2015年新春号 様々な運用課題や投資テーマに関する展望 リターン・リスク効率を高めるための処方箋 ~グローバル株式への視点と米国の新潮流~ 4 アルファ獲得の好機到来? 8 エンハンスト・アセット・アロケーション -リバランスを、投資機会として 超過リターン獲得に活かすには - 13 DC運用とDB運用の調和 19 2014年 年金運用 ヒット戦略番付 -米国企業年金での取組み- INVESTED. TOGETHER.™ RUSSELL INVESTMENTS 目 次 3 はじめに はじめに 執行役員 兼 マネージング ディレクター、クライアントサービス・コンサルティング担当 田中 祐一 INVESTMENT FOCUS 4 アルファ獲得の好機到来? インベストメント・マネジメント&リサーチ部 シニア ポートフォリオ マネージャー / ディレクター 中川 裕之 インプリメンテーション ポートフォリオ マネージャー 鹿子木 亨紀 INVESTMENT FOCUS 8 エンハンスト・アセット・アロケーション -リバランスを、投資機会として超過リターン獲得に活かすには- マルチアセットソリューション部(米国) シニア インベストメント ストラテジー アナリスト 吉田 寛隆 CLIENT FOCUS 13 DC運用とDB運用の調和 -米国企業年金での取組み- コンサルティング部長、エグゼクティブコンサルタント 喜多 幸之助 2015年に入り、市場はやや不安定な動きを見せています。スイスフランの無期限介入終了 に伴う為替市場の波乱、原油価格の下落に伴う各市場の波乱、また、金利は過去例のない 水準へと低下してきております。 一方で、フランスのテロ等社会的な不安要因もあります。2015年の市場はこういった様々 田中 祐一 な要因の中、その方向性、戦略について皆様、深く悩まれているのではないでしょうか。 私が好きなテレビ番組の中に、 「スーパープレゼンテーション」 (NHK教育テレビ)という ものがあります。今年の最初の放送で取り扱われたのは、スティーブン・ピンカーというハー バード大学教授のプレゼンテーションでした。彼は世の中の暴力について、独自のデータ収 集、分析を行っており、その長期的趨勢につき話しをされました。 AP通信社の伝え方が上手な為か、どうも世の中は悪い方向に向かっているという漠然と した考えが支配していると言います。しかし、長期の趨勢で見れば、暴力、戦争は明らかに 減ってきています。ある問いかけをするにあたっても、その問いかけの内容次第で出てくる答 えも変わってきます。スティーブン・ピンカーが言っていたのは、 「今、我々が問いかけるの は、 「なぜ、戦争がなくならないのか?」ではなく、 「なぜ、平和があるのか?」だ。」と。 「なぜ、戦争がなくならないのか?」そういう問いかけに対して、人間の思考はどうしてもマイ クロな視点に立ってしまいます。しかし、 「なぜ、平和があるのか?」という問いかけに関しての 思考は、より広い観点で考え、発展的な答えを見つけることができるのでしょう。 金利は歴史的水準へ低下し、低体温の経済環境の中、投資家の思考はどちらかといえ ば、後ろ向きのマイクロ志向になりがちです。しかし、こういうときこそ発展的に思考していく 必要があろうかと考えます。 今号では、中川、鹿子木より、 「アルファ獲得の好機到来?」と題して、投資家としては、短 期的かつ構造的でない運用環境の変化に惑わされず、中長期的に超過収益を創出できるマ ネジャーを採用するということが重要であるとの考え方を紹介させて頂きます。吉田からは 「EAA(エンハンスト・アセット・アロケーション)」をご紹介させて頂きます。これは旧来の COLUMN 19 2014年 年金運用 ヒット戦略番付 コンサルティング部 シニア テクニカル アナリスト 大浦 裕一郎 SAAを補足する限定的な追加リターンを目指す考え方ですので、皆さまのポートフォリオ運 営に際してご参考頂けるものと考えております。喜多からは「DC運用とDB運用の調和」とい うことで、日本はDBからDCへの流れについては、他国の試行錯誤を十分に研究した上で自 身の意思決定に活かせる立場にあり、米国の知恵を取り入れることは我が国DC制度発展に とって大切なことであるという意見をご紹介させて頂きます。そして最後に大浦よりコラムを お届けいたします。是非お見逃しなきようお願い申し上げます。 本誌が、皆様の今後の意思決定に少しでもお役に立てることを願っております。今後とも お引き立てのほどお願い申し上げます。 執行役員 兼 マネージング ディレクター、クライアントサービス・コンサルティング担当 田中 祐一 p/2 Russell Investments // ラッセル・コミュニケ(日本版) Russell Investments // Russell Communiqué p/3 RUSSELL INVESTMENTS INVESTMENT FOCUS アルファ獲得の好機到来? 中川 裕之 だし、ボラティリティのファクターリターンの ターンが上がることを指す。代表的には景気 満たない水準であり、リスク回避のみでアク により、個別銘柄選択による効果以上にリ が底を打ったあとに、割安銘柄に注目が行 中川 裕之 する傾向が挙げられよう。 シニア ポートフォリオ マネージャー / ディレクター 鹿子木 亨紀 はじめに 今年度は、第3四半期に入って改善しつつあるものの、外国株式アクティブマネジャーが 苦戦しているケースが目立つ。過去を振り返ると、アクティブマネジャーはベンチマークに対 して、より大きなリスク(絶対値で)を取っている場合が多いために、リスク回避が市場に起 こると一般的にアンダーパフォームする傾向が高いと言える。特に、2008年の金融危機、 2011年の欧州債務危機などにおいては、多くのアクティブマネジャーが苦戦し、その後、最 小分散、低ボラティリティ運用などの人気が高まったことは記憶に新しい。 アクティブマネジャーのスタイルは投資環境を影響を受ける 通常、アクティブマネジャーは、株価のアップサイドが見込まれる高リターンの銘柄を保有 する傾向が強い。もちろん、バリュエーションの観点からダウンサイドが限定的で、かつ、アッ プサイドが見込まれる銘柄を選好するマネジャーは存在するが、下がらないという基準のみ き、バリューマネジャーがアウトパフォーム 2014年度上期の運用環境は「Narrow(狭 い)」という表現に集約される さて、2014年度における直近までの運用 環境を振り返ってみると、ウクライナおよび イラク情 勢という地 政学的なリスクの台 頭、長く続いた金融緩和からの脱出がテー マとなった米国、それに対する日欧の更なる 金融緩和という各国金融政策の違い、金融 緩和の影響を受けたバリュエーションの上 昇による株価上昇、低金利環境における高 利回り資産選好といった市場テーマが思い つく。そのなかでグローバルな株式市場は 米ドル高も含めて米国、特に米国大型株の 独り勝ちといった様相を呈したと言えよう。 マイナス幅は2008年、2011年の半分にも ティブマネジャーの不振を結論付けるのは 早計と考える。 トップダウンの観点からは上記のように 要約されるものの、ボトムアップから見ると 異なる景色が見えてくる。様々なマネジャー とのミーティングを通じ、多くのマネジャー が口を揃えて「市場の動きはNarrow(狭 い)である」と発言している。つまり、市場を 上昇させているのは、ごく少数の銘柄に過 ぎない運用環境であったということである。 