特集 地域活性化の推進−交流と連携による未来の地域づくりに向けて− 人が主役のまちづくりについて すが わら しん や 菅 原 真 也* 神戸市は、阪神・淡路大震災から20年を経過し新たなステージに歩み始めた。まちの魅力はそこに集う 人が創るという考えのもと、 「居心地の良さ」を軸に、訪れ、働き、住みたくなるまち、そして発展し続 けるまちとして、神戸の都心や三宮周辺地区の将来像を示し、その実現に向けて、官民が協働で各種施策 や取組みを進めている。 1.はじめに 神戸は阪神・淡路大震災で市全体が被災し、市民 と行政が協力して復興を成し遂げてきた。しかし、 生を進めるために、「神戸らしさ」とは何かを模索 してきた。 その過程を経て、神戸独自に「人が主役のまち」、 まちを元どおりの姿に戻していくということに力点 人の目線に立った「居心地が良いまち」を創ってい を置いてきたため、都心部は長く変わっていない状 くというコンセプトを掲げた。 態となっている。 この課題に対し、これまでのまちづくりの歩みを 3.神戸の都心の未来の姿[将来ビジョン] 前提にしながらも、新しい発想で「神戸らしい都心 神戸の都心の将来像を表現する柱として①心地良 の姿」を議論し、大きな方向性を示すものとして神 いデザイン、②出会い、イノベーション、そして文 戸の都心の未来の姿[将来ビジョン] (以下、「将 化、③しなやかで強いインフラの3つを立てている。 来ビジョン」という)と、三宮周辺地区の『再整備 ⑴ 心地良いデザイン 基本構想』 (以下、「再整備基本構想」という)を策 定した。 2.策定過程と「神戸らしさ」 神戸独自の海と山が身近に感じられるコンパクトな 都心とその中にモザイク状に広がる特色あるエリア、 これらが特色を際立たせながら調和していることに加 え、景観のつくりこみや情報の提供により誰もが心地 策定にあたっては、多くの方の意見や想いをいか 良く過ごし、働き、活動できる都心を表現している。 に盛り込めるのかを意識し、骨格やたたき台を作る 例えば、図−1のように、まちなかに「景観デザ 前に、まずは市民から都心の良いところ、良くない ところ、未来への提案などを募集するところからス タートした。 次に、神戸の未来を考えるイベントとして7歳か ら89歳 ま で が 参 加 し た300人 規 模 の ワ ー ル ド カ フェを開催し、 「神戸らしさ、神戸の強み」につい て意見をいただいた。また、市民が市長と直接対話 するフォーラム、市民が有識者等と行う意見交換を 行うシンポジウムなどを開催し、戦略的に都心の再 図−1 景観デザインコード *神戸市 住宅都市局 計画部 都心三宮再整備課 都心企画係長 078-331-8181 月刊建設16−11 19 インコード」を設定し、まちなみを美しく調和した 化するうえで不可欠であり、民間活力の導入を図り ものに誘導していくなど、人を主役にした神戸らし ながら、魅力的で風格ある都市空間を実現すべく、 い景観と、それを感じながら歩いて楽しむまちを実 事業化を見据えたより具体的な検討を行う。 現していく。また、都心にある公園や広場をうまく 特に三宮駅前の空間に対して、神戸の象徴となる 利活用し、たくさんの人が楽しめるような場として 新しい駅前空間「えき≈まち空間」の創出と、それ にぎわいづくりに取り組んでいく。 を中心とした地区全体の魅力向上を目指す。6つあ ⑵ 出会い、イノベーション、そして文化 る鉄道駅が散在し、乗り換えがわかりにくいと言わ 神戸の特色であり、また魅力もある進取の気性を れている三宮駅前において、6つの駅で大きな1つ 活かし、多様な文化と新しい気風を取り入れながら、 の広場を共有し、あたかも1つの大きな駅のように 個性豊かな人やまちが育ち、さまざまな人々が交流・ 利用できるようにする。それが「えき≈まち空間」 融合することで技術革新や新産業の創出が起こるこ である。 とを表現している。 ⑴ 三宮クロススクエア 起業家の初期活動を支えるスタートアップオフィ 「えき≈まち空間」を実現するための骨格となる スの開設や企業や大学との連携・交流拠点の整備、 ものが、南北幹線のフラワーロードと東西幹線の中 都心部での地産地消のライフスタイル化を目指す 央幹線からなる三宮駅前交差点を、人と公共交通優 ファーマーズマーケットの開催などに取り組んでいく。 