JARI Research Journal 20141201 【解説】 電動車両用電池・充電に関する国際標準化の進捗 International Standardization for Electric Vehicle Battery and Charging 高橋 雅子*1 Masako TAKAHASHI 1. はじめに 日 本 自 動 車 研 究 所 (JARI) に お け る 電 動 車 両 (EV)1用電池および充電に関連する国際標準化活 動については,本ジャーナルで何度か概要を紹介 してきた 1), 2).今回は,2014 年の主な進捗につい て,日本提案を中心に簡単に紹介する.ここで言 う日本提案とは,JARI の電池標準化 WG 及び電 池充電標準化 WG において国際規格案を作成し, IEC ( International Electrotechnical Commission)において議長国として国際審議を主 導してきた国際規格案を言う. 2. EV 用電池関連規格の進捗 2. 1 全般 EV 用のリチウムイオン電池(LIB)については, セルの試験法に関する IEC62660 シリーズとパッ ク・システムの試験法に関する ISO12405 シリー ズなどの整備が 2007 年から進められてきた.こ の内 IEC62660 シリーズは,日本が議長国を務め る IEC/TC21/JWG69Li2が審議を担当している. 同 JWG は 2007 年に新設され,これまでに,JARI 電池標準化 WG で作成した規格原案に基づき IEC 62660-1(EV 用 LIB セル性能試験法),IEC 62660-2(EV 用 LIB セル信頼性・誤用試験法), IEC/ISO PAS 16898(EV 用 LIB セル寸法表記法) を発行している.2013 年には,これらに加えて EV 用 LIB セルの安全性試験と合否基準を規定す る IEC 62660-3 を同じく日本から提案し,現在審 議中である.IEC 62660-3 については,次の項で 電気自動車(Battery Electric Vehicle; BEV),ハイブリッド 自動車(Hybrid Electric Vehicle; HEV),プラグイン・ハイブリ ッド自動車(Plug-in Hybrid Vehicle; PHEV)などを含む. 1 2 自動車用リチウム電池を担当する審議体で IEC/TC21,IEC/TC21/SC21A,IEC/TC69 のジョイントワーキン ググループ.議長は,JARI 電池標準化 WG 主査の飯山明裕氏(日 産自動車). *1 一般財団法人日本自動車研究所 概要を紹介する. 2. 2 リチウムイオン電池の安全要件 近年,民生用リチウム電池の発火事故を受け,安 全性確保のための試験法と合否基準の規格化・基準 化への取り組みが国内外で始まった.日本において は,民生用小形二次電池の安全要求事項に関する JIS C 8712 制定に続き,定置用大形リチウム電池 についても 2012 年に JIS C 8715-2(産業用リチウ ム二次電池の単電池及び電池システム-第 2 部: 安全性要求事項)によって安全性試験が規定された. さらにこの JIS C 8715-2 に基づき,電池工業会か ら国際提案された IEC 62619(産業用リチウム電池 の安全要件)の審議が 2012 年から開始している. なお,小形二次電池の安全要件は,2012 年に第 2 版が発行した IEC 62133(ポータブル二次電池安全 要件)に規定されており,IEC 62619 でも内部短絡 試験などを引用している. 自動車用電池についても,2010 年後半に LIB パック・システムの安全要件を規定する ISO 12405-3 の審議が開始し,同時期に検討された国 連基準 ECE R100-02(自動車用電池等 REESS3 の安全要件)との整合などが議論された.ISO 12405-3 は 2014 年 5 月に初版が発行した.