多発性硬化症の新規治療、第2部: 2014年 に行われたMS国際会議から得られた洞察 Supported by an independent educational grant from Biogen Idec. www.medscape.org/viewarticle/831231 多発性硬化症の新規治療、第2部: 2014年に行われたMS国際会議から得られた洞察 www.medscape.org/viewarticle/831231 対象者 この活動は神経学者を対象とするものです。 目的の説明 この活動の目標とするところは、2014年の米国‐欧州多発性硬化症治療研究会議(ACTTRIMS-ECTRIMS)において提 示されたとおり、多発性硬化症の新しい病態修飾療法に関して新しく明らかになった臨床試験データについて、専門家の 洞察を提供することです。 学習目標 この活動を終えることにより、参加者は以下のことが行えるようになります。 1.2014年のACTRIMS-ECTRIMS会議の主要な臨床試験結果について議論できる。 2.臨床診療における多発性硬化症治療に関する新しいデータを適応する対策を策定できる。 著者・教員に関する情報及び開示についての声明 CMEがスポンサーとなるすべての教育的活動において、客観性、バランス、独立性、透明性、科学的厳密性を確実に保 つことが、マウントサイナイ・アイカーン医科大学 (Icahn School of Medicine at Mount Sinai)の方針です。スポン サーを受けた活動の計画作成あるいは推進に関与するすべての教員は、関連性のあるすべての財務関係について公開し、 相互関連から生じ得るすべての利益相反を解決するため助力することが期待されます。講演者は、認可外あるいは未承認 の薬品や装置についての議論について、聴衆に有意義な開示を行わなくてはなりません。この情報はコース材料の一部と して入手可能となります。 Stephen Krieger医師 マウントサイナイ病院マウントサイナイ・アイカーン医科大学コリン・ゴールドスミス・ディキンソン多発性硬化症セン ター(ニューヨーク州ニューヨーク市)、神経学科助教授、神経学研修プログラムディレクター 開示:Stephen Krieger医師は以下の関連する財務関係があることを開示しました。 アドバイザーまたはコンサルタントとして務める会社名:Acorda Therapeutics、Bayer HealthCare Pharmaceuticals、Biogen Idec Inc.、Genzyme Corporation、Questcor Pharmaceuticals, Inc.、Teva Neuroscience, Inc. スピーカーまたはスピーカースビューローのメンバーとして務める会社名:Genzyme Corporation、 Teva Neuroscience, Inc. Krieger医師は、FDAが米国内での使用を認可した医薬品の適応外の使用、機械装置、生物製剤または診断法について、 議論する意図があります。 Krieger医師は、FDAが米国内での使用を認可した治験薬、機械装置、生物製剤または診断法について、議論する意図が あります。 編集者に関する情報及び開示についての声明 Ron Schaumburg, MA 科学ディレクター、Medscape, LLC 開示:Ron Schaumburg, MAは、関連する財務関係がないことを開示しました。 Pg.2 www.medscape.org/viewarticle/831231 著者に関する情報及び開示についての声明 Andrew N. Wilner医師 ローレンスメモリアル病院(コネチカット州ニューロンドン)神経科、神経科ホスピタリスト 開示:Andrew N. Wilner医師は関連する財務関係がないことを開示しました。 運営委員会に関する情報及び開示についての声明 Stephen Krieger医師 上記記載の通り。 Mathias Buttmann医師 ヴュルツブルク大学(ドイツ、ヴュルツブルク)神経学部シニアコンサルタント神経科医、多発性硬化症外来クリニック 院長、多発性硬化症クリニカルリサーチグループ副部長 開示:Mathias Buttmann医学博士は、以下の関連する財務関係があることを開示しました。 アドバイザーまたはコンサルタントとして務める会社名:Bayer HealthCare Pharmaceuticals、Biogen Idec, Inc.、 Genzyme Corporation、Merck Serono、Novartis Pharmaceuticals Corporation、Ocatapharma 臨床研究の助成金を受け取った会社名:Merck Serono、Novartis Pharmaceuticals Corporation Patricia K. Coyle医師 ストーニーブルック大学(ニューヨーク州ストーニーブルック)臨床部副部長、MS コンプリヘンシブケアセンターディ レクター 開示:Patricia K. Coyle 医師は、以下の関連する財務関係があることを開示しました。 アドバイザーまたはコンサルタントとして務める会社名:Acorda Therapeutics、Bayer HealthCare Pharmaceuticals、Biogen Idec, Inc.、EMD Serono, Inc.、Genentech, Inc.、Genzyme Corporation、Mylan Laboratories, Inc.、Novartis Pharmaceuticals Corporation、Roche; Sanofi、Teva Neuroscience, Inc. 臨床研究の助成金を受け取った会社名: Actelion Pharmaceuticals, Ltd.、Novartis Pharmaceuticals Corporation、Opexa Therapeutics, Inc. Gavin Giovannoni教授 、MBBCh、博士、FCP、 FRCP、FRCPath バーツ・ロンドン医科歯科学校〔英国ロンドン〕ニューロサイエンス及びトラウマセンター、神経学科教授 開示:Gavin Giovannoni、MBBCh、博士、FCP、 FRCP、FRCPathは、以下の関連する財務関係があることを開示 しました。 アドバイザーまたはコンサルタントとして務める会社名:FivePrime Therapeutics、Genzyme Corporation、Sanofi、GW Pharmaceuticals、Ironwood Pharmaceuticals, Inc.、Merck Serono、Novartis Pharmaceuticals Corporation、Synthon BV、Vertex Pharmaceuticals Incorporated 運営委員会を努める会社名: Novartis Pharmaceuticals Corporation、Roche、Teva Pharmaceuticals USA、Biogen Idec Inc.、AbbVie Inc. Xavier Montalban医師、博士 アウトノマ大学神経学科教授、バル・デブロン大学病院神経/神経免疫学科長、カタロニア多発性硬化症センターディレ クター(スペイン、バルセロナ) 開示:Xavier Montalban医師、博士は、以下の関連する財務関係があることを開示しました。 アドバイザーまたはコンサルタントとして務める会社名: Almirall Prodesfarma, S.A.、Bayer HealthCare ス ピーカーまたはスピーカースビューローのメンバーとして務める会社名:Almirall Prodesfarma, S.A.、Bayer HealthCare Pharmaceuticals、Biogen Idec Inc.、Genzyme Corporation、Merck & Co., Inc.、Neurotech Pharmaceuticals、Novartis Pharmaceuticals Corporation、Sanofi、Teva Pharmaceuticals USA Pg.3 多発性硬化症の新規治療、第2部: 2014年に行われたMS国際会議から得られた洞察 臨床研究の助成金を受け取った会社名:Almirall Prodesfarma, S.A.