長野県で実施している 総合評価落札方式について

特集 公共工事の品質確保と入札契約の適正化 長野県で実施している
総合評価落札方式について
にし
やま
こう
いち
西 山 広 一*
長野県では、一昨年に「長野県の契約に関する条例」が制定された。これらを踏まえ、建設業の経営安
定と労働環境の整備に関する取組みを発注者側、受注者側一体となって進めている。この取組みの一部で
ある総合評価落札方式等について紹介する。
1.はじめに
⑴ 3つの理念
県が締結する契約に対しては、これまで透明性、
⃝
納税者が求める4つの条件が満たされる入札制度
公平性の確保と品質の確保を求めてきた。このこと
(透明性、競争性、客観性、公正・公平)
に加え、近年は、長期的に良質なサービスの提供、
⃝いい仕事をする業者が報われる入札制度
地域を支える事業者や担い手の育成、また、労働賃
⃝公務員の意識改革を促す入札制度
金の適正な支払いなどの労働環境の整備、環境への
⑵ 5つの柱
配慮や男女共同参画社会の推進などの取組みが求め
⃝談合のしにくい入札制度への改革
られるなど、社会的要請が多様化してきた。
⃝民間能力、民意が反映する入札制度への改革
このようななか、本県では、平成26年4月に施
⃝競争性の確保と不当廉売防止、工事品質の確保
行した「長野県の契約に関する条例」により、建設
との両立
工事の入札契約では、建設工事において若手技術者
⃝競争性の確保と受注機会の確保との両立
を評価する総合評価落札方式等を実施しているほか、
⃝競争性の確保と行政効率の向上との両立
本年度は、新たに建設工事における適正な労働賃金
これらの3つの理念と5つの柱により、本県では、
を評価する総合評価落札方式等の実施を予定してい
随時、入札制度の見直しを行ってきている。
る。本稿では、これら本県で行っている総合評価落
札方式等について紹介する。
2.これまでの経過
しかしながら、前述したように、これまでの透明
性、公平性の確保に加え、近年は、事業者や担い手
の育成、労働環境の整備など、社会的要請が多様化
してきた。このため県が契約に関する基本方針に
本県では、建設工事等において平成14年度に指
沿って、長期的・統一的に取り組んでいくことが重
名競争入札を廃止し、制限付一般競争入札である受
要であることから新たに「長野県の契約に関する条
注希望型競争入札を導入したが、当初は、低額入札
例」が制定された。条例の基本理念等は表−1のと
が多発するなどの課題が発生した。このため外部の
おりである。この理念を具体化するため、「契約に
有識者からなる長野県公共工事入札等適正化委員会
関する取組方針」を策定し、現在は、この取組方針
より、以下の入札制度改革の3つの理念と5つの柱
に定められた契約の締結方法や履行確保の方法等を
が示された。
実施するため、学識経験者等を委員とした、長野県
契約審議会(以下、「契約審議会」という)に諮り
*長野県 建設部 建設政策課 技術管理室 副主任専門指導員 026-232-0111
月刊建設16−10
29
表-1 基本理念
項目
内容
効果(行政目的)
契約の過程及び内容の透 地域経済の健全
契約の適正化
明性の確保 ほか
な発展
適正な履行が通常見込ま 安全かつ良質な
総合的に優れ
れない契約金額による契 サービスの提供
た契約の締結
約の締結の防止 ほか
・地域における雇用の確保 持続可能で活力
契約内容への ・県 民 の 安 全・ 安 心 の た ある地域社会の
配慮
めに活動する事業者の 実現
育成 ほか
契約の相手方 労働者の適正な賃金水準 社会的責任を果
の社会貢献活 などの労働環境の整備 たす事業者の育
動への配慮
ほか
成
ながら、条例の基本理念の実現を目指している。
が確保できる取組み等
③現場での取組み
・事故防止、機械化施工等
これらの実現を図るためのひとつの手段として、
総合評価落札方式などを活用していくこととして
いる。
4.多様な入札制度の採用
(総合評価落札方式)
本県では、平成17年1月から建設工事において
総合評価落札方式の試行を行い、平成20年4月か
現在、運用している入札制度は、制限付き一般競
ら本格実施している。平成27年度では、工事、委
争入札である受注希望型競争入札の他、入札価格と
託業務それぞれで発注件数の2割について総合評価
価格以外の評価により、総合的に優れた者を落札者
落札方式を適用している(表-2)。
とする総合評価落札方式(技術提案型・技術提案Ⅱ
型
(施工方法や新技術などの技術提案を求める方式)、
工事成績等簡易型(工事成績や技術者資格などによ
り評価)
)
、小規模な企業の受注機会の確保を目的と
した参加希望型競争入札等があり、これらの改定に
ついても契約審議会等の意見を聴きながら進めてき
ている。
3.建設業の経営安定と労働環境の整備を一
体的に進める取組みについて
表-2 総合評価落札方式の実施状況
平成 27 年度
工事
委託
総合評価落札方式(A)
392 件
211 件
長野県発注案件数(B)
1,916 件
1,088 件
実施率(A/B)
20.5%
19.4%
総合評価落札方式は、価格だけでなく、その他の
条件を加味し最も有利な者と契約する入札方式であ
り、実際に昨年度は、約4割の案件で逆転現象(価
格点2位以下の者が、総合評価点で逆転し落札者と
なった)が発生した。価格点のみでなくさまざまな
建設業の現状としては、公共投資の減少により過
価格点以外の評価項目を盛り込むことにより、工事
