論文 スタイルベンチマークの銘柄入れ替えとリターン格差 住友信託銀行 パッシブ・クォンツ運用部 主任調査役 矢 野 学 目 次 1. バリュー株効果とリターン・リバーサル効果 2. データ 3. スタイルリターン格差における銘柄入れ替えとリバーサル効果の影響 4. まとめ 参考文献 わが国では、低 PBR(株価純資産倍率)銘柄のリターンが高い、いわゆるバリュー株効 果や、過去のリターンが低かった銘柄のその後のリターンが高いリターン・リバーサル効 果がかなりはっきりと観測される。バリュー株は PBR の高低で定義されることが多いが、 それは株価の変動によって高くもなったり低くもなったりするため、株価の動き次第でバ リュー株かグロース株のどちらかに分類されるという可能性がある。加えて、リターン・ リバーサル効果が観測されるとすれば、過去のリターンが高かったグロース株は、過去の リターンが低かったバリュー株に対して相対的に劣後することが想定される。つまり、バ リュー株効果はリバーサル効果を観測しているに過ぎない可能性があるとも考えられるの だ。そこで本稿では、スタイル・ベンチマークを用いて、バリュー株への組み入れとそれ 以前のリターンとの関係や、バリュー株効果の内で銘柄入れ替えとリバーサル効果の影響 がどの程度あるのか、などについて簡単な数値検証を行った。その結果、ある銘柄入れ替 え時点でバリュー株に組み入れられる銘柄は、それ以前のリターンが相対的に低く、価格 の下落から PBR が低下し、バリュー株となる傾向があることが示された。さらに、その後 の銘柄入れ替えとリターン・リバーサル効果の影響によって、スタイル・ベンチマーク間 のスプレッド・リターンをかなりの程度説明できることがわかった。 本稿は、 (社)日本証券アナリスト協会発行の『証券アナリストジャーナル』誌(2005 年 10 月号)に 掲載された論文を、同協会の許可を得て再掲載するものである。 本稿を執筆するにあたり、浅野幸弘氏(横浜国立大学)に非常に多くの有益なコメントをいただいたことに 感謝する。なお、本稿の内容は、筆者の所属する組織を代表するものではなく、個人的見解である。また、 本稿に残された誤りの全ては、筆者の責に帰するものである。 1 1. バリュー株効果とリターン・リバーサル効果 バリュー株効果とリターン・リバーサル効果 日本では趨勢的に、低 PBR(株価純資産倍率)銘柄のリターンが市場平均に比べて相対的 に高いというバリュー株効果が明確に観測されることが知られている。そこで、通常のス タイル・ベンチマークでは、PBR やその修正値の大小によって、バリュー銘柄とグロース 銘柄を分ける手法が採られている。さらに日本では、過去のリターンが低かった銘柄のそ の後のリターンが相対的に高いというリバーサル効果が観測されることも知られている。 こうしたバリュー株効果やリバーサル効果については、Fama and French (1993) や Lakonishok, Shleifer and Vishny (1994)、Bourguignon and de Jong (2003)、日本市場で は小林 (1997) など、多くの仮説に対して検証が試みられているが、これら現象の背景は必 ずしも明らかにはなっていない。 ところで、PBR とは、株価を貸借対照表上の(一株あたり)資本で除した値なので、いわ ば時価/簿価比率ともいうことができる。スタイル・ベンチマーク上での分類として、低 PBR 銘柄群であるバリュー株は、分母である(一株あたり)簿価資本がベンチマーク構成銘柄の中 でも相対的に大きな銘柄か、もしくは(一株あたり)簿価資本に対して分子である株価が相対 的に低い銘柄ということになる。通常、(一株あたり)簿価資本は、短期間には大きく変動す ることが少ないため、株価に大きな変動がない限り、前者は長期にわたってバリュー株に 分類される。一方で、後者は株価の変動によって PBR がベンチマーク構成銘柄に対して相 対的に高くもなったり低くもなったりするため、株価の動き次第で、バリュー株かグロー ス株のどちらかに分類されるという可能性がある。各社のスタイル・ベンチマークでは、 バリュー株とグロース株を分類する銘柄入れ替えのタイミングは年に 1∼2 回程度であるが、 仮に、この基準日より前に、株価が大きく上昇していれば銘柄入れ替え時の PBR が高まっ てグロース株に分類されるが、逆に株価が大きく下落して PBR が低下していればバリュー 株に分類される。