コスト研版建築費指数の作成方法等に関する調査 - 建築コスト管理

コスト研版建築費指数の作成方法等に関する調査(平成 20 年度)
主席研究員
第1章
1.1
岩松
準
調査の目的と方法等
調査の目的
日本でよく知られた建築費指数としては、財団法人建設物価調査会の建設物価指数、建
設工業経営研究会の経研建築費指数、国土交通省の建設デフレーターなどがある。それぞ
れの特徴は表 1-1(次ページ)に示す通りであるが、一般的な知名度の低さ、公表系列の
少なさ、指数作成上の欠点(ラスパイレス式指数であることによる上方バイアスの存在)
なども指摘できる。一方、英米では、さまざまな機関が多様な建築費指数を公表しており、
また、代表的な総合指数(ENR 指数や BCIS 指数など)については、市況を把握する重要な
手段として定着しているようである。
建築費指数はコスト変動の激しい時代にはとくに有益な情報を提供する。近年は基礎資
材価格、労務費等の大きな変動が観察されており、きめ細かい指数を新たに作成する意義
は大きい。本調査では、さまざまな価格情報を総合化して指数化する等の方法により、実
務的にも有用であり、また市況動向を適確に反映した分かり易い新たな建築コスト指数を
作成することが可能かどうかを検討する。
1.2
調査内容の計画と今年度の報告
本調査では下記の項目について今後数年の期間をかけて検討を進める予定である。今年
度に取り組んだ内容は(1)の部分であり、以下の章でその概要を報告する。
(1)諸外国の建築費指数の実態や経済指標の総合化の事例検討
・ 欧米の建築費指数の作成方法や利用実態について文献調査を行う。
・ さまざまな経済指数の作成方法について文献調査を行う。
(2)建築費指数の必要条件(ニーズ)についての検討
・ 実務者や有識者ヒアリング等によりニーズを把握し、建築費指数のあるべき方向
について検討する。
(3)指数作成方法についての検討
・ 上記検討を踏まえて、価格データの継続的入手の可能性等を勘案した指数の作成
方法を検討する。
(4)指数の作成及び提供
(5)効果の測定、普及方策の検討
- 34 -
表 1-1
日本で作成・利用されている主な建築費指数の概要
a.工事費デフレーター
b. 経研標準建築費指数
c. 建設物価建築費指数
作
成
機
関 国土交通省(旧建設省)
建設工業経営研究会
公
表
媒
体 「建設統計月報」
(財団法人建設物価調査会発行)
「経研標準建築費指数季報」(H18.7∼)
「建設物価指数月報」
(旧:経研標準建築費指数月報 (H11.5∼))
「市街地価格指数・全国木造建築費指数」
公
表
頻
度 毎月
年 4 回(2006 夏季号より)
毎月
年 2 回(3 月末、9 月末)
公
表
時
期 4 ヶ月目の 10 日
調査翌月の 1・4・7・10 月 20 日
翌月 10 日
各々5 月下旬、11 月下旬
昭和 25 年に戦前から続いていた谷指数を拡
大整備して昭和 22 年からの指数を公表。昭和
30 年 に は 産 業 連 関 表 作 成 調 査 を き っ か け に
「経研指数」に大幅に改め、その後数度の改
訂を経て、現在は「経研・平成 12 年基準指数」
が公表されている。東京と 9 地方都市別の指
数がある。
昭和 58 年 7 月から 55 年基準に基づく指数を
公表。
「物価としての建築費を計測する汎用の
建築指数」作成を目的としていた。当時は標
準指数 40 種、モデル指数 11 種であった。そ
の後、構造別平均指数、地域指数を加え、現
在に至る。
戦前・戦後は日本勧業銀行がとりまとめた昭
和 13 年 3 月末からの指数が計算されている。
昭和 34 年以降は財団法人日本不動産研究所
が引継ぎ、とりまとめている。
指 数 の 起 源 ・ 沿 革 昭和 26 年度から土木工事費について作成さ
れていたが、昭和 35 年度から建築工事費も加
わり作成されている。昭和 45 年度分から工事
費及び建築の構造別に細分した工事費デフレ
ーターが追加され、昭和 60 年度分から土木建
築合わせて 27 項目が追加された。
指 数 の 系 列 数 63 系列のうち建築関係は 15 系列(うち、個 非木造 10 種、木造 2 種(計 12 建物類別)
別 10 系列、総合 5 系列)なお、建築について (それぞれについて東京及び 9 地方都市別)
は参考系列として用途と構造に応じた 15 系
列が別途公表されている。
財団法人建設物価調査会
d. 全国木造建築費指数
財団法人日本不動産研究所
- 35 -
1)標準指数:34 種
1 系列(現在は平成 2 年 3 月末=100 と昭和 30
2)構造別平均指数:4 種
年 3 月末=100 の数値が並列で示してある。ま
3)モデル指数:16 種
た昭和 30 年までは昭和 11 年 9 月末=100)
4)地域指数:8 標準指数×9 都市(東京=100)
等
