教育支援センター(適応指導教室)等 充実方策検討委員会 報告書

教育支援センター(適応指導教室)等
充実方策検討委員会 報告書
平成 29 年2月
◆はじめに
不登校児童・生徒に対する支援については、これまでも都内公立小・中学校において、
区市町村教育委員会の支援を受けながら、家庭訪問、登校を促すための便り、電話連絡、
相談室・保健室等での別室指導など、管理職や担任を中心に熱心な取組が実施されてき
た。このような取組の結果、登校できるようになった児童・生徒も多数存在している。
加えて、学校教育法施行規則や国による関係通知に基づき、学校外の施設において相
談・指導を受け、在籍校への復帰に向けて懸命の努力を続けている児童・生徒の、その
努力を学校として評価し支援するため、教育支援センター(適応指導教室)(以下「教
育支援センター」という。)の設置・運営や指導要録上の出席扱いの変更等、様々な取
組がなされてきた。
また、都教育委員会においても、このような区市町村教育委員会や学校を支援するた
め、不登校対策として様々な取組を展開している(巻末参考資料「東京都教育委員会の
これまでの取組」52 ページ参照)
。
国による不登校に関する調査研究としては、学校不適応対策調査研究協力者会議の
平成4年3月報告「登校拒否(不登校)問題について」、不登校問題に関する調査研究
協力者会議の平成 15 年3月報告「今後の不登校への対応の在り方について」がある。
それぞれが示す取組の充実のための提言を受け、都内の区市町村教育委員会や学校で
は、日々、児童・生徒や保護者等と真摯に向き合い、たゆまぬ努力と工夫を繰り返しな
がら今日に至っている。
しかし、都内公立小・中学校の不登校児童・生徒数は、近年、増加傾向にあり、平成
27 年度には1万人を超える状況となっている。
「平成 27 年度東京都の児童・生徒の問題
行動等の実態について」によれば、東京都の公立小・中学校における不登校児童・生徒
数及び不登校の全児童・生徒に対する割合(出現率)は、不登校の定義が現在のものに
なった平成3年度以降、最高値となった。
少子高齢化や生産年齢人口の低下が叫ばれて久しい中、日本の将来を担う掛け替えの
ない存在である子供たちが、不登校により学力の向上のみならず、社会性を育む学習の
機会を十分に得られないことは、大きな社会問題であり、不登校児童・生徒を取り巻く
環境の改善は、喫緊の課題である。
こうした背景の下、平成 27 年度に都教育委員会が設置した「不登校・中途退学対策
検討委員会」により、今後の不登校・中途退学対策に関する取組の在り方について報告
された。
この中では、小・中学校における不登校児童・生徒の再チャレンジの場として教育支
援センターの充実の方向性が示され、充実・機能強化に向け、区市町村教育委員会と都
教育委員会とが、その在り方について協議をしていく必要があるとされている。
また、不登校児童・生徒への教育の場の一つの形態である、文部科学大臣認定の特別
な教育課程を編成して義務教育等を実施する学校(以下「不登校特例校」という。)の
取組が広がることへの期待が提言されている。
なお、不登校児童・生徒への支援については、文部科学省においても、不登校に関す
る調査研究協力者会議の最終報告(平成 28 年 7 月)に基づいて通知を発出し、また、
第 192 回国会(臨時会)では、
「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機
会の確保等に関する法律(以下「教育機会確保法」という。
)」が成立するなど、その対
応が国のレベルでも進められているところである。
こうした中で、本検討委員会は、平成 28 年5月に、区市町村教育委員会、公立学校、
学識経験者、心理、福祉、民間、私立学校の関係者をメンバーとして設置された。主な
検討テーマとしては、教育支援センターによる支援内容の充実に向けた基本的な考え方、
備えるべき機能、体制の在り方などを、また、不登校特例校について、その取組を広げ
るために課題となる事項の整理、実効性ある取組手法などを据えた。
この間、8回の会議を開催し、重ねてきた検討の結果を取りまとめたので、報告する。
Ⅰ
教育支援センター
第1
教育支援センターの現状と課題
1 教育支援センターの概要
2 児童・生徒、保護者に関する現状
(1)不登校児童・生徒数
(2)不登校になったきっかけと考えられる状況
(3)教育支援センターに登録している児童・生徒数
(4)教育支援センターに登録している児童・生徒の状況
(5)教育支援センターに登録している児童・生徒の保護者の状況
3 人員配置の状況
(1)職員
(2)専門家の配置状況
4 活動内容等
(1)指導内容の特徴
(2)指導形態及び指導時間
5 施設
(1)施設の所有
(2)施設面での課題
6 区市町村教育委員会で実施している支援
(1)学校との連携
(2)外部機関との連携
(3)保護者への対応
7 教育支援センターの機能充実に向けた必要な視点
(1)一人一人の児童・生徒の多様な課題に対応する
(2)児童・生徒が自ら選択する目標を見据える
(3)児童・生徒と保護者の状況に寄り添う
1
4
9
12
13
14
16
第2
1
2
3
4
5
不登校児童・生徒に必要な支援内容
ひきこもり状態の改善
アセスメントの実施
社会的自立に向けた支援
保護者への支援
フォローアップ支援
18
第3
教育支援センターが備えるべき支援内容
23
第4 不登校児童・生徒の社会的自立に向けた支援の充実方策の在り方
1 居場所機能の充実
2 学習機能の充実
3 社会への適応支援機能の充実
24
第5
1
27
教育支援センターの体制の在り方
指導体制
(1)職員及び運営体制
(2)アセスメントの実施体制
2 地域との連携
3 施設環境の整備
第6
1
2
学校及び他の関係機関との連携
学校との連携
他の関係機関との連携
31
Ⅱ 不登校特例校
第1 不登校特例校の概要
第2
1
2
3
4
不登校特例校の現状
教育内容
進路・サポート体制
授業料等
効果と課題
第3
1
2
3
不登校特例校の設置に当たって
教育機会確保法の制定
不登校特例校の特徴
考慮すべき事項
(1)運営体制の整備
(2)設置形態及び設置者
Ⅲ その他
第1 国や都の役割
1 教育支援センターの充実強化に向けて
2 不登校特例校の広がりに向けて
3 その他
第2
1
2
不登校施策全般に関する提言
新たな不登校を生まない取組
発達障害のある不登校児童・生徒への対応
むすびに
【参考資料】
教育支援センター(適応指導教室)等充実方策検討委員会開催経過
教育支援センター(適応指導教室)等充実方策検討委員会設置要綱
教育支援センター(適応指導教室)等充実方策検討委員会委員名簿
都内教育支援センター一覧
東京都教育委員会のこれまでの取組
国における不登校対策関連の動向
文部科学省からの通知
義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律
32
37
40
43
45
47
48
49
50
51
52
54
57
90
Ⅰ 教育支援センター
第1 教育支援センターの現状と課題
1 教育支援センターの概要
教育支援センターは、集団生活への適応、情緒の安定、基礎学力の補充、基本的生
活習慣の改善等のための相談・指導(学習指導を含む。
)を行うことにより、不登校
児童・生徒の在籍校への復帰を支援し、社会的自立に資することを目的とした学校外
の施設である。
都内では平成2年度から設置が開始され、区市町村の公共施設、学校の空き教室、
廃校舎等を活用している。
平成 28 年度現在、都内 51 区市町において 75 教室が設置されており、地区によ
っては複数の教育支援センターを設けている(巻末参考資料「都内教育支援センタ
ー一覧」51 ページ参照)
。
主な指導内容は、教科学習、体験活動、カウンセリング等である。
児童・生徒が教育支援センターで相談・指導を受けた日数については、一定の要
件を満たす場合に、校長は指導要録上の出席扱いとすることができる。
なお、自宅において教育委員会、学校、学校外の公的機関又は民間事業者が提供
するIT等を活用した学習活動を行った場合も、一定の要件を満たした上で、校長
は指導要録上の出席扱いとすること及びその成果を評価に反映することができる。
【参考】 教育支援センターに関する国の通知
1
平成4年9月 24 日付け文初中第 330 号「登校拒否問題への対応について」
3 教育委員会における取組の充実
(5) 学校以外の場所に登校拒否の児童生徒を集め、その学校生活への復帰
を支援するため様々な指導・援助を行う「適応指導教室」について、そ
の設置を推進するとともに、指導員や施設設備等の充実に努めること。
2
平成 15 年5月 16 日付け 15 文科初第 255 号「不登校への対応の在り方に
ついて」
(通知)
(別記)不登校児童生徒が学校外の公的機関や民間施設において相談・指導を
受けている場合の指導要録上の出欠の取扱いについて
1 趣旨
不登校児童生徒の中には、学校外の施設において相談・指導を受け、学校
復帰への懸命の努力を続けている者もおり、このような児童生徒の努力を学
校として評価し支援するため、我が国の義務教育制度を前提としつつ、一定
の要件を満たす場合に、これら施設において相談・指導を受けた日数を指導
要録上出席扱いとすることができることとする。
- 1 -
2 出席扱いの要件
(1) 保護者と学校との間に十分な連携・協力関係が保たれていること。
(2) 当該施設は、教育委員会等が設置する適応指導教室等の公的機関とす
るが、公的機関での指導の機会が得られないあるいは公的機関に通うこ
とが困難な場合で本人や保護者の希望もあり適切と判断される場合は、
民間の相談・指導施設も考慮されてよいこと。
ただし、民間施設における相談・指導が個々の児童生徒にとって適切
であるかどうかについては、校長が、設置者である教育委員会と十分な
連携をとって判断するものとすること。このため、学校及び教育委員会
においては、
「民間施設についてのガイドライン(試案)」
(別添2)を参
考として、上記判断を行う際の何らかの目安を設けておくことがのぞま
しいこと。
(3) 当該施設に通所又は入所して相談・指導を受ける場合を前提とすること。
(別添2)民間施設についてのガイドライン(試案)
6 学校、教育委員会と施設との関係について
児童生徒のプライバシーにも配慮の上、学校と施設が相互に不登校児
童生徒やその家庭を支援するために必要な情報等を交換するなど、学校
との間に十分な連携・協力関係が保たれていること。
3
平成 17 年7月6日付け 17 文科初第 437 号「不登校児童生徒が自宅において
IT等を活用した学習活動を行った場合の指導要録上の出欠の取扱い等につ
いて」
(通知)
1
趣旨
不登校の児童生徒の中には、学校への復帰を望んでいるにもかかわらず、
家庭にひきこもりがちであるため、十分な支援が行き届いているとは言えな
かったり、不登校であることによる学習の遅れなどが、学校への復帰や中学
校卒業後の進路選択の妨げになっている場合がある。このような児童生徒を
支援するため、我が国の義務教育制度を前提としつつ、一定の要件を満たし
た上で、自宅において教育委員会、学校、学校外の公的機関又は民間事業者
が提供するIT等を活用した学習活動を行った場合、校長は、指導要録上出
席扱いとすること及びその成果を評価に反映することができることとする。
2 出席扱い等の要件
(1) 保護者と学校との間に十分な連携・協力関係が保たれていること。
(2) IT等を活用した学習活動とは、IT(インターネットや電子メール、
テレビを使った通信システムなど)や郵送、ファクシミリなどを活用し
て提供される学習活動であること。
(3) 訪問等による対面指導が適切に行われることを前提とすること。対面
指導は、当該児童生徒に対する学習支援や将来の自立に向けた支援など
が定期的かつ継続的に行われるものであること。
(4) 学習活動は、当該児童生徒の学習の理解の程度を踏まえた計画的な学
習プログラムであること。なお、学習活動を提供するのが民間事業者で
ある場合には、平成 15 年 5 月 16 日付け文科初第 255 号通知「不登校へ
の対応の在り方について」における「民間施設についてのガイドライン
(試案)
」を参考として、当該児童生徒にとって適切であるかどうか判断
すること。(「学習活動を提供する」とは、教材等の作成者ではなく、当
該児童生徒に対し学習活動を行わせる主体者を指す。)
- 2 -
(5) 校長は、当該児童生徒に対する対面指導や学習活動の状況等について、
例えば、対面指導に当たっている者から定期的な報告を受けたり、学級
担任等の教職員や保護者などを含めた連絡会を実施するなどして、その
状況を十分に把握すること。
(6) IT等を活用した学習活動を出席扱いとするのは、基本的に当該不登
校児童生徒が学校外の公的機関や民間施設において相談・指導を受けら
れないような場合に行う学習活動であること。なお、上記(3)のとお
り、対面指導が適切に行われていることを前提とすること。
(7) 学習活動の成果を評価に反映する場合には、学校が把握した当該学習
の計画や内容がその学校の教育課程に照らし適切と判断される場合であ
ること。
- 3 -
2 児童・生徒、保護者に関する現状
(1)不登校児童・生徒数
不登校の児童・生徒について、平成 27 年度は全国の小・中学校で 126,009 人
に上っている。都内公立小・中学校では 10,618 人となっており(小学校 2,731
人、中学校 7,887 人)
、平成 25 年度以降増加している。<図表 01>
図表 01
都内公立小・中学校における不登校児童・生徒数の推移
【平成 27 年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査(文部科学省)より都内公立学校分を抽出して作成】
都内公立小・中学校における不登校児童・生徒の全児童・生徒数に占める割合
(出現率)についても、平成 25 年度以降増加しており、平成 27 年度は小学校で
0.49%、中学校で 3.33%となっている。<図表 02>
図表 02
都内公立小・中学校における不登校出現率の推移
【平成 27 年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査(文部科学省)より都内公立学校分を抽出して作成】
- 4 -
なお、出現率の全国平均(平成 27 年度)は、小学校で 0.42%、中学校で 2.83%
となっており、都内の不登校児童・生徒の出現率は、小学校、中学校共に全国平
均を上回っている状況である。
(2)不登校になったきっかけと考えられる状況
文部科学省が各学校を対象に行った「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問
題に関する調査」によると、小学校では、
「不安など情緒的混乱」
、「無気力」や
「親子関係・家庭環境」の割合が特に高い。中学校においては、小学校と同様に
「不安など情緒的混乱」と「無気力」の割合が高いのとともに、
「あそび・非行」
の割合が小学校よりも高いことが特徴である。<図表 03>
図表 03
不登校になったきっかけと考えられる状況(平成 26 年度)
※「不適応等」
:教職員との関係をめぐる問題、入学・転編入学・進級時の不適応、進路にかかる不安、学校のきまり等
をめぐる問題、クラブ活動・部活動への不適応
「親子関係・家庭環境」
:親子関係をめぐる問題、家庭の生活環境の急激な変化、家庭内の不和(回答総数に占める割合)
【平成 26 年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査(文部科学省)より都内公立学校分を抽出して作成】
また、文部科学省が平成 18 年度に不登校を経験した者に対して実施した調査
によると、学校を休み始めたきっかけは、
「友人との関係」が 52.9%と最も多く、
「生活リズムの乱れ」
、
「勉強が分からない」、
「先生との関係」、
「クラブや部活動
の友人・先輩との関係」等、学校生活をめぐる問題やその影響に関する項目の割
合が高い状況にある。このような傾向は、都においても同様であることが推測さ
れる。<図表 04>
図表 04
学校を休み始めたきっかけ(上位五つ)
友人との関係
52.9%
生活リズムの乱れ
34.2%
勉強が分からない
31.2%
先生との関係
26.2%
クラブや部活動の友人・先輩との関係
22.8%
0.0%
10.0%
20.0%
30.0%
40.0%
50.0%
60.0%
(平成 24 年1~3月に調査実施)
