しない させない 見逃さない しない させない 見逃さない - 法務省

いじめ」
「
しない させない
見逃さない
この冊子には,音声コードが各
ページ(奇数ページ 右下,偶数
に印刷されています。
ページ 左下)
専用の読み上げ装置で読み取る
と,記録されている情報を音声で
聞くことができます。
法務省・全国人権擁護委員連合会
はしがき
法務省の人権擁護機関では,従来から「いじめ」を始
めとする子どもの人権問題に積極的に取り組んできまし
たが,取り分け「いじめ」の問題は,深刻かつ重大な社
会問題になっており,「いじめ」に起因すると思われる
いんしつ
しつよう
自殺事件が後を絶たず,その内容が陰湿・執拗であるこ
とが指摘されています。
「いじめ」は,相手に対する「思いやり」や「やさしさ」
といった基本的な人権意識が欠けていることによるもの
であり,大人はもとより,子ども自らも人権意識を育む
ことが,「いじめ」問題の解決には不可欠です。
そこで, 法務省の人権擁護機関では,「子どもの人権
を守ろう」を啓発活動のテーマに掲げ,学校その他の
関係機関と協力するなどして,「いじめ」をしないよう,
させないよう,そして見逃さないように,子ども自身の
ほか,家庭や地域社会に対しても,粘り強く人権尊重思
想の高揚を呼びかけています。
皆様の御理解と御協力を心からお願いいたします。
平成 24 年 6 月
法 務 省 人 権 擁 護 局
全国人権擁護委員連合会
もくじ
「いじめ」
とはなにか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
今日の「いじめ」の特徴はなにか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
「いじめ」の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
子どもの人権SOSミニレター・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
「いじめ」をしないためには・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
「いじめ」をさせないためには・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
「いじめ」を見逃さないためには・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16
「いじめ」問題に関する人権擁護機関の取組・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
「いじめ」の人権侵犯事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20
児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)
と子どもの人権・・・・・ 22
「いじめ」
とはなにか
昔の「いじめ」
とは違う
「いじめ」は,今日のように社会問題化する以前にもありました。その頃,
「いじめ」
といえば「弱いものいじめ」を意味していました。ただ,この場合には,力の強い
者が力の弱い者を理不尽な目にあわせることは恥ずべきことだという考え方が子ど
げんぜん
もたちの間にも厳然としてありました。つまり,弱い者がいじめられていれば,その
中に入っていじめる側の者を制止したり排除したりするといった,いわば正義感に燃
えた子どもの存在があったのです。
しかし,今日,社会問題化している「いじめ」は,以前のものとは随分と様相を
異にしています。
「いじめ」の定義
文部科学省は,統計上の基準として,「いじめ」を「当該児童生徒が,一定の
人間関係のある者から,心理的,物理的な攻撃を受けたことにより,精神的な苦
痛を感じているもの。」と定義しています。個々の行為が「いじめ」に当たるか否か
の判断は,表面的・形式的に行うことなく,いじめられた児童生徒の立場に立って
行うこととし,また,起こった場所は学校の内外を問わないとされています。
ロ
ヤメ
!