また, 2013 年 1 月のボーイング 787 のリチウムイオン 電池発火事故により,リチウムイオン電池の安全 性確保に関する国際的関心は一層高まり,国連の Electrical Vehicle Safety - Global Technical Regulation (EVS-GTR)の電池パック試験基準の 審議も始まっている. このような中,パック・システムのみではなく, セルの安全要件についても国際標準化が必要で あるとの認識が高まった.自動車用電池について 3 REESS: Rechargeable Energy Storage System FC・EV研究部 - 1 - JARI Research Journal (2014.12) は,各自動車メーカーのシステム設計に最終的な 安全性の確保が委ねられているものの,電池パッ クやシステムの設計は,セルレベルでの基本的安 全性を前提としている.通常,自動車用セル・モ ジュールは,パック,システムとは異なるメーカ ーが製造しているため,セルレベルでの安全要件 の標準化は重要性が高い.このため,JARI 電池 標準化 WG は,2013 年 2 月に IEC 62660-3(EV 用 LIB セル安全要件)を新規提案し,日本案に基 づく安全性試験と合否基準の標準化に取り組む事 とした.IEC 62660-3 では,EV 用リチウムイオ ン電池セルの基本的な安全性を確保するための 試験方法と合否基準を規定している.試験項目と 試験方法は,基本的には IEC 62660-2(信頼性・ 誤用試験)を引用しているが,新たに,内部短絡 試験を追加するとともに,一部の試験条件を安全 性試験に適した内容に変更している.また,セル の安全使用のための適用範囲に関する附属書な どを追記している(表1).この規格案は 2014 年度内に CDV(投票用委員会原案)への移行を目 指している. IEC 62660-3 の審議において特に懸案となって いるのが内部短絡試験法である.日本は,セル製 造時の異物混入に起因する内部短絡に対する安全 性試験として,IEC 62133, IEC 62619,JIS C 8715-2 と同様の,ニッケル小片を挿入し加圧する 試験法(いわゆる,強制内部短絡試験)を提案し ている.セルの内部短絡の原因は,異物混入,銅 やリチウムの樹枝状結晶,不適切な使用環境など 様々であるが,異物混入以外の原因に起因する内 部短絡は振動・衝撃・圧壊・過充電・過放電試験 によって安全性を確認する事ができるとされてい る.このため,日本は IEC 62660-3 で規定する内 部短絡試験の目的は,製造時の異物混入に対する 安全性確認に絞るべきであり,そのための試験方 法としては,強制内部短絡試験が最も適切である と主張している.これに対して,ドイツ,フラン ス,米国からは,強制内部短絡試験に代わる内部 短絡試験法として,先端が丸い釘(ブラントロッ ド)で加圧する圧入誘導内部短絡試験や,セラミ ック釘による釘刺し試験などが提案されている. これらの試験法は,最近検証が始まったところで あり,異物混入による内部短絡の模擬試験として の妥当性や再現性,試験データの不足などに課題 表 1 IEC/CD 62660-3 の主な規定項目(審議中) 試験項目 内容 振動 試験方法 合否基準 IEC 62660-2準拠 漏液なし・安全弁から液,蒸気漏れなし・ 破裂なし・発火なし・爆発なし 機械的衝撃 試験方法 合否基準 IEC 62660-2準拠 漏液なし・安全弁から液,蒸気漏れなし・ 破裂なし・発火なし・爆発なし 圧壊 試験方法 合否基準 IEC 62660-2準拠 但し,圧壊速度6mm/秒以下 発火なし・爆発なし 耐熱 試験方法 合否基準 IEC 62660-2準拠 但し,加熱終了後6時間観察 発火なし・爆発なし 温度サイクル 試験方法 合否基準 IEC 62660-2(6.2.2.1.1)準拠 漏液なし・安全弁から液,蒸気漏れなし・ 破裂なし・発火なし・爆発なし 外部短絡 試験方法 IEC 62660-2準拠 合否基準 発火なし・爆発なし 過充電 IEC 62660-2準拠 試験方法 但し,試験終了条件は最高電圧の120% またはSOC 130%の何れか早い方 合否基準 発火なし・爆発なし 強制放電 試験方法 合否基準 SOC 0%から1Itで放電,試験終了条件は電 圧25%以下または放電30分 漏液なし・安全弁から液,蒸気漏れなし・ 破裂なし・発火なし・爆発なし 内部短絡 試験方法 IEC 62619準拠 (但し,一部追記条件を検討中) または,一定条件を満たした代替試験法 (検討中) 合否基準 発火なし・爆発なし がある一方,試験法として比較的実施が容易であ る点などに特徴がある. 