八王子市における災害医療対策本部訓練を通してみえてきたこと 八王子市医療保険部・健康部 〇和田るり子 清水晶子 田上今日子 春田一志 小竹亜希子 鎌田明子 谷梨絵 黒田藍 中山拓也 1 はじめに (3)本部機能訓練検討会議 八王子市は都心から西へ 40 ㎞離れた人口 56 万 市災害医療コーディネーター及び災害医療 人の中核市である。本市では、地域防災計画(以 の専門家から、本部のレイアウトや訓練の 下、防災計画)を作成しており、災害時にはそれ 設定について助言をもらうため、事前に会 に基づいて行動する。防災計画では、各部の役割 議を4回実施。 を定めており、現在見直しが行われている。その (4)事前説明会 中で医療保険部・健康部は「災害対策医療保険・ 訓練当日に参加する関係機関及び職員に対 健康部」とし、災害時における医療・公衆衛生活 し、訓練内容や役割について説明会を実施。 動に関わる役割が明記されている。 今回、毎年実施している八王子市総合防災訓練 の場で、 「災害対策医療保険・健康部本部(通称「災 害医療対策本部」 )訓練」を初めて実施した。そこ 3 訓練 (1)訓練の状況設定 被災状況や活動人員の状況が明らかになってき から見えてきた、本部機能の在り方について報告 た発災後3日目を想定。 する。 (2)参加者 合計 55 名 2 準備 所属:市職員(事務職、保健師、栄養士、歯科 これまで他の自治体の被災地への職員派遣や災 衛生士、衛生監視員)、市災害医療コーディネータ 害に関する研修への参加を重ねる中、緊急医療や ー、医師会、歯科医師会、薬剤師会、歯科衛生士 避難所等の公衆衛生初動活動体制の指揮をとる災 会、南多摩医療圏ワーキンググループ 害医療対策本部の役割や想定に具体的なイメージ (3)訓練内容 が持てず漠然とした不安感を募らせていた。 本部における職員の役割について、具体的なイ 仮の組織図(図1)を作成し、指揮命令系統の イメージ作りを行った。 図1 メージが出来るような訓練の必要性を感じ、平成 28 年度の訓練で実施することとした。 災害医療対策本部組織図(訓練用) 訓練当日の状況設定を検討するにあたり、以下 の準備を行った。 (1)関連部署へのヒアリング 災害時に連携を図る他所管の役割について 本部長(医療保険部長) 市災害医療コーディネーター 本部 副本部長(健康部長) 情報・連絡チーム ◎健康政策課長 サブリーダー:2名 受 付 係 広 報 係 記 録 係 活動調整係 市職員 2名 市職員 1名 市職員 3名 市職員 3名 把握。 (2)医師会・歯科医師会・薬剤師会・歯科衛生 士会(以下、関係機関)への事前調整。 本部機能において関係すると想定されてい る関係機関に対し訓練の協力依頼を実施。 衛生チーム ◎生活衛生課長 栄養士チーム 3名 監視員チーム 3名 保健師・歯科衛生士チーム 4名 (保健師 3名・歯科衛生士1名) 医療チーム ◎保健対策課長(医師) 医科チーム 医師1名・保健師1名・ 八王子薬剤師2名 歯科チーム 八南歯科医師会八王子支部 3名 東京都歯科衛生士会 2名 また、訓練は以下3つの場面を想定し、実施し た。 達ツールについて工夫した。しかし、多くの情報 をよりスムーズに対応するためには、受付段階で ①活動事前ミーティング場面 優先度を決めることや、伝達、共有、他チームへ ②活動場面 の発信方法等について、さらに検討していく必要 ア)本部機能訓練 がある。そのためにも、情報の処理・検討段階で 5分ごとに状況付与カード(実際に本部に入 は、本部内の指揮命令系統を明確化しておくこと ってくると想定される情報を示したもの)を が重要である。 提示し、対応策の検討及び記録。 イ)避難所における巡回診療・公衆衛生活動 ③活動事後ミーティング場面 また、情報共有を有効的に図るためには、公衆 衛生上必要なアセスメントを押さえた「避難所の アセスメントシート」の開発などが不可欠であり、 各チームからの報告及び明日の行動計画につ 専門職以外でも記入できるシートとする必要があ いて検討を行った。 る。 (4)結果 (2) 「横のつながり」について 避難所における公衆衛生活動の訓練場面におい 今回の訓練は、市災害医療コーディネーターを ては、衛生管理に必要な視点を抑えたアセスメン はじめ、関係機関、他所管に助言や協力を得なが トができた。一方で、本部機能訓練では情報の整 ら実施した。災害という一つのテーマで、職種を 理がつかず、十分な検討ができないまま終わった。 超え、平常時からの互いの役割について意見交換 訓練後、訓練参加者全員にアンケートと反省会 を実施した。 集計結果から多く聞かれた意見は、以下のとお りである。 ①「情報がどんどん入ってきて混乱する」 「情報 が出来たことは、とても有意義であった。 また、実際の発災時には、市民をはじめ、地域 全体の協力体制が必要不可欠であり、平常時から 他所管や関係機関とのつながりを持てるような関 係を継続することが重要である。 伝達ルートが機能しない可能性がある」 「他の係 りの役割が分からなければ、情報伝達できない」 といった情報処理に関する意見 5 まとめ 自治体における災害医療対策本部訓練について ②「他部署の災害時の役割を把握し、連携につ は、全国的にも報告されていない。この訓練を通 いて、考える必要性がある」の意見 し、本部の機能や役割についてイメージする事が ③情報のやり取りを行う際、専門用語の多用が できた。本部が有効に機能するには、情報の優先 あり、医療専門職以外の職員との情報共有を図 度をその都度判断し、役割を振り分ける指揮命令 ることの難しいという意見 系統が重要である。 その他、「実際の災害時に近い体験ができた。」 また、全体を通して、他所管や関係機関等との 「本番さながらの緊張感を体験することができ 横のつながりの重要性や平常時からの災害対策に た。 」という意見も聞かれた。 ついて職員の意識を高めることができた。それを 強化するためにも、普段の業務において円滑なコ 4 考察 (1)情報処理について 情報処理については、受付、検討、報告、発信 の一連の流れを想定し、必要な人員数や、情報伝 ミュニケーションを図っておくことが必要である。 今後に結びつくことができるような情報メモな どツールの整理や訓練を継続して行っていきたい。
© Copyright 2024 ExpyDoc