香港広東語話者による日本語疑問文文末の韻律的特徴 An Investigation of the Prosodic Characteristics of Hong Kong Cantonese Speakers' Interrogative Sentences in Japanese 李 活雄(香港中文大学) Wood Hung LEE (The Chinese University of Hong Kong) 村島 健一郎(香港中文大学) Kenichiro MURASHIMA (The Chinese University of Hong Kong) 目 次 1, はじめに 2. 研究の位置付け 2.1. 研究の目的 ‘先行研究 2.2 2.3 ,広東語疑問文イントネーション 3. 研究方法 3.1,発話資料 3.2.音声資料提供者 3.3 .分析方法 3.4.ピッチ曲線の分析 4. まとめ 5,おわりに キーワード】 日本語、広東語、北京語、疑間文、イントネーション、 1 はじめに 近年日本語教育でもプロソディ指導の重要性が指摘され始めている。従来音声教育と言えば、母音や子音といった 単音が先に教えられ、アクセント・イントネーションが後になっていた。習得難易度の低いものから高いものへという教育的 配慮が含まれているのであろうが、その一方で、単音とプロソディでは、いつまでも母語の干渉が残るのはプロソディだと言 われており、また発話の日本語らしさについての評価に大きくかかわっているのもプロソディだと言われている(松崎・河野 1998)。小論では、日本語教育の初期の段階で教えられる疑問文イントネーションを取り上げ、香港広東語話者(以 - 183 - 下、広東語話者)の日本語疑問文イントネーションの特徴を記述し、日本語話者のそれと比較して、どのように広東語 が干渉しているのかを探る。 2 研究の位置付け 21 研究のβ 的 本稿では、日本語および広東語の会話文中の疑問詞疑問文、Yes-No 疑問文、選択疑問文、一語問返し疑問 文について文末イントネーションの聴覚印象とピッチ曲線の分析から、広東語を母語とする学習者の日本語疑問文に 見られる韻律特徴を記述する。さらに、文末上昇調の観察を中心に、関連先行研究の主張内容を改めて吟味し、今 後の研究方向に関する提言を試みる。 22 先行研究 広東語を含めた中国語話者の日本語イントネーションの研究はあまり多くはない。その中でも、土岐( 1990)は、中国 語話者、韓国語話者、米語話者の日本語イントネーション・プロミネンスの特徴を記述している。疑問文については、 「アタシモ?」 「キョーワ ヤスミ?」 「ナニガアリマシタ?」 「ナニガアリマシタ力?」 以上の 4 文について、印象的記述と音響的分析を行っている。日本語母語話者は、すべての疑問文末で上昇調が 付加されている。土岐によると、中国語話者は概ね日本語話者のピッチパタンに似ているが、上昇の幅が狭〈、ゆるやか な場合が多い。韓国語話者、米語話者との比較がされており、上昇調にも母語によって表現法が異なっているのは興 味深い。しかし、その一方で、その違いの原因には触れられていない。 外国語の音声習得研究では、学習者の母語と学習言語の両方についての情報が必要となる。しかし、今までのとこ ろ、北京語、広東語ともにイントネーション研究は非常に少ない。陳( 1992 )は、北京語話者が日本語疑問文を発話 する際に、上昇調を用いるべきところを下降調で発話してしまうという問題点を指摘し、その原因を北京語の韻律的特 徴にあると指摘する。つまり、」ヒ京語では、疑問文末に上昇調を付加することはなく、「各声調のピッチの型が保持され たままピッチの変動幅が拡大され、持続時間が長くなる」(陳 1992:D 。陳( 1992 )は、疑問詞疑問文、Yes-No 疑問 文、選択疑問文、一語問返し疑問文を用いて、北京語話者による日本語疑問文の韻律的特徴について記述してい る。文末だけに注目してみると、頭高型アクセント、中高型アクセントの語が文末に来ると「中国語疑問文の文音調の 影響によって下降することが多い」(陳 1992:1)。ー方、平板型アクセント、尾高型アクセントの語が文末に来るときには、 上昇調を取り、中国語話者には困難ではないと結論付けている。 -184 ー 香港広東語話者による日本語疑問文文末の韻律的特徴 残念ながら、広東語話者の日本語イントネーションの特徴についての研究はこれまでのところないと言ってよい。広東 語も中国語の一方言として捉え、同様の韻律的特徴をもつと考えることもできるが、広東語疑問文の韻律的特徴は、 上述されている北京語のそれとは必ずしも同様ではないことが確認されている。次節では、広東語疑問文の韻律的特 徴について触れてみたい。 2.3 広葉語範聞文イン Fネーション 広東語も北京語と同様に音調言語であり、以下のような特徴が指摘されている。 "As Cantonese is a tonal language where pitch is used to differentiate words, intonation at the level of the sentence is restricted, at least by comparison with English. The lack of sentence intonation patterns is of crucial importance to the pronunciation of Cantonese tones." (Matthew and Yip 1994:28) (日本語訳) 「広東語は、音調言語であり、ビッチが語の弁別に用いられる。すくなくとも英語と比較した場合、 文レベルでのイントネーションは制限される。文イントネーションパタンの欠如は、広東語の音調の発 音について大変重要である。」 しかし、北京語や広東語をはじめとする中国語諸方言はイントネーションを持たないと言うわけではない。紙面に限り があるため詳しい言及は避けるが、Norman(1988)は、北京語について以下のように述べている。 "Chinese intonation can be thought of as a band which represents the scale on which the tones are plotted . .,'' (Norman 1988:149) (日本語訳) 「中国語のイントネーションは、音調が現される程度示す東として考えられる。」 小論では、疑問文の文末イントネーションについて議論を進めているので、疑問文の文末でのピッチの上昇についての みの言及に留めたい。陳( 1992)は、「中国語の標準語である普通話には 4 種の声調があるが、間い返し疑問文及び その他の疑問文においても上昇調を付加することはない」と述べている。広東語もほかの中国語方言と同様に、声調が イントネーションに優先している。しかしながら、疑問文ではいくつかのイントネーションパタンが観察されている(Tsukuma 1985, Matthew and Yip 1994)0 ―方、広東語では、疑問文末では上昇調をもつものとそうでないものとがある。通常、広東語は疑問文末で文末詞 が付加され、疑問を表す。その代表的なものに、r陽jr喫」「慨」などがある。 1. 祢係曙係美国人呼? 「あなたはアメリ力人ですか。」 -185 ー 文末詞「呼」の声調は mid-level - 、疑問文末でも上昇調は付加されない(Matthew and Yip 1994:28)。 2. 祢真係美国人呼? 「あなたは本当にアメリ力人ですか。」 この場合でも、「呼」の声調は lowーfalling で、文末で上昇調は付加されない。 英語では、一般的に、疑問詞疑問文の文末には上昇調は付加されない。日本語では、大雑把に言うとどの種類の 疑問文にも上昇調が付加される。下記の例文 3.は「遅個(だれ)」という疑問詞を含む疑問文である。この場合も上昇 調は見られない。 3.D 相係過個影喋? 「その写真は誰が撮ったの。」 しかし、例文 4.のような「黙解~職」は、「どうして~なの」という意味の疑問文であるが、「慨」をとる疑問文では最後 に上昇調が来る。「慨」は mid-level の声調をもち、平叙文の文末に置かれる時、「主張」を含意し、不確かさや疑問 を表現する時には上昇調をとる(Matthew and Yip 1994:349)。