NdFeB 系焼結磁石の保磁力発現機構に及ぼす 結晶磁気異方性

日本金属学会誌 第 76 巻 第 1 号(2012)27
35
特集「永久磁石材料の現状と将来展望」
NdFeB 系焼結磁石の保磁力発現機構に及ぼす
結晶磁気異方性,結晶粒子径,磁区サイズの影響
小林久理眞1
漆畑貴美子1
宇 根 康 弘2
佐 川 眞 人2
1静岡理工科大学
2株式会社インターメタリックス
J. Japan Inst. Metals, Vol. 76, No. 1 (2012), pp. 2735
Special Issue on Recent Progresses of Materials Science of Rare Earth Permanent Magnet Materials and Their Perspectives
 2012 The Japan Institute of Metals
Effects of Crystal Anisotropy, Grain and Domain Sizes
Fe
B Sintered Magnets
on Coercovity Mechanism of the Nd
Kurima Kobayashi1, Kimiko Urushibata1, Yasuhiro Une2 and Masato Sagawa2
1Shizuoka
Institute of Science and Technology, Fukuroi 4378555
2INTERMETALLICS
Co., Ltd., Kyoto 6158245
The Dyfree and Dysubstituted (0100) NdFeB sintered magnets based on the NEOMAX50 type magnet were
prepared, and the magnetic properties such as the saturation magnetizations, the coercivities and the magnetic anisotropy constants (K1, K2 ) were determined by the obtained data using an high field magnetometer. The domain structures, especially
domain widths were measured using MOKE and SEM, and the sizes of magnetic interacted regions were calculated based on the
resulted values. The coercivity of the magnets is subjected to, first: the magnetic anisotropy field, second: crystal grain sizes,
third: size of group of crystal grains behaving as a cooperated region that reflects the magnetic interaction through the grain boundary (GB).
(Received July 1, 2011; Accepted October 19, 2011; Published January 1, 2012)
Keywords: neodymiumironboron sintered magnets, coercivity, magnetic anisotropy, domain width, crystal grain size
の因果関係を見出し報告すると同時に,その原因についても
1.
は じ
め に
理論的に考察した9,10).最近では,経済産業省主導の研究プ
ロジェクトで,インターメタリックス社の研究グループを中
NdFeB 系焼結磁石の自動車駆動用モータ部材としての
心に,同相関関係を用いて大きな進展があった11) .その結
使用量が増加している.他の応用の広がりと相まって,原料
果得られた試料は,本報告でも取り上げる.このような粒子
資源確保の問題も注目されている.そのような背景から,そ
径と保磁力の相関関係に関するいくつかの先行研究について
の基本磁気特性の研究の社会的重要度も増している.特に,
は,著者らの論文にも引用してあるので,参照していただき
同モータ部材としての使用温度が 500 K 付近の比較的高温
たい.
であることから,同磁石の高保磁力化は重要であり,その関
連から保磁力発現機構の解明が必要である.
現在,同焼結磁石の高保磁力化には 2 つの重要な研究指
なお,後者の指針については,現在でも Dy 成分による結
晶磁気異方性の向上という理解が学界でも浸透している.最
近の著者らの研究12) では,磁気異方性磁場( Ha )は Dy 添加
針がある.第一の指針は,同焼結磁石の結晶粒子径を微細化
量の増加とともに向上するが,それは磁気異方性定数( K1,
して保磁力を増加させようというものである1).もう一つの
K2 )の変化によるのではなく,飽和磁化( JS )が Dy 添加量増
指針は,Dy 成分添加を利用する保磁力向上で,これも従来
加につれて低下することが主因であると理解できる.原因が
から知られた研究指針24)である.後者の指針では,最近盛
どのようなものであれ,後者の指針は NdFeB 系焼結磁石
んに研究されている Dy 成分を試料表面部や結晶粒界部に偏
の保磁力向上には大変に有効で,現在も盛んに研究されてい
析させるいくつかの手法58) を,より工業プロセスに取り込
る5).
みやすい手法に継承,発展させようとしている.
結晶粒子径の微細化で保磁力が増加することは,磁性体の
本論文では,結晶粒子径の減少と保磁力の増加の相関関係
については, NEOMAX 50 型の Nd Fe B 系焼結磁石を基
種類により発現理由の相違はあるものの,古くから知られた
準として調製した,一連の Dy フリー NdFeB 系焼結磁石
現象である.後述するように著者らも Sm2Fe17N3 系磁石粉
株 三徳製
で検討した.一方,Dy 成分添加効果については,
体の粉体粒子径と保磁力の相関関係について研究して,同様
の( Ndx, Dy1-x )2 Fe14B 焼結磁石(x = 0~ 1.0)を用いて検討し
28
第
日 本 金 属 学 会 誌(2012)
Table 1
た. Dy0(x =1.0)試料の諸特性を Dy フリー試料群と比較検
討した結果,これら計 11 種類の Nd Fe B 系焼結磁石は,
Sample
一連の物性変化の検討に耐える十分な類似性を有しているこ
とが認められた.
なお,磁区幅と磁区構造の検討からは,保磁力発現にとっ
て重要な,結晶粒界を通しての磁壁の複数粒子への貫入や,
静磁的な結合による結晶粒子間の磁区構造の連結性が明らか
にできる.本論文では,そのような知見も十分に活用して題
目に対する検討を行った.
実 験 と 結 果
2.
