戸田市都市景観条例における「三軒協定」に関する研究 ~三軒協定に関する企業の意識~ R08084 松本大希 指導教員 作山 康 1.研究背景と目的 現在の成熟した都市型社会の時代は、既成の街並みを いかに整備するかが課題である。この街並みと最も身近 にある住民が主体となる取り組みの重要性が注目される 中で、埼玉県戸田市景観条例における三軒協定制度があ る。埼玉県戸田市都市景観条例に位置づけられる三軒協 定は、連続する 3 軒以上を単位として建築物の意匠や敷 地内緑化等に関する協定を締結した場合、行政から支援 が受けられるというものである。戸田市では三軒協定を 認定することで住民の街並みづくりを支援し、目立った 景観資源に乏しい市街地における、先進的な街並み形成 施策として行っている。そこで本研究では、この三軒協 定を取り上げ、三軒協定に関する研究で、未だ検討され ていない三軒協定に対する住宅事業者等との関わりや意 識について明らかにし、三軒協定の今後の可能性を含め 評価することを目的とする。 2.研究の方法 まず、戸田市三軒協定締結地区の現地調査ならびに市 役所でのヒアリング調査・データ入手を行い、現状把握 及び、分析・問題点を理解する。 三軒協定に関して、事業者の考えや意識を明らかにする ため住宅事業者・花屋を対象にヒアリング調査の実施。 住民の意見を参考に、三軒協定に対する事業者の意識及 び、事業者が関わることによる効果をより明白なものに するため、住民アンケートの実施。以上をふまえた上で 考察し、三軒協定の今後の可能性を含め評価する。 3.三軒協定の概要 三軒協定は戸田市都市景観条例の中で「コミュニティ による景観形成として、3 軒以上の連続する方々による 自主的な景観形成を応援する制度」と定義されている。 図 1.三軒協定締結から補助金交付までの流れ 4.三軒協定の現状調査・分析 2002 年 7 月最初の締結地区に始まり 2010 年には、 三軒 協定を締結し行政に認定を受けている地区は、合計 26 地区、軒数は 87 軒に及ぶ。 現状では、三軒協定の締結地区が点在し、まとまりが ないために街並みの連続性がみられない。ただし 2004 年に三軒協定地区として指定された中町ガーデニング地 区や新曽南地区は、締結地区が密集するため街並みの連 続性が生まれる。 2002 年から 表 1.三軒協定締結地区の詳細 認定 軒 補助金制度 補助金交 地区名称 形態 2004 年までは、 年度 数 区分 付期間 笹目南町34ガーデニング地区 3( 3(植栽等) 戸建て 3 3(植栽等) 戸建て 年間 5 地区以上 2002 上戸田2-12ガーデニング地区 2002~ マンション サンパワータカラガーデニング地区 4 3(植栽等) (H14) 2004年 店舗 笹目1-6ガーデニング地区 3 3(植栽等) 戸建て が認定されてい ルイシャトレ戸田公園209-211三軒協定地区 3 3(植栽等) マンション 3 3(植栽等) 戸建て たが、その後の 2003 アーバンフォレストⅠ地区 アーバンフォレストⅡ地区 3 3(植栽等) 戸建て 2003~ アーバンフォレストⅢ地区 3 3(植栽等) 戸建て (H15) 2005年 駅前フラワー通り地区 3 3(植栽等) 戸建て 締結状況として 笹目南町ガーデニング地区 3 3(植栽等) 戸建て 中町1-14ガーデニング地区Ⅰ 3 3(植栽等) 戸建て 4 3(植栽等) 戸建て は、認定軒数が 2004 中町1-14フラワーガーデン地区Ⅱ 戸田中町ガーデンイン地区Ⅲ 3 3(植栽等) 2004~ 戸建て (H16) 中町1-14ガーデニング地区Ⅳ 3 3(植栽等) 2006年 戸建て 伸び悩んでいる。 