環境共生型海上都市の環境性評価 - 大阪大学大学院工学研究科 環境

環境共生型海上都市の環境性評価
小穴倫久・古川裕一・金裕奉・惣田訓・山口克人
(大阪大学大学院 工学研究科 地球総合工学専攻)
1. 緒言
都市を支えるエネルギーシステムも巨大化・国際化し、エネルギー・資源の消費に伴う大気汚染物
質や排熱の都市内外への排出が増大し続けている。その結果、化石燃料の枯渇の危機とともに地球環
境への負荷が著しく増大している。また、大都市圏への一極集中は様々な都市問題を引き起こし、現
状の都市では国際化や情報化、高齢化等といった社会の潮流に対応しきれなくなっている。このよう
な状況により、持続的成長が可能な新たな都市の理想像の確立が求められている。以上のような背景
から、本研究では、自立・循環・連携を基本コンセプトとした都市モデルである環境共生型海上都市
(Sustainable Marine City; SuMaC)を対象として、都市の自立性と環境負荷の低減を目標とした自然
エネルギー活用システムを提案した。さらにこの都市モデルの有用性を示すために、温室効果ガスを
指標としたエネルギーシステムの評価及び、熱環境評価について検討を行った。
2. SuMaC 構想 1)
大阪湾沿岸域、特に湾奥部沿岸域においては、次に示す環境創造課題がある。
①大阪湾沿岸各地域の連携・交流基盤の構築と大阪湾環状都市の形成、②生物多様性の回復(高度経済
成長期から現在までに失われた 2,000ha の砂浜・干潟・浅場等の生物生育環境の回復と生物種の回復)
③水質・底質の改善(特定の種が優占するような水質の改善、貧酸素・無酸素底質の改善、富栄養化
原因物質を含む河川水質の改善等)、④停滞性海域、港湾内停滞域の海水交換の促進、⑤人々と海の
関わりの回復(パブリックアクセス、環境教育・学習、海の生物とのふれあい等)、⑥生態系回復技術
の開発、⑦沿岸域におけるエコシティづくり、⑧居住空間・交流空間としての臨海空間の開放、⑨港
湾機能の再構築。
SuMaC は、これらの解決に資する、環境共生・創造のための、生物生育環境の提供、教育・学習、
研究、技術開発、新社会システムに関する最先端の実証実験モデル島であり、規模は 800∼900ha、
位置は大阪湾湾奥部の大河川河口域に隣接した空間を想定している。このような環境創造課題を考慮
した都市機能整備方針を立て、それを前提とした施設規模を表 1 のように想定した。
表 1 SuMaC における施設規模の想定及び建物用途別年間エネルギー需要量の想定
ゾーン
住宅系
住宅ゾーン
コリドールライン
複合センター
業務系
エコメッセ・庭園
自然学習村
施設
戸建住宅(1000戸)
低層連棟住宅(3000戸)
中層集合住宅(1098戸)
高層住宅(11070戸)
超高層住宅(400戸)
駅舎
商業施設
オフィス
ホテル
建設面積
延床面積 及び規模
(㎡)
100㎡/戸
100㎡/戸
100㎡/戸
100㎡/戸
100㎡/戸
屋根面積
100,000
60㎡/戸
300,000
60㎡/戸
109,800
30㎡/戸
1,107,000 20㎡/戸
40,000
10㎡/戸
20,000
−
30,000
20,000m2
30,000
20,000
4,000m2
30,000
住宅
SOHO
14,000m2
オフィス 20,000
会議場
10,000
5,000m2
産業団地
20,000
10,000m2
オフィス
20,000
3,000m2
環境共生実験施設
50,000
10,000m2
総合リサイクルセンター
50,000
12,000m2
見本市会場
20,000
20,000m2
ホテル
10,000
2,500m2
2
環境共生型実験住宅団地
60,000
27,000m
海の研究所
3,000
体験型展示施設
3,000m2
研修・交流施設
宿泊施設
1,000
500m2
合計
2050800 629,340㎡
1
電力需要量
(×106kWh/年)
年間需要量
熱需要量(×106MJ/年)
給湯
暖房
冷房
小計
10.71
63.99
42.66
17.06
123.71
24.09
143.97
95.98
38.39
278.34
2.00
6.30
3.00
2.70
0.63
2.00
1.00
2.00
2.00
5.00
10.50
4.20
1.35
1.26
0.18
2.89
0.28
6.69
3.77
0.18
0.09
0.18
0.18
0.46
4.81
1.92
3.35
