戸田市三軒協定における住民意識と価値の分析 R08031 勝部佑馬 指導教員 作山 康 1.はじめに 1.1.研究の背景・目的 戸田市都市景観条例に位置づけられる三軒協定は、連 続する三軒以上で協定を締結した居住者に対し、市が補 助金で助成する制度である。景観という観点から、コミ ュニティ醸成を図り、隣近所による清掃や花壇や外構づ くり等を通して人々がふれあい、景観形成や防犯効果に も繋がることが目的とされている。「三軒」を前提とし た、これまでに見られない手法は、特殊な事例として、 多くの文献で注目され、類似協定もいくつか存在する。 そこで本研究では、三軒協定を締結した地区の、アン ケートにより、過去 10 年間での景観形成やコミュニテ ィ醸成、防犯効果等を多面的に評価していく。 1.1.研究の方法 現在までの運営状況を文献や現地調査によって調査し、 認定の推移等を、分析する。また、アンケート調査によ り、主に協定締結前後の変化を整理する。 以上より協定の評価、 今後の発展について検討していく。 2.三軒協定の概要 補助金の金額等は 3 区分に分けられ、対象経費・補助 率・限度額・交付期間が設定されている(表 1) 。 表 1.補助金の種類 区分 1、建築物工事等 2、工作物改修等 3、花、苗木等の植栽等 補助金対象経費 建築物の外壁塗装修繕工事等に要 する費用 門、塀、柵、花壇等の築造、改造等に 要する費用 花、苗木等の植栽その他景観に寄与 するものの設置に要する費用 補助率 限度額 補助金交付期間 2分の1 50万円 2分の1 30万円 1年 2分の1 10万円 最大3年 1年 締結から補助金交付までの流 れは図1に示す。各段階につい て、締結者が提出する書類や、 戸田市市の定める要件などが設 図 1.協定締結から補助金交付 定されている。 までの流れ 3.三軒協定の運営概況、現地調査(表 2) 表 2.三軒協定の運用状況 協定開始か ら 10 年で 26 地区が認定さ れている。約 9 割が、戸建 て住宅での協 定だが、マン ションのベラ ンダや、店舗 事業者間での 協定も見られ る。 締結年度 H14(2002) H15(2003) 軒数 補助金区分 (軒) No. 地区名称 14-1 笹目南町34ガーデニング地区 3 3(植栽等) 1996~2000 14-2 上戸田2-12ガーデニング地区 3 3(植栽等) 1996~2000 戸建て 14-3 サンパワータカラガーデニング地区 4 3(植栽等) 1995以前 マンション店舗 14-4 笹目1丁目6ガーデニング地区 3 3(植栽等) 1996~2000 戸建て 14-5 ルイシャトレ戸田公園209-211 三軒協定地区 4 3(植栽等) 2001 マンション 15-1 アーバンフォレストⅠ地区 3 3(植栽等) 15-2 アーバンフォレストⅡ地区 3 3(植栽等) 15-3 アーバンフォレストⅢ地区 3 3(植栽等) 15-4 駅前フラワー通り地区 3 3(植栽等) 2001 戸建て 15-5 笹目南町ガーデニング地区 3 3(植栽等) 1996~2000 戸建て 16-1 中町1-14ガーデニング地区Ⅰ 3 3(植栽等) 16-2 中町1-14フラワーガーデン地区Ⅱ 4 3(植栽等) 16-3 中町1-14ガーデニング地区Ⅲ 3 3(植栽等) 16-4 中町1-14ガーデニング地区Ⅳ 3 3(植栽等) 戸建て 16-5 中町1-14ガーデニング地区Ⅴ 3 3(植栽等) 戸建て 16-6 中町1-14-28,29,45,46ガーデニング地区Ⅵ 4 3(植栽等) 17-1 ロイヤルガーデン新曽Ⅰ 3 3(植栽等) 17-2 ロイヤルガーデン新曽Ⅱ 3 3(植栽等) 17-3 上戸田1-13ガーデニング地区 3 3(植栽等) 18-1 上戸田3-12ガーデニング地区 4 3(植栽等) 2004 19-1 スウェディッシュガーデン喜沢1-51北地区 4 3(植栽等) 不明 戸建て 19-2 上戸田4-10ガーデニング・イルミネーション地区 4 3(植栽等) 不明 店舗他 20-1 グリーンガーデン地区 