主 な 系 列 名 建築総合、住宅総合、非住宅総合;木造住宅、 集合住宅(RC・SRC)、事務所(RC・SRC・S)、店舗 1)集合住宅 SRC2000 ㎡ 8/0 設備 EPAL 等
鉄骨鉄筋住宅、鉄筋住宅、鉄骨住宅、
・・・等 量販店(RC・S)、校舎(RC)、工場倉庫(RC・S)、 2)SRC, RC, S, W
住宅等(W)、事務所等(W)の 12
3)二世帯住宅 RC263 ㎡ 3/1 設備 EPA 等
全国木造建築費指数(昭和 30 年∼)
戦前基準全国木造建築費指数(昭和 13 年∼昭
和 30 年)
指 数 作 成 方 法 個別デフレーター:ラスパイレス式
総合デフレーター:インプリシット方式
ラスパイレス式
ラスパイレス式
沖縄を除く 46 都道府県庁所在都市の木造建
築物の鑑定価格を単純平均化
ウ ェ イ ト 項 目 数 58 項目
18 中科目、43 細目
建築 21 項目、設備 21 項目
ウ ェ イ ト 作 成 資 料 「建設部門分析用産業連関表」
「公共事業工事費内訳調査」(建築)
「公団関係等工事費内訳調査」
「土木工事費内訳調査」(土木)
総合化は「建設投資推計」
ウ ェ イ ト モ テ ゙ ル 改 訂 5 年ごと(次回はH22 予定)
現 時 点 で の 基 準 年 平成 12 年(2000 年)
価 格 ( 原 価 ) 作 成 「毎月勤労統計」(労務費)1 種
資
料 「国内企業物価指数」38 種
「企業物価指数(需要段階別・用途別)」2
「消費者物価指数」(小売)1 種
「企業向けサービス価格指数」16 種
備
調査対象都市の木造建築物を程度に応じて 4
段階に区分し、各段階の中位に位置する標準
的な建築費(㎡当)を調査する。モデルとな
る木造建築物が存在するわけではなく、(財)
日本不動産研究所の各支部の判断によりその
都市において 4 段階に区分し、それぞれ鑑定
するもの。したがってウェイト等は考慮され
ほぼ 5 年ごと
ほぼ 5 年ごと
ていない。46 都市×4 区分の鑑定価格を単純
に平均し、基準年の価格値で除して 1 系列の
平成 12 年(2000 年)
平成 12 年(2000 年)
指数とする。
(都道府県別の鑑定価格・指数や
「代表細目」の価格調査(東京及び地方都市 「建設物価」に毎月掲載される代表細目 226
4 区分別の価格・指数等は一切公表されな
別;材工ともの施工単位での調査;3 か月に 1 品目(ほとんどが材工ともの施工単価)
い。)
度)
産 業 連 関 表 作 成 の た め の 建 築 部 門 基 礎 資 料 標準指数は、2000 年に建築された建物を平均
(国土交通省よりの委託調査)。
したもの(「平成 12 年(2000 年)産業連関表
建設部門(国土交通省)」及び別途収集資料)。
なお、モデル指数は「建築コスト情報(建設
物価調査会発行)」掲載実例。
考 他に用地・補償費デフレーター、事業費デフ 他に躯体費指数、仕上費指数、建築設備費指 他に「建築資材物価指数」が公表されている。 「市街地価格指数」の付属資料的な位置づけ
レーターがある
数、総合建築費指数がある。
各細目の寄与度も計算している(4 つの標準 の指数である。
指数について)。
(注)平成 21 年 6 月 1 日現在。Copyright © RIBC 2006‐2009 第2章
OECD 報告書にみる世界の建築費指数の状況
建築費指数は日本だけでなく諸外国でも作成され利用されている。日本の建築費指数は
消費者物価指数など、物価指数理論や実践の進展とともに発達してきたものと推測される
が、英国等での建築費指数からの影響もあった可能性は否定できない。英米での建築費指
数の現状を見ると、日本のそれと似ている面は多いが、多様な発展を遂げているようにも
感じられる。いずれにせよ、英米から学ぶべき点も未だに多いと思われる。
2.1
OECD 報告書について
若干古い資料となった 1が、経済協力開発機構(OECD)が出版した「Construction Price
Indices: Sources and methods」(OECD, Eurostat[1997]) 2 を参考に、先進諸国で利用さ
れている建築費指数を概観したい。
この本は 1997 年に経済協力開発機構(OECD)と EU の統計本部である Eurostat が作成し
た建築費指数に関する報告書である。これには、OECD 加盟国 24 ヶ国の 65 種類ほどの建設
分野の指数についての分析及び記述がある。これは主に政府機関が発表している指数を取
り上げている。よく知られているように欧米では建築・土木の区別を日本のように厳密に
行っているわけではないが、この本の中では civil に関する指数も取り扱っているし、あ
まり区別が付きにくいものもある。なお、日本についてはこの本では、旧建設省・総務庁
が作成している建設デフレーターと思われる指数の紹介がある。
