見る/開く - 奈良教育大学学術リポジトリ

奈良教育大学紀要 第42巻第1号(人文・社会)平成5年
Bull. Nara Univ. Educ., Vol.42, No. 1 (Cult.&Soc.). 1993
中国と日本におけるカテゴリー典型性の比較
干 斌* ・杉 村 健
(奈良教育大学心理学教室)
(平成5年4月1日受理)
人工カテゴリーから自然カテゴリーへと、概念研究の視点を転換させたといわれている
Rosch (1978)は、自然概念の構造について、水平次元と垂直次元を仮定した。水平次元とは、
同じように"動物"というカテゴリーに属していても、最も動物らしいのはライオンやトラであ
り、逆に最も動物らしくないのはヘビやカエルであるというように、 "動物らしさ"即ち典型性
の程度によって事例が配列される族類似構造(Rosch & Mervis, 1975)のことである。垂直次
元とは、秋田犬、イヌ、晴乳類、動物、生き物というように、より下位の水準からより上位の水
準へと事例が配列される階層構造(Roschら, 1976)のことである。本研究では、前者のカテゴ
リー典型性(Tyticality)を取り上げる。
カテゴリーとは、何らかの特徴を共有し、等価であると認識される2つ以上の事例のまとまり
のことである.同じカテゴリーに属する事例であっても、典型的な事例と典型的でない事例があ
り、そのカテゴリーの表象は典型事例を中心に構成されていると考えられる。例えば、同じよう
に"動物"というカテゴリー名を用いても、ある人は動物園にいる動物を思い浮べているかもし
れないし、別の人は家で飼育している動物を恩い浮べているかもしれない。前の人にとっては、
ライオンやトラが動物の典型であり、それらを中心にして動物カテゴリーの表象が形成されてい
るであろう。後の人にとっては、イヌやネコが動物の典型であり、それらを中心にしてカテゴ
リーの表象が形成されているであろう。このように考えると、カテゴリーに属する事例の典型性
評定に基づいてカテゴリーの表象を推測することができる。
遠藤・井上・梅本(1985)は、小学5年生には動物、果物、乗物、それぞれ20事例、中学2
年生と高校1年生には野菜、烏、家具を加えた6カテゴリー、それぞれ30事例について、 "とて
も○○ (カテゴリー名)らしい"から``全然○○らしくない"の7段階で典型性を評定させた。
その結果、例えば果物カテゴリーでは、 5年生はリンゴを最も典型的であると評定したが、高校
生の評定値は6位であり、 5年生のバナナの評定値は10位であったが、高校生は3位であった。
藤田・亀井(1988)は、動物、魚、鳥、果物、野菜、衣類、スポーツ、それぞれ20事例につい
て、 "非常に○○らしい"から"非常に○○らしくない"の7段階で、大学生に評定させた。例
えばスポーツではラクビーが最も高く、バスケットボール、サッカーの順であり、ボウリングや
釣りが最下位であった。動物ではサルは19位で典型性が低かったが、遠藤ら(1985)の5年生
では6位であり、 5年生の方がより典型的と評定している。以上の諸結果から、年齢によってカ
テゴリ-の表象が異なることが示唆される。
次に、 Rosch (1975)の研究もそうであるが、関連するアメリカの研究では、烏の典型事例と
'現在名古屋大学大学院国際理解研究科博士課程後期在学中
133
干 斌・杉 村 健
134
してコマドリをあげているものが多い。日本の研究では、コマドリの典型性は評定させていない
が、最も典型的な烏はスズメであり(藤田・亀井, 1988)、連想語嚢表(国立国語研究所, 1981)
でも、 4年生も大学生もともにスズメの生成頻度が最も高く、コマドリについては4年生が100
中1名だけであり、大学生は誰も生成しなかった。以上のことから、同じように烏という言葉な
いしカテゴリー名を用いても、アメリカ人の多くはコマドリを思い浮べ、日本人の多くはスズメ
を思い浮べるというように、人々が置かれている社会・文化的背景によってカテゴリーの表象が
異なることが示唆される。
本研究の目的は、中国と日本の小学生と大学生に、動物、果物、乗物、野菜、烏のカテゴリー
に属する事例について典型性を評定させ、それぞれのカテゴリーの表象が年齢と社会・文化的背
景によってどのように異なるかを検討することである。そのために、従来の研究を参考にして、
中国にも日本にも通用できると考えられる事例を、各カテゴリーにつき15ずつ用意した。なお、
中国、日本ともに調査対象が1つの地域ないし学校に限られているので、結果の一般性について
は限界があることは言うまでもない。
方 法
調査対象 中国の小学生は、吉林省長春市第一自動車製造願子弟第三小学校の5年生146名
(男子68名、女子78名)であり、大学生は書林大学と長春漢方医科大学の学生153名(男子87
名、女子66名)であった。日本の小学生は、奈良県川西町立結崎小学校の5年生90名(男子
48名、女子42名)であり、大学生は奈良教育大学の学生153名(男子86名、女子67名)で
warn.