「いじめ」
の形態
「いじめ」には,いろいろな形態がありますが,大
きく分けて次のように分類できると思われます。
2
1「仲間はずれ」
「無視(シカト)」
このパターンは,「いじめ」の中で比較的多いといわれているものです。「口をき
かない」,「一緒に遊ばない」とか,「いじめ」の標的になった子どもが教室に入っ
てくると,みんなでジロッとにらんだり,急に話をやめて席を立って離れたりして,
「仲
間はずれ」にしていることを強く印象づけることで,その子どもに心理的ダメージを
与えようとするものです。
2 身体への直接攻撃
校舎の裏やトイレなどといった人目につかない場所で,殴る・蹴るの暴行を加え
ることが代表的なものですが,その他,髪の毛を引っ張る,頭から土や水をかける,
掃除用具などの物を使ってたたく,鉛筆やコンパスの針で突く,濡れた雑巾や黒板
消しを投げつけるなど,暴力によって肉体的な苦痛を与えるものです。
3 相手が嫌がることをする,
させる
身体への直接攻撃も「いじめ」を受ける側にとっては嫌なことですが,ここでい
うのは,持ち物を取り上げたり,お金をたかる,無理やり服をぬがす,靴や鞄など
を隠したり壊す,教科書・ノート・机などに落書きをしたり汚す,根も葉もない噂や
しつよう
悪口を言いふらす,執拗に冷やかしたりからかう,悪意を持って過剰なまでにお節
介や親切を押し付けるといったようなものです。
また,相手が嫌がることをさせるものとしては,言動で脅すことによって万引きを
強要したり危険な目にあわせたりする,嘘を言って恥をかく言動をさせる,荷物を持
たせる,別の子どもをいじめさせるといったもののほか,クラスやクラブの多人数を
バックにして,クラス委員やクラブのリーダーに対して無理なことを要求したり,責任
を押し付けて仕事や問題の処理をさせるといったものがあります。
4 ネットいじめ
近年,情報化社会の進展に伴い,子どもたちのインターネット利用率や携帯電話
所持率が急速に増加しており,インターネットの掲示板や携帯電話のサイト(掲示板,
ブログ,プロフ等)への匿名性を利用した個人を攻撃する書き
込みが発生するなど,大きな社会問題となっています。
3
今日の「いじめ」の
特徴はなにか
あらゆる子が対象
昨今は,動作が遅いとか性格がおとなしいといった子どもばかりではなく,まじめ
であるとか活発で良い意味で目立つといった子どもまでが「いじめ」の対象になっ
ています。
このことは,ささいなきっかけで「いじめ」が始まり,全ての子どもが「いじめ」
の対象となる可能性があることを示しています。
一人を複数がいじめる
複数の子どもが集団的に一人の子どもをいじめるといった場合,多数の中の一
しゅぼうしゃ
人であることから,「いじめ」の首謀者が誰であるかハッキリしていないことが多く,
良くないことをしているという罪の意識を感じていないことが多いのです。また,「い
じめ」を行った側は先生や親から問い詰められても口裏を合わせて「いじめ」の
事実を否定したりします。
し
つ
よ
う
い
ん
し
つ
方法・手段が執拗・陰湿
「いじめ」の方法・手段が,到底子どもが考えたとは思われないような巧妙で陰
湿なケースが多く,しかも,そういった行為を遊び感覚で行っていることも特徴です。
例えば,大勢の前で無理に裸にさせたり,教科書を破ってごみ箱に捨てたり,「プ
ロレスごっこ」に名を借りて暴力を振るうなど,例を挙げればきりがありません。しかも,
「いじめ」を受けている側が抵抗しないことをよいことに「いじめ」が執拗に繰り返
されエスカレートしていきます。
4
か ん し ゅ う
ぼ
う
か
ん
し
ゃ
「観衆」
と
「傍観者」
が存在
「いじめ」は,一見すると,「いじめ」を行う子どもと「いじめ」を受ける子どもと
の対立構造のように見えることがあります。しかし,今日における「いじめ」は,
「い
じめ」を行う子ども,
「いじめ」を受ける子どものほか,これらを取り巻く「観衆」や
「傍観者」という子どもの集団が存在し,全体として四重構造(重層構造)から成っ
ているといわれています。
「観衆」とは,「いじめ」の行為を面白がって見ていたり,はやしたてたりする子
どもたちのことです。
「傍観者」とは,それらを見て見ぬふりをしている子どもたちのことです。口出しを
すると今度は自分が「いじめ」のターゲットにされるかもしれないとの恐れや,関わ
りたくないといった気持ちなどから,無関心
な態度をとります。
「いじめ」解消の対策を立てる場合におい
ては,これら「観衆」や「傍観者」の役割
を演ずる子どもに対しても,「いじめ」が許さ
れないことや,「いじめ」の防止の必要性に
ついて強力に働きかけていくことが大切です。
C
A
B
D
A=「いじめ」を受ける子ども, B=「いじめ」を行う子ども