なお、この本は OECD が発行する多くの統計書に関して、その方法論を明らかにしている
ものであり、他分野の統計についても同様の Sources and Methods(情報源と手法)シリ
ーズが刊行されている。
2.2
建築費指数の基本的な分類
この本では 65 種類の指数を次の 3 つに分類している。
1. Input Price Index(投入価格指数)
請負者により支払われる
(35 種類)
2. Output Price Index(産出価格指数)
発注者により支払われる
(27 種類)
3. Seller's Price Index(販売者価格指数) 最終所有者により支払われる ( 3 種類)
それぞれは次ページの図 2-1 に示すように、建設費を構成するどのような価格要素を指
数に含んでいるかにより分類される。これは建設物に関してのどの段階での取引価格に注
目しているかによる違いである。
上記では 65 種類の指数の分類内訳数は(
)の中に示したが、数としては Input と Output
が均衡している。図 2-2 の下段には日本の建築関係指数の例を合わせて示したが、先にみ
た日本の建築費指数は「全国木造建築費指数」を除いた残り3つの指数は、いずれも「Input
Price Index(投入価格指数)」に入る。つまり日本では生産段階での投入原価(cost)に
1
この出版以降、建築費指数についてのまとまった報告は OECD や Eurostat ほかの国際機関からはない
と思われる。
2
報告書(マニュアル)本文は OECD の Web ページ(http://www.oecd.org/dataoecd/49/4/2372435.pdf)
から入手できる。
- 36 -
注目して作成されたものが多く、他のタイプ(いわゆる price に注目したもの)はあまり
ないといえる。なお、日本でも「東京マンション流通価格指数」
「リクルート住宅価格指数」
があり、これは Seller’s Price Index に分類できる。これはごく最近、不動産関係で整備
が進むいわゆるプライス指数である。
Input Price Index
Output Price Index
Seller's Price Index
(投入価格指数)
(産出価格指数)
(販売者価格指数)
請負者により支払われる
発注者により支払われる
最終所有者により支払われる
資
材
資
材
資
材
労
務
労
務
労
務
機
材
機
材
機
材
運
送
運
送
運
送
ー
エ
ー
エ
ト
そ
ト
そ
エ
そ
ネ
の
ル
他
ギ
コ
ス
→
ネ
の
ル
他
ギ
コ
ス
請負者の利益、オーバーヘッド
→
→
ネ
の
他
コ
ー
ス
ト
加
価
値
税
土
地
代
設
計
費
そ
発
:
ギ
請負者の利益、オーバーヘッド
付
:
ル
の
注
他
の
者
コ
の
ス
利
ト
益
:
●建設物価建築費指数
●全国木造建築費指数
東京マンション流通価格指数
●建設工事費デフレーター
建築動態統計調査*
リクルート住宅価格指数
●経研標準建築費指数(四半期)
住宅金融支援機構調査*
全国マンション市場動向*
JBCI*
REINS Market Information*
図 2-1
建設費に関する指数の 3 タイプと日本の既往の建築関係の指数例の分類
(注) OECD, Eurostat[1997] による。最下段の日本例は筆者の分類。●印は表 1-1 で説明した日本の代表的な建築
費指数である。また、*印が付く斜体の例示は、指数としては正式に公表されておらず、他指標を元に計算
すれば建築関係の指数を取り出せるものを意味する。
2.3
作成方法による指数のタイポロジー
指数作成方法は大きくは 2 分類、細かくは 7 分類となる。その関係は図 2-2 に示した。
Prior Breakdown 法(先行的分解法)は、価格を構成する要素を事前に定めておく方法で
ある。また、Subsequent Breakdown 法(後続的分解法)は、実際のプロジェクトなどから
データを収集し、価格を構成する要素に事後的に分解して指数作成に利用する方法である。
7 分類の手法の詳細は表 2-1 に示した。
- 37 -
Prior Breakdown 法
(1)Standard Factors・
(先行的分解法)
(2)Component cost method・
(3)Quoted prices・
Subsequent Breakdown 法
投入価格指数
(input price index)
(4)Schedule of prices・
(後続的分解法)
(5)Matched models・
産出価格指数
(output price index)
(6)Building Volume or area・
(7)Hedonic method・
図 2-2
販売者価格指数
(seller’s price index)