そこで、2014年4月から9月末までの期間 で、外国株式のプロダクトが主にベンチマー クとしているMSCI Kokusai(約1500銘柄) の円建てリターンを2013年の同時期と比 なのかを検証した。検証方法は、当該イン デックスのリターンを寄与度で上位から並 べ、どの程度の銘柄数でインデックスのリ ターンを構成できるかというものである。そ プラス(大型株優位)、短期モーメンタムが ターンを説明できるのに対し、2014年は約 このボラティリティのファクターリターンは、金融危機など市場にショックが走った時は大 ボラティリティがマイナス(ボラティリティの でほぼ、半分のリターンが説明できるという 傾向にある最小分散戦略や低ボラティリティ運用のポートフォリオは市場ショック時の耐性 取れる。また、地域別では、米国株式が主 と比較して、市場は「Narrow」であったこと なった。 ていなければ、アンダーパフォームする可能 が使用しているリスクモデルでは、サイズが の結果、2013年においては約680銘柄でリ マイナス(直近上がった銘柄が売られる)、 340銘柄ほどに半減し、また、上位60銘柄 きくマイナスになることがよく知られている。従って、このエクスポージャーはマイナスとなる 高い銘柄が売られる)といった傾向が見て ものであった。これは、当該期間は昨年度 が高い戦略として捉えることができる。 導して株式市場のリターンは大きくプラスと の証左であろうし、逆に上位銘柄を保有し 場合、ポートフォリオがボラティリティファクターに対してプラスのエクスポージャーを持つこ とが多くなる。 また、ボラティリティのファクターエクスポージャー以外には、運用プロセスによって、様々 なファクターリスク、セクターリスク、カントリーリスクの取り方において、一定の傾向が見られ この運用環境をファクターの動きと関連 性が高かったとも言える。 では、なぜこのようなことが起こったのだ る。例えば、バリューマネジャーであれば、バリューファクター(低PERもしくは低PBRなど)や させて説明すると、①地政学リスクの台頭 メンタムファクターおよびバリューファクターなどもよく観察される傾向である。 フォーム、②しかし、金融政策の効果もあり 初から米国を中心とする低金利政策のため 加者はより短期的に利益を確定しようとし 声が多く聞かれた。すなわち、アセットアロ る、という運用環境であったと言えよう。た 式に魅力を感じ、債券から株式へのシフトが ここ数年の欧州のオーバーウェイトなどが典型的であるし、クオンツマネジャーにおけるモー アクティブマネジャーの超過収益の要因は、システマティックリスク(ファクター、セクター など)によるものと純粋な個別銘柄選択および売買効果などによるものに分解されることが 多い。すなわち、あるスタイルのマネジャーにとって有利な環境とは、市場に、このシステマ Russell Investments // ラッセル・コミュニケ(日本版) からボラティリティの高い銘柄はアンダーパ ろうか?PMとしての考察を加えてみたい。年 株価は米国大型株主導で上昇、③市場参 に、債券と比較すると株式が割安であるとの たために上昇した銘柄は短期的に売られ ケーションの観点(トップダウン)からは株 Russell Investments // Russell Communiqué 2014年度におい て、市場を上昇さ せているのは、ごく 少数の銘柄に過ぎ ない投資環境であ った 較することで、どの程度市場が「Narrow」 また、ファクターの観点から見ると、弊社 で銘柄を選択するマネジャーは少ないと言える。アップサイドをねらうような銘柄選択を行う p/4 ティックリスクにおける追い風が吹いたこと インベストメント・マネジメント&リサーチ部 インプリメンテーション ポートフォリオ マネージャー 鹿子木 亨紀 INVESTMENT FOCUS p/5 RUSSELL INVESTMENTS INVESTMENT FOCUS 起こったことにより、株式(特に米国)の上昇 ものの、大きなショックが市場を襲ったわけ など地政学リスクも再び顕在化する可能性 に、今までの投資理論および人間心理にお トムアップの観点からは、中東、ウクライナな 比較的冷静に市場は環境の変化に沿って動 回避の中で少数銘柄が先導するような株式 クティブマネジャーにとって投資対象とな を牽引したとも見ることができる。しかし、ボ どの地政学リスクの上昇、中国経済の減速 懸念、日欧の緩慢な成長などにより、安定し た利益が見込みにくい銘柄や上記リスクによ り影響を受けやすいといった、総じてリスク 市場が正常化してい く過程において、今 まで苦戦していたア クティブマネジャー の超過収益創出確 度は高まるものと考 えられる INVESTMENT FOCUS の高い銘柄(が買われにくい状況であったと いえる。また、上記リスクを恐れるあまりに、 直近上昇したリスクの高い銘柄をすぐに利 益確定することがあったように見受けられ る。また、一部のマネジャーでは、米国にお いてスマートベータのような商品に対する資 金流入から、これら商品が市場に影響を与 えたと考えているようだ。 でなく、株式市場が上昇していることからも いているかに見えるが、ボトムアップでみる と、ファクターやセクターだけでなく、個別銘 柄ベースで超過収益の取りにくい運用環境 であったことがわかる。 マネジャーストラクチャー改善の処方箋 さて、重要なのは今後の運用環境であ る。米国の金融政策が平常時に戻ることが 想定され、それに従って金利水準やバリュ エーション水準もこれまでのような平時の 水準に回帰していくものと考えらえる。グ ローバルでは、欧州のQEの可否も含めた金 トップダウンおよびボトムアップの観点か 融政策や日本のQQEによるインフレ目標の プダウンの観点からは、各国の経済環境、金 響を与えると思われる。また、石油産出国を ら今年度上期の運用環境をまとめると、トッ 成否などが、株式市場の動向に引き続き影 融政策や地政学リスクを受けた動きである めぐる覇権問題とロシア・ウクライナの行方 も高いだろう。しかし、上期のようにリスク 市場上昇という状況が継続する可能性は少 なく、様々な意味で市場が正常化していくの ではないかと考えている。その過程におい て、今まで 苦 戦して いたアクティブ マネ ジャーが超過収益を創出できる確度は高 まっていくものと考えられる。 いては投資しにくいような銘柄(例えば、ア らないような退屈な銘柄など)が投資対象 になる可能性が増すことで、運用プロセス の分散化に貢献することが可能となる。後 者では、グローバルと地域特化の組み合わ せが考えられる。このコンセプトは、地域特 化型のマネジャーが超過収益機会をより中 今年度上期のような市場環境に対するマ 小型、つまり、オフベンチマークの銘柄に見 は、更なる運用プロセスの分散化や超過収 特化に関わらず、よりオフベンチマークの銘 れまでと異なる超過収益機会を求めるよう 銘柄)の動向に縛られないような運用プロ のプロダクトの追加が該当する。これは、特 多様化を積極的に検討してみたい。 でポートフォリオを構築することで、人間が 構造的でない運用環境の変化に惑わされ のマネジャーが同じような割安な銘柄を同 ジャーを採用するということが重要なのは ネジャーストラクチャーの改善方法として 出すことが多いことに起因する。また、地域 益機会の多様化が挙げられる。