、Bayer HealthCare Pharmaceuticals、Biogen Idec Inc.、Genzyme Corporation、Merck & Co., Inc.、Neurotech Pharmaceuticals、Novartis Pharmaceuticals Corporation; Sanofi、Teva Pharmaceuticals USA Claire S. Riley医師 コロンビア大学メディカルセンター(ニューヨーク州ニューヨーク市)、神経学助教授 開示:Claire S. Riley医師は、以下の関連する財務関係があることを開示しました。 アドバイザーまたはコンサルタントとして務める会社名:Biogen Idec Inc.、Genzyme Corporation、Novartis Pharmaceuticals Corporation、Teva Neuroscience, Inc. その他の立案者・レビュアーに関する情報及び開示についての声明 CME レビュアー Nafeez Zawahir医師 CEM臨床ディレクター、Medscape, LLC Nafeez Zawahir医師は関連する財務関係がないことを開示しました。 査読者に関する情報 Michelle Fabian医師 マウントサイナイ・アイカーン医科大学神経科准教授 開示:Michelle Fabian医師は関連する財務関係がないことを開示しました。 Pg.4 www.medscape.org/viewarticle/831231 はじめに 米国多発性硬化症会議(ACTRIMS)と欧州多発性硬化症会議(ECTRIMS)の2014年の合同会議が九月中旬にマサチューセ ッツ州ボストンで開催されました。 4日間に及ぶ科学会議セッションでは、9000人に及ぶ参加者が、急速に変化する多発性硬化症管理の分野についての最 新の洞察を提供する1000以上のプラットフォームやポスタープレゼンテーションに参加しました。 この報告書は多発性硬化症の病態生理学に関する新たな見解をまとめたもので、現在知られている、そして新たに明らか になった病態修飾療法(DMT)の主要な治験データを考察し、こうした進展が現在と近い将来の臨床診療にどのような 影響を及ぼすのかについて専門家の洞察を提供します。 第1部: 治験結果 モノクローナル抗体 再発寛解型多発性硬化症の最も有効な治療の1つは、月毎にナタリズマブ(リンパ球のα4インテグリン受容体に結合する モノクローナル抗体)を注入することです。ナタリズマブは月一度の注入を必要とするのみなので服薬が順守されやす く、高い効果があります。しかしナタリズマブは、JCウイルスによって引き起こされ、潜在的に致命的な脳の感染症で ある進行性多巣性白質脳症(PML)に関連を持つので、注意深く使用されなくてはなりません。治療期間が長引いたり、免 疫抑制薬を以前に使用していたり、JCウイルス抗体(特に抗体力価が高い抗体)が存在すると、進行性多巣性白質脳症 のリスクが増します。そのため、効果が高く、しかしながら進行性多巣性白質脳症や有害諸事象のリスクを伴わない他の 薬剤の探求が続いています。 アレムツズマブ アレムツズマブはTおよびBリンパ球を減少させるヒト化抗CD52モノクローナル抗体です。30カ国以上で認可されてい ますが、米国食品医薬品局(FDA)からは最初は拒否されました。その後アレムツズマブに関する臨床データが米国食品医 薬品局に再提出され、当記事を書いている今現在(2014年10月)、認定の審理中です。 2014年の米国‐欧州多発性硬化症治療研究会議(ACTRIMS・ECTRIMS)では、チェコ共和国プラハ大学のエバ ハルブド ーバ医師・博士を代表とする研究グループが、再発寛解型多発性硬化症(RRMS)におけるアレムツズマブのCARE-MS 1 とCARE-MS 2の治験の3年間のフォローアップ結果をまとめました[1]。両方の研究において、患者は、5日間連続し て12mg/dのアレムツズマブの静脈内注射を受け、その1年後3日間連続して注射を受けました。3年間フォローアップ された349 人のCARE-MS 1 と393人の CARE-MS 2 の患者の内、それぞれ18%と20%のみが、治験計画書に定めら れた再発性多発性硬化症疾患の定義に当てはまり、3年目の再治療を必要としました。残りの患者は1年目と2年目の初 期治療の永続的影響が確認されました。CARE-MS 1のグループでは、3年間のフォローアップの後、65%に臨床疾患が 無く、40%に磁気共鳴映像法(MRI) で疾患の活動が無く、30%にはすべての多発性硬化症の活動が見られませんでし た。CARE-MS 2のグループでは、 50%に臨床疾患が無く、40%に磁気共鳴映像法での活動が無く、23%にはすべての 多発性硬化症の活動が見られませんでした。4年間の治療後のフォローアップのデータは現在準備中です。 ダクリズマブ スイスのバーゼル大学病院のルートヴィヒ・カッポス医師は、RRMSで高収率合成(HYP)ダクリズマブとインターフェ ロン β-1aを比較した、無作為化、二重盲検、ダブルダミー、実薬対照試験(DECIDE )の結果を発表しました[2] 。高 収率合成(HYP)ダクリズマブは、T細胞のインターロイキン(IL)-2受容体のCD25 αサブユニットに特異的なヒト化 IgG1モノクローナル抗体です。ダクリズマブは、IL-2シグナル伝達の中等度の親和性のIL-2Rへの移行を促進し、活性化 したT細胞反応を抑制します。同時にCD56brightナチュラルキラー(NK)細胞も増やします。高収率合成(HYP)ダク リズマブは、以前のダクリズマブと異なるグリコシル化プロファイルを持っています。この変更により、抗体依存性細胞 障害活性は減少します。[3] Pg.5 多発性硬化症の新規治療、第2部: 2014年に行われたMS国際会議から得られた洞察 DECIDE 治験は、28カ国の245箇所の試験センターで実施され、1841人の被験者が含まれ、その平均年齢は36.3歳 で、68%が女性、総合障害度評価尺度(EDSS)の平均スコアは2.5でした。被験者の41%がすでにDMTを使った治療を受 けていました。被験者は4週毎に150 mgの高収率合成(HYP)ダクリズマブを皮下注射される(n=919) か、または30 mgのインターフェロンβ-1a を毎週筋肉注射 されました(n=922)。高収率合成(HYP)ダクリズマブはインターフェロ ンβ-1aに比べ、主要エンドポイントの年換算の再発率が45%減少しました。 MRIによる測定では、96週目のインターフ ェロンに比べて、高収率合成(HYP)ダクリズマブの被験者は、新しく発覚したあるいは新しく拡大したT2病変が54% 減少し、ガドリニウム増強病変が65%減少し、T1病変が52%減少しました。年換算された全脳容積の変化率はインター フェロンβ-1aでは0.56%であったのに対し、高収率合成(HYP)ダクリズマブでは0.52%でした(P <0.0001)。 3 ヶ月の確定した身体障害進展は、2つのグループで類似しており、6ヶ月の確定した身体障害進展のリスクは、インター フェロンと比較してダクリズマブで27%削減しました(P =0.03)。96週目では多発性硬化症の機能複合zスコアは、 インターフェロンβ-1a で0.055であったのに対し、高収率合成(HYP)ダクリズマブでは0.091でした(P =0.0007) 。多発性硬化症インパクト尺度(MSIS-29)は、高収率合成(HYP)ダクリズマブではインターフェロンβ-aに比較して 24%の減少を示し、これも統計的に有意でした。 安全性に関しては、重篤な有害事象発生はインターフェロンβ-1a グループで10%であったのに対し、高収率合成 (HYP)ダクリズマブでは15%でした。皮膚に関する有害事情は、インターフェロンβ-1a グループで19%であった のに対し、高収率合成(HYP)ダクリズマブでは37%でした。