FRB 銀行上級貸出担当者調査(2017 年 1 月)

米国経済
2017 年 2 月 16 日
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FRB 銀行上級貸出担当者調査(2017 年 1 月)
商業用不動産ローンの貸出基準の厳格化が続き、需要が減少
ニューヨークリサーチセンター
上野 まな美
エコノミスト 橋本 政彦
[要約]

2017 年 1 月の調査によると、企業向けローンにおいては、商工ローンの貸出基準は基
本的に変わらなかったが、
商業用不動産ローンの貸出基準は厳格化された。借入需要は、
商工ローンの大・中堅企業向け、中小企業向けともにほとんど変わりがなかった。商業
用不動産の借入需要は、建設及び土地開発ローンと、集合住宅物件ローンの需要が減少
したとの回答があった。

家計向けローンにおいては、住宅ローンの全分野で貸出基準がほとんど変わらなかった
ものの、消費者ローンのうち、自動車ローンやクレジットカードローンの貸出基準を厳
格化した銀行があった。借入需要は、住宅ローンの大半の分野で減少した。消費者ロー
ンにおいても全般的に減少し、特に自動車ローンとクレジットカードローンの需要の減
少が大きかった。
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FRB(連邦準備制度理事会)の 2017 年 1 月の銀行上級貸出担当者調査(Senior Loan Officer
Opinion Survey on Bank Lending Practices)は、2016 年 10 月から 12 月の 3 ヵ月間における
銀行の企業向け及び家計向けローンの貸出基準、貸出条件、借入需要の変化に関する調査であ
る。同調査では、米国銀行 70 行と、米国に支店を持つ外国の大手銀行 23 行が対象になった。
企業向けローンに関しては、商工ローンに対する貸出基準が基本的に変わらなかったものの、
商業用不動産ローンに対する貸出基準は厳格化された。商工ローンの借入需要は、大・中堅企
業向け、中小企業向けともに、ほとんど変わりがなかったが、商工ローンの貸出限度に関する
問い合わせが増えたとの回答があった。また、商業用不動産の借入需要は、建設及び土地開発
ローンと、集合住宅物件ローンの需要が減少したとの回答があった一方で、非農業用・非住宅
用不動産物件ローンの需要は、基本的に変わりがなかった。
家計向けローンは、住宅ローンの全分野において貸出基準がほとんど変わらなかったが、借
入需要は大半の分野で減少した。消費者ローンに関しては、自動車ローンやクレジットカード
ローンにおいて貸出基準が厳格化された。借入需要は全般的に減少し、特に自動車ローンとク
レジットカードローンの需要の減少が大きかった。
今回の特別調査は、①2017 年における貸出方針の見通し、②償却及び滞納から判断した資産
の質の見通しの 2 点につき行われた。それによると、企業向けローンのうち、商工ローンは 2017
年に貸出基準を緩和するとの回答があったが、商業用不動産ローンの貸出基準は厳格化すると
の見方が多かった。家計向けローンは、住宅ローンの政府支援機関(Government-Sponsored
Enterprise:GSE)適格住宅ローンや非適格なジャンボ住宅ローンなどにおいて 2017 年に貸出
基準が緩和されるが、サブプライム住宅ローンの貸出基準はほとんど変わらないことが予測さ
れている。消費者ローンでは、自動車ローンの貸出基準が 2017 年に厳格化されるが、クレジッ
トカードローンの貸出基準は基本的に変わらないものとみられる。
②資産の質の見通しについては、企業向けローンのうち、商工ローンでは 2017 年に幾分改善
することが予測される。商業用不動産ローンにおいては、建設及び土地開発ローンと、非農業
用・非住宅用不動産物件ローンの資産の質は変わらないものの、集合住宅物件ローンでは悪化
するものとみられる。また、家計向けローンの住宅ローンでは、非適格なジャンボ住宅ローン
やサブプライム住宅ローンの資産の質が 2017 年にある程度改善することが予測されるが、GSE
適格住宅ローンやホーム・エクイティ・クレジットライン(Home Equity Lines of Credit:HELOC)
ではほとんど変わらないものとみられる。そして、消費者ローンでは、自動車ローンとクレジ
ットカードローンの両方において 2017 年に資産の質が多少悪化するであろうとの回答があった。
3/7
商工ローン
商工ローンの貸出基準は、米国銀行においては大・中堅企業向け、中小企業向けともに基本
的に変わりがなかった。大・中堅企業向けの商工ローンの貸出条件に関しては回答が様々であ
り、貸出限度を引き上げた銀行があったほか、貸出条項を緩和し、資金調達コストに対する貸
出金利のスプレッドを縮小した銀行も若干あった。他の貸出条件は基本的に変わりがなかった。
中小企業向けの貸出条件も様々であり、貸出限度を引き上げ、資金調達コストに対する貸出金
利のスプレッドを縮小した銀行があったものの、その他の貸出条件はほぼ変わりがなかった。
商工ローンの貸出基準や貸出条件を厳格化した米国銀行の大半は、不確かな経済見通しを重
要な理由として挙げている。また、資本状況の悪化、業界特有の問題の悪化、リスク許容度の
低下、商工ローンの流通市場における流動性の低下、流動性ポジションの悪化、そして、法規
制の改正や監督上の処分、会計基準の変更に対する懸念増加も理由として挙げられた。反対に、
商工ローンの貸出基準や貸出条件を緩和したと回答した米国銀行の大半は、他の銀行やノンバ
ンクとの競争激化を主な理由としているほか、リスク許容度の上昇や、経済見通しの改善も理
