11. ライダー計測 p.41-44 (1/15) - 椎名

平成 25 年 1 月 15 日
融合科学研究科 「像計測工学」
千葉大院融合科学 椎名
11.ライダー計測
11.ライダー計測
・ライダーの原理
ライダーLidar : LIght Detection And Ranging (レーザーレーダー)は、レーザーを光源とする能動的な
遠隔観測手法である。これまでに、大気の各種のパラメータ(エアロゾル、雲、水蒸気、オゾン、大
気汚染気体、気温、風向風速など)の測定のためのさまざまなライダーシステムが開発されてきた。
その中で、ミー散乱ライダーはエアロゾル、雲を測定する最も簡便なライダー手法で、現在、地上ラ
イダー観測に広く利用されている。また、衛星搭載ミー散乱ライダーによる雲、エアロゾルの全球観
測は、地球温暖化などの気候変動の研究や監視に大きな役割を果たすと期待されている。
ライダーはエアロゾルの分布および光学特性の最も有効な観測手法のひとつである。特に高度分布
が得られることがライダーの最大の特長である。また、対流圏上部の巻雲の観測もライダーに最も期
待される観測対象である。
ライダー測定において、レーザー光は雲やエアロゾルおよび大気構成分子に散乱されると同時に、
散乱や吸収によって減衰される。そのため、ライダー信号を表すライダー方程式には大気の後方散乱
係数と消散係数の2つの未知数が含まれる。
ミー散乱ライダーはパルスレーザー光を大気中へ発射し、大気中のエアロゾルや分子による後方散
乱光を時間の関数として記録する。レーザーを送信した時間から 信号を受信するまでの時間遅れから
レーザーが散乱された距離が求められ、受信光強度からレーザーの光路に沿った散乱強度の分布が得
られる。
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ライダー信号を表すライダー方程式は次式で表される。
ここで、P(r)は受信信号強度、r は計測距離、P0 は送信レーザーのパワー、η0 はライダーシステムの光
学的な効率である。Y(r) はライダーの送受信系の重なりを現す関数である。Y(r)はある距離から 1 とな
るような関数である。そこで、以下の取扱では、Y(r) = 1 とする。ctp は送信レーザーパルスの空間的な
長さ、AR は受信望遠鏡の有効受信面積、β(r)は距離 r での大気の体積後方散乱係数。C=P0η0ctpAR/2 は
距離に依存しないライダー定数である。τは大気の光学的厚さで次式で表される。
ここで、 σ(r)は大気の散乱と吸収による減衰を表す消散係数である。
ライダー信号の解析は、式(1)のライダー方程式を解いて後方散乱係数β(r)、消散係数σ(r)を求めるこ
とに他ならない。数学的な観点からは、1つのライダー方程式から後方散乱係数と消散係数の2つの
パラメータを決めることはできない。そこで、測定状況等に応じて、近似や仮定をおいてライダー方
2
程式を解くことになる。実際の解析では、距離補正ライダー信号 X(r)=P(r)r の対数を取り、最小自乗
法により ln[X(r)]の傾きを求める。これにより大気の消散係数を求める。
主な LIDAR の方式
LIDAR の種類
測定原理
用途
ミー散乱 LIDAR
エアロゾルなどによるレーザ光のミー
散乱を測定
低層大気のエアロゾル測定
レイリー散乱
LIDAR
大気分子などによるレーザ光のレイリ
ー散乱を測定
中層大気の大気分子の密度・温度測定
ラ マ ン 散 乱
LIDAR
大気分子のレーザ光の非弾性散乱を測
定
大気中の水蒸気、発生源からの高濃度
汚染気体の測定
蛍光散乱 LIDAR
励起された気体分子からの蛍光測定
中層大気分子の同定・密度測定
差分吸収 LIDAR
レーザ光の大気分子による吸収を測定
大気分子の同定・密度測定
ド ッ プ ラ ー
LIDAR
ミー散乱光のドップラー効果による波
長シフトを測定
風向・風速測定
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ライダー観測例
・散乱
ライダーで扱う光散乱は主にレイリー散乱、ミー散乱、ラマン散乱に大別される。
レイリー散乱
光の波長よりも小さいサイズの粒子による光の散乱である。透明な液体や固体中でも起きるが、典
型的な現象は気体中の散乱であり、太陽光が大気で散乱されて、空が青くみえるのはレイリー散乱に