これらの事象は通常、紅斑やそう痒が関連していて、 ステロイドあるいは治療の停止で症状を回復することができました。日和見感染症はみられませんでした。高収率合成 (HYP)ダクリズマブグループでは59%が異常な肝機能検査結果を示しました。高収率合成(HYP)ダクリズマブグル ープでは死亡は1件、プラセボ群では死亡は4件でしたが、それらの死亡は全て治療とは無関係と判定されました。 DECIDEで得られた有望な結果、また、それに先立ち行われた12ヵ月間にわたる無作為化、プラセボ対照のSELECT治 験で観察された年換算の再発率の有意な減少に基づき[3]、ダクリズマブは近いうちに、RRMSの治療への使用の承認を求 め、米国食品医薬品局に提出される可能性があります。Kappos医師はプレゼンテーションの中で「ダクリズマブは再発 性多発性硬化症患者にとって新しい月1回の治療オプションとなる可能性を持っている」と述べました。 オクレリズマブ オクレリズマブはヒト化坑CD20B細胞モノクローナル抗体で、現在RRMSと一次進行型MSの第3相治験(PPMS)で試験 されています。第2相無作為化、プラセボ対照、実薬対照のRRMSの治験では、オクレリズマブは600 mgの投与でガド リニウム増強病変が89%減少し、2000 mgの投与で96%減少しました[4]。オクレリズマブのB細胞への影響を評価する ために、オクレリズマブがカニクイザルに0、10、50、100 mg/kgの単位で投与されました[5] 。2週間間隔で2度の投与 が行われた後、末梢血のB細胞(CD3-CD40+) は検知できないレベルまで減少しました。回復は、10-mg/kg の投与で6 週目に始まり、50-mg/kg と 100-mg/kgの投与では14週目に始まりました。100 mg投与での20週目のリンパ系組織 抑制の平均値は52%(骨髄)、0.8%(脾臓)、3%(リンパ節)でした。末梢血とリンパ系のB細胞の抑制は43週目まで には完全に回復しました。 RPC1063 フィンゴリモドはスフィンゴシン1-リン酸受容体(S1P)調節薬であり、既知の5つのS1P受容体のうち4つ(S1P1 、S1P3、S1P4、S1P5)に作用します[6] 。フィンゴリモドはS1P受容体の内部移行を起こすことによって、炎症性MS活 性を減少させ、それがリンパ節からT細胞とB細胞の移出を抑制すると考えられています。フィンゴリモドはまた中枢神 経系(CNS)のS1P受容体に結合し、神経防護作用も引き起こす可能性があります [6] 。 Pg.6 www.medscape.org/viewarticle/831231 フィンゴリモドの有効性と安全性を向上させるため、より選択性のあるS1P受容体調節薬、RPC1063が開発中で す。RADIANCEは、MMRSの無作為化、二重盲検、プラセボ対照の治験であり、258人の被験者が1:1:1の比率で無作 為に割り当てられ、RPC1063の低い用量(0.5 mg、n=87)、高い用量(1.0 mg、n=83)、またはプラセボ(n=88 )が24週間投与されました [7]。ほぼすべての被験者(98%)が治験を完了しました。RPC1063の両方の用量で、プ ラセボと比較して、12~24週に、MRI上でのガドリニウム増強病変の累積数が減少する主要エンドポイントが得られ ました。MRI病変の平均値は、プラセボで11.1(± 29.9)であるのに対し、低用量のRPC1063では1.5(±3.7)、 高用量のRPC1063では1.5(±3.4)でした(プラセボに対し、両方の用量でP <0.0001)。またプラセボと比較し て、RPC1063は24週目にガドリニウム増強病変の数を減らしました(プラセボ(3.2 ± 9.8)、低用量(0.3 ± 0.9) 、高用量(0.2 ± 0.6)(プラセボに対し、両方の用量でP <0.0001)。これに加え、12~24週における新しく確認さ れたあるいは拡大したT2病変の累積数はRPC1063によって減少しました(プラセボ(9.0±20.9)、低用量(1.4±3.2 )、高量用量(0.8±1.9))(プラセボに対し、両方の用量でP <0.0001)。RPC1063で、年換算した再発率が減少 するという傾向が確認されました(低用量で31%(P =0.27)、高用量で53%(P =0.053))。有害事象について は、最初にRPC1063を投与した後、最初の6時間中の毎時心拍数の平均値の最大減少値は、ベースラインから毎分2 拍/分(bpm)未満でした。45 bpm未満の徐脈のケースはありませんでした。RPC1063で治療を受けた被験者3名は アラニン・アミノトランスフェラーゼの一時的上昇が正常値の上限の3倍以上であったことが確認されましたが、これ は治療を続けたにもかかわらず減少しました。被験者で心臓、肺、眼に重篤な有害事象をきたした例はありませんでし た。RPC1063をインターフェロンβ-1aと比べるRADIANCE 治験の第3相が進行中です。 MOR103 開発初期段階の新規薬物であるMOR103は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)に結合するヒトモノク ローナル抗体です[8]。自己免疫性脳脊髄炎における実験は、GM-CSFの抑制が多発性硬化症治療に対する効果的アプロー チであることを示唆しています。MOR103は、第1b相用量増加安全性試験で、再発寛解型多発性硬化症(RRMS)また は再発が確認されている二次進行型MS(SPMS)を患う31人の成人で評価されました。この二重盲検、プラセボ対照の 治験では、被験者は2週間毎にプラセボ(n=6)、あるいはMOR103(0.5 mg/kg (n=8)、1 mg/kg (n=8)、または2 mg/kg (n=9))の静脈内注入を受けました。治療によって最も頻繁に起きた有害事象は鼻咽頭炎と頭痛でした。プラセ ボ群、0.5mg/kg、及び1mg/kgの投与グループの100%の被験者に有害事象が起こり、また、2mg/kgを投与された 被験者の89%に有害事象が確認されましたが、有害事象のために治験を停止した被験者はありませんでした。薬剤の投 入による抗体反応や死亡はありませんでした。多発性硬化症の再発はプラセボグループの3名、0.5mg/kgグループの5 名、1mg/kgグループの1名で確認され、2mg/kgグループには確認されませんでした。抗MOR103抗体は発生しませ んでした。薬物動態研究で17日間の終末相半減期、血清中の濃度で線形の用量増加が明らかになりました。 Pg.7 多発性硬化症の新規治療、第2部: 2014年に行われたMS国際会議から得られた洞察 第2部: 現在の病態修飾療法(DMT)についての新しいデータ 脳容積の低下とフィンゴリモド RRMS臨床試験において治療の有効性を測る現行の基準の1つは、疾患活動のない状態(疾患活動性の認められない状態 (NEDA)とも呼ばれます)です。これは通常、臨床的再発、障害の進行、およびMRI活動が存在しないこと、と定義さ れています。従来、脳容積の低下はこの定義の中に含まれていませんでした(主な理由として、現在の造影技術では測 定が難しいため)。それでも、脳容積の低下は多発性硬化症の初期段階に見られ、CNSへの継続的損傷を反映していま す。脳容積の低下に及ぼすフィンゴリモドの影響を評価するために、2年間の第3相試験のFREEDOMS[9]とFREEDOMS II[10]の結果が集められました[11]。この分析において、フィンゴリモド0.5 mg投与を受けた患者783人のうち31%が、従 来の定義で無病であったのに対し、プラセボ投与を受けた患者773人のうち9.9%が無病でした(オッズ比(OR) 4.7 、P <0.0001)。定義が脳容積の低下(1年当たり少なくとも0.4%)を含むように変わったとき、プラセボ治療を受け た患者の5.3%に対し、フィンゴリモドで治療を受けた患者の19.7%が無病でした(OR 4.41、P <0.0001)(正常な 個人における脳容積の低下はおよそ年0.2%)。これらのデータは、脳容積の低下が治験と患者のモニタリングのための 敏感で客観的な有効性のある測定法であることを示唆しています。 