前者は、こ 柄に投資し、ベンチマーク(およびその構成 なクオンツやルールベースの運用プロセス ダクトを採用することで、超過収益機会の 定の投資コンセプトに基づき、ルールベース もちろん、投資家としては、短期的かつ 陥りやすい心理的な落とし穴(例えば、多く 時に買ってしまうなど)を一部避けられる上 更なる運用プロセ スの分散化と超過 収益機会の多様化 によってマネジャー ストラクチャーを 改善 ず、中長期的に超過収益を創出できるマネ 言を待たない。 (出所:MSCI Inc. のデータによりラッセル作成 2014 年 9 月末時点) p/6 Russell Investments // ラッセル・コミュニケ(日本版) Russell Investments // Russell Communiqué p/7 RUSSELL INVESTMENTS 吉田 寛隆 INVESTMENT FOCUS INVESTMENT FOCUS エンハンスト・アセット・アロケーション 弊社の投資哲学は、特に、基金ポートフォリ -リバランスを、投資機会として 超過リターン獲得に活かすには- マルチアセットソリューション部(米国) シニア インベストメント ストラテジー アナリスト 吉田 寛隆 はじめに 2014年の国内外株式市場は、日本、米国や一部新興国市場、円安などの要因により概ね リバランス・プロセ スに既に存在する ボラティリティーを 利用する形で追加 的超過リターンを生 む手法を開発 好調な円建てリターンであった。皆様の基金ポートフォリオの資産配分リバランスの方向 は、戦略的資産配分(Strategic Asset Allocation, SAA)に対してオーバーウエイトが目立っ た株式資産クラスを売却し、債券資産クラスへ資金を移動することが多かったものと思われ オのSAAが果たす役割と、リスク管理の視 点を重視している。つまり、投資対象を基金 ポートフォリオのSAAで規定された資産クラ スとし、規律だった手法でそれら資産クラス 間の相対的魅力度を計測するのである。弊 社運用チームは、互いに異なった特徴を持 つ多様な定量モデルを使用して、足元の市 場におけるバリュエーションの歪みを評価 分析する。そして、経験に裏打ちされた投資 しには、かなり難しい判断となるであろう。 の確信度が必要である。 第三に、 「確信ある投資判断には、強固 で一貫したプロセスが必要」 ション・モデル、カスタマイズドFEDモデル、 を毀損しないように」 SAAこそが長期的リターンの第一の源泉と なるべきである。EAAでは、確信度の高いバ リュエーションの歪みによる投資機会から のリターン獲得を目指すが、あくまで、基金 ポートフォリオ全体からのリスク調整後リ 管理サービスとしては「インフォームド・リバランス」として顧客に提供している。特に近年 第二に、 「確信度が高い場合にだけ、投 では、世界的に債券資産の利回りが低下し、株式資産からの期待リターンにも低い見通しが ジションを持つにあたっては常に一定以上 Enhanced Asset Allocation (EAA)の原則 弊社は「Enhanced Asset Allocation (EAA)」運用機能として、リバランス・プロセスに既 に存在するボラティリティーを利用する形で追加的超過リターンを生む手法を開発し、投資 期間はよくある。投資管理の原則として、ポ 用している。実際には、弊社独自のリサー 最も重要な原則として、EA Aではなく、 ストを考慮したうえでトレード執行を決断する。バックテストに基づいた適切なプロセスな イトを持たない、 「ポジション無し」という トを作るためのトレードを実行する。 に対するオーバーウエイト、アンダーウエイ の証券会社ストラテジーレポートでも、四半期期初には、年金基金によるリバランス・トレー 投資責任者がSAAからの乖離幅の形で、一定の裁量権を持ち、足元の市場見通しや取引コ SAA対比でオーバーウエイト、アンダーウエ 弊社運用チームでは、いくつもの異なっ 第一に、 「ポートフォリオ全体のリターン ドの株式市場への影響を予想するコメントもよく見られた。一般に、リバランスは、基金の 弊社のEAA運用では、どの資産クラスも 判断に基づいて、顧客ポートフォリオのSAA る。同様の傾向はアメリカの機関投資家にも当てはまり、2013年ほどに明確ではなかった ものの、続く2014年も、株式を売り、債券を買う方向のリバランスが多かったようだ。米国 資を実行する」 ターンを補足的に向上させる役割である。 たバリュエーション指標や予測モデルを使 チに基づく、ファンダメンタル・バリュエー エコノメトリック・モデル、モメンタム・モデ ルと呼ぶ定量モデルを運用し、 マクロ経済 環境によっては互いに逆方向のシグナルと なることもある。それによって、モデルがお 互いにチェック機能を働かせ、確信度が高 い、バリュエーションの大きな歪みが見つ かった場合にだけ、SAAからの乖離が大き いポジションを作ることになる。最終的に は、定量モデル・シグナルによるポジション は、定性判断を経て更に確信度を高め、ポ ジション構築に至る。 目立っており、超過リターン獲得の選択肢の一つとして機関投資家からの関心が非常に高 い。本稿では、弊社の「Enhanced Asset Allocation (EAA)」を、実際の取り組みにふれな がら紹介したい。 Enhanced Asset Allocation (EAA)の概要 EAAは、リバランスの際に各資産クラスのリターン予測に基づいて超過収益獲得を目指す ことで、SAAと機械的なリバランスの両方の効用も追求する。リターン予測を利用して、ポー トフォリオ全体の収益向上を目指すにあたり、弊社では以下の要素が必要と考えている。 ⃝ 規律だった投資哲学 ⃝ その投資哲学に沿った投資機会を見出すためのプロセス ⃝ プロセスを効率的に執行する手段 (イメージ図) p/8 Russell Investments // ラッセル・コミュニケ(日本版) Russell Investments // Russell Communiqué p/9 RUSSELL INVESTMENTS INVESTMENT FOCUS INVESTMENT FOCUS 第四に、 「慎重な超過リターン追求と適 ズへの変換関数、そして市場の不確実性に 弊社運用チームがポジションを持つ場 る。 ティリティー、そして、顧客によって規定さ いわゆるグローバルマクロ戦略、もしくはグ 切なリスク管理のバランスを」 合、その大きさは、確信度合い、市場ボラ オルタナティブ資産クラスに分類される、 れたEAAへのリスク配分で決定される。弊 ローバル・タクティカル・アセット・アロケー 社との事前の議論を通じて、リスク配分を 規定するために、最大ポジションサイズを 概ね3%から7%の間で選択する。前述のよ うに、弊社運用チームは確信度が高い場合 にだけポジションを持つこととしており、そ の時々の市場環境に応じて、ポジションの 確信度合いと市場に内在する不確実性の 状況を判断しながら、随時ポジションの大 きさを調整する。もし、市場がボラティリ ティーの高い局面にあり、同じポジションが ポートフォリオに及ぼすリスク、リターンが 平時よりも大きくなると判断すれば、小さめ (出所:ファクトセットのデータによりラッセル作成) 基づくポジションサイズの調整が必須であ のポジションを持つこととなる。 Enhanced Asset Allocation (EAA)の投 資プロセス EAAで超過リターンを獲得するには、互 いに異なる多様な定量モデルを使用するの に加え、それぞれの定量モデルの特徴にあ わせたモデルシグナルからポジションサイ ション(GTAA)戦略と大きく異なり、EAAで は、市場やマクロ経済の環境によっては定 量モデル同士が逆のシグナルを示すことが ある。