田辺安忠(JAXA)

第 27 回数値流体力学シンポジウム
講演番号 C07-5
回転翼機用 CFD 解析コードの風車への適用と検証
Validation of a CFD code developed for rotorcraft with application to Wind Turbines
○ 大江
田辺
青山
山本
松尾
晴天,
安忠,
剛史,
誠,
裕一,
東京理科大学, 東京都葛飾区新宿 6-3-1,
JAXA, 東京都調布市深大寺東町 7-44-1,
JAXA, 東京都調布市深大寺東町 7-44-1,
東京理科大学, 東京都葛飾区新宿 6-3-1,
JAXA, 東京都調布市深大寺東町 7-44-1,
Harutaka Oe,
Yasutada Tanabe,
Takashi Aoyama,
Makoto Yamamoto,
Yuichi Matsuo,
[email protected]
[email protected]
[email protected]
[email protected]
[email protected]
Tokyo University of Science, 6-3-1 Ni-juku Katsushika Tokyo
JAXA, 7-44-1 Higashimachi Shindai-ji Chofu Tokyo
JAXA, 7-44-1 Higashimachi Shindai-ji Chofu Tokyo
Tokyo University of Science, 6-3-1 Ni-juku Katsushika Tokyo
JAXA, 7-44-1 Higashimachi Shindai-ji Chofu Tokyo
Abstract
Validation of rFlow3D, an in-house CFD code in JAXA which was originally developed for rotorcraft were conducted for the application to
HAWT (Horizontal-Axis Wind Turbine) in this paper. NREL Phase VI and MEXICO experiments were selected as test cases. The Euler and
Navier-Stokes solvers were tested in these cases. The Navier-Stokes solver showed good agreement with experiment in wind speed sweep
conditions, and predicted the maximum performance of the NREL phase VI wind turbine correctly. Meanwhile, the Euler solver predicted
the wake structure such as velocity fluctuation and wake expansion accurately for the MEXICO wind turbine. This study verified that
rFlow3D has an ability to satisfactorily predict not only the pressure on blade or power, but also the overall flowfield around wind turbine
which is important for future studies of the interference between wind turbines.
1. はじめに
京都議定書や COP18 に代表される環境問題への関心の高まり
とともに,再生可能エネルギーへの投資額は年々増え続けている
(1)
.なかでも,比較的コスト効率の高い風力発電は注目を集めて
おり,ここ 10 年間,風車の発電設備容量は約 30%の年成長率を
維持している(2, 3).そのような成長背景もあり,現在,高効率を求
めて風車単体の大型化と風車が数十,数百基単位で並べられたウ
ィンドファームの大規模化が同時に進んでいる(4).風車単体の大
型化に伴って,破損を避け,発電効率を向上させるために,空力
荷重の影響を正確に予測することが求められる.それと同時に後
流の影響範囲も拡大するため,ウィンドファームのような風車が
密集した状況では後流効果による下流風車への影響も考えられ,
発電量の低下や破損を起こし,発電コストの増大につながる.こ
のような理由により,風車への空力荷重の影響を予測するととも
に,風車後流の構造,速度変動,そして荷重変動を予測すること
が非常に大きな課題となっているのが現状である.JAXA におい
ては,これまでヘリコプタ用の CFD ツールである rFlow3D(5, 6)が
開発されてきた.主に弾性変形,空力騒音変化の評価に用いられ
ており,実験結果との検証でも良好な結果を示している.ヘリコ
プタと風車の力学的挙動は比較的似通っていることから,本研究
では rFlow3D を水平軸型風車の解析に適用し,代表的な 2 つの水
平軸型風車の実験との検証を行った.ヘリコプタの場合には基本
的に流れの剥離は起こらず,非粘性の Euler 方程式で十分な予測
精度を有するが,風車の流れ場は運転や風の状況によっては,大
きな剥離流になることが知られている(5).そのため,本研究では
剥離の影響をより正確に捉えるために Thin-Layer Navier-Stokes 方
程式,Full Navier-Stokes 方程式を導入して解析を行うことで支配
方程式による差を検証し,その結果を踏まえて Euler 方程式を用
いて rFlow3D の後流構造の解析能力を検証したので,その結果を
報告する.