先の空間として整備する「三宮クロススクエア(図− ⑶ しなやかで強いインフラ 2)」である。写真−1のように現在最大10車線あ 阪神・淡路大震災を経験した神戸市として、復興 る車道を減少させ、人と公共交通を優先させた快適 の過程で培われてきた防災力や、環境負荷の小さい で安全な空間(図−3)に変えていく構想である。 エネルギーシステム、そして誰もが動きやすく人に 地上部分を歩行者が自由に往来し、散在する鉄道駅 やさしい交通体系を備えることを表現している。 にも容易にアクセスでき、また、にぎわいの中で誰 具体的な取組みとしては、緊急時に自動販売機や もが気軽に過ごせる場所に創りこんでいく。 電話ボックスを利用して多言語で情報発信できる インフラの整備や、ビル間で電気や熱を融通するシ ステムの導入、そして交通体系としてLRTやパー ソナルモビリティなどの新たな交通手段やゾーン内 均一料金制度などの導入を検討していく。 4.三宮周辺地区の『再整備基本構想』 神戸の玄関口である三宮周辺地区については、そ の波及効果の高さから神戸のまちや経済全体を活性 図−2 三宮クロススクエア ➡ 写真−1 現在の三宮交差点 20 月刊建設16−11 図−3 三宮クロススクエア整備後イメージ この空間を中心に、神戸らしい景観とにぎわいの ある神戸の新しい玄関口を創出していく。三宮クロ 5.最近の動向 将来ビジョンと再整備基本構想の策定後、動き出 ススクエアの実現に向けては、現在の通過交通を外 した事業を紹介する。 周道路へ誘導するための道路体系の見直しや新たな ⑴ 東遊園地の芝生化実験とにぎわい創出 交通手段の導入を検討、交通弱者や荷捌きにも配慮 しながら、段階的に整備を進めていく。 平成28年6月から神戸市役所の南に位置する東 遊園地のグラウンド部分を芝生化する実験と広場を 三宮駅前交差点以外の道路においても、積極的に 活用した公園の魅力を高めるプログラムの展開をス 歩道拡幅するなど道路空間を人優先に再配分し、安 タートした。都心の貴重なオープンスペースである 全で快適な歩行者環境を各所で創出していくことで、 東遊園地が写真−2のように憩いの場となり、都心 歩くことが楽しく巡りたくなるような居心地のよい 活性化や回遊性向上の拠点としての役割を担うこと まちを目指す。 が期待される。 ⑵ 新バスターミナルの整備 ⑵ 阪急三宮ビル東館建替え 心地よい人の移動の大きな妨げになっているひと 民間の動きとしては、平成28年4月に阪急電鉄 つの要因は、散在して分かりにくい中長距離バスの が阪急三宮ビル東館を将来ビジョンや再整備基本構 乗降場と駅前広場機能の脆弱さである。図−4のよ 想をふまえる形で建て替える計画を発表した。駅の うに現在ミント神戸の下に整備されている三宮バス 整備を一体的に行うことで、駅間の乗り換え利便性 ターミナルと一体運用ができるように、隣接するエ の向上や公共的空間の創出が実現される。 リアに、中長距離バスの乗降場を集約した新たなバ ⑶ エリアマネジメント スターミナル(図−5)を整備することで、誰にで 「地域がまちを成長させる」ことを目指し、地元 もわかりやすい交通結節点を目指す。また、市内を 協議会と連携したエリアマネジメントによる特色あ 巡る路線バスは三宮クロススクエアの路上で集約し るまちづくりの実践として、東遊園地において「神 ていく予定である。 戸ホワイトディナー」や「アーバンピクニック」な ど、市民活動として公園を有効に活用する取組みが 行われている。 図−4 集約イメージ 写真−2 芝生化された東遊園地 6.おわりに 将来ビジョンと再整備基本構想は、目指すべき姿 や取組みの方向性を示したものであり、事業が決定 しているものではない。官民共に、既に動き始めた 事業があるが、今後さらに、目に見える形で加速度 的に、「人が主役となる」魅力的な神戸のまちの実 図−5 新バスターミナル乗降場イメージ 現に向けて、官民が協働して取組みを進めていく。 月刊建設16−11 21
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