2.1
試料
本研究で用いた Dy フリー NdFeB 系焼結磁石は,基本
76
巻
Magnetic properties of the samples in this study.
DAVE
/mm
JS
/T
HC
/T
K1
/(MJ/m3)
K2
/(MJ/m3)
2K1/JS
/(MA/m)
Int
1.94
1.47
1.88
4.64
1.56
6.31
A1
5.60
1.36
1.20
3.68
1.30
5.41
A2
5.00
1.43
0.80
3.96
1.56
5.54
B1
3.10
1.39
1.62
4.35
2.61
6.26
B2
5.14
1.39
1.35
4.72
1.08
6.79
B3
8.40
1.38
1.11
4.10
2.84
5.94
Dy 0
5.92
1.47
0.80
4.14
2.75
5.63
Dy 0.25
6.18
1.23
2.20
5.25
3.16
8.54
Dy 0.5
8.94
1.01
4.10
5.01
1.92
9.92
Dy 0.75
8.99
0.79
4.40
5.05
1.88
12.76
Dy 1.0
9.56
0.61
4.80
3.96
2.05
12.98
株 の NEOMAX
的に日立金属
50 規格の同焼結磁石であり,
Nd2Fe14B 基本組成に比較して Nd 過剰の組成である.Nd 含
有量に注目して分析すると,市販品の,本研究における A1
および A2 試料では, Nd 約 32 mass ,特注品の B1, B2,
B3 試料では, Nd27~ 28 mass,インターメタリックス社
試料で, Nd31.9 mass である.微量添加成分として Cu お
よび Al を 0.1 ~ 0.3 mass 含有している.含有酸素量は,
それを減らしたインターメタリックス社試料(Int)を除いて,
0.2~0.5 massである.
一方,Dy 添加試料では R(Dy+Nd)が 29.0~30.4 mass
であり,微量添加成分は Al0.03~ 0.15 massで,含有酸
素量は 0.3 ~ 0.5 mass である. Dy 含有量は参照用の Dy0
((Ndx, Dy1-x )2Fe14B 表記で x=1.0)から,Dy0.25(x=0.75),
Dy0.5(x=0.5), Dy0.75(x= 0.25),および Dy1.0(x =0)とい
株 三徳に依頼して調製した.上述の分析値から
う 5 種類を
明らかなように,市販品の A1 および A2 試料がもっとも希
土類成分が多いが,試料全体として,一連の物性変化の検討
Fig. 1 Relationship between Dy contents, and coercivities
(HC ) and magnetic anisotropy fields (2K1/JS ) in the samples.
に耐える,十分な類似性を有していることが認められた.試
料形状はインターメタリックス社試料は 2 mm × 2 mm × 2
mm であり,他試料は 5 mm × 5 mm × 5.5 ~ 6.0 mm の直方
部の測定は,著者らの所属する静岡理工科大学にある東英工
体であり,結晶の c 軸方向がもっとも長い.
株 製の VSM(最大印加磁場約 1.6 T)も用いた.全 11 種類
業
試料の焼結温度は Int 試料では 1273 K 以下であるが,他
の試料の 10 T において決定した飽和磁気分極( JS),それに
の試料はすべて 1273 K 以上である.また,最終アニール温
続き測定した保磁力( HC),さらに磁化困難軸方向の磁化曲
度については,773 K 付近を基準として, A2 試料のみは,
線から, Sucksmith Thompson 法13) により決定した結晶磁
意識して 1073 K としてある.
気異方性定数(K1, K2)を Table 1 に示す.なお,同表には得
試料の微構造における平均結晶粒径( DAVE )は,各試料の
微構造の光学顕微鏡像(後述の磁区構造観察用のカー効果偏
られた K1 定数と飽和磁気分極から算出できる磁気異方性磁
場(Ha=2K1/JS )も示す.
光顕微鏡( MOKE )装置と同じ)および SEM 像から, 100 ~
飽和磁気分極は, Dy フリー試料群については Table 1 に
200 箇所の粒子径を各試料について測定し,決定した.その
示すように 1.36~1.47 T の範囲内にある.Dy 添加試料群に
結果は Table 1 に示すが,同観察に基づく磁区構造観察の詳
ついては, Dy 含有量の増加につれて減少し, Dy1.0 試料で
細については後述する.なお,本論文では,平均粒子径のみ
は 0.61 T であった. Fig. 1 に示すように,試料の Dy 含有
を用いて議論を進めるが,各試料の実測粒子径の測定誤差は
量に対する保磁力(HC )と磁気異方性磁場(Ha=2K1/JS )は,
±30以内である.
双方とも Dy 含有量に比例して増加する.保磁力は Dy0 試
2.2
磁気特性の測定と結果
料で 0.8 T であったものが,Dy1.0 試料では 4.8 T まで増加
する. Dy フリー試料群のそれらの物性値は, Dy 含有量の
本報告における磁気特性測定は,基本的には東北大学金属
変化の及ぼす効果に比較すると,ほぼ一定と見なせる.それ
材料研究所強磁場超伝導材料研究センターの 10 T 級強磁場
でも,保磁力は, A2, Dy0 試料の 0.8 T から Int 試料の約
発生装置に振動試料型磁力計( VSM )を装着して行った.一
1.9 T まで変化が見られる.
第
1
号
Nd
Fe
B 系焼結磁石の保磁力発現機構に及ぼす結晶磁気異方性,結晶粒子径,磁区サイズの影響
29
磁気異方性磁場(2K1/JS )は,通常 Kronm äuller の式と呼ば
mm 程度で一定とも扱える.保磁力に関しては,Fig. 1 およ
れる以下の表現で保磁力と相関していると考えられる(たと
び Fig. 2 でも理解できるように,Dy 添加量とともに増加し
えば文献 14)).