自動車用セルは,個別のパック・システム設計 の違いに対応して最適化されている場合が多く, セル自体の設計も多様である.自動車用の大形 LIB の安全性試験は各国ともに経験が浅く,多様 なセルの基本的な安全性の評価を行うために,ど - 2 - JARI Research Journal (2014.12) の様な標準試験法を規定すべきかは難しい課題で ある.当然の事であるが,既存の製品が不当に不 安全のレッテルを貼られたり,逆に安全性が適切 に評価できないような試験法が標準化される事の 無いよう,議長国として慎重に議論を進めている ところである. なお,現在審議中の産業用大型リチウムイオン 電池 IEC 62619 においてはセルの強制内部短絡 試験またはシステムの熱連鎖試験の選択式規定と なっている. IEC 62660-3 でも,これと同様に セルの内部短絡試験の代替試験としてパック等の 熱連鎖試験を認めるかどうかについては,現在意 見が分かれており,検討が続けられている. 自動車用 LIB パック・システムの熱連鎖試験法 については,日本を含め各国で検証段階である事 から,上述の ISO 12405-3(EV 用 LIB パック・ システム安全要件)の初版では議論は行われず, 試験項目には含まれていない(表 2) .しかし,内 部短絡に起因する類焼の防止は,パックの安全要 件としての重要性が高く,セルの内部短絡試験と ともに早急な標準化が求められている.このため, 日本の要請に基づき,2014 年 11 月から ISO 12405-3 第 2 版の審議が開始し,新たに熱連鎖試 験が検討される事となった. IEC 62619 及び JIS C 8715-2 においては,セ ルの内部短絡試験またはシステムの類焼試験の 何れかを熱暴走試験として実施するよう規定し ているが,類焼試験における熱暴走の発生方法に ついては,例として,抵抗加熱器,熱伝導ヒータ ーなどでモジュール内の一つのセルを加熱する 方法を示すに留めてある.ISO 12405-3 の第 2 版においては,IEC 62619 を参考に自動車用電 池システムの熱連鎖試験法が検討される予定で あるが,自動車用や産業用のような大型のリチウ ムイオン電池の熱連鎖試験については,公開され た試験データが少ない事から,JARI における試 験結果などに基づき,より具体的な標準試験を提 案していく予定である. なお,ISO 12405-3 は ISO 12405-1(高出力用 LIB パック・システム試験法:2011 年初版発行) 及び ISO 12405-2(高エネルギー用 LIB パック・ システム試験法:2012 年初版発行)の試験法を多 く引用している事もあり,これら三つのパートに ついて今年同時に改定審議が開始した. 表2 ISO 12405-3(初版)の主な規定項目 試験項目 内容 振動 試験方法 パート1・2参照,または顧客指定の方法 安全要件 液漏れ・破裂・発火・爆発なし 機械的衝撃 試験方法 パート1・2参照,または顧客指定の方法 安全要件 液漏れ・破裂・発火・爆発なし 結露 試験方法 パート1・2参照 安全要件 液漏れ・破裂・発火・爆発なし 熱サイクル 試験方法 安全要件 パート1・2参照 但し,試験温度・時間 変更可 液漏れ・破裂・発火・爆発なし 車両衝突時の内部負荷 試験方法 新規規定(実質的にECE R100-2と整合) 液 漏 れ・ 破裂 ・発 火・ 爆発 なし (車 両試 安全要件 験の場合は各国規則に従う) 車両衝突時の接触力 試験方法 安全要件 新規規定(実質的にECE R100-2と整合) 液 漏 れ・ 破裂 ・発 火・ 爆発 なし (車 両試 験の場合は発火・爆発なし) 浸水 試験方法 短絡試験により確認 安全要件 - 火炎暴露 試験方法 新規規定(実質的にECE R100-2と整合) 安全要件 爆発なし 短絡 試験方法 安全要件 パ ート 1・ 2参 照 但 し, 抵抗 値, 試験 温度 変更可 液漏れ・破裂・発火・爆発なし 過充電保護 試験方法 パート1・2参照 但し,試験温度変更可 安全要件 液漏れ・破裂・発火・爆発なし 過放電保護 試験方法 パート1・2参照 但し,試験温度変更可 安全要件 液漏れ・破裂・発火・爆発なし 熱制御/冷却ロス 試験方法 新規規定(実質的にECE R100-2と整合) 安全要件 液漏れ・破裂・発火・爆発なし 2. 3 ニッケル水素電池の安全要件 EV の駆動用電池は,現在リチウムイオン電池 が主流となってきているが,ハイブリッド自動車 については,現在でもニッケル水素電池を搭載す る車両は多い.リチウムイオン電池に比較して出 力・エネルギー密度が低い分,安全性も高いと言 - 3 - JARI Research Journal (2014.12) えるが,国連基準 ECE/R100-2 などでは,電池 種に関係なく,電池パックとして単一の試験方法 と安全要件が規定されている.国際規格において は,電池の特性に応じた試験方法と要件を規定す るのが望ましいが,自動車用ニッケル水素電池の 安全要件については現状では国際規格が存在し ない.一方で,中国では自動車用ニッケル水素電 池の試験方法を規定する QC/T 744-2006 が改定 中であるが,試験方法と要件は関連する国際規 格・基準を参照して独自に規定している.このた め,IEC 62660-3 の提案に併せて,2013 年 5 月 にニッケル水素電池についても JARI 電池標準 化 WG から適切な試験方法と安全要件を提案し, 国際的な標準試験を規定する事により,今後の各 国規格・基準の調和に役立てる事とした.この新 規提案は,IEC 61982-4 として,現在,日本を議 長国とする IEC/TC21/JWG69Pb-Ni4において審 議中である. IEC 61982-4 では,EV 用ニッケル水素電池(セ ル及びモジュール)の基本的な安全性を確保する ための試験方法と合否基準を規定している.試験 項目と試験方法は, IEC 61982, IEC 62660-3, ECE/R 100-2 など関連規定を参照した上で,ニ ッケル水素電池に適した試験条件を規定してい る.合否基準は全ての試験について発火・爆発が 無い事としている. IEC 62660-3 とは異なり,内部短絡試験は規定 していない.本件は 2015 年度の発行を予定して いる. 3. 充電関連規格の進捗 3. 1 全般 EV 充電システムに関しては, IEC/TC69(JARI が国内審議担当)を中心に,現在約 30 件の国際規 格案の審議が行われている.EV 用車載蓄電池の充 電方式には,コンダクティブ充電,電磁誘導や電磁 界共鳴などによる非接触充電(インダクティブ充電, ワイヤレス充電) ,電池交換の 3 種類があり,現在 それぞれの方式に関する国際規格案の審議が行わ れている.現状では実用化レベルとコスト面からコ 4 自動車用電池(リチウムを除く)を担当する審議体で IEC/TC21,IEC/TC21/SC21A,IEC/TC69 のジョイントワーキン ググループ.議長は,JARI 電池標準化 WG 委員の西村尉辞氏 (PEVE). ンダクティブ充電が主流であり,コンダクティブ充 電に関する基本的な規格群である IEC 61851 シリ ーズ(電気自動車のコンダクティブ充電システム)お よび IEC 62196 シリーズ(電気自動車のコンダク ティブ充電用プラグ・コンセント・車両コネクタ・ 車両インレット・ケーブル;総称「充電アクセサリ」) にその関連要件が規定されている. ワイヤレス充 電については IEC 61980 シリーズ,電池交換につ いては IEC 62840 シリーズで審議中である.また, 車両・グリッド間の通信インタフェースについて は ISO/IEC 15118 シリーズに規定されている. 3. 