7.53
2.59
4.39
3.89
6.69
2.51
2.59
1.30
2.59
2.59
6.49
7.32
2.93
3.35
5.02
5.86
15.69
8.79
8.37
1.00
5.86
2.93
5.86
5.86
14.64
26.15
10.46
4.18
2.01
8.64
22.97
12.95
21.76
7.28
8.64
4.32
8.64
8.64
21.59
38.28
15.31
10.88
14.56
0.30
0.03
0.39
0.88
1.30
0.14
79.17
0.33
240.85
0.33
193.63
0.42
174.41
1.09
608.89
3. SuMaC における自然エネルギー活用システムの検討
3.1.自然エネルギー活用システムの概要
SuMaC における自然エネルギー及び未利用エネルギーの活用によるエネルギーの自立を目指した
エネルギー供給システムを図 1 に示し、システム構成を表 2 に示す。SuMaC におけるエネルギー源
は、4 種類の自然エネルギー(太陽光発電、太陽熱エネルギー、風力発電、波力発電)及び 2 種類の
未利用エネルギー(ごみ焼却排熱、バイオガス発電)であり、不足分は系統電力で賄われる。また、
自然エネルギーは気象条件に影響を受けやすく、需要と供給に時間的な差違が生じるので、出力特性
の異なる個々の自然エネルギーを蓄電・蓄熱等で制御し、効率良く供給を行う。
電力供給システムでは、まず、発生した電力を SuMaC 内の電力需要に対し、可能な限り供給する。
電力が不足した際には、蓄電システムより貯蔵している水素を燃料電池に送り発電し、電力供給を行
う。この時、燃料電池は発電と同時に熱エネルギーを発生するので、地域熱供給システムの熱源とし
て利用する。熱供給システムでは、まず住宅ゾーンにおける給湯需要は、各住宅に太陽熱集熱器を設
電力供給
ごみ焼却場
地域熱供給システム
背圧
タービン ごみ
発電
吸収冷凍機
冷熱
供給管
蓄熱槽
圧縮冷凍機
SuMaCの
の
SuMaC
SuMaCの
エネルギー
エネルギー
需要
需要
ボイ
ラー
所内熱利用
焼却炉
ヒート
ポンプ
蓄熱槽
地域搬送
システム
復水器
熱交換器
熱交換器
ソーラー
コレクタ
温熱
供給管
蓄電排熱
余剰電力
自然エネルギー
自然エネルギー
電力
温熱
冷熱
厨芥
太陽光発電
太陽光発電
風力発電
風力発電
波力発電
波力発電
潮位差発電
潮位差発電
バイオガス発電
バイオガス発電
電力供給
蓄電システム
余剰電力
DC-DC
コンバータ
水素
発生機
水素貯蔵
タンク
図 1. SuMaC における自然エネルギー活用システム
表 2. SuMaC におけるエネルギー供給システム構成
分
類
ゾーン名
電力
・太陽光発電 住宅の屋根
住 中低層住宅ゾーン
(50m2パネル4,000基、20㎡パネル1098基)
宅
高層住宅ゾーン ・太陽光発電 高層住宅の屋上(10m2パネル11,070基)
コリドールライン
−
・太陽光発電 各施設の屋根(30m2パネル720基)
複合センター
・風力発電 スーパー堤防及びその延長線上である海上10kmに
600kW級1基、1500kW級13基を配置
業
・太陽光発電 各施設の屋根(30m2パネル3,150基)
務
系 エコメッセ・庭園 ・バイオガス発電 高度下水処理センターに設置
・ごみ発電 総合エネルギーコントロールセンター内に設置
・太陽光発電 1ha当り30m2パネル2基(30m2パネル400基)
・波力発電 自然学習村の西側に設置(総延長距離1,000m)
熱
分
ゾーン名
類
給湯
暖房
・個別太陽熱供給システム
住 中低層住宅ゾーン
宅 高層住宅ゾーン (集熱面積10.0m2、蓄熱槽1.0m3)
コリドールライン
・総合エネルギーコントロールセンター
複合センター
地域熱供給システム
業
務
・太陽熱エネルギー 各施設の屋根面の1/10に
系 エコメッセ・庭園 太陽熱集熱器の設置
自然学習村
自然学習村
・ごみ焼却排熱
・蓄電排熱
2
冷房
燃料
電池
置し個別に供給する。住宅ゾーンにおける給湯需要以外の熱需要は、ゴミ焼却排熱・蓄電システムか
ら発生する排熱(蓄電排熱)・業務系の施設の屋根に設置した太陽熱集熱器からの太陽熱エネルギー
を利用した地域熱供給システムによって各施設に供給される。熱が不足し、余剰電力がある場合は、
余剰電力を電源としたヒートポンプを用いて熱供給を行う。それでも尚、熱量が不足した場合は蓄電