そのため、EAAで大きなポジションを 持つのは、確信度の高いモデル・シグナル が組み合わさった場合に限られる。そして、 市場の不確実性に基づきポジションサイズ を調整し、特定の資産クラスを大きくオー バーウエイト、アンダーウエイトするような 強いシグナルが発せられていても、実際の ポジションはあくまでリスク水準に応じて大 きさとなる。 前述の「ポートフォリオ全体のリターンを 毀損しないように」との原則に係り、続くス テップとして、定性判断に基づきポジション 調整も行う。地政学的、政治的な事件など を含む突発的事象があった時、その情報が 定量モデルのインプットとなる数値データ に十分反映されていないことが多々ある。 (出所:ファクトセットのデータによりラッセル作成) (イメージ図) p / 10 Russell Investments // ラッセル・コミュニケ(日本版) Russell Investments // Russell Communiqué p / 11 RUSSELL INVESTMENTS INVESTMENT FOCUS そのような場合には、関連する定量モデル 分に反映されていたとはいえないだろう。ま 用するのか、トレード執行コストを節約する が3%と比較的狭いタイプのポートフォリオ 定量モデルから導かれたポジションを解消 スメントに伴う為替動向の急激な変化、中 か、 である。 から15ベーシスポイントを、6年間のうち5 へのウエイトを一時的に下げ、時には、その することもある。このような判断は、E A A ポートフォリオのポジションは、どれも、高 い確度でバリュエーションの歪みから超過 EAAからポートフォ リオ全体に生じる 追加的リスクは、実 際のところはあまり 大きくない リターンが獲得できそうな場合に限るとい た、他にも、日本銀行の金融緩和アナウン 東やウクライナでの地政学的な情勢の不安 定化などに対応して、ポジションを縮小した り、トレード執行を遅らせたことがある。 ために単に「ノイズ」とみなして受容する 終わりに においても、年間平均10ベーシスポイント 年間でプラスの超過収益を生んだ。本稿で 紹介したプロセスはこの実地の運用の基盤 本稿では、資産配分リバランス・プロセス となっており、各ポートフォリオに個別のリ が、定性判断をEAA運用プロセスに織り込 によって追加リターンを目指すにあたっての ることを意図して構築されている。この実績 要である。このような突発的事象によるリス てあくまで補足的位置づけであり、EAA運 付加価値はポートフォリオ全体に対して5% とともにマーケット・データへ十分に反映さ してすでにポートフォリオに存在している場 が、年間平均で2%から3%の超過リターン を毀損しないよう」との原則に沿って、EAA 的に低下している債券・株式資産の期待リ 弊社ではこのリターンを重視し、追加的 づくSAAからのリターンを確実に得ること 視点で、一時的なボラティリティーの高まり このようなリターンを生みにくい環境こそ への有効なアプローチのひとつとして、EAA スク・リターン目標にそってカスタマイズす む理由で、リスク調整後リターンにとって重 弊社の考えを紹介した。EAAはSAAに対し リターンはあくまで一例に過ぎないが、その クが低下し、市場参加者により理解が進む 用による追加的リスクは、SAAからの乖離と のウエイトを配分したアクティブ運用商品 れるようになるまでは、先ほどの「リターン 合が多いという点も注記したい。近年世界 を生んだことと同じともいえる。 によるポジションを解消し、長期計画に基 ターンへの対策にとどまらず、より長期的な 特に、EAAが高い超過リターンを生みそ に立ち戻る。 から生まれる投資機会を柔軟に生かす手段 ンの歪みとマーケット・データが示すとおり じる追加的リスクが、実際のところはあまり 弊社のEAAに基づく「インフォームド・リ では、EA Aを、 「インフォームド・リバラン の強い上昇相場を含む6年間にわたる実績 う考えによる。 弊社のEAAは、実際の投資管理に適用し た「インフォームド・リバランス」を通じて、 いくつものマーケットサイクルの局面、様々 なマクロ経済環境を含む長期間にわたる バックテスト・リサーチに基づいており、そ して、世界金融危機や最近3年間の強い上 昇相場を含む6年間にわたる運用実績に支 えられている。 としても、EAAは考慮に値するといえよう。 うな環境とは、市場におけるバリュエーショ 最後に、EAAからポートフォリオ全体に生 の関係にある場合と言える。実例のひとつ 大きくないという点を述べたい。まず、弊社 バランス」運用は、世界金融危機や2013年 ス」として実際に運用受託する時には、顧客 を持つ。例えば、SAAからの最大の乖離幅 は、2012年10月から2013年1月にかけての 強い上昇相場である。当時は、突発的事象 からの影響が低下し、市場動向とマーケッ ト・データの関係を歪めことがあまり見ら れなくなっていた。つまり、 マーケット・デー タが、市場に存在するリスクと市場の誤差 的な動きを比較的はっきりと示すようになっ ていた。 p / 12 INVESTMENT FOCUS ごと個別にリスク配分を議論し、SAAからの リターンを獲得する手法の一つとして考慮 する価値があると考えている。弊 社 運用 チームの経験に基づく本稿が、基金の皆様 EAAはSAAに対し て補足的位置づけ であり、EAA運用に よる追加的リスク は、SAAからの乖離 としてすでにポート フォリオに存在して いる の選択肢を広げる一助となれば幸いであ る。 ※当資料で表示した分析は、一定の仮定に 基づくものであり、その結果の確実性を表 明するものではありません。 許容乖離幅を決定した上で、モニタリングを している。また、足元のマーケットのリスク 環境に対応して、随時、乖離幅の調整をし ている。リスクは低いと見込まれれば、許容 乖離幅を若干広げ、高いと見込まれれば、 それとは逆に、まったく予期されず、市場 狭める。このようにして、あらかじめ議論し が市場を揺さぶり、定量モデルへのイン 実のところ、弊社運用チームがポジション でのリスクを十分に反映ていない場合に 客ポートフォリオにすでに設定されているリ 困難となる。その例は、2011年7月の米国に い。つまり、EAAで使用するアクティブ・リス する緊迫した政治情勢がある。この政治動 見ることもできる。大きく違うのは、そのリス 参加者にとって評価が困難な突発的事象 たリスク配分に沿った運用を守っている。 プットとなるマーケット・データがその時点 を構築するためのSAAからの乖離幅は、顧 は、EAAが超過リターンを生むのはやはり バランスにおける許容乖離幅に非常に近 おける政府債務上限や政府機関閉鎖に関 クはすでにポートフォリオに存在していると 向によるリスクは、 マーケット・データに十 クを追加的な超過リターンを生むために利 Russell Investments // ラッセル・コミュニケ(日本版) Russell Investments // Russell Communiqué p / 13 RUSSELL INVESTMENTS CLIENT FOCUS CLIENT FOCUS DC運用とDB運用の調和 ①投資アプローチ -米国企業年金での取組み- 喜多 幸之助 コンサルティング部長、エグゼクティブコンサルタント 用商品(直接投資、機関投資家向け合同運 ば適宜入れ替えながら、より高いアクティブ 個人向け公募投信を用いた投資になる。