熱硬化性プラスチックのリサイクル技術とその用途技術の開発研究

佐賀県工業技術センター研究報告書 a996)
熱硬化性プラスチックのりサイクル技術とその用途技術の開発研究(2)
機械金属部機械研究室
田中久,松隈博,副島辰夫
機械金属部金属研究室
臼井一郎
化学食品部工業化学研究室
福元豊,秀島康文
プラスチツクは軽くて強い,加工が容易などの優れた特性を持つ材料であり,またその成
形品は一般に低価格であるので様々な工業製品に用いられている.しかし,廃棄物となった
プラスチックは環境に悪影響を及ぼす原因のーつとして大きくクローズアップされてぃる
本研究では,りサイクルが困難な熱硬化性プラスチックを代表するフェノール枝朔旨の不良
品・スプル・ランナーを対象にしてマテリアルリサイクルにっいて検討した.その結果,(D
破砕工程では,ロータ・ステータ方式で構成されている破砕機に4mmのふるいを装着し,
比較的短時間に破砕処理することができた.(2)破砕工程で得られた試料を粉砕機に投入し,
数μ m 700μ mの粒度分布を示す粉砕物(以下りサイクル材という)を得た.(3)粉砕工
程で得られた試料とフェノール樹脂成形材料(以下バージン材という)を混合する際に発生
した大量の粉塵対策として,アルコール類を添加することが粉塵抑制に極めて有効であっ
た.④バージン材に対して重量比でりサイクル材を30%混合したフェノール桂朔旨はバージ
ン材だけのものと同等の機械的特性を示し,50%混合しても同等の外観が得られた
2.実験方法及び結果
1.はじめに
現在,地球温暖化現象,酸性雨による森林破壊,ま
たオゾン層の破壊など地球環境は悪化の一途をたど
2.1 フェノール枝朔旨成形品の破砕技術
フェノール枝朔旨成形品などをりサイクルするため
リ,環境保護に対する関心はますます高まってきて
に,本研究では最初の工程として破砕処理を行った
いる.今日まで,プラスチックは軽くて強い,加工が
容易などの優れた特性を持つ材料であり,またその
成形品は一般に低価格であるので様々な工業製品に
破砕とは粒度が数mmで表現できる程度に粗く砕く
ことである.本研究で採用した破砕機はFRITSCH製
広く用いられている.しかし,廃棄物となったプラス
チックは環境に悪影響を及ぼす原因のーつとして大
きくクローズアップされてぃる
に示す.本機は,ロータ・ステータ方式であり,かぎ
形をした強力な切り裂き刃を持つ口ータが対面する
のラボシュレッダー(P、10)であり,その構造を図 1
ステータ刃とともに試料を破砕し,試料が装着され
たふるいを通過する大きさになると破砕室から収集
箱に自然落下する構造である.処理後に得られる試
熱硬化性プラスチックを代表するフェノール枝朔旨
の使用済み成形品や成形工程で発生する不良品・ス
プル・ランナーなどは,熱硬化反応によって硬化体と
料の粒度はふるいの大きさによって決定され,本実
験では後工程の作業効率を加味して4mmのふるい
なっており,再加熱によって熱可塑性プラスチック
のように加熱して軟化溶融させ再成形することはで
を採用した
きないDの.そのため,フェノール樹脂の廃棄物はそ
の大部分が埋め立て処分されておゆ),そのりサイク
外形寸法70× 55 ×45)の不良品・スプル・ランナー
ルに関する報告は極めて少ない.
を本機に投入した場合の処理能力は3K創H程度であ
成形工程で得られた電磁開閉器(JISK6915PM、EG,
本年度の研究は,フェノール樹脂成形品の不良品
リ,得られた破砕物の粒度分布は概ねlmmから4
スプル・ランナーなどを破砕・粉砕して同種の成形材
料の充填材としてりサイクルすることを目的として
mmであった.また,今回用いたフェノール樹脂の成
形品は硬く,機械的強度も大きいので本機で破砕処
いる.