由として挙げている。
商工ローンの借入需要は、大・中堅企業、中小企業からの需要ともにほとんど変わりがなか
ったが、貸出限度に関する問い合わせが増えたとの回答があった。商工ローンの借入需要が増
加したと回答した大半の米国銀行は、顧客の工場・設備投資の増加や M&A に対する資金ニーズ
の増加を重要な理由としている。その一方で、商工ローンの借入需要が減少したと回答した銀
行の大半は、顧客の工場・設備投資への投資減少、売掛債権の資金ニーズ低下、顧客の手元資
金の増加、M&A に対する資金ニーズの減少を主な理由として挙げている。
4/7
中小企業向け商工ローンの貸出基準及び借入需要
大・中堅企業向け商工ローンの貸出基準及び借入需要
(%)
100
(%)
100
(%)
80
80
60
貸出基準
貸出基準
80
借入需要(右軸)
60
増加
40
-60
-80
-80
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17
(年)
(注)大・中堅企業は年間売上高が5,000万ドル以上。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
貸出高
前年比(右軸)
0
-20
-20
-40
-40
-60
-60
-80
-80
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17
(年)
(注)中小企業は年間売上高が5,000万ドル未満。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
(%)
100
20
80
15
60
10
40
大・中堅企業向け
拡大
0
-5
-15
-20
-25
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17
(年)
中小企業向け
20
0
-20
縮小
-10
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
0
(%)
25
5
0
20
商工ローンの金利スプレッド
商工ローンの貸出高及び前年比(全商業銀行)
500
20
減少
-60
減少
緩和
-40
1,000
40
緩和
-20
-40
1,500
40
0
-20
2,000
60
20
0
(10億ドル)
2,500
借入需要(右軸)
増加
厳格化
60
厳
格 40
化
20
(%)
80
-40
-60
-80
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17
(年)
(注)大・中堅企業は年間売上高が5,000万ドル以上。中小企業は5,000万
ドル未満。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
5/7
商業用不動産ローン
商業用不動産ローンの全分野(建設及び土地開発、非農業用・非住宅用不動産物件、集合住
宅物件)において、総じて米国銀行は貸出基準を厳格化した。特に、建設及び土地開発ローン
や集合住宅物件ローンの貸出基準を厳格化した銀行が、非農業用・非住宅用不動産物件ローン
に比べて多かった。
商業用不動産の借入需要は、建設及び土地開発ローンと、集合住宅物件ローンの需要が減少
したとの回答があったものの、非農業用・非住宅用不動産物件ローンの需要は、基本的に変わ
らなかった。
商業用不動産ローンの貸出基準
(%)
100
商業用不動産ローンの借入需要
(%)
60
全商業用不動産
増加
非農業用・非住宅用
80
全商業用不動産
建設及び土地開発
建設及び土地開発
集合住宅
40
非農業用・非住宅用
集合住宅
20
60
厳
格 40
化
0
減少
20
-20
緩和
0
-40
-20
-60
-40
-80
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17
(年)
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17
(年)
(注)2013年第4四半期から3つに分類。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
(注)2013年第4四半期から3つに分類。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
商業用不動産ローンの貸出高及び前年比(全商業銀行)
商業用不動産価格の推移(前年比)
(10億ドル)
2,500
(%)
20
貸出高
(%)
30
前年比(右軸)
15
2,000
20
10
10
1,500
0
5
-10
1,000
0
500
-5
0
05
06
07
08
09
10
11
12
(注)2004年第2四半期以前のデータは未公表。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
13
14
15
16
-10
17
(年)
-20
FRB商業不動産価格指数
-30
Green Street Advisors商業
不動産価格指数
-40
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17
(年)
(出所)FRB, Green Street Advisors, Haver Analyticsより大和総研作成
6/7
住宅ローン
住宅ローンの貸出基準は、全分野(GSE 適格、政府、適格住宅ローン(Qualified Mortgage: QM)