つまり、過去のリターンが高かった銘柄がグロース株に含まれ、逆に過 去のリターンが低かった銘柄がバリュー株に含まれることになる。ここで、さらにリバー サル効果が観測されるとすれば、過去のリターンが高かったグロース株は、過去のリター ンが低かったバリュー株に対して相対的に劣後することが想定される。すなわち、バリュ ー株効果は、バリュー / グロース間の銘柄入れ替えによるリバーサル効果を観測している に過ぎない可能性があるのだ。 ここでは、バリュー株もしくはリバーサル効果が観測される原因にまで踏み込むのは避 けるが、果たしてこれらの効果が独立の現象と捉えることができるのか、もしくは同一の 現象を観測しているに過ぎないのか、さらにはスタイル・ベンチマークにおいて、バリュ ー株効果の内で銘柄入れ替えとそのリバーサル効果の影響がどの程度あるのか、などにつ いて、以下で簡単な数値検証を行う。 2 2. データ ここでは、代表的なスタイル・ベンチマークである Russell / Nomura 日本株インデッ クスを一例として、バリュー株効果と銘柄入れ替え銘柄のリバーサル効果の関連について 検証する。 Russell / Nomura 日本株インデックスは、全上場のうち浮動株調整時価総額上位 98% の銘柄から構成される浮動株時価総額方式の株価指数で、ラージ / スモールなどの規模別、 バリュー / グロースのスタイル別サブ・インデックスがある。銘柄入れ替えは原則年 1 回 実施され、規模別サブ・インデックスの分類には安定持株控除後の修正時価総額、バリュ ー / グロースの分類には簿価ベースでの自己資本に含み損益額を修正した修正 PBR が用 いられている。さらに、バリューもしくはグロース指数への組み入れは、どちらか一方に 排他的に組み入れられるわけではなく、バリューもしくはグロースの組み入れウェイトと して、それぞれにプロバビリティと呼ばれる 0∼100%のウェイト付けがなされている。バ リュー / グロースの各指数への組み入れウェイトは、さらに、浮動株比率を考慮して決定 されている1。したがって、学術的な研究で用いられることが Fama and French (1993) で 定義される SML や HML ファクターと比較すると、規模や PBR で分類している点は類似 しているものの、実際の運用での利用を前提としているために、ユニバースの全銘柄を用 いている他、時価総額に浮動株を考慮している点、PBR に含み損益の修正を加えている点、 バリューやグロースの組み入れウェイトを用いている点など、各種の工夫がなされている。 図 1 には、まず、公表されている Russell / Nomura 日本株インデックスのバリュー指 数のリターンからグロース指数のリターンを控除したスプレッド・リターンの推移を示し た。1997 年の二極化相場、1999 年のいわゆる IT 相場など、一時的に効果が見られない局 面があるものの、1980 年以降から 2005 年央までを通してみると、大きなバリュー株効果 が得られていることが確認できる。 次に、この低 PBR 株効果が、過去にリターンが低くバリュー株に分類された銘柄のそ の後のリターンが高い、というリバーサル効果が含まれているかどうかの検証を試みる。 ここでは、データが取得可能な 1996 年 12 月以降の銘柄入れ替え時点で、各指数への組み 入れウェイトが上昇もしくは下落した銘柄について、前回銘柄入れ替えから当該銘柄入れ 替えまでの(事前の)リターンと、当該銘柄入れ替えから次回銘柄入れ替えまでの(事後の)リ ターンを、銘柄ウェイトを考慮せずに単純平均した結果を集計した。なお、表 1 には、指 数に含まれる銘柄数とともに、組み入れウェイトが変化した銘柄数とそのウェイト変化を 示した。ここで、V_up (G_down) は、バリュー / グロースの各指数の内で、銘柄入れ替え 時点においてバリューの組み入れウェイトが上昇 (グロースの組み入れウェイトが低下) した銘柄を示し、V_down (G_up) は逆にバリューの組み入れウェイトが低下 (グロースの 1 詳細は野村證券金融経済研究所ホームページhttp://qr.nomura.co.jp/jp/frcnri/index.html に掲載の『イン デックス構成ルールブック』を参照のこと。 