【不登校に関する実態調査~平成 18 年度不登校生徒に関する追跡調査報告書~(文部科学省)より抽出して作成】
- 5 -
このように、学校に対する調査結果<図表 03>と、本人に対する調査結果
<図表 04>における不登校のきっかけには異なる傾向が見られるが、学校から見
たきっかけと本人から見たきっかけは、それぞれの立場から捉えた一面であり、
一方が正しく、他方が間違っているという理解は適切ではないと考える。
不登校の要因は多様かつ複合的であることに加え、不登校児童・生徒の置かれ
ている状況は、一人一人異なっているということを十分認識しておく必要がある。
(3)教育支援センターに登録している児童・生徒数
不登校の児童・生徒のうち、教育支援センターに登録している児童・生徒数は、
小学生で 382 人、中学生で 1,565 人となっており、不登校児童・生徒全体の2割
程度である。<図表 05>
図表 05
教育支援センターに登録している児童・生徒数(平成 26 年度)
小学生
1年生
6人
2年生
7人
3年生
24 人
4年生
66 人
中学生
1年生
322 人
2年生
554 人
3年生
689 人
合計
1,565 人
5年生
114 人
6年生
165 人
合計
382 人
※公立学校及び国立・私立の学校の児童・生徒の計
【教育支援センター(適応指導教室)に関する実態調査(文部科学省)
(平成 27 年)より東京都分を抽出して作成】
(4)教育支援センターに登録している児童・生徒の状況
平成 26 年度の1年間に、教育支援センターに登録していた小学生 382 人、中
学生 1,565 人のうち、在籍校に復帰した児童・生徒数は、小学生で 96 人、中学
生で 289 人となっている。<図表 06>
図表 06 教育支援センターに登録している児童・生徒の在籍校への復帰数・復帰率
(平成 26 年度)
(上段:在籍校復帰数、下段:在籍校復帰率)
小学生
中学生
1年生
2人
33%
2年生
2人
29%
3年生
8人
33%
4年生
17 人
26%
1年生
52 人
16%
2年生
101 人
18%
3年生
136 人
20%
合計
289 人
18%
5年生
25 人
22%
6年生
42 人
25%
合計
96 人
25%
※公立学校及び国立・私立の学校の児童・生徒の計
【教育支援センター(適応指導教室)に関する実態調査(文部科学省)
(平成 27 年)より東京都分を抽出して作成】
教育支援センターを所管する教育委員会の担当者や、教育支援センターの職員
等を対象とした調査によると、教育支援センターに登録している児童・生徒の傾
- 6 -
向としては、不安など情緒的混乱や家庭環境等による「学校に行きたくても行け
ないタイプ」
、他の児童・生徒との関係、教職員との関係、部活動など、人間関
係がうまく築くことができない「人間関係によるタイプ」がそれぞれ 98.7%、
97.4%と多い。
「意図的な拒否型の不登校児童・生徒」
、
「学校に行きたくないタイ
プ(遊び・非行)
」はそれぞれ 32.9%、31.6%と少なくなっている。<図表 07>
図表 07
教育支援センターに登録している児童・生徒の傾向(平成 26 年度)
(複数回答)(n=76)
【教育支援センター(適応指導教室)に関する実態調査(文部科学省)(平成 27 年)より東京都分を抽出して作成】
また、不登校児童・生徒の中には、教育支援センターへ通うことを希望するも
ののどうしても行けない者、勉強したいという意欲はあるが一歩を踏み出せない
者、発達障害があったり家庭環境に課題のある者等もいる。
なお、不登校からの回復の道のりは、その様相や期間など、一人一人違ってお
り、決して一様ではない。一般的にこのような児童・生徒の心理状態は、大きく
「混乱期」
、
「低迷期」
、
「回復期」の三つの時期に分けることができると言われて
いる。
不登校児童・生徒のうち、在籍校の欠席日数別に見た、教育支援センターに登
録している児童・生徒の割合について、欠席日数が「30~50 日」では、小学生で
7.7%、中学生で 6.7%であり、「51~100 日」では、小学生で 12.0%、中学生で
23.5%である。また、
「201 日以上」では、小学生で 45.5%、中学生で 42.3%で
ある。<図表 08>
- 7 -
図表 08
在籍校の欠席日数別に見た、教育支援センターに登録している児童・生徒の
割合(平成 26 年度)
〈学校を欠席した日数〉
(注)表の見方 例:
「151~200 日」→26 年度の欠席日数が 151~200 日の不登校児童・生徒のうち、小学校では 54.5%
が、中学校では 29.2%が教育支援センターに登録している又は登録していた。
【東京都教育庁調べ〔対象:平成 26 年度都内公立小・中学校の不登校児童・生徒の学級担任(抽出)
(平成 27 年)
〕】
教育支援センターに登録している者のほとんどは、公立小・中学校に在籍する
児童・生徒である。私立学校や都立学校等に在籍する児童・生徒の教育支援セン
ターへの受入れについては区市町村の判断となるため、受入れ体制等は、各区市
町村によって異なる。
【参考】 平成 28 年度において、私立学校に在籍する児童・生徒が、教育支援
センターへ登録を希望した場合の取扱いに関する調査結果
○「私立学校に在籍する児童・生徒を受け入れる(「可能性あり」を含む。
)
」
と回答のあった地区 … 全 51 区市町のうち 31 地区
〈受け入れる場合の要件等〉
・区域内に在住している。
・当該私立学校と連携がとれる。
○「私立学校に在籍する児童・生徒を受け入れない」
と回答のあった地区 … 全 51 区市町のうち 20 地区
〈受け入れない場合の理由〉
・要綱等において、教育支援センターに登録する対象の児童・生徒を、
区域内の公立小・中学校に在籍している児童・生徒としている。
【東京都教育庁調べ〔対象:教育支援センターを設置している区市町教育委員会(平成 28 年)〕】
- 8 -
中学校第3学年で教育支援センターに登録していた生徒のほとんどが高等学
校に進学しており、進学先として最も多いのは定時制高等学校(昼夜間定時制高
校を含む。
)で 43.3%、次いで全日制高等学校が 26.9%、通信制高等学校が 18.1%
となっている。<図表 09>
図表 09
教育支援センターに登録していた中学校3年生の進路(平成 26 年度)
【教育支援センター(適応指導教室)に関する実態調査(文部科学省)
(平成 27 年)より東京都分を抽出して作成】
(5)教育支援センターに登録している児童・生徒の保護者の状況
不登校児童・生徒の保護者については、子供の状況や将来等に不安を抱えてお
り、どうしたらよいか分からない状況に陥っていることが多いと考えられる。
また、保護者自身が健康面や生活面で心配事を抱えている場合には、子供の今
後について相談したいという意欲はあっても、実際、相談にまで踏み出せない場
合もある。
さらに、不登校に至る要因が深刻であったり、不登校が長期化したりすると、保
護者の相談意欲が低下し、外部の働き掛けにも応じない事態が生じることもある。
3 人員配置の状況
(1)職員
区市町村教育委員会が設置する教育支援センターの職員の配置状況は、常勤が
37 人、非常勤は 572 人となっている(1施設当たりの平均職員数は 8.0 人)
。
基本的には、各区市町村独自の配置であり、非常勤職員が全体の 93.9%を占めて
いる。また、常勤職員、非常勤職員ともに退職した教職員を活用している割合が高
いことから、職員の年齢構成が偏っている状況があると推測される。<図表 10>
- 9 -
図表 10
教育支援センターの職員数(平成 26 年度)
○
常勤職員:37 人
○
非常勤職員:572 人
【教育支援センター(適応指導教室)に関する実態調査(文部科学省)(平成 27 年)より東京都分を抽出して作成】
教育支援センターの責任者には、退職教職員や行政職系職員が配置されている
ことが多い。
教育支援センターの職員のうち、児童・生徒に学習等の指導を行う職員(以下
「指導員」という。
)は、その多くが公立学校の退職教員であるが、必ずしも不
登校児童・生徒の指導経験を有しているわけではなく、特別支援教育の指導の専
門性や、ソーシャルスキルトレーニングの専門性を有する者も多くはない。
また、指導員が教員免許を取得していない場合もあり、十分な学習指導に対応
できていない状況もある。特に中学生への学習指導については、配置されている
指導員の教員免許の種類によっては、指導できる教科に偏りが生じ、全ての教科
に十分に対応できる環境にはないことが多い。
- 10 -
その他、児童・生徒の話し相手やメンタルフレンド役として、大学生等のボラ
ンティアを活用しているところもある。
(2)専門家の配置状況
不登校児童・生徒には、心理面からのケアが特に必要とされるが、カウンセラー
等の心理の専門家については、配置が 76 教室中 26 教室、定期的又は必要に応じて
の派遣が 18 教室となっている。スクールソーシャルワーカー等の福祉の専門家に
ついては、配置が9教室、定期的又は必要に応じての派遣が 31 教室となっている。
配置されている場合の、週当たりの勤務日数の平均は、心理の専門家は 3.7 日、
福祉の専門家は 2.6 日である。<図表 11>
図表 11
専門家の活用状況(平成 26 年度)
○カウンセラー等の心理の専門家
配置されている(箇所)
26
配置されていない(箇所)
50
週当たりの延べ日数(日) 3.7
配置されていない場合の対応(箇所)
※配置箇所数を母数とする平均
定期的に派遣されている
4
必要に応じて派遣されている
14
なし
32
○スクールソーシャルワーカー等の福祉の専門家
配置されている(箇所)
9
配置されていない(箇所)
67
週当たりの延べ日数(日) 2.6
配置されていない場合の対応(箇所)
※配置箇所数を母数とする平均
定期的に派遣されている
2
必要に応じて派遣されている
29
なし
30
無回答
6
【教育支援センター(適応指導教室)に関する実態調査(文部科学省)(平成 27 年)より東京都分を抽出して作成】
なお、心理や福祉の専門家の配置がない教育支援センターでは、カウンセリン
グや保護者への支援について、域内の教育相談所(室)や教育委員会指導室(課)
等と連携して実施している状況がある。
- 11 -
4 活動内容等
(1)指導内容の特徴
全ての教育支援センターで教科学習に取り組んでおり、指導に当たっては、
「個
別の学習支援」の形態をとっているとともに、
「授業形式(講義形式)による学習
支援」も併せて行っているところが 59.2%である。
「スポーツ」の取組は 90.8%と、
ほとんどの教育支援センターで行われている。
「相談・カウンセリング(子供から
の相談対応)
」と「相談・カウンセリング(保護者からの相談対応)
」は、いずれも
85.5%の教育支援センターで実施している。
「社会体験(見学、職場体験など)
」は
84.2%、
「自然体験(自然観察、農業体験など)
」は、76.3%の教育支援センターで
実施している。<図表 12>
図表 12
教育支援センターの指導内容(平成 26 年度)
(複数回答)
(n=76)
【教育支援センター(適応指導教室)に関する実態調査(文部科学省)(平成 27 年)より東京都分を抽出して作成】
なお、体験活動の計画の立案や講師の手配など、体験活動を充実させるための
準備・運営には多くの作業や調整を伴う反面、教育支援センターの指導員の配置
数は、十分とは言えないという声がある。また、スポーツなどの運動を行うに当
たっては、運動に適した施設の状況や指導員の経験の程度等により、活動内容が
制限される場合がある。
(2)指導形態及び指導時間
週ごとの時間割を決めている教室がほとんどであり、午前中に学習、午後に集
団活動や特別活動を行うなど、児童・生徒の実態に配慮した構成となっている。
- 12 -
なお、学習内容については、個別の学習指導計画を作成せずに、自学自習の形
態で行っているところが多い。
また、学習教材については、ほとんどの教育支援センターで教科書を使用し、
その他市販の教材や指導員が作成した教材も多くの教育支援センターで使用さ
れている。
5 施設
(1)施設の所有
教育支援センターの施設は、地区の図書館など教育関連の公共施設の一部を借
用しているところが 42.1%、教育支援センター独自の施設が 40.8%となってい
る。また、学校の空き教室を新たに改修するなどして、教育支援センターとした
ところは 14.5%である。<図表 13>
図表 13
施設の所有(平成 26 年度)
(n=76)
【教育支援センター(適応指導教室)に関する実態調査(文部科学省)(平成 27 年)より東京都分を抽出して作成】
(2)施設面での課題
対人関係で課題があったり、小集団にも入れなかったりする児童・生徒のための、
個別指導ができる場所の設置が十分ではない施設が多い。
また、施設の広さや区画数が十分ではないため、異なる学年の児童・生徒が、
同室で学習している状況にある。
- 13 -
6 区市町村教育委員会で実施している支援
(1)学校との連携
ほとんどの教育支援センターで児童・生徒の在籍校と文書や面談、電話等によ
り、出席状況等の定期的な情報共有を図っている。しかし、「学校が主催する通
室児童・生徒の支援会議に、センター職員が参加している」ところは 42.1%、
「通
室児童・生徒の学習の評価や指導要録への記載の在り方等について、教職員とセ
ンター職員が協議するなどしている」ところは 22.4%である。<図表 14>
図表 14
学校との連携内容(平成 26 年度)
(複数回答)(n=76)
【教育支援センター(適応指導教室)に関する実態調査(文部科学省)(平成 27 年)より東京都分を抽出して作成】
上述のとおり、定期的な情報の共有は行われているが、支援会議に参加し、詳細
な支援内容の協議を行うことなどについては、十分ではない状況にある。
また、在籍校における連携の窓口は、担任や生活指導主任であることが多いと
考えられるが、これらの教員が一人で情報を抱えてしまうと、管理職や教員間で
共有されなくなるおそれがある。
さらに、教育支援センターにつなぐための連携については、ほとんどの場合、
児童・生徒や保護者に対して、学校が教育支援センターの紹介等を行っている。
また、教育支援センターとは別にある、教育相談所(室)に所属している心理職
等が、継続的な面談を行っているケースも多くある。<図表 15>
- 14 -
図表 15
教育支援センターにつなぐための連携(平成 26 年度)
(複数回答)
(n=76)
【教育支援センター(適応指導教室)に関する実態調査(文部科学省)(平成 27 年)より東京都分を抽出して作成】
(2)外部機関との連携
多くの教育支援センターでは、必要に応じ、子ども家庭支援センターなどの福
祉機関と連携しており、医療機関との連携を行っているところもある。
また、教育委員会(指導主事、スクールソーシャルワーカー、教育支援センタ
ーの指導員等)と子ども家庭支援センターなどの福祉機関が、定期的な連携会議
を設けて、教育支援センターに登録している児童・生徒に関する情報を共有し、
その後の対応に生かしているケースがある。
さらに、フリースクール等の民間施設・団体と連携し、不登校児童・生徒に対
する居場所づくりなどの取組を、委託事業として実施しているところもある。
(3)保護者への対応
教育支援センターが主催する親の会等において、不登校児童・生徒の保護者同
士が話をしたり、教育支援センターでの授業参観や保護者会などの行事に合わせ
て、教育支援センターの指導員と保護者が面談する機会を設けたりしているケー
スがある。
- 15 -
7 教育支援センターの機能充実に向けた必要な視点
ここまで示してきた現状と課題から、今後の教育支援センターの充実方策に向け
て、以下のような視点が必要になる。
(1)一人一人の児童・生徒の多様な課題に対応する
不登校は、特定の児童・生徒に起こるのではなく、
「どの児童・生徒にも起こり
得ること」として捉える必要がある。
また、不登校の状況が継続し、結果として在籍校等における十分な支援が受けら
れない状態が続くことは、本人の社会的自立のために望ましいことではない。この
ため、不登校を社会的自立に向けた進路の問題として捉えることが適当である。
不登校に至る要因は多様・複雑であり、その回復の道のりは一様ではない。
例えば、教育支援センターに通う児童・生徒の状態も多様であり、教育支援セ
ンターに通うこと自体、精一杯の状態の児童・生徒がいる一方、教育支援センタ
ー内であれば、他の児童・生徒と一緒に活動することができる児童・生徒もいる。
また、その中でリーダーシップが取れる児童・生徒がいたりするなど様々であり、