中町1-14ガーデニング地区Ⅴ 3 3(植栽等) 戸建て 中町1-14-28,29,45,46ガーデニング地区Ⅵ 4 3(植栽等) 戸建て 3 3(植栽等) 戸建て この理由のひと 2005 ロイヤルガーデン新曽南Ⅰ 2005~ ロイヤルガーデン新曽南Ⅱ 3 3(植栽等) 戸建て (H17) 2007年 上戸田1-13ガーデニング地区 3 3(植栽等) 戸建て 2006 2006~ つには、市担当 (H18) 上戸田3-12ガーデニング地区 4 3(植栽等) 戸建て 2008年 2007 スウェディッシュガーデン喜沢1-51北地区 4 3(植栽等) 2007~ 戸建て ヒアリングで分 (H19) 上戸田4-10ガーデニング・イルミネーション地区 4 3(植栽等) 2009年 店舗他 2008 グリーンガーデン地区 3 3(植栽等) 2008~ 戸建て 新曽南2-7-3フローレセンス開花地区 5 3(植栽等) 2010年 戸建て かったこととし (H20) 2009 2009~ スウェディッシュガーデン喜沢ガーデニング地区 4 3(植栽等) 戸建て (H21) 2011年 2010 2010~ て、三軒協定の (H22) オリーブストリート地区 3 3(植栽等) 不明 2012年 26(地区) 87 PR活動の減尐が 合計 大きく関わっている。この結果で分かるように、対象住 宅地やマンション等の住民に対する三軒協定のPR活動は 有効であった。 図 2.20 軒の住宅が一体 三軒協定を行っている 中町ガーデニング地区 5.住宅事業者・花屋ヒアリング調査 5-1-1.ヒアリング対象花屋 地区ごとに主要花屋 をピックアップし、ヒ アリング調査を行う。 6 店舗の花屋を対象に 調査を実施。 図 3.ヒアリング対象花屋詳細・三軒協定締結地区分布状況 5-1-2.花屋ヒアリング調査結果・考察 花屋は、三軒協定に関わりがありそうであるが、全て の店舗から、三軒協定を知らないという答えが返ってき た。花屋ヒアリング調査では、三軒協定の知名度の低さ を示す結果となった。 5-2-1.ヒアリング対象住宅事業者 戸田市の市担当の方への調査と実際に三軒協定を締結 する住宅から三軒協定関わりが見られる住宅事業者を絞 り、ヒアリング調査を行った。 ヒアリング協力住宅事業者:スウェーデンハウス株式会 社(スウェディッシュガーデン喜沢地区) 、株式会社中央 住宅ポラスグループ(中町ガーデニング地区) 5-2-2.住宅事業者ヒアリング調査結果・考察 6-2.アンケート結果・考察 ヒアリング項目は、大きく分けて三軒協定に対する関 住民アンケートでは、「住宅事業者から三軒協定の紹 心、 三軒協定PR活動、 戸田市との関わりの3分野で行う。 介・説明はありましたか」という質問に対して、あると答 表 2.三軒協定に対する関心 ヒアリング結果 質問事項 スウェーデンハウス株式会社 株式会社中央住宅(ポラスグループ) ・三軒協定につい 手続きは当社にて行っております。三軒協定 街に住んでいる方が自主的に、自分の街をよ てどの程度の理解 の趣旨等については理解しているつもりで り良くしていこうという気持ちを育む取り組 がありますか。 す。 みだと認識しています。 3軒で取り決められるのは、簡易でいいと判 ・協定制定から10 断します。 実際の所は、役所の申請等一般 正直なところ、この協定がどれだけ影響が 年経った現状を、 の方はなれていないので、どこかに頼んで あったのか、街並みに寄与したのかは分かり どう評価します いることが多いと推察します。 また、建 ません。 か。 築協定の様な強制力は無いので、バラバラ な街並みが構成される危惧があります。 小規模な区画割の場合には、利用できる できないと思います。弊社での取り組み ・三軒協定を住宅 と思いますが、大規模な販売戦略には向 は、建物だけでなく、外講(エクステリア) 販売戦略として利 かないと判断します。(大規模な場合に の部分までコーディネイトしてご提案をして 用できると思いま は、緑地指導等が有る為に、細部に関わって いるため、お客様のメリット(補助金の受 すか。 おれない。それより、スマートグリットやヘ 領)が享受できないためです。 ムス等を重要視する為。) 六区画程度の分譲地の場合には、メリッ ・三軒協定が生み トが無い訳ではありませんが、それ以上 出す、企業にとっ に環境や立地が求められる為に三軒協定 特に無い、と感じています。 てのメリットはあ が企業の売りになることは無いと判断し ると考えますか。 ます。 ・三軒協定の認知 協力できることはあると思われますが、販 度をあげるため 注文住宅や外講の請負工事だけでなく分 売広告や販売図面に載せることは、リスクを に、企業が協力で 譲住宅での外講工事に対しても、お客様 伴いますので、実際には行っていません。 