しかし、その他の文末詞も疑間文末に置かれることが あるが、「峨」のように上昇調をとることはない。これは特別な例と言えよう。 4. 鮎解祢附鐘意影相慨?「どうして写真をとるのがそんなに好きなの。」 例文 1-4 の場合は、文末に上昇調が付加されなくても、文法的標識(疑問詞や疑問文のセンテンスパタン)によっ てそれぞれが疑問文であることが分かる。しかしながら、以下に示す問返し疑問文では、そのような標識がないため、イン トネーションの働きが重要になる。 5. 祢真係去? 「あなた、本当に行くの」 本来「去」の声調は mid-level であるが、この場合、上昇調で発話される(Matthew and Yip 1994:3 18)。このことは 我々が収集した広東語の一語問返し疑問文でも同様の結果が観察できた。「摺扇りip sin!」の「扇」は mid-level 「花ノfaノ」は high-level の声調を持つが、一語問返し疑問文では、上昇調を示すのに対して、陳述文「係摺扇」(図 1)、「係花」(図 2)では下降を示す。北京語や広東語では、連続変調(tone-sandhi)、つまり音韻的動機付けによる 声調の変化はよ秩ロられているが、一般的には音声的な原因で声調を変化させないと言われている。したがって、上記 の疑問文末で見られるような上昇は音調レベルのものではなく、イントネーションレベルのものであると考えられる。この現 象は広東語でに限って見られるかどうかは詳しい調査を行う必要があると思われる。上述のように、広東語では通常、 疑問文においても上昇調を付加することはなく、問返し疑問文のような疑問を表す文法的標識がない場合にのみ上昇 調を付加する。日本語疑問文は、通常、どのような疑問文においても上昇調が付加される。この疑問文末の韻律的 特徴の違いは、広東語話者の日本語疑問文イントネーションの習得上で障害となる可能性がある。 一 186- 香港広東語話者による日本語疑問文文末の韻律的特徴 図げ摺扇? 係 ◇ 印。建lI血 LHz 3但 H' ,一ー一一‘ “ー・~ I 5 粛1 3 研究方法 31 発話資料 Dl 班(水谷・鮎津・前川 1992)で使用されている 発話資料は文部省科学研究費重点領域研究『日本語音声』 会話文及び単語を若干変更し、使用させていただいた。 日本語会話文 】あれ。 、 〕一 「ノ8 。ノ 〔乙「〕 、4I【 BA BA BA BA 3.A l.A】あれ、なに? 2. B 】どれ? 4. B:あれ?あれは、[ ]。 5. A: [ ]? 5. B:そう。[ ]。[ ]の写真。 7.A 】だれがとったの?あなた、それとも山田さん? 8. B 】わたし。 9.A 】写真が趣味? 10. B 】うん、まあね。 語 単 学校 弟 応接間 猫 猫 身話 箱花刺電 12 34 5. 6, 7. 8. 一 187- 9. 眼鏡 10,果物 11,郵便局 12.アイスクリーム 上記の日本語会話と同様の広東語会話を用いて、広東語の疑問文の特徴を調ぺた。ただし、紙面の都合上、広 東語の資料は必要最低限に留めた。 広東語会話文 1. A:咽 D 係・・・。 2. B:過 DP? 3. A:咽 D 呼 4. B: 個 D?噴 D 係[ 5. A:E 6. B 無錯噺。係[ ]。側過噛 D 就係[ ]慨相片。 7. A:D 相係退個影喋?係称抑或係阿 Joim 冴? 8. B 】係我影慨。 9.A:真係祢影慨?称好鐘意影相慨畔? 10. B 】係冴。 11.A:鮎解休附鐘意影相慨? 単語 1. 2. 3. 日本飯園 4. 織樹 花 古董 5. 摺扇 6. 海馬 z2 青声】費料提洪者 香港人音声資料提供者(以下、C とする)は、香港中文大学日本研究学科 1 年生女子 4 名である。全員香港 出身で、大学入学前の日本語学習経験及び日本滞在経験はない。音声資料として女性のみの資料になっているが、 香港中文大学日本研究学科では男子学生が 2 名のみで、かつ 1 名は上海出身であり、今回の調査については男子 は外さざるを得なかったからである。言うまでもないが、男女の音声データから調査・分析を行うほうが好ましい。 