OECD 諸国の建築費指数の作成方法 7 分類の特質
(注)OECD, Eurostat [1997] pp.19-22 より作成
表 2-1 では、65 種類の指数が 7 つの作成法のどれに該当するかを数で示している。最も
多いのは最初の「Standard Factors(標準要因法)」で半数を占める。これは日本の建設デ
フレーターが該当すると明記されている。また、建設物価調査会指数や経研指数もこの方
法に該当すると考えられる。この方法は、事前に価格を構成する要素のウェイトを定めた
モデルを想定し、要素価格を調査して、ラスパイレス式などの算式により求めるものであ
る。
続いて多いのは、二番目の「Component cost method(要素コスト法)」である。これは
日本の公共工事積算で近年取り入れられるようになった「市場単価方式」に近いやり方で
はないかと思われる。市場単価方式では、
「普通合板型枠(ラーメン構造
地上軸部
階高
3.5m 程度;10,000 ㎡規模)」といった限定を行った単価調査を行っているが、これに類す
る Component cost(要素のコスト)と、また別に集めた実例モデルによる要素ウェイトを
加味して計算するものである。実例としては、英国の「Public sector house building price
index」、米国の「Cost index for large projects」等がある。
また、珍しい例であるが、最後のヘドニック法について解説を加えたい。事例としては
4 つがあげられている(下記)。これらは全て住宅に関する指数である。
•
Hedonic price index for the low rent residential building (Netherlands)
•
Construction price index for detached houses(Norway)
•
Output price indices for houses and apartments(Sweden)
•
Price index for new one family houses(United States)
トータル価格の他に 7∼15 個の定性的・定量的な性質(住宅でいうと、延床面積、階数、
車庫のタイプ、暖房方法、トイレの数等)が調べられ、重回帰分析を利用して、異なる建
設物の組み合わせによる価格指数を算出するものである。これは建設物の価格が品質を表
す種々の特性に依存すると考える「ヘドニック仮設」に基づくもので、欧米では自動車の
価格の研究の中から生まれたものであるが、日本では CPI におけるパソコンの価格指数算
出に活用されている。建築の特定分野ではこのような方法での計測の事例があり、日本で
の可能性があるのは面白い。
- 38 -
表 2-1
7 つの指数作成法の概要(OECD 文献による)
手法名
定義・内容
特徴・問題点等
・数年間の期間において代表的な建設モ
デルが選定され、構成する数量的要素
(材料、労務、輸送、機械等)が想定
される(モデル)。
Standard
Factors
(標準要因法) ・各要素のコストの動きをモニターして、
・投入価格指数においてのみ利用される方法
・「要素」は様々な範囲に亘っている。
数*
35
モデルのウェイトにより指数を算出す
る。
・様々な建設物の価格を同種の要素の束
からなるものと考える。
Component
cost method
(要素コスト
法)
・多くの代表的な建設会社の最新のデー
タが調べられ、要素毎に指数が作成さ
れる。
・要素の束とは、Standard Operations(建設物
の構造からくる機能や構成材料の用語を用い
た表現をとる)のことである。(例. 60 平方
フィートの伝統的瓦屋根の材料込み施工費、
等)
17
・実際の建物データは、サービスの選択 ・標準要因法で採られる要素との違いは、程度
の差であるが、こちらの指数では生産性の向
と、ウェイトを採るために利用される。
上、利益率の変動等が加味されている。
・これらの要素の束を編集することで指
・要素は長年にわたって利用可能(比較可能)
数を導き出す。
であることが有利な点である。
・基準時の建設技術や建設方法を反映している
「要素の束」を見つけるのが困難で重要な作
業である。
Quoted prices
(相場価格法)
Schedule of
prices
(価格表法)
・細部要素(component: 例えば特定の仕
様の電気工事、ブロック工事等)の価
格を平均し、ウェイト付きで全体価格
を求める方法。
・ある期間と次の期間において仕様が全く変わ
らない標準的な建設プロジェクトを取りそろ
えておくことが困難なことが問題点である。
・特定の時期、場所、建物種類について
技術的区分(technical component: 設
計図や仕様書等から導出される)毎の