グラチラマー酢酸塩 オハイオ州クリーブランドにあるクリーブランドクリニック・メレンセンターのディレクター、Jeffrey Cohen医師は、 無作為化、二重盲検の9ヶ月間のGATE治験の結果を発表しました。この治験では、グラチラマー酢酸塩のジェネリ ック製剤とブランド薬剤(Copaxone®、Teva Neuroscience(ペンシルベニア州ノースウェールズ))が比較されま した[12]。被験者は18~55歳で、前年に少なくとも一回の再発があり、MRIで1~15のガドリニウム増強病変がある患 者です。794人の被験者(66%が女性)が、ジェネリックのグラチラマー酢酸塩(n=353)、Copaxone(n=357) 、またはプラセボ(n=84)に無作為に4.3:4.3:1の比率で割り当てられました。T1ガドリニウム増強病変の平均値(主 要エンドポイント)は、0.39(Copaxone)に対し、0.42(ジェネリックのグラチラマー酢酸塩)でした。これは、 前もって定義されていた同等性マージン以内に収まるものであり、両方ともプラセボグループより有意に低い値でした (P <0.001)。年換算した再発率は3つのすべての試験群で同様でした(0.31(ジェネリックのグラチラマー酢酸塩) 、0.41(Copaxone)、0.39(プラセボ))。EDSSは3グループすべてで安定していました。有害事象は、ジェネリッ クのグラチラマー酢酸塩とCopaxoneで、頻度と重篤度で同様でした。痛み、そう痒、紅班、腫れ、またはしこりは、プ ラセボよりもジェネリックのグラチラマー酢酸塩やCopaxoneのほうが悪くなっていました。2年間の安全性及び有効性 に関するデータは準備中です。ジェネリックのグラチラマー酢酸塩はまだ米国食品医薬品局からも欧州医薬品庁からも承 認を受けていません。 RRMS用のグラチラマー酢酸塩は本来、毎日20 mg/mLの用量で認可されていましたが、順守を改善するために、用量を 高くした製剤(40 mg/mL、週3回、毎週)が開発されました。この新しい製剤は2014年1月に米国食品医薬品局の認可を 受けました。1回の用量が増え、服用回数が減ったことの便利さに対する患者の認識が、GLACIER 試験で評価されまし た[13]。19歳以上、EDSSスコアが0~5.5、少なくとも6ヶ月間グラチラマー酢酸塩で治療を受けたRRMS患者(N=209 、82%が女性、平均年齢51歳)が、グラチラマー酢酸塩20 mg/mL 投与の続行、または4ヶ月間グラチラマー酢酸塩 40 mg/mL への切り替えに、1:1の比率で無作為に割り当てらました。ベースラインでは87%の被験者がグラチラマー 酢酸塩40 mg/mLの方が20 mg/mLよりも便利であろうと予想し、8%が違いは無いと予想し、3%がより不便であると 予想しました。自己投与の治療満足度評価(Treatment Satisfaction Questionnaire for Medication-9)スコアは、グ ラチラマー酢酸塩20 mg/mLのグループでベースラインから1.75変化し、ガラティラメル酢酸 40 mg/mLのグループで 8.75変化しました。これにより、高用量で、服用回数が少ないほうがより便利であろうとした患者の予想を確証するこ ととなりました。 Pg.8 www.medscape.org/viewarticle/831231 ペグインターフェロン(PEGinterferon) 服用回数を減らすことにより順守を改善するもう一つの試みとして、ペグインターフェロンβ-1aの月2回の注射の効果が 調べられました[14]。ADVANCE試験では1512人のRRMS患者が、ペグインターフェロン125 mg 2週間毎、ペグインタ ーフェロン125 mg 4週間毎、またはプラセボに1:1:1の比率で無作為に割り当てらました。最初の1年後に、プラセボ 患者はいづれかの用量のペグインターフェロンに変更されました。1年目にペグインターフェロンを2週間毎に投与され た患者で、持続的障害進行を伴う再発を起こした数(n=6)は、プラセボを受けていたの患者(n=24)と比べ有意に少 なく、75%の減少でした(P <0.001)。さらに、治験の初期段階からペグインターフェロンを2週間毎に投与された患 者は、1年間のプラセボ投与からペグインターフェロンに変更した患者(n=30、P =0.001)に比べて、持続的障害進 行の発生率が有意に少なかった(n=10)。米国食品医薬品局は2014年8月にペグインターフェロンの使用を認可しまし た。 専門家の洞察:多発性硬化症の治験の最終段階を終える新薬は、神経科医により多くの治療法と機会を提供する一方、全 く新しい類の課題をもたらします。アレムツズマブやダクリズマブなどのモノクローナル抗体は、多発性硬化症の臨床研 究への現代のアプローチの範例となるものです。なぜなら両方とも、この疾患を治療するための新しい作用機序を活用し ており(それぞれCD52とCD25をターゲットとする)、また両方とも、承認された注射薬との直接比較を提供するよう に計画された肯定的な治験があるためです。同様に、それぞれには特有の副作用と監視要件があり、これらの薬が診療で どのように使用できるかについて、規制当局の判断を待っています。オクレリズマブ(抗CD20 B細胞モノクロナール抗 体)は、おそらく短期間で第3相を完了する次の薬となり、治験の第2相での薬の成功の観点から、それらのデータが心 待ちにされています。脳萎縮に関連するフィンゴリモドについての更新情報は、この薬が、再発率や新しいMRI病変へ及 ぼす効果以上に、どのように多発性硬化症を調節するのかについて洞察を提供します。また、最近認可を受けたました が、あまり頻繁に投与されていないインターフェロンとグラチラマー酢酸塩の製剤は、よく知られた作用機序と長期の安 全性プロフィール、並びに改善された服用スケジュールを提供する薬剤を使用し続ける機会を医師に提供しています。 Pg.9 多発性硬化症の新規治療、第2部: 2014年に行われたMS国際会議から得られた洞察 第3部: バイオマーカー、リスク層別化、転帰の個別化 多発性硬化症治療に対する患者の反応を予測するために臨床医が使えるバイオマーカーは、MRI画像以外にありません。 継続治療に対する反応を評価するバイオマーカーについても研究がすすんでいます。Suhayl Dhib-Jalbut医師(ラトガー ズ大学ロバート・ウッド・ジョンソン研究室、ニュージャージー州ニューブルンスウィック)の研究によると、ヒト白血 球型抗原(HLA)クラス2の2つのハプロタイプがグラチラマー酢酸塩への臨床反応を予測するための有益なバイオマー カーである可能性が示唆されています[15]。患者がHLA DR15+DQ6+とDR17-DQ2-の両方のハプロタイプがある場合 は、グラチラマー酢酸塩に反応する確立は71%です。しかし逆の組み合わせのHLA DR15+DQ6-とDR17-DQ2+では、 わずか17%の反応の確率が予測されています。その他のデータは、グラチラマー酢酸塩での治療開始後3~6ヵ月後の IL-10またはIL-4の増加、IL-18、カスパーゼ-1、または、腫瘍壊死因子の減少が、臨床反応と相関していることを示唆 しています。 インターフェロン反応のバイオマーカー候補も特定されました[15]。例えば、12ヶ月間インターフェロンβ-1bで治療を受 け、再発した患者は、6ヶ月時点でIL-17Aレベルが有意に高いレベルでした(P =0.036)。逆に再発の無かった患者は 3ヶ月時点の脳由来神経栄養因子レベルが高くなっていました(P =0.028)。IL-10/インターフェロンγのベースライン の変化は再発と反比例したのに対し、IL-4レベルのベースラインの変化は障害と反比例しました。さらに、 再発の無か った患者の治療でCXCR3+CD8+T細胞が治療と共に減少しました。ナタリズマブ治療に対する反応を予測するために複 数のバイオマーカーが研究されており、それらには、T細胞VLA-4の発現、可溶性血管細胞接着分子-1 、CSF神経フィラ メント軽鎖と重鎖、CSFフェチュイン-A、CSF CD5+ B細胞、及び血液CD34+細胞が含まれます。 