こ ジャーを組み合わせて採用し、必要であれ リターンを目指すというのが一般的な姿で ある。一方DCでは、サービス・プロバイダー DCとDB、運用商品ユニバースに違い インアップに並んでおり、その中から個人が 付年金(以下DB)で採用している運用商品群が、意識されることはほとんどない。DBとDC では、選定する際の運用商品のユニバースが異なるためである。DBでは信託銀行、投資顧 問会社、生命保険会社から投資先を選定して組み合わせるのに対し、DCでは個人投資家の 投資ツールである公募投信、定期預金、貯蓄性保険商品から選定する仕組みになってい る。前者が原則カスタムメイドなのに対し、後者はほぼレディメイドから選択するしかなく、 条件面で制約を負う。 DCが開始して10年以上経つが、DBとDCの運用商品が異なるという状況は、所与で不可 避なことと考えられてきた。しかし、視点を変えればDB、DCは、同じ退職給付制度であり、 双方とも長期性の資金性格を帯びている。DBで長らく資産運用管理を行ってきたノウハウ をDCに活かすことで、DCの運用を効率化しかつDCとDBの運用に一貫性を持たせることが 米国でも、DBでは機関投資家向けの運 を勘 案しながら複 数のアクティブマネー 喜多 幸之助 現在の我が国において、確定拠出年金(以下DC)の運用商品選定では、各企業が確定給 DBでのノウハウを DCに活かすこと で、DC運用を効率 化し、かつDCとDB の運用に一貫性を 持たせることができ る。 米国でも、DBではスタイルバランス等 ②投資商品形態 が提供する、特定の運用スタイルの商品がラ 自由に選んで組み合せる。投資アドバイザー に相談できるものの、それも含めて個人の自 由意思に任せられる。また、ラインアップは 長期間変わらず運用商品の入替もあまりな い。数多くの個人の投資行動の調査研究を 経た上で、商品選別における従業員個人の自 由意思の尊重よりも、予め信頼のおける第三 者によって選定された運用商品の組合せを そのまま利用できる利便性に重点を置いた 運営の方が好ましいと徐々に考えられるよう になってきた。 用など)を用いて投資するのに対し、DCでは れら投資商品の形態による条件面の違いに ついてまとめたものが下表である。 個人向け公募投信は小規模なDCプランに とっての使い易さや一般投資家に知られて いるというブランド力に優れるものの、フィー 水準やガイドラインの柔軟性においては、そ の他機関投資家向け商品に及ばない。 米国の株式アクティブ運用商品のフィー水 準について比較したものが下グラフである。 個人向け公募投信は勿論のこと、DC専用の 公募投信にせよ機関投資家向け商品よりも 高く、しかも残高による逓減料率が適用され ない。すなわち、DCの投資家はDBに対し経 済的にみて不利な条件に立たされているこ とが確認できる。 できる。ここでは、今後DC制度を設立ないし、現在のDC制度に課題を感じている企業への 参考とするべく、米国DCで最近の潮流となっている一つのアプローチについて紹介した い。 米国におけるDC運用とDB運用の違い 「DBの投資信念をDCで何故適用しないのか?」この問題意識は、米国でも近年出てきた ものである。同じプラン・スポンサー、同じ投資委員会によって運用管理されていても、やは りDBとDCでは投資アプローチが異なる場合が多いのが実態であった。米国でも、日本と同 様にDBとDCでは運用商品の選定ユニバースが異なる。パッシブ運用では格差は大分狭まっ ているが、アクティブ運用については手数料水準が相対的に高い上逓減料率も効かず、選定 できる商品の幅が限られる。徐々にDCはDBに比較して運用に関する環境面で不利という点 が課題認識されるようになった。DCとは元来自己責任で資産形成する為のプラットフォーム を企業が提供しているだけ、という意識がこういった環境の野放しにつながっていた。以下、 投資アプローチ、投資商品形態、ガバナンスの3点について、DCとDBの違いのポイントを述 べる。 データ出所:Mutual Fund Universe Median,:- eVestment, LLC, 4/2012( 米国大型株式コア )、 Mutual Funds Used By 401(k) plans-ICI Research Perspective, 6/2011 ( 国内株式・加重平均 ) p / 14 Russell Investments // ラッセル・コミュニケ(日本版) Russell Investments // Russell Communiqué p / 15 RUSSELL INVESTMENTS CLIENT FOCUS CLIENT FOCUS なお、当該問題意識については米国政府 も既に認識している。DCにおいて自社の要 望をより反映したカスタムファンドの組成に ついては、米国労働省がその受託者向けガ イドライン(2013年2月)の中で奨励してお り、現在では大手プラン・スポンサーにおい て一般的になっている。無論、カスタムファン ドの組成には、直投ないし機関投資家向け 米国では、現在DB で実施している運 用をDCでそのまま 適用するという両運 用の調和というアプ ローチが始まって いる 合同運用の仕組みを用いることが必要とな る。 かし、DC運用の効率化をより高める必要が ある状況下にある。 米国の最近の潮流:DC運用とDB運用の調 和アプローチ DCにおいても、企業側がバーゲニングパ ワーを行使し、従業員の為により良い条件 の投資環境を提供すべくサービス・プロバイ ダーとの交渉を進めるようになってきた。本 誌2014年夏号でも紹介したように、米国に おけるDCのDB化の潮流がそれであるが、そ ③ガバナンス ガバナンス面についてもDBとDCの格差が 観察されている。投資委員会において審議 に掛ける時間(米国ではDCの商品選定・モ ニタリングについても企業の投資委員会で 議論するのが一般的である)、投資助言の 提供者、運用機関の選定・モニタリング状 況、投資機能のアウトソース活用の有無、運 用報告の状況などの項目を確認すると、一 般的にそれぞれに割かれている資源の差は 歴然としている。しかし、米国では、DBは閉 鎖・凍結されその残高は減少に向かい、一方 DCは退職給付制度の中心になりつつある。 資源配分の見直しという観点からも、DBで 数十年実施してきた運用管理ノウハウを生 れを更に進めて、現在DBで実施している運 用をDCでそのまま適用するという両運用の 調和というアプローチが始まっている。 DC運用とDB運用はその制度に根差した におけるストラクチャーを共有することは可 を強く意識した制度であった。しかし、DC制 このような調和アプローチを採用すれ 界や投資行動の差のばらつきは課題として 貫性が担保されるとともに、投資の意思決 日本でも、DB企業年金で採用する運用機 能だし、その方が効率的である。 ば、DBとDCの運営における投資信念の一 認識されている。 定における効率性向上、フィー水準の逓減 関群をパッケージ化し、それをDCでも提供 る。弊社の米国顧客においても複数の実例 ある。DB企業年金が従業員の総意が十分 にもつながるなど、まさに一石三鳥といえ があり、大手スポンサーにとっては一般的 な選択肢の一つとなりつつある。