3 図 1 : バリューとグロースのスプレッド・リターン推移 320% 280% V ― G スプレッド 累積スプレッド・リターン 240% 200% 160% 120% 80% 40% 0% -40% 19800131 19840131 19880131 19920131 19960131 20000131 20040131 組み入れウェイトが上昇) した銘柄を示している。 次に、表 2 (a) では、対象全銘柄の単純平均リターンの推移を示した。ここで、ex ante は前回銘柄入れ替えから当該銘柄入れ替えまでの事前リターン、ex post は当該銘柄入れ替 えから次回銘柄入れ替えまでの事後リターンをそれぞれ示している2。また、表 2 (b) は、 バリュー指数もしくはグロース指数への組み入れウェイトが上昇した銘柄の単純平均ター ンを示している。表 2 (b) のこれらのリターンから、表 2 (a) の対象全銘柄の単純平均リタ ーンを控除することによって、各指数の組み入れウェイトが変化した銘柄による銘柄入れ 替え前後のリターンに対する影響を見たものが図 2 である。 図 2 からも明らかなように、ある時点でバリュー指数の組み入れウェイトが上昇した 銘柄のそれ以前のリターンは単純平均リターンと比べて低く、その後のリターンは高くな る傾向がある。一方、逆に、グロース指数の組み入れウェイトが上昇した銘柄は、単純平 均リターンと比べてそれ以前のリターンが高く、その後のリターンが低くなる傾向がある ことが確認できる。すなわち、バリュー株効果には、銘柄入れ替えによるリターン・リバ ーサル効果が含まれている可能性を示しているといえそうである。バリュー指数がグロー ス指数をアウトパフォームする理由のひとつとして、こうした効果が考えられるのだとす ると、その影響はどの程度あるのだろうか。次節では、この影響の測定を試みる。 2 ユニバースが同一であれば、事前と事後のリターンは一致するはずであるが、銘柄入れ替え時には対象 銘柄も入れ替わるために、若干の差異が生じている。入れ替えとなる銘柄数は毎回異なるものの、分析期 間を通じて概ね 100∼200 銘柄の入れ替えが生じている。なお、2004 年 11 月以降の事後リターンは、2005 年 3 月末までのリターンである。 4 表 1 : 各指数に含まれる銘柄数と組み入れウェイトが変化した銘柄数およびウェイト (a) バリュー株指数 199512 199612 199712 199812 199912 200012 200201 200211 200311 200411 1,191 1,251 1,575 1,584 1,551 1,544 1,573 1,225 1,233 1,231 (b) グロース株指数 銘柄数 V_up V_down 350 710 347 334 277 332 172 184 206 231 82 142 138 169 133 162 159 173 ウェイト変化 V_up V_down 14.63% 16.75% 11.87% 30.04% 9.53% 14.57% 10.49% 16.95% 14.68% 199512 199612 199712 199812 199912 200012 200201 200211 200311 200411 -7.37% -10.57% -8.28% -16.69% -8.82% -8.93% -7.95% -9.36% -12.40% 銘柄数 G_down G_up 221 296 179 158 138 141 82 110 133 333 103 194 201 235 185 236 251 251 1,006 1,082 701 616 656 642 578 527 677 796 ウェイト変化 G_down G_up -7.92% -7.28% -9.29% -18.53% -4.61% -8.33% -6.94% -14.76% -12.30% 表 2 : 対象全銘柄および各指数への組み入れウェイトが変化した銘柄の単純平均リターンの推移 (a) 対象全銘柄の単純平均リターン 199612 199712 199812 199912 200012 200201 200211 200311 200411 累積 EW_average return ex ante ex post (-9.97%) -40.45% -37.65% 1.39% 2.89% 36.51% 41.57% -7.23% -5.20% -11.60% -9.61% -5.59% -2.00% 28.79% 30.76% 20.85% 21.98% (-11.94%) 21.65% -0.68% (注) 括弧内の数値は、累積には含めていない。 