システムで熱を供給するためだけに発電し、その排熱により供給する。
ある時間帯で最終的に余剰電力が生じれば、水素エネルギーとして蓄電を行う。
3.2. SuMaC におけるエネルギー需給の評価
電力及び熱の需要原単位 2),3)を用い、表 1 に想定した SuMaC における施設規模から SuMaC 内の施
設毎のエネルギー需要量の算定を行った。その結果、電力需要量は 79.2×106 kWh/y (住宅系 34.8×106
kWh/y,業務系 44.4×106 kWh/y)、熱需要量は 609×106 MJ/y (住宅系 302×106 MJ/y,業務系 307×106 MJ/y)
と推定された。自然エネルギー活用システムを導入した場合、SuMaC における全電力需要の 95.6%を、
また冷房需要の 95.3%、温熱需要(業務系の給湯需要と全暖房需要)の 85.2%を、住宅ゾーンにおけ
る給湯需要の 78.2%を自然エネルギーのみで賄える結果となり、エネルギー需要に対し、年間 5.9×
106kWh 電力が不足し、系統電力から賄う結果となった。
4. 温室効果ガスを指標とした環境性評価
上記で示した自然エネルギー活用システムの環境負荷を検討する。ただし、ここでは電力供給シス
テムのみについて検討し、熱供給システムについては検討しない。
4.1 温室効果ガス排出量原単位の算定
温室効果ガス排出量原単位の算定にあたっては、各発電システムについて耐用年数を 30 年とし、
ライフサイクルを素材製造、製造・建設、輸送、修繕保守に分け、各過程における温室効果ガスの排
出量を積み上げた。以下にその詳細を示す。
4.1.1 太陽光発電
多結晶シリコン太陽モジュール 10 ㎡を対象とした。素材製造過程は、構成する各素材に対する重
量 1)と各素材の温室効果ガス排出量原単位 2)との積の和とした。製造・建設過程は、素材から PV パ
ネルと架台を製造する際に必要とされる燃料量 1)と燃料の温室効果ガス排出量原単位 2)との積の和
とした。輸送過程は、製品の製造に必要な素材の輸送、及び製品の工場から現地までの輸送に必要な
燃料量 1)と燃料の温室効果ガス排出量原単位 2)との積の和とした。修繕保守過程は、素材製造過程、
製造・建設過程及び輸送過程の 1%1)とした。
4.1.2 風力発電
600kW 級の風力発電機と 1500kW 級の風力発電機を対象とした。素材製造過程は、欧州の風力発電
機の機器設備別の素材構成比 1)を用いて、各風力発電機の素材量を求め、素材製造にかかる温室効果
ガス排出量原単位 2)との積の和とした。製造・建設過程は、土木設備の建設にかかる燃料消費量 1 と
温室効果ガス排出量原単位 2)との積の和とした。輸送過程は、建築資材及び、設備機器の輸送にかか
る燃料消費量 1)と燃料の温室効果ガス排出量原単位 2)との積の和とした。修繕保守過程は、設備機
器の素材製造過程、製造・建設過程及び輸送過程の 5%1)とした。
4.1.3 波力発電
無弁式タービン及び空気流位相制御方式の波力発電を対象とした。素材製造過程は、構成する各素
材に対する重量 3)と各素材の温室効果ガス排出量原単位 1)との積の和とした。製造・建設過程は、
素材から製品を製造する際に必要とされる燃料量 3)と燃料の温室効果ガス排出量原単位 2)との積の
和とした。輸送過程は、製品の製造に必要な素材の輸送、及び製品の工場から現地までの輸送に必要
な燃料量 3)と燃料の温室効果ガス排出量原単位 2)との積の和とした。修繕保守過程は、波力発電の
修繕保守に必要な燃料量 3)と温室効果ガス排出量原単位 2)との積の和とした。
4.1.4 ごみ発電
ごみ発電については、その詳細なデータが得られなかったため、その施設の規模 4)と施設の製造・
建設にかかる温室効果ガス排出量原単位 4)との積とごみ焼却量による温室効果ガス排出量 4)との和
とした。修繕保守過程として、製造・建設にかかる排出量の 1%とした。
4.1.5 バイオガス発電
バイオガス発電については、その詳細なデータが得られなかったため、その施設の規模 4)(ごみ発
電施設と同量とした)と施設の建設にかかる温室効果ガス排出量原単位 4)との積とした。修繕保守過
3
程として、製造・建設にかかる排出量の 1%とした。
4.1.6 各発電システムの温室効果ガス排出量原単位
各発電システムの温室効果ガス排出量原単位を表 3 に示す。
4.2 温室効果ガスを指標とした環境性評価
上記の原単位を用いて、SuMaC における自然エネルギーシステムの温室効果ガスを指標とした環