不登校の回復に向けたステップも、児童・生徒の状態に応じて多様かつ複雑である。
個々の児童・生徒は、不登校となったきっかけや不登校の継続理由が異なるこ
とから、それらの要因を的確に把握し、社会的自立へ向けて進路の選択肢を広げ
るなど、一人一人の児童・生徒に応じたきめ細かな支援策を策定することが不可
欠である。
現在、教育支援センターでは、通うかどうかを検討している不登校児童・生徒
を対象に見学や体験の機会を設け、当該児童・生徒が通う場所として適している
かどうかについて、児童・生徒本人や保護者と相談の上、受入れの可否を決定し
ている。
教育支援センターには、様々な状態の児童・生徒を受入れられるよう、支援内
容を整えておくことが求められている。
なお、区市町村によっては、児童・生徒の状況確認や相談対応などについて、教
育支援センターとは異なる機関で実施するなど、その地区に応じた役割分担の下、
支援体制を工夫して取り組んでいるところもある。
こうしたことから、不登校児童・生徒への対応を無理に教育支援センターへ集
中させるのではなく、関係機関とのネットワークを最大限に生かして取り組んで
いく方が、有効な場合があることにも留意すべきである。
重要なのは、一人一人の児童・生徒の状況を教育支援センターが十分に把握し
た上で、個々の状態に適した支援を行うことができるようにしておくことである。
- 16 -
(2)児童・生徒が自ら選択する目標を見据える
児童・生徒が自らを見つめ直し、目指すべき将来の自分の姿が明確になってい
る場合には、これを支援していくことが重要である。
また、児童・生徒が自らの進路について、どのような目標をもつかについては、
支援を通じ、最終的に本人が決めるものであるという認識に立って、適切に支援
することが大切である。
児童・生徒の将来の社会的自立を見据えた場合には、基礎的な学力や社会性を
身に付けていくことが不可欠である。
このため、仮に不登校という状態にあっても、学校以外の場において行う多様
な学習の機会を確保することが大切である。
また、児童・生徒が社会的自立に向けて備えるべき力は様々である。このため、
教育支援センターでは、学校の教科の補充指導だけでなく、例えば、進学して上
級学校で学んでいく力、共同して何かを成し遂げる力、就職し社会人として生活
していく力などを、児童・生徒が身に付けられるような指導が必要となる。
(3)児童・生徒と保護者の状況に寄り添う
不登校に至った初期段階の児童・生徒は、自らもどうしたらよいのか分からず
不安な状態にある。また、保護者も我が子を心配し、同様に不安な状態になって
いる。このため、不登校という状況を改善していくには、児童・生徒のみならず
保護者にも、現在はエネルギーを蓄える時期であるなどの心理教育的な助言を行
って安心してもらい、心身の安定を図ることが不可欠である。
相談に当たっては、在籍校や教育支援センターをはじめとした、不登校状態の
改善に向けて支援に当たる全ての関係者が、不登校児童・生徒及び保護者の状況
を把握し、その心情に寄り添い、共感的な理解と受容の姿勢をもつことが必要で
ある。
こうした姿勢をもつことは、児童・生徒の自己肯定感を高めたり、保護者の意
識を啓発するきっかけとしたりするためにも重要である。
- 17 -
第2 不登校児童・生徒に必要な支援内容
前述第1を踏まえ、児童・生徒の不登校の状況や時期に応じて、主に以下の五つ
の支援内容を整える必要がある。<図表 16>(22 ページ参照)
1 ひきこもり状態の改善
不登校となり、どの機関ともつながらず、長期間にわたり家庭にひきこもってい
る状態は、その児童・生徒の心身の健康のみならず、将来の社会的自立に向けて、
必要な力を育む機会を失ってしまうこととなる。このため、たとえ学校に行くこと
ができなくとも、何らかの形で社会とのつながりをもたせることが大事である。
このため、まず、ひきこもりの状態から教育支援センター等の再チャレンジを図
る場へとつなげていくことが必要である。
例えば、スクールソーシャルワーカー等からなる支援チームを構成し、福祉等関
係部署・関係機関との間で対策を検討した後、教員や訪問支援員などが家庭を訪問
するなど、児童・生徒や保護者の気持ちに寄り添った相談や支援を行う中で、徐々
に状態が改善されていくことが期待される。
場合によっては、児童相談所のメンタルフレンドや、東京都教育相談センターの
学生アドバイザリースタッフ等を活用するなど、関係機関と連携を図ることで、よ
り広域的・重層的な支援も期待できる。
また、ひきこもり状態の長期化は、社会的な自立を一層難しくするため、区市町
村教育委員会は学校と連携し、早期に支援を開始することが望ましい。
ひきこもりの状態にあった児童・生徒が、教育支援センターに通い始める際には、
まず、その児童・生徒の心をサポートするため、安心できる居場所としての機能を
果たし、児童・生徒が興味・関心をもてるような活動を企画し、参加する機会を提
供していくことが重要である。
その上で、児童・生徒の自己肯定感を高めるとともに、興味の範囲を広げ、将来
の自分について考える機会を設けるなどして、学習への意欲を高めていくことが必
要である。
なお、私立学校等に通う児童・生徒がひきこもり状態となった場合は、各区市町
村教育委員会での受入れ等の対応がそれぞれ異なり、保護者が相談先を探すのにも
苦慮するケースがある。このため区市町村教育委員会は、私立学校等の不登校児童・
生徒についても、ひきこもり状態の改善に向けた支援や、教育支援センターへの入
室の希望があれば、その対応を積極的に検討することが望まれる。
- 18 -
2 アセスメントの実施
児童・生徒が不登校となる背景や直接的なきっかけは様々である。また、不登校
状態が継続すると、時間の経過とともに不登校の要因は変化し、学習の遅れや生活
リズムの乱れなどの要因も加わることで、改善の困難度が増し、在籍校に復帰しづ
らくなる。
このような状況を踏まえると、不登校児童・生徒への支援に当たっては、できる限
り早期に児童・生徒の心の状態を十分に理解し、その置かれている環境等を把握・分
析した上で、状態の見極め(アセスメント)を開始することが大切である。
その際、支援を行う複数の関係者が、児童・生徒や家庭の状況はもとより、本人の希
望や、今後について具体的にどのようにしたいと考えているのかなどを丁寧に把握し、
支援の方向性を多面的に検討する過程を通じて、共通理解を図ることが必要である。
また、早期に不登校の兆候を捉えることも重要である。そのためには、学校が児
童・生徒の変化に気付くことが必要であり、日頃の行動観察を通じて記録等をとっ
ておくことが大切である。こうした記録は、アセスメントの際の貴重な資料となる。
記録する内容は、学校生活における本人の行動観察だけでなく、学級やクラスメ
イトの様子、さらには保護者との連携等により、家庭の様子や友人との関わりなど
の情報も収集することが必要である。
都教育委員会では、児童・生徒の情報共有を図るためのツールとして、平成 20 年
度に、
「個別適応計画書」の様式例を区市町村に示している。また、国では、乳幼児
期から小・中・高までの支援情報を「児童生徒理解・教育支援シート(試案)
」に記
載し、これを引き継いでいくなどの取組を行うよう、平成 28 年9月に都道府県宛て
通知している。
今後、
「個別適応計画書」の名称や形式等の改訂を含め、不登校児童・生徒の状況
に応じ、適切な支援を進めるための新たな支援シートの開発や、その活用に向けた取
組の検討が求められる。この際、学校や担任に負担が掛からないような工夫が必要で
ある。
アセスメントを行うに当たっては、学校が把握している様々な情報に加え、保護
者はもとより、心理職やスクールソーシャルワーカー等の専門家から得られた情報
を共有し、状況を把握・分析することが大切である。
なお、不登校児童・生徒の状態を医療の面からも的確に把握するためには、医師
による診断が必要となることにも留意すべきである。
さらに、教育支援センターの職員が、アセスメントの関係者として加われるよう
になると、より客観的・多角的な視点から、教育支援センターへつなぐ適切な時期
を見極めることが可能となる。
- 19 -
3 社会的自立に向けた支援
不登校児童・生徒の課題解決に当たって、社会的自立に向けた支援を図るために、
教育支援センターには、次の機能を充実させることを期待する。
<居場所機能>
継続的に教育支援センター等へ通うことができるようにするための支援機能
<学習機能>
在籍校への復帰や進学後の学習等に支障を来さないための支援機能
<社会への適応支援機能>
在籍校への復帰だけでなく、将来の社会的自立に向けて必要な支援機能
なお、児童・生徒の不登校からの回復状況やそのスピードは個々に異なるが、い
ずれの児童・生徒に対しても、それぞれの状況、状態に応じた十分な支援を行うこ
とが大切である。
例えば、教育支援センターに登録された当初の児童・生徒には、心地良く、安心
して学習できる場所・環境が必要であることに留意すべきであるが、継続して通え
るようになった児童・生徒には、社会的自立に向け、教科学習、スポーツ活動や芸
術活動、社会的活動や自然観察などの体験活動、保護者や児童・生徒への相談対応・
カウンセリング等を、状況に応じて効果的に実施していくことが必要である。
4 保護者への支援
教育支援センターは、保護者への支援として、登録の有無にかかわらず、不登校
となってから回復後の一定期間まで一貫して支援を継続する必要がある。
不登校児童・生徒の保護者は、学校に行かない我が子に対して、焦りやいら立ち
を感じやすいものである。我が子を心配する余り、保護者が過干渉となる場合もある。
不登校の状態を改善するためには、保護者の果たす役割や影響力が非常に大きいこ
とから、保護者の気持ちに寄り添いつつ、児童・生徒の社会的自立に向けてどのよう
なことをすればよいのかなどについて、保護者の意識を高めていくようにするべきで
ある。
家庭が児童・生徒にとって安心できる場所になれば、児童・生徒も気持ちが落ち
着き、前向きな姿勢や考え方に変容してくることが考えられる。
例えば、教育支援センターの職員との面談を繰り返す中で、児童・生徒の状況を
受け止め、不登校からの回復を目指して、教育支援センターと協力関係を築くこと
ができている保護者もいる。このような場合には、児童・生徒の状況の改善にも効
果が見られることが多い。
- 20 -
また、具体的に保護者を支援するタイミングとしては、不登校になり始めた状態、
ひきこもっている状態、教育支援センターに登録はしたものの通うことができない
状態、順調に教育支援センターに通うことができるようになった状態など様々であ
る。これらの状況に応じて、きめ細かに行っていく必要がある。
保護者への支援の方法は、電話相談、来所相談を行うほか、実際に家を訪問する
などのアウトリーチ型の支援が有効である。
アウトリーチ型の支援による相談・指導は、教育支援センターや教育相談センタ
ー、教育委員会指導室(課)の役割分担を前提に、相互が連携し、地域、児童・生
徒の状況に応じて実施することが望ましい。
5 フォローアップ支援
義務教育段階で不登校となり、在籍校や教育支援センター等で支援を受けた後、
自ら選択した目標へ向かって進んだ児童・生徒の中には、そこで再び悩みを抱える
者もいる。
在籍校や教育支援センターには、そうした児童・生徒が気兼ねなく相談に訪れ、
悩みを打ち明けて相談できるような環境を整えたり、再びチャレンジしようとする
意欲を取り戻すための支援を行ったりすることが望まれる。こうしたフォローアッ
プ支援は、児童・生徒が再び社会とのつながりを失うことを未然に防止することに
もなる。
また、中には、中学校卒業後に進学も就労もしていない者、上級学校へ進学した
ものの学校に通うことができない者、やむを得ず高等学校を中途退学した者等も含
まれていると考えられることから、これらの生徒等に多様な進学・職業訓練等の機
会を与えたり、社会的自立に向けた支援を行うことができる機関につないでいくこ
とが必要である。
関係機関等との連携を密にして、上述のような生徒等に情報提供を行うなど、社
会とのつながりを絶やさないための適切な対応が必要不可欠である。
- 21 -
図表 16
教育支援センター等による不登校児童・生徒に必要な支援内容〈イメージ〉
教育支援センター(適応指導教室)
社会的自立に向けた支援
● 居場所機能
・ 児童・生徒の心の休養を促しつつ、安心して過ごせるよう配慮
・ フリースクール等民間施設・団体の有効な取組について、ノウハウを活用
ひ
き
こ
も
り
状
態
● 学習機能
・
・ 個別の学習計画を作成し、目標や達成状況が分かるように支援
・ 学年、進度に応じた学習コンテンツが充実しているICT機器の活用
進
学
等
● 社会への適応支援機能
会
的
自
立
フォローアップ支援
○ 丁寧な相談対応により心身の安定を図る
○ 関係機関等と連携した、アウトリーチ
支援を強化
○ 児童・生徒が自ら選択した目標へ
向かって進んだ後も、安心して相談
できる環境の整備
その他の必要な支援(区市町村の体制等に合わせて取組を推進)
(教育委員会に設置)
社
・ 自己表現力や社会性等を身に付けるための多様な体験学習を実施
保護者への支援
支援チーム
在
籍
校
復
帰
ひきこもり状態の改善
アセスメントの実施
○ 家庭訪問等アウトリーチ支援
○ 学校と連携し、早期に対応
○ 初期段階で適切に実施
○ 支援計画を立て、組織的に共有
教育相談所(室)
学 校
教育相談センター
- 22 -
関係機関
福祉・保健・医療
警察・地域・民間
第3 教育支援センターが備えるべき支援内容
前述第2では、不登校児童・生徒に必要な支援について述べてきた。
一方、都内における教育支援センターでは、保護者への支援の実施に当たり、ア
ウトリーチ型の支援により相談を行うことができる体制が教育支援センター内に整
備されている所は少ない状況にあり、児童・生徒が順調に教育支援センターへ通っ
ている場合に限り、保護者会の実施や、個別相談等を来所又は電話で対応している
ところが多い。また、教育支援センター登録前や、登録しても通うことができない
場合の保護者への支援は、教育支援センター以外の機関が担当していることが多い。
本検討委員会において教育支援センターが備えるべき支援内容を検討するに当
たって、前述第2で記した五つ全てを提供できているところは少ないことから、区
市町村ごとに教育支援センターの規模や体制等が異なる現状を踏まえることが大
切であるという前提に立つこととした。
こうしたことから、少なくとも教育支援センターが担うべき支援内容は、前述第
2の3、4及び5に掲げる「社会的自立に向けた支援」、
「保護者への支援」、
「フォ
ローアップ支援」の三つを備えておくべきである。
なお、
「ひきこもり状態の改善」
、
「アセスメントの実施」については、教育委員会
指導室(課)
、教育相談所(室)
、児童相談所、保健所、病院、子ども家庭支援センタ
ー等の関係機関が、教育支援センターと連携し合いながら、五つの支援内容の全てを
一体として実施していくことが必要である。
例えば、次のような事例がある。
<品川区>
不登校に関する対応は「教育総合支援センター」を総合窓口として一元的に扱
っている。また、学校支援チーム(福祉職・心理職・警察OB)、指導主事(教育
職)、教育相談室及び特別支援教育係、適応指導教室を同センターの組織として
位置付け、相互に児童・生徒の情報を共有するなど連携した取組を実践
<練馬区>
不登校に関する対応を「学校教育支援センター」の学校支援係で受け付け、
統括指導主事、学校支援係、スクールソーシャルワーカー等からなる支援方針
検討会議により、同センター内組織である教育相談室、適応指導教室、居場所
支援事業、また、子ども家庭支援センター、福祉事務所等へ接続するシステム
を実践
- 23 -
第4 不登校児童・生徒の社会的自立に向けた支援の充実方策の在り方
教育支援センターが少なくとも備えておくべき三つの支援内容「社会的自立に向け
た支援」、「保護者への支援」
、「フォローアップ支援」のうち、教育支援センター
の中核的な支援機能であり、児童・生徒にとっても特に大切な役割となるものが、
「社
会的自立に向けた支援」である。
「社会的自立に向けた支援」としては、不登校の状態にある児童・生徒の置かれ
ている状況が多様であることを踏まえると、大きく以下の三つの機能が必要であり、
それらを充実させていくことが重要である。
1 居場所機能の充実
不登校の初期段階では、自己肯定感が著しく低下していることが多い。まずは、
その回復を図る観点から、児童・生徒との信頼関係の構築に力点を置き、心の休養
を促しつつ、児童・生徒が安心して過ごせるように配慮することが大切である。