事例 従来の日本の研究(国立国が研究所, 1981;遠藤ら, 1985;藤田・亀井, 1988)を参考に
して、中国の子どもたちでも知っていると考えられるもので、典型性評定値の分布ができるだけ
広がるような事例を、各カテゴリーにつき15ずつ選択した。
動物:ウマ、シカ、イヌ、キツネ、パンダ、サル、キリン、ゾウ、イノシシ、クマ、ウサギ、
オオカミ、ラクダ、トラ、ライオン。
果物:リンゴ、ミカン、ブドウ、スイカ、カキ、サクランボ、ナシ、バナナ、イチゴ、クリ、
アンズ、ザクロ、メロン、モモ、パイナップル。
乗物.'クルマ、デンシャ、ジテンシャ、サンリンシャ、エレベーター、プランコ、トラック、
オートバイ、ヘリコプター、ボート、ヨット、ウバグルマ、ヒコウキ、バス、フネ。
野菜:キャベツ、ニンジン、キュウリ、トマト、インゲン、エンドウ、ナス、タマネギ、キノ
コ、ジャガイモ、セロリ、ニラ、ハクサイ、ピーマン、ダイコン。
烏:スズメ、-ト、カラス、ダチョウ、ペンギン、カモ、バクチョウ、ツル、ニワトリ、ア
ヒル、クジャク、ミミズク、ツバメ、タカ、カモメ。
手続き カテゴリー名を枠で囲み、その下に15の事例を縦に配列し、各事例の槙に1から7
までの数字を付した評定尺度が目盛ってある。最初の事例の尺度には、 1の数字の上に"もっと
もらしい"、 4の数字の上に"中間"、 7の数字の上に"もっともらしくない"と書いてある。 B
4版の用紙に、左から順に上記のカテゴリー名と尺度を印刷したものを配布し、各事例について
尺度上の該当する数字に○印を付けてもらった。
中国と日本におけるカテゴリー典型性の比較
135
結果と考察
典型性評定値の平均の比較 各事例の典型性評定値の平均について、 2(中国、日本)・×2(小学
生、大学生)の分散分析を行なった。有意水準はすべて5%以下とし、その主な結果は以下の
とおりである。
(1)動物-国の主効果はすべての事例で有意であり、中国ではパンダ、サル、クマの3事例
をより典型的と評定し、日本では残りの12事例をより典型的と評定した。年齢の主効果は10事
例で有意であり、大学生はウマ、イヌ、イノシシ、クマ、オオカミ、ラクダ、トラ、ライオンの
8事例をより典型的と評定し、小学生はサルとウサギをより典型的と評定した。交互作用は6事
例で有意であった。中国ではイヌ、イノシシ、トラを大学生が、パンダとゾウを小学生がより典
型的と評定した。日本では大学生がシカをより典型的と評定した。
15事例の典型性評定値を各群について平均すると、中国の小学生は2.66、大学生は2.55、日
本では同じ順に2.11と1.83であった。全体的に日本の方がより典型的と評定している。
(2)果物-国の主効果はアンズとクリ以外の13事例で有意であり、中国ではスイカをより
典型的と評定し、日本ではそれ以外の12事例をより典型的と評定した。年齢の主効果はモモ、
リンゴ、ミカン、バナナ、アンズの5事例で有意であり、アンズ以外は大学生がより典型的と評
定した。交互作用は5事例で有意であった。中国ではミカンとリンゴを大学生が、クリを小学生
がより典型的と評定した。日本ではクリとメロンを大学生が、アンズを小学生がより典型的と評
定した。
15事例の平均は、中国では小学生も大学生もともに2.43、日本では小学生が1.84、大学生が
1.76であり、年齢差はなく国の違いだけが顕著で、日本の方が明らかに典型的と評定している。
(3)乗物-国の主効果は全事例で有意であり、すべてE]本の方が典型的と評定したが、サン