境性評価を行う。比較対象として、本システムにより供給される電力供給量を系統電力により賄う場
合を想定する。SuMaC の立地設定から考慮し、系統電力として関西電力から供給するものとし、関
西電力の発電電力量構成比 5)(表 4)を用いて系統電力の各発電
表 4 系統電力の発電電力構成
システムの供給量を求めた。
発電形式
構成比
その結果を表 5 に示す。この結果から自然エネルギー活用シス
一般水力
9
テムを導入することによって、年間 5.67×103t-C の温室効果ガス
揚水式水力
1
削減効果があるという結果となった。
石油火力発電
5
しかし、蓄電システムの温室効果ガス排出量原単位がこれに関
LNG火力発電
19
石炭火力発電
17
するデータ不足のため算出できず、この結果は蓄電システムによ
原子力発電
49
る温室効果ガス排出量が考慮されていない。そのため、この削減
合計
100
効果は多少過大評価した結果といえる。
表 3 各発電システムの温室効果ガス排出量原単位
ライフサイクルステージ
太陽光発電
素材製造過程 (t-C)
製造・建設過程(t-C)
輸送過程(t-C)
修繕保守過程(t-C/y)
一基当たりの供給量(kWh/y)
温室効果ガス排出原単位
(g-C/kWh)
風力発電
波力発電
ごみ発電
バイオマス発電
600kW級
1500kW級
2.58×10-1
2.84×10-1
1.01×10-2
5.52×10-3
1.51×103
1.65×102
2.31×101
6.48×100
7.32×100
2.16×106
3.71×102
4.92×101
2.57×101
1.28×101
5.22×106
5.80×101
6.25×100
6.09×100
1.89×100
1.43×105
1.38×101
6.46×105
4.50×100
1.97×105
15.86
6.39
5.29
29.66
92.81
98.82
1.38×10
3
2
4.50×10
表 5 温室効果ガスを指標とした環境性評価
系統電力によ
る供給
電源
温室効果ガス排出量
原単位(g-C/kWh)
年間供給量
(×106kWh/y)
温室効果ガス排出量
(t-C/y)
石炭火力
266
1.35×107
3.58×103
石油火力
202
3.96×106
8.00×102
LNG火力
166
1.51×107
2.50×103
原子力
8.53
3.88×107
3.31×102
水力
3.07
7.92×106
2.43×101
7.92×107
7.24×103
15.86
5.02×107
7.96×102
600kW級
6.39
2.16×106
1.38×101
1500kW級
5.29
6.78×107
3.59×102
波力発電
29.66
1.43×105
4.23×100
ごみ発電
92.81
6.46×105
6.00×101
バイオガス発電
98.82
1.97×105
1.95×101
燃料電池(蓄電システム)
−
1.28×107
−
蓄電ロス
−
5.83×10
7
−
系統電力(不足分)
91.3(系統電力の平均値)
3.49×106
3.19×102
7.92×107
1.57×103
合計
太陽光発電
風力発電
自然エネル
ギー活用シス
テムによる供
給
合計
4
SuMaC の熱環境評価
ここでは、SuMaC で想定されている自然エネルギーの活用、風の道の確保、緑地・水域ネットワ
ークの構築等の環境共生型施策が都市の熱環境に及ぼす影響を評価する手法を確立するための諸検
討を行った。大まかな建物配置が決定している SuMaC 内のエコメッセゾーンを対象として数値シミ
ュレーションモデルを適用し、気温分布に対する、建物や自動車からの人工排熱、土地利用の変化の
影響を予測・評価した。
5.
5.1.モデルの概要
本研究で用いたモデルは、建物形状が流れ場に及ぼす影響を反映できるように、数 m 程度の水平
分解能を持っている。乱流モデルは標準 k-εモデルを用いた。
5.1.1 大気モデル
本モデルは、水平メッシュの幅が小さいため、非静水圧モデルであり、解法は SIMPLE 法を用い
た。基礎方程式は、以下に示す連続方程式、運動方程式、乱流エネルギー方程式、温度方程式、比湿
方程式で構成されている。
∂u i
= 0
(1)
∂xi
1 ∂P ∂ 
∂u 
∂u
∂ui
Km i  + g ⋅ β ⋅ ∆T ⋅ δ i ,3
+
+ uj i = −