ている.一方,Dy フリー試料群では,平均粒子径が小さく
m0HC=am0(2K1/JS )-NeffJS
(1)
なるにつれて保磁力が増加している.このことは Fig. 1 お
そこで,Fig. 2 には磁気異方性磁場に対する保磁力を示す.
よび Fig. 2 では理解できず, Fig. 3 のようなデータ整理を
この図から,Dy 添加試料群で顕著なように,磁気異方性磁
して,はじめて気がつくことである.
場の増加は保磁力の増加をもたらすが,Dy フリー試料群に
ついては,その相関関係は明瞭とは言えない.なお,Fig. 2
の相関関係から,現象論的に求めた a 値は,約 0.35 であ
り,解釈可能な数値であるが,Neff 値は飽和磁化の変化もあ
るが,1.3 以上の値で,通常より大きな値である.この点に
ついては後で考察を加える.
2.3
磁区構造観察と磁区幅
磁区構造観察や磁区幅の測定からは,微構造と磁気特性の
相関関係について有益な情報を得ることができる.
著者らは,この磁区構造と保磁力の相関性などを研究して
きた1518).本研究でも,全 11 試料の磁区構造を c 面研磨試
一方,平均粒子径( DAVE )と保磁力の相関関係は Fig. 3 の
料と c 軸に平行研磨面(a 面を含む)の 2 方向について,ネオ
ようになる.Dy 添加試料群については,添加量の増加とと
アーク社製のカー効果偏光顕微鏡( MOKE )を用いて観察し
もに焼結体の平均粒子径は Table 1 にも示したように大きく
た.ただし,Dy フリーのインターメタリックス社試料(Fig.
なる.ただし,Dy0.5 以上の添加量の 3 試料では,それは 9
2 および Fig. 3 で“Int”と表示)のみは磁区構造観察が難し
く,c 面の磁区構造のみを観察できた.なお,観察したすべ
ての試料は熱消磁状態にある.
Fig. 4 には,代表として A1(同図(a)), Dy0(同図(b )),
Dy1.0(同図(c))の 3 試料の c 面の MOKE 像を示す.各試料
の磁区幅の変化が明瞭である.これらのように観察した磁区
構造について,同図( d )に示すような磁区幅( 100 ~ 200 箇
所)の観察,測定を行い,平均磁区幅( dD )を決定した.な
お,本研究の試料群では,磁区幅は拡大した MOKE 写真の
画像を用いると明瞭に判別可能である.結果は Table 2 に示
すが,同表で c(⊥)は c 面観察,c(//)は c 軸に平行面の観察
の結果を,それぞれ示している.
Fig. 5 に上述の測定で得られた磁区幅を平均結晶粒子径に
対して示す.この図と, Table 2 に示した数値のように,
Fig. 2 Relationship between the magnetic anisotropy fields
(2K1/JS ) and coercivities (HC ) in the samples.
Fig. 3 Relationship between the average crystal grain sizes
(DAVE ) and coercivities (HC ).
Fig. 4 Domain structures of typical samples in this study and
the method of measurement of domain widths.
30
日 本 金 属 学 会 誌(2012)
Table 2 Measured domain widths and values relating to
domain structure in the samples.
dD
Sample
Int
L
c(⊥)
/mm
c(//)
/mm
0.89
―
g
d
/Jm-2 /mm
0.031
0.39
2R


第
76
巻
Fig. 1 および Fig. 2 に示した Dy フリーおよび添加試
料群における磁気異方性磁場( 2K1 / JS )の変化と保磁力の相
関性は,式( 1 )の Kronm äuller の式における第 1 項の増減を
c(⊥)
/mm
c(//)
/mm
c(⊥)
/mm
c(//)
/mm
3.24
―
5.30
―
釈できる.式( 1 )の第 1 項は物理的には,核生成型に分類
意味し,それにより試料全体としての保磁力が変化したと解
A1
1.06
1.34
0.027
0.68
8.36
13.36
13.69
21.87
される磁石の単位体積の磁化反転核の反転エネルギーに相当
A2
1.22
1.43
0.028
0.62
11.72
16.10
19.19
26.36
する.したがって,上記の相関性の検討から結晶磁気異方性
B1
1.10
1.28
0.030
0.52
8.58
11.61
14.04
19.01
の相違からくる,各試料における磁化反転核生成の易難の相
B2
1.27
1.51
0.031
0.68
10.98
15.53
17.98
25.42
違が保磁力に及ぼす影響を考察することができる.