C=「いじめ」の「観衆」, D=「いじめ」の「傍観者」
現代社会のひずみを反映
以上,「いじめ」の特徴をいくつか述べましたが,これらのことは,他人に対する
思いやりや,お互いを認め合うといった人権尊重の精神に反する行為だといわざる
いんしつ
を得ません。そして,子どもたちの世界に陰湿な「いじめ」がはびこることになった
背景には,受験戦争や少子化・核家族化現象などの現代社会の抱える問題が横
たわっています。正に,現代社会のひずみを反映しているといえます。
5
「いじめ」の現状
「いじめ」
の認知件数
文部科学省調査によると,「いじめ」の認知件数は,平成 22 年度は約 78,000
件となっています。
中学校1・2年生に最も多い
文部科学省によると,平成 22 年度における学年別いじめの認知件数は 7 ペー
ジの図のとおりとなっています。
これによると,平成 22 年度におけるいじめの認知件数のうち,36,944 件を小学
校が占めており,全体の約 47.6%,中学校は約 43.0%,高等学校は約 9.4%となっ
ています。
以上の結果から,「いじめ」は,小学校の高学年から多くなり,中学校の 1 年
生及び 2 年生で急激に増加し,3 年生から高校生にかけて次第に減少していくこと
が分かります。
このような傾向の原因としては様々なことが考えられると思いますが,小学校高学
年及び中学生の時期は,肉体的に成長が著しい反面,精神的な成長がそれに伴
じ
が
わないために,肉体と精神にアンバランスが生じ,それが自我の確立の時期と相まっ
て,欲求不満を引き起こすと考えられます。した
がって,この時期,自我の確立にとって不可欠
じ そ ん かんじょう
の要因である自尊感情や存在感が満たされない
ために,
その欲求不満が,
「いじめ」
という形になっ
て現れるのではないかとも考えられます。
6
図
学年別いじめの認知件数(平成22年度)
18,000
16,370
16,000
14,000
11,834
12,000
10,000
8,000
7,585
7,102
7,549
6,258
6,000
5,166
4,941
4,000
4,035
3,509
2,145
2,000
1,136
高3
7
高2
<出典>文部科学省 「平成22年度『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』について」
より
高1
中3
中2
中1
小6
小5
小4
小3
小2
小1
0
子どもの人権 SOSミニレター
法務省の人権擁護機関では,小・中学生に子どもの人権 SOSミニレターを配
布し,「誰に相談していいか分からない,でも助けてほしい。」というような子どもの
発する信号を手紙で受け取っています。受け取った手紙に対しては,法務局の職
ていねい
員や人権擁護委員が丁寧に返信し,事案によっては,保護者を通じ又は直接子ど
もと面談したりもします。
平成 18 年度以降は,学校での「いじめ」による自殺が社会問題となったことを
受け,小中学校の児童・生徒を対象に配布しています。
子どもの人権 SOSミニレター事業の実施状況からは,10 ページの図のとおり「い
じめ」に関する相談が増加傾向にあるとともに,年々,SOSミニレターによる相談
における「いじめ」に関する相談の割合が増加していることが分かります。
8
子どもの人権 SOS ミニレター
9
子どもの人権SOSミニレター事業における
「いじめ」
に関する相談件数・割合の推移
40.0%
18,000
36.6%
16,008
16,000
35.4%
35.1%
15,461
35.0%
34.4%
14,000
30.0%
27.8%
12,000
25.0%
10,599
10,000
9,484
9,403
8,916
8,783
20.0%
8,000
15.0%
6,000
5,567
5,094
10.0%
4,000
3,649
5.0%
2,000
0
13,133
16,166
14,497
24,791
24,377
平成19年度
平成20年度
平成21年度
平成22年度
平成23年度
「いじめ」
に関する相談
「いじめ」
以外に関する相談
10
0.0%
「いじめ」
に関する相談の割合
●ひとりで悩まずSOSミニレターで相談しよう!
平成 23 年度には,全国の小中学校の児童・生徒から,およそ 24,000
件の SOS ミニレターによる相談が寄せられました。
こんなに多くの子どもたちが,「いじめ」を受けるなど,つらく苦しい思いを
抱えて毎日を過ごしていたのです。
法務省の人権擁護機関は,子どもたちの悩みごと困りごとを必ず解決に導
きますので,決してひとりで悩まず,SOS ミニレターで相談してください。
●SOS- メールでも相談できます!