同時に、不登校の要因となっている問題や課題を把握し、児童・生徒自らがそれ
らを乗り越えていけるように、支援者が傍らにいて支えていくことが重要である。
また、ひきこもりの状態にあった児童・生徒にとっては、教育支援センターへ通
うことが、予想以上に高い心理的ハードルとなっている場合がある。このような場
合には、自分を見つめ、自己理解を図ることができるような取組からスタートする
のがよい。教育支援センターが児童・生徒にとって心のよりどころとなり、少しで
も気軽な気持ちで通うことができるようなプログラムが必要である。
自己肯定感をどれだけ育むことができたかが、その後の学校復帰や、児童・生徒
自身の目標設定に大きく影響する。児童・生徒の自己肯定感を高める取組としては、
芸術、スポーツといった体験的な活動プログラムの充実を図るとともに、個々の児
童・生徒の心理状態等に応じた個別の支援プログラムが必要である。
また、人との関わり方が苦手であり、自分から何を話していいか分からないとい
う悩みを抱えていたり、他人からの指摘をどのように受け止めていいか分からない
状態の児童・生徒も多い。このような児童・生徒には、コミュニケーションスキル
を身に付けさせることが大切である。
- 24 -
<取組例>
ゲームや簡単な遊びから、支援員が活動に加わりながら地道に寄り添い、いつ
でも相談できる状況を設定していくと、児童・生徒に少しずつ変化が現れ、笑顔
が見られるようになったり、口数が増えてきたりする事例もある。
また、教育支援センター内の取組だけではなく、地域に密着したイベントや祭
りなどを活用することで、より多くの大人から励まされたり、開放的な雰囲気の
中で積極性が後押しされたりする機会が得られるようになる。
居場所機能の充実に当たっては、心理的サポートのほか、話し相手となる年齢の
近い大学生の活用などが有効である。また、既に一部の教育支援センターでは、居
場所づくりに優れたノウハウを有するフリースクールと協働している事例もある。
例えば、居場所スペースの運営を民間団体に委託したり、双方で連携協議会を組織
し、フリースクールが体験活動を、教育支援センターが学習活動を分担したりして
いることなどが挙げられる。
このような事例を参考として、児童・生徒への支援を充実させることも有効である。
2 学習機能の充実
不登校児童・生徒が在籍校に復帰できない大きな原因の一つとして、勉強が分か
らず授業についていけないため、学習内容の定着が図られないという状況が考えら
れる。
在籍校に通うことができない状態にあったとしても、社会的自立に必要な基礎学
力は身に付けておくことが必要である。このため、教育支援センターにおける学習
機能の強化は重要である。
そのためには、個々の児童・生徒の学力の状況を把握し、個別の学習計画を作成
した上で、目標や達成状況が分かるような仕組みを設けることが有効である。
また、指導に当たっては、学ぶ喜び、分かった喜びを実感できるような、学習意
欲を高めていく取組が効果的である。
さらに、児童・生徒の意欲を引き出しながら、個別学習により学力を高め、自分
のペースで学ぶ力が付いたら次の段階として、在籍校への復帰や上級学校への進学
に向け、集団の中で学ぶ力を身に付けていくことが必要である。例えば、複数の児
童・生徒がいる中で同じペースで学んでいく力、あるいは協調し合いながら学んで
いく力などである。特に中学校第3学年になると、進学を意識する時期に当たるた
め、そのことを視野に入れたプログラムの導入を図っていく必要がある。
このような取組を進めていくためには、各教科の教員免許を持った指導員等を配
置し、指導体制を整えることが重要である。
- 25 -
また、学力が不十分であったり、必ずしも毎日、教育支援センターに通うことが
できなかったりする児童・生徒もいることを考慮すると、例えば、多様な学年、学
習進度に応じた学習コンテンツが充実しているICT機器等を活用する学習支援
も有効である。
ICT機器は、全ての教科に対応したコンテンツが提供できるため、基礎・基本の
定着に向いていること、また、教育支援センターに通わない日であっても、家庭学習
に取り組むことができたり、児童・生徒の状態を把握できるコミュニケーション・ツ
ールになり得ることなどの利点がある。
3 社会への適応支援機能の充実
在籍校への復帰だけでなく、将来の社会参加に向けて新たな一歩を踏み出すため
に、自分の適性を発見し、自己表現する力を養ったり、社会性等を身に付けたりす
る取組が重要である。
そのための取組として、体験学習が適している。体験学習を通じ、自らの役割を
自覚しながら自発的に行動を起こしたり、自分はこういうところで役に立っている
という有用感を実感したりすることが大切である。
例えば、月ごとに特別なプログラムを用意し、児童・生徒が学習や体験等の活動
を選べるとよい。社会的に自立するということは、自分で自分のことを決めること
であり、また、自身の進路を選択することである。プログラムの中には、このよう
な過程を経験していけるような工夫が大切である。
また、将来的に仕事をするときの段取りなど、先を見通す力を培うことが必要で
あり、日々の活動の中に先のことを考えた計画的な行動を促していくことも重要で
ある。例えば、調理実習をプログラムに組み込むことは、物事の順番を考えるとき
に必要な力を付ける視点から有効である。
一方、家庭にひきこもっていた児童・生徒は、体を動かす機会が十分ではなかっ
たと考えられることから、運動という視点も指導内容に入れていく必要がある。
体を動かして汗をかくことは、体力を増進させることに加え、体の緊張を解きほ
ぐし、リラックスすることができるなどの効用がある。また、一人ではなく仲間と
かん
行う運動は、コミュニケーション能力の涵養に効果がある。
なお、児童・生徒間の運動能力が異なることに留意する必要がある。同じ体を動
かす行為でも、運動能力等に応じ、いわゆるスポーツではなく、リズム体操などの
簡易な動作を取り入れることが、より多くの児童・生徒の参加を促すことにつながる。
また、運動だけでなく、歌うことや美術作品の制作などをプログラムに取り入れ
ると、発表を通じて自分の行動に自信を深められる効果が期待できる。
- 26 -
第5 教育支援センターの体制の在り方
これまで述べてきた不登校児童・生徒への支援を適切に実施していくためには、
教育支援センターの人員体制や施設・設備を整える必要がある。
1 指導体制
(1)職員及び運営体制
教育支援センターでは、教科指導や体験活動の実施、児童・生徒の心の面から
のサポート、保護者への相談支援など、多岐にわたる支援が求められる。
また、不登校児童・生徒は、他者とのコミュニケーションに苦手意識や不安が
あったり、自信を失っていたりすることが多く、そのような面での配慮も必要で
ある。
こうしたことから、児童・生徒にとって、コミュニケーションを取りやすい若
手の指導員、不登校に関する知識や理解、対応経験のあるベテランの指導員、悩
みを理解・共有できる指導員、心理等の知識を有する指導員など、年齢や経験な
どを考慮し、バランス良く任用することが望ましい。
さらに、教科指導において十分な指導を行うことができるよう、必要な教員免
許を持った指導員等を配置することも必要である。
しかしながら現状では、不登校児童・生徒への心理理解や対応ノウハウが十分
でない指導員も散見される。この原因としては、非常勤職として、一年度間の雇
用形態が多いため、長期間をかけての育成が難しいことなどが考えられる。この
ため、短期間でも一定のスキルアップを図ることができるような仕組みを構築す
る必要がある。例えば任用時において、教育支援センターにおける役割を正確に
理解させるとともに、経験豊富な指導員によるOJTや、スタッフミーティング
を活用した事例研修の実施などである。
加えて、個別の教育支援計画又はアセスメントについて検討する際、対象の児
童・生徒について、スタッフ全員での話し合いを繰り返し行うことにより、互い
の専門性を徐々に高めていくことも有効である。
指導員以外にも、児童・生徒の話し相手となる学生や地域のボランティアを活
用するなど、地域の実態に応じた指導体制を構築することが重要である。
その上で、医師、心理職やスクールソーシャルワーカー等の専門スタッフを教
育支援センターの教育活動の中に位置付け、指導員との間で適切な役割分担を図
るなど、専門スタッフが専門性や経験を発揮できる環境を充実していくことも必
要である。
教育支援センターの果たすべき役割である、児童・生徒の社会的自立に向けた
支援を計画的に行うためには、指導員や専門スタッフ等の多職種で組織される教
- 27 -
育支援センターがチームとして機能するよう、支援プログラムの編成や人材の効
果的な活用をマネジメントする人材が不可欠である。このため、マネジメントを
担当する人材の配置と育成を図っていかなければならない。育成に当たっては、
教員向けの研修に教育支援センターの職員も参加するなど、既存の研修を活用す
ることも有効である。
また、不登校になると、児童・生徒の健康状態を確認する機会を逃がしてしま
うことが懸念される。不登校の状態であっても、医師との連携等により、確実に
定期健康診断を受けられるような体制を構築することが望まれる。
(2)アセスメントの実施体制
区市町村教育委員会が、不登校児童・生徒を、在籍校への復帰や進学等へつな
ぐためには、不登校に至った過程や要因を丁寧に把握した上で、計画的・継続的
に支援を行うことが必要である。
そのためには、学校が適切なアセスメントを行い、心理職やスクールソーシャ
ルワーカー等からなる支援チームとも協力して、個別の支援計画を立てることが
重要である。
また、どこにも相談に行けず、ひきこもり状態にある児童・生徒を、学校が教
育支援センターにつなぐためには、受け入れる側の教育支援センターにおいても、
情報を最大限活用できるような仕組みづくりが必要である。
こうしたことから、あらかじめ学校が把握している児童・生徒の状態・状況に
関する情報を、定期的な打合せなどを通じて教育支援センターと共有し、教育支
援センター側においていつでも受入れ可能な準備態勢を整え、支援を求められた
場合には、速やかに対応できるようにしておくことが重要である。
さらに、教育支援センターに通うようになった後も適切な支援ができるよう、
学校や家庭と情報共有しながらアセスメントに努め、支援計画を柔軟に修正して
いくことが大切である。
こうしたことから、教育支援センターの職員は、教育支援センターに通う児
童・生徒の支援のみでなく、日頃から学校との情報共有を行い、学校に対して必
要な助言・関与ができるような関係を築くことが重要である。
教育支援センターの職員が、不登校児童・生徒のアセスメントを行う関係者と
して、教育支援センター登録前後のいずれの段階においても関わることにより、
アセスメントの内容が深まり、一層効果的な支援につなぐことができるものと考
える。
- 28 -
<具体例>
①
教育委員会内に、心理職やスクールソーシャルワーカー等からなる支援チーム
を設置する際、教育支援センターの職員をそのチームの一員とする。
②
学校は、毎月、既に不登校であったり、不登校の前兆が見られたりする児童・
生徒について、その氏名、学年、欠席日数、児童・生徒の様子、学校の対応な
どを記入した基礎リストを教育委員会へ提出する。
③
支援チームは学校を巡回し、教育委員会へ提出された基礎リストを基に、個々
の児童・生徒に関するアセスメントや、今後の支援計画の立案に向けた助言を
行う。
④
学校と支援チームは、教育支援センター登録前後のアセスメントも行い、
PDCAサイクルを活用しながら支援計画を策定・修正する。
⑤
児童・生徒の状態・状況、学校の様子や家庭の様子、学校の行事予定など様々
な変化をとらえてアセスメントを繰り返し、それに伴い支援計画の修正をしな
がら支援を継続する。<図表 17>
図表 17
不登校児童・生徒のアセスメントと支援計画の策定<イメージ>
支援の実施3
アセスメント4
学校&支援チーム
支援計画の修正2
支援計画の策定
学校&支援チーム
アセスメント3
支援計画の修正3
学校&支援チーム
支援の実施1
アセスメント1
支援の実施4
支援の実施2
アセスメント2
学校&支援チーム
支援計画の修正1
- 29 -
2 地域との連携
「居場所機能」や「社会への適応支援機能」
(24~26 ページ参照)における指導内
容の充実を図るためには、児童・生徒の心の休養や自己肯定感の回復を促すとともに、
児童・生徒の意欲や興味・関心を高められるような、体験学習を充実することが効果
的である。
そのためには、多様で効果的な学習内容を提供する必要があるが、指導員だけで
内容を検討し指導するには、限界がある。
一方、専門的な知識や技能を有する地域人材の中には、地元への愛着心から、教
育支援センターの運営に対し、積極的かつ協力的な人もいる。
不登校児童・生徒が、このような大人と触れ合うことは、新たな分野への興味・
関心が高まるとともに、互いに同じ地域に住む者としての気軽さから、円滑なコミ
ュニケーションを図る機会として大いに期待できる。
このため、地域で活動する書道、美術、農業等に優れた人材の知識、経験、ノウ
ハウ等を活用することも有効である。
こうした地域における人材を活用した体験学習を複数用意し、月に数回程度の特
別なプログラムとして、児童・生徒が自ら講座を選択できるようにすることで、児
童・生徒が将来、進路を決定していく力の育成にも効果が期待できる。
3 施設環境の整備
不登校児童・生徒の状態に応じた適切な指導を行うためには、集団で活動する場
所、個別に学習する場所、相談室、クールダウンやリラックスできる部屋、職員室
等、児童・生徒の指導に応じた場所を備えることが望ましい。
なお、これらの施設は、保健衛生上及び安全管理上、相談・指導を行うために適
切な環境となるよう整備しなければならない。
また、児童・生徒が運動を行うことができるようにすることも大切である。この
ため、運動場を備えるなど、スポーツ活動や体験活動などの実施に関する配慮が必
要である。スペースの確保が困難な場合は、積極的に近隣の公共施設、体育館や公
園の活用を検討することが望ましい。
- 30 -
第6 学校及び他の関係機関との連携
1 学校との連携
学校との連携を強化するためには、担任と指導員のみが関わるのではなく、管理
職も含めた組織的な連携体制づくりが必要である。
また、担任等が教育支援センターを訪問し、児童・生徒に対して学校での出来事
を伝えたり、今後の行事予定について情報提供したりするなど、児童・生徒に在籍
校とのつながりを意識させるための取組を継続的に行うことも大切である。
2 他の関係機関との連携
前述した、教育支援センターに望まれる五つの支援内容が有効に機能するために
は、区市町村の教育相談所(室)と教育支援センターの双方が、十分に連携するこ
とが重要である。
また、児童・生徒や家庭における様々な状況にも対応できるよう、主任児童委員、
保護司、児童福祉司、保健所職員、発達障害者支援センター職員、医師など、福祉、
保健、医療、その他の関係機関の担当者との情報交換を定期的に行うなど、顔の見
える関係を構築していくことも大切である。
さらに、児童館などのコミュニティスペースが、不登校児童・生徒の居場所とし
て効果的に機能している状況から、こうした多様な公的機関と連携を図ることにつ
いても考慮すべきである。
フリースクール等民間施設・団体においても、不登校児童・生徒への居場所づく
りなどの支援を行っていることから、これらのノウハウを活用するという視点をも
つことも大事である。フリースクール等民間施設・団体との連携に当たっては、そ
の取組内容を十分に把握し、関係者との合意形成等を丁寧に進めながら行うことが望
ましい。フリースクール等民間施設・団体と連携した取組を実施している教育支援
センターの事例を参考にし、集団活動になじめない不登校児童・生徒の居場所づく
りを行うなどの取組は有効である。
不登校児童・生徒への対応、教育支援センターにおける指導体制や指導内容など
について、区市町村間の情報共有の場も必要である。
- 31 -
Ⅱ 不登校特例校
第1 不登校特例校の概要
不登校特例校とは、学校生活への適応が困難であるため、相当の期間、学校を欠席
していると認められる児童・生徒を対象として、その実態に配慮した特別の教育課程
を編成して教育を実施する必要があると文部科学大臣が認める場合、教育課程の基準
によらずに特別の教育課程を編成して教育を実施することができる学校をいう。
不登校特例校を設置するためには、特別な教育課程の編成を希望する学校の設置者で
ある教育委員会、国立大学法人又は学校法人が、文部科学大臣に申請する必要がある。
この制度は、平成 15 年度に「構造改革特別区域研究開発学校」として始まり、