非ジャンボ・GSE 非適格、QM ジャンボ、非 QM ジャンボ、非 QM 非ジャンボ、サブプライム)に
おいてほとんど変わらなかった。
住宅ローンの借入需要は、大半の分野で需要が減少した。特にサブプライム住宅ローンの需
要が減少したとの回答が目立ち、次いで非 QM 非ジャンボ住宅ローンの需要が減少したとの回答
が多かった。また、他のローンについても需要の減少が報告されている。一方、リボルビング
式 HELOC の申請承認に対する銀行の信用基準や借入需要は、ほとんど変わりがなかった。
住宅ローンの貸出基準
住宅ローンの借入需要
GSE適格
QM非ジャンボ・GSE非適格
非QMジャンボ
サブプライム
(%)
30
政府
QMジャンボ
非QM非ジャンボ
GSE適格
QM非ジャンボ・GSE非適格
非QMジャンボ
サブプライム
(%)
60
50
20
政府
QMジャンボ
非QM非ジャンボ
厳格化
40
30
増加
10
0
20
10
緩和
0
-10
減少
-10
-20
-20
-30
-30
-40
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
15
Q3
Q4
16
Q1
17
(注)2014年第4四半期から7つに分類。回答が3社以下の場合、データは未公表。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
Q2
Q3
15
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
16
Q1
17
(四半期)
(年)
(注)2014年第4四半期から7つに分類。回答が3社以下の場合、データは未公表。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
住宅価格の推移
住宅ローンの貸出高及び前年比(全商業銀行)
(10億ドル)
2,500
Q1
(四半期)
(年)
貸出高(四半期平均)
20
(1991年Q1=100)
250
(2000年1月=100)
210
前年比(右軸)
2,000
15
230
190
10
210
170
5
190
150
0
170
130
-5
150
1,500
1,000
FHFA住宅価格指数
500
0
-10
17
(年)
(注)2004年第2四半期以前のデータは未公表。ホームエクイティローンを
05
06
07
08
09
10
11
12
含む。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
13
14
15
16
ケース・シラー住宅価格指数
(20都市、右軸)
110
90
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17
(年)
(注)四半期平均。
(出所)FRB , Haver Analyticsより大和総研作成
130
7/7
消費者ローン
消費者ローンにおいては、自動車ローンやクレジットカードローンの貸出基準を厳格化した
銀行があったが、その他の消費者ローンに対する貸出基準や貸出意欲は基本的に変わらなかっ
た。消費者ローンの貸出条件の大半は変わりがなかったものの、クレジットカードローンとそ
の他の消費者ローンにおいて、資金調達コストに対する貸出金利のスプレッドを拡大した銀行
があった。また、自動車ローンの頭金を多く要求したり、クレジットカードローンや自動車ロ
ーンのクレジットスコアを満たさない顧客に対する承認条件を厳格化した銀行もあった。
消費者ローンの借入需要は全般的に減少した。特に自動車ローンとクレジットカードローン
の需要が減少したが、その他の消費者ローンの需要は基本的に変わらなかった。
消費者ローンの借入需要
消費者ローンの貸出基準
(%)
40
(%)
80
70
クレジットカード
クレジットカード以外
増加
60
50
消費者ローン全体
クレジットカード
30
自動車ローン
20
クレジットカード及び
自動車以外
10
40
-10
減少
厳格化
0
30
20
-20
10
-30
0
-40
緩和
-10
-50
-20
-60
-30
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17
(年)
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
消費者ローンの貸出意欲及び小売・飲食店売上前年比
(%)
40
30
家計の負債残高の構成(住宅ローンを除く)
(%)
消費者ローンの貸出意欲
15
(兆ドル)
1.4
学生ローン
小売・飲食店売上前年比(右軸)
強い
10
20
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17
(年)
(注)2011年第2四半期より、消費者ローンの分類別借入需要を公表。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
1.2
クレジットカード
1.0
10
5
0
自動車ローン
ホームエクイティローン
その他
0.8
-10
0
弱い
0.6
-20
-5
-30
0.4
-40
-10
0.2
-50
-60
-15
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17
(年)
(出所)FRB, Census, Haver Analyticsより大和総研作成
0.0
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17
(年)
(出所)NY連銀, Haver Analyticsより大和総研作成