価格表を選択した代表的実例からつく
る。またウェイトは比較時点での実例
を用いる。
・フランスの住宅価格指数やイギリスの幾つか
の産出価格指数に見られる。
・比較時点での実例価格と、価格表から
得られる組み合わせ基準時価格との比
率を計算して指数を作成する。
Matched
models
(適合モデル
法)
・指数作成者にとってはプロセスを厳密に捉え
ることが困難(実際の個々の要素について入
札データを得られない、実際の契約を行って
いるわけではない等)
4
・価格表の役割は価格の構造を示すことであり、
各技術的区分の平均値を示すことではない。
・この方法で平均的な姿を捉えておくためには、
かなり多くの実例サンプルを要する。
・特定の期間における同じ「モデル」プ
ロジェクトが想定されて価格調査が行
われ、それにより計算される指数。適
合したモデルにおいては品質が普遍と
なっている。
・オーストラリア等の住宅の標準的なプロジェ
クトについての指数に利用されているのみ。
・立方メートルを分母とした単価により
・この方法では同種の建物であることが要求さ
れ。その種類においてのみ有効。
Building
基準時と比較時の比較が行われる。
volume or area ・単位容積当り価格の指数が計算され、
(単位容積法)
容積、品質、時期、地方の差異により
0
2
・モデルが不変であることのレビューが不可欠
であり、特定のモデルについての価格情報が
得られ続けることも条件である。それがなく
なると指数の計算が不可能となる。
1
・スペインで住宅関係の指数の一部に、この変
形が利用されている。
調整される。
Hedonic
method
(ヘドニック
法)
・回帰分析を利用して、異なる建設物の
組み合わせによる価格指数を算出す
る。
・トータル価格の他に 7-15 個の定性的・
定量的な性質が調べられる。(住宅で
いうと、延床面積、階数、車庫のタイ
プ、暖房方法、トイレの数等)
・オランダ、スウェーデン、アメリカで始めら
れた。
4
・価格表法に比べて、品質の変化に対して識別
力が劣ることが問題である。(品質が向上し
てもそれがあまり評価されず、結果として実
際の価格の上昇の方が過大となる)
・建設関係者には手に余る手法といえる。
(注) OECD, Eurostat [1997] pp.19-22 より作成。「数」とは指数一覧表(64 種)における該当する指数の数であ
る。例外が 1 種のみある。
- 39 -
2.4
建築費指数の利用例等
OECD, Eurostat[1997]では、建築費指数の利用例として下記をあげている。
•
建設に関わる資材の値動きの測定
•
建設における全建設コストや販売価格の値動きの影響を調べる
•
一定価格の仮定の下で、消費された資材の数量を計る
•
短期間における価格の上昇を測定
•
損害保険の関係で再建設価格を決定する
•
建設契約における価格指数の再調整の確認
•
資材の生産を計画したり、請負者の有効性をチェックする
•
国民経済計算(SNA)指標のデフレーターとして・・・特にインフレ率が高い諸国で
は重要
このほか、OECD, Eurostat[1997]では、指数編纂上の留意点、使用する資料データ、指
数の構成要素、等についての総括的な解説があるが、ここでの説明は割愛した。
第3章
3.1
米国における主な建築費指数
ENR指数とその作成方法
米国のバイウィークリーの建設専門誌ENR
(Engineering News-Record)には毎号、建設コストの指
数関係のトピックが2ページ見開きで載る。図 3-1 は 3
つの代表的な指数の掲載内容である。また、年に4回の
頻度で Quarterly Cost Report という特集を組んで時時
の資材・労務・建設費のコスト傾向についての詳細な分
析や解説を掲載している。それらの報告には特定資材や
労務費の詳細な価格情報も掲載されるが、ほとんどは何
らかの形で計算された経済指数である。その代表的なも
のは下記の 5 つであるが、これをここでは「ENR 指数」
と呼んでおく。その詳細な内容は次ページにまとめた。
(図 3-2、図 3-3)
・ MPI(Material Price Index):資材価格費数
・ SLI(Skilled Labor Index):熟練労働者賃金指数
・ CLI(Common Labor Index):普通労働者賃金指数
・ BCI(Building Cost Index):建築費指数
・ CCI(Construction Cost Index):土木費指数
図 3-1
- 40 -
ENR の毎号掲載 index
190
熟練労働者賃金指数
Skilled Labor Index
180
SLI
170
CLI
160
CCI
150
BCI
普通労働者賃金指数
Common Labor Index
土木費指数
Construction Cost Index