個人データ 音声資料提供者 年齢 性別 出身地 日本語学習期間 CFO 1 20 CFO2 20 CFO3 20 CFO4 20 女性 香港 3 ケ月 女性 香港 3 ケ月 女性 香港 3 ケ月 女性 香港 3 ケ月 日本人の音声資料提供者は、本学日本語教師で、東京方言話者(女性)(以下、J とする)である。 33 分癒】左法 まず、C の日本語会話文と広東語会話文を聞き、それぞれのピッチ曲線を抽出した。その後、J の日本語会話文の 発話のピッチ曲線も抽出して、それぞれの比較、分析を行った。録音には DAT (Sony TCD-D10)を、ピッチ曲線抽出 -188 - 香港広東語話者による日本語疑問文文末の韻律的特徴 には「音声録聞見」を使用した。なお、C の日本語疑問文の発音が自然な疑問文として聞こえるかどうかは実験者(日 本語母語話者)が判断した。 z4 どッチ曲網の分析 中 疑問詞疑問文 「あれ、なに」(図 3-1,2,3) J 図 3-1)と比ぺて、「に」の持続時間が短い。CFO3(図 3-2) ICFO4(図 3-3 )には文末の上昇が見 C の 4 人全員が、( られない。 鵬 3-1:J 「あれ、なに?」 ,.,,.4・・・”‘ 0 博 nユ na 図 3-2:CFO3 「あれ、なに?」 ーー」 na re 図 3-3 :CFO4 「あれ、なに?」 P 仕こh[Hz] C 和 『一 .,ー・“ で e na - 189 - n1 「どれ」(図 4-L2,3) CFO 1/CFO2(図 4-2)のピッチ曲線は、( J 図 4-1)のそれに近い。CFO3(図 4-3)ノCFO4 は、頭高ではなく、平板型で、 上昇も付加されていない。上昇に伴う、持続時間の延長が見られず、「ど」「れ」の時間長が同じである。 1:3 「どれ?」 図 4-2:CFO2 「どれ?」 4臓1 re 図 4-3: CFO3 「どれ?」 「だれがとったの」(図 5-1,2) 「だれ」は正しく、頭高で発音されているが、「とった」は全員平板アクセントで発音している。C は、文末上昇がないか、 あってもノトさい(図 5-2:CFO1)。動詞の活用形のアクセント習得の難しさを示しているものと考えられるが、全員が同じ 発音をしているのは興味深い。 図 5一た J 「だれがとったの?」 -190 一 香港広東語話者による日本語疑問文文末の韻律的特徴 図 5-2 CFO 1 「だれがとったの?」 ◆ 選択疑問文 「あなた、それともやまださん」(図 6-1,2) ( J 図 6-1)は、「あなた」は中高型、「やまださん」は平板型アクセントをもつため、ピッチ曲線はそれぞれ N 字型、S 字 型をしている。まず、「あなた」については、CFO4 以外の C は一応 N 字型をしている。「やまださん」については、全員平 板型のアクセントを保っている。上昇は見られるが、少ない。この部分だけを取り出すと、「質問」というよりは、むしろ「呼 カのように聞こえる(図 6-2 】 CFO 1)。 びかl an ョ 富コ二で ta tじ nlコ 鱗」m 主 3GI1 -2:CFO1 「あなた、それともやまださん?」 ら◇ c P にm ri 4卿 J 昌 m 辺 mm てc『IIコ yn =且 g ョr + Yes-No 疑問文(図 7-1,2,3) 「しゃしんがしゆみ」 C は、「しゃしんが」では、第 1 拍から第 2 拍の上げが、日本語話者に比べて少ない。「写真」は、平板型なので、助 Dでは、「趣味」は頭 J 図 7・ 詞「が」も高いピッチを持つが、CFO4 は「写真が」のフレーズでわずかながら下がっている。( 高アクセントなので、ピッチ曲線が示すとおり、最終拍「み」で急激に下がり、1 7O-4 80Hz 程度の上昇が見られる。CFO 1 - 191 - (図 7-2)ノCFO2 は「しゆみ」で J のものと似たビッチ曲線を持つが、上昇はかなり少ない。また、CFO3/CFO4 (図 7-3)は、 「しゆみ」を平板型アクセントで発音し、文末上昇もない。 図 7-i ;J 「しゃしんがしゆみ?」 Sh 血 U 馨ユ 組 区フ”2:CFOi 「しゃしんがしゆみ?」 ユ こ 秤ユ 図 7-3: CFO4 「しゃしんがしゆみ?」 