リンシャ、プランコ、ボート、ウバダルマで特に顕著な差があった。年齢の主効果は6事例で有
意であり、デンシャ、ジテンシャ、ヒコウキ、バス、フネの5事例は大学生がより典型的と評定
し、ブランコは小学生がより典型的と評定した。交互作用は8事例で有意であった。中国ではデ
ンシャ、ジテンシャ、ヒコウキ、バス、フネを大学生が、エレベーターとトラックを小学生がよ
り典型的と評定した。日本ではヨットを大学生がより典型的と評定した。
15事例の平均は、中国では小学生も大学生もともに2.93、日本では小学生が1.86、大学生が
1.76であり、果物と同様な結果であった。
(4)野菜-国の主効果はエンドウ、セロリ、キノコ、ニラ以外の11事例で有意であり、い
ずれも日本の方が典型的と評定した。年齢の主効果は7事例で有意であり、ナス、タマネギ、セ
ロリ、ハクサイ、ピーマン、ダイコンの6事例は大学生がより典型的と評定し、インゲンは小学
生がより典型的と評定した。交互作用は3事例で有意であった。中国ではニラとピーマンを大学
生が、エンドウを小学生がより典型的と評定した。日本ではエンドウを大学生が、ニラを小学生
がより典型的と評定した。
15事例の平均は、中国の小学生は2.31、大学生は2.14、日本では同じ順に1.63と1.51であり、
国の違いはあるが、他のカテゴリー事例よりも典型的と評定する傾向があった。
(5)鳥-国の主効果はミミズク以外の14事例で有意であり、いずれも日本の方がより典型
的と評定したが、カモ、ニワトリ、アヒルの3事例で特に顕著な差があった。年齢の主効果はダ
チョウ、バクチョウ、ミミズク、カモメ以外の11事例で有意であり、いずれも大学生がより典
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干 斌・杉 村 健
型的と評定した。交互作用は9事例で有意であった。中国ではスズメ、 -ト、カラス、カモ、ミ
ミズク、ツバメを大学生がより典型的と評定し、日本ではダチョウ、ペンギン、ニワトリを大学
生がより典型的と評定した。
15事例の平均は、中国の小学生は3.33、大学生は2.91、日本では同じ順に1.98と1.57であり、
他のカテゴリー事例よりも年齢差が大きかった。
以上の結果から次のことが考えれれる。国の主効果はほとんどの事例で有意であり、 4事例以
外は日本の方がより典型的と評定した。パンダ、サル、クマ(動物)、スイカ(果物)は中国の
方がより典型的と評定しており、日本と比べて中国では、これらの事例がカテゴリー表象の中心
であることが示唆される。年齢の有意な主効果は烏が最も多く(11事例)、果物が最も少なかっ
た(5事例)。多くの事例を大学生の方がより典型的と評定したが、サル、ウサギ(動物)、アン
ズ(果物)、プランコ(乗物)、インゲン(野菜)の5事例は小学生の方がより典型的と評定して
おり、大学生と比べて小学生では、これらの事例がカテゴリー表象の中心であることが示唆され
る。有意な交互作用は鳥が最も多く(9事例)、野菜が最も少なかった(3事例)。年齢差があっ
た事例の数は、動物(中国5、日本1)と車(中国7、日本1)では中国が多く、烏(中国6、
日本3)でも若干多かったことから、これらのカテゴリー表象の発達的な違いは日本よりも中国
の方が大きいことが示唆される。
典型性評定値の順位の比較 これまでに述べてきた平均値の比較は、評定値そのものが国に
よって、あるいは年齢によってどのように異なるかを検討したものであるが、国や年齢によって