平成 17 年7月、構造改革特別区域法による特区 803「不登校児童生徒等を対象とし
た学校設置に係る教育課程弾力化事業」の全国化により、不登校特例校が指定され、
平成 28 年度現在、10 校が指定されている。<図表 18>
図表 18
不登校特例校一覧(平成 28 年度現在)
学校名
管理機関
八王子市立高尾山学園
小学部・中学部
(平成 16 年4月開校)
八王子市
教育委員会
京都市立洛風中学校
京都市
(平成 16 年 10 月開校) 教育委員会
学科指導教室「ASU」
大和郡山市
(平成 16 年4月開校)
教育委員会
※小・中学校
星槎中学校
(平成 17 年4月開校)
学校法人
国際学園
神奈川県横浜市
鹿児島城西高等学校
学校法人
普通科(ドリームコース) 日章学園
(平成 18 年4月開校) 鹿児島県日置市
東京シューレ葛飾
中学校
(平成 19 年4月開校)
学校法人
東京シューレ学園
東京都葛飾区
京都市立洛友中学校
(平成 19 年4月開校)
京都市
教育委員会
事業の概要
不登校児童・生徒のための市立小・中一貫校。
学年を超えた習熟度ステップ 学習や小学校
1・2年次における「総合的な学習の時間」の
導入、多様な体験活動などを行う。
不登校児童・生徒のための市立中学校。実社会
と直結した実践的な体験活動や京都の特性を
活かした文化・芸術・ものづくり活動などを
行う。
不登校児童・生徒の学習の場として、学科指導
教室「ASU」を設置し、学年を超えた習熟度
別指導、児童・生徒の興味・関心に応じた多様
な体験活動などを行う。
不登校生徒に対し、個別指導計画を作成し、習
熟度別クラス編成や体験学習等の導入を行う
とともに、授業時数を増やして指導を行う。
「産業社会と人間」、「進路研究(自己理解)」
等を学校設定科目として設け、不登校状態がそ
れぞれ異なる個々の生徒に、きめ細かな指導と
弾力性を持った教育を提供する。
道徳及び特別活動の時間を統合した「コミュニ
ケーションタイム」を新設し、話し合い、共に
協力しあいながら、自分達のやりたいことを実
現していく方法等を学ばせる。
学齢超過の義務教育未修了者を対象とする二
部学級を設置する中学校。二部学級の生徒との
ふれあい等を通して、学習意欲向上と集団への
適応を目指す。
- 32 -
日本放送協会学園
高等学校
(平成 20 年4月開校)
学校法人
日本放送協会学園
東京都国立市
星槎名古屋中学校
(平成 24 年4月開校)
学校法人
国際学園
愛知県名古屋市
星槎もみじ中学校
(平成 26 年4月開校)
学校法人
国際学園
北海道札幌市
「生活実習」や「職業技術科目」等により、実
習・体験型の学習による達成経験の積み重ねな
どを通じて、生徒の社会性や自立性の育成、活
動意欲や学習意欲の向上を促す。
「基礎学力」及び「社会に適応する能力」向上
を目指した特別な教育課程を編成し、指導を行
う。また、生徒の興味や関心、適性をふまえた
学習意欲を高めるための指導を充実するため
に特別な教育課程を編成し、指導を行う。
「ベーシック」及び「ソーシャルスキルトレー
ニング」を教育課程に位置付け、個々の生徒の
学習の到達度に合わせた指導を行うとともに、
人間関係の構築に必要なスキルを重点的に指
導することにより、「基礎学力」及び「社会に
適応する能力」の向上を目指す。
【不登校特例校に関する実態調査(文部科学省)(平成 28 年)より作成】
【参考】 不登校特例校に関する法令及び国の通知
1
学校教育法施行規則(不登校児に対する教育課程編成の特例)
第 56 条
小学校において、
学校生活への適応が困難であるため相当の期間小学校を欠
席し引き続き欠席すると認められる児童を対象として、その実態に配慮した特
別の教育課程を編成して教育を実施する必要があると文部科学大臣が認める
場合においては、文部科学大臣が別に定めるところにより、第 50 条第1項、
第 51 条又は第 52 条の規定によらないことができる。
2
第 50 条第1項
(教育課程の編成)
第 51 条
(授業時数)
第 52 条
(教育課程の基準)
第 79 条
(中学校への準用規定)
平成 17 年7月6日付け 17 文科初第 485 号「学校教育法施行規則の一部を改
正する省令の施行等について」
(通知)
第1 趣旨
今回の改正又は制定の趣旨は、不登校児童・生徒等の実態に配慮し特別の教
育課程を編成する必要があると認められる場合、特定の学校において教育課程
の基準によらずに特別の教育課程を編成することができるようにするもので
あり、構造改革特別区域法(平成 14 年法律第 189 号)第2条第3項に規定す
る規制の特例措置である「不登校児童生徒等を対象とした学校設置に係る教育
課程弾力化事業」を、同法の定める手続によらずに実施できることとするもの
であること。
- 33 -
第2
1
内容
学校教育法施行規則及び告示関係
(1)
学校生活への適応が困難であるため相当の期間小学校、中学校、
高等学校又は中等教育学校(以下「小学校等」という。
)を欠席して
いると認められる児童生徒、高等学校(中等教育学校の後期課程を
含む。以下同じ。)を退学し、その後高等学校に入学していないと認
められる者又は高等学校の入学資格を有するが、高等学校に入学し
ていないと認められる者(以下「不登校児童生徒等」という。
)を対
象として、その実態に配慮した特別の教育課程を編成して教育を実
施する必要があると文部科学大臣が認める場合、教育課程の基準に
よらずに特別の教育課程を編成して教育を実施することができるこ
ととすること。
(学校教育法施行規則(昭和 22 年文部省令第 11 号。
以下「施行規則」という。)第 26 条の3、第 57 条の4関係)
(2) 教育課程の基準によらないで教育課程を編成することができる場
合は、文部科学大臣が、不登校児童生徒等の実態に配慮した特別の
教育課程を編成して教育を実施する必要があると認めて小学校等を
指定する場合とすること。(文部科学省告示第 98 号関係)
(3) 施行規則第 63 条の2ただし書の規定に基づき、教育課程に関し同
令の規定によらない場合における高等学校の全課程の修了の認定に
ついて、特別の教育課程を編成して教育を実施する高等学校の指定
に係る実施計画に従った教科若しくは科目又はこれらに準ずるもの
を履修し又は習得した生徒について行うものとすること。
(文部科学省告示第 99 号関係)
(4) その他所要の規定の整備を行うこと。
2 指定要項関係
不登校児童生徒等を対象とする特別の教育課程を編成して教育を実施
する小学校等に関し、以下の項目について指定要項において定めること。
①
趣旨 ② 小学校等の指定 ③ 実施 ④ 報告の依頼等
⑤
実施計画の変更 ⑥ 文部科学大臣の是正措置等
⑦
経過措置(指定要項の決定の際現に構造改革特別区域法第4条第8
項の規定による内閣総理大臣の認定を受けて特別の教育課程を編成
して教育を実施している小学校等に係る経過措置。)
- 34 -
第3 留意事項
1 児童生徒について、不登校状態であるか否かは、小学校又は中学校にお
ける不登校児童生徒に関する文部科学省の調査で示された年間 30 日以上
の欠席という定義が一つの参考となり得ると考えられるが、その判断は小
学校等又はその管理機関が行うこととし、例えば、断続的な不登校や不登
校の傾向が見られる児童生徒も対象となり得るものであること。
他方、不登校児童生徒等以外の児童生徒については、特別の教育課程の
対象にはなり得ないこと。
2 特別の教育課程とは、憲法、教育基本法の理念を踏まえ、学校教育法に
定める学校教育の目標の達成に努めつつ、施行規則の定めにかかわらず編
成される教育課程であること。
3
特別の教育課程を実施するにあたっては、不登校児童生徒等の実態に配
慮し、例えば不登校児童生徒等の学習状況にあわせた少人数指導や習熟度
別指導、個々の児童生徒の実態に即した支援(家庭訪問や保護者への支援
等)
、学校外の学習プログラムの積極的な活用など指導上の工夫をするこ
とが望ましいこと。
4(1) 市町村が新たに設置する高等学校若しくは中等教育学校又は学
校法人が新たに設置する小学校、中学校、高等学校若しくは中等
教育学校において特別の教育課程を編成して教育を実施すること
を希望する場合、当該学校の設置認可の前に特別の教育課程を編
成して教育を実施する必要がある学校として指定を受ける必要が
あること。
(2)
市町村が新たに設置する高等学校若しくは中等教育学校又は学
校法人が新たに設置する学校、中学校、高等学校若しくは中等教育
学校について、文部科学大臣が指定をした際には、文部科学省はそ
の旨を速やかに、当該学校の設置認可権者(市町村立の高等学校又
は中等教育学校については都道府県教育委員会、私立の小学校、中
学校、高等学校又は中等教育学校については都道府県知事)に対し
て通知することとしているので、その旨留意すること。
- 35 -
3
「不登校児童生徒への支援に関する最終報告
~一人一人の多様な課題に対
応した切れ目のない組織的な支援の推進~」(不登校に関する調査研究協力者
会議
平成 28 年7月)
第1章
2
本協力者会議の基本姿勢
不登校の変遷
平成 17 年7月、構造改革特別区域法による特区 803「不登校児童生徒
等を対象とした学校設置に係る教育課程弾力化事業」の全国化により、
特別な教育課程を編成する学校(以下「不登校特例校」という。
)が指定
されることとなったが、平成 16 年から全国化される平成 17 年7月まで
に5校、平成 17 年から平成 28 年7月現在までに5校の合計 10 校が指定
されている。
不登校特例校は、文部科学大臣が認定すれば、特別の教育課程による義
務教育等を実施できる仕組みである。現在認定されている中学校の教育課
程は年間の授業時数 700 単位時間程度で実施されており、必ずしも学校単
位だけでなく、分校や分教室の形で認定を受けることも可能である。
不登校特例校は学校教育法上の学校であるため、不登校特例校である中
学校を卒業した者は高等学校入学資格を有することになり、また、市町村
立中学校であれば、当該学校の教職員は国庫負担の対象となる。
第8章
1
国に求められる役割
不登校児童生徒支援のための体制構築に関する支援
(不登校特例校の設置促進)
また、不登校特例校制度の活用を推進するためには、都道府県が不登校
特例校を設置する場合にも、市町村が設置する場合と同様の支援が国から
受けられるよう、制度の見直しを検討することが必要である。
4 「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する
法律」
第 10 条
国及び地方公共団体は、不登校児童生徒に対しその実態に配慮して特別
に編成された教育課程に基づく教育を行う学校の整備及び当該教育を行
う学校における教育の充実のために必要な措置を講ずるよう努めるもの
とする。
- 36 -
第2 不登校特例校の現状
現在、設置されている不登校特例校について、文部科学省が平成 28 年6月 29 日
に公表した「不登校特例校に関する実態調査」の結果によると、以下のことが明ら
かとなっている。
※
「不登校特例校に関する実態調査」調査時点:平成 28 年1月
調査目的:不登校特例校の現状に関する基礎的情報を把握する。
調査対象:特例校 10 校(公立4校、私立6校)
1 教育内容
中学校の各学年における年間の総授業時数が 1,015 時間であるのに対し、不登校
特例校では、多くの学校で総授業時数を 750~770 時間としている。また、不登校
特例校ごとに総合的な学習の時間等を利用し、体験型の学習を多く取り入れている
など、教育課程を工夫している。<図表 19>
図表 19 不登校特例校の特色ある教育課程の事例
○ 年間の総授業時間数の低減 ⇒ 750 時間程度
○
体験型学習として校外学習を年4回以上実施
○
朝の時間や放課後のゆとりを考え、午前2時間・午後2時間を基本に設定
○
コミュニケーション能力の向上を図るため、道徳(35 時間)をソーシャル
スキルトレーニングの授業として実施
○
習熟度別クラスの編成、学年の枠を越えたクラス編成を行い指導を実施
○
一人一人に応じた学習のレベル、学習量、学習のスピードで実施
○
体験的学習時間を多く確保するため、総合的な学習の時間を 85 時間
(1年)~105 時間(2・3年)に増加
【不登校特例校に関する実態調査(文部科学省)(平成 28 年)より作成】
また、
「個別指導」や「社会性を育む指導」について、全ての学校が「とても重
要」又は「重要」と回答しており、習熟度に応じた指導等と合わせ、個々に応じた
きめ細かい指導を実践していることが分かる。
2 進路・サポート体制
進路については、卒業生の 82.6%が高等学校等へ進学している。
サポート体制については、ほとんどの学校にスクールカウンセラーが配置されて
いる。人事配置上の工夫では、担任がスクールカウンセラー的役割を担っていたり、
クラス担任を二人にして男女を組み合わせたりするなどしている。
また、半数の学校でボランティアを活用しており、その活動内容は、個別教科学
習のサポートやスポーツ指導、話し相手・遊び相手などとなっている。
- 37 -
3 授業料等
不登校特例校のうち、私立中学校の授業料の平均は約 476,000 円であり、授業料
以外の納付金の平均は約 294,000 円となっている。経済的負担が大きいという理由
から、入学を断念する児童・生徒も少なからず存在するとされている。
4 効果と課題
不登校特例校の教育上の効果としては、不登校の改善が見られた、自己肯定感が
高まったことで意欲的に物事に取り組めるようになったということなどが挙げら
れている。一方、運営上の課題としては、不登校を経験した児童・生徒の支援に当
たり、人手が不足していることなどが挙げられている。<図表 20>
図表 20 不登校特例校における教育上の効果と運営上の課題
〔教育上の効果〕
○
基礎学力の定着と社会性の育成を行い、上級学校への進学など多くの子供
たちの不登校を改善できている。
○
生徒は各々の発達のペースに合わせた課題設定がなされ、それらのスモー
ルステップに対する取組みが評価されることによって、自己肯定感が高まった。
○
生徒の表情の変化は同時に保護者に対しても反映し、不安や悩みでうつむ
いていたものが、意欲的に学習するように変化している。不登校児童生徒へ
の家庭の応援体制が整うことは、当然生徒にも良い影響を与えている。
○
様々な理由で不登校となり、本来校へ復帰できず行き場のない生徒の学習
の場、居場所として有効である。
〔運営上の課題〕
○
不登校の期間が長い子供たちが転入してくるケースが増えており、不登校
による未学習で基礎基本が大きく欠落している子供が多い。学習に向かう以
前に学校に来ることができないため、まずは登校できることを目指すため、
授業ではなかなか本格的な学習活動に取り組めない現状がある。
○
一人一人の特性にあわせた指導が必要であるが教員の数が足りていない。
不登校の子供たちは人と時間をかければ不登校を改善することができるが、
やればやるほど、内容を充実させようとすればするほど個別の対応が必要に
なり人手不足の改善が難しくなる。
○
私学であるため経済的負担が大きく、高等学校のような就学支援金制度も
ないため、入学を断念する生徒も少なくない。義務教育でこそ、配慮してほ
しい。
○
市内及び近郊の小中学校訪問を中心に広報活動を行っているが、本来の存
在、教育ビジョン等が本校を必要とする生徒へ十分に伝えきれるまでには時
間が必要である。
【不登校特例校に関する実態調査(文部科学省)(平成 28 年)より作成】
- 38 -
【参考】
1
不登校特例校の事例
八王子市立高尾山学園
(1) 不登校児童・生徒のための体験型学校として、廃校になった小学校の
校舎を改築して平成 16 年4月に開校
(2) 教員配置(管理職を除く)
・ 小・中学校併設で教諭 21 名、養護教諭2名(平成 28 年度)
(3)
柔軟な教育課程を編成
・ 年間の総授業時数 760 時間程度 ※1単位時間:45 分
・ 1日5時間(午前3時間、午後2時間)
・ 基礎学力の定着のため、少人数指導やコース別学習を実施
(4) 適応指導教室<平成 26 年4月~>と情緒障害等通級指導学級<平成
27 年4月~>を併設
※転入までの流れ(平成 28 年度)
転入相談は随時行っており、高尾山学園への転入を希望する場合は見
学や相談の上、高尾山学園内に設置されている適応指導教室である「や
まゆり教室」に入室する。その後、年4回行われる転入学検討委員会を
経て、高尾山学園へ転入する。
※市内には「やまゆり教室」以外にも適応指導教室が2ヶ所あり、本人・
保護者の選択の幅がある。