2. 計算手法
今回の計算では,JAXA で開発されている回転翼機向け CFD コ
ードである rFlow3D を用いて解析を行った.rFlow3D では移動重
合格子法を用いている.ブレードの周りに生成された内部構造格
子はブレードと共に移動し,その外側にはブレードの回転領域,
後流領域を覆う密な構造格子を配置することにより,計算コスト
を減らしつつ,特に解像する必要のある翼端渦や後流の詳細構造
を捉えることを可能にしている.なお,格子間のデータの受け渡
しには Tri-Linear 補間法を採用している.各格子では非定常 Euler,
Full Navier-Stokes 方程式を 4 次精度の離散化スキームである全速
度型 FCMT+SLAU スキーム(6)を用いて離散化し,精度を確保する
とともに,ブレードの各部において速度が大きく変化する回転翼
機の計算に対応している.今回の解析にあたり,支配方程式とし
て式(1)に示す積分形式の ALE 方式の Full Navier-Stokes 方程式を
採用している.Euler 方程式は粘性項を省略したもので,Thin-Layer
Navier-Stokes 方程式は壁面からの厚み方向の粘性項のみを残した
ものである.ただし,今回の計算では Re 数が比較的に低く,乱
流モデルを用いていない.


 
i
V 
V 
 


U
dV

F
U

U

n
dS

F
g
S t 
S t  U dS (1)
t V t 
時間積分については,ブレード格子には Dual-Time-Stepping 法と
LU-SGS 法を組み合わせて用いており,背景格子には 4 階のルン
ゲ・クッタ法を採用している.圧力の境界条件については,全て
のケースにおいて式(2)に示す 2 次外挿を採用している.
pi , j ,w  7 pi , j , 2  pi , j ,1 / 6
1
(2)
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NREL Phase VI の検証計算
NREL(National Renewable Energy Laboratory)Phase VI 実験は
2001 年,NASA の Ames 研究所にある 80ft×120ft の大きさを持つ
超大型風洞で行われた,代表的な水平軸型風車の実験のうちの 1
つである.広範囲にわたる風速変化時におけるピッチ角変化時の
翼面圧力分布,スラスト,トルク等といった高精度のデータが取
得された.この実験で用いられた風車は直径約 10m,2 枚のブレ
ードを持つ 20kW 級の水平軸型風車である(7).回転数は 72rpm で
あり,この時の翼端マッハ数は約 0.1,レイノルズ数は実験条件や
ブレード各部により異なるが,105~106 の範囲にある.この実験
データは多くの研究機関によってそれぞれの持つ CFD コードの
検証対象として採用されている.例えば,W. Johnson らによる研
究(8)では,NASA の圧縮性 RANS コードである OVERFLOW-D2
を用いて速度変化時の詳細な計算が行われたが,他の論文と比較
して高い精度で実験値と一致した.また,最近発表されたアイオ
ワ大学の Y. Li らによる研究(9)では,圧縮性 RANS SST/DES コー
ドをソルバーとし,タワーやナセル形状も含めたモデルを用いて
広範囲にわたる計算が行われたが,それぞれを高い精度で予測し
ている.
これまでの JAXA における研究成果(5)において,rFlow3D が風
車へ応用できることが確認されたが,本研究では速度変化時の検
証において新たに支配方程式として Full Navier-Stokes 方程式を採
用して計算を行い,加えてピッチ角変化時の検証計算を行うこと
で解析範囲の拡張を図った.
Table. 1,Fig. 1,Fig. 2 に今回の計算で用いた計算格子条件とブ
レード計算格子,重合計算格子をそれぞれ示す.Euler 方程式を用
いた計算では表中の EU 格子を用いており,一方で Full
Navier-Stokes 方程式,Thin-Layer Navier-Stokes 方程式を用いた計算
では NS 格子を用いている.NS 格子では粘性の影響を捉えるため
にブレード格子間隔を密に設定している.内側背景格子は後流構
造を解像するために比較的密に配置している.Euler 方程式,Full
Navier-Stokes 方程式,
Thin-Layer Navier-Stokes 方程式共に各辺 14m
の立方体を 151 点で分割しており,
格子間隔を約 9.27cm と設定し
ている.
3.