理する時には90ホーン程度の騒音が発生した
51
熱硬化性プラスチックのりサイクル技術とその用途技術の開発研究(2)
相対粒子量乢
﹄.一
'
ν
弧
'
ヨ
0
0
6ー
4ー
2ー
086420
28
1ー
ゞ
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5
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夕
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ν
嘗
ステータ
一.一
0
ふるい
一'一
一.一
ロータ
一、
一一
押し込み棒
奪
^^
0
07
06
05
0d
03
02
01
00
00
98
相対粒子量吐
"、、、、、^投入口
50 100
500
1000
粒子径(μ.)
L_________._______/
図3 粉砕後の粒度分布
収集箱
(縦軸は,預算曲綿、は左側,ヒストグラムは右但の
図1 破砕機の構造
23フェノール樹脂粉砕物とバージン材との混合技術
品質が安定したりサイクル材混合製品を成形する
22フェノール樹脂成形品の粉砕技術
には,前項で得られた粉砕物と同種のバージン材を
破砕工程で得られた数mm程度の破砕物を粉砕機
(FRITSCH製口ータスピードミル, P・14)に投入して
さらに細かい粒度まで粉砕した.本機の構造を図2に
示す.ステンレス製口ータの鋭利な衝撃刃が高速で
回転して試料を瞬時に粉砕し,粉砕された試料はふ
るいりングを通って受皿に入っていく構造である
均一に混合することである.本実験に使用した混合
フェノール樹脂成形品の充填材としてりサイクル
ル樹脂成形品の機械的性質の低下が少ないことが予
想される.しかしながら,例えば,0.08mmのふるい
一般に,市販のフェノール植朔旨成形材料(バージ
ン材)は多くの微粉を含んでいるため,バージン材
投入時に大量の粉塵が発生する.その粉塵が空気中
を飛散し,他の成形品に混入して不合格となるトラ
リングを装着して粉砕する場合は,作業効率上,そ
ブルが発生しており,品質管理上問題となっている
の前段階として] mmのふるいで予備粉砕を行った
後,0.08mmのふるいりングで処理する必要があり,
結果としてりサイクルコストの上昇につながる.従っ
て,本実験ではコストの観点から,最終的には口ー
また,作業環境上の問題として,その粉塵を吸入す
ることは健康を阻害する一因となっている.粉砕工
機は(株)カワ夕製スーパーミキサー(SMV・20,タン
ク容量20L)である.同装置のタンク内にはステンレ
ス製の下羽根,上羽根,案内板などが配置されてお
リ,羽根の回転数(300 2,W0印m)はトランジスタ
インバータで自由に制御することができる
する場合,粉崔所糸の最終粒度は細かいほどフェノー
程を経て得られた粉砕物についても同様の問題があ
れた粉砕物の粒度分布を図3 に示す.同図より,そ
リ,それはバージン材以上に粉塵が謡い,素手で触
ると皮膚表面に付着する状態であった.当初,混合
後,混合機のタンク上蓋を開いた時に大量の粉塵が
発生し,実験効率は極端に低下した.また長時間混
合した場合にはタンク内の温度上昇のために混合物
の粒度分布は3
m程度で,メディアン
μ m 70o μ
がタンク内壁に強く付着し,タンクの清掃のために
径は約 150μ mであった.