インターネットを利用した SOS- メールでも相談できます。
パソコン,携帯電話どちらからでも相談できます。
パソコンからはこちら
http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken113.html
インターネット人権相談
検索
クリック
携帯電話からはこちら
http://www.jinken.go.jp/soudan/mobile/001.html
11
「いじめ」
を しないためには
〜「いじめ」
は人権侵害であるという認識が重要〜
我が国の憲法には,表現の自由や生存権などの様々な人権が掲げられています
が,これらは全て根本においてつながっています。それは,これらの権利は,全て
の人々が,社会において幸福な生活を営むために必要不可欠なものだということで
す。自由に話ができなかったり,身体の安全が保障されないような毎日では,人間
らしく幸福に生きていくことなどできません。
子どもの場合にも,一人の人間として,生命や身体の安全を脅かされることなく,
家族や友人との触れ合いを通じて自由に成長していく権利があります。また,社会
人として幸福に生きていくための基本的な教育を受ける権利も有しています。
しかし,「いじめ」を受けた子どもにとって,学生生活はつらく苦しいものに違い
なく,友人との触れ合いを通じて自由に成長していく権利が侵害されています。さら
に,不登校にまで至れば,重要な教育を受ける権利まで侵されてしまうことになります。
子どもは,子ども間の互いの衝突や接触の中で成長していくものです。しかし,
いつだつ
現代の「いじめ」は,子ども間の成長過程に伴う衝突や接触の程度を逸脱し,い
じめられる子どもの人権を侵害する行為です。
12
「いじめ」
は人権意識の希薄さによるもの
「いじめ」の根底には,他人に対する思いやり,いたわりといった人権意識の希
薄さがあります。相手が受ける痛みを考えることなく,不登校や自殺に至るまで徹底
的に痛めつける場合さえあります。また,
「いじめ」を行う子どもは,
「のろいから『の
ろま』と言っただけ」などと言い逃れをすることがありますが,そういった他人の弱
い点を思いやるのではなく,逆に「いじめ」の口実にしてしまう点も,人権意識の
希薄さによるものといえます。
人権意識という大げさなようですが,結局は,他人の心の痛みを分かるというこ
とにほかなりません。
「いじめ」
は差別の芽
「いじめ」は,動きが鈍いとかスポーツが下手だといった集団の中の異質なもの
を標的に,ただ異質であるというそれだけの理由で行われることが多いものです。
このような構造は,不合理な差別と軌を一にするもので,そのまま放置すれば差別
の芽となる危険をはらんでいます。差別をなくすためにも,
「いじめ」をなくすためにも,
お互いの異なる点を個性として尊重する人権意識を養っていくことが重要です。
13
「いじめ」
を させないためには
〜豊かな人権意識を育てることが大切〜
欲求不満や劣等感が生む
は た ん
「いじめ」は,様々な原因に基づく家庭の破綻,受験戦争の激化,物質中心の
社会的風潮など現代社会の様々な事由から,子どもたちの不安・不満が増大して
いるにもかかわらず,その解消手段に乏しい状況がその背景にあるといわれています。
「いじめ」を生み出す心理的な理由としては,欲求不満の解消,劣等感の補償,
ちゅうい かくとく こうどう
注意獲得行動など様々なことが考えられますが,基本的には,欲求不満の解消,
じ そ ん かんじょう
それも存在感や自尊感情の欲求不満の解消を求める心理があると思われます。存
在感や自尊感情の満たされない子どもがその満足を求めて,自分より力の劣る者を
攻撃,支配するのが「いじめ」の基本であって,「いじめ」を行うことによって,他
だいしょうてき
で満たされない欲求を代償的に満たし,一時的な心理的満足感を得ているのです。
人権意識の未熟・希薄さ
法務局が扱っている人権侵犯事件の調査結果から「いじめ」を行う子どもの一
般的な特徴をみると,彼らが何らかの欲求不満や劣等感を抱えているほかに,次
のものを挙げることができます。
1 多数をたのむなど,自主的な責任のある行動がとれない。
2 不満に耐える力が弱く,欲求不満を抑制する精神力が弱い。
じ
こ
け ん じ よ く
3 集団の中で自己顕示欲が強い。
4 自己中心的な行動をとり,他人に迷惑をかけることなどについて,無関心であ