Outer Background Grid : 40x40x40 [m]
(101x101x101)
Blade Grid : 5x0.74x0.16 [m]
EU
: (81x81x21)
NS
: (161x161x61)
Inner Background Grid : 14x14x14 [m]
(151x151x151)
Fig. 2. Over-set grid design for NREL Phase VI computation
Table. 2に今回のNREL Phase VIの検証計算で用いた計算条件を
示す.これまでの研究成果(5)を踏まえ,全ての計算ケースにおい
て境界条件として 2 次外挿を採用している.また,今回の NREL
検証計算では全ての解析においてコーニング角,ヨー角ともに
0°で固定している.
Table. 2. Calculation condition for NREL Phase VI
Case
Governing
equation
Boundary
condition
EU01
Euler
2nd Extrapolation
NS04TL01
Thin Layer N-S
2nd Extrapolation
NS04FV01
Full N-S
2nd Extrapolation
Table. 1. Grid details of blades for NREL Phase VI computation
Grid
Points (I x J x K)
Dhmin [m]
EU
81×81×21
5.0×10-3
NS
161×161×61
5.0×10-5
3.1. ピッチ角変化時
本章では,Table. 2 に示した EU01,NS04TL01 を用いて計算を
行った結果を実験値と比較していく.
Fig. 3 に風速を 15m/s に固定
し,ピッチ角を-15°から 40°まで 5°刻みに変化させた 12 ケー
スのうち,例としてピッチ角-5°から 30°までの NS04TL01 によ
って計算された流れ場を示す.ピッチ角-5°から 5°の間では翼
端渦は形を保持しておらず,大剥離を起こし,完全に乱れた流れ
となっている様子が分かる.ピッチ角 10°では,翼端渦は後流の
途中まで形を保っている様子が分かるが,一方でピッチ角 15°で
は,翼端渦は後流域まで螺旋形を保ったまま内側背景格子の後端
まで続いており,ブレード中腹からの剥離も比較的小さい様子が
分かる.ピッチ角 20°の時には翼端渦はよく解像されており,ブ
レード中腹からの剥離は先と比べさらに小さくなっている.25°,
30°では翼端渦はかなり弱くなっている様子が確認できる.
EU_grid_81x81x21
NS4_grid_161x161x61
Fig. 1. Grid design on blades for NREL Phase VI computation
2
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価傾向があるが,これは乱流モデルが入っていないために剥離を
正しく予測できていないことが理由であると考えられる.
3.2. 風速変化時
本章では EU01,NS04TL01 に加え,NS04FV01 を用いて計算を
行った結果を実験値と比較する.Fig. 6 に風車のピッチ角を 3°に
固定し,風速を 5, 7, 10, 15, 20, 25m/s の 6 つのケースで変化させた
時の NS04FV01 による流れ場の様子を示す.風速 5, 7m/s の時の
流れ場は乱れが小さくなめらかで,翼端渦は内側背景格子の後端
まで形を保ったまま風に乗って進んでいく様子を解像している.
しかし 10m/s では翼端渦はニアウェイクにおいて崩れ始めており,
ブレードからの剥離が大きくなっている様子が分かる.15m/s 以
降では翼端渦がもはや形を保持することができず,大剥離を起こ
して完全に乱れた流れとなっている様子が見て取れる.
Fig. 3. Vortical strucutres for different pitch angles predicted by
NS04TL01
Fig. 4. Thrust for different pitch angles
Fig. 6. Vortical stuctures for different wind speeds
Fig. 7 に,風速変化時の推力の変化について,Euler 解,そして
粘性解である NS04TL01,NS04FV01 を実験値と比較した結果を
示す.Euler 解,粘性解はどれも実験値と同様に直線的に増加する
傾向を示している.粘性解は実験値と比べ全体的に過大評価傾向
であり,NS04TL01 と NS04FV01 との比較より,Full Navier-Stokes
方程式,Thin-Layer 形式の Navier-Stokes 方程式を支配方程式とし
て計算した結果の差は小さいことが分かる.
次に,Fig. 8 に風速変化時の発電量の変化について,同様に実
験値と比較した結果を示す.Euler 解については,風速 7m/s まで
実験値との良い一致を示すが,10m/s で大きく過小評価をしてい
る様子が分かる.風速が大きくなるにつれレイノルズ数は大きく
なり,粘性の影響が比較的小さくなるため,風速 20, 25m/s では良
い一致を示す.粘性解については,先の推力比較では TL01,FV01
間の差は小さいことが示されたが,発電量についても同様の傾向
である.2 つの粘性解はともに 10m/s まで実験値との非常に良い
一致を示す一方で,15m/s 以降は発電量を過小評価している様子
が分かる.10m/s 付近以降では流れは大きく剥離し,強い乱流状
態となるため,層流仮定の今回の計算での予測発電量は風速
10m/s から 15m/s にかけて急激に低下したものと考えられる.部
分的には異なるものの,風車の設計等,実用上では 10m/s 付近で
のピーク発電量を予測できれば十分であると言われているため,
今回の粘性計算の結果は,rFlow3D は非常に高い精度で風車の性
能を予測できることを示している.