1時間も要した.そこで,実用化を考えた場合には,
粉砕物とバージン材を均一混合すると同時に粉塵抑
夕の回転数を 18,ooorpm (周速80m/S)とし,0.2mm
のふるいりングを装着して1回で粉砕処理を行った
その場合の処理能力はIK合旧程度であった.得ら
投入口
制技術の開発が必要であった
効果的な粉塵抑制処理法は,バージン材とりサイ
打撃口ータ
クル材の混合時にフェノール植朔旨の溶剤であるアル
コール類を添加することであった.図4 は粒子径
ふるいりング
700μ m以下のバージン材の粒度分布を比較したも
のである.同図から,市販材料には粉塵の原因となる
ノ正皿
100μ m以下の微粒子が20%程度含まれているのに
ヌ寸し,アルコール類のーつであるメタノールを 2 %
肌目 E王
図2
添加した試料は 100μ m以下の微粒子が存在せず,
結果として粉塵が発生しないことが判った.図5は
粉砕機の構造
52
佐賀県工業技術センター研究報告書(1996)
なめらかであり,微粉が皆無の状態となっているこ
50
とが判った.その理由としては,アルコールが桂朔旨
表面層に混在する微粉を遊離させ,遊離した微粉や
リサイクル粉が新たにバージン材表面に溶着したも
のと考えられる.アルコールの添加量に関しては適
目市販材料
相対粒子量
囲市販材料にメタノール 2%添加
40
30
2(め
2m
3(め
4卯
や
再び破砕する必要があるためコスト高となり,アル
コール添加量が少ないと粉塵の抑制効果は小さく
6(P 力
K
80
1(め
ぎると成形材料は塊状となり,その場合は成形前に
翠鄭
60
ることが明らかになった.アルコール添加量が多す
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20
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10
叉゛倉4多那琴
女'ーーyj
(V01.易)
正な範囲が存在すると考えられるが,適正範囲内で
は低コストで粉塵の発生を完全に抑えることができ
ヘ'心三二〆、二裟影,tン
20
5m
粒子径(μm)
なった
2.4リサイクル材の特性
図4 粉塵抑制効果
表1に示すような 7種類の試料を作製し,りサイ
バージン材重量の10%りサイクル材を含んだ試料に
クル材を混合したフェノール樹脂の特性を評価した
対してアルコール処理を実施する前後の電子顕微鏡
アルコール処理した試料については,全重量の2
5%のアルコールを添加して粉塵が発生しない状態
写真である.処理前の表面には粉塵の原因となる多
くの微粉が付着しているが,処理後の表面は比較的
一般に,バージン材にりサイクル材を混合すると
心.4、,瀬1叉'、'・".,巡,',ー、,. t
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三'
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にした.本研究で評価した特性値は流動性,引張強
さ,曲げ強さ,荷重たわみ温度および成形性である
樹脂の流動性が低下し,金型細部まで樹脂が到達し
ないという問題が発生する.りサイクル枝朔旨の混合
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割合および粒度が流動性にどの程度影響を及ぼすか
を大阪市立工業研究所で開発されたディスクキュア
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試験により求めた.試験方法は,所定量の成形材料
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(5g)を所定温度(170て)に保った2枚の平行盤
ノ司゛
間にlmmの厚さまで押さえ,所定時間加熱後に高圧
で圧縮成形し,得られた成形品の面積の平方根と
Imm厚での加熱時間との関係から流動性や硬化速度
の温度依存性を求めるものである.図6に試験結果
、
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一般に,加熱時間0秒における流重力性の値は 10以
上が成形の一応の目安であることから,バージン
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表1
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試料番号
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混合条件
J
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2
バージン材1卯%でアルコール処理したもの
3
バージン材重量の10%りサイクル材を含み,
アルコール処理していないもの
上
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1
4
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4气y/、
混合条件
バージン材1Ⅸ)%の市販のフェノール樹脂