(5) 児童・生徒、保護者のニーズに対応
・ 年度末には 110~120 名が在籍(定員 120 名)
・ 平成 27 年度の卒業生のほとんどは上級学校へ進学
・ 市外や他県から、入学に関する複数の問合せあり(八王子市民の
み入学可)
・ 市の登校支援チームと連携
・ 陶芸などの講座の講師や指導補助員を活用
2
東京都以外の不登校特例校(公立)
<京都市立洛風中学校> ※統廃合校舎を利用
・ 年間の総授業時数 770 時間 ※1単位時間:50 分
・ 教諭(副教頭・指導教諭を含む。
)12 名
・ 独自の科目として、
社会的分野と理科的分野を統合させた「科学の時間」
、
美術、技術、家庭科、音楽を統合させた「創造工房」などを設定
<学科指導教室「ASU」(大和郡山市)> ※市の施設を利用
・ 年間の総授業時数 中学校 840 時間 ※1単位時間:50 分
小学校第3~6学年 805 時間 ※1単位時間:45 分
・ 教員 10 名
・ 独自の科目として、技術・家庭など実技教科の内容を取り入れ、自然体
験を中心とした学習活動を行う「わくわくタイム」、創作や表現を重視し
た芸術的な活動を行う「いきいきタイム」などを設定
<京都市立洛友中学校> ※統廃合校舎を利用
・ 年間の総授業時数 770 時間 ※1単位時間:50 分
・ 教員8名(常勤講師を含む。
)
・ 独自の科目として、二部学級の生徒たちとふれあいながら共に学び、共
に楽しむことを体感する中で、人と人とのつながりの大切さを感じ取れる
よう「交流学習」や「合同授業」を設定
- 39 -
第3 不登校特例校の設置に当たって
1 教育機会確保法の制定
平成 28 年 12 月、教育機会確保法が制定され、第 10 条において、国及び地方公
共団体には、不登校特例校の整備及び当該教育を行う学校における教育の充実のた
めに必要な措置を講ずるよう努めるものとすることが規定された。
このことから、国及び地方公共団体においては、今後、教育支援センターに加え、
不登校特例校についても、児童・生徒への支援策の一つとして、具体的な検討を行
っていくことが必要である。
2 不登校特例校の特徴
教育支援センターに登録し、在籍する児童・生徒の中には、学校に通いたいが在
籍校には戻れない、又は、自分にあった学習のペースで学び、自らの進路に向けて
再チャレンジを図りたいとする不登校児童・生徒が、少なからず存在している。
不登校特例校は、そうした児童・生徒の新たな学びの場として選択肢が広がると
いう点において有効である。
さらに、平成 17 年7月の文部科学省からの通知に示されているように、断続的
な不登校や不登校の傾向が見られる児童・生徒も対象となり得ることから、早期に
対応することで、不登校の状態になる前に、不登校特例校で新たな学校生活を送る
ことも可能となる。
不登校特例校については、主に以下の点がメリットであると言える。
まず1点目は、一定程度の教育の水準を保つことができることである。
文部科学大臣は、申請内容を審査し、学校教育法等の観点から支障がないと認め
られるときは、当該学校を指定することとなっている。つまり、不登校児童・生徒
のための柔軟な教育課程を編成し、文部科学省の指定を受けた上で学校が設置され
るため、不登校特例校では一定程度の教育内容の水準が保たれる。この点が、教育
支援センターとの大きな違いと言える。
2点目は、学校として法律に基づく運営体制が整うことである。
不登校特例校は学校教育法上の学校であるため、不登校特例校である中学校を卒
業した者は、高等学校入学資格を有することになる。また、区市町村が設置する不
登校特例校の教職員は、他の公立学校と同様に国庫負担の対象となる。不登校特例
校には、正規の教職員が配置されることから、これにより、柔軟な教育課程に基づ
く計画的かつ確実な学力保障の機能が確保される。
なお、不登校特例校において、一人一人の児童・生徒に応じた教育を充実させて
いくためには、法律に基づく標準定数では十分とは言えず、追加的な教職員の配置
- 40 -
が必要であることが、前述の不登校特例校に関する実態調査の結果で、課題として
指摘されている。
3点目は、子供たちの学習成果を学校として評価できることである。
教育支援センターにおいて児童・生徒が学習した内容は、在籍校へ報告されると
ともに、テスト等の結果を踏まえて在籍校で評価されることになる。しかし、在籍
校での授業に参加していないことによる情報不足等から、在籍校での評価は、必ず
しも不登校児童・生徒の学力等を適正に判断できているとは言えない現状がある。
他方、不登校特例校は、学校教育法上の学校であるため、児童・生徒が学んだ内
容等は全て評価の対象となる。このような児童・生徒の学力等を適正に判断した評
価を通じ、不登校を経験した児童・生徒はもちろんのこと、教職員や保護者にとっ
ても、児童・生徒の本来の力を把握し、将来の社会的自立に向けて生かしていくこ
とができる。この点において、不登校特例校で学ぶ意義は大きいと言える。
3 考慮すべき事項
不登校特例校では、不登校児童・生徒の心理面等にも配慮した、計画的な教育内
容や指導方法を取り入れ、集団活動を通じて生きることへの自信と社会的自立を目
指す教育課程を編成することで、基礎学力の定着と社会性の育成を行い、上級学校
への進学など、多くの児童・生徒の不登校の状態を改善する教育活動の実践が可能
である。
現在、設置されている不登校特例校では、計画的できめ細かい個に応じた学習指
導のほか、児童・生徒の心のケアやサポート体制の充実に向け、与えられた条件の
中で工夫された取組が行われている。一方、その運営面においては、必ずしも十分
な体制が確保されているとは言えない状況もある。このような実態を踏まえ、不登
校特例校を設置するに当たっては、次のような点についての考慮が必要である。
(1)運営体制の整備
不登校特例校に通ってくる児童・生徒には、発達障害に伴うコミュニケーション
不足や精神的エネルギーの少ない状態、複雑な家庭環境など、様々な課題を有する
場合があることから、一人一人の特性に合わせた指導が求められる。
しかし、現状では、十分な経験や知見を有する教員が不足している状況にあるこ
とから、不登校特例校の運営体制の整備に当たっては、教員への研修の充実を図る
とともに、専門家の配置等を含め、更なる人的支援が必要である。
例えば、現在設置されている不登校特例校の学校生活においては、児童・生徒が
休養を取りたいときに、保健室とは別の居場所(プレイルームなど)があるなど、
児童・生徒が自分のペースで生活できるような環境を整える工夫がなされていると
ころが多い。こうした教育活動や環境整備を更に進めていくためには、教員以外に
- 41 -
も、児童・生徒に関わるスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー等の
職員や、教科指導のための非常勤職員を確保するなど、運営体制を充実させること
が必要である。
(2)設置形態及び設置者
不登校特例校の設置形態としては、地域の状況により、必ずしも学校という形だ
けでなく、分校や分教室も考えられる。
例えば現在、公立で設置している不登校特例校の児童・生徒の受入れ数は、学校
によって 100 名程度から 10 数名程度と様々であり、地域のニーズ等に合わせた形
態で設置されている。
こうした状況を踏まえ、文部科学省による不登校に関する調査研究協力者会議
(平成 28 年7月)の最終報告においても、同様の提言が示されている。特に分教
室の形態での設置については、既設の学校の空き教室等の活用など、設置に係る負
担は少なくてすむ点で有効である。
また、分教室の設置に当たっては、区市町村が設置している不登校児童・生徒の
ための施設からの移行も考えられる。その場合、学校設置者には、これまで培って
きた不登校児童・生徒への指導ノウハウを基礎としながらも、適切な教育課程の編
成に向けた検討や、学校が適切な教育を履行できるよう、指導・助言を行うことが
求められる。
なお、分教室の場合、現行制度上、教職員の配置は本校と一体的に行われる。こ
のため、分教室に通う児童・生徒への教育をより充実させるという観点から、教員
体制等、運営の在り方について検討が必要である。
また、不登校特例校の設置・運営の主体については、義務教育段階であることを
踏まえ、法令に従い区市町村が行うことが望ましい。区市町村立で不登校特例校が
設置されれば、これまで各地区で行ってきた教育支援センターでの不登校児童・生
徒への支援に加えて、新たな学びの場の選択肢が増えることにもなり、不登校児
童・生徒及び不登校傾向のある児童・生徒に対する教育の充実を図ることができる。
さらに、区市町村で設置するメリットとしては、義務教育段階での支援を同一の
区市町村内で一貫して実施できることが挙げられる。例えば、転校前の学校から不
登校特例校への情報の引継ぎ、教育・福祉・保健等の機関が連携した相談体制の構
築など、児童・生徒に対し、途切れることなく支援をしていくことが期待できる。
不登校特例校は、各地区で設置が進むことが望ましいが、各地区の児童・生徒数
や不登校児童・生徒数の違い、不登校支援の取組の差異等があることなどから、不
登校特例校を地区内で設置することが難しい区市町村もあると考えられる。この場
合、近隣の区市町村との共同利用が有効と思われるが、相互に十分な協議を行いな
がら、その仕組みについて検討を進めていく必要がある。
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Ⅲ その他
第1 国や都の役割
1 教育支援センターの充実強化に向けて
教育機会確保法により、国、都及び区市町村は、不登校児童・生徒の学習活動に
対する支援を行う公立の教育施設の整備、及び当該支援を行う公立の教育施設にお
ける教育の充実のために必要な措置を講ずる努力義務が課された。
教育支援センターの充実を図るためには、必要な支援内容や備えるべき機能、体
制の在り方等を踏まえ、それぞれの実態やニーズに合わせて取組を進めていくこと
が重要である。
国や都においては、区市町村がこうした取組を十分に行うことができるよう、必
要な財政支援や、研修を通じた教育支援センターにおける職員の人材育成等を含め
た環境整備を行っていくことが望まれる。
また、フリースクール等民間施設・団体における不登校児童・生徒の居場所づく
り等の効果的な事例を、教育支援センターにおける指導内容に取り入れて検証を図
ることにより、多様化・複雑化する不登校の要因や背景を解消する手立てが得られ
る場合も考えられる。都が、区市町村やフリースクール等民間団体の関係者と、今
後における学校とフリースクール等民間施設・団体との連携・協力について、継続
的に意見交換を行っていくことも大切である。
2 不登校特例校の広がりに向けて
教育機会確保法により、国、都及び区市町村は、不登校児童・生徒に対し、その
実態に配慮して特別に編成された教育課程に基づく教育を行う学校の整備、及び当
該教育を行う学校における教育の充実のために必要な措置を講ずる努力義務が課さ
れた。
しかし、不登校特例校の制度や実施されている教育内容等が、十分に周知されて
いないため、区市町村において設置に向けた検討が未だ十分行われていない現状が
ある。
このため、国においては、不登校特例校制度について、広く教育関係者へ理解促
進を図ることが重要課題となっている。
不登校特例校での学びを必要とする児童・生徒の教育の機会を確保するためには、
国及び都が中心となって、設置者である区市町村へ向けて、不登校特例校の先行事
例や、その効果等の情報を伝えるよう努めるべきである。
- 43 -
また、都は、不登校特例校の広がりに向けて、設置を希望する区市町村と連携し
た取組の実践を積み重ねるとともに、教職員の配置や施設整備の支援を行うなど、
積極的に取り組むべきである。
なお、現在行われている支援の枠組みを有効に生かす観点から、区市町村が設置
している不登校児童・生徒のための施設を、不登校特例校へ移行することも考えら
れる。
さらに、不登校特例校における教育活動を推進していくためには、教職員が不登
校児童・生徒一人一人の特性に合わせた指導を行うことができる十分な経験と知見
を有していることが求められる。そのため、都は教職員への研修やOJTを意図的・
計画的に実施するとともに、不登校特例校が、不登校児童・生徒への対応に関する
実践的な研修の拠点となるよう、区市町村への支援を行うべきである。
3 その他
現在、各学校では、児童・生徒をめぐる課題が多様化・複雑化する中で、専門家
や関係機関との連携を強化し、児童・生徒一人一人に応じた支援を充実させていく
ことが求められている。こうした学校における支援の充実を通じて、児童・生徒の
社会的自立に必要となる力を身に付けさせていくことが大事である。
そのためには、校内体制の充実は欠かせない取組であり、例えば、児童・生徒の
不登校支援や学力向上の推進に向けて、中心的役割を果たす教員の配置を進めるな
ど、教職員の充実に向けた取組を積極的に図るべきである。
- 44 -
第2 不登校施策全般に関する提言
本検討委員会では、不登校児童・生徒の再チャレンジへの支援を図るため、主に
教育支援センターや不登校特例校の充実方策を検討してきたが、議論の過程の中で、
そもそも不登校の状態にならないようにすることが重要であるとの意見が多く出
され、その対策の必要性が示された。そこで、新たな不登校を生まないための方策
について言及する。
1 新たな不登校を生まない取組
現在、学校では、不登校のきっかけや要因の把握、その対処が困難であったり、
不登校が、どの子供にも起こり得るという認識が不足していたりすることが考えら
れる。
また、教員の理解が不足することにより、児童・生徒のサインに教員が気付かな
い場合や、個々の教員は懸命に対応するものの、組織的な対応が十分に機能せず、
不登校を生じさせてしまう場合なども考えられる。
これまで不登校への対応については、各区市町村教育委員会や学校で積み重ねて
きた取組を基本として対策が行われてきたが、これからは専門家による適切なアセ
スメントや、経験に裏付けられた支援も必要と考えられる。
こうしたことから、今後は、適切なアセスメント手法や、教員が児童・生徒の心
の状態を十分に理解するために必要となる効果的な働き掛けの方法などを示す、
「新たに不登校を生まない」ための手引の作成などの取組が望まれる。
また、手引を作成することにより、学校が保護者会や学校だよりなどで情報を発
信し、保護者との共通理解の促進を図ることも期待できる。
なお、手引の効用を最大限発揮させるためには、これを活用する教員が、教育機
会確保法の目的や基本理念をはじめ、不登校対策の意義や背景等を十分に理解し、
早期発見・早期対応の取組の推進に向け、識見を深めておくことが必要である。
このため、都や区市町村においては、教員向けの研修を計画的に充実させていく
取組を検討することが求められる。
2 発達障害のある不登校児童・生徒への対応
都内公立学校の通常の学級に在籍する、発達障害があると考えられる児童・生徒の
割合は、小学校で 6.1%、中学校で 5.0%という調査結果があり、ほとんどの学級に
発達障害のある児童・生徒が在籍していると考えられる(平成 26・27 年東京都教育
庁調査)。
- 45 -
発達障害のある児童・生徒は、その障害特性から、対人関係やコミュニケーショ
ンに課題があることが多く、それが要因となって不登校の状態になっている場合も
想定される。
近年、教育支援センターに通っている児童・生徒の中には、発達障害のある児童・
生徒も増えてきたという声も聞かれる。
こうしたことから、通常の学級における日常の指導においても、発達障害のある児
童・生徒にとって分かりやすい授業を実施するとともに、落ち着いて生活できる教室
環境の整備や、周囲の児童・生徒の理解を深めるなどの教室づくりを行うことが大切
である。そのため、あらかじめ当日の授業の流れ・段取りを伝えること、板書やプリ
ントで大事な部分を色分けするなどのユニバーサルデザインの考え方に基づく指
導・学級づくりや、都内の公立小・中学校の情緒障害等通級指導学級などで行われて
いる、ソーシャルスキルの学習のノウハウを活用した支援が効果的である。
都教育委員会では、平成28年2月に策定した「東京都発達障害教育推進計画」に
基づき、発達障害のある児童・生徒への指導を計画的かつ効果的に実施するため、
学力や社会性の向上を図る様々な取組を予定している。
「新たに不登校を生まない」
という視点から、こうした取組を進めていくことも重要である。
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◆むすびに
本来、全ての児童・生徒にとって学校は、楽しく通いながら自己の能力を存分に発揮