B3
1.65
2.12
0.029
0.84
19.62
32.38
32.12
53.02
Dy 0
1.11
1.47
0.029
0.67
10.00
17.54
16.38
28.72
場に対する発生確率)とは独立に,結晶粒子間の磁気的連動
Dy 0.25
1.19
1.86
0.032
0.86
7.16
17.48
11.72
28.62
(結合)の強さも保磁力に明瞭に影響すると考えられる.すな
Dy 0.5
1.45
2.30
0.032
1.25
7.32
18.42
11.99
30.16
わち,各結晶粒子が磁気的に完全に孤立していれば,磁化反
Dy 0.75
2.18
2.86
0.032
1.61
10.09
17.37
16.52
28.44
転は核生成した粒子内で完結するので,ある粒子内で反転核
Dy 1.0
3.02
4.45
0.028
2.02
13.07
28.37
21.40
46.46
生成が起こることのみが,その粒子の減磁の原因となる.一
上述の磁化反転核生成の様子(言い換えれば,印加磁


方,ある結晶粒子に磁化反転核が生成しなくとも,隣接の結
晶粒子が磁化反転した場合,それが磁気的相関性により伝播
することで,反転することも考えられる.そのような磁化反
転の伝播も保磁力と深く相関する.上述の問題に関連して,
磁区幅( dD )は,一見マクロな物性値であって,ミクロの磁
化反転機構とは相関しないように考えられるが,諸物性値を
ある程度正確に知っていれば,その幅から上述の結晶粒子間
の磁気的結合の強さを大変正確に見積もることを可能にす
る.したがって,磁区幅を求めれば,各試料内の磁気相関
(長)を見積もることも可能となり,それから,結晶粒子間の
磁気的結合の強さを判定できる.しかも,そのことは後述の
考察から,結晶粒子径に対する保磁力の依存性と関連する.
したがって,磁区幅の変化も保磁力の増減の考察には重要で
ある.
 の要素については, Dy 添加量による磁気異方性磁場

( Ha = 2K1 / JS )の増減と保磁力の相関性を解析することから
 の要素については,第一に結晶粒子径を
明らかにできる.
Fig. 5 Relationship between the average grain sizes (DAVE )
and domain widths (dD ).
系統的に変化させた Dy フリー試料群と, Dy 添加試料群で
磁区幅を実測して,これも実測の諸磁気特性からのその計算
値と比較,検討できるので,解析できる.
Dy フリー試料群では,結晶粒子径の増減と磁区幅のそれ
もちろん,その際の考察では,粒界部分が,各試料で,粒
が,傾向として相関を示しているが,それほど顕著な差異は
子間の磁気的結合の切断をどの程度行えているかを評価する
生じない.一方, Dy 添加試料群では, Dy 添加量の増加に
ことが必要である.
つれて,明らかな磁区幅の増加が認められる.また,両試料
群共通で,c(⊥)面観察の磁区幅は,c(//)面観察のそれらよ
りも,全ての試料で明らかに小さい.なお,この現象は後述
するように永久磁石の表面磁区構造に共通の現象である.
まず,以上の考察の基礎として,上述の解析を可能にする
解析手法の基礎的部分を説明する.
3.1
結晶磁気異方性の保磁力に及ぼす影響
磁気異方性磁場( Ha = 2K1 / JS )は,式( 1 )を通して保磁力
3.
考
察
に深く関連すると考えられている.確かに,式( 1 )の右辺
第 1 項が磁化反転の困難度合いを評価する項であり,第 2
本論文では,これまでの「実験と結果」の節で,全 11 種
項は試料の局所的な意味(表面など)も含めた反磁場であるこ
の試料の磁気特性を測定し, Sucksmith Thompson 法13) に
とは,式から自明である.本論文では,あえて式( 1 )を現
より磁気異方性定数( K1, K2 )を実験的に決定した.それら
象論的な式と考えて,係数 a に関する結晶粒子の配向性や
から磁気異方性磁場(2K1/JS )を算出し,さらに,c 面研磨面
磁化反転機構のモデルによる差異などの議論は考慮しな
と c 軸に平行研磨面で,磁区幅(dD )を実測した.
い19,20).
以上の実験結果は,一連の試料群について保磁力と深く関
連する以下の要素に関する考察を可能にすると考える.
しかし,以下の単純なモデルだけは採用する.すなわち,
結晶磁気異方性が大きな試料では,磁化反転核がどのような
1
第
号
31
Nd
Fe
B 系焼結磁石の保磁力発現機構に及ぼす結晶磁気異方性,結晶粒子径,磁区サイズの影響
サイズであろうと,そのサイズの磁気モーメント集団として
Nd2Fe14B については A=0.77×10-11 J/m(室温)という数値
は,磁化反転が困難になると考える.つまり,磁化反転核生
が示されている.
成が困難になる.事実,本論文の実験で Dy 添加は, Fig. 1
これらの数値の検討から,交換スティッフネス定数(A)の
に示すように,Dy 添加量の増加につれて明らかに磁気異方
数値の分散が大きいように感じるが,本研究で重要な磁区幅
性磁場が大きくなり,それにより保磁力は向上したのであ
の計算の場合,後述のように磁壁エネルギーの平方根を用い
る.この実験事実を単純に解釈すれば,Dy 添加により磁気
るため,上記のような数値の相違は,最終的に 1 / 4 乗の寄
異方性定数(単位体積当たりの異方性エネルギーである)を減
与となる.したがって,上述の交換スティッフネス定数(A)
少させずに,飽和磁化が減少し,その結果,磁気異方性磁場
の誤差の,磁区幅の計算値に与える最大変化は約 10程度
が増加して,磁化反転核生成がより困難になったと理解でき
となり,本論文の議論に重大な影響を与えることはない.こ
る.