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を示す.同図から,縦軸の流重力性の値はりサイクル
材の混合割合が増加すると小さくなることが判る
5
y
6
図5 電子顕微鏡写真
7
アルコール処理前(上)処理後(下)
53
バージン材重量の10%りサイクル材を含み,
アルコール処理したもの
バージン材重量の20%りサイクル材を含み,
アルコール処理したもの
バージン材重量の30%りサイクル材を含み,
アルコール処理したもの
ハージン材重量の50%りサイクル材を含み,
アルコール処理したもの
熱硬化性プラスチックのりサイクル技術とその用途技術の開発研究(2)
要な製品では,要求される熱変形温度でりサイクル
材の混合割合を決定することになる.また,以上の
特性が問題とならない場合はりサイクル材をバージ
ン重量の50%まで混合することが可能であった
材重量の20%のりサイクル材を混合することは十
分可能であると推測される.同時に,試料3と試料
4 は殆ど差がないことから,アルコールを添加して
も流動性に悪影響を及ぼさないことが判った
B
H
張応力
n
流動性
引
10
(cm)
60
1234567
.0.△.ロ'
14
40
9
8
(N/mm2)
7
0
50
30
2
3
4567
8
9
10
加熱時問(託C)
20
図6 ディスクキュア試験結果
2
3
4
5
7
6
試料番号
引張試験結果
図7
引張および曲げ試馴吉果を図7,図8に示す.1条
曲げ応力
平均値と標準偏差(0)を求め,平均値と士 20の
範囲を図示している.引張強さ,曲げ強さとも同じ
傾向を示しており,りサイクル材を30%まで混合し
てもバージン材100%と有意差はなかった
次に,試験片に加える曲げ応力を 1.81N/mm.とし
て,荷重たわみ温度試験を行った結果を図9に示す
なお,1条件当たりの試験片数は 10個で,10個の
(N/mm2)
データから求めた平均値と士20の範囲を図示して
いる.りサイクル材の混合割合が20%までは直線的
。ーー。円。卯即和印釦
件当たりの試験片数は20個で,20個のデータから
に低下しているが,20%を越えると低下せず横ばい
6
7
123456
7
2
状態となった
3
4
5
試料番号
最後に,7種類の試料を使って射出成形を試みた
図8
成形品は電気開閉器(マグネット用サーマルケース,
曲げ試験結果
外形寸法70× 55 ×45)である.金型は2個取り 1点
ゲート仕様であり,成形後のひずみ防止と補強の目
的で多くのりブが設けてある複雑なものである.成
形は各試料で 10ショット行った.試料7 について
は充填不足が予想され,また他の試料についても成
180
170
形条件の変更を考えていたが,すべての試料で成形
温
度
加工が可能であった.その結果は成形品の外観検査
(叉))
もバージン材と見分けがつかない程で,充填不足,
クラック,変形などの成形不良も発見できなかった
160
150
140
以上の実験結果を総合的に判断すると,製品に要
求される種々の特性によってりサイクル材を混合で
きる割合は異なり,引張強さ,曲げ強さなどの強度
ヰ宇性が要求される製品では30%まで混合が可能で
あり,荷重たわみ温度に代表される熱変牙舛予性が必
B0
試料番号
図9 荷重たわみ温度試験結果
54
佐賀県工業技術センター研究報告書 a996)
的1手性について比較試験を行った.その結果,製品
に要求される種々の特陛によってりサイクル材を混
3.おわりに
本年度は,フェノール枯朔旨成形品の不良品・スプ
ル・ランナーなどを成形工程に戻すりサイクルの実
用化のための研究を実施したが,その研究成果をま
合できる割合は異なるが,引張強さ,曲げ強さなど
の強度特性が要求される製品ではサイクル材の混合
とめると以下のとおりである
割合は30%までが可能であり,荷重たわみ温度に代
a) FRITSCH製の破砕機を用いてフェノール桂朔旨成
表される熱変牙井予性が要求される製品では,要求さ
れる熱変形温度でりサイクル材の混合割合を決定す
形品の不良品・スプル・ランナーなどの破砕を実施
した.4mmのふるいをセットした場合の処理能力は
ることが必要である.また,以上の1予性が問題とな
らない場合はりサイクル材をバージン材重量の50%
まで混合することができた
3 Kg但で,得られた試料の粒度は概ね1 4mmで
あった
(2)破砕された試料をFRITSCH製の粉砕機に02mm
最後に,本研究の遂行にあたり,多大な協力と種々
のご教示を賜った大阪市立工業研究所の福田明徳課
のふるいを装着して粉砕処理を行った.得られた粉
約 150μ mであった.また,この場合の処理能力は
長,長谷川喜一研究主任および松本明博研究主任に
深く感謝いたします
IKg但程度であった
(3)フェノール桂朔Ξのりサイクル材と同種のバージン
参考文献
砕物の粒度は3 700μ mで,そのメディアン径は
材を混合する際に大量の粉塵が発生した.この対策
としてはアルコール類の添加が効果的であり,アル
D 殿谷三郎,梅沢吉恒,長谷川喜一,高橋秋水
コール類を処理重量の2 5%添加すると完全に粉
2)堀内光,福田明徳:熱硬化性桂朔旨,4,63 (1983)
3)株式会社東レリサーチセンター編:プラスチツ
科学と工業,49, B5 (1町5)
塵の発生を抑制できた
クリサイクル技術の新展開(1992)
(4)りサイクル材を混合したフェノール桂朔旨の機械
55