーザースキャナ)
横断測量
調査開始時
調査開始時
平成22年1月18日
1回目
第一回飛砂捕捉調査実施後
2回目
第二回飛砂捕捉調査実施後 平成22年1月22日01時10分
第一回除砂後
平均風速:13.5m/s 風向:西北西
平成22年1月28日
平成22年2月28日
平成22年3月1日
平成22年3月14日
平成22年3月15日
実施理由
浮遊飛砂捕捉調査観測時
最大平均風速(St.B)
実施時期
平成21年12月23日
1回目
第二回除砂後
2回目
第三回飛砂捕捉調査実施後
平成22年1月14日13時50分
平均風速:12.8m/s 風向:西北西
平成22年3月10日19時30分
平均風速:14.1m/s 風向:西
表-3 浮遊飛砂捕捉調査実施時期
(1) 地形測量
a) 横断測量
測線間隔は10mとし,各測量基準点より汀線(±0m)
まで測定し,計測回数は調査開始時1回と強風(風速
10m/sec程度以上)を観測した後2回の計3回実施した.
b) 翼垣周辺詳細測量
測線間隔10mの横断測量では翼垣周辺の立体的な堆積
状況を把握することが困難なため,パターン1,2のそれ
ぞれ一箇所の翼垣について,測線間隔2mで翼垣と直交す
る方向に測線を設け,翼垣周辺の詳細測量を実施した.
なお,計測回数は横断測量と同じ計3回実施した.
c) 縦断・横断測量(3Dレーザースキャナー)
横断測量の補足も兼ねて,より詳細に地形変化を把握
できる3Dレーザースキャナー測量を実施した.なお,計
測回数は2回目の除砂後及び3回目の浮遊飛砂捕捉調査を
実施した後1回の計2回実施した.
d) 地盤高測量
飛砂対策工4パターンにおいて,対策工周辺の局所的
な堆砂特性を把握するため,地盤高測量を実施した.な
お,計測回数は横断測量と同じ計3回実施した.
(2) 浮遊飛砂捕捉調査
a) 浮遊飛砂捕捉調査
浮遊飛砂量を把握するため,強風時(風速10m/sec程
度以上)に3回観測を行った.図-3に示す8地点において,
表-1のとおり浮遊飛砂を捕捉するための吹流し式の捕砂
実施回
第一回目
実施時期
浮遊飛砂捕捉調査観測時
最大平均風速(St.B)
前日降水量 当日降水量
(mm)
(mm)
平成22年1月13日14時20分
平成22年1月13日
最大平均風速:11.7m/s 風向:北北西
28.5
11.5
平成22年1月14日13時50分
最大平均風速:12.8m/s 風向:西北西
12.5
1.5
33
1
15.5
0.5
平成22年1月14日
第二回目
平成22年1月22日01時10分
平成22年1月22日
最大平均風速:13.5m/s 風向:西北西
第三回目
平成22年3月10日19時30分
平成22年3月11日
最大平均風速:14.1m/s 風向:西
※当日降水量は調査終了時までの降水量
各パターンの横断測量及び3Dレーザースキャナーによ
る断面地形,浮遊飛砂捕捉量を以下に示す。
(1) パターン1
陸側
図-4 パターン1断面地形図
海側
図-5 パターン1浮遊飛砂捕捉量
図-9 パターン3浮遊飛砂捕捉量
(2) パターン2
(4) パターン4
陸側
海側
陸側
海側
図-6 パターン2断面地形図
図-10 パターン4断面地形図
図-7 パターン2浮遊飛砂捕捉量
(3) パターン3
図-11 パターン4浮遊飛砂捕捉量
陸側
海側
パターン1,2では,第1回測量時で翼垣まで堆積してい
る.植栽帯の静砂垣背後の地形変化がほとんどなく,対
策工陸側の浮遊飛砂捕捉量も良く似た結果となっており,
翼垣を越えて高く舞い上がった浮遊飛砂が背後に到達し
ているものと考えられる.
パターン3では,トレンチは第1回測量時で満砂状態に
なっており,背後の地形変化はほとんどなく,対策工陸
側の浮遊飛砂捕捉量も最も少ないことから,トレンチに
より飛砂が十分に捕捉されていると考えられる.
パターン4の植栽帯では,ほぼ砂で覆われるまで堆砂
しており,植栽の効果は期待できない状況になっている.
5. 長期的な飛砂対策効果の検証
図-8 パターン3断面地形図
(1) 飛砂対策工の効果
浮遊飛砂捕捉調査結果から,各地点の海側の飛砂量は
飛砂捕捉量の海側と陸側の比
100
10
1回目
2回目
11.56
7.17
陸側捕砂量/海側捕砂量
1.71
パターン2
1.23
1
0.1
3回目
0.31
パターン1
0.09
パターン4
0.00
0.00 0.00
0.00
0.00
0.001
St.8/St.4
St.7/St.3 調査地点 St.6/St.2
St.5/St.1
図-12 パターン1~4の浮遊飛砂捕捉量の比
以上の結果を整理すると表-4のとおりとなり,パター
ン3による対策が最も効果的であると考えられる.
表-4 飛砂対策工効果比較表
浮遊飛砂
パターン4
植栽帯背後の飛砂量が
海側より大きくなり,逆効
果となっている.
パターン3
パターン1,2に比べて1~
2オーダー小さく,飛砂制
御効果が最も高い.
×
植栽帯背後の除砂帯及
びその背後の歩道に砂
が堆積するため,歩道利
用に問題がある.
×
植栽帯堆砂 植栽帯はほぼ一面砂で
覆われており,植栽帯に
よる飛砂制御効果はなく
なっている.
◎
除砂帯として掘削したトレ
ンチにのみ堆砂しており,
除砂帯として十分に機能
している.