のことは Dy 添加試料でも同様であるので,本論文では Dy
通常, NdFeB 磁石のような核生成型磁石に分類される
保磁力発現機構の磁石では,「磁化反転核」と見なせる反転
添加試料についても,同じ交換スティッフネス定数(A)の数
値を用い,A=1.25×10-11 J/m とした.
の起因となる部位の存在を仮定する考え方がある19,20).そこ
以上の計算根拠から得られた各試料の磁壁エネルギー(g )
で,Fig. 6 に示すように,小さな印加磁場でも磁化反転を引
を Table 2 に示す.本研究の試料群についての,その数値は
き起こす磁化反転核をサイズの大きな球で表現すると, Dy
Table 2 に 示 す よ う に g = 0.028 ~ 0.032 J / m2 で あ る . 一
添加効果のような結晶磁気異方性磁場の増加は,この図中の
方,磁区構造における磁区幅( dD )については,諸物性値を
円の大きさを全体的に小さくする効果があると解釈できる.
用いる計算方法として,以下に示す,厚さ(L)の板状試料の
もし必要であれば,このことは, N áeel 学派の表現を借り
無限に広がる c 面平面上の磁区幅の計算式( 3 )23) と,球状
て,以下の式で表現される磁化反転の“ゆらぎ磁場”(磁気
試料(半径 R)の磁区幅の計算式( 4 )14,23)が知られている.
余効係数 SV )の大きさを,Fig. 6 では抽象化して球のサイズ
で表示していると理解してもよい.
S V = k BT / J SV
dD=3.04×10-3( (g×L)/JS )
dD
(2)
この式自体の意味は,文献 14),19)などに説明がある.
なお, V は活性化体積, JS は飽和磁気分極, T は絶対温
度,そして kB はボルツマン係数である.
つまり, Dy 添加による磁気異方性磁場の増加が,磁化反
=3.36×10-3(
(g×R)/JS )
(3)
(4)
式( 4 )に,各試料の実測平均粒子径( Table 1 の DAVE )か
ら求めた半径(R )と, Table 1 に示した飽和磁気分極(JS ),
および Table 2 に示した磁壁エネルギー(g )をそれぞれ代入
すると,各試料の磁区幅の諸物性値からの計算値が求められ
る.その結果も Table 2(表中の d )に合わせて示す.なお,
転核生成時の“ゆらぎ磁場”を小さくしたと解釈できる.ゆ
式( 4 )は孤立した磁石粒子に対する計算式であるので,上
らぎ磁場が小さくなれば,磁化反転核は生成し難くなるの
述の計算では焼結磁石中の結晶粒子が孤立していると仮定し
で,試料全体としては保磁力が増加することになる.
て計算を行った.磁気的に孤立していない場合は,3.4 節で
3.2
磁壁エネルギーと磁区幅について
次に,上述の磁区幅の考察の基礎となる磁壁エネルギーの
値について考察する.
論ずるように,より大きな磁区幅が得られる.
Fig. 7 は,上述のようにして諸物性値から計算で求めた磁
区幅(図中の直線)に対する実測の磁区幅である.
この図では,各試料について c 面における磁区幅(c(⊥))
実験的に求めた磁気異方性定数(K2 定数の寄与は小さいの
で,とくに K1 )から磁壁エネルギー(g )を求めるには,式 g
= 4 ( AK1 )を用いる14) .その数値を決定するためには,交
換スティッフネス定数( A )が必要である.その値について
は,佐川らの報告21) では A = 1.25 × 10-11 J / m (室温)であ
る.他のいくつかの磁壁エネルギーと磁気異方性定数( K1 )
の文献値19,22) から,著者らが逆算すると, Nd2Fe14B につい
ては A=1.41×10-11 J/m(室温),Dy2Fe14B については A=
1.75 × 10-11 J / m ( 室 温 ) と な る . ま た , 文 献 14 ) で は ,
Fig. 6 Schematic representation of the changing in sizes of the
magnetic reversalnucleus (corresponding to SV ) by Dy substitution.
Fig. 7 Relationship between the calculated domain widths
based on the measured physical values and the directly
observed widths.
32
日 本 金 属 学 会 誌(2012)
第
76
巻
と, c 軸に平行な面のそれ( c (//))の 2 つの測定値を示し
た.ただし,上述の式( 3 )と式( 4 )は,計算に表面効果や
磁区構造の 3 次元的変化を考慮していないことは自明であ
る.ともかく,計算値に比較して実測の磁区幅はすべての試
料で大きい. c 面における磁区幅( c (⊥))の方が比較的小さ
いのは,明らかに表面効果である24).
3.3
結晶粒子径の保磁力に及ぼす影響
著者らは,磁石粒子径の微細化が保磁力を増加させること
を, Sm2Fe17N3 磁石粉体について,他の磁性体の場合も意
識して文献 9 )および 10 )で研究,報告した.それらの研究
で示したデータをまとめると, Fig. 8 に示す Sm2Fe17N3 磁
石の平均粒子径と保磁力の相関関係となる.
平均粒子径が 50 mm 程度で 0.05 T 程度であった保磁力
が,磁石粉体が微細化して 3 mm 程度で 1 T 程度に達すると
いう結果であった.本研究における NdFeB 系焼結磁石で
Fig. 8 Relationship between the average grain sizes (DAVE)
and the coercivities (HC ) of the samples.10)
は, Fig. 8 に示すとおり,相関関係はいくぶん緩やかにな
る.すなわち,Sm2Fe17N3 磁石粉体で log HC と log DAVE の
間には,ほぼ反比例(log HC=-log DAVE )の相関関係があっ
たが,NdFeB 系焼結磁石では傾きは半分程度になってい
る.すなわち,粒子径の減少により,やはり保磁力は増加す
るが,その増加率は小さい.ただし,保磁力自体はほぼ 2
倍の大きさである.