きることがあると に補助金を支援することができれば、知 (企業は掲載した以上責任がありますので、 思いますか、 ま 名度もあげられますし、企業としても協 予算の都合で補助金等が出ないものは告知を 力が可能になると思います。 た協力しようと思 嫌がります。) いますか。 ・三軒協定に関す る会社の方針等が 会社方針はありません。分譲地毎の判断にな 会社方針はありません。 あれば教えてくだ ります。 さい。 住宅事業者にとってパンフレットや企業サイトに三軒 協定の紹介を載せることはリスクを伴うため難しく、住 えたのが全体の 12%、また三軒協定を始めるきっかけが、 住宅事業者の紹介と答えた住民は、全体の 5%とかなり低 い結果となってしまったが、住宅事業者から三軒協定の 紹介を受けていた場合を注目してみると 5 軒のうち 3 軒 の住居者(60%)は、住宅事業者の紹介が三軒協定を始め るきっかけになったと答えた。尐なくとも、住宅事業者 が三軒協定を住民に紹介した場合、三軒協定を締結する にあたって大きな影響力があると考えられる。 7.まとめ 7-1.住宅事業者意識 三軒協定に対して、理解や協力意識など高い関心があ ることがわかった。住宅事業者は、「住まい」を売るでは なく「住宅」を売るという今の意識を変えれば、必然とメ リットも見えてくるはずである。 7-2.今後の可能性 宅販売戦略としても、小規模な区画割の場合しか効果は 住民アンケートからは、住宅事業者側からの紹介はあ 見えず、メリットを生みだすことも難しい。しかし、三 まり行われていないという傾向が読み取れる。住宅事業 軒協定のことを理解し、三軒協定に対して協力しようと 者の紹介は大きな影響力があるだけに、今後の発展性と する意思が見られる。また、注文住宅や外講の請負工事 して、住宅事業者の協力により三軒協定の紹介に力をい だけでなく分譲住宅での外講工事に対しても、お客様に れる動きがあれば、三軒協定の知名度、締結地区の増加 補助金を支援することができれば、企業としても協力し が望まれる。また、住民から「三軒協定を結ぶきっかけと やすいという意見も出た。 なったのが住宅メーカーだったため、近隣と統一感のあ 6.住民アンケート調査 る景観となり美しさが引き立つ」という声もあった。三 住民アンケート調査は、 全 26 地区 84 軒を対象に、 2011 軒協定は、最小規模の地域コミュニティでの協定締結を 年 12 月に実施。方法は、行政担当者を通じて、住民に配 前提としているために、三軒協定の締結地区が点在して 布し、 郵送で回収した。 回収率は、 84 軒のうち 41 軒 (49%) おり、街並みの連続性が創出できていないという課題が となった。 あげられるが、住宅事業者の関わりは、このような課題 6-1.アンケート内容・結果 の改善策にも有効だと考えられる。 住宅事業者がどの程度、住民に対して三軒協定の説明 を実施しているか調べるため、 「住宅事業者から、三軒協 定の紹介・説明を受けたことがありますか。 」というアン ケートを、実際に協定を結んでいる住民に行った。 7-3.課題 企業に制度をより理解してもらうため、 制度の PR を行 う必要がある。 花屋を訪れるお客様は、花やガーデニングに興味があ 同様に、住民が事業者から三軒協定の紹介・説明を受 る人が多いだけに、こういった場で三軒協定のパンフレ けていた場合、それが実際に協定を結ぶきっかけになっ ットなどを配ることができれば、三軒協定に興味をもっ たのか調べるため、 「三軒協定を始めたきっかけは何です ていただける方も多いと考える。今後、市からの情報提 か。 」というアンケートを行った。 供や指導が必要である。 8.参考文献 図 4.住民アンケート結果 ・戸田市都市計画課:戸田市景観計画・戸田市都市景観条例のあらまし (2010) ・戸田市提供資料 ・世古一穂、参加と協働デザイン NPO・行政・企業の役割を再考する,学 芸出版社 ・鈴木智香子-街並み形成施策上の位置づけと「三軒協定」締結状況-日 本建築学会大会学術講演梗概集
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