○
パターン1,2に比べて植栽
帯内の堆積は少ない.
×
飛砂制御効果の観点か
らは,植栽帯に堆積した
砂が飛砂として背後に飛
散するため,逆効果で
あった.
◎
除砂帯のトレンチを適宜
掘削すれば,最も効果的
な対策であると考えられ
る.
×
○
除砂帯
評価
表-5 各パターンにおける初期費用及び除砂量
パターン2
翼垣に堆積することで,
飛砂が舞い上がり,対策
工の背後の浮遊飛砂量
が比較的大きくなる.
△
翼垣背後にトレンチを掘
削したが,翼垣に十分堆
積した後も,トレンチへの
堆砂は少ない.
△
パターン1とほとんど同じ
であり,植栽の海側で堆
砂が認められる.パター
ン1より堆砂が若干少な
いのは,除砂帯で掘削し
ている効果であると思わ
れる.
○
翼垣の背後に除砂帯を
設けても,除砂帯に堆積
せず,背後に浮遊してし
まう.翼垣周辺を除砂す
ることができれば,効果
が期待される.
△
パターン1
翼垣に堆積することで,
飛砂が舞い上がり,対策
工の背後の浮遊飛砂量
が比較的大きくなる.
△
翼垣背後に除砂帯を設け
たが,翼垣に十分堆積し
た後も,除砂帯への堆砂
は少ない.
△
パターン2とほとんど同じ
であり,植栽の海側で堆
砂が認められる.
△
翼垣の背後に除砂帯を
設けても,除砂帯に堆積
せず,背後に浮遊してし
まう.翼垣周辺を除砂す
ることができれば,効果
が期待される.
△
(2) 飛砂対策工の維持管理
長期的な飛砂対策の検討にあたっては,各パターンの
ライフサイクルコストについて検証してみた.なお,検
証にあたっての各パターンの初期費用及び除砂量を表-5
のとおりとした.除砂帯の堆積量は1回目の測量より算
出,除砂帯の年間除砂量は,パターン3で全量捕捉した
パターン4
パターン3
パターン2
パターン1
2,571
2,678
2,829
2,722
1.48
3.34
0.93
0.90
3.11
7.00
1.95
1.89
7.00
0.02
0.66
1.37
初期費用
(千円)
除砂帯堆積量
(m3/m)
除砂帯の年間除砂量
(m3/年/m)
海岸道路での年間除砂量
(m3/年/m)
各パターンのmあたりのライフサイクルコストについ
ては,図-13のとおりとなった.なお,算出にあたって
は,翼垣類は3年に1回交換,海岸道路の除砂は平成20年
度の冬期除砂量の実績値(3,000円/m)から算定した.
120
100
80
パターン1
60
パターン2
パターン3
40
パターン4
20
0
1
0.03
パターン3
0.01
と考えて,河村式1)により推定された7m3/年/mとし,他
のパターンは7m3/m÷3.34m3/m=2.1倍し,観測値を年あ
たりに換算した.海岸道路での年間除砂量については,
海側の捕捉量と陸側捕捉量の比に年間飛砂量7m3/mを乗
じた値とした.なお,パターン4については,海側より
陸側の捕捉量が多いため,7m3/mと設定した.
ラ イフサイク ルコ ス ト (万円)
ほぼ同程度であることが確認できる.そこで浮遊飛砂捕
捉量及び植栽帯の堆砂状況から各パターンの飛砂制御効
果を検証した.
パターン4は,対策工の海側で捕捉された浮遊飛砂量
より陸側で捕捉された量が多くなっている.植栽帯のほ
ぼ一面が砂で覆われていることから,植栽帯に堆積した
砂が浮遊したものと考えられる.このことから,植栽が
十分に生長していない現段階では,背後に飛散する砂の
量を増加させていると考えられる.
翼垣が設置されているパターン1,2では,対策工の陸
側の浮遊飛砂捕捉量及び鉛直分布がほぼ同じとなった.
パターン2ではトレンチを設けているが,翼垣と植栽帯
の間には両者ともに堆砂は少なく,翼垣に堆積した砂に
より飛砂が舞い上がり対策工の背後で浮遊飛砂が観測さ
れたものと考えられる.
植栽帯の前にトレンチのみ設けた場合のパターン3で
は,対策工の陸側での浮遊飛砂捕捉量が最も少ないこと
から,翼垣は砂を舞上げる特徴があると言える.また,
パターン3はパターン2よりトレンチの堆砂量が多く,植
栽帯の堆砂状況は,ほぼ同じであることから,トレンチ
により背後への飛砂を抑制したものと考えられる.
3
5
7
9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29
年
図-13 各パターンのライフサイクルコスト
維持管理の観点からも,パターン3が最も経済的であ
ると考えられるが,海側に掘削したトレンチの除砂を行
う必要があり,今回は底面5m,深さ1m,法勾配1:1.5と
した.本調査ではトレンチの除砂は1回のみで,調査完
了時には満砂状態にはなっていなかった.河村式1)から
推定される年間飛砂の平均値は7m3/年/mであることから,
本調査で掘削したトレンチであれば1回程度の除砂で十
分と言える.
6. 考察及びまとめ
以上のことから,今回の調査結果では『パターン3』
が効果的と確認できた.引き続き植栽の生育状況等を踏
まえ,モニタリング調査を実施し,トレンチの平面配置
等の効率的な飛砂の集積,除砂方法等について検討し,
長期的な飛砂対策を確立したい.
謝辞:本調査にあたり「新潟西海岸技術委員会」の委員
の方々から貴重なご意見を賜ったことを,ここに深く感
謝の意を表します.
参考文献
1) 土木学会:水理公式集「平成11年版」pp520-521