る傾向が強い。
5 相手の立場や気持ちを思いやるという意識がない。
このように,「いじめ」を行う子どもたちには,他人に対する
思いやりや弱者に対するいたわりがみられず,人権意識の未熟
さ,希薄さがみられるのもその特徴です。
14
心の痛みと責任を自覚させることが大切
「いじめ」をする子どもは,「いじめ」を受ける子どもが,相談相手もないまま,
来る日も来る日も一人で深刻に悩み続け,学校へ登校して皆と顔を合わせることさ
こ ど く かん
さいな
え恐ろしくなり,孤独感に苛まれて行き場を失い,遂には死をも考えるほどの心理
状態になることなどについて,全く考えてはいないようです。相手の立場になって考
えさせ,
「いじめ」が,大変に残酷で,取返しがつかない重大な人権侵害であるこ
とを十分に理解させることが最も大切です。同時に,「いじめ」をした子どもが,取
り分け中学生以上の場合には,そのような重大な事態になるかもしれないことを容
認しながら,あえて「いじめ」を繰り返したような悪質な事件については,年齢に
応じた,法的・社会的に厳しい責任を負わなければならないことも,徹底して教育
すべきです。単に,甘やかすだけが,子どもに対する正しい教育ではありません。
人権意識を育てることが大切
じ そ ん かんじょう
結局,「いじめ」は,「いじめ」を行う子どもの存在感や自尊感情の欲求不満の
代償行動としてなされることが多いのですから,「いじめ」をなくすためには,根本
的には「いじめ」を行う子どもの存在感や自尊感情を満足させるように,彼らとの
コミュニケーションを深め,彼らの悩みを解消していく指導が必要となります。
さらに,「いじめ」は他人に対する思いやり,人権意識の希薄さによる行為です
から,子どもたちの中に互いの人権を尊重し合う豊かな心を育てることが大切です。
15
「いじめ」
を 見逃さないためには
「いじめ」
を見逃している事実
文部省(現文部科学省)が設置していた「児童生徒の問題行動等に関する調
査研究協力者会議」によって平成 8 年 7 月に発表された『児童生徒のいじめ等に
関するアンケート調査結果』によれば,今の学年でいじめられた体験のある子ども
の担任のうち,自分のクラスには「いじめはない」と答えている者の割合が,小学
校で 42.0%,中学校で 28.9%,高等学校で 68.6%となっており,また,今の学年
でいじめられた体験のある子どもの保護者のうち,その子どもが「いじめられてい
ないようだ」又は「いじめられているかどうかわからない」と思う者の割合は,小
学校で 59.8%,中学校で 60.9%,高等学校で 77.4%にも上っています。このこと
から,「いじめ」を見逃している担任や保護者が多く存在していると考えられます。
16
「いじめ」
の発見には普段からの接触が大切
少子化や核家族化が進み,自分だけの部屋を持つ子どもたちが増加し,また,
学歴が偏重される風潮の中,放課後には連日のようにたくさんの子どもたちが学習
塾に通うようになっており,その結果として,保護者が子どもと接触する機会が大変
少なくなっています。
つまり,保護者が子どもの心身の微妙な変化に気付くことが極めて困難になって
いるのです。
ですから,普段から子どもと学校での出来事などを話し合う時間を作るよう心が
け,「いじめ」などの早期発見に意識的に努めることが大切になっているといえるで
しょう。
まず最初に担任教師に相談する
ところで,「いじめ」の多くは学校において発生しています。学校教育の場におけ
るこのような人権侵害行為については,まず,第一義的には学校教育の場で是正
されることが最も望ましいことであり,教師は,教育上の観点からもこのような行為
を是正するための職責を担っているということができます。したがって,子どもが学
校で「いじめ」にあっていることが分かったときは,子どもの意見を十分に聞いた
上で,担任の教師に相談し,家庭との学校の連携を密にした取組が必要となります。
上記アンケート調査結果によれば,いじめられた体験があって,その「いじめ」
に対して担任が何らかの対応をしたと答えた子どものうち,
担任が対応した結果,
「い
じめられなくなった」と答えた子どもは,小学校で 47.6%,中学校で 43.9%,高
等学校で 37.3%であり,「いじめ」に対して担任が何
らかの対応をすることにより,その半数近くが解消して
いることが読み取れます。
なお,「いじめ」の事実が明白であるのに,担任