DCから見 るとカスタムファンドの組成ということにな り一手間加わる形になるが、十分な資産規 模のあるプラン・スポンサーにとってはメ リットの多いスキームと言えよう。 運用を採りいれているため、全ての資産で 日本における実現性とハードル DBが投資する私募マーケットの分野は、時 ローチが進んできている背景には、DCが退 が難しい面もあるし、負債ヘッジについては においても個人任せではなく企業側がコ 同じアプローチを採用することは難しい。 価評価や低流動性の問題からDCでは適用 DCでは必要ない。逆にDCで採用されるイン フレ連動債や給付原資確保のための商品 は、必ずしもDBで採用されないかもしれな い。しかし、株式・債券・リアルアセット・ ヘッジファンドといった上場証券等で運用さ れる部分については、それぞれの資産クラス 米国でD C運用とDB運用との調和アプ 職給付制度の柱になってきており、その運営 ミットメントを強めてきているという背景が ある 1 。日本でも、DCは当初は公的年金、 企業年金の補助の為の自助努力・自己責任 Russell Investments // ラッセル・コミュニケ(日本版) する(下図)ということは理念的には可能で に反映された労使合意の下に適正に運営さ れていることが前提となるが、その場合は DB企業年金が選んだ運用機関群は従業員 の信認を得ていると看做すことが可能であ ろう。 なお、D C制度で 米 国の様な調 和アプ 日本でも、DB企業 年金で採用する運 用機関群をパッケ ージ化し、それをDC でも提供することは 理念的には可能 ローチを採用するためには、第三者である DCの運営管理機関が自らの責任でその運 用機関群を適正と認定することが必要であ る。現行DC法では、投資オプションの選定 責任は運営管理機関にあり、制度提供企業 の役割は運営管理機関の選定・監督に留ま る(DBでは、制度提供企業(規約型の場 合)ないし年金基金が、運用会社選定に関 する意思決定を行い、その選定にあたって は受託者責任が伴う)。DC法策定時に「金 1. 企業側の運用に関する責任を軽減するため、年金保護法 においてセーフハーバー条項が定められている。デフォルト ファンドに、元本確保型以外のバランス型ないしターゲット デートファンドを設定しようとする議論は、2015 年 1 月現在 日本でも進行中である。 融商品の知識が不十分な企業に投資商品 の選定責任を負わせるのは心理的負担が 大きいのでは」という議論があり、現在のよ イメージ図 出所:ラッセル (イメージ図) p / 16 度が始まって10年以上経ち、投資教育の限 Russell Investments // Russell Communiqué p / 17 RUSSELL INVESTMENTS CLIENT FOCUS たり易い一方、運用商品のモニタリングや入 2014年 年金運用 ヒット戦略番付 用運用商品の品質の維持・向上について制 コンサルティング部 シニア テクニカル アナリスト うな法体系に至ったと記憶している。実務 出限度額といった条件面について焦点が当 プションとして推奨できる運用商品のユニ 替については後回しにされがちである。採 的には、多くの場合運営管理機関が投資オ 最終目的は、受益 者である従業員に より良い制度を提 供することである。 COLUMN バースを作成し、制度提供企業がその中か ら選択するというスタイルをとる。ただし、 現在の制度はユニバースの源がレディメイ ドの公募投信群となっているため、上記の ような調和アプローチを採用した場合に産 まれるカスタムメイドのファンドには対応し ていない。 実務的にこの壁を乗り越えるには、制度 提供企業自らが部分的に運用関連業務を 行う、ないし、運営管理機関にカスタムメイ ドファンドの評価選定に対する積極的な参 加を促すなど様々なアイデアが考えられ る。最終目的は、受益者である従業員によ り良い制度を提供することである。現在の 一般的なDC制度では、投資教育の質や拠 度提供企 業が継 続的にコミットできる点 で、DBとDCの調和アプローチは有効な選 択肢の一つであると考える。 日本はDBからDCへの流れについては欧 米よりも周回遅れで追随する環境にある。 すなわち、他国の試行錯誤を十分に研究し た上で自身の意思決定に活かせる立場にあ る。DCは特に多くの個人を巻き込んだ制度 であるため、ベストプラクティスを導き出す 大浦 裕一郎 年の瀬になると、その年を振り返るイベント、特集が数多く組まれる。各テレビ局で放送 大浦 裕一郎 される今年の重大(十大)ニュースを見ていると1年は短いようでありながら、忘れてしまっ ているニュースも多いと気付かされる。 ヒット商品番付や今年の漢字、流行語大賞といった形でその年を振り返るものもある。 2014年の漢字、筆者はSTAP細胞やゴーストライター作曲の問題から「嘘」か「偽」と予想し ていたが、1位は「税」。確かに17年ぶりの消費税増税は国民全員にくまなく影響を与えた 変化だった。選ばれて当然かもしれない。 には社会実験が必要になる。その意味で、 特定の業界を振り返る特集もある。筆者はNHKで年末に放送される「大相撲この1年」と の知恵を取り入れることは日本のDC制度発 「大相撲この1年」は注目の力士を中心に大相撲の世界で起こった出来事を、 「新春テレビ 貴重な社会実験を経た上で辿り着いた米国 新春に放送される「新春テレビ放談」を毎年見ている。番組名からも想像はたやすいが、 展に欠かせないと考える。 放談」は人気の番組やテレビ業界全体の傾向を振り返るものだ。 両方とも普段あまりテレビや相撲を見ない方でも、とても面白く見られると思う。その面白 さは両番組ともそれぞれの業界のプロの視点から自由にものが語られることからくるように 思われる。 「新春テレビ放談」はプロデューサーやタレントなどいわばテレビの専門家が、語り尽く すというもの。そういうことからかテレビ業界からの注目度、人気が高いらしい。今回は、例 えばドラマについては刑事や医者、法曹関係など特定の職業を詳細に扱ったドラマが増え 恋愛ドラマが減っている、深夜番組の企画(番組)内容がゴールデンの企画内容につなが る場合があり、深夜番組で思い切った番組作りができないなどの意見が出た。その業界に 深く関わっている方々の、流れ/傾向の読み方には感心させられる。 これら2つの番組を見ていて思うことは、コメンテーターたちが単にその年の流行を振り 返っているわけではないということだ。この2つの業界にはそれぞれ課題がある。相撲業界 は観客数の減少や、部屋内の暴力沙汰、八百長疑惑から生まれたイメージ悪化という問題。 テレビ業界は視聴率の低下やネットのコンテンツとどのように競合/共存するかという課題 だ。出演者各々の発言には単なるその年の振り返りだけでなく、傾向や流行をとらえなが ら、各業界を復活させるにはどうすればいいかといった思いが垣間見える。 さて日本の年金資産運用業界について2014年を振り返ってみるとどうだろう。例えば 「2014年 ヒット戦略番付」なるものを作るとどうだろうか。スマートベータ、ベンチマーク を意識しない運用戦略、保険戦略、インフラ(デット)、昨年も多彩な戦略が話題になっ た。 飽くまで主観ではあるが、筆者なりに東西の横綱を挙げるとすれば、東の横綱は「債券ア p / 18 Russell Investments // ラッセル・コミュニケ(日本版) Russell Investments // Russell Communiqué p / 19 RUSSELL INVESTMENTS COLUMN ンコンストレインド戦略」、西の横綱は「マ それに基づいて資産配分の変更をより頻繁 における東と西の違いであるが、東が格上 上昇し始めるか分からない、いつどこでど ルチアセット戦略」となる。 (ちなみに相撲 とのこと。現在の東の横綱は、先日の初場 所で優勝し、大横綱大鵬の優勝回数記録 を抜 いた白鵬関。)東の大関はスマート ベータ、西の大関はインフラ(含むインフラ デット)だろうか。 に行うという点で異なっている。いつ金利が んな危機が発生するか分からない。リーマ ンショック以後、年金スポンサーはリスクに 対し、より敏感になった。しかし、従来の運 営法では、危機に気付いたとしても資産配 分をそう簡 単 に 変 えられ るもので は な この番付から見えてくる傾向はないか。 い・・・だからこそ先に挙げた相違点は年金 思える。両戦略とも投資対象となる資産が 従来の基本資産配分手法に物足りなさがあ ンチマークとなるようなインデックスが存在 ではないだろうか。両戦略の流行は単に運 ればならないスポンサーにとっては頭が痛 らない気がする。 位置付けが難しい、ならばそのような戦略 か・・・このコラムをどう結ぼうかと考えてい 東西横綱にはある共通点が存在するように スポンサーにとって非常に魅力的に映る。 複数にわたり、運用の自由度が高いため、ベ るからこそこのような戦略に注目が集まるの しないという点だ。評価や選定を行わなけ 用戦略の選択肢の幅が広がっただけに留ま い。評価が難しい、ポートフォリオの中での では、市場予測を資産配分に反映するの は避ければよいはず。どうしてこのような た矢先、飛びん込んできたのが、スイスフラ やっかいな戦略に関心が集まるのか。 ンの上限撤廃のニュース。誰も“予測できな さまざまな解釈があろうが、従来の資産 かった”今年最初の想定外。既存の方法のま 意識が一つ関心の元となっているように感 出すのは非常に難しい。 年金運営は、年金スポンサー自身がポー 金スポンサーも何らかの課題を抱えてい セット運用のようなものだ。この“運用戦略” したり、現状を俯瞰したりすることで次の一 ロックによる期待リターン推計、最適化、 登場しても、それが浸透するか、一時のブー 限られているといえそうだ。戦略の変更も3 しかし、ヒットや流行を客観視することは、 配分の決定方法やその頻度に対する問題 まなのか、一歩踏み出すのか、やはり答えを じる。 冒頭に挙げた業界と同じように、どの年 トフォリオマネージャーを務めるマルチア る。2つの業界の人々は、傾向や流れを把握 で用いられる手法は、主にビルディングブ 手を考えだそうとしている。新しい戦略が ALMシミュレーションといったもの。手法は ムで終わるか、結末はさまざまな形をとる。 ~5年に一回が大半だ。 既存の運営戦略を意識し直したり、考え直 一方、 マルチアセット戦略、債券アンコン ストレインド戦略は、運用会社それぞれ特 徴ある手法で資産配分の変更を行ってい したりするきっかけを与えてくれることがあ ると思う。2015年、どのような“ヒット”戦略 が現れるだろう。 る。リスクパリティ、ファクター分散、ジャッ ジメンタルな投資判断。手法はいろいろあ れど、年金スポンサーの行うマルチアセット 運用とは、中短期の市場予測を考慮する、 p / 20 Russell Investments // ラッセル・コミュニケ(日本版) Russell Investments // Russell Communiqué p / 21 RUSSELL INVESTMENTS 主な投資リスク 投資一任契約において、当社の投資判断者がその運用指図により投 資を行なう、 もしくはその可能性のある外国籍投資信託受益証券・投 資証券(「ファンド」)には、以下に挙げるリスクがあります。 ①株式の価格変動 株価変動リスク:一般的に、株式の価格は、発行企業の業績、国内外の 景気・経済・政治情勢などの影響を受け変動します。 したがって、株価 が下落した場合には、投資元本を割り込むことがあります。特に小型 株式は、株式市場全体の動きと比較して株価が大きく変動します。 ま た、相対的に市場規模や取引量が少ないために、市場実勢から期待さ れる価格で売買できない場合、不測の損失を被るリスクが大きくなる 場合があります。市況によっては大幅な安値で売却を余儀なくされる 可能性があり、投資元本を大幅に割り込むことがあります。 信用リスク:株式の発行企業の経営・財務状況の悪化や取引先等の経 営・財務状況が悪化した場合又はそれが予想された場合及びそれら に関する外部評価の変化があった場合には、当該企業の株価は下落 し、投資元本を割り込むことがあります。 ②債券の価格変動 価格変動リスク:債券は、金利の変動により価格が変動します。一般的 に金利が低下した場合には上昇し、金利が上昇した場合には下落し ますので、金利の変動等により投資元本を割り込むことがあります。 信用リスク:債券の価格は、市場環境の変化・発行体の経営不振、財務 状況の変化により、債券の利息や償還金をあらかじめ決められた条件 で支払うことができなくなる場合(債務不履行)又はできなくなると予 想される場合には、大きく下落します。 また、外部評価の変化等により 売買に支障を来たし、換金できないリスクがあります。 この結果、投資 元本を割り込むことがあります。 ③為替変動リスク 外貨建資産を円換算した資産価値は、外国為替相場により変動しま す。外国為替相場は、各国の政治・経済情勢・金利変動等を要因として 変動します。外貨建組入れ有価証券等について、その外貨の為替相場 が円高方向に進んだ場合には、当該有価証券等の価格は為替による 影響を受け、投資元本を割り込むことがあります。特に、新興国の為替 相場は短期的に大きく変動することがあり、先進国と比較して相対的 に高い為替変動リスクがあります。 為替ヘッジを行う場合には、円金利がヘッジ対象通貨建ての金利より 低い場合には、当該通貨と円の金利差相当分のヘッジコストが発生し ます。 また、為替変動リスクの低減を図る目的で為替ヘッジを行うこと がありますが、為替変動リスクを完全に排除できるものではありませ ん。 ④カントリーリスク 投資対象国・地域において、政治・経済・社会情勢の変動等により市場 に混乱が生じた場合、又は取引に対して新たな規制が設けられた場 合には、有価証券等の価格(表示通貨建て)が大きく変動したり、売買 が制限されたり、売買や受渡し等が不能になる場合があり、運用方針 に沿った運用ができない可能性があります。 また、通貨不安が発生し て、大幅な為替変動が起こる、円への変換が制限される、あるいはで きなくなる場合があります。 金することができません。 したがって、お客様が受託資産の一部解約 又は投資一任契約の解除をご希望された際に、必要な措置を講じる まで一部解約又は契約の解除を行うことができない場合があります。 また、金融商品によっては、申込み及び換金について、頻度・事前通知 期間・換金等に制限を受けることがあります。 ⑥派生商品への投資/利用に伴うリスク 有価証券先物・指数先物取引、 スワップ取引または有価証券オプショ ン等のデリバティブ取引の投資手法を用いることがあります。 これらの 投資手法に係る投資価格は、市場動向等の変動の影響を受け、短期 的又は長期的に大きな損失が発生する可能性を有しており、投資元 本に影響を与える可能性があります。 こうした投資手法は必ず用いら れるわけではなく、 また用いられたとしても本来の目的を達成できる 保証はありません。 