MPI
140
1993年7月=100
130
120
110
資材価格指数
Material Price Index
100
90
建築費指数
Building Cost Index
80
JUL
JUL
JAN
JAN
N
JUL
JUL
JUL
JAN
JUL
JUL
JAN
JUL
JUL
JAN
JUL
JUL
JAN
JUL
JAN
JUL
JAN
JUL
JAN
UL
JAN
JUL
JAN
JAN
JUL
JAN
JAN
JUL
JAN
JUL
JAN
JUL
JAN
JUL
JAN
JAN
N
JUL
JUL
JUL
JAN
JUL
JAN
70
1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009
図 3-2
注:
米国の資材費・労務費・建設費(建築・土木)の指数の推移(1993 年 7 月=100)
Engineering News-Record 誌(wwww.enr.com)より作成。
<各指数の説明>
MPI(Material Price Index)資材価格費数:構造用鋼、ポルトランドセメント、2"x4"(約 5cmx10cm)のひき角
のウェイト付き価格指数。20 都市平均価格。
SLI(Skilled Labor Index)熟練労働者賃金指数:大工、煉瓦工、鉄骨工のユニオン賃金にフリンジベネフィット(保
険などの付加的な給付分)を加えたもの。20 都市平均価格。
CLI(Common Labor Index)普通労働者賃金指数:普通作業員のユニオン賃金にフリンジベネフィットを加えたもの。
20 都市平均価格。
BCI(Building Cost Index)建築費指数:熟練労働者(煉瓦工、大工、鉄骨工)の 68.38 時間分の全米 20 都市平均
の労務費、鉄骨 2500 ポンド(約 933kg)分の工場価格(1996 年より前)又は 20 都市の製作価格(1996 年以降)、
ポルトランドセメント 1,128 トン分の 20 都市価格、2"x4"角のひき材 1,088 ボードフィート(約 2.57 立米)
の 20 都市価格の合計値により計算される指数。
CCI(Construction Cost Index)土木費指数:普通労働者の 200 時間分の全米 20 都市平均の労務費、鉄骨 2500 ポン
ド(約 933kg)分の工場価格(1996 年より前)又は 20 都市の製作価格(1996 年以降)、ポルトランドセメント
1,128 トン分の 20 都市価格、2"x4"角のひき材 1,088 ボードフィート(約 2.57 立米)の 20 都市価格の合計値
により計算される指数。
20,000
18,000
SLI
CLI
16,000
CCI
14,000
BCI
12,000
普通労働者賃金指数
Common Labor Index
MPI
熟練労働者賃金指数
Skilled Labor Index
1913年=100
10,000
土木費指数
Construction Cost Index
8,000
建築費指数
Building Cost Index
6,000
4,000
2,000
資材指数 Material Price Index
0
1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009
図 3-3
原系列数値(公表指数):1913 年=100
- 41 -
公表される指数の原系列は図 3-3 のような 1913 年を 100 とする数値であり、これだけで
は指数の動向が判断できないが、対前期比(1 ヶ月前や 1 年前)の数値が同時に示されて
いて、読者はこれをみているようである。図 3-2 は試みに国で建築工事費の内外価格差調
査が行われた 1993 年を 100 に固定して筆者が作り直したグラフであり、近年の価格変動に
ついてその状況が比較的につかみやすくなる。
指数の作り方の中身をみておこう。基準年が 1913 年であることから分かるようにかなり
歴史のある指数である。また主要 20 都市 3の平均価格を使ったデータである。建築費の総
合 指 数 を 表 す Building Cost Index の ヒ ス ト リ カ ル な デ ー タ は 図 3-4 の よ う な 形 で
Quarterly Cost Report に掲載される。指数作成方法の概要はこの図の中に書かれている。
図 3-4
建築費時系列指数の掲載内容(1913 年=100)
(注)ENR, March 23, 2009 号より
図 3-2 の(注)でも示したが、指数は次の 4 つの価格構成要素(アイテム)の合計額を
1913 年での合計額で割って求めた数字である。通常の指数の作り方とはかなり異なってい
ることがわかる。
1. 熟練労働者(煉瓦工、大工、鉄骨工)の 68.38 時間分の全米 20 都市平均の労務費