の教師が対応を拒否したり,何の対応もしてくれない
ような場合には,学校長や教育委員会に相談するこ
とも考えられます。
17
「いじめ」問題に関する
人権擁護機関の取組
全国的な啓発活動
法務省の人権擁護機関では,「いじめ」は重
大な人権問題であるとの認識の下,「いじめ」を
根絶するために全国的な啓発活動を行っています。
人権擁護機関の啓発活動年間強調事項として,
「子どもの人権を守ろう」を掲げています。これを
踏まえ,全国の法務局・地方法務局では,人権
擁護委員が中心となって学校を訪問して,子ども
たちが「いじめ」などについて考える機会を作る
ことにより,思いやりの大切さなどを体得してもらう
「人権教室」を開催しているほか,シンポジウム・
講演会・映画会の開催,テレビ・ラジオによるス
ポット広告,新聞・広報誌への掲載,パンフレット・
チラシの配布,ポスターの掲示などを通じ,「いじ
め」の根絶に向けて積極的な啓発活動を繰り広
げています。
人権啓発ビデオ
「勇気のお守り」
「自分の胸に手を当てて」
法務局・地方法務局での人権相談
全国の法務局・地方法務局の本局及びその支局では,常設相談所を開設して
いるほか,デパート,公民館等において臨時に特設人権相談所を開設して,人権
擁護委員と共に子どもに関する人権問題を始め,あらゆる人権問題について相談
に応じています。
また,「いじめ」など子どもの人権問題は,事柄の性質上,
周囲の目につきにくいところで起こり,被害者である子どもは身
近な人に相談することをためらうことが多いことから,重大な結
果に至って初めて気付くという例も少なくありません。そこで,子
18
どもが発する信号をいち早くキャッチするため,全国の法務局・地方法務局に専用相
ぜろぜろなな の ひゃくとおばん
談電話「子どもの人権110 番」
(全国共通フリーダイヤル 0120-007-110)
を設置し,人権擁護委員や法務局職員が相談に応じています。また,インターネット
による人権相談を受け付けたり,全国の小・中学生の児童・生徒に「子どもの人
権 SOSミニレター」(8 ページ以下参照)を配布して,学校の先生や保護者にも相
談できない子どもの悩みごとを的確に把握し,子どもをめぐる様々な人権問題の解
決に当たる取組を実施しています。
じ ん け ん し ん ぱ ん じ
け
ん
人権侵犯事件としての「いじめ」
の取扱い
法務省の人権擁護機関が人権相談や関係官公署からの通報などにより「いじめ」
の事実を知ったときには迅速に対応します。具体的には,まず,被害児童又はその
保護者の意向を確認した上で,学校に「いじめ」の事実を連絡し,学校教育の場
を通じての指導,解決に委ねることにしています。
しかし,学校に「いじめ」の事実を指摘しても何らの対応をしなかったり,
「いじめ」
により傷害,不登校など極めて重大な結果が発生しているといった場合には,事案
に応じて積極的に調査を行い,その結果,人権侵害の事実が認められるときには,
文書や口頭で善処を促したり,再発防止を要請するなど適切な措置を講じています。
19
「いじめ」の 人権侵犯事例
X君(A中学校 2 年男子生徒)が「いじめ」を苦に自殺したとの新聞報道から
事件を知った法務局が,A中学校の校長,担任の教師等及び保護者らから事情
き
を聴いたところ,以下の事実が分かりました。
X君は,複数の生徒から学校の内外において,面白半分,遊び感覚で一方的
け
に殴る,蹴るの暴行や相当多額に上る金銭を要求されるなどの「いじめ」を相当
しつよう
期間にわたり執拗に受けていました。このことが一因となってX君の自殺という不幸
な結果を招いたのです。
これに対し,A中学校においては,①「いじめ」は一部の学校や生徒に限られ
た問題ではなく,どこの学校でも起こり得る問題であり,かつ深刻な問題であるとい
う基本認識が不十分であったこと,②X君に対する数々の「いじめ」の兆候を個々
の問題行動として断片的に捉え,各教師が個別に指導することに終始し,一歩踏
み込んだ事実の究明や学校を挙げての取組が不十分であったこと,③同校には,
「いじめ・ 登校拒否対策委員会」が設置
けいがい
か
されているが,実質的には形 骸化し,学校
全体として「いじめ」問題などに取り組む姿
勢が不十分であったこと,④同校では,伝
統的に上級生の下級生に対する暴力などの
「いじめ」があったと指摘されていたことな
どの点から,「いじめ」に対する認識や取組
が以前から不十分であったことがうかがえま