よる。散乱の量は粒子の大きさと光の波長による。散乱係数は波長の 4 乗に反比例する。レイリー散
乱の散乱係数 ks は下式のようになる。
n は粒子数、d は粒子径、m は反射係数、_ は波長
これから波長の短い青は赤よりも多く散乱される。「夕焼け」・「朝焼け」は太陽と観測者の間に大
気の存在する距離が日中と比べて長くなり、散乱を受けにくい赤色が届くことによる。一方で、日中
には波長が短い青が観測者の方に散乱されることにより、空全体が青く見える。
光の波長と同程度以上のサイズの粒子(散乱体)による光散乱は粒子を球形と仮定した場合ミー散乱
理論で扱われる。
ミー散乱
光の波長程度以上の大きさの球形の粒子による光の散乱現象である。粒子のサイズが非常に大きく
なると、ミー散乱と幾何光学の二つの手法による計算結果が類似するようになる。なお、波長に対し
て粒子(散乱体)が大きい場合は回折散乱が、光の波長の 1/10 以下になるとレイリー散乱が適用され
る。
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1日練習を休むと自分でわかる。2日休むと批評家にわかる。3日休む
と聴衆にわかる。
If I miss one day’s practice, I notice it. If I miss two days, the critics notice it. If I
miss three days, the audience notices it イグナーチ・パデレフスキー
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ミー散乱は雲が白く見える一因である。これは雲を構成する雲粒の半径が数
数 10μm の大きさで、
太陽光の可視光線の波長にたいしてミー散乱の領域となり、可視域の太陽放射がどの波長域でもほぼ
同程度に散乱される為である。
ミー散乱計算による後方散乱断面積
π
σ b (−iˆ, iˆ) = 2
k
2
∞
n
∑ (−1) (2n + 1)(α
0
o1n
− β e1n )
n =1
ここで、 α o1n と β e1n はミー係数と呼ばれ次の式で表現される。
ミー係数
α Ο1n =
β e1n =
ρjn ( ρ )[ ρ 0 jn ( ρ 0)]'− ε r ρ 0 jn ( ρ 0)[ ρjn ( ρ )]'
ε r ρ 0hn( 2 ) ( ρ 0)[ ρjn ( ρ )]'− ρjn ( ρ )[ ρ 0hn( 2 ) ( ρ 0)]'
ρ 0 jn ( ρ 0)[ ρjn ( ρ )]'− ε r ρjn ( ρ )[ ρ 0 jn ( ρ 0)]'
ε r ρjn ( ρ )[ ρ 0hn( 2 ) ( ρ 0)]'− ρ 0hn( 2 ) ( ρ 0)[ ρjn ( ρ )]'
( 2)
ここで、 jn :球ベッセル関数、 hn :第 2 種ハンケル関数
[ ρjn ( ρ )]' = d [ ρjn ( ρ )] / dρ = ρjn −1 ( ρ ) − njn ( ρ )
[ ρh ( 2 ) n ( ρ )]' = d [ ρh ( 2 ) n ( ρ )] / dρ = ρh ( 2 ) n −1 ( ρ ) − nh ( 2 ) n ( ρ )
ρ 0 = κ 0a 、 ρ = ρ 0 ε r 、 ε r :比誘電率
κ 0 :波数(2π/λ)
ラマン散乱
散乱体に単一の振動数(ν0)のレーザ光を照射する、そこから散乱される光の振動数を観測すると
ν0、ν0
νa、ν0
νb、ν0
νc、ν0
νd、⋯となっている。サンプルに入射した光の大部分は
分子、原子に衝突した後も同じ大きさのエネルギーを持っている、この光は弾性的な散乱でこの散乱
光はレーリー散乱である。一部の光はサンプルに衝突した際に分子・原子とエネルギーの授受を行い、
入射した光とは異なるエネルギーの光、振動数の異なった光が散乱されるこの光をラマン散乱光とい
う。この光は非弾性的に散乱される。ラマン散乱光のうち、レーリー線よりエネルギーの小さい方(振
動数の小さくなった)をストークス散乱(ν0
νi)といい、大きくなった方をアンチストークス散乱
という、通常は散乱強度の大きいストークス散乱を観測する。
Memo
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