全体的に高く評定したり、低く評定する傾向があるので、国や年齢の違いが生じるのは当然のこ
とかもしれない。そこで別の方法として、それぞれの群の中で各事例の平均値に順位をっけ、よ
り典型的と評定された5事例と、より典型的でないと評定された5事例について比較した。これ
によって、各群ごとのカテゴリー表象を推測し、群間の比較をすることができる。以下の表では、
より典型的な1位から5位までの事例と、より典型的でない11位から15位までの事例の順位を
無視して、各群に共通する事例が多いものから配列した。括弧内に示したのは、より典型的な場
合は6位の事例、より典型的でない場合は10位の事例である。
(1)動物丁表1に示したように、 4群に共通している典型的な事例はライオンとトラ、典型
的でない事例はウサギだけであった。中国の小学生では典型的な事例はゾウ、サル、パンダ、キ
ツネであるのに対して、大学生ではオオカミ、クマ、イノシシ、シカであった。また、小学生が
典型的としているサルとパンダは大学生は典型的でないとし、逆に、大学生が典型的としている
オオカミとイノシシは小学生は典型的でないとした。日本では小学生も大学生もともに、ライオ
ン、トラ、ゾウ、ウマ、イヌが典型的な事例であり、典型的でない事例も小学生と大学生がほと
んど同じであった。日本ではイヌやウマが典型的な事例であるのに、中国では典型的でない事例
であった。
以上の結果から、動物のカテゴリ-表象は中国と日本ではかなり異なっていること、中国では
小学生と大学生でもかなり異なるが、日本では小学生と大学生の違いが殆どないことが示唆され
る。同じように"動物''という言葉でも、中国の小学生はライオンやトラに加えてサルやパンダ
を思い浮べ、大学生はオオカミやイノシシを思い浮べるであろう。日本では小学生も大学生もラ
イオンやトラに加えてイヌやウマを思い浮べるであろう。このような違いは、日常の生活環境や
経験を反映しているものと考えられる。
中国と日本におけるカテゴリー典型性の比較
137
表1動物のより典型的な事例とより典型的でない事例
より典型的な事例
Fnr
Ei -
W
蝣 ^ j ' ¥ ・ ¥ ^ S
3
シ
V /
ネ ) ン )
ツ カ リカ
キ シキ シ
・
ン ノ ヌ ヌ
パ イイイ
ル マ マ マ
ゾウ
オオカミ
ゾウ
ゾウ
サ ク ウ ウ
一フ tフ一フ う
ト ト ト ト
ン ン ン ン
オオオオ
]フ一フ一フ一フ
イ イ イ イ
中国 小学生
大学生
E]本 小学生
大学生
より典型的でない事例
中国 小学生 ウサギ イヌ ウマ ラクダ イノシシ
大学生 ウサギ パンダ サル ラクダ キリン
日本 小学生 ウサギ パンダ サル クマ オオカミ
大学生 ウサギ パンダ サル クマ キツネ
(2)果物-表2に示したように、典型的な事例は4群ともリンゴ、ミカン、ブドウ、ナシ、
モモであり、これらが果物のカテゴリー表象の中心であることが示唆される。日本ではパイナッ
プルが典型的な果物に入っており、かなり普及していることによるのかもしれない。典型的でな
い事例は4群ともクリ、カキ、ザクロ、アンズ、サクランボ、イチゴであり、サクランボやイチ
ゴがあまり典型的でない果物と考えられていることは興味深い。以上のように、典型的な事例も
典型的でない事例も4群がはとんど同じであるので、果物のカテゴリー表象は中国でも日本でも、
小学生も大学生も、ほとんど同じであることが示唆される。