2 直流(DC)充電システム 電気自動車(BEV)の普及促進に重要な意味 を持つ直流充電システムに関しては,実用化にお いて各国に先行している日本が国際標準化を主 導してきた.2010 年に,JARI 電池充電標準化 WG で原案を作成した 3 件の国際規格案- IEC 61851-23(DC 充電ステーション要件),IEC 61851-24(DC 充電制御デジタル通信),IEC 62196-3(DC 充電車両カプラ寸法互換性)- を 提案し,日本で実用化された直流コンダクティブ 充電システム(CHAdeMO)の国際標準化と,直 流充電ステーションの基本的要件の統一を目指 した.IEC 61851-23 及び IEC 61851-24 は,2014 年 3 月に,IEC 62196-3 は 2014 年 6 月にそれぞ れ発行し,当初目的の通り,日本の直流充電シス テムの国際展開の基礎となる国際標準化を達成し た.これらの国際規格では日本の急速充電システ ムを含む 3 つのシステム(システム A・B・C)の 要件を規定している.システム A は日本で実用化 された DC 充電システム(CHAdeMO)で,IEC 62196-3/形状 AA の車両カプラを使用する.シス テム B は中国で規格化された充電システム,シス テム C は米国とドイツで開発された充電システム CCS(combined charging system)で,直流・交 流結合型の充電インタフェースを使用する.通信 方式はシステム A,B は CAN 通信,システム C は PLC 通信である. また,これら 3 件の国際規格に対応する JIS も JARI が原案作成団体となって作成し,JIS D 61851-23,JIS D 61851-24,JIS D 62196-3 とし て,共に 2014 年 10 月に発行した.これらの JIS は基本的に対応する IEC 規格と同一の内容であ - 4 - JARI Research Journal (2014.12) り,日本市場における技術の公平性の観点から, 日本のシステムを含む 3 つのシステムを併記して いる.なお,欧州における対応規格(EN 規格) ではシステム A と C が規定されており,システム B は適用外となっている. 直流充電に関する規格整備は上記の通り基本的 に完了したが,IEC 61851-23 については,初版 で保留となった事項の技術的検討を行うため,本 年 11 月 か ら , 日 本 を 議 長 国 と す る IEC/TC69/MT55において, 引き続き第 2 版の審議 を開始した.IEC 61851-23 では,充電ステーシ ョンの機能と安全性確保のために満たすべき要件 を規定しているが,初版では各要件に対する製品 の適合性を確認するための試験方法については, 一部保留となっていた.当該規格には上述の通り, 日本のシステムを含む 3 つの充電システムが規定 されている事から,適合性試験についても各シス テムについて個別に検討し,共通試験とシステム 別試験を規定する必要がある.日本のシステムに ついてはチャデモ協議会において概ね検討済みで あったものの,特に独・米提案のシステム C につ いては製品化の初期段階であったため,適合性試 験については未検討であった.このため,これら 試験方法は初版には規定せず,第 2 版で検討の上 反映させる事となったのである.充電ステーショ ンの基本的な性能・安全性や相互運用性を確保す るための適合性試験については,早期標準化への 要望が高い事から,独立した技術仕様書(TS)と して,暫定的に第 2 版に先行して発行する方向で 検討中である.なお,TS は最終的に第 2 版に統 合され,取り下げられる予定である. IEC 61851-23 の第 2 版においては,デュアル 充電器の要件も検討予定となっている.デュアル 充電器とは,システム A とシステム C の双方に対 応し,それぞれの車両コネクタを備えた充電器で ある.特に欧州では,既に各国で導入が拡大して いる日産リーフを始めとする日本の電気自動車と, 今後導入が進むとみられるドイツ等の電気自動車 の双方に対応する充電器への要望が高く,これに 応える形でデュアル充電器の製品化と整備が始ま っている.