2. 鉄骨 2500 ポンド(約 933kg)分の工場価格(1996 年より前)又は 20 都市の製作価
格(1996 年以降)
3. ポルトランドセメント 1,128 トン分の 20 都市価格
4. 2"x4"角のひき材 1,088 ボードフィート(約 2.57 立米)の 20 都市価格
20 都市とは、ATLANTA, BALTIMORE, BIRMINGHAM, BOSTON, CHICAGO, CINCINNATI, CLEVELAND, DALLAS, DENVER, DETROIT, KANSAS, CITY, LOS, ANGELES, MINNEAPOLIS, NEW, ORLEANS, NEW, YOR, PHILADELPHIA, PITTSBURGH, ST. LOUIS, SAN, FRANCISCO, SEATTLEK で
ある。 3
- 42 -
なぜ、このような中途半端な数量の数字を用いているのかというと、ENR 誌の解説記事
によれば、1913 年時点でこれらの各要素がそれぞれ 100 ドルで調達できた量で当初の計算
を行い、その数量を固定して毎年の価格を調べて指数を作るためのようだ。そのため、4
つのアイテムが占める比率(ウェイト)は毎年変動することになる。(図 3-5 参照)
2005 年
2007 年
図 3-5
2009 年
ENR の建築費指数(BCI)の 4 アイテムのウェイトの変化(最近 2 年毎)
(注) ENR 誌の各年の 1st Quarterly Cost Report の説明記事から引用。20 世紀初頭の指数製作当時は 4 つの要素
がそれぞれ 25%ずつだったのが現在はこれらの図にあるように 6 割以上を労務費が占める形に変化した。
一定期間ウェイトモデルを固定するラスパイレス式の指数 4が通常の経済指数であるが、
この ENR 指数はたいへんユニークな存在であるといえる。価格を構成するアイテムが 4 つ
だけというのも特異である。逆にいえば調査の手間がかからない、また、コストの組成が
はっきりしているのでイメージしやすいなどの利点もあるといえるだろう。
3.2
その他の建築費指数
米国では知名度の高い ENR 指数の他にもいろいろな指数が実務的には利用されているよ
うである。ENR 誌にも主なものが Quarterly Cost Report に転載されている。(図 3-6)
ENR 誌の整理では4つのカテゴリーに分かれている。通常のコスト指数、建物のプライ
ス指数、不動産などの価値指数、特定用途の建物のコスト指数である。作成機関としては、
ENR 等の雑誌社、Lee Saylor Inc や Means などの専門調査機関、Turner などの建設企業(民
間企業)、商務省(US Commerce)という政府機関など多彩である。刊行期間も毎月、四半
期、半年、年などに分かれている。
4
通常の物価指数や表 1-1 で整理した日本の建築費指数の多くはラスパイレス式の指数であり、5 年くら
いの期間の固定ウェイトモデルをつかって算出している。これ以上の期間が過ぎると指数のバイアスが
大きくなるため定期的なモデル変更が必要であり、そのための調査費用や手間が嵩むことになる。ラス
パイレス式指数については 1996 年の米国議会への報告(ボスキンレポートと呼ばれる)において、上方
バイアスの存在が指摘され、微妙な数字を議論するための経済指数としては不適であるとされた。その
後、パーシェ式、フィッシャー式、連鎖式などのさまざまな算式の経済指数が各方面で検討されている。
- 43 -
-図 3-6
ENR 誌に転載された米国の主な建築費指数一覧
(注)ENR, March 23, 2009, p.32 より転載。
3.3
その他の指数
建築費の指数ではないが、関連ある不動産関係の指数で、ユニークな作り方をしている
ものをとりあげたい。サブプライム問題に絡んで経済誌でよく引用されるもので、S&P・ケ
ース・シラー住宅価格指数(S&P/Case-Shiller Home Price Indices)と呼ばれるものであ
る。これは中古の専用住宅の取引価格に関する指数である。
この指数は全米 20 大都市圏での実際の中古住宅取引の情報から作られるもので、同一家
屋の異時点での取引価格情報(これをセールスペア(Sales-Pair)と呼ぶ)を 1 つの単位
にして集計される指数である。このセールスペアが示す取引価格の変化を集計することで
その時点の指数を算出するものである(この手法は「リピートセールス法」と呼ばれる)。
米国の中古住宅流通量は新築の数倍規模で、日本とは比べものにならないくらい数が多い
ことと、米国の住宅は仕様などが共通する部分が多く、取引条件の標準化が図りやすいな
どの特性があるために成立することだと思われる。
図 3-7 に指数を図化したものを示す。また、図 3-8 はセールスペアの数の推移である。