し、学力はもとより、自尊感情や自己肯定感を高めるとともに、集団生活の中で相手を
思いやる気持ちや、他者と共に何かを成し遂げる経験を経ることで社会性を育む、掛け
替えのない場所となるべきところである。
多くの児童・生徒が、学校生活を通してこれらの能力を身に付け、日々次へのステッ
プへと歩みを進めている中、何らかのきっかけで不登校となった児童・生徒に対しても、
教科学習や社会的自立に向けた様々な経験が得られる機会を確保し、いつでも再チャレ
ンジが果たせる場所を用意しておくことが重要である。
また、本検討委員会の議論が進む中、教育機会確保法が成立したことにより、都にお
いては国と協力しつつ、当該地域の状況に応じた不登校施策を策定・実施する責務が規
定されたところである。
こうしたことを背景とし、国及び都には、教育機会の確保等に関する施策を実施する
ため、必要な財政上の措置や、その他の措置を講ずるよう努めていくことが、これまで
以上に強く求められている。
本提言が、教育支援センターの機能強化や不登校特例校の広がりに向け、区市町村に
おいて整備指針を策定するなど、教育機会の確保に係る不登校施策の活性化の一助とな
ることを願っている。
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【参考資料】教育支援センター(適応指導教室)等充実方策検討委員会開催経過
第1回検討委員会 平成28年5月17日
○ 小・中学校における不登校の現状、検討に当たっての主な課題
第2回検討委員会 平成28年6月16日
○ 教育支援センター(適応指導教室)における取組事例の紹介
【発表者】
・ 金木委員(練馬区の不登校対策)
・ 岡田委員(東大和市教育委員会 サポートルーム(適応指導教室)について)
○ 教育支援センター(適応指導教室)の位置付け・機能
第3回検討委員会 平成28年7月11日
○ 教育支援センター(適応指導教室)における取組事例の紹介
【発表者】
・ 村尾委員(品川区教育委員会 不登校対策)
○ 教育支援センター(適応指導教室)の在り方
○ 教育課程特例校における取組事例の紹介
【発表者】
・ 黒沢委員(八王子市立高尾山学園での取組について)
第4回検討委員会 平成28年8月23日
○ 教育支援センター(適応指導教室)における具体的な充実方策
○ 教育課程特例校の取組の広がり
第5回検討委員会 平成28年9月29日
○ 教育課程特例校の取組の広がり
○ 教育支援センター(適応指導教室)等充実方策検討委員会(中間のまとめ)(素案)
第6回検討委員会 平成28年10月13日
○ 教育支援センター(適応指導教室)等充実方策検討委員会(中間のまとめ)(案)
第7回検討委員会 平成28年11月29日
○ 教育支援センター(適応指導教室)における児童・生徒の継続したアセスメントの
在り方について
○ 検討委員会報告に向けた「不登校特例校」に関する報告事項(案)について
第8回検討委員会 平成29年1月31日
○ 教育支援センター(適応指導教室)等充実方策検討委員会(最終報告)(案)
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【参考資料】教育支援センター(適応指導教室)等充実方策検討委員会設置要綱
教育支援センター(適応指導教室)等充実方策検討委員会設置要綱
(設置)
第1 都内教育支援センター(適応指導教室)等の充実・機能強化及び教育課程特例校
の取組の広がりに向け、その果たす役割や指導内容等を明確にするとともに、東京都
教育委員会、区市町村教育委員会、都内公立小中学校の役割分担等に関する検討を行
うため、
「教育支援センター(適応指導教室)等充実方策検討委員会」
(以下「委員会」
という。
)を設置する。
(所掌事項)
第2 委員会は、主に次に掲げる事項について具体的に検討し、その結果を東京都教育
委員会教育長(以下「教育長」という。)に報告する。
(1)教育支援センター(適応指導教室)における効果的な指導内容及び指導方法並び
にそのために必要な人員体制、施設整備等
(2)教育課程特例校の取組を広げるために必要な方策
(3)上記(1)及び(2)に関して、都教育委員会・区市町村教育委員会・都内公立
小中学校が果たすべき役割
(構成)
第3 委員会は、学識経験者、心理・福祉の専門家、都内区市町村教育委員会関係者、
都内公立学校関係者、都内私立学校関係者、民間有識者、その他本会議の目的を達成
するため適当と認められる者のうちから、教育長が任命又は委嘱する者をもって構成
する。
(委員長等)
第4 委員会には、委員長を置く。
2 委員長は、委員の互選により選任する。
3 委員長は、委員会を主宰し、会務を統括する。
4 委員会には、副委員長を置き、委員長は、委員のうちから、副委員長を指名する。
5 副委員長は、委員長を補佐し、委員長が不在のときには、その職務を代理する。
(設置期間)
第5 委員会の設置期間は、
委員会が設置された日から平成 29 年3月 31 日までとする。
(部会の設置)
第6 区市町村の実態に応じた実務的な検討を行うため、委員会に部会を置くことがで
きる。
(意見聴取)
第7 委員会は、必要に応じて関係者を招き、又は関係職員の出席を求め、その意見を
聞くことができる。
(庶務)
第8 本委員会の庶務は、教育庁指導部指導企画課が行う。
(会議及び会議記録)
第9 委員会の会議は、原則として非公開とする。ただし、委員会の会議要旨について
は、会議の都度、委員長又は副委員長が公開・非公開を判断する。
(その他)
第 10 本要綱に定めるもののほか、委員会の運営に関する事項は、委員長が別に定める。
附 則
この要綱は、平成 28 年5月9日から施行する。
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【参考資料】教育支援センター(適応指導教室)等充実方策検討委員会委員名簿
分 野
氏 名
委員長
松田 恵示
学識経験者
副委員長
酒井 朗
現 職
東京学芸大学 副学長
上智大学総合人間科学部教育学科 教授
笹森 洋樹
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所
上席総括研究員
心理
今村 泰洋
世田谷区教育委員会 教育相談・特別支援教育課 教育相談係
教育相談専門指導員
福祉
黒川 綱子
一般社団法人 成年後見センター ハーモニー
社会福祉士/精神保健福祉士
民間
蟇田 薫
私立学校
多田 元樹
淑徳小学校長
安藤 彰啓
文京区教育委員会 教育推進部 教育センター所長
村尾 勝利
品川区教育委員会 教育総合支援センター長
小林 惠美子
区市町村
教育委員会
公立学校
〔 事務局 〕
認定特定非営利活動法人 育て上げネット
若年支援事業部 担当部長
渋谷区教育委員会 教育振興部 教育センター所長
金木 圭一
練馬区教育委員会 教育振興部 副参事
岡田 博史
東大和市教育委員会 指導室長
小林 正隆
小金井市教育委員会 指導室長
千葉 貴樹
日の出町教育委員会 指導室長
笛木 啓介
大田区立御園中学校長
井尻 郁夫
福生市立福生第一中学校長
黒沢 正明
八王子市立高尾山学園校長
東京都教育庁指導部長 出張 吉訓
東京都教育庁教育政策担当部長 東京都教育庁指導部不登校施策担当課長 安部 典子
中西 正樹
東京都教育庁指導部主任指導主事 青海 正
東京都教育庁指導部指導企画課統括指導主事 工藤 和志
東京都教育庁指導部指導企画課課長代理(不登校施策担当)峐下 英男
東京都教育庁指導部指導企画課指導主事 - 50 -
杉山 茂
【参考資料】都内教育支援センター一覧
千代田区 1 白鳥教室
北区
27 ホップ・ステップ・ジャンプ教室
53
小学校適応指導教室
「けやき教室」
54
中学校適応指導教室
「くすのき教室」
町田市
中央区
2 わくわく21
荒川区
28 みらい
港区
3 つばさ教室
板橋区
29 板橋フレンドセンター
新宿区
4 つくし教室
文京区
5 ふれあい学級
台東区
6 あしたば学級
練馬区
7 ステップ学級
墨田区
小金井市 55 もくせい教室
30 フリーマインド
小平市
56 小平市教育支援室あゆみ教室
31 トライ
日野市
57 適応指導教室「わかば教室」
32 光が丘第二
東村山市 58 健全育成学習室「希望学級」
33 チャレンジ学級西新井教室
国分寺市 59 適応指導教室「トライルーム」
足立区
8 サポート学級
9 ブリッジスクール
葛飾区
34 チャレンジ学級綾瀬教室
国立市
60 国立市適応指導教室「さくら」
35 ふれあいスクール明石
福生市
61
36 ふなぼり学校サポート教室
狛江市
62 ゆうゆう教室
学校適応支援室
「そよかぜ教室」
江東区
10
ブリッジスクール
(教育委員会事務局東大島分室)
11 マイスクール八潮
37 こいわ学校サポート教室
12 マイスクール五反田
38 しのざき学校サポート教室
東大和市 63 サポートルーム
品川区
清瀬市
64
適応指導教室
「フレンドルーム」
江戸川区
目黒区
13 めぐろエミール
39 にしかさい学校サポート教室
東久留米市 65
学習適応教室
14 「つばさ」池上教室
40 みなみかさい学校サポート教室
武蔵村山市 66
ゆうゆう教室
15 「つばさ」蒲田教室
41 ひらい学校サポート教室
多摩市
67 適応教室「ゆうかり教室」
16 「つばさ」羽田教室
42 ぎんなん
稲城市
68 梨の実ルーム
羽村市
69
大田区
17 「つばさ」大森教室
八王子市 43 松の実
18 ほっとスクール「城山」
44 やまゆり
19 ほっとスクール「尾山台」
45
羽村市学校適応指導教室
「ハーモニースクール・はむら」
あきる野市 70 適応指導教室「せせらぎ教室」
世田谷区
小学校適応指導教室
「あおぞら」
71 スキップ保谷教室
立川市
渋谷区
20 けやき教室
中野区
21 フリーステップ・ルーム
西東京市
46
中学校適応指導教室
「たまがわ」
72 スキップ田無教室
武蔵野市 47 チャレンジルーム
22
さざんかステップアップ教室
(天沼教室)
青梅市
48 ふれあい学級
23
さざんかステップアップ教室
(和田教室)
府中市
49 けやき教室
24
さざんかステップアップ教室
(荻窪教室)
瑞穂町
73
日の出町 74
大島町
75
適応指導教室
「スタティルーム・いぶき」
適応支援グループ
「レッツ」(Let’s)
大島町教育相談室
適応指導教室パレット
杉並区
50 たまがわ適応指導教室
昭島市
25
豊島区
さざんかステップアップ教室
(宮前教室)
26 柚子の木教室
51 もくせい適応指導教室
調布市
52 太陽の子
【東京都教育庁調べ(平成 28 年 12 月現在)】
- 51 -
【参考資料】東京都教育委員会のこれまでの取組
・ 平成5年度から、学校の組織的な指導体制を確立するため、不登校の生徒数が多
い中学校に対して、不登校加配教員を配置(平成 27 年度は 82 校に配置)
・ 平成7年度から、児童・生徒の相談等に対応するため、スクールカウンセラーの
配置を開始し、平成 15 年度からは、全公立中学校に配置、さらに平成 25 年度から
は、全公立小・中学校に配置。平成 26 年度からは、小5、中1を対象に、スクー
ルカウンセラーによる全員面接を実施し、平成 28 年から全配置校において年間勤
務日数を 35 日から 38 日へ拡大
・ 平成 20 年度から、不登校の児童・生徒一人一人に対して、登校に向けた組織的
な取組や関係機関と連携した支援を進めるため、小・中学校で活用する「個別適応
計画書」の様式を例示
・ 平成 20 年度から、福祉分野の専門性や関係機関とのネットワークを活用し、児
童・生徒が置かれた様々な環境へ働き掛けるなど、不登校等の改善を図るためにス
クールソーシャルワーカーを配置する区市町村を支援(平成 27 年度は 46 区市町で
実施)
・ 平成 21 年度から、不登校等の児童・生徒を学校復帰、就学、就労に導く支援の
推進に向けた意識啓発を行うため、不登校・若者自立支援フォーラムを開催
・ 平成 21 年度から、不登校児童・生徒の家庭を訪問し支援を行う「登校支援員」
(平成 23 年度から「家庭と子供の支援員」事業名を変更)を小・中学校に配置す
る区市町村を支援(平成 27 年度は 29 区市町の全 254 校に配置)
・ 平成 27 年度に、公立学校及び区市町村教育委員会等の教育関係者をはじめ、心
理、福祉、医療、労働、警察、民間支援団体等の関係者による「不登校・中途退学
対策検討委員会」を設置し、報告書を公表
【提示された今後の方向性】
1
今後の支援を検討する上での基本的な考え方
(1)児童・生徒の将来の社会的な自立を目指す
(2)児童・生徒を学校や社会につなぐ
(3)個々の児童・生徒と保護者の状況に寄り添う
2
支援方策を構築していく上での視点
(1)一人一人の児童・生徒に応じた継続的な支援
(2)学校と関係機関とのネットワークの構築
(3)居場所の確保や再チャレンジの機会の提供
3
具体的な方策の方向性
〈五つの仕組みの構築〉
(1)個に応じた計画的な支援の充実
(2)小・中・高の連携による切れ目のない支援
(3)支援ネットワークの構築と支援チームの設置
- 52 -
(4)学校における組織的な取組の充実
(5)再チャレンジのための教育機会の拡充
〈段階に応じた支援の実施(不登校対策)〉
・未然防止の取組
・不登校の早期発見・早期対応
・学校復帰・自立に向けた支援
4
その他
・フリースクール等民間施設・団体との関係の構築
・保護者に対する支援の充実
・ 平成 28 年度は、区市町村教育委員会に、スクールソーシャルワーカー等を活用
した「支援チーム」を設置し、学校、福祉、医療等の関係機関と連携して支援を行
うモデル事業の実施や、小・中学校において、校内で不登校対策の中心的役割を担
う教員を指定し、校内体制を整備するためのモデル事業等を実施
- 53 -
【参考資料】国における不登校対策関連の動向
○ 文部科学省の調査によると、平成 27 年度における不登校児童・生徒数は、全国の小・
中学校で 126,009 人に上っている。このように、全国規模で出現している不登校児童・
生徒への課題認識を背景として、近年、文部科学省や超党派議員連盟による、不登校
施策の充実に向けた新たな検討の動きが表面化している。
○ 都内の不登校施策について提言を行うに当たり、こうした動きを押さえつつ、一定
程度、国の考え方や施策に沿った内容を検討することが、実効性を高める上で不可欠
となる。このため、以下のとおり、当検討委員会の検討テーマに関連する主な国の動
向について概要を記載する。
(記載内容は、文部科学省の通知等から不登校に関連した
ものを抜粋し、東京都教育委員会が一部加筆している。
)
1 「不登校に関する調査研究協力者会議」最終報告の内容
(1)「不登校に関する調査研究協力者会議」について
○ 不登校児童・生徒への支援に関する現状と課題を検証し、改善方策について検討
することを目的に、
平成 27 年1月、
文部科学省初等中等教育局長の諮問機関として、
学識経験者や学校長等で構成する
「不登校に関する調査研究協力者会議」が設置され、
平成 28 年7月に最終報告を公表した。
○ この中では国に対し、不登校児童・生徒の支援に関する条件整備を充実させるこ
とが必要であると提言するとともに、教育委員会や学校等の関係者に対しては、最
終報告を活用し、今後の不登校に関する取組の更なる充実が図られることを期待し
ている。
(2)不登校児童・生徒に対する支援における重点方策
① 「児童生徒理解・教育支援シート」を活用した組織的・計画的支援
○ 「児童生徒理解・教育支援シート」を作成するなど、個々の児童・生徒に合った
支援計画を策定し、
関係者による組織的・計画的な支援を実施することが必要である。
② 不登校児童・生徒に対する多様な教育機会の確保
○ 不登校児童・生徒一人一人の状況に応じて、教育支援センター(適応指導教室)
や不登校特例校など、多様な教育機会を確保する必要がある。
○ 都道府県と市町村がよく連携し、不登校特例校の制度を活用した学校や分校、分
教室の設置を検討していくことも重要なことである。
③ 教育支援センター(適応指導教室)を中核とした体制整備
○ 教育支援センター(適応指導教室)は、不登校児童・生徒への支援に関する知見
や技能が豊富であることから、従来の通所希望者に加えて、今後は通所を希望しな
い不登校児童・生徒に対する訪問支援など、支援の中核的な役割を担うことが期待
される。
(3)不登校特例校における取組に対する現状認識
① 不登校特例校制度の活用
○ 不登校特例校を対象にその実態調査を行ったところ、
「在籍校で不登校状態にあっ
たが、不登校特例校に転入することで登校するようになった又は登校傾向にある児