CSFバイオマーカーの研究では神経フィラメント軽鎖レベルとオステオポンチンは、単一の臨床症状を呈する症候群 (clinically isolated syndrome、CSV)を持つ患者41人連続で、MRI所見と相関ました[16]。脳容量のMRI測定は、灰白 質容積、周辺灰白質容積、白質容積、及び脳室について「低い」または「高い」に分類されました。脳梁指標も確立さ れました。より高いCSF神経フィラメントレベルは、灰白質容積が高い患者と比べて、灰白質容積が低い患者で起こり (P =0.03)、また周辺灰白容積が高い患者と比べて、周辺灰白容積が低い患者で起こりました(P =0.01)。年齢、性 別、T2病変と増強病変の数、およびCSFオリゴクローナルバンドを共変量とした多変量解析では、CSF神経フィラメン トレベルが独立に灰白容積(P =0.01)と周辺灰白容積(P =0.008)を予測しました。オステオポンチンのレベルのみ が脳梁指標の予測をしました(P =0.05)。 環状マイクロRNA(miRNA)は遺伝子発現とタンパク質合成を制御する非コード、一本鎖RNA分子であり、血清と血漿中 で測定できます[17]。ハーバード医科大学ブリガム・アンド・ウィメンズ病院(マサチューセッツ州ボストン)のHoward Weiner博士の研究室では、RRMSを進行性多発性硬化症から識別することを可能にしうる環状マイクロRNAが検出され ました。さらに、良性多発性硬化症患者は、EDSSに関して一致するMS患者または健常な対照被験者と比較すると、異 なるマイクロRNAを持ってました。マイクロRNAは同一の患者においても、その個人にガドリニウム増強MRI病変を持 つか否かによって異なっていました。 ナタリズマブなどの効果的な治療を施すことによる臨床的帰結のひとつは、治療を停止すると疾患活動の「はね返り」 がみられる可能性があることです[18]。患者はPMLリスクのためにナタリズマブ療法を中止する必要があるかもしれませ ん。ナタリズマブ療法を中止した後に炎症性の高い疾患活動が確認されており、これが根底にある多発性硬化症を悪化さ せたのか、それともナタリズマブを中止したことによる炎症反応なのかは定かでありません。ナタリズマブから他の療法 に移行する最善のプロトコルは研究中です。 多くの専門家によると、DMTの有効性を測る最善策は、患者に疾患活動が無いかどうかということで、新しい用語を使 うなら、患者がNEDA(疾患活動性の認められない状態)であるかどうかということです。この複合エンドポイントは 2014年のACTRIMS-ECTRIMS 会議のいくつものセッションで論議されました[11,19]。新しい疾患修飾薬の臨床試験は、 一般的に年換算再発率、障害の進行、MRIで新しく出現した、または拡大したT2病変、ガドリニウム増強T1病変に重点 を置いて取り組んでいます。これらの基準はアレムツズマブ、クラドリビン、フマル酸ジメチル、フィンゴリモド、イン ターフェロンβ-1aとグラチラマー酢酸塩の混合、などの治験で適応されてきました。検知しうる疾患を無くすことは、 これらの治験の50%の患者で達成しうる目標です。無病状態の患者の割合を増やすためには、抗炎症作用と神経防護作 用がより強い薬品が必要です。NEDAの定義を広げて、定義に脳萎縮の減少など他のパラメータを含めるかどうかは審議 中です。 Pg.10 www.medscape.org/viewarticle/831231 専門家の洞察:多発性硬化症のために認可された数々の薬があって、一連の作用機序が提供されているにもかかわらず、 治療判断を真に個々の患者に合わせたものにするのは、まだわれわれの手の届く域ではありません。バイオマーカーに関 する新しいデータで、患者それぞれの予後を改善することと、より多くの生物学的知識をもってDMTを選択、監視する ことの両方ができるようになるかもしれません。Dhib-Jalbut博士の研究は、グラチラマー酢酸塩とインターフェロンの 両方に対する反応を予測する、ハプロタイプと免疫プロフィールを特定するためのパラダイムです。まだ市販されていま せんが、この研究は、近い将来に多発性硬化症診断や治療の選択時に実施することが可能になる、バイオマーカーのプロ ファイリングの意味を与えています。同様にナタリズマブについても、バイオマーカーのリスク、ことにJCウィルス抗 体とPMLのリスクに重点が置かれていますが、この薬に反応する可能性のあるレスポンダーを特定することで、個々の患 者のリスク便益比を最大限にすることができるかもしれません。バイオマーカーは多発性硬化症の治療方法の選択におい てのみならず、診断と予後の領域でも、肝要となるでしょう。ハーバード大学でのWeiner博士の研究は、進行性の多発 性硬化症は環状マイクロRNAプロフィールによって特定できる、という興味ある可能性を提示しています。これは、進 行性疾患に対するアプローチに大きな貢献をするものです。進行性疾患は現在まだ臨床症候に基づいて説明されていま す。最後に、多発性硬化症の疾患活動と重症度のCSFバイオマーカーも必要とされています。オリゴクロナールバンドと IgG合成速度及び指標のための脊髄液分析は、長い間、診断手段の一部でしたが、神経フィラメント軽鎖やオステオポン チンなど新しいバイオマーカも、現在不足している疾患重度について情報を提供する可能性があります。 Pg.11 多発性硬化症の新規治療、第2部: 2014年に行われたMS国際会議から得られた洞察 第4部: 多発性硬化症の新しい科学 良性多発性硬化症 良性多発性硬化症は、多発性硬化症を長期間煩うものの、再発がほとんどなく、疾患の進行が限定された患者に適応さ れる用語です。良性多発性硬化症患者34人(EDSS≤3、平均年齢46.9歳、平均罹病期間21.9年間)が、良性でない多 発性硬化症患者35人(平均年齢49.1歳、罹病期間20.4年間)、及びSPMS患者44人(平均年齢54.8歳、罹病期間24.3 年間)と比較されました[20]。T2白質病変量のベースラインは2つのグループ間で相違はありませんでした(P =0.06) 。全脳皮質厚の平均値は、良性でない多発性硬化症グループ(2.298 mm)とSPMSグループ(2.262 mm、P <0.01) に比較して、良性多発性硬化症グループ(2.365 mm)のベースラインで有意に大きくなっていました。3年の時点で皮 質厚は、良性でない多発性硬化症グループ(2.298 mm)とSPMSグループ(2.260 mm、P <0.05)に比較し、良性 多発性硬化症グループ(2.358 mm)でより大きくなっていました。正規化した深部灰白質容積は、良性でない多発性 硬化症グループ(3.2)とSPMSグループ(3.2、P <0.01)に比較し、ベースラインの良性多発性硬化症グループ(3.4 )で有意に大きくなっていました。2年目の時点では、正規化した深部灰白質容積は、良性でない多発性硬化症グループ (3.17)とSPMSグループ(3.17、P <0.05)に比較し、良性多発性硬化症グループ(3.35)で有意に大きくなってい ました。2年目の時点で良性でない多発性硬化症とSPMSの両方のグループで、側頭葉部において皮質厚の部分的薄化の みならず、より大量の深部灰白質萎縮(P <0.01)が有意にみられました。これは良性多発性硬化症グループでは観察さ れませんでした。 乏突起膠細胞(オリゴデンドロサイト)の修復 多発性硬化症ではCNSミエリンが損傷あるいは破壊されているので、乏突起膠細胞によるミエリン修復のメカニズム を理解することは、不可逆的軸索破壊を防ぐために極めて重要です。マウスの脊髄では、形質転換成長因子(TGF) β1が乏突起膠細胞の増殖を促し、一方、アクチビンBが成熟を補助しました[21]。TGFβ1とアクチビンBの両方を与え ることで、Smad2とSmad3を介するシグナル伝達で成熟した乏突起膠細胞の数が増えました。この観察の裏付けとし て、Smad3-/-のマウスでは成熟及び未成熟細胞数が減少し、髄鞘形成が遅れました。 オリゴデンドロサイト前駆細胞は中枢神経系に分布しており、再ミエリン化に主に関与しています[22]。成人マウスの血 小板由来増殖因子α受容体の脳のフローサイトメトリーは、オリゴデンドロサイト前駆細胞は、活性化されると新生児の ようなトランスクリプトームに戻るということを示唆しています。