Fig. 9 は,文献 10 )で R. Skomski が示した上述の相関関
係を説明するモデルを,著者なりに再構成したものである.
3.1 節で論じたと同様に,図中で大きな球で表示した磁化反
転核ほど小さな磁場で反転するとする.ただし,小さな磁場
で磁化反転する「核」の数に対して,大きな磁場下でなけれ
ば磁化反転しない「核」の数は,大変に多いとして,その数
(反転しやすさの異なる核の)の分布状態はポアッソン分布に
Fig. 9 Schematic representations of distribution of magnetic
reversal nucleus in to the particles and in to crystal grains.10)
従うと考えた10) .なお,このモデルは,原論文でも,数値
計算する場合の仮想磁石試料の領域分割数に対する,磁化反
転核数を,実測の保磁力変化に合わせるように指数関数値を
し,粒界による磁気的分断が不十分である場合には,ある結
調整している.すなわち,磁化反転核の絶対数などに対する
晶粒子に発生した磁化反転は,周囲の結晶粒子群に伝播する
情報を得ることはできない.ただし,このモデルは,Fig. 9
ことになる.そのような磁化反転機構が NdFeB 系磁石に
のような描像で表現される永久磁石試料の磁化反転核分布と
ついて,著者らが観察し,議論している,結晶粒子群におけ
保磁力の相関関係に,見通しを与えることができる.
る協同現象的(cooperative)磁化反転機構である16,25).
前節の議論に対応させて考えれば,初めの前提として,磁
Fig. 9 における NdFeB 系焼結磁石の平均結晶粒子径と
石中に,ある程度の数の磁化反転核が分布している.ゆらぎ
保磁力の相関関係は, Sm2Fe17N3 磁石粉体のその関係より
磁場として大きな値に相当する大きな球状核は極めて少な
も大きな保磁力側にあり,かつ,傾きが緩やかである.前者
く,小さな値に相当して,なかなか磁化反転しない「核」の
の結晶粒径は後者の粒子径とほぼ同じであるので, NdFe
数は比較的多いと考えるのである.そうすると,単結晶や少
B 系焼結磁石では,磁化反転核の数が Sm2Fe17N3 磁石粉体
数の粒子に粉砕された磁石粉体(粗い粒子)では,各粒子に,
の場合よりも少ないことも考えられる.また,傾きの相違か
容易に磁化反転する「核」がほぼ必ず存在するのに対し,微
らは,数だけではなく,磁化反転核の磁場に対する反転しや
細化されて多数の粒子に粉砕された場合は,ある印加磁場ま
すさも異なることも考えられる.しかし,上述のように,こ
でに磁化反転する粒子数が極めて限られた数であるので,減
のモデルはある意味で保磁力発現における,磁石試料内の磁
磁率が小さいことになる.
化反転核の数と分布様態に一つの描像を与えるためのもので
このモデルは焼結磁石にも適用可能である.Fig. 9 には結
晶粒界で分割された焼結磁石も,模式化して示した.
ある.したがって,詳細な機構解析には,さらなる考察が必
要である.
この焼結磁石の場合,粒界による結晶粒子の磁気的分断
また,結晶粒子間の磁気的相関も減磁機構に明瞭な影響を
が,空間的に分散した磁石粒子群と同じように十分であれ
与えることは,すでに指摘したとおりであるので,その点の
ば,孤立した磁石粒子群の議論がそのまま適用できる.しか
検討も必要がある.
1
第
3.4
号
Nd
Fe
B 系焼結磁石の保磁力発現機構に及ぼす結晶磁気異方性,結晶粒子径,磁区サイズの影響
33
結晶粒子間の磁気的連結性の保磁力に及ぼす影響
結晶粒子間の磁気的連結性を評価する場合,Fig. 5 および
Fig. 7 で示した磁区幅の実測値が,常に,測定された物性値
からの,その計算値よりも大きいことは重要な知見である.
一般的に,試料表面で観察される磁区幅が,内部のそれより
も狭いことは24) ,本研究の実測値を計算値に近づけるはず
であることから,上述の知見はその逆であることで,興味深
いものである.
式( 3 ),( 4 )を変形すると,以下の式が得られる.ここ
で,const. は定数であり,式( 3 ),( 4 )の各項に実測や計算
値を代入すれば算出できる.
L or R=const.×((dD×JS )2/g)
(5)
この式( 5 )から計算される L および R は,実測の磁区幅
(dD )と飽和磁気分極(JS )と,すでに説明した方法で実測値か
ら算出された磁壁エネルギー(g )に見合う磁区幅を形成する
Fig. 10 Average grain sizes (DAVE ) and the sizes of magnetic
cooperated regions (L and 2R) in the Dyfreesamples.
板状領域の厚さ( L )と球状領域の半径( R )である.すなわ
ち,得られる数値は,結晶粒子群に広がる磁気的連結した板
状や球状の領域のサイズである.また,その領域内には複数
の磁壁が存在すれば,結晶粒子間の粒界層に磁壁が貫入し,
隣接粒子群と一体化して磁区構造を形成していると考える必
要がある.