表2 果物のより典型的な事例とより典型的でない事例
より典型的な事例
中国 小学生リンゴ ミカン ブドウ ナシ モモ (バナナ)
大学生リンゴ ミカン バナナ ナシ モモ (ブドウ)
日本 小学生リンゴ ミカン ブドウ ナシ パイナップル (モモ)
大学生リンゴ ミカン ブドウ モモ パイナップル (バナナ)
カ カ カ カ
キキキキ
乱 此 b^
ク ク ク ク
国 本
中 日
生生生生
学学学学
小大小大
より典型的でない事例
ザクロ イチゴ
ザクロ イチゴ
ザクロ アンズ
ザクロ アンズ
サクランボ (アンズ)
サクランボ (アンズ)
スイカ (サクランボ)
スイカ (イチゴ)
(3)乗物-表3に示したように、典型的な事例は4群ともクルマ、デンシャ、ヒコウキ、バ
スであり、これらが乗物のカテゴリー表象の中心であることが示唆される。中国も日本もとに大
学生ではジテンシャがはいっており、これは通学などに用いることが影響しているのかもしれな
い。典型的でない事例は4群とも全く同じであり、エレベータ-、サンリンシャ、ウバグルマ、
ブランコ、ポート、ヨットであった。これらの事例は、人や物を運搬するという機能とあまり結
びっかないものである。以上の結果から、乗物のカテゴリー表象は果物と同様に、中国でも日本
でも、小学生も大学生も、ほとんど同じであることが示唆される。
138
干 斌・杉 村 健
表3 乗物のより典型的な事例とより典型的でない事例
より典型的な事例
中国 小学生 クルマ デンシャ ヒコウキ オ-トバイ トラック (バス)
大学生 クルマ デンシャ ヒコウキ ジテンシャ バス (フネ)
E]本 小学生 クルマ デンシャ ヒコウキ オートバイ バス (ヘリコプター)
大学生 クルマ デンシャ ヒコウキ オ-トバイ パス (ジテンシの
より典型的でない事例
中国 小学生 エレベータ- サンリンシャ ウパダルマ プランコ ボート (ヨット)
大学生 エレベ-ター サンリンシャ ウバグルマ プランコ ポート (ヨット)
日本 小学生 エレベーター サンリンシャ ウバダルマ プランコ ヨット (ポート)
大学生 エレベータ- サンリンシャ ウバグルマ プランコ ヨット (ポート)
(4)野菜-表4に示したように、 4群に共通している典型的な事例は-クサイとキュウリ、
典型的でない事例はキノコとトマトだけであり、特に、典型的な事例における中国と日本の違い
が顕著であった。中国の小学生と大学生に共通している典型的な事例は、ハクサイ、キュウリ、
セロリ、ニラ、ナスであり、日本の小学生と大学生に共通している事例は、ハクサイ、キュウリ、
キャベツ、ダイコン、ニンジン、ピーマンであった. -クサイとキュウリは中国と日本で一致し
ているが、セロリ、ニラ、ナスは中国特有であり、キャベツ、ダイコン、ニンジンは日本特有で
あった。ダイコンとニンジンは中国では典型的でない事例であり、ニラは日本では典型的でない
事例であったD典型的でない事例は、日本では小学生も大学生もともにキノコ、インゲン、エン
ドウ、ジャガイモ、トマト、ニラであり、年齢による違いがなっかた。中国ではキノコ、タマネ
ギ、ニンジンが共通しているが、小学生はピーマンとダイコン、大学生はインゲンとェンドゥを
典型的でない事例としており、年齢による違いがあった。ピーマンについては、中国の大学生で
は典型的な事例であるが、小学生では典型的でない事例であり、年齢による違いが明らかである。
以上の結果から、野菜のカテゴリー表象が中国と日本ではかなり異なることが示唆される。同
