特集 公共工事の品質確保と入札契約の適正化 若手技術者の育成と技術者の処遇改善を促す評価制度について たに がわ てつ や 谷 川 哲 也* 平成26年6月に公布された改正品確法の基本理念の一つとして、公共工事の品質確保の担い手の中長期 的な育成・確保の促進が示されたところである。 国土交通省中国地方整備局港湾空港部では、担い手の中長期的な確保、育成と技術者の処遇改善を促す ための総合評価落札方式の試行に取り組んでおり、その内容について紹介する。 1.はじめに 平成26年6月に公布された改正品確法は、これ までの公共工事の品質確保に加え、新たに中長期的 すくなり施工実績を積める総合評価落札方式の試 行工事である。 ②総合評価の仕組み な担い手の確保・育成の促進について示された。 また、国は発注者を支援するため、「発注関係事 務の適切な実施に係る制度の運用に関する指針」 (以 下、 「運用指針」という)を定めることが規定された。 その運用指針では、担い手の育成・確保のための 総合評価として、 ① 豊富な実績を有していない若手や女性などの技 術者の登用を考慮 ② 企業の地域精通度や技能労働者等(登録基幹技 能者)を評価 について取り組むこととされた。 本稿では、平成28年度から取り組んでいる担い 手の中長期的な確保・育成と技術者の処遇改善を促 すための総合評価落札方式の試行等について概要を 紹介する。 2.担い手の中長期的な確保・育成 要 件 【若手技術者】 ①審査基準日(申請書の提出期限日)において 満40歳以下のもの。 ②主任(監理)技術者となりうる資格を有して いること。 ③同種工事の施工実績は不要。 ④主任(監理)技術者として現場に専任配置す ること。 【専任補助者】 ①主任(監理)技術者となりうる資格並びに同 種工事の施工実績を有していること。 ②主任(監理)技術者を専任で配置すべき期間 と同じ期間を専任配置し、若手技術者を補助 すること。なお、専任補助者は、現場代理人 との兼務が可能。 ⑴ 若手技術者育成型の試行 ①概 要 現場経験が少ないことで主任(監理)技術者に 登用されにくい若手技術者の育成、技術力向上を 目指し、経験豊富な専任補助者を配置することで 若手技術者を主任(監理)技術者として登用しや *国土交通省 中国地方整備局 港湾空港部 品質確保室長 082-511-3927 月刊建設16−10 23 若手技術者の配置を予定した場合の評価 ①施工能力評価の企業の能力に加算点を付与する。 評価対象期間の初日 技術提案評価型 1点/企業の能力等の合 審査基準日 (若しくは、年度末) 実績を求める期間【基本】 (評価対象期間(○○年間) ) 計10点 産休育休を取得した期間 施工能力評価型 2点/企業の能力等の合 計20点 契約 ②施工能力評価の技術者の能力は専任補助者を 評価対象期間に加える 対象とする。 図−1 産休・育休期間を補完する措置 実施状況 本試行工事の仕組みは、平成28年度4月よ り公告した案件で実施しており、8月末現在ま での若手技術者配置の申請割合の実績は30% となっている。 3.技術者の処遇改善 ⑴ 技術者地域精通度の評価 ①概 要 地域に精通した技術者を配置することによる工 事の円滑な実施と品質向上を目的として、当該エ リア(同一県内)での一定期間における工事実績 を評価し加点する。この評価によって、配置予定 ⑵ 女性技術者が活躍できる取組み 女性技術者の活躍を後押しする取組みも始めてお 技術者の転勤が減少することで技術者の処遇の改 善に繋がる利点がある。 り、女性技術者を配置する際、女性が現場で働くた めに必要となるトイレなどの施設の整備について、 ②総合評価の仕組み 協議により設計変更し、費用として計上できるよう な取組みも試行的に行っている。 