ρ ∂xi ∂x j  ∂x j 
∂x j
∂t
∂u j
∂ u i  ∂ u i
∂k
∂k
∂  K m ∂ k 
+ Km
+
+uj
=



∂x j  ∂x j
∂x i
∂t
∂x j
∂x j  σ k ∂x j 
∂
∂ε
∂ε
=
+uj
∂x j
∂x j
∂t
∂T
+ u
∂t
j
K m = ν + Cµ
k2
ε

 + g ⋅ β ⋅ K T ∂T − ε

∂x j

2





 + C ε K ∂ui  ∂ui + ∂u j  + C ⋅ g ⋅ β ⋅ K ∂T  − C ε
1
m
3
T
2

∂xi 
k  ∂x j  ∂x j ∂xi 
k

∂ T 
+ ST
∂ x j 
(3)
 K m ∂ε

 σ ∂x
j
 ε
(4)

KT


(5)
∂
∂T
=
∂x j
∂x
∂
∂qv
∂qv
=
+uj
∂x j ∂x j
∂t
(2)
j


 Kqv ∂qv  + S qv

∂x j 

, KT = ν +
Km
σT
(6)
, K qv = K T
C1=1.44, C2=1.92,
Cμ=0.09
C3=0.0(安定)
σk=1.0,
σT=0.9,
C3=1.44(不安定)
σε=1.3,
ここで、u:速度成分、P:圧力、k:乱流エネルギー、ε:乱流エネルギーの消散率、T:温度、qv:比湿、
Km:乱流拡散係数、ΚT:温度に対する実効拡散係数、Κqv:比湿に対する実効拡散係数、g:重力加速度、
St:T の発生項、Sqv:qv の発生項、ν:動粘性係数、β:体積膨張率、δi,3:クロネッカーのデルタ記号で
ある。
5.1.2. 土壌モデル
地表面及び建物の壁の温度を求めるため、地表面熱収支モデルと、Kondo と Saigusa らによって
構築された鉛直一次元の多層土壌モデル 9)を用いた。また、
建物の壁及びアスファルト面においては、
熱収支と温度方程式のみを考慮している。
5.1.3. 日影モデル
本研究で用いた日影モデルは、建物からの日射の反射を考慮することはできないが、複雑な建物配
置においても適用可能という利点を持っている。日影の部分において、散乱日射のみを考慮すること
によって影の効果を表している。
日影の長さ LS、日影の方位角βS は以下のように表せる。
LS=HBcot(βS)
βS=β+180
cos(β)=-cos(φlati)sin(δ)+sin(φlati)cos(δ)cos(h)
sin(β)= cos(δ)sin(h)/sin(θh)
sin(θh)=sin(φlati)sin(δ)+cos(φlati)cos(δ)cos(h)
ここで、HB:建物の高さ、β:太陽の方位角、φlati:緯度、δ:太陽赤緯、h:時角、θh:太陽の高度角、
である。
5
この日影を微小長さに分割し、その X 成分、Y 成分の座標系を計算し各メッシュに入るかどうかを判
定することによって日影の有無を決定している。
5.2.計算条件
5.2.1 計算領域
大まかな建物配置が決定しているエコメッセを含む 1186m(南北)×1081m(東西)の地域において、
鉛直方向 137m までを計算領域とした(図 2)。
メッシュ数は 134(南北)×134(東西)×40(鉛直)で、水平分割は建物が存在する領域を水平 5m×5m
メッシュで均等分割を行い、鉛直分割は建物が存在する領域を 1m間隔の均等分割を行った(図 3)。
エコメッセ内には、表 6 に示す建物が想定されており、図 4 に示すように、建物配置及び建物形状も
一通り決定している。環境共生型実験住宅団地については、個々の建物がメッシュに比べ非常に小さ
いため、便宜上、一定数の建物を一つにまとめて考えた。
スーパー堤防・緑地
バードサンクチュアリ
礫間接触堤防
傾斜護岸・岩場・タイドプール
コリドールライン
なぎさ海道
複合センター
中低層住宅
ゾーン
エコメッセ
夕日を見る丘
庭
園
保留地
自然学習村
高層住宅ゾーン
バッファーゾーン
計算領域
ヨシ原
(アマモ場)
海浜運動公園
干潟
砂浜
水門
N
0
500m
ラグーン
鉄道駅
海歩道
生活関連港湾用地
干潟
礫間接触堤防
グリーンベルト 鉄道駅