先天性免疫反応の2つの遺伝子、IL-1βとCCL2は、活 性化反応に関与しています。IL-1βとCCL2を発現するオリゴデンドロサイト前駆細胞はより運動性があり、損傷を受け 脱髄した部分に移動します。第3クラスのセマフォリンとネトリン-1の誘導のキューは脱髄のあとに上方制御され、成人 のオリゴデンドロサイト前駆細胞の移動と動員に影響を及ぼします。セマフォリン3Aとネトリン-1は忌避効果を示す一 方、セマフォリン3Fは誘引因子です。 疲労 神経機能障害と炎症は、多発性硬化症の患者に多くある衰弱性の症状である疲労につながることがあります[23]。 脱髄はエネルギー需要を増加しますが、それは短期のミトコンドリア増殖で補われます。エフェクターメモリー細胞が酸 化的リン酸化から好気的解糖に切り替わり(ワールブルク効果と呼ばれている)、それが増殖中の細胞のエフェクター機 能を促進する可能性があります。実験的な自己免疫性脳脊髄炎では、6つの主要代謝経路と44の代謝物が疾患の重度と相 関することが確認されています。乳酸は神経にとって主要なエネルギー源であり、乏突起膠細胞上で高度に発現されてい るモノカルボン酸輸送体(MCT)-1によって運ばれます。マウスの動物実験では 、MCT-1が欠失されたり抑制される と、乳酸の移動を不能にし、神経変性を起こします。 遺伝学 国際多発性硬化症遺伝学コンソーシアムは、先に行われたゲノム全体の研究の複製研究の報告をしましたが、それに は、対照被験者17,842人と患者19,217人で、80,000以上の一塩基多型(SNP)が含まれていました[24]。研究に使われ た技術には、経路解析のためのDEPICT(data-driven expression-prioritized integration for complex traits)、免 疫変異プロジェクト(Immune Variation Project)より免疫細胞RNA発現データ、DNA Elementsプロジェクト及び Epigenome Roadmap プロジェクトからの参照エピゲノムマップ、が含まれました。10の主要組織適合遺伝子複合体 (MHC)と150以上の非主要組織適合遺伝子複合体(nonMHC)のSNPで45以上の新しい感受性変異体が特定されまし た。EVI5 領域では最高で4つの感受性変異体が新しく特定されました。精製されたCD4 T細胞と単球を持つ対象者405 人からのデータから、RNAの影響のある多発性硬化症変異体の29%は単球に特有であり、他の29%がT細胞に特有であ ることが分かりました。Th1/Th17/Tregではない プロセスと、骨髄、NK、CD8細胞も関与していました。B細胞と樹 枝状細胞の機能も変更する可能性があります。 Pg.12 www.medscape.org/viewarticle/831231 腸内マクロビオーム ヒトの腸内マクロビオームにおける異常は、自閉症、クローン病、肥満、タイプ1の糖尿病と関連付けられており、多発 性硬化症の進展あるいは経過の両方またはどちらかでも役割を果す可能性があります[25]。2つの北米の多発性硬化症トラ ンスレーショナルセンター(ニューヨーク州ニューヨーク市のマウントサイナイ大学とカリフォルニア州サンフランシス コのカリフォルニア大学[UCSF])が、多発性硬化症マクロビオームコンソーシアム(MSMC)を創設しました。これは 多発性硬化症におけるマクロビオームの役割を研究するための、独立審査委員会の認可を受けた学際的共同研究体です。 今日に至るまで、MSMCは数百のサンプルを収集、分析しました。初期の結果は、グラチラマー酢酸塩で治療をした患者 とそうでない患者間で、マクロビオームにおける属レベルでの有意な違いを示しています。東海岸(マウントサイナイ大 学)と西海岸(UCFS)のセンターの間の地理的なものによる相違も確認されており、マクロビオームの形成で環境とダ イエットの潜在的影響があることを示しています。 小児の腸内マクロビオーム研究では、RRMSの子供20人(女子10人、男子10人、平均罹病期間11ヶ月、平均EDSSは2 )から得た便サンプルが、対照被験者16人(女子9人、男子7人)と比較されました[26]。PhyloChip™ G3 マイクロア レイを用いてバクテリアが特定されました。分析は子供のその日の最初の便で実施され、便は氷詰めで輸送され -80°C で保管されたました。対照被験者に比べ、多発性硬化症をもつ子供では、プロテオバクテリア(ShigellaとEscherichia 種)とフィルミクテス(Clostridium種)が豊富にあり、フィルミクテス(Eubacterium rectale)とアクチノバクテリ ア(Corynebacterium種)が欠如していることが確認されました(P <0.01)。腸内マクロビオームフローラに影響を 与える可能性のある要因は、多発性硬化症以外としては、抗生物質への暴露(2件、1件は対照被験者)、コルチコステ ロイド剤(8件、2件は対照被験者)、免疫調節剤あるいは抑制剤(10件、2件は対照被験者)があります。 研究者はブリガム・アンド・ウィメンズ病院(マサチューセッツ州ボストン)のPhenoGeneticプロジェクトから 健康な対照被験者44人の腸内マクロビオームを、Partners MS Center(マサチューセッツ州ブルックライン)の 患者53人(無治療(n=22)、グラチラマー酢酸塩で治療(n=13、またはインターフェロンで治療(n=18)) と比較しました[27]。高性能配列解読装置を使ったところ、多発性硬化症患者では、対照被験者に比べ、Archaea methanobrevibacteriaceaeの単細胞生物が増えていたことが確認されました(P <0.00001)。さらにButyricimonas 属レベルは、対照被験者と比較して、治療を受けていない患者で低くなっていました。Butyricimonas は抗炎症性を持 つブチラートを産生します。Lachnospiraceae 科のレベル(同様にブチラートを産生する)では、治療を受けた多発性 硬化症患者に比べ、治療を受けていない患者で低くなっていました。多発性硬化症患者の抗原提示細胞とインターフェロ ンγ、多発性硬化症患者に関連した炎症性サイトカインなどのT細胞に特有なマーカーは、Archaeaの有無に関係してい ました。 専門家の洞察:新しい多発性硬化症の科学はこの疾患の遺伝学の基盤と、疾患が異なった症状に進行するメカニズムに光 明を投じています。ある特定の割合の多発性硬化症患者が「良性」疾患になるのは周知のことですが、しかしこれがどの 患者に起こることなのかを予め予測するという臨床課題が残されています。皮質と深部灰白質の容積などの、現代のMRI 測定が、この課題に洞察をもたらし、個々の患者の障害蓄積、あるいは障害不在の内在機構を教えてくれるかもしれませ ん。細胞レベルでは乏突起膠細胞のライフサイクルと修復メカニズムについて理解が深まり、再ミエリン化の医療学の目 標に近づく可能性があります。それは現在、前臨床試験と臨床試験研究の重要項目です。最後にヒトの腸内マクロビオー ムは、免疫機構の有力なモジュレーターであるとの理解がさらに深まっています。そして、自己免疫疾患、ことに多発性 硬化症における自己免疫疾患への潜在的影響が、解明され始めています。個人の腸内マクロビオームは、診断、予後、そ して治療の面においてまで影響を与えるとみて、MSMCを含め、いくつものグループが多発性硬化症におけるこの新しい 分野を探求しています。 結論 アレムツズマブ、ダクリズマブ、オクレリズマブ、RPC1063などの、開発中の新薬、また開発の初期段階のMOR103 は、認可されれば、多発性硬化症の治療方法の拡大となり、異なる作用機序を提供して、願わくば多発性硬化症の疾患活 動の制御にさらなる効果をあげるでしょう。PEGインターフェロンやグラチラマー酢酸塩のような長時間作用型製剤(週 3回40mg)が利用可能になることで、 患者の服用遵守が改善され、これらのよく確立された治療法の有用性が最大化さ れるでしょう。 