度な価格競争、他産業より低い建設業労働者年収、
の品質等の確保だけでなく、企業の社会貢献や労働
入職者の減少、高齢化等がある一方、激化する集中
環境の整備が進むこととなる。
豪雨や豪雪などへの災害対応、インフラの老朽化へ
ここでは、最近実施した、また実施を予定してい
の対応、社会状況に対応した社会資本の整備など、
る評価項目について紹介する。
建設業への重要性は増している。
⑴ 若手技術者を評価する総合評価落札方式
将来にわたり地域の安全・安心を支える担い手で
昨年度から実施している取組みで、主任技術者と
ある企業と労働者の育成・確保が重要であり、これ
して、若手技術者を配置することを評価する総合評
らの課題を解決していくため、発注者側、受注者側
価落札方式を実施している。
が別々に行動するのではなく、連携し、さまざまな
通常は、技術者要件として、配置される主任技術
施策に一体的に、また総合的に取組む必要がある。
者の実績(工事成績や表彰履歴)を評価するため、
取り組む施策としては、下記の①〜③の3つを上
実績のない若手技術者は配置できないこととなって
げている。
30
・社会保険の加入促進、労働時間短縮、週休2日
しまう。そのため、実績のない若手技術者(40歳
①経営安定への取組み
未満)を主任技術者に配置し併せて、経験豊富な現
・適正な利潤の確保、予定価格の適正な設定等
場代理人を配置した場合、現場代理人が主任技術者
②労働環境の整備
として担当した実績(工事成績等)で評価すること
月刊建設16−10
ができることとした。竣工時の工事成績点は、主任
デル工事を36現場で実施し、今年度も80現場で実
技術者、現場代理人ともに付与していく。これによ
施する予定である。これらの施策を通じ、建設業の
り若手技術者の技術力向上とともに若手技術者の実
週休2日が拡がることに繋がればと考えている。
績の確保につなげていくことを期待している。
⑸ 適正な労働賃金の支払を評価する総合評価落札
⑵ 災害時の緊急体制を整えている企業を評価する
方式
総合評価落札方式
建設業は他の産業と比べ年収が低い状況にある。
災害時に専門的知識を有する者の緊急活動は、早
建設労働者の適正な賃金を確保するため、総合評価
期の災害復旧に大きく寄与しており、その重要性も
落札方式において、建設工事における適正な労働賃
増している。
金を評価する取組みを今年度行っていく。これは、
被災状況調査などの緊急活動に協力する体制を整
入札時に下請次数の制限や、全下請人の標準見積書
えている企業を総合評価落札方式で加点することに
の提出、また受注者を含む労務費の総額が設計労務
より、被災状況調査などの緊急活動への参加につい
費の87.5%以上などの内容を誓約した応札者に総
て企業の理解が一層進み、社員が参加しやすい労働
合評価における価格以外点について、加点評価を行
環境が整備され、二次災害防止や災害復旧活動に向
うものである。誓約内容の不実施などの場合は、工
けた調査が迅速に行われ、被災箇所の早期の復旧に
事成績点での減点を行っていく。これにより、下請
つながることを期待している。
労働者を含め適正な労働賃金の支払を確保すること
⑶ 総合評価落札方式における技術者の育休等の取
を目指していく。発注者が契約金額等を確認するこ
得に係る評価対象期間
とにより、下請においても適正な労働賃金の確保が
若手技術者とともに、女性技術者の確保、働きや
すい職場とすることも重要である。女性技術者は、
実績を積んでも、産休・育休により総合評価落札方
図れればと考えている。
5.おわりに
式で評価する項目の対象期間が過ぎてしまう場合が
本県では、平成26年の豪雪をはじめ、豪雨や地
想定される。そのため、工事成績、優良技術者表彰
震など多くの自然災害に見舞われ、その都度、建設
に関し、産休・育休期間を評価対象期間に加えて評
企業の活躍により迅速な災害対応が行われ、地域の
価できるものとした。このことにより仕事と子育て
安全安心を支える担い手としての重要性を改めて認
を両立する技術者を支援していくと同時に会社の産
識したところである。
休・育休への理解が進むことを期待している。
そのため、こうした企業と労働者の育成・確保に
⑷ 週休2日の確保を評価する総合評価落札方式
は、行政と企業が一体となって取り組む必要があり、
労働環境の整備として、建設業における週休2日
の取得を推進している。建設業は、他の業種に比べ
週休2日の実施率が低い状況にあり、若手入職者を
とりわけ建設業の経営安定と労働環境の整備は急務
であると考えている。
建設業の週休2日、適正な労働賃金の確保などは、
雇用できない一つの大きな原因と考えられ、担い手
若手の入職者を増やすうえでは必要不可欠である。
確保として週休2日は欠かせない。このため週休2
そのための適正な利潤の確保、適正な予定価格の設
日の確保を評価する総合評価落札方式を平成28年
定、計画的な発注、適切な工期設定など課題は山積
10月から試行する予定である。これは、あらかじ
している。長野県では、「地域を支える建設業」検
め資格審査時に概略工程表を提出していただき、週
討会議などを通じ、建設業協会と意志疎通を図って
休2日の確保に加点していくものである。竣工時に、
いるところであり、今後も行政と建設業界が一体と
休日数の確認を行い、実施できていない場合につい
なって課題を解決していく必要があると考えている。
ては、工事成績点の減点をしていく。
この他、平成27年度に、週休2日を確保するモ
月刊建設16−10
31