じように"野菜''という言葉を使ったり聞いたりしても、中国ではセロリやニラやナスなどのイ
メ-ジを浮かべるであろうし、日本ではキャベツやダイコンやニンジンなどのイメージを浮かべ
るであろう。このような違いは、日常生活における食習慣を反映しているものと考えられる。
表4 野菜のより典型的な事例とより典型的でない事例
より典型的な事例
中国 小学生 -クサイ キュウリ セロリ ニラ ナス (キャベツ)
大学生 ハクサイ ピーマン セロリ ニラ ナス (キュウリ)
El本 小学生 ハクサイ キュウリ キャベツ ダイコン ニンジン (ピーマン)
大学生 ピーマン キュウリ キャベツ ダイコン ニンジン (-クサイ)
より典型的でない事例
中国 小学生 キノコ ピーマン ダイコン タマネギ トマト (ニンジン)
大学生 キノコ インゲン エンドウ タマネギ ニンジン (トマト)
日本 小学生 キノコ インゲン エンドウ ジャガイモ トマト (ニラ)
大学生 キノコ インゲン エンドウ ジャガイモ ニラ (トマト
中国と日本におけるカテゴリー典型性の比較
139
(5)局-表5に示したように、典型的な事例は4群ともスズメ、ツバメ、タカ、 -ト、カモ
メであった。日本では小学生と大学生が全く同じであったが、中国の小学生では-クチョウが、
大学生ではカラスが典型的な事例であるという若干の違いがあった。典型的でない事例は4群と
もアヒル、ダチョウ、ペンギン、ニワトリ、クジャクであり、中国ではカモ、日本ではミミズク
が加わっている.全体的にみると、烏のカテゴリー表象は中国でも日本でも、小学生も大学生も
ほぼ同じであることが示唆される。
表5 鳥のより典型的な事例とより典型的でない事例
ー \ノ JP
¥ 'V / V ^ ¥_^
) ス メ メ
トラモ モ
ハ カカカ
メ メ ス ス
モ モ ララ
カ カ カ カ
ヨ
ウ
チ
\ \ \ \
ノ ノ ノ ノ
ク ト ト ト
カ カ カ カ
タ タ タ タ
ツ ツ ツ ツ
メ メ メ メ
ヾ ヾ ヾ ヾ
ノ ノ ノ ノ
メ メ メ メ
ス ス ス ス
ズズズズ
生生生生
gSSSSES
小大小大
中 日
IK3
より典型的な事例
より典型的でない事例
中国 小学生 アヒル
大学生 アヒル
日本 小学生 アヒル
大学生 アヒル
ダチョウ
ダチョウ
ダチョウ
ペンギン ニワトリ カモ
ダチョウ
ペンギン ミ ミズク クジャク
ペンギン ニワトリ カモ
ペンギン ニワトリ クジャク
典型性評定値の相関 典型性評定値の群間の類似性(または差異性)を査定する1つの方法と
して、カテゴリーごとに15事例の評定値の相関を算出することができる。ここでは、評定値に
1から15までの順位をっけ、 2群問の順位相関を求めた。その結果が表6である。
動物では、日本の小学生と大学生の相関だけが有意であり、その他の2群間の相関は有意でな
く、特に、中国の小学生と大学生の相関は0に近かった。このように、 15事例を考慮した場合
にも、典型性評定値の順位が日本では小学生と大学生はかなり一致していているが、中国では年
齢による違いがあり、さらに、中国の小学生と日本の小学生、および中国の大学生と日本の大学
生はあまり類似していない。以上の結果から、動物のカテゴリー表象は中国と日本ではかなり異
なること、中国の小学生と大学生では違いがあるが、日本に小学生と大学生では類似しているこ
とが示唆される。
