国際収支とは?

マクロ経済学 2 1 国際収支
1.国際収支とは?
国際収支統計とは、一定期間の国やそれに準ずる地域の対外経済取引(モノとサービス、所
得取引・対外資産・負債に関する取引の統計です。
なお、トランプ大統領が貿易黒字の大きい国を為替操作国と批判しているようですが、こう
した経常収支の黒字を「得」
、赤字を「損」と考えることは、
「重商主義の誤謬」で、政治家
がパフォーマンスで利用しているに過ぎません。そもそも国際収支統計は企業財務の損益
計算書ではないので、経常収支や貿易収支の赤字が「損失」を意味しているのではないこと
に注意が必要。黒字(赤字)は過剰(過小)を意味しているに過ぎないのです。
用語の解説:「財務省 用語の解説」より
経常収支
貿易・サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支の合計。
金融収支に計上される取引以外の、居住者・非居住者間で債権・債務の移動を伴う全ての取
引の収支状況を示す。
貿易・サービス収支
貿易収支及びサービス収支の合計。実体取引に伴う収支状況を示す。
貿易収支
財貨(物)の輸出入の収支を示す。
国内居住者と外国人(非居住者)との間のモノ(財貨)の取引(輸出入)を計上する。
サービス収支
サービス取引の収支を示す。
(サービス収支の主な項目)
輸送:国際貨物、旅客運賃の受取・支払
旅行:訪日外国人旅行者・日本人海外旅行者の宿泊費、飲食費等の受取・支払
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金融:証券売買等に係る手数料等の受取・支払
知的財産権等使用料:特許権、著作権等の使用料の受取・支払
第一次所得収支
対外金融債権・債務から生じる利子・配当金等の収支状況を示す。
(第一次所得収支の主な項目)
直接投資収益:親会社と子会社との間の配当金・利子等の受取・支払
証券投資収益:株式配当金及び債券利子の受取・支払
その他投資収益:貸付・借入、預金等に係る利子の受取・支払
第二次所得収支
居住者と非居住者との間の対価を伴わない資産の提供に係る収支状況を示す。官民の無償
資金協力、寄付、贈与の受払等を計上する。
資本移転等収支
対価の受領を伴わない固定資産の提供、債務免除のほか、非生産・非金融資産の取得処分等
の収支状況を示す。
金融収支
直接投資、証券投資、金融派生商品、その他投資及び外貨準備の合計。
金融資産にかかる居住者と非居住者間の債権・債務の移動を伴う取引の収支状況を示す。
2.国際収支の均衡式
国際収支の均衡式は、以下のように定義されています。
国際収支の均衡式=経常収支+資本移転等収支ー金融収支+誤差脱漏=0
経常収支=貿易・サービス収支+所得収支(第一次所得収支+第二次所得収支)
今、理解を容易にするために、より簡素化した世界を考えます。まず、資本移転等収支 金
融収支=資本収支+外貨準備高の増減であり、さらに、外貨準備高の増減も広義の資本収支
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と考えることができるので、以下の関係式となります。
経常収支+資本収支=0
資本収支とは、一定期間の国際収支のうち、投資や海外からの借入による資産と負債の収支
のことを意味しています。
例えば、日本企業が米国株や米国債を購入することや、日本政府が日本銀行を通じて円高阻
止の為替介入をする(円売り・ドル買い介入)等の行為は、資本収支の赤字(マイナス・流
出)を意味します。逆に、外国からの日本株や日本国債への投資は、資本収支の黒字(プラ
ズ・流入)を意味します。
国際収支統計では、複式計上で計算されるので、モノやサービスのやり取りに伴うお金の移
動は、流動資産の移動と定義的に常に同額にならざる得ないことを意味しています。
したがって、
経常収支+資本収支=0
という関係式は、経常収支が黒字ということは、資本収支が赤字ということを意味しており、
貿易で稼いだお金を海外で運用している状況と考えて良いでしょう。
しかし、経常収支は、貿易収支とサービス収支と所得収支を合わせたものなので、経常収支
が黒字だからと言って、必ずしも貿易収支が黒字とは限りません。
日本もそうでしたが、一般的に、経済が成⾧期の時は貿易収支が黒字で、資本収支が赤字と
なっています。これは積極的に海外投資を行っている状態。その後、経常収支の黒字が累積
されると経済成⾧に合わせて通貨高になり、さらには海外市場での製品の質も差別化が難
しくなり、貿易黒字が減少して、いずれは貿易赤字に陥ります。その際、サービス収支が著
しく黒字でない時に、日本の経常収支が依然として黒字であるならば、日本の所得収支が黒
字であることを意味しており、日本が貿易で稼ぐよりもむしろ投資で稼いでいるというこ
とを示しています。
以上のように捉えると、貿易収支の赤字が増え、所得収支の黒字が増加している日本のよう
な国は、経済が成熟化をしつつあると考えることができます。
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日本経済の成熟度
出所:財務省、日本銀行のデータより Shortman が作成
経常収支黒字国は、対外純資産が黒字で、通常は、純債権国(純債務国)と呼ばれます。こ
うした国の通貨は通貨高を招く傾向にあります。
出所:財務省「為替相場の推移 主要国の対外純資産 - 財務省」
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この表からもわかるように、経常収支黒字国の対外純資産がプラスで、経常収支赤字国の対
外純資産がマイナス(純債務国)であることがわかります。
こうした純債権国(対外純資産が豊富な)の通貨は、有事の際に比較的買われ易い傾向にあ
ります。
最後に参考まで貿易収支(季節調整済)とドル円の関係を示しておきます。
貿易収支とドル円
出所:財務省、日本銀行のデータより Shortman が作成
昨年 8 月から円安に動き出しており、少し相関関係が崩れ出しているのですが、貿易収支
の動きとドル円の値動きのタイムラグは、1 年~1 年半とか言われております。
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