量1 魯 ―語問返し疑問文 広東語は、一般的に「疑問」の表現として、上昇調を文末に付加することはないと考えられているが、上述の通り、問 返し疑問文では、その上昇調が観察されている。しかし、上述した広東語話者による疑問文の発話の特徴から以下の ような問題点が予測できる。 ① 上昇の程度が少ないこと ② アクセント型の不正確な習得から来る韻律パタンの誤り 以下、本実験で観察された語について、アクセント型に分けて、一つーつ検討していく。 -192 一 香港広東語話者による日本語疑問文文末の韻律的特徴 平板型・局菖型7 l J の発話に見られる平板アクセントを持つ語の一語問返し疑問文のピッチパタンの特徴は、3 拍以上の語であれば、S 字型のパタンを持つということである。 2拍 「箱 」(図 8-1,2) ( J 図 s-i)の「箱?」「そう、箱。」で、最初の「箱」と 2 番目の「箱」のピッチ曲線を比較して見ると、2 番目の「箱」m の 値に上昇を加えたものが、最初の「箱」のピッチパタンであると言える。「箱?」の第 2 拍の最初の m 値は 245Hz で、最 終的には 501Hz まで上昇している。C は、アクセント型は平板型を保っている。しかし、上昇については、ほとんど上昇 がないと言える。最高に上昇している CFO4(図 8-2)でも 40Hzくらいしか上昇していない。 霞 8-I :J 「箱?」 露 8-2 :CFO4 「箱?」 PItCh ‘ロじ . 」 ’りコ 田 。 ' 注1 「花」(尾高型)(図 9-1,2,3,4,5) J 図 9ー 「花」は尾高型アクセントを持つが、語のみでは「箱」と同じアクセントパタンを取るため、平板型の中に含めた。( 1)の「箱」と「花」を比較してみると、両方 S 字型のピッチパタンをしているが、「花」の第1拍から第2拍の上昇が「箱」の それよりも大きいため、第 2 拍に付加される上昇が小さくなり、140Hz ほどの上昇にとどまっている。C の発話を見てみる (図 9-3)ノCFO3(図 9ー 1 図 9-2)ノCFO4 (図 9-5)は日本語話者のピッチパタンに類似している。一方で、CFO2 と、CFO ( 4)は上昇が少ない。上述の「箱」や「花」は第 2 拍に上昇調を付加することによって、疑問文を作り出す。広東語には、 high-rising があり、平板アクセント+上昇調の一語問返し疑問文は発話しやすいと思われたが、広東語の発話でも、 140Hz~250Hz の上昇を持つような語は見られなかった。 一 一 ?J L----花 】』熱強」熊 19-2:CFO1 和(1 i らく」 図 9-i CPJ 「花?」 5i,l 〔 Pり竺ゴI損― --―ー一一一一 i h 三 na ト暑 烏 a -193 ー とa n ' 図 9-5:CF興 5Lfiicb 1Hz ‘一 ,雄ン‘……ーーーー“ー‘一111, I興しーー一ー」一“ー“ han a h ● n 参 3拍 「刺身」(尾高型)(図 10-1,2,3) ( J 図 10-1)の発話の特徴は、第1拍から第 2 拍への上昇が 130Hz ほどあり、第 2 拍から第 3 拍への上昇が小さい。 そして、130Hz ほどの文末上昇が付加されている。C で、J に近いピッチパタンを持つのは CFO ( 1 図 10-2)だけである。 CFO2/CFO3(図 10-3)のピッチパタンは、J の「そう、刺身」の「刺身」のピッチパタンとあまり変わらない。上昇調の付加が 困難であることの好例といえる。CFO4 は第 2 拍にアクセント置き、下降調で発話している。 図 10.2:CF0 「刺 瓢翼ら2撫n 敗11一 1 . 轡 10-3 二 CFO3 「刺身?」 :Il・紅些oh (Nミ]一一”ー”ー一ー一一一“ー一一”ー ‘・・“ーー・・・ーー一一一 'G S a ェ 血 ・ー…一ーー 餌繊1 工 胎1 「いちご」(図 11一1,2) ( J 図 11-Dは、「刺身」と同じピッチパタンを見せる。C (図 11-2:CFO3)は、「刺身」の場合と同様に上昇が少ない。 図 'Id;J 「しちご?」 PItOh 「淑] 図 l1-2; CFO3 「いちご?」 ,りe ど竺生ー!」