Fig. 10 および Fig. 11 が,それぞれ Dy フリー試料群と
Dy 添加試料群について,上記の計算の結果得られた L およ
び R 値である.ただし,図中に示したとおり球状領域につ
いては直径( 2R )を示した.両図の(//)と(⊥)は,これまで
の本論文における記述法どおり,それぞれ「c 軸に平行面」
と「c 面」を表す.
Fig. 7 に示した球状領域の磁区幅の場合にすでに確認され
たとおり, Fig. 10 の Dy フリー試料群の場合は, L および
2R 値ともに平均粒子径よりも大きく(同じ値の場合は,図中
の直線上に載る),磁気的連結が結晶粒子内で完結していな
いことを意味する.また,領域サイズは結晶粒子径の増加と
Fig. 11 Average grain sizes (DAVE ) and the sizes of magnetic
cooperated regions (L and 2R) in the Dysubstituteds amples.
ともに大きくなっている.相対的には,板状領域の厚さ(L)
の方が球状領域の径(2R)よりも小さい.
一方,Dy 添加試料群では,様相が一変する.すなわち,
では,磁区構造を集団で形成する板状および球状領域のサイ
Dy1.0 試料を除き,他の試料は平均粒子径や組成の違いにも
ズが,ほとんど変化しない.このことからは,Dy 添加試料
かかわらず, Dy0 試料とほとんど同じ L および 2R 値を示
の磁気的連動は,Dy0.5 と Dy0.75 試料の板状領域の場合の
し,その結果,Dy0.5 と Dy0.75 試料の c 面の磁区幅から算
ように,結晶粒子内に限られているか,粒界の有無とは無関
出された,板状領域を仮定した場合の領域厚さ( L ( c (⊥))
係に磁気的相関長のような物理量に支配されていると解釈で
は,ほとんど結晶粒子径と一致する.つまり,結晶粒子の磁
きる.
区構造的な完結性,独立性が強く現れていると,解釈できる.
なお,この節の結晶粒子間の磁気的相互作用についての考
Fig. 12 は,上述の観察結果を模式化してまとめたもので
察は,熱消磁状態の磁区構造に関する測定結果に基づくもの
ある.Dy フリー試料群では,磁区構造を集団で形成する板
である.この考察が,そのまま減磁過程についての議論に適
状および球状領域のサイズ( L および 2R )は,結晶粒子径
用可能かどうかは検証の必要がある.ただし,結晶粒子間の
(D )の変化につれて厚さや大きさを変化させる.
磁気的相互作用という意味では,粒界を通しての磁壁の連動
そのことは物理的に考えると,たとえば結晶粒界に磁壁が
磁気モーメントの配列を保って進入して,隣接する結晶粒子
まで到達できる場合,何枚の粒界を貫通できるかがエネル
ギー的な制限を受けるとすれば,結晶粒子径が大きな試料ほ
ど,大きなサイズの磁気的連結領域を作っていると解釈でき
る.一方,Dy 添加試料では Dy 添加量が 75以下の 4 試料
性など,減磁過程のそれを推測するため十分に活用可能と考
えている.
3.5
総合的考察(どのような要因が NdFeB 系焼結磁石の
保磁力を支配しているのか)
まとめとして,本研究で明らかにしたことに基づいて,
34
第
日 本 金 属 学 会 誌(2012)
76
巻
は,試料内部の粒界による結晶粒子の磁気的分離と,その粒
 およ
界を通しての磁気的連結性の変化という,上述の要因
 に対応する 2 要素の複合による現象と理解できる.
び
4.
ま
と
め
本研究では,Dy フリーと Dy 添加の全 11 種類の NdFe
B 系焼結磁石の保磁力発現機構に及ぼす,結晶磁気異方性
(磁場)と,結晶粒子径,さらに磁区構造形成領域のサイズ
(実測磁区幅と,諸物性値から計算した結果の比較検討)の 3
要素の影響を論じた.奇しくも,これらの要素は経済産業省
主導の省 Dy プロジェクトの内容と,そのプロジェクトにお
ける著者のグループの研究分担項目に相当している.それら
3 要素の保磁力発現機構における役割を少しでも明らかにで
きたのであれば,幸いである.
本報告における強磁場中の磁気測定に関しては,全般的に
Fig. 12 Schematic representation of the relationships between
the average grain sizes (DAVE ) and the sizes of magnetic
cooperated regions (L and 2R) in the Dyfree and substituted
samples.
東北大学金属材料研究所強磁場超伝導材料研究センターの高
橋弘紀助教にお世話になった.また,データ取得のすべては
同大学 NICHE の秋屋貴博助教の助力により行われた.ま
た,磁区幅については静岡理工科大学大学院生の廣岡瞳氏に
測定していただいた.上記の方々に深く感謝する.
NdFeB 系焼結磁石の保磁力問題を考察する.この考察の
はじめに述べたように,本研究の範囲で NdFeB 系焼結磁
文
献
石の保磁力を支配する要因は 3 つある.


結晶磁気異方性(磁場)


平均結晶粒子径


磁区構造を形成する粒子集団のサイズ
の 3 要因である.