Fig. 5. Power for different pitch angles
Fig. 4 にピッチ角変化時の推力の変化について,Euler 解,粘性
解,そして実験値との比較をした結果を示す.それぞれのソルバ
ーは実験値と比べて傾向がとても良く一致している様子が分かる
が,粘性解は実験値と比べ全てのケースにおいて推力を過大評価
傾向にあることが分かる.一方で Euler 解は全体的に実験値とよ
く一致しているが,特にピッチ角-10°から 15°にかけて,非常
に高い精度で実験値と一致している様子が分かる.
Fig. 5 にピッチ角変化時の発電量の変化について,各ソルバー
による解と実験値を比較した結果を示す.Euler 解,粘性解ともに
傾向はよく一致している様子が分かる.実験ではピッチ角 15°で
発電量のピークをとるが,Euler 解はその結果と一致している一方
で,粘性解ではピッチ角 20°の時にピークを予測している.発電
量のピークを比較すると,Euler 解は実験値に比べて過小評価する
傾向にあり,一方で粘性解は実験値と比べて過大評価する傾向に
ある.また,Euler 解,粘性解ともにピッチ角 25°以降で過大評
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て長く解像する必要があるという理由による.
Fig. 7. Thrust for different wind speeds
Fig. 9 MEXICO blade profile (11)
Table. 3. Grid details for MEXICO
Fig. 8. Power for different wind speeds
MEXICO の検証計算
MEXICO(Model Experiment in Controlled Conditions)実験は 2006
年に ECN(Energy research Centre of the Netherlands)によって行わ
れた実験であり,NREL 実験と同様に代表的な水平軸型風車の実
験のうちの 1 つである.この実験はオランダにある DNW の 9.5m
×9.5m のオープン型風洞で行われ,実験で用いられた風車は直径
4.5m,3 枚のブレードを持つ水平軸型風車である(10, 11).風速変化
時の翼面圧力分布等に加え,特に後流構造に関する詳細なデータ
が取得されたことがこの実験の特徴であり,このような理由によ
りNREL Phase VI実験と共に多くの研究機関がCFDコードを用い
た検証計算を行っている.しかし,実験値と良好に一致した結果
を報告している論文はいまだ出ていない.Riso DTU の Rethore ら
による研究(12)では,実験で風洞効果により翼面荷重が過大評価さ
れた可能性を考え,開放型風洞を含めた大規模計算を行ったが,
結果は風洞を含めない場合と大きく変わらず,風洞による影響は
小さいとされた.3 章の NREL Phase VI 実験との検証においては
JAXA の rFlow3D が風車の性能予測に十分応用できることが示さ
れたが,ここでは rFlow3D がどの程度風車の後流構造を捉える性
能を持っているかという点に着目して検証を進めた.
Fig. 9にMEXICO実験で使われたブレードの形状を示し,Table.
3 には今回の計算で用いた計算格子を示す.表中の R は MEXICO
実験で使われたブレード半径を意味しており,R=2.25m である.
ブレード格子については NREL Phase VI 検証実験時の EU と同様
の格子点数としている.内側背景格子に関しては,NREL Phase VI
検証時の格子と比べてより密に,風車の回転軸方向に延長して配
置している.これは渦の構造をより詳細に,回転軸方向にわたっ
Domain
Points
(I×J×K)
Size
(R=2.25[m])
Dhmin
[m]
Blade
81×81×21
2.0×10-2
Inner
Back
401×201×201
Outer
Back
127×101×101
5.8R
(front:2.2R
Back:3.6R)
×2.9R×2.9R
13R
(front:4R
Back:9R)
×8R×8R
3.3×10-2
2.3×10-1
4.
計算条件については,Table. 2に示したEU01を採用している.
流入風速は 15m/s,回転数は 424.5rpm であり,この時のレイノル
ズ数は 105~106 の範囲にある.今回の計算では翼端ピッチ角を
-2.3°,ヨー角を 0°と固定し計算を行った(10, 11).