果物、乗物、鳥では、どの組合せでもかなり高い相関があり、 15事例を考慮した場合でも、
より典型的な事例とより典型的でない事例が、 4群でかなり一致している。これらの結果から、
果物、乗物、鳥のカテゴリー表象は、中国でも日本でも、小学生も大学生もほとんど同じである
ことが示唆される。野菜では、日本の小学生と大学生の相関は非常に高かったが、中国の小学
表6 典型性評定値の順位相関
動 物
果 物
乗 物
野 菜
烏
中
国
小 学 生 と大 学 生
. 22
.98 "
ー8 9 H
.5 0 "
.93 "
日
本
小 学 生 と大 学 生
.90 "
.89 "
. 92 "
.9 6 "
.90 "
小 学 生
中 国 と 日本
.07
.78 "
.2 2
.77 "
大 学 生
中 国 と 日本
.29
.86 "
.5 1 -
.79 "
* p<.05 "p<.01
Q Q *・
. 94 "
子 斌・杉 村 健
140
生と日本の小学生の相関は低く、中国の小学生と大学生、中国の大学生と日本の大学生の相関は
中程度であった。これらの結果から、野菜のカテゴリー表象は日本の小学生と大学生では殆ど同
じてあるが、中国と日本、中国の小学生と大学生では若干異なることが示唆される。
要 約
本研究の目的は、自然概念のカテゴリー表象が発達および社会文化的背景によって異なるかど
うかを検討することであった。
中国と日本の小学5年生と大学生に、動物、果物、乗物、野菜、鳥それぞれ15事例の典型性
について、 7段階で評定を求めた。
評定値の平均の比較:各事例について国×年齢の分散分析を行なった。国の主効果は68事例
で有意であり、パンダ、サル、クマ、スイカ以外の64事例を、中国よりも日本の方が典型的で
あると評定した。年齢の主効果は39事例で有意であり、サル、ウサギ、アンズ、ブランコ、イ
ンゲン以外の34事例を、小学生よりも大学生の方がが典型的であると評定した。交互作用は31
事例で有意であった。年齢差は中国では24事例、日本では9事例で有意であり、カテゴリー表
象の発達的変化は日本よりも中国の方が顕著であることが示唆された。
各カテゴリー内のより典型的な事例の比較:動物のより典型的な事例は、中国の子どもではラ
イオン、トラ、ゾウ、サル、パンダであり、大人ではライオン、トラ、オオカミ、クマ、イノシ
シであった。日本では子どもも大人も、ライオン、トラ、ゾウ、ウマ、イヌであった。これらの
結果から、動物のカテゴリー表象は中国と日本で異なること、また、カテゴリー表象の年齢差は
中国だけでみられることが示唆された。
果物のより典型的な事例は、 4群ともリンゴ、ミカン、ブトウ、ナシ、モモであり、乗物でも
4群ともクルマ、デンシャ、ヒコウウキ、バスであった。また、烏のより典型的な事例も4群と
もスズメ、ツバメ、カタ、ハト、カモメであった。これら結果から、果物、乗物、烏のカテゴ
リ-の表象は、中国でも日本でも、子どもでも大人でも、あまり違いがないことが示唆された。
野菜のより典型的な事例は、中国では子どもも大人も、 -クサイ、キュウリ、セロリ、ニラ、
ナスであり、日本では子どもも大人も、 -クサイ、キュウリ、キャベツ、ダイコン、ニンジンで
あった。これらの結果から、野菜のカテゴリー表象は中国と日本で異なることが示唆された。
引用文献
遠藤由美・井上 毅・梅本尭夫1985 小学生、中学生、高校生における基本カテゴリーのティピカリティ
評定値-児童、青年の知識構造-梅本尭夫 認知と遂行に関する研究, 103-116.