この要因のうち,極めて重要なのは(1)結晶磁気異方性磁
場の増加が保磁力を増加させることである.これは単純化す
れば磁化反転核の形成をより困難にすることに対応し,その
保磁力に及ぼす効果は平均結晶粒子径の相違よりも明らかに
大きい.これは,本研究の Dy 添加試料群についての上述の
検討から明らかである.ただし,Dy 添加には,磁区構造形
成領域のサイズの検討から明らかになったように,結晶粒子
を磁気的に孤立させる効果もあると考えられる.考慮するべ
きは,Dy 添加効果の特徴点が,飽和磁気分極を低下させて
も,磁気異方性定数はあまり変化させないことである.飽和
磁気分極の低下は,常に,試料の静磁エネルギーの低下をも
たらす.
 の結晶粒子径と
 結晶粒子群の協同現象的振る舞いは,

粒界を通しての粒子間の磁気的連結性の強弱による,という
意味では同じ根本原因をもっていると考えられる.結晶粒子
径の減少は,第 1 義的には,厚さが同じとすれば,粒界層
に必要な「Nd 過剰相」の量が増加することを意味する.逆
に,R 成分量に関して組成変化がそれほどない本研究の試料
群では,平均結晶粒子径の減少は粒界層の厚さの減少も意味
する.つまり,粒子間の磁気的連結機構の詳細は別として,
粒界層の厚さが減少するのであれば,粒子径減少とともに磁
気的連結が強くなる可能性が高い.つまり,Fig. 10, Fig. 11
に示した結晶粒子径と磁区形成領域のサイズの相関性の相違
1) M. Sagawa: Proc. of the 21st Workshop on REPM and Their
Appl., (Slovenia, 2010) pp. 183186.
2) M. Sagawa, S. Hirosawa, H. Yamamoto, Y. Matsuura and S.
Fujimura: KotaiButsuri 21(1986) 3745. (in Japanese)
3) M. Sagawa, S. Fujimura, H. Yamamoto, Y. Matsuura and K.
Hiraga: IEEE Trans. Magn. 22(1986) 910912.
4) S. Hirosawa, Y. Matsuura, H. Yamamoto, S. Fujimura and M.
Sagawa: J. Appl. Phys. 59(1986) 873879.
5) T. Hidaka, C. Ishizaka and M. Hosako: Proc. of the 21st
Workshop on REPM and Their Appl., (Slovenia, 2010) pp.
100102.
6) K. T. Park, K. Hiraga and M. Sagawa: Proc. of 16th Int'l
Workshop on REM and Their Applications, (Sendai, 2000) pp.
257264.
7) N. Ishigaki, S. Suzuki and K. Machida: NEOMAX Tech. Rep.
15(2005) 1519.
8) H. Nakamura, K. Horota, M. Shimao, T. Minowa and M.
Honshima: IEEE Trans. Magn. 41(2005) 38443846.
9) K. Kobayashi, T. Iriyama, T. Yamaguchi, H. Kato and Y.
Nakagawa: J. Alloy. Compd. 193(1993) 235238.
10) K. Kobayashi, R. Skomski and J. M. D. Coey: J. Alloy. Compd.
222(1995) 17.
11) S. Sugimoto: Proc. of the 21st Workshop on REPM and 25 Their
Appl., (Slovenia, 2010) pp. 103105.
12) K. Kobayashi and K. Koyama: 2009 Annual Report, High Field
Laboratory for Superconcucting Materials (HFLSM), Institute
of Materials Research, Tohoku University, (2010/6) pp. 98
101.
13) W. Sucksmith and J. E. Thompson: Proc. R. Soc. London, Ser.
A 225(1954) 362375.
14) R. Skomski and J. M. D. Coey: Permanent Magnetism, (Institute
of Physics Publishing, 1999) p. 174.
15) K. Kobayashi and D. Givord: J. Magn. Soc. Jpn. 21(1997) 1175
1180.
16) K. Kobayashi: Proc. of the 21st Workshop on REPM and Their
Appl., (Slovenia, 2010) 149152.
17) K. Kobayashi, K. Itoh, D. Shimizu and K. Hayakawa: J. Magn.
Soc. Jpn. 31(2007) 393397.
18) K. Kobayashi, T. Matsushita, K. Hayakawa and M. Sagawa: J.
Magn. Soc. Jpn. 31(2011) 185193.
19) D. Givord and M. F. Rossignol: RareEarth Iron Permanent Mag-
第
1
号
Nd
Fe
B 系焼結磁石の保磁力発現機構に及ぼす結晶磁気異方性,結晶粒子径,磁区サイズの影響
nets, Chap. 5, ed. by J. M. D. Coey, (Oxford, 1996) p. 250.
20) H. Kronm äuller and M. Fahnle: Micromagnetism and the Microstructure of Ferromagnetic Solids, (Cambridge, 2003).
21) M. Sagawa, S. Fujimura, H. Yamamoto, Y. Matsuura, S.
Hirosawa and K. Hiraga: Proc. of 4th Int'l Symp. on Magnetic
Anisotropy and Coercivity in RETM Alloys, (Dayton, 1985) p.
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22) K. H. J. Buschow: Ferromagnetic Materials, vol. 4, ed. by E. P.
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Wohlfarth and K. H. J. Buschow, (NorthHolland, 1988) p. 20.
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25) K. Kobayashi, S. Sakamoto, T. Matsushita, K. Hayakawa and
M. Sagawa: Proc. of the 20st Workshop on REPM and Their
Appl., (Crete, 2008) pp. 138143.