Fig. 10. Vortical structure in wake (unit of the contour is [m/s])
4
Fig. 10 にロータが 15 回転した時の流れ場の様子を示す.ここ
で,コンター図は渦度の等地面に速度で色を着けたものであり,
併せて表示しているレジェンドの単位は[m/s]である.翼端渦は綺
麗な螺旋を描いて後流へと進んでいるが,内側背景格子の後端手
前から擾乱が起き,平均流と混合し始めている様子が見られる.
ブレード付け根の軸から発生している渦については,翼端渦と比
べるとよりロータに近い,手前側で乱れが大きくなっており,内
側の混合は外側の混合よりも先に起きている様子が分かる.流れ
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について Euler 解と実験値の平均値を比較すると, R=1.4m,1.8m
の両位置においてEuler解は主流に対して3%程度の過小評価の傾
向である.翼面圧力分布,軸方向速度 u 分布,そしてスパン方向
速度 v 分布のオイラー解の傾向と値は実験値と良い一致を示して
いるものの,一方で垂直方向速度 w 分布のオイラー解の平均値は
実験値の平均値と異なっている.PIV シートの測定誤差は一般的
に主流に対して 2.6%(10)と言われているが,Fig. 17 を見ると EU01
と実験値の主流に対する誤差は 3~4%程度である.これより,測
定誤差は実験値の精度に十分影響を与えていると考えられる.ま
た,非粘性の影響により渦を小さく予測したことも考えられる.
R=1.4m において Euler 解は速度変動の振幅を小さく見積もって
いるものの,R=1.8m においては,振幅は実験値とよく近づいてい
る.ただし,両位置において Euler 解では振幅はすぐに減衰して
いる一方で,実験値の振幅の減衰はおだやかである.この理由と
しては,格子解像度や,非粘性等の計算上の問題による影響が考
えられる.
場は乱れが少ないため,この条件ではオイラー解でも現象を十分
に予測可能であると考えて検証を進めた.
Fig. 11 に風速 15m/s 時の翼面圧力分布について,Euler 解と実験
値(10, 11)を比較した結果を示す.ここで rFlow3D のデータは,計算
が十分に収束した最後の 1 周について,20°ごとに 18 個の圧力
係数分布を取得し,それらを平均した結果である.ブレードの根
本側である 25%位置,35%位置においては,翼上面の圧力係数を
過大評価している傾向にある.その一方で,60%から 92%位置に
かけては,ブレードの端に近づくにつれて実験値と非常に良く一
致する.この傾向は他の論文でも見られ,多くの研究者によって
風速15m/s時のCFDによる解析結果の過大評価が指摘されている
(12, 13)
.理由としては,MEXICO 実験で用いられた風車のナセルが
比較的大きいことに加え,ブレードの各断面形状がなめらかに結
ばれていないことがブレード根本側の流れに影響を与えていると
考えられる.
Fig. 14. Positon where the axial traverse data were taken
Fig. 11. Comparison of Cp distribution on blade for 15m/s wind speed
流れ方向の各方向速度成分の分布のデータ取得位置を Fig. 14
に示す.
図中のブレード位置の時、
緑色で示した水平線上の 2 点,
R=1.4m,1.8m を通る x 軸線上の各点についてデータを取得した.
次に,Fig. 15-17 に流れ方向の各方向速度成分の分布について,
EU01 による結果と実験値(10, 11)を比較したものを示す.図中の横
軸は,軸方向位置をロータ直径 D(=4.5 [m])を用いて,無次元化
して表示している.図中の縦軸については,各方向成分に対する
流入速度との比として表示している.
R=1.4m,R=1.8m における軸方向速度成分 u の分布(Fig. 15 参
照)を見ると,Euler 解の結果は実験値と非常によく一致している
ことが分かる.R=1.4m での速度変動は捉えられていないものの,
特に x/D=0,すなわちロータ位置付近での速度の落ち込みについ
ては両方の場合で非常によく捉えている.
各スパン位置におけるスパン方向速度成分 v の分布(Fig. 16 参
照)を見ると,ここでも Euler 解は実験値の平均値と比較すると
非常によく一致していることが分かる.-0.3≦x/D≦0.3 のロータ面
前後では,Euler 解と実験値の平均値との誤差は他所に比べ比較的
大きくなるが,しかし主流に対して 3%程度である.また,後流
域では速度変動の振幅を低く見積もっているが,これは非粘性の
影響が考えられる.今後,粘性計算を進めて確認を行う予定であ
る.
