第48回日本理学療法学術大会(名古屋) P-A運動-086 大腿骨近位部骨折患者の Berg balance scale による歩行獲得の目安 鳥井 泰典 1), 飛永浩一朗 1), 泉 清徳 1), 後藤 正樹 2), 渡邉 哲郎 2), 井手 睦 2) 1) 雪の聖母会 聖マリア病院 リハビリテーション室 , 2) 雪の聖母会 聖マリア病院 リハビリテーション科 key words 大腿骨近位部骨折・BBS・歩行 【はじめに、目的】 大腿骨近位部骨折患者をバランス能力の面から検討している研究は少ない。また、大腿骨近位部骨折患者のバランス能力 の経過を Berg Balance Scale(以下、BBS)により継時的にみた先行研究は見当たらない。今回、大腿骨近位部骨折患者にお いて退院時に自立歩行(T 字杖歩行または独歩)を獲得していた群(以下、歩行獲得群)と自立歩行が困難であった群(以下、 非歩行獲得群)で BBS を継時的に比較・検討した。その結果、在宅退院に向けた目安の一助となる結果を得たので報告する。 【方法】 対象は大腿骨頸部骨折または大腿骨転子部骨折後に回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期リハ病棟)を 2009 年 2 月から 2012 年 2 月までに退院した 21 名(男性 3 名、女性 18 名)で平均年齢 75.6 ± 11.3 歳であった。対象者は全員が観血 的加療として骨接合術が選択され、人工骨頭置換術を施行された患者は含まなかった。また、受傷前歩行能力は独歩が自 立していた患者とした。この対象者 21 名を歩行獲得群(12 名、平均年齢 76.7 ± 8.1 歳 )と非歩行獲得群(9 名、平均年齢 80.1 ± 7.3 歳)の 2 群に分け、回復期リハ病棟転入時、転入より 4 週時、転入より 8 週時、退院時の BBS 測定結果を二元配 置分散分析により解析し、多重比較検定(Tukey)により比較・検討した。さらに、歩行獲得群と非歩行獲得群の 2 群間に おいて、年齢、長谷川式簡易知能評価スケール(以下、HDS ‐ R)、受傷から理学療法開始までの期間、受傷から手術までの 期間、手術から回復期転入までの期間、手術から BBS 測定までの期間(回復期転入時、転入から 4 週時、8 週時、退院時)に ついては Mann-Whitney's U test にて検討した。解析には SPSS を用い、有意水準は 5%とした。 【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院の臨床研究審査会の承認を得て行なった。 【結果】 歩行獲得群では回復期リハ病棟転入時と転入から 4 週時、転入から 4 週時と 8 週時の間で有意に BBS の向上を認めたが (P<0.05) 、8 週時と退院時の BBS には有意差を認めなかった。非歩行獲得群では転入時と転入から 4 週時で同様に有意な BBS の向上を認めたが(P<0.05) 、4 週以降の BBS には有意な向上を認めなかった。また、歩行獲得群と非歩行獲得群の 2 群間で転入時の BBS は有意差を認めなかったものの、転入から 4 週時の BBS において歩行獲得群でより有意に BBS の向 上を認めた(P<0.05) 。これらの他に 2 群間における年齢、HDS ‐ R、受傷から理学療法開始までの期間、受傷から手術ま での期間、手術から BBS 測定までの期間には有意差を認めなかった。手術から回復期転入までの期間についても有意差は 認めなかったものの、歩行獲得群が非歩行獲得群よりも早期に回復期に転入している傾向にあった(P<0.06)。 【考察】 歩行獲得群では回復期リハ病棟転入から 8 週(手術から平均日数 76.3 ± 7.1 日)までに平均 47.9 ± 3.8 点となり BBS は有 意に向上していた。この点数は Harada が述べている屋外歩行困難のカットオフ値 48 点や Berg が屋外歩行自立の妥当性と して示した 48.3 点とほぼ同等の点数である。また、 Bergは地域在住高齢者が安全に歩行できる目安は 45 点とも述べており、 術後約 76 日までに BBS でおおよそ 48 点程度のバランス能力を有するか否かを大腿骨近位部骨折患者が歩行獲得を目標と する際の 1 つの目安にできるのではないかと考える。一方、非歩行獲得群でも転入から 4 週までの期間に BBS は有意に向 上したものの、 2 群間の BBS では 4 週時点ですでに有意差を認めていた(歩行獲得群:平均点数 40.8 ± 2.8 点、非歩行獲得群: 平均点数 33.0 ± 3.8 点) 。さらに、非歩行獲得群では 4 週以降に BBS の有意な向上を認めないことや、歩行獲得群で転入か ら 8 週以降は退院まで有意な BBS の向上を認めないことから、歩行獲得を目指す上で早期からバランス能力に目を向けた 理学療法アプローチが重要となるのではないかと考える。歩行獲得群では手術から回復期リハ病棟転入までの期間が短い 傾向にあったことから(P<0.06) 、早期から回復期リハ病棟において充実した理学療法が提供できたことも歩行獲得に至っ た一要因として考えられる。 【理学療法学研究としての意義】 医療現場では加速的アプローチによる在院日数の短縮化が求められており、在宅退院を目指す回復期リハ病棟において歩 行獲得は 1 つの大きな目標である。今回の研究で歩行獲得群では回復期転入より 8 週間(術後約 76 日)までに BBS で約 48 点程度のバランス能力を有し、屋外歩行自立レベルに達する傾向が示唆された。今後は症例数を増やして歩行獲得に至る までの期間と継時的 BBS の関係をより明確にしていく必要性がある。明確化した値を基準として入院患者の BBS と定期的 に比較することで、理学療法の進行程度の確認や是正が可能となり、在宅退院に向けた目安の一助になると考える。
© Copyright 2024 ExpyDoc