Pg.13 多発性硬化症の新規治療、第2部: 2014年に行われたMS国際会議から得られた洞察 MRI画像技術が改善されると疾患活動の測定として脳容積の低下を含むようになるでしょう。FREEDOMSとFREEDOMS IIで確認されたように、NEDAの基準に脳容積の低下を追加することは、効果的な治療の標準を上げることになります。 それは結果測定を厳しくすると、「無疾患」とみなされる患者が減るからです。バイオマーカーの開発の進歩は、個別化 療法をする際すでに考慮されている複数の要因を追加したとき、より効果的な医薬療法とより改善された患者の転帰の新 たな時代に導くかもしれません。 近い将来、バイオマーカーのヒト以外の研究が多発性硬化症の臨床管理に適応されるかもしれません。乏突起膠細胞の 成長とミエリンの修復のメカニズムに関する基本研究が、新しい治療法に導くかもしれません。150以上の感受性変異の ゲノム参照マップを作成することで、どのようにして、そして何故、特定の個人に限り多発性硬化症が発達するのか理 解を深める準備をすることになります。腸内細菌の個人の補数は抗生物質の使用、食事、その他の要因に影響を受けま すが、初期の研究では腸内マクロビオームが多発性硬化症の発生と進行において重要な役割を果すことを示唆していま す。ACTRIMS-ECTRIMSの会議で発表されたこれらの前線のすべての研究は、われわれの知識と治療の可能性を進展さ せ続けます Pg.14 www.medscape.org/viewarticle/831231 参考文献 1. Havrdova E, Arnold DL, Palmer J, et al. Disease-free outcomes with alemtuzumab: 3-year follow-up of the CARE-MS studies. Presented at: 2014 Joint ACTRIMS-ECTRIMS Meeting; September 10-13, 2014; Boston, MA. Abstract FC1.4. 2. Kappos L, Selmaj K, Arnold DL, et al. Primary results of DECIDE: a randomized, double-blind, double-dummy, active-controlled trial of daclizumab HYP vs interferon β-a in RRMS patients. Presented at: 2014 Joint ACTRIMS-ECTRIMS Meeting; September 10-13, 2014; Boston, MA. Abstract FC1.1. 3. Gold R, Giovannoni G, Selmaj K, et al; SELECT study investigators. Daclizumab high-yield process in relapsing-remitting multiple sclerosis (SELECT): a randomized, double-blind, placebo controlled trial. Lancet. 2013;381:2167-2175. 4. Kappos L, Li D, Calabresi PA, et al. Ocrelizumab in relapsing-remitting multiple sclerosis: a phase 2, randomized, placebo-controlled, multicentre trial. Lancet. 2011;378:1779-1787. 5. Gelzeichter T, McKeever K, Auyeung-Kim D, et al. Reduction and reconstitution of B-cells in peripheral blood and lymphoid tissues in cynomolgus monkeys following administration of ocrelizumab. Poster presented at: 2014 Joint ACTRIMS-ECTRIMS Meeting; September 10-13, 2014; Boston, MA. Abstract P954. 6. Killestein J, Rudick RA, Polman CH. Oral treatment for multiple sclerosis. Lancet Neurol. 2011;10:1026-1034. 7. Cohen J, Arnold DL, Comi G, et al. Phase 2 results of the RADIANCE trial: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial of oral RPC1063 in relapsing multiple sclerosis. Presented at: 2014 Joint ACTRIMS-ECTRIMS Meeting; September 10-13, 2014; Boston, MA. Abstract LB1.1. 14. Kieseier BC, Scott TF, Newsome SD, et al. Peginterferon β-1a may improve recovery following relapses: data from the 2-year ADVANCE relapsing-remitting multiple sclerosis study. Poster presentation at: 2014 Joint ACTRIMS-ECTRIMS Meeting; September 10-13, 2014; Boston, MA. Abstract P042. 15. Dhib-Jalbut S. Biomarkers of treatment response to MS disease therapies. Platform presentation at: 2014 Joint ACTRIMS-ECTRIMS Meeting; September 10-13, 2014; Boston, MA. Abstract PS7.2. 16. Direnzo V, Tortorella C, Zoccolella S, et al. Cerebrospinal fluid osteopontin and neurofilament levels mark different brain atrophy patterns in clinically isolated syndrome. Poster presentation at: 2014 Joint ACTRIMS-ECTRIMS Meeting; September 10-13, 2014; Boston, MA. Abstract P249. 17. Weiner HL. Circulating miRNAs as disease biomarkers in multiple sclerosis. Platform presentation at: 2014 Joint ACTRIMS-ECTRIMS Meeting; September 10-13, 2014; Boston, MA. Abstract PS10.1. 18. Cree BAC. Rebound after natalizumab discontinuation. Platform presentation at: 2014 Joint ACTRIMS-ECTRIMS Meeting; September 10-13, 2014; Boston, MA. Abstract PS6.2. 19. Hartung HP. Is no evidence of disease activity a realistic treatment target? Platform presentation at: 2014 Joint ACTRIMS-ECTRIMS Meeting; September 10-13, 2014; Boston, MA. Abstract PS9.1. 