各スパン位置における垂直方向速度成分wの分布
(Fig. 17 参照)
5
Fig. 15. Comparison of the axial velocity profile at 62.2% R (R=1.4m)
and 80% R (R=1.8m)
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Fig. 18 Comparison of position of tip vortex
次に,Fig. 18 に翼端渦の位置について Euler 解と実験値(13)の比
較を行った結果を示す.データの取得は,12 時位置を基準にアジ
マス角 270°の水平位置にブレードの 1 枚が重なった時に行われ
た.Fig. 18 を見ると,Euler 解と実験値は非常によく一致している
ことが分かる.ただし,x=1.7m 付近で Euler 解と実験値は横軸方
向で大きく異なっているが,ここでの横軸方向の誤差は約 10cm
である.翼端渦位置の実験値は PIV 測定によって得られた軸方向
速度分布を利用して算出されているが,例えば軸方向速度の測定
誤差が主流 15m/s に対して2%である 0.3m/s あったと仮定すれば,
翼端渦位置は回転数424.5rpmを勘案すると約1.4cmずれることに
なる.これより,Euler 解と実験値の約 10cm の誤差については,
格子解像度 3.3cm による影響が支配的と考えられる.一方で,x=2
[m]から x=3 [m]において後流の拡大は一時的に止まるが,その特
徴についてはよく捉えていることが分かる.軸方向速度 u の比較
では Euler 解と実験値が良好に一致していたことから,流量保存
則により,風車周りの流れの面積拡大についても Euler 解と実験
値はよく一致すると考えられたが,結果はその通りであった.
Fig. 16. Comparison of the radial velocity profile at 62.2% R (R=1.4m)
and 80% R (R=1.8m)
まとめ
JAXAにおいて開発された回転翼機用CFDツールrFlow3Dを水
平軸型風車の解析に適用し,NREL Phase VI 検証計算では Euler
方程式,Navier-Stokes 方程式を用いたソルバーの比較を行い,
MEXICO 検証計算では計算コストと精度のバランスを考え,Euler
方程式を用いて後流構造の解析を行った.
NREL Phase VI 検証計算では,ピッチ角変化時,風速変化時の
実験データに基づいて解析を進めたが,Euler 解,粘性解で明確な
違いが見られた.特に風速変化時には,Euler 解は初期剥離状態
(10m/s)において流れの早期剥離現象が見られ,最大発電量を予
測できなかった.その一方で,粘性解は大剥離を起こし,完全に
乱れる 15m/s 付近までよく一致し,最大発電量を予測することが
可能であると示され,実用上,十分な精度で現象を予測できるこ
とが示された.Navier-Stoke 方程式を用いた粘性解のうち,
Thin-Layer N-S 形式か Full N-S かは結果にさほど大きな影響を及
ぼさなかったと言える.大剥離状態である 15m/s 以降について予
測精度を上げるためには,先行研究の結果(7, 8, 14, 15)を考慮しても,
乱流モデルの導入が課題となると思われる.
MEXICO 検証計算では,風速 15m/s 時の翼面圧力分布や流れ方
向速度分布,そして翼端渦位置について Euler 解を用いて検証を
行い,rFlow3D の後流構造の解析能力を調査したが,結果は非常
に良好であった.特に,軸方向速度分布,翼端渦位置といった後
流構造については,実験値との非常に良い一致が見られた.
これまでの計算結果を踏まえて,rFlow3D が翼面荷重や発電量
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5.
Fig. 17. Comparison of the tangential velocity profile at 62.2% R
(R=1.4m) and 80% R (R=1.8m)
6
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だけでなく,
後流構造の予測にも適応可能であることが示された.
今後は MEXICO 実験について粘性解による計算を行うことで,
この実験における支配方程式による影響を調べる.また,それと
並行して NREL のブレードを用いてヨー変化時の計算を行い,後
流構造や荷重変動,速度変動を予測することを課題としたい.将
来的には乱流モデルを導入し 2 基の風車を並べた計算を行うこと
や,弾性変形も考慮した実際のブレードモデルの流体構造連成問
題も視野に入れていく予定である.
参考文献
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Energy Investment 2011,”
IEA, “Medium-Term Renewable Energy Market Report 2013,”
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