したがって、累積リターンの期間は、ex ante, ex post ともに 1996/12∼2004/11 である。 (b) バリュー指数もしくはグロース指数への組み入れウェイトが上昇した銘柄の単純平均リターン 199612 199712 199812 199912 200012 200201 200211 200311 200411 累積 V_up EW_average return ex ante ex post (-19.53%) -42.52% -46.85% 5.63% -12.19% 40.15% -7.14% 3.93% -32.23% -12.63% -27.94% -6.12% -22.75% 28.08% 30.38% 24.31% 19.86% (14.78%) -74.45% 15.49% G_up EW_average return ex ante ex post (0.05%) -37.76% -1.26% -3.43% 34.06% 39.45% 181.46% -24.27% 26.99% -18.24% 10.05% -5.99% 15.15% 23.18% 28.90% 12.33% 29.89% (1.90%) 903.82% -32.49% (注) 括弧内の数値は、累積には含めていない。したがって、累積リターンの期間は、 ex ante, ex post ともに 1996/12∼2004/11 である。 5 16.98% 10.40% 9.99% 17.55% 17.72% 12.25% 11.99% 19.28% 17.69% 図 2 : 各スタイル指数への組み入れウェイトが変化した銘柄の 事前 / 事後のリターンと全銘柄単純平均リターンの格差 (a) バリュー指数の組み入れウェイトが上昇した銘柄 50% ex ante 40% ex post 30% 20% 10% 0% -10% -20% -30% -40% -50% 199612 199712 199812 199912 200012 200201 200211 200311 200411 (b) グロース指数の組み入れウェイトが上昇した銘柄 50% ex ante 40% ex post 30% 20% 10% 0% -10% -20% -30% -40% -50% 199612 199712 199812 199912 200012 200201 200211 200311 200411 6 3. スタイル・リターン格差における銘柄入れ替えとリバーサル効果の影響 本節では、Russell / Nomura 日本株インデックスのバリュー指数およびグロース指数 について、データが取得可能な 1996 年 12 月以降の銘柄入れ替え時点での個別銘柄ウェイ トから、銘柄入れ替え時点でバリューもしくはグロースのウェイトが上昇した銘柄の、各 指数リターンに対する銘柄入れ替え前後のリターン寄与度を算出した。 ここで、ある銘柄入れ替え時点でバリューの組み入れウェイトが上昇した銘柄 i の銘 柄入れ替え時点でのバリュー指数におけるウェイトを VUP, i 、銘柄入れ替えまでの事前のリ ターンを RV _ UP, i 、次回銘柄入れ前までの事後リターンを RV′ _ UP, i で表すこととする。同 様に、バリューの組み入れウェイトが低下した銘柄 j のバリュー指数におけるウェイトを VDOWN , j 、事前リターンを RV _ DOWN , j 、事後リターンを RV′ _ DOWN , j で表し、さらに、バリ ューの組み入れウェイトが変化しなかった銘柄 k のバリュー指数におけるウェイトを VNC , k 、事前のリターンを RV _ NC , k 、事後のリターンを RV′ _ NC , k で表すことにする。した がって、VUP, i + VDOWN , j + VNC , k = 1 である。そこで、バリュー株指数のリターンを、ある銘 柄入れ替え時点でバリューの組み入れウェイトが上昇した銘柄群、バリューの組み入れウ ェイトが低下した銘柄群、バリューの組み入れウェイトが変化しなかった銘柄群にわけて 考えると、バリュー指数の事前リターン RV 、事後リターン RV′ はそれぞれ次のように表 すことができる。 