した。
20
「いじめ」の根底には,他人に対する「思いやりの心・いたわりの心」といった
どじょう
人権意識の未熟さ,希薄さがあり,
これが「いじめ」を生む土壌となっています。「い
じめ」を根絶するためには,「いじめ」がいかに相手の心を傷つけるものであるか
を生徒に理解させるとともに,「相手を思いやる心・いたわる心」といった豊かな
じょうせい
人権意識を醸成するための全校的な人権教育がなされなければならないものです。
しかし,同校の取組はこの面において十分とはいえないことがうかがえました。
そこで,法務局は,学校側に対し,教育機関としての「いじめ」に対する対応
の不十分さを指摘し,本件における「いじめ」の問題の徹底的解明と分析を行い,
その反省の上に立って「いじめ」問題に対する学校全体としての組織的な取組体
制を確立し,今後二度とこのような不幸な事態が生じることのないよう実効性のある
措置をとるよう「勧告」しました。
スゴイ
ネ!
21
児童の権利に関する条約
(子どもの権利条約)
と
子どもの人権
条約(国と国との約束)を結んだ理由とその意味 ぎゃくたい
世界には,貧しさや飢えや戦争あるいは,虐待などで苦しんでいる子どもがたく
さんいます。このような現実に目を向けた世界の国々は,1989 年(平成元年)に,
国際連合の総会において,
「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」を作
りました。
この条約は,子どもの人権(社会において幸せな生活を送るためにどうしても必
要で,人間として当然に持っている権利)や自由を尊重し,子どもに対する保護と
援助(手助け)を進めることを目指しています。
我が国は,国内における子どもの人権尊重への取組を強めることと,子どもの人
権尊重について世界各国と協力していくことを更に推し進めていくために,1994 年
(平成 6 年)4 月にこの条約を結びました。
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● 条約の主な内容 ●
1. 18 歳になっていない人を子どもとします(第 1 条)。
2. 全ての子どもは,みんな平等にこの条約にある権利を持ってい
ます。子どもは,国の違いや,男か女か,どのような言葉を使うか,
どんな宗教を信じているか,どんな意見を持っているか,心や
体に障害があるかないか,お金持ちであるかないかなどによって
差別されません(第 2 条)。
3. 子どもに関係のあることを行うときには,子どもに最も良いことは
何かを第一に考えなければなりません(第 3 条)。
4. 国は,この条約に書かれた権利を守るために,最大限のことを
しなければなりません(第 4 条)。
5. 親(保護者)は,子どもの心や体の発達に応じて,適切な指
導をしなければなりません。国は,親の指導する権利を大切に
しなければなりません(第 5 条)。
6. 全ての子どもは,生きる権利をもっています。国はその権利を守
るために,最大限のことをしなければなりません(第 6 条)。
7. 子どもは,親と一緒に暮らす権利を持っています(第 9 条)。
8. 子どもは,自分に関係のあることについて自由に自分の意見を
表す権利を持っています。その意見は,子どもの発達に応じて,
十分考慮されなければなりません(第 12 条)。
9. 子どもは,思想・良心及び宗教の自由についての権利を尊重
されます。親(保護者)は,このことについて,子どもの発達
に応じた指導をする権利及び義務を持っています(第 14 条)。
10. 子どもは,他の人びとと自由に集まって会をつくったり,参加し
たりすることができます。ただし,安全を守り,決まりに反しない
など,他の人に迷惑をかけてはなりません(第 15 条)。
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11. 子どもを育てる責任は,まずその父母にあります。国は,その手
助けをします(第 18 条)。
12. 親(保護者)が子どもを育てている間,どんな形であれ,子ど
もが暴力をふるわれたり,むごい扱いなどを受けたりすることが
ないように,国は,子どもを守らなければなりません(第 19 条)。
13. 子どもは,家族と一緒に暮らせなくなったときは,守ってもらうこ
とができます(第 20 条)。