自然学習村
岩場
船着き場
1km
図2
SuMaC の土地利用 1)及び計算領域
他地区へ
Y
X
図 4 エコメッセの俯瞰図
図 3 メッシュ
表 6 計算領域(エコメッセ)における施設規模の想定 1)
ゾーン名
SOHO
施設名
住宅
オフィス
会議場
産業団地
オフィス
エコメッセ
環境共生実験施設
総合リサイクルセンター
見本市会場
ホテル
環境共生型実験住宅団地
延床面積(㎡) 表面積(㎡)
建設面積及び規模
30,000
23,150
14,000m2、4F
20,000
10,000
7,200
5,000m2、3F
2
20,000
10,740
1,000m 、3F(管理室)、3,000m2、2F×3
20,000
8,280
3,000m2、地下1F地上6F
50,000
17,655
10,000m2、5F
50,000
19,760
12,000m2、地下2F地上4F
20,000
10,000
20,000m2(一部2F建)
10,000
7,160
2,500m2、地下1F地上9F
60,000
48,840
戸建300戸、中層300戸
6
5.2.2.人工排熱の取り扱い
表 7 単位表面積当たりの人工排熱量
(1)建物からの人工排熱
14時における
20時における
施設
人工排熱量(W/㎡) 人工排熱量(W/㎡)
建物内で消費される電力や冷房エネルギ
12.8
28.7
環境共生実験住宅団地
ーは、形を変え最終的には熱として建物外部
SOHO
156.6
7.1
へ排出されるため、建物からの人工排熱量は
100.7
4.6
会議場
エネルギー需要量と等しいと考えた。エネル
135.0
6.1
産業団地
175.1
8.0
オフィス
ギー需要量原単位 2),3)、各建物の述べ床面積
205.3
9.3
環境共生実験施設
からエコメッセに想定した建物毎の人工排
242.0
1.6
総合リサイクルセンター
熱量を求め、それらを表面積で割ることによ
93.5
0.6
見本市会場
って単位表面積当たりの人工排熱量を算出
122.2
110.8
ホテル
した(表 7)。
(2)自動車からの人工排熱
建物
エコメッセにおける自動車からの人工排熱量
裸地
は、以下のように推定した。
道路
建物用途別の発生集中交通量原単位 10)とエコ
(アスファルト)
メッセの施設規模から、エコメッセ全体における
発生集中交通量を算定し、エコメッセ内における
自動車の平均走行距離を 0.8km とすると、エコメ
ッセ内の自動車の 1 日当たりの走行量は 7240[台
km/日]となる。これに自動車のガソリン消費量原
単 位 0.0714[l/ 台 km]11) 、 ガ ソ リ ン の 発 熱 量
34.6[MJ/l]12)を掛けると、エコメッセ内の自動車か
図 5 エコメッセにおける道路の設定
らの 1 日当たりの総排熱量が算出される。これら
は全て道路上で排出されると考え、道路の総面積
表 8 各地表面における熱物理係数 14),15)
約 50000 ㎡(図 5)、14 時における交通量の時間
比率 5.5%13)を用いると、14 時における道路 1 ㎡
熱伝導率
熱容量
アルベド
-1 -1
-3 -1
6
当たりの排熱量は、5.46[W/㎡]と推定された。
[Wm K ] [Jm K ×10 ]
5.2.3.初期条件及び境界条件
0.2
0.63
1.9
裸地
計算日は 8 月 1 日とした。風向は図 2 に示す方 建物(コンクリート)
0.2
1.70
2.1
0.1
0.70
1.4
向から流入する場合を考え、初期温度は全メッシ 道路(アスファルト)
ュ 300K とした。各地表面における熱物理係数は
表 9 境界条件
表 8 に示す値を用いた。本研究では、境界条件を
u=- 5.0×cos 10°, v=- 5.0×sin 10°
表 9 のように一定値に固定したため、基礎方程式
上端
∂ (T , k , ε )
の解が収束するまで繰り返し計算した。
w= 0,
= 0.0
∂z
5.2.4.計算ケース
下端
表 10 に計算ケースを示す。ケース 1 及び夜間
風速及び乱流量:対数則による壁関数
及び壁