鷲ー一ーーーー一一ーーー一ーー“ーー― 香港広東語話者による日本語疑問文文末の韻律的特徴 4拍 「学校」(図 12-1,2,3) ( J 図 12-Dは、「学校」の「こう」の長母音が「が」の母音の約 2 倍に発音され、約 240Hz の急激な上昇が見られる。 CFO4(図 12-3)では、語末での 130Hz ほどの上昇が見られるが、他の C には平板で発話されている(図 12-2:CFO2)0 図 12-2:CFO2 「学校?」 図 12-1 ;J 「学校?」 図 12-3:CFO4 「学校?」 三焚ど些9!L難I一、ー“一ー一ー― 淑l Pta、 l 」的 りc k lm k 'kL×> 「弟」(図 13-1,2) (図 13-1)は、S 字型のピッチパタンが見られる。C は、第1拍から第 2 拍ノ\の上昇が小さく、最終拍での上昇が観察 J できない(図 13-2・ CFO4)。 銀 U-i; J 「弟?」 図 13-2 心F04 「弟つ」 ‘,巳鴛臨 Wi] 線.pにけI「魚」 m ー一 誉じ一ーー と i5り「 m 5拍 「応接間」(図 14-1,2ふ4) ( J 図 14-1)は、「弟」と同じピッチパタン、つまり、はっきりとした S 字型をして示す。C は、話者によって異なったピッチパタ (図 14-3)は、 ンを持つ。CFO2!CFO3(図 14-2)は、最初から高いピッチの平板で発話され、文末の上昇がない。CFO4 1 図 14-4)は、第 1 拍から第 第 1 拍から徐々に上昇し、最終拍で最高値になるが、文末上昇は付加されない。CFO ( 2 拍への上昇が見られるが、第 2 拍以降は平板で、文末上昇がない。 図 14-2二 CFO3 「応接間?J 図 14- [: CFJ 「応接間?」 らり‘ Pit熱蒸三とー一―― 一一”一― 汝J 三黄 Pit叱 l ' αコ S ● こmm a 亡ロ - 195 - nと s e ts」 図 14-3 :CFO4 「応接間?」 舞 14-4:CFO4I 「応接間?.1 らぶ,”鰍更 I」無一― -―ーー― --- 父にg注り担藍一一ーー 糾c Zこロ =・ド 。 一一一―― 」 一ーー ,う◇ l t容 aロ 与 幸 I霧 昌 S e 七Su ma l 蘭高型・‘丸高型7 J の発話に見られる頭高・中高アクセントを持つ語の一語問返し疑問文のピッチパタンの特徴は、N 字型のパタンを持 つということである。ピッチは、アクセント核のある拍の次の拍で急激に下降し、最終拍で大きな上昇が付加される。 2拍 「猫」(頭高)(図 15-1,2,3) CFO2 (図 15-2)ノCFO3 は、平板型の語の時と同様に、ピッチ幅が小さいが、J (図 15-1)に似たビッチパタンを示してい る。CFO 1/CFO4(図 15-3)は、平板型のアクセントで発話しており、文末上昇もない。CFOlは、「眼鏡」「果物」でも、ア クセント型を崩し、平板型のように徐々にピッチを上げて、発話している。 図 i5-1j 「猫?3 騒 15-3:Cp04 r猫?」 P にい 田2j 穀 話b 潟li e k◇ n e k り 3拍 「眼鏡」(頭高)(図 16-1,2,3) 「猫」と同様に、N 字型のピッチパタンを示す。CFO2 (図 16-2)のみが、N 字型のピッチパタンで発話している。CFO4 (図 16-3)は、アクセントは正しいが、文末上昇がない。 図 1かI :J 「眼鏡?」 露 I6-2:CFO2 「眼鏡? 戸 1け 図 16-3 :CFO4 「眼鏡?」 lhz1 馨 - 196 - e 卿 n e 香港広東語話者による日本語疑間文文末の韻律的特徴 4拍 「果物」(中高)(図 17-1,2,3) J 図 17-1)に近く、文末上昇が見られる(図 17-2: CFO2)。 CFO ( 1 図 17-3)以外の話者については、ピッチパタンも ( 図 L7-1:J 「果物?」 尋PiW iNci 図 17-2: CFO2 「果物?」 扇追生夏熊I-―ー一一ーー 図 17-3:CFOL 「果物?」 ミ尋 Pitch 胆ci 6拍 「郵便局」(中高)(図 18-1,2,3) 1 図 18-2)ノCFO2 は、文末上昇が確認できるが、アクセントに CFO3(図 18-3)/CFO4 に文末上昇が見られない。