14. よその国に逃れた子ども(難民の子ども)は,その国で守られ,
援助を受けることができます(第 22 条)。
15. 心や体に障害があっても,その子どもの個性や誇りが傷つけら
れてはなりません(第 23 条)。
16. 子どもは,病気になったときや,けがをしたときには,治療を受
けることができます(第 24 条)。
17. 子どもには教育を受ける権利があります(第 28 ,29 条)。
18. 子どもは,休んだり,遊んだり,文化・芸術活動に参加する権
利があります(第 31 条)。
19. 国は,子どもがポルノや売買春などに利用されたり,性的な暴
力を受けたりすることのないように守らなければなりません(第
34 条)。
20. 国は,罪を犯したとされた子どもが,人間の大切さを学び,社
会に戻ったとき自分自身の役割をしっかり果たせるようになるこ
とを考えて,扱わなければなりません(第 40 条)。
21. 国は,この条約の内容を,大人にも子どもにも広く知らせなけ
ればなりません(第 42 条)。
「子どもの権利条約 日本ユニセフ協会抄訳」
http://www.unicef.or.jp/kodomo/nani/kenri/
syouyaku.htm 等参照。なお,条約の全文については,
外務省ホームページ http://www.mofa.go.jp/mofaj/
gaiko/jido/zenbun.html を御覧ください。
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条約に関する
質問
と
答え
この条約は,
子どもを保護の対象ではなく権利を行使する主体
(主人公)
Q として認めたものであると聞きますが,
本当にそうなのでしょうか?
A
この条約は,子どもを人権の主体(主人公)として尊重するという基本的な立
場に立っています。もっとも,現実には,子どもは,家庭において親の保護の下に
あり,また,心も体も成長していく過程にあって,その状況に応じて特別の保護が与え
られることが求められていますから,大人と全く同じように扱われるわけではありません。
この条約の考えは,以前から他の条約や憲法などで認められたものを明らかにした
ものといえるでしょう。
条約では,自分のことについて自分の意見を言うことを認められるべき
Q とされています
(意見表明権)
が,
これはどういうことですか?
A
自分はどのようなことを学びたいのか,どのような職業に就くのかなどというよう
な自分に影響を与えることについて,自由に自分の意見を言うことを認められ,そ
の意見は年齢や成長の度合いによって一人一人考慮されるべきであるということです。
Q 「子どもの権利条約」は,大人には関係のない条約なのでしょうか?
A
大人にも深く関係があります。条約では,子どもを育てる責任は,まず親にある
とされています。また,親は子どもの発達に応じて適切な指導をしなければならな
いこと,子どもに暴力をふるってはならないことが明らかにされています。したがって,大
人もこの条約の内容をよく理解しなければなりません。
この条約を守るために我が国では例えばどのようなことがなされて
Q いるのですか?
A
より多くの人に条約のことを知ってもらえるように,このような冊子を作ったり,子ど
もの人権に関する様々なパンフレットなどを配ったりしています。
また,人権擁護委員が全国の小学校や中学校を訪問して,条約や
子どもの人権についてお話をしたり,クラスのみんなに子どもの人権
に関するビデオを見てもらって感想を聞いたりしています。さらに,近
くの法務局や地方法務局では,一人一人の悩みをよく聞いて,アド
バイスなどもしています。
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「いじめ」
など子どもの人権問題に関する
相談先電話番号
悩みごとや困りごとがあったら話を聞かせてください。
子どもの人権110番
ぜろ ぜろ なな の ひ ゃ く と お ば ん
フリーダイヤル
0120-007-110
(全国共通・通話料無料)
お近くの法務局・地方法務局で相談をお受けします。
※発信した地域によっては, その地域を管轄しない法務局・地方法務局で電話を受ける
場合があります。
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人KENまもる君 人KENあゆみちゃん
(平成24年6月改訂)