地域精通度の評価 また、入札契約時の競争参加資格要件等において、 ①技術提案評価型を対象に施工能力評価の技術 男女問わず育児休業を取得しやすい環境整備を整え、 者の能力として、当該エリア(同一県内)に 女性の就業率向上や継続就業を支援するため、産休・ おける過去2年間の工事実績について加算点 育休期間に相当する期間を評価対象期間に加える措 を付与する。 置を実施している。この産休・育休期間を補完する 措置のイメージを図-1に示す。 今後は、女性技術者の積極的登用や将来の担い手 a)2件以上の工事で監理(主任)技術者あ るいは現場代理人として従事した実績を有 する。 の育成・確保に繋がる総合評価の取組みを進めてい 2.0点/技術者の能力等の合計10点 く予定である。 b)1件以上の工事で監理(主任)技術者あ るいは現場代理人として従事した実績。ま たは、2件以上の工事で担当技術者として 従事した実績を有する。 1.0点/技術者の能力等の合計10点 24 月刊建設16−10 実施状況 ③休日確保方針提案型の総合評価の仕組み 本評価の仕組みは、平成28年度4月より公 施工能力評価型を適用する工事において、入札 告した案件で実施しており、8月末現在までの 契約時に技術者(元請)・技能者(下請)に休日 地域精通度を評価する申請割合の実績は35% 取得のための取組み方針の施工計画書を提出させ、 となっている。 履行義務を課す。なお、休日方法は、1)完全週 休2日、2)週休2日、3)4週8休のいずれか を選択する。その提案が総合評価において評価さ ⑵ 休日確保方針提案型の試行 ①概 要 建設業界では、若手入職者の減少や若手技術者 の離職が問題となっており、港湾工事においても 同様の状況である。その理由の中で休日が少ない、 れて受注した場合は、提案した休日取得計画の履 行義務を負うことになる。仮に受注者の都合によ り提案した休日が確保できなかった場合は、工事 成績評定を減点する。 不規則との意見が少なくない。このような労働環 4.品確法及び運用指針を踏まえた今後の方向性 境の健全化を目指し、港湾工事におけるWLB 改正品確法で新たに目的に加えられた「現在及び (ワークライフバランス)の推進の一つの方策と 将来の公共工事の品質確保」「担い手の中長期的な して、総合評価落札方式の中で休日確保に取り 育成及び確保」のためには、計画・調査・設計から 組んでいる。 工事完了、さらには維持管理までの一連の建設生産 システムが効果的に運用されることはもちろん、関 ②港湾工事におけるWLB(ワークライフバラン 係する業界が技術を高め、社会的評価を高め、併せ ス)の推進 て就労環境や処遇が改善されることなどにより、よ Ⅰ.工程提示型 ⇨ 発注者が想定する標準工 程を提示 Ⅱ.荒天リスク精算型 ⇨ 天候等のリスクを り魅力あるものとなっていくことが必要である。 そのために、今後も将来にわたる公共工事の品質 確保や建設現場の生産性向上(平準化、ICT技術、 発注者も負担することで技術者等への過度な 若手・女性の活躍の推進)、社会情勢、建設産業の 負担を軽減 動向等に対応しつつ、さらに業界の魅力向上に繋が Ⅲ.休日確保方針提案型 ⇨ 次項に総合評価 落札方式の仕組みを説明 る総合評価制度の見直し等を図る必要がある。 また、国と港湾管理者、調査・設計会社、元請・ 下請施工業者、港湾関連業者などがそれぞれ抱える 参考:休日取得の定義 ①完全週休2日は、土日・祝日など、カレンダー 課題を共有し、解決に向けて一体となって取り組ん でいくことが重要である。 の休日どおりに確実に取得すること。 ②週休2日は、土日・祝日などの休日取得を基 本としつつ、やむを得ず休日出勤した場合に は、1週間以内に代休を確実に取得すること。 ③4週8休は、土日・祝日などの休日取得を基 本としつつ、やむを得ず休日出勤した場合に は、4週間以内にトータル8日間の休日を取 得すること。 月刊建設16−10 25
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