CFO ( ンキョクー)ユービンキョ1ク)。 誤りが見られる(ユービ1 図 18-1:J 「郵便局?」 図 18-2: 「郵便局?」 :極9昼鰻 図 18-3 :CFO3 「郵便局?」 妬 Pitch INn-- 1緋 1 い皿 b二 n 融 7拍 「アイスクリーム」(中高)(図 19-1,2,3) CFO ( 1 図 19-2) /CFO2 は、N字型に近いピッチパタンで発話している。CFO3(図 19-3)ノCFO4 は文末で急激に下降し ている。 図 19-1ば「アイスクリーム?」 図 19-2 て;Fo I 「アイスクりーム?」 図 19-3 ;CFO3 「アイスクリーム?」 tch IH2I J l 」一 ai s 、 ku d工 」 Aーニ 轄~ 」 一 己 二 昌廿 ku 三まi ョa ai s uk り r 編舞 u - 197 - 日 u 4 まとめ 同じ年齢、同じ日本語学習環境の女子学生 4 人の発話データをもとに分析を行った。次に述べることが一般的に見 られることなのか、女性だけの資料から結論を出すことは難しいが、本調査からは以下のようにまとめられる。 1. 疑問文末の上昇がある時とない時がある。明らかな下降調は広東語韻律の影響によるものだと思われる。 CFO3/CFO4 は、疑問詞疑間文では、明かに文末を下降調で発話している。しかし、選択疑問文、Yes-No 疑問文では、上昇とは言えないが、非下降調を示している。 各種疑問文末でも、上昇があるものの日本語話者と比べると上昇の幅が小さく、聴覚的印象としては疑問に 聞こえず、たとえば選択疑問文「あなた、それともやまださん」の「やまださん」では、呼びかけのように聞こえる。 2. 一語問返し疑問文では、予測した通り、アクセントの不正確な習得から来る誤った韻律パタンが見られる。こ れは、他の疑問文末に来る単語のアクセント型の習得についても同じことが言える。同時に上昇が不十分であ る。 5 おわりに 本稿では、広東語話者の日本語疑問文イントネーションの特徴を記述し、日本語話者のそれと比較して、どのように 広東語が干渉しているのかを探ってきた。特に文末の上昇調の有無とその特徴に注目した。広東語の詳細なイントネ ーション研究は、残念ながらほとんど行われていないが、北京語のイントネーションの先行研究は、広東語イントネーショ ン研究に対して、また広東語話者の日本語イントネーション研究に興味深い示唆を与えてくれる。Norman ( 1988)と同 様に、Shen (1990)は、北京語では平叙文と疑問文の違いはレジスターにあると主張している。疑問文は、平叙文と比 べて高いレジスターで始まるとする。Schack (2000)も、同様に北京語疑問文のイントネーションを記述、分析し、さらに 北京語話者の英語疑問文イントネーションの分析を行っている。しかしながら、Schack (2000)は、陳述文と疑問文の 間にはレジスターによる違いは観察されず、むしろ境界音調(Boundary tone)とピッチ幅の拡張によって区別をすると主 張する。我々の調査が広東語話者の日本語イントネーション研究の端緒になるよう期待しているが、また同時に広東 語イントネーション自体もさらに解明していかなければならない。2.3 で述べたが、広東語では、問返し疑問文ー語問 返し疑問文で文末に上昇調が付加されることが分かった。他の中国語方言ではどうなのか。北京語では、これらの疑 問文でも文末上昇は観察されないと言われているが、はたして中国語では、方言間でイントネーションの現れについて 差があるのか疑問が残るところである。北京語をはじめとした中国語各方言のイントネーションのより詳しい記述が必要 となるであろう。 -198 一 香港広東語話者による日本語疑問文文末の韻律的特徴 教育的観点から考慮しなければならないことは、はじめにも述べたが、プロソディは発話の日本語らしさについての評価 に大きくかかわっていると考えられている。陳(1992)でも、中国語話者の日本語疑問文が、日本語母語話者には「疑 問」に聞こえず、「無関心」に聞こえたり、「きつい」と感じられたりすることが指摘されている。