であるケース 6 とケース 7 は日影モデルを考慮し
u , v :対数分布, w= 0
流入部
ていない。ケース 3 とケース 5 は、表 7 に示した
k,ε :u成分の対数分布に対する乱流量
人工排熱量を建物の壁における熱収支式に組み
∂ (u, v, w, T , k , ε )
込んだケースである。ケース 6 は道路を図 5 のよ
= 0 .0
∂x
うに設定したケースであり、ケース 7 はケース 6
流出部
∂ (u , v, w, T , k , ε )
で考慮した道路において自動車からの人工排熱
= 0. 0
∂y
を地表面熱収支式に入力したケースである。
表 10 計算ケース
ケース1
ケース2
ケース3
ケース4
ケース5
ケース6
ケース7
日影モデル
地表面構成
人工排熱 計算時刻
14時
全て裸地
14時
あり
全て裸地
14時
あり
一部アスファルト舗装道路
14時
あり
全て裸地
建物排熱
14時
あり
一部アスファルト舗装道路 自動車排熱
20時
全て裸地
20時
全て裸地
建物排熱
7
5.0m/s
Y :597m
5.3.計算結果と考察
5.0m/s
5.3.1.流れ場
流れ場については各計算ケース間で大きな差
異が生じなかったので、代表として図 6 にケース
2 の建物近くの領域における高さ 1.5m の流れ場
及び P-P´断面の流れ場を示す。なお、P-P´断
面においては鉛直方向を 5 倍に拡大している。建
物後方での Wake 及び下降流、建物間での循環流
がよく再現できている。
P
P´
5.3.2.日影の温度場への影響
図 7 また、ケース1とケース 2 の高さ 1.5m に
おける気温の水平分布及び P-P´断面における
鉛直分布を図8に示す。両ケースとも、風速が強
い所での顕熱・潜熱フラックスの増加による地表
面温度の低下、風速が弱い建物後方における地表
面温度の上昇が確認できる。建物後方や建物の間
といった風速の弱いところでの気温上昇も確認
できる。日影の部分で地表面温度、気温ともに低
下しており、日陰の効果が表せている。ケース 2
とケース 1 の最大気温差は、0.35K、最大地表面
X : 630m
温度差は 1.1K となった。
図 6 高さ 1.5m 及び P-P´断面の流れ場
5.3.3.地表面構成の違いによる温度場への影響
ケース 3 の地表面温度分布及び高さ 1.5m における気温の水平分布を図 9 に示す。ケース 2(図 7
の B 及び図8の B)と比べて、道路の部分で地表面温度と気温がともに高くなっており、地表面構成
の差異による影響が表せている。道路を考慮することによる地表面温度の上昇、気温の上昇の最大値
はそれぞれ 2.8K、10.3K となり、地表面構成の違いによる温度場への影響は非常に大きい結果となっ
た。
5.3.4.人工排熱の有無による温度場への影響
人工排熱の有無による温度場への影響を検討するため、高さ 1.5m、P-P´断面において、ケース 2
とケース 4、ケース 3 とケース 5、ケース 6 とケース 7 それぞれの気温と温度差を図 10 に示す。ケー
ス 2 とケース 4 を比較すると、建物後方で気温が上昇していることが確認できるが、ケース 3 とケー
ス 6、ケース 6 とケース 7 の温度はほぼ同じであり、今回入力した人工排熱量では、ほとんど影響が
ないという結果になった。最大気温差は、ケース 2 とケース 4 で 0.47K、ケース 3 とケース 5 で 0.03K、
ケース 6 とケース 7 で 0.17K となった。
(A)
(B)
Y :597m
X : 630m
図7
地表面温度(A:ケース 1、B:ケース 2)
8
(A)
(B)
Y :597m
P
P
P´
P´
X : 630m
図 8 地上 1.5m における気温の水平分布及び P-P´断面における鉛直分布(A:ケース 1、B:ケース 2)
Y :597m
X : 630m
図 9 ケース 3 の地表面温度分布及び高さ 1.5m における気温の水平分布
[K]
303.0
[K]
303.0
ケース2
302.5
302.0
301.5
301.5
301.0
301.0
300.5