20. Ruet A. Two-year follow-up study assessing cortical and deep gray matter loss in benign multiple sclerosis. Free communication presentation at: 2014 Joint ACTRIMS-ECTRIMS Meeting; September 10-13, 2014; Boston, MA. Abstract FC4.3. 21. Dutta DJ, Zameer A, Mariani JN, et al. Combinatorial actions of Tgfβ and Activin ligands promote oligodendrocyte development and CNS myelination. Platform presentation at: 2014 Joint ACTRIMS-ECTRIMS Meeting; September 10-13, 2014; Boston, MA. Abstract PS10.6. 8. Constantinescu CS, Asher A, Fryze W et al. Safety and pharmacokinetics of MOR103, a human antibody to granulocyte-macrophage colony-stimulating factor, in patients with multiple sclerosis. Presented at: 2014 Joint ACTRIMSECTRIMS Meeting; September 10-13, 2014; Boston, MA. Abstract FC2.4. 22. Lubetzki C. Remyelination in the adult central nervous system: mechanisms and perspectives. Hot Topics presentation at: 2014 Joint ACTRIMS-ECTRIMS Meeting; September 10-13, 2014; Boston, MA. Abstract HT4.2. 9. Kappos L, Radue EW, O’Connor P, et al; FREEDOMS Study Group. A placebocontrolled trial of oral fingolimod in relapsing multiple sclerosis. N Engl J Med. 2010;362:387-401. 23. Calabresi PA. Metabolomics, mitochondria and energy imbalance in MS. Hot Topics presentation at: 2014 Joint ACTRIMS-ECTRIMS Meeting; September 1013, 2014; Boston, MA. Abstract HT5.1. 10. Calabresi PA, Radue EW, Goodin D, et al. Safety and efficacy of fingolimod in patients with relapsing-remitting multiple sclerosis (FREEDOMS II): a double-blind, randomized, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet Neurol. 2014;13:545-556. 24. Jager PD. The genomic map of multiple sclerosis: over 45 novel susceptibility variants and translation of genetics to biology. Late-breaking news presentation at: 2014 Joint ACTRIMS-ECTRIMS Meeting; September 10-13, 2014; Boston, MA. Abstract LB1.4. 11. Kappos L, Radue E-W, Freedman MS, et al. Inclusion of brain volume loss in a revised measure of multiple sclerosis disease-activity freedom: the effect of fingolimod. Presented at: 2014 Joint ACTRIMS-ECTRIMS Meeting; September 10-13, 2014; Boston, MA. Abstract FC1.5. 25. Baranzini SE, Datz-Sand I, Mazmanian SK, et al. The MS Microbiome Consortium (MSMC): an academic multi-disciplinary collaborative effort to elucidate the role of the gut microbiota in MS. Poster presentation at: 2014 Joint ACTRIMS-ECTRIMS Meeting; September 10-13, 2014; Boston, MA. Abstract P618. 12. Cohen JA, Belova A, Wolf C, et al. Generic glatiramer acetate is equivalent to Copaxone on efficacy and safety: results of the randomized double-blind GATE trial in multiple sclerosis. Free communication presentation at: 2014 Joint ACTRIMS-ECTRIMS Meeting; September 10-13, 2014; Boston, MA. Abstract FC1.2. 26. Tremlett H, Fadrosh D, Lynch S, et al. Gut microbiome in early pediatric multiple sclerosis: a case-control study. Poster presentation at: 2014 Joint ACTRIMS-ECTRIMS Meeting; September 10-13, 2014; Boston, MA. Abstract P615. 13. Wolinsky JS, Borresen TE, Dietrich DW, et al. Convenience of glatiramer acetate 40 mg/ml three times weekly: evidence from the GLACIER study. Poster presentation at: 2014 Joint ACTRIMS-ECTRIMS Meeting; September 10-13, 2014; Boston, MA. Abstract P080. 27. Gandhi R, Glehn FV, Mazzola MA, et al. Gut microbiome is linked to immune cell phenotype in multiple sclerosis. Platform presentation at: 2014 Joint ACTRIMS-ECTRIMS Meeting; September 10-13, 2014; Boston, MA. Abstract P616. Pg.15
© Copyright 2024 ExpyDoc