また、取引相手の倒産などにより、当初の契約どお りの取引を実行できず損失を被るリスク、取引を決済する場合に反対 売買ができなくなるリスク、理論価格よりも大幅に不利な条件でしか 反対売買ができなくなるリスクなどがあります。 ⑦金融商品の流動性リスク 市場規模や取引量が少ない金融商品又は流動性に制限がある若しく は非公開の金融商品を投資対象とした場合、市場実勢から期待され る価格で売却できない可能性又は取引が不可能となるリスクがあり ます。特に、新興国における当該影響は、先進国と比較して相対的に 大きなリスクが伴います。 この場合、受託資産の一部解約又は投資一 任契約の解除をご希望されたお客様に、適時に解約代金をお渡しで きないことがあります。 ⑧その他のリスク レバレッジを利用した場合、投資リスクを大きく増加させる場合があり ます。 また、 レバレッジ効果による期待収益を上回るコスト増となる可 能性があります。 ショート取引を利用した場合、売建てた株式等が値上がりした場合、 投資リスクを大きく増加させ、投資元本を割込むことあります。 裁定取引を行う場合、短期的かつ急激な市場環境の変化等により、当 初想定した収益を実現できない可能性があります。 金融商品によっては、時価の取得に相当の期間を要するため、お客様 の投資元本が同時点での資産状況を正確に反映しない場合がありま す。 法律、税制、その他規制の変更により、投資対象が影響を受け、投資元 本を割込むことがあります。 ※上記は主な投資リスクであり、 リスクはこれらに限定されるものでは ありません。 費用について ①投資一任契約に基づきお客様にご負担いただく費用 ・投資一任契約に基づき投資顧問料がかかります。投資顧問料は、個 々のお客様との間の交渉によって取り決められた報酬率によって調整 されるため、事前に料率、上限額等を示すことができません。 ※税法が改正された場合は、投資顧問料に係る消費税等相当額が変 各資産の取り扱いは、それぞれの外国の売買制限や課税制度等に準 更になることがあります。 じますが、 これら制度等の変更が行われる場合があります。 これらの事 由により投資元本を割り込むことがあります。 また、新興国における当 ②投資一任契約において、当社の投資判断者がその運用指図により 該影響は、先進国と比較して相対的に大きなリスクが伴います。例え 投資を行なう、 もしくはその可能性のある外国籍投資信託受益証券・ ば、政府当局による海外からの投資規制等が導入されることや、政策 投資証券(「ファンド」)に関連する費用 の変更等により市場が著しい悪影響を被る可能性があります。 さらに、 税制が一方的に変更されることや、新たな税制が適用されることによ (当費用はファンド財産から差し引かれるものでお客様に別途お支 払いいただくものではありません。) り、投資元本が影響を受ける可能性があります。 ・ファンドにはManagement fees、Performance fees, Custodian and ⑤クローズド期間並びに申込み及び換金に関する制限 trustee fees、Sub-custodian fees、Administration fees、Anti Dilution クローズド期間がある金融商品を投資対象とする場合、同期間中は換 p / 22 Russell Investments // ラッセル・コミュニケ(日本版) levy、Audit fees、Professional fees、Registration fees、Marketing fees、Miscellaneous fees、Security broker fee、Swap fee、Bank interest等がかかる場合があります。 また、 ファンド・オブ・ファンズ形式 を採るファンドについては組入れファンドに関して上記の費用がかか る場合があります。 これらの費用については、投資対象及び運用状況により変動するもの であり、事前に料率、上限額等を示すことができません。 各費用の詳細につきましては、当社までお問い合わせください。 ③インプリメンテーション・サービスにかかる報酬・手数料について: 当執行サービスに対して投資顧問料とは別に費用がかかる場合があ ります。当執行サービスの費用は、個々のお客様との間の執行条件等 により異なるため、事前に料率・上限額等を示すことができません。 ご注意 Copyright© 2015. Russell Investments.All rights reserved. 当資料中「ラッセル・インベストメント グループ」、 「ラッセル・インベ ストメント」、及び「ラッセル」は、 フランク・ラッセル・カンパニー及びそ の子会社等の総称です。 当資料は、当社が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりま すが、 その情報の正確性や完全性についてこれを保証するものではあ りません。 ラッセルによる事前の書面による許可がない限り、資料の全部または 一部の複製、転用、配布はいかなる形式においてもご遠慮下さい。 当資料は、一般的な情報の提供を目的としたものであり、特定の商品 の推奨等の投資勧誘を目的としたものではありません。 また金融商品 取引法に基づく開示資料ではありません。 当資料で表示した分析は、一定の仮定に基づくものであり、その結果 の確実性を表明するものではありません。 当資料に示された意見などは、特に断りのない限り、当資料作成日現 在の当社の見解を示すものです。 当資料において記載されている数値、データ等は過去の実績であり、 当資料のいかなる記述も将来の投資収益等の示唆あるいは保証をす るものではありません。 当資料で表示したシミュレーションは過去の実績等を加工・分析した ものであり、本資料のいかなる記述も将来の投資収益等の示唆ある いは保証をするものではありません。 当資料の内容は作成時点のものであり、将来予告なく変更されること があります。 インデックスについて インデックス自体は直接的に投資の対象となるものではありません。 インデックスには運用報酬がかかりません。 MSCIインデックスに関する著作権及びその他知的財産権はすべて MSCI Inc.に帰属しており、その許諾なしにコピーを含め電子的、機械 的な一切の手段その他、あらゆる形態を用い、インデックスの全部ま たは一部を複製、配付、使用することは禁じられています。 またこれら の情報は信頼のおける情報源から得たものでありますが、その確実性 および完結性をMSCI Inc.は何ら保証するものではありません。 Russell Investments // Russell Communiqué p / 23 《お問い合わせ先》 ラッセル・コミュニケ(日本版)へのご意見、ご要望は、クライアント・サービス本部までお寄せください。 田中 祐一 三木 威 川幡 哲也 浅岡 恵美 三宅 著 小倉 真 合田 幸恵 大橋 理瑛 ラッセル・インベストメント株式会社 コンサルティング部 E-mail : [email protected] TEL : 03-5411-3510 FAX : 03-5411-3511 〒107-0052 東京都港区赤坂7丁目3番37号 プラース・カナダ 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第196号 加入協会:一般社団法人投資信託協会、一般社団法人日本投資顧問業協会
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