300.5
556
756
956
ケース6
ケース5
299.6
299.5
0.02
(ケース 5)−(ケース 3)
0.01
0.01
0.01
0.01
0.00
ケース7
299.8
299.7
300.0
0.02
(ケース 4)−(ケース 2)
356
ケース3
302.5
ケース4
302.0
300.0
0.40
0.30
0.20
0.10
0.00
[K]
299.9
356
556
756
(m)
(m)
図 10 高さ 1.5m、P-P´断面における気温比較
9
956
0.00
(ケース 7)−(ケース 6)
356
556
756
(m)
上:各ケースの気温、下:気温差
956
6.
まとめ
環境共生型海上都市を対象として、都市の自立性と環境負荷の低減を目標とした自然エネルギー活
用システムを提案し、電力自給率 95.6%、冷熱自給率 95.3%、温熱自給率 85.2%、住宅ゾーンにおけ
る給湯自給率 78.2%という結果となった。
温室効果ガス排出量を指標とした環境性評価を行うために、各発電システムの温室効果ガス排出量
原単位を算定し、系統電力による供給を比較システムとした場合の自然エネルギー活用システムの環
境性評価を行った。その結果、年間 5.67×103t-C の温室効果ガス削減効果があるという結果となった。
SuMaC 内のエコメッセゾーンを対象として数値シミュレーションモデルを適用し、気温分布に対
する、建物や自動車からの人工排熱、土地利用の変化の影響を予測・評価した。
その結果、道路を考慮することによる地表面温度の上昇、気温上昇の最大値はそれぞれ 2.8K、10.3K
となり、地表面構成の違いによる温度場への影響は非常に大きい結果となった。一方、建物からの人
工排熱による気温上昇の最大値は 14 時において 0.47K、20 時において 0.17K、自動車からの排熱によ
る気温上昇の最大値は 0.03K となり、比較的影響が小さい結果となった。
謝辞
環境共生型海上都市は、NPO 大阪湾研究センター環境共生型まちづくり研究委員会で検討されてお
り、貴重な御意見、御指導を頂きました。委員の皆様に感謝いたします。
<参考文献>
1) 野邑奉弘,山口克人,小嶋良一,篠木義博,川崎俊夫,郡山正久,村田武一郎,藤井義之 (2000)
大阪湾沿岸域における環境共生型まちづくりに向けた自然エネルギー活用システムの構築. 大
阪湾研究, 3 (通巻 31), 5-12.
2) 新エネルギー・産業技術総合開発機構報告書(2000)環境調和型エネルギーコミュニティに関わる
導入支援ソフトの作成
3) (社)空気調和・衛生工学会(1994)都市ガスによるコージェネレーションシステム計画・設計と評価.
丸善
4) 本藤祐樹,内山洋司,森泉由恵(2000)ライフサイクル CO2 排出量による発電技術の評価
5) 南斉規介,森口祐一,東野達(2002)産業連関表による環境負荷原単位データブック(3EID)
6) 科学技術庁資源調査委員会(1983)自然エネルギーと発電技術
7) 谷口孚幸,伊藤武美(1997)地球環境都市デザイン
8) 関西電力(2002) 関西電力データ集
9) Kondo, J. and Saigusa, N.(1992)A model and experimental study of evaporation from bare-soil surfaces,
Journal of Applied meteorology, Volume31,pp.304-312.
10) 建築研究所(1988)建築物の発生集中交通特性に関する一考察
11) 国土交通省(2002)ガソリン乗用車の 10・15 モード燃費平均値の推移
12) 資源エネルギー庁(2001)エネルギー源別発熱量表
13) 兵庫県(2000)環境影響評価書 東播都市計画道路、1・4・1 号東播磨南北道路
14)Roger A. Pielke (1984) Mesoscale Meteorological Modeling. ACADEMIC PRESS
15) 近藤純正(1994)水環境の気象学―地表面の水収支・熱収支―. 朝倉書店
10