RV = ∑V RV _ UP, i + ∑V RV′ _ UP, i + UP , i i RV′ = UP , i ∑V RV _ DOWN , j + ∑V RV′ _ DOWN , j + DOWN , j j i ∑V RV _ NC , k (1) ∑V RV′ _ NC , k (2) NC , k k DOWN , j j NC , k k グロース株指数でも同様に、事前リターンを RG 、事後リターン RG′ とすると、次のよう に表すことができる。 RG = ∑G RG _ UP , l + ∑G RG′ _ UP , l + UP , l l RG′ = UP , l l ∑G RG _ DOWN , m + ∑G RG′ _ DOWN , m + DOWN , m m ∑G NC , n RG _ NC , n (3) ∑G NC , n RG′ _ NC , n (4) n DOWN , m m n ただし、 GUP , l :グロースの組み入れウェイトが上昇した銘柄 l の銘柄入れ替え時点での グロース指数におけるウェイト GDOWN , m :グロースの組み入れウェイトが低下した銘柄 m のグロース指数における ウェイト GNC , n :グロースの組み入れウェイトが変化しなかった銘柄 n のグロース指数における ウェイト RG _ UP , l :グロースの組み入れウェイトが上昇した銘柄の銘柄入れ替え前までのリターン RG _ DOWN , m :グロースの組み入れウェイトが低下した銘柄の事前リターン 7 RG _ NC , n :グロースの組み入れウェイトが変化しなかった銘柄の事前リターン RG′ _ UP , l :グロースの組み入れウェイトが上昇した銘柄の銘柄入れ替え後のリターン RG′ _ DOWN , m :グロースの組み入れウェイトが低下した銘柄の事後リターン RG′ _ NC , n :グロースの組み入れウェイトが変化しなかった銘柄の事後リターン である。 表 3 (a) ではまず、(2)式および(4)式で算出した、ある銘柄入れ替え時点から次回銘柄 入れ替えまでのバリュー / グロース各指数リターンと、公表ベンチマーク・インデックス のリターン、およびそれらの (バリュー指数からグロース指数を差し引いた) スプレッド・ リターン推移を示した3。1996 年 12 月末から 2004 年 11 月末までの計算上のバリュー指数 の事後リターン、すなわち RV′ の累積リターンは−1.79%、グロース指数の事後リターン RG′ の累積リターンは−33.85%、バリューの累積リターンからグロースの累積リターンを 控除したスプレッドは 32.05%であった4。表 3 (b) には、バリュー指数の内で、ある銘柄入 れ替え時点でバリューの組み入れウェイトが上昇もしくは低下した銘柄の、その前後のバ リュー指数に対するリターン寄与度推移を示した。すなわち、(1)式および(2)式の右辺第 1 項目と第 2 項目の計算結果である。同様に、表 3 (c) は、グロース指数の内で、銘柄入れ替 えのある時点でグロースの組み入れウェイトが上昇もしくは下落した銘柄の、その前後の グロース指数に対するリターン寄与度推移、すなわち(3)式および(4)式の右辺第 1 項目と第 2 項目の計算結果である5。 ここで、銘柄入れ替え時点より以前の効果は、バリュー指数への組み入れ比率が下落 した銘柄によるバリュー指数に対する銘柄入れ替え以前の寄与度、つまり(1)式右辺第 2 項 目と、グロース指数への組み入れ比率が低下した銘柄によるグロース指数に対する銘柄入 れ替え以前の寄与度である(3)式右辺第 2 項目のスプレッドによって把握できる。同様に、 銘柄入れ替え時点より以降の効果は、バリュー指数への組み入れ比率が上昇した銘柄によ るバリュー指数に対する銘柄入れ替え以降の寄与度、すなわち(2)式右辺第 1 項目と、グロ ース指数への組み入れ比率が上昇した銘柄によるグロース指数に対する寄与度である(4)式 右辺第 1 項目のスプレッドによって把握できる。