本調査でも、文末の上昇が 十分でないものや、平板型のアクセントで発話するために、発話が「疑問」とは聞こえないものもあった。調査協力者の 日本語学習期間が 6 ケ月であることを考えると致し方ないところあろう。しかし、疑問文は日本語学習のかなり早い段 階で習う構文でもあり、あわせてイントネーションもきちんと教授しなければならない。香港の日本語教育では音声教育 が十分とは言えず、効果的なイントネーション教授法、学習法を確立していく必要がある。さらに、考慮すべきことは、広 東語の上昇音調を持つ語の一語問返し疑問文のピッチ曲線は、日本語話者の日本語一語問返し疑問文のそれとよ く似ているが、それが日本語一語問返し疑問文のイントネーションの正しい習得には必ずしもつながらないということであ る。磯キ寸(1996)は、学習者のアクセント型の意識化とアクセント指導の有益性を指摘している。改めて音声教育の重 要性が問われているのではないだろうか。教授法・学習法とともに、クラスで音声教育の学習ポイントを明確にさせた上 で、繰り返し練習をすることが必要となるであろう。 (プロジェクト名“Phonological Development of Cantonese 本研究は The Research Grants Council of Hong Kong Speakers in the Acquisition of Japanese")による助成を受けて実施された研究の一部である。 参考文献 「中国語話者による日本語疑問文文末の韻律的特徴」『日本語の韻律に見られる母語の干渉( 3)一音響音声学的対象研究 陳文韮(1992) ―』文部省重点領域研究「日本語音声における韻律的特徴の実態とその教育に関する総合的研究」平成 4 年度研究成果報告書水谷 修・鮎津孝子・前川喜久雄編 「アクセント型の意識化が外国人日本語学習者の韻律に与える影響」『日本語国際センター紀要 第 6 号』 日本語国際セン 磯村一弘(1996) ター 『よくわかる音声』 東京 ア」レク 松崎寛・河野俊之(1998) Matthew, Stephen and Yip, Virginia (1994) Cantonese: A Comprehensive Grammar. London: Routledge 『日本語の韻律に見られる母語の干渉(3 )一音響音声学的対象研究一』 文部省重点領域研究 水谷修・鮎津孝子・前川喜久雄編( 1992) 「日本語音声における韻律的特徴の実態とその教育に関する総合的研究」平成 4 年度研究成果報告書 Norman, Jerry (1988) Chinese. Cambridge: Cambridge University Press. Schack, Katrina (2000) "Comparison of intonation patterns in Mandarin and English for a particular speaker" University of Rochester Working Papers in the Language Science. Vol. Spring 2000, no.1. University of Rochester Shen, XJao-nan Susan (1990) The Prosody of Mandarin Chinese. Barkley: University of California Press. 「中国人・韓国人Iアメリ力人による日本語のイントネーションとプロミネンス」『日本語と日本語教育 3』 杉藤美代子編 東京 明 土岐哲(1990) 治書院 Tsukuma, Yoshimasa (1985) The Interaction between Word and Sentence Prosody: Acoustic and Perceptual Studies in Chinese, Japanese and English. PhD dissertation. The University of Essex. 一 199 ー
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