藤田 正・亀井千弘1988 概念カテゴリー構造に関する研究 奈良教育大学教育研究所紀要, 24,67-76.
国立国語研究所1981幼児・児童の連想語嚢表 東京:東京書籍
Rosch, E. 1975 Cognitive representation of semantic categories. Journal of Experimen tal Psychology : General, 104, 192 - 233.
Rosch, E. 1978 Principles of Categorization. In E. Rosch & B. B. Lloyd (Eds.), Cognition and categorization. Hillsdale, N. J∴ LEA, pp. 27 - 48.
Rosch, E., & Mervis, C. B. 1975 Family resemblance : Studies in the inernal structure of categories.
Cognitive Psychology, 7 , 573 - 605.
中国と日本におけるカテゴリー典型性の比較
141
Rosch, E., Mervis, C. B., Gray, W. D., Johson, D. ML, & Boyes-Braem, P. 1976 Basic objects in natural
categories. Cognitive Psychology, 8 , 382 - 439.
く付記)本研究を行なうにあたり、中国吉林省長春市第一自動車製造廠第三小学校、書林大学、長春漢方医
科大学、奈良県磯城郡川西町結崎小学校および奈良教育大学の児童、学生の協力を得ました。記して感謝の
意を表します。
14J
Comparisons of Category Typicality in China and Japan
Yu Bin and Takeshi Sugimura
{Department of Psychology, Nara University of Education, Nara 630, Japan)
(Received April 1 , 1993)
The purpose of this study was to examine whether the category representation of
natural kinds differed in age or development and sociocultural background.
Fifth graders and colledge students in China and Japan were required to rate the
category typicality of 75 instances by the use of 7-point scales. Fifteen instances belonged to each category of animal, fruit, vehicle, vegitable, and bird.
(a) Comparisons of mean rating scores: Separate nation by age analyses of variances were performed for each instance. The main effect of nation was significant in 68
instances, which showed that Japanese rated the instances as more typical than Chinese
except Panda, Monkey, Bear, and Watermelon. The main effect of age was significant in
39 instances, which showed that adults rated the instances as more typical than children
except Monkey, Rabbit, Apricot, Swing, and Kidney bean. The interaction was sigmficant in 31 instances. The age differences were found in 24 instances for Chinese and in 9
instances for Japanese, which suggested that developmental changes in the category
representation were more evident for Chinese than for Japanese.
(b) Comparisons of more typical instances within each category : More typical instances of animal were Lion, Tiger, Elephant, Monkey, and Panda for Chinese children,
and Lion, Tiger, Wolf, Bear, and Wild boar for Chinese adults. Those instanes were Lion,
Tiger,
Elephant,
Horse,
and
Dog
for
Japanese
children
and
adults.
The
findings
sug一
gested that the category representation of animal differed in China and Japan, and that
the age differences in category representation were found only in China.
More typical instances of fruit were Apple, Orange, Grapes, Pear, and Peach for all
groups. Those instances of vehicle were Car, Train, Airplane, and Bus for all groups.
Those instances of bird were Sparrow, Swallow, Hawk, Pigeon, and Gull for allgroups.
These findings suggested that the category representation of fruit, vehicle, and bird was
similar regardless of the nation and age.
More typical instances of vegetable were Chinese cabbage, Cucumber, Celery, Leek,
and Eggplant for Chinese children, and adults, and Chinese cabbage, Cucumber, Cabbage,
Japanese radish, and Carrot for Japanese children and adults. The findings suggested
that the category representation of vegetable differed in China and Japan.