これらの推移を示したのが、表 3 (d) であ 3 ここで、計算上の事後リターンと公表ベンチマーク・インデックスのリターンに差異が生じているのは、 ①計算上の事後リターンには個別銘柄ウェイトに銘柄入れ替え時点でのウェイトを用いている一方、公表 値では日次の個別銘柄ウェイトに基づいて指数が算出されているため、②公表値では、銘柄入れ替え以降 に銘柄の追加・削除が行われているため、③公表値では合併・株式交換などが発生した場合に、その事由 を定性的に勘案して指数に組み入れるか否かの取り扱いを判断している一方で、計算上の事後リターンで はリターンが算出できないこれらの銘柄は分析対象から除外しているため、などが主な要因である。なお、 2004/11 以降のリターンは 2005/3 末までのリターンである。 4 同期間の Russell / Nomura 日本株インデックスの公表バリュー指数およびグロース指数の累積パフォ ーマンスはそれぞれ、4.11%、−35.83%、累積リターンのスプレッドは 39.94%であった。 5 ここで、事前リターンと事後リターンの格差が大きいのは、個別銘柄のウェイトに同じ銘柄入れ替え時 点でのウェイトを用いているのが主な要因である。つまり、事前リターンでは期末のウェイト、事後リタ ーンでは期初のウェイトを用いていることになる。特にグロース株指数において、IT バブル前後で特定の 数銘柄の影響によって、極めて大きな格差が生じている。その他にも、銘柄入れ替え時に対象銘柄が入れ 替わることによる影響も含まれている。 8 表 3 : 対象全銘柄および各指数への組み入れウェイトが変化した銘柄の加重平均リターンの推移 (a) バリューおよびグロース各指数の加重平均リターンとスプレッド・リターンの推移 V-G_sprd Value Growth ex_post 公表IDX ex_post 公表IDX ex_post 公表IDX 199612 -26.64% -25.88% -10.85% -10.19% -15.79% -15.70% 199712 -0.72% 0.23% -9.78% -9.07% 9.06% 9.29% 199812 29.01% 30.16% 77.18% 79.01% -48.17% -48.86% 199912 -3.37% -2.99% -36.96% -44.97% 33.59% 41.99% 200012 -17.24% -12.91% -24.58% -14.66% 7.34% 1.75% 200201 -5.48% -11.23% -9.65% -15.61% 4.17% 4.38% 200211 18.32% 21.58% 4.52% 5.75% 13.80% 15.83% 200311 16.84% 18.09% 3.39% 4.73% 13.45% 13.36% 200411 (11.18%) (10.21%) (5.59%) (6.41%) (5.59%) (3.80%) 累積 -1.79% 4.11% -33.85% -35.83% 32.05% 39.94% (注) 括弧内の数値は、次回銘柄入れ替えが到来していないため、累積には含めていな い。 したがって、 累積リターンの期間は、 1996/12∼2004/11 である。 公表 IDX は Russell / Nomura 日本株インデックスの公表値である。 (b) バリュー指数の内でバリュー組み入れウェイトが変化した銘柄のリターン寄与度 V_up_VW_average return V_down_VW_average return ex ante ex post ex ante ex post 199612 (-6.89%) -22.91% (0.57%) -3.73% 199712 -11.06% 2.44% -12.20% -3.16% 199812 -3.34% 13.46% 2.96% 15.55% 199912 10.46% -4.58% 27.20% 1.22% 200012 1.64% -14.72% 2.42% -2.52% 200201 -8.27% -1.54% -7.70% -3.94% 200211 -7.40% 16.89% 1.60% 1.43% 200311 0.73% 7.42% 17.69% 9.42% 200411 11.20% (9.84%) 5.45% (1.34%) 累積 -8.16% -9.86% 37.05% 13.33% (注) 括弧内の数値は、累積には含めていない。したがって、累積リターン の期間は、ex ante, ex post ともに 1996/12∼2004/11 である。 (c) グロース指数の内でバリュー組み入れウェイトが変化した銘柄のリターン寄与度 G_down_VW_average return G_up_VW_average return ex ante ex post ex ante ex post 199612 (-2.54%) -11.02% (7.20%) 0.17% 199712 -2.52% 0.29% 16.09% -10.07% 199812 -3.89% 60.99% 6.29% 16.19% 199912 4.31% -1.41% 299.20% -35.55% 200012 -13.86% -17.37% 3.41% -7.21% 200201 -12.02% -6.14% -0.48% -3.51% 200211 -4.01% 0.43% 2.75% 4.09% 200311 9.94% 1.09% 18.78% 2.30% 200411 4.42% (3.25%) 10.06% (2.34%) 累積 -18.38% 11.52% 580.91% -35.68% (注) 括弧内の数値は、累積には含めていない。したがって、累積リターン の期間は、ex ante, ex post ともに 1996/12∼2004/11 である。 (d) 組み入れウェイトが変化した銘柄のスプレッド・リターンに対する寄与度 V_down (V) - G_down (G) sprd (ex ante) 199612 (3.11%) 199712 -9.68% 199812 6.85% 199912 22.88% 200012 16.28% 200201 4.32% 200211 5.60% 200311 7.76% 200411 1.03% 累積 65.38% V_up (V) - G_up (G) sprd (ex post) -23.08% 12.51% -2.73% 30.96% -7.51% 1.97% 12.80% 5.13% (7.50%) 23.29% (注) 括弧内の数値は、累積には含めていない。したがって、累積リターンの期 間は、ex ante, ex post ともに 1996/12∼2004/11 である。 9 9 る。V_down (V)−G_down (G) が事前の効果、V_up (V)−G_up (G) が事後の効果を表し ている。また、表 2 (a) で示したバリュー指数からグロース指数を控除した事後のスプレッ ド・リターンと、V_up (V) −G_up (G) を比較したものが図 3 である6。 これらによれば、ある銘柄入れ替えの時点でバリューの組み入れ比率が増加した銘柄 による事後リターンへのプラスの影響と、グロースの組み入れ比率が増加した銘柄による マイナスの影響の合計は、2000 年 12 月から 2002 年 1 月の期間を除いて、すべての期間で バリューとグロースのスプレッド・リターンにかなりの寄与をしていることがわかる。そ れが大きい時期には、指数のスプレッド・リターンをほぼ説明してしまうこともある。分 析期間の平均的な水準として、事後的に観測される表 3 (a) のスタイル指数のスプレッド・ リターン 32.05%の内で、リバーサルの事後効果である表 3 (d) の V_up (V)−G_up (G) の 累積リターンは 23.29%、すなわち寄与率で 73%程度が、銘柄入れ替え時点間のリバーサル 効果で説明できる、という結論が得られる。ただし、そうした効果は、表 2 (b) および (c) か らもわかるように、バリュー指数の内で組み入れウェイトが変化した銘柄のリターン寄与 度によるものというよりも、グロース銘柄の内で組み入れウェイトが変化した銘柄のリタ ーン寄与度が大きく影響していることが指摘できる。 図 3 : 各指数の組み入れウェイトが変化した銘柄のスプレッド・リターンに対する寄与度 50% 40% 30% 20% 10% 0% -10% -20% -30% -40% -50% 199612 199712 199812 199912 200012 200201 200211 200311 200411 V-G_sprd 6 V_up (V) - G_up (G) sprd 事前リターンの比較は、注 5 の影響が大きいため、ここでは割愛した。 10 4. まとめ 本稿では、日本で明確に観測されるバリュー株効果について、スタイル・ベンチマー クの個別銘柄データを用いて、日本で同様に観測されるリターン・リバーサル効果の影響 度合いとの関連性を検証することを試みた。