3 3(植栽等) 不明 戸建て 20-2 新曽南2-7-3フローレセンス開花地区 H16(2004) H17(2005) H18(2006) 建築年数 建築形態 戸建て 戸建て 2001~2002 戸建て 戸建て 戸建て 戸建て 戸建て 2003 戸建て 戸建て 2003 戸建て 戸建て 戸建て H19(2007) H20(2008) 5 3(植栽等) 不明 戸建て H21(2009) 21-1 スウェディッシュガーデン喜沢(ガーデニング地区) 4 3(植栽等) 不明 戸建て H22(2010) 22-1 3(植栽等) 不明 戸建て オリーブストリート地区 3 協定の具体例として、協定地区の外観を図 2 に示す。 図 2.協定地区外観 5.アンケート調査 住民へのアンケート調査は、 全26地区84軒を対象に、 2011 年 12 月に実施した。方法は、行政担当者を通じて 配布し、郵送で回収した。回収率は 49%(84 軒配布、41 軒回収)であった。回答者は、男性 5 名、女性 36 名であ り、53%が専業主婦、パート・内職・アルバイトが 25%、 正社員が 15%、8%が自営業であった。 5.1.三軒協定を結んだ動機 1)三軒協定制度を知ったきっかけ 三軒協定という制度を知ったきっかけとしては、協定 締結者からの紹介が一番多く、次いで広報誌や、行政担 当者からの紹介であった(表 3)。これは、戸田市の PR に 表 3.三軒協定を知ったきっかけ よって協定を知った 協定を知ったきっかけ 軒 割合(%) 協定締結者からの紹介 16 39 人が、隣人や知人に 広報誌を見て 11 27 行政担当者からの紹介 6 15 紹介したことが、考 住宅事業者からの紹介 3 7 その他 5 12 えられる。 ※その他:締結者以外の近隣住民の誘い 2)協定締結の理由 最終的に協定を締結した理由としては、補助金交付の 制度が大きく影響している。また、近隣住民との交流を 表 4.協定締結の理由 深める契機となるこ 協定締結の理由 軒 割合(%) 補助金利用できるから 23 56 とも期待されていた 交流を深めるため 9 22 以前から植栽が趣味だった 6 15 ことが分かる(表 4)。 戸田市の景観美化のため 2 5 その他 1 2 ※その他:周りの人がやるから、近所付合い 5.2.コミュニティ醸成 協定締結以前の近隣住民の交流は、60%が挨拶程度の 付き合いであった。また、仲の良い住民同士で協定を結 んだ例もあり、 40%が一緒に食事 に行く等のコミュ ニティが形成され ていた。 締結後と、補助 金交付期間である 図 3.協定締結後と補助金交付期間終了後の交流の変化 3 年後の交流の変 化を図 3 に表した。締結後は、70%の人の交流が増加し ている。締結者同士だけでなく、イルミネーションや植 栽を通行人に褒められるなど、会話が生まれ、それをや りがいにしているという意見が多く挙がった。地域の人 々は花・緑を楽しみ、締結者は自分の景観美化の活動を る。これまでの調査・分析によって、協定による景観形 見られることに楽しさを感じるという関係が成り立って 成はコミュニティ醸成の契機となること、単体の協定地 いる。第 3 者の目をプレッシャーに感じるが、協定のお 区では、地区全体の景観に変化はないことが分かった。 かげで趣味の植栽を継続できたという声もある。 「変わら そこで、協定締結後の安心感の ない」 と回答した人の半数は、 以前から仲の良かった人々 変化を問う設問を中町ガーデニン であり、 「締結者同士の交流は変わらないが、通行人等、 グ地区Ⅰ~Ⅵと、他地区の解答を 横の繋がりが広がる」という。補助金交付期間(3 年)終 比較する。中町ガーデニング地区 了後は、80%が「変わらない」と答えており、協定終了 は、6 地区 20 軒の連なり、協定地 後も交流が減少することは少ない。以上より、協定の目 区で最も連続した景観形成がされ 的であった、景観形成を通してのコミュニィ醸成は十分 ている地区である(図 6)。当地区 に実現されているといえる。 は、第 3 者からの評価を問う設 5.3.