前者は取引価格が近年大きく盛り上がった後、住宅バブル崩壊で大きく下落する局面が捉
- 44 -
えられている。また、後者では取引量に季節的な変動があることと、サブプライム問題が
取り上げられるようになったころから急激に落ち込む様子が捉えられている。
なお、Case-Shiller とはこの指数を 1980 年代後半に開発した Karl E.Case と Robert
J.Shiller の両博士の名前から採られたものである。
300
AZ-Phoenix PHXR
CA-Los Angeles LXXR
CA-San Diego SDXR
250
CA-San Francisco SFXR
CO-Denver DNXR
DC-Washington WDXR
FL-Miami MIXR
200
FL-Tampa TPXR
GA-Atlanta ATXR
IL-Chicago CHXR
150
MA-Boston BOXR
MI-Detroit DEXR
MN-Minneapolis MNXR
100
NC-Charlotte CRXR
NV-Las Vegas LVXR
NY-New York NYXR
50
OH-Cleveland CEXR
OR-Portland POXR
TX-Dallas DAXR
0
January 1987
July 1987
January 1988
July 1988
January 1989
July 1989
January 1990
July 1990
January 1991
July 1991
January 1992
July 1992
January 1993
July 1993
January 1994
July 1994
January 1995
July 1995
January 1996
July 1996
January 1997
July 1997
January 1998
July 1998
January 1999
July 1999
January 2000
July 2000
January 2001
July 2001
January 2002
July 2002
January 2003
July 2003
January 2004
July 2004
January 2005
July 2005
January 2006
July 2006
January 2007
July 2007
January 2008
July 2008
WA-Seattle SEXR
S&P/Case-Shiller® U S National Index Home Price Index
図 3-7
S&P・ケース・シラー住宅価格指数の推移(2000 年=100 の指数;20 都市圏別)
200 000
20都市指数のセールスペア数
↓
AZ-Phoenix PHXR
CA-Los Angeles LXXR
180 000
CA-San Diego SDXR
CA-San Francisco SFXR
160 000
CO-Denver DNXR
DC-Washington WDXR
140 000
FL-Miami MIXR
FL-Tampa TPXR
120 000
GA-Atlanta ATXR
IL-Chicago CHXR
100 000
MA-Boston BOXR
MI-Detroit DEXR
MN-Minneapolis MNXR
80 000
10都市指数のセールスペア数
↓
NC-Charlotte CRXR
NV-Las Vegas LVXR
60 000
NY-New York NYXR
OH-Cleveland CEXR
40 000
OR-Portland POXR
TX-Dallas DAXR
20 000
WA-Seattle SEXR
Composite-10 CSXR
9
3
9
10
3
5
0
12
8
3
9
10
3
5
0
11
5
6
11
6
7
11
2
8
9
3
8
10
3
5
0
11
5
6
11
6
8
11
2
8
9
3
9
10
3
5
0
12
5
6
11
6
8
11
2
1
3
8
10
4
0
11
5
6
1
12
6
8
12
0
1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
図 3-8
Composite-20 SPCS20R
S&P/Case-Shiller HPI / Sale Pair Counts
S&P・ケース・シラー住宅価格指数におけるセールスペアの数の推移
(注) 図 3-7 とも S&P 社の HP(http://www2.standardandpoors.com/)よりデータを入手して作成。
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