スタイル・ベンチマークの一例として、Russell / Nomura 日本株インデックスを取り上げて分析した結果、バリュー株とグロース株の組み 入れ比率の変更が行われる銘柄入れ替えのある時点で、バリュー指数の組み入れウェイト が上昇した銘柄群の前回銘柄入れ替え時点から当該銘柄入れ替えまでの単純平均リターン は、指数に含まれる全銘柄の単純平均リターンよりも低くなっていたことがわかった。同 時に、ある銘柄入れ替え時点で、グロース指数の組み入れウェイトが上昇した銘柄群の前 回銘柄入れ替え時点から当該銘柄入れ替えまでの単純平均リターンは、指数に含まれる全 銘柄の単純平均リターンよりも高くなっていたことが確認できた。つまり、ある銘柄入れ 替え時点でバリュー株に組み入れられる銘柄は、それ以前のリターンが全銘柄の平均リタ ーンよりも相対的に低く、価格の下落から PBR が低下し、バリュー株となる傾向があるこ とを示唆している。同様に、グロース株に組み入れられる銘柄は、それ以前のリターンが 全銘柄の平均リターンよりも相対的に高く、価格の高騰から PBR が上昇し、グロース株と なる傾向があることを示しているといえる。さらに、バリュー指数の組み入れウェイトが 上昇した銘柄の銘柄入れ替え以降の単純平均リターンは、全銘柄の単純平均リターンより も高く、グロース指数の組み入れウェイトが上昇した銘柄群では低くなっていた。このこ とから、スタイル・リターンの格差には、こうした銘柄入れ替えによるリターン・リバー サル効果が含まれている可能性が示唆されることになる。 次に、実際のバリュー / グロース各指数リターン間のスプレッドに対するこれら銘柄 の組み入れウェイトが変化したことによる影響度合いの検証を試みた。ここでは、各指数 に含まれる個別銘柄の銘柄入れ替え時点でのウェイトを用いて分析した結果、ある銘柄入 れ替え時点でバリュー指数の組み入れウェイトが上昇した銘柄群とグロース指数の組み入 れウェイトが上昇した銘柄群の、当該銘柄入れ替え時点から次回銘柄入れ替えまでの時価 加重平均リターンのスプレッドは、バリュー指数とグロース指数のスプレッド・リターン に対して、分析期間の平均で 73%程度の寄与度を占めていることが明らかになった。つま り、指数への組み入れウェイトが変化した銘柄によるリターン・リバーサル効果によって、 スタイル指数間のスプレッド・リターンをかなりの程度説明できることになる。 本稿の分析は、実務で実際に利用されているスタイル・ベンチマークを用いて、現実 のリターン数値という現象面のみを捉えて検証した例であり、その背景となる投資家行動 やその特性については分析を行っていないため、バリュー株効果に対するリバーサル効果 の影響が直接的に観察されたわけではない。しかしながら、実際に指数に含まれる銘柄の ウェイト変更が行われれば、それに併せて指数を採用する投資家が行動することも想定さ れ、そこに超過需要が生じることがあらかじめわかっていれば、それを利用する投資家が 11 存在している可能性も想定できる。バリュー株効果に対するリターン・リバーサル効果の 影響度合いが高いのは、そうした投資家行動が背景にある結果なのかもしれないが、そう した結論を得るには更なる検証が不可欠である。 参考文献 Bourguignon. F. and M. de Jong, “Value Versus Growth,” Journal of Portfolio Management, summer, 2003. Fama, E. and K. French, “Common Risk Factors in the Returns on Stocks and Bonds,” Journal of Financial Economics, Vol. 33, 1993. Lakonishok, J., A. Shleifer and R. Vishny, “Contrarian Investment, Extrapolation, and Risk,” Journal of Finance, Vol. 49, 1994. 小林孝雄, 「スタイル・マネジメントの理論的基礎」, 『証券アナリストジャーナル』, Vol. 35, 1997. 12
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