両システムには共通部分も多く,部品 5 IEC 61851-23 及び IEC 61851-24 の改定を担当するメンテ ナンスチーム.議長は Serge Roy 氏(チャデモ協議会). 共用によるコスト面での利点もあると言われてい る.欧州全体では 2014 年末までに約 720 台の CCS 対応充電器の設置が計画されているが,その 大半はデュアル充電器となる見込みのようである. また,デュアル充電器は通常一度に 1 台しか充電 できないが,同時に 2 台充電できるタイプも検討 されており,システム A,システム C の両要件と は別に,独自の機能・安全要件の検討が必要とさ れている.このため,IEC 61851-23 の第 2 版で は,デュアル充電器の要件についても検討が行わ れる予定である. さらに,逆潮流,双方向充電や複数車同時充電 などに対応した直流充電ステーションやポータブ ル式直流充電器なども,第 2 版の新たな検討項目 として挙げられている.また,IEC 61851-23 の 初版は IEC 61851-1 の第 2 版を引用している事か ら,現在審議中の IEC 61851-1 第 3 版の発行に合 わせて,構成,用語などの整合も行っていく予定 である. なお,直流充電インタフェースについては,IEC 62196-3 が規定する4形状(形状 AA,BB,EE, FF)に加え,保留となっている 2 形状(形状 CC, DD)がある.これらは,システム C に対応し, 交流充電インタフェースであるタイプ 1,タイプ 2(IEC 62196-2 参照.タイプ 1 は日・米提案形 状)を直流充電に適用するものである.直流と交 流でピンが兼用される事から,安全性分析が課題 と な っ て お り , 両 形 状 を 技 術 仕 様 書 IEC/TS 62196-3-1 とする事を目指した米国の新規提案は, 2014 年 6 月に否決された.本件は 10 月に再提案 されているが,実用化,製品化が行われていない 現状では,今後の見通しは不透明である. 4. まとめ EV の普及拡大は各国共通の目標であり,国際 標準の場においても,システムや充電インタフェ ースの部分的な違いはあるものの,各国協調して 国際規格の整備に取り組み,EV 普及の基礎とな る国際標準化が進捗している. JARI では,日本が先行するリチウムイオン電 池や直流充電分野を中心に,国際標準化を主導す るとともに,電池・充電関連規格案への日本の技 術・経験の反映と課題解決により国際標準の適正 化への取り組みを続けている. - 5 - JARI Research Journal (2014.12) 2014 年には,JARI 電池充電標準化 WG におい て原案を作成した直流充電に関する3件の国際規 格(IEC 61851-23,IEC 61851-24,IEC 62196-3) が発行した.また,これらに対応する JIS (JISD 61851-23,JISD 61851-24,JISD 62196-3)が, JARI の DC 充電システム JIS 原案作成委員会に おいて作成され,発行した. JARI 電池標準化 WG が原案を作成した国際規 格 2 件(IEC 62660-3,IEC 61982-4)について は,議長国として審議を主導し,来年度の発行を 目指す. なお,今回紹介した標準化活動の内,2012 年度 の活動は経済産業省(三菱総合研究所受託) 「新エ ネルギー等共通基盤整備促進事業」などの一環と して実施された.御支援御協力頂いた関係各位に 心より謝意を表する. 参考文献 1) 高橋雅子,電動車両用電池・充電に関する国際標準化 動向,JARI Research Journal 2012-02-03 (2012) 2) 高橋雅子,電動車両用電池・充電に関する国際標準化 の進捗, JARI Research Journal 2013-07-05 (2013) - 6 - JARI Research Journal (2014.12)
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