景観形成 問で、全ての人が会話の増加や、見学人ができている。 1)主な植栽・活動内容のこだわり(表 5) 締結者の主な植栽活動 表 5.植栽の方法、こだわり 植栽方法 軒 割合(%) 花を主体とした植栽 26 44 緑を主体とした植栽 12 20 イルミネーション 12 20 季節によってテーマを変えている 7 12 その他 2 4 ※複数回答可 ※その他:色彩や高低差、花・緑のバランス、 ローズガーデン また、 広報誌掲載やケーブル TV の取材を受けた者もいる。 右表を見ると、中 の方法や、こだわりは、 町地区の住民には、 半数近くが、花を主体 安心感を与えること としており、草花の量 図 6.中町ガーデニング地区概要 表 6.地区の安心感の変化 安心できる 警戒するよ ようになっ うになった 変化なし た 中町ガーデニング地 60% 0% 40% 区Ⅰ~Ⅵ 中町以外の地区 17% 6% 77% ができていることが分かる。また警戒をするようになっ が増加している。また、 たと答えが 0%ということから、連続した面的な景観を 冬には、クリスマスのイルミネーションが連なった景観 保っていることが分かる。 となっている。 6.まとめ 2)植栽と景観の質の変化 三軒協定とは、各住宅の主婦が主体となり、景観形成 協定締結後と補助金終了後の、景観の質に関する設問 を行う協定だということが分かった。ゆえに、三軒協定 では、 締結後、 54%が景観の質が高まったと答えている。 の価値とは、主体となる、住民の、住みやすさや幸福感 同数程の「変わらない」という意見は、マンション等、 が重要である。今回の調査結果により、住民同士や住民 協定地区の 3~5 軒だけでは、 まとまった景観を形成でき と通行人等、 交流が増加し、 明るい会話も多く生まれた。 ないことが考えられる。補助金交付終了後では、80%が 景観美化活動がコミュニティを生み出していることが分 植栽を続けているが、景観の質は下がったということが かった。これは住民の戸田市への愛着や、住みやすさに 指摘されている(図 4,5)。 繋がるといえる。補助金制度については、改善の必要性 が見えてきた。交付期間終了後し、交流の減少や、景観 の質の低下を指摘する例もある。また、協定を継続した いという意見や、より一体的な景観を形成していきたい という声も多々あることから、より規制の強い制度への 発展、2 度目の締結の許可等が必要ではないだろうか。 図 4.協定締結後と補助金交付期間終了後の景 図 5.補助金交付期間終了後の植栽活動 観の変化 加えて、締結範囲を拡大し、点と点を繋げることで、一 これは、自由意見でも多く見られた、 「協定の締結が一 体的な景観の形成、地区ごとの防犯効果も期待できると 度しかできない(補助金が 3 年間しか受けられない)」と いえる。規制の弱い三軒協定によって、住民が景観美化 いうことから、経済面での負担が要因となっていること について意識するきっかけとなっているため、強制力の が分かる。協定終了後に植栽を中断した場合の理由とし 強い協定へ発展することも可能ではないだろうか。 ても、 「植栽費用の負担」が最も多く寄せられた。植栽を 継続している人の交流の変化は、変化なし、又は増加し たという結果となっている。以上より、補助金制度の交 付期間の改善の必要があると考える。 5.4.防犯効果 環境美化されているまちは、街に対する管理意識や連 携の強さを感じさせ、犯罪抑止効果があるといわれてい 【参考文献】 ・戸田市景観計画・戸田市都市景観条例のあらまし ・景観法を活かす:どこでもできる景観まちづくり/景観まちづくり研究 会編著 学芸出版 ・秦野市景観形成基本計画(2011)pp38~53 ・練馬区景観計画(2011)第 7 章「協働による景観まちづくりの推進」 ・安心して暮らせるまちにするために~地域防犯活動からはじまるまちづ くり~pp19-21/国土交通省 安全・安心まちづくり検討委員会
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