童・生徒の割合が高まった」等、一定の教育上の効果があったことが分かった。
- 54 -
○ 一方で、不登校特例校への転入学を希望する児童・生徒数は年々増加し、定員超
過の状態が続いている特例校が多く、少人数学習や個々の児童・生徒の状態に合わ
せた支援等、不登校特例校の特徴が損なわれるのではないかといった懸念がある。
(4)教育委員会に求められる役割
① 学校の取組を支援するための教育条件等の整備
○ 教員の資質向上を図る上で、例えば、教員を目指す学生が、教育支援センター(適
応指導教室)などの教育支援機関等において、一定期間利用者と交流を行うことも
有効な取組だと考えられる。
② 学校外の公的機関等の整備充実
○ 不登校は特定の児童・生徒にのみ起こるものでなく、どの児童・生徒にも起こり
得るものであることから、引き続き、教育支援センター(適応指導教室)の整備促
進を図ることが必要である。
③ 教育支援センター(適応指導教室)を中核とした支援ネットワークの整備
○ 支援の中核となる教育支援センター(適応指導教室)等が、学校、児童相談所、
警察、病院、ハローワーク等の関係機関、更には民間施設やNPO等と連携し、不
登校児童・生徒やその保護者を支援するネットワークを整備することが必要である。
(5)国に求められる役割
① 不登校施策の改善へ向けた不断の取組
○ 不登校児童・生徒の社会的自立を支援するため、不登校施策の改善のための不断
の取組をすることが求められている。
○ この報告で重点方策としている教育支援センター(適応指導教室)の設置促進・
機能強化の取組への支援、既存の学校になじめない児童・生徒に対する多様な教育
機会の確保が図られるよう、必要な施策を行うことが求められる。
2 「次世代の学校指導体制の在り方について(最終まとめ)」の内容
(1)背景
○ 文部科学省では、平成 27 年 11 月に、文部科学副大臣を座長とする「次世代の学
校指導体制強化のためのタスクフォース」を設置し、今後の教職員定数等の学校指導
体制の在り方について検討を行い、平成 28 年7月に、検討結果について最終まとめ
を行った。
○ グローバル化や情報化の進展、少子高齢化の進行などにより、社会全体が急速に
変化する中、複雑化・困難化する課題に対応できる「次世代の学校」を構築し、教
員が今まで以上に、一人一人の子供に向き合う時間を確保し、丁寧に関わりながら、
質の高い授業や個に応じた学習指導を実現できるようにすることにより、子供の学
力を保障していくことが必要である。
○ 「次世代の学校」の創生を実現するためには、それに見合った教職員定数の改善
を図ると同時に、教員の質の向上を図る必要がある。
○ このような背景の下、10 年程度を視野に入れた「予算の裏付けのある教職員定数
の中期見通し」として、
「
「次世代の学校」指導体制実現構想(仮称)」
(以下「実現
- 55 -
構想(仮称)
」という。
)を策定し、計画的かつ効果的な教職員定数の改善を行う必
要がある。
(2)次世代の学校を実現するための指導体制強化
① 実現構想(仮称)に盛り込むべき事項
(不登校等の未然防止・早期対応の強化)
○ 不登校等の未然防止や早期対応のためには、一人の学級担任等だけが抱え込むの
ではなく、組織的な指導体制を構築することが不可欠である。
○ そのためには、児童・生徒数で一定規模以上の学校については、担当する授業時
数が軽減され、学校現場の諸課題の対応において中心的な役割を担う教員(児童生
徒支援専任教員)の配置を可能とするため、基礎定数を拡充すべきである。
○ また、こうした教員をバックアップするスクールカウンセラーやスクールソーシ
ャルワーカー等の専門スタッフの配置拡充を図る必要がある。
○ あわせて、教育支援センター(適応指導教室)を全国展開・強化するとともに、
不登校の児童・生徒に配慮した特別の教育課程を編成する学校(不登校特例校)の
設置を促進することが重要である。
3 「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」
の成立(審議経過)
○ 当該法案は、平成 28 年1月4日に開会した第 190 回国会(常会)において提出さ
れた(議案番号 34 号)が、平成 28 年6月1日に、衆議院文部科学委員会において継
続審議とすることが決定された。
○ 平成 28 年9月 26 日に開会した第 192 回国会(臨時会)の議案として、当該法案
が衆議院文部科学委員会に付託され、平成 28 年 11 月 22 日に可決し、参議院に送ら
れた。なお、平成 28 年 11 月 18 日に、衆議院文部科学委員会から、当該法案に対す
る附帯決議が行われている。
○ その後、参議院において、平成 28 年 12 月7日に可決・成立したことにより、平成
28 年 12 月 14 日、当該法律が公布された。なお、平成 28 年 12 月6日に、参議院文教
科学委員会から、当該法案に対する附帯決議が行われている。
- 56 -
【参考資料】文部科学省からの通知
文 科 初 第 255 号
平成 15 年5月 16 日
各 都 道 府 県 教 育 委 員 会 教 育 長
殿
指 定 都 市 教 育 委 員 会 教 育 長
殿
各
事
殿
附 属 学 校 を 置 く 各 国 立 大 学 長
殿
国 立 久 里 浜 養 護 学 校 長
殿
独立行政法人国立オリンピック
殿
記念青少年総合センター理事長
殿
独立行政法人国立青年の家理事長
殿
都
道
府
県
知
独立行政法人国立少年自然の家理事長
殿
文部科学省初等中等教育局長
不登校への対応の在り方について
児童生徒の不登校への対応につきましては、関係者において様々な努力がなされているところ
ですが、不登校児童生徒数は過去最多を更新するなど、憂慮される事態となっております。
文部科学省におきましては、このような状況を踏まえ、平成 14 年9月に「不登校問題に関す
る調査研究協力者会議」を発足させ、①不登校問題の実態の分析、②学校における取組の在り方、
③学校と関係機関の連携の在り方、④その他不登校問題に関連する事項について総合的・専門的
な観点から検討を願い、本年3月に「今後の不登校への対応の在り方について」の報告を取りま
とめていただいたところです。
報告においては、不登校に対応する上で持つべき基本的な姿勢として、
①
不登校については、特定の子どもに特有の問題があることによって起こることではなく、ど
の子どもにも起こりうることとしてとらえ、関係者は、当事者への理解を深める必要があるこ
と。同時に、不登校という状況が継続すること自体は、本人の進路や社会的自立のために望ま
しいことではなく、その対策を検討する重要性について認識を持つ必要がある。
②
不登校については、その要因・背景が多様であることから、教育上の課題としてのみとらえ
て対応することが困難な場合があるが、一方で、児童生徒に対して教育が果たすことができる、
あるいは果たすべき役割が大きいことに着目し、学校や教育委員会関係者等が一層充実した指
導や家庭への働きかけ等を行うことにより、不登校に対する取組の改善を図る必要がある。
という観点から提言がなされているところです。
本通知は、平成4年3月に取りまとめられた有識者による「登校拒否(不登校)問題について」
報告に関する同年9月 24 日付けの文部省初等中等教育局長通知(文初中第 330 号)を踏まえ、
今回新たに取りまとめられた報告に基づき見直しを図り、不登校へ対応する上での留意点等につ
きまとめたものです。
文部科学省としては、この報告の趣旨を踏まえ、今後さらに施策の充実に取り組むこととして
おりますが、貴職におかれましても、下記により不登校に対する取組の充実に一層努められるよ
うお願いします。また、都道府県教育委員会にあっては、所管の学校及び域内の市町村教育委員
会に対して、都道府県知事にあっては、所轄の学校に対して、この趣旨について周知を図るとと
もに、適切な対応がなされるよう御指導をお願いします。なお、本通知に関しては、その内容に
ついて、内閣府、警察庁、法務省及び厚生労働省と協議済であり、また、これらの府省庁に対し、
それぞれの関係機関等に本通知の内容の周知方を依頼済であることを申し添えます。
記
1
不登校に対する基本的な考え方
- 57 -
①
将来の社会的自立に向けた支援の視点
不登校の解決の目標は、児童生徒の将来的な社会的自立に向けて支援することであること。し
たがって、不登校を「心の問題」としてのみとらえるのではなく、
「進路の問題」としてとらえ、
本人の進路形成に資するような指導・相談や学習支援・情報提供等の対応をする必要があること。
②
連携ネットワークによる支援
学校、家庭、地域が連携協力し、不登校の児童生徒がどのような状態にあり、どのような支
援を必要としているのか正しく見極め(
「アセスメント」
)を行い、適切な機関による支援と多
様な学習の機会を児童生徒に提供することが重要であること。その際には、公的機関のみなら
ず、民間施設や NPO 等と積極的に連携し、相互に協力・補完し合うことの意義が大きいこと。
③
将来の社会的自立のための学校教育の意義・役割
義務教育段階の学校は、自ら学び自ら考える力なども含めた「確かな学力」や基本的な生活
習慣、規範意識、集団における社会性等、社会の構成員として必要な資質や能力等をそれぞれ
の発達段階に応じて育成する機能と責務を有しており、関係者はすべての児童生徒が学校に楽
しく通うことができるよう、学校教育の一層の充実のための取組を展開していくことがまずも
って重要であること。
④
働きかけることや関わりを持つことの重要性
児童生徒の立ち直る力を信じることは重要であるが、児童生徒の状況を理解しようとするこ
ともなく、あるいは必要としている支援を行おうとすることもなく、ただ待つだけでは、状況
の改善にならないという認識が必要であること。
⑤
保護者の役割と家庭への支援
保護者を支援し、不登校となった子どもへの対応に関してその保護者が役割を適切に果たせ
るよう、時機を失することなく児童生徒本人のみならず家庭への適切な働きかけや支援を行う
など、学校と家庭、関係機関の連携を図ることが不可欠であること。
2
学校における取組の充実
(1)
児童生徒が不登校とならない、魅力あるよりよい学校づくりのための一般的取組
①
新学習指導要領のねらいの実現
新学習指導要領の下、創意工夫に満ちた教育課程を編成し、各教科、道徳、特別活動は
もとより、新設された「総合的な学習の時間」も有効に活用し、自己理解を深め、自己選
択能力の育成を目指すとともに、社会性の育成や人間関係づくりを目指した様々な取組を
一層積極的に展開することが望まれること。
②
開かれた学校づくり
教育活動の実施に当たっては、地域の様々な場で活動を展開するとともに、指導者につ
いても外部の多様な人材の協力を得るなど、地域社会の教育力を積極的に生かし、学校と
社会とのつながりを強め、開かれた学校づくりを推進すること。
③
きめ細かい教科指導の実施
児童生徒への指導に当たっては、一人一人の個性が異なることを常に意識し具体的な指
導の方法や進度につき、児童生徒の側に立った配慮が必要であること。
④
学ぶ意欲を育む指導の充実
児童生徒が学ぶ意欲を持って主体的に学校に通うことができるよう、発達段階に応じて
自らの生き方や将来に対する夢や目的意識について考えるきっかけを与えることのできる
指導を行うことが重要であること。
⑤
安心して通うことができる学校の実現
いじめや暴力行為を許さない学級づくり、問題行動への毅然とした対応が大切であるこ
と。また、教員による体罰等の人権侵害行為等があってはならないこと。
- 58 -
⑥
児童生徒の発達段階に応じたきめ細かい配慮
各学校種と児童生徒の発達段階に応じた配慮を行うことが重要であること。また、小・中
学校間の接続の改善を図る観点から、小・中連携を一層推進する等の配慮が重要であること。
(2)
きめ細かく柔軟な個別・具体的な取組
①
校内の指導体制及び教職員等の役割
ア
学校全体の指導体制の充実
校長の強いリーダーシップの下、教頭、学級担任、生徒指導主事、教務主任、学年
主任、養護教諭、スクールカウンセラー、相談員等がそれぞれの役割について相互理
解した上で日頃から連携を密にし、一致協力して対応にあたること。
イ
コーディネーター的な不登校対応担当の役割の明確化
不登校児童生徒に対する適切な対応のために、各学校において中心的かつコーディ
ネーター的な役割を果たす教員を明確に位置付けることが必要であること。
ウ
教員の資質向上
児童生徒の教育指導については、教員がその中心的な存在であり、教職員、特に学
級担任は、自らの影響力を常に自覚し、指導に当たる必要があること。
また、各教員が児童生徒に対する共感的理解の基本姿勢を持つことが重要であること。
さらに、初期での判断を誤まらないよう、関連する他分野についての基礎的な知識、
例えば、精神医学の基礎知識や、学習障害(LD)
、注意欠陥/多動性障害(ADHD)等に関
する知識、児童虐待の早期発見や「ひきこもり」に関する知識も身につけておくことが
望ましいこと。
エ
養護教諭の役割
養護教諭が行う情緒の安定を図る等の対応や予防のための健康相談活動の果たす役
割は大きいこと。また、養護教諭と不登校に対応する校内の組織が情報を共有化する
ことが望ましいこと。
オ
スクールカウンセラー等との連携協力
スクールカウンセラーには、
「学校におけるカウンセラー」という性格上、学校の組
織・機能、校風等についてよく承知した上で、独自の資質や対応が求められること。
スクールカウンセラーと教職員が円滑に連携協力していくために、研修等を通じて、
スクールカウンセラーと教職員それぞれの職務内容等の理解を深める必要があること。
②
情報共有のための個別指導記録の作成
校内・関係者間で情報を共有し、共通理解の下で指導・対応に当たる体制を確立すること
が重要であること。そのために、個人情報の取扱いに十分配慮しつつ、保護者や関係機関と
の連携、学年間や小・中学校間、転校先等との引継ぎ、教育委員会への連絡等において活用
することができる不登校児童生徒の個別の指導記録づくりを行うことが有効であること。
③
家庭への訪問等を通じた児童生徒や家庭への適切な働きかけ
不登校児童生徒が学校外の施設に通う場合や家庭にいる場合であっても、学校は当該児
童生徒が自らの学級・学校の在籍児童生徒であることを自覚し、関わりを持ち続けるよう
努めるべきであること。学級担任等の教職員が児童生徒の状況に応じて家庭への訪問を行
うこと等を通じて、その生活や学習の状況を把握し、児童生徒本人やその保護者が必要と
している支援をすることは大切であること。
④
不登校児童生徒の学習状況の把握と学習の評価の工夫
不登校児童生徒が適応指導教室や民間施設等の学校外の施設において指導を受けてい
る場合には、当該児童生徒が在籍する学校がその学習の状況等について把握することは、
学習支援や進路指導を行う上で重要であること。学校が把握した当該学習の計画や内容が
- 59 -
その学校の教育課程に照らし適切と判断される場合には、当該学習の評価を適切に行い指
導要録に記入したり、また、評価の結果を通知表その他の方法により、児童生徒や保護者、
当該施設に積極的に伝えたりすることは、児童生徒の学習意欲に応え、自立を支援する上
で意義が大きいこと。
なお、評価の指導要録への記載については、必ずしもすべての教科・観点について観点
別学習状況及び評定を記載することが求められるのではないが、児童生徒の学習状況を文
章記述するなど、次年度以降の児童生徒の指導の改善に生かすという観点に立った適切な
記載に努めることが求められるものであること。
⑤
児童生徒の再登校に当たっての受入体制
不登校児童生徒が再登校をしてきた場合には、温かい雰囲気の下に自然な形で迎え入れ
られるよう配慮するとともに、徐々に学校生活への適応を図っていけるような指導上の工
夫を行うことが重要であること。
その際には、保健室や相談室等の教室以外の学校の居場所を積極的に活用することが考
えられること。
⑥
児童生徒の立場に立った柔軟な学級替えや転校等の措置
いじめが原因で不登校となっている場合等には、いじめを絶対に許さない毅然とした対
応をとることがまずもって大切であること。また、いじめられている児童生徒に対する緊
急避難としての欠席が弾力的に認められてもよいことはもとより、そのような場合には、
その後の学習に支障がないよう配慮が求められること。そのほか、いじめられた側の生徒
に対して柔軟に学級替えや転校の措置を活用することが考えられること。
また、教員による体罰や暴言等、不適切な言動や指導が不登校の原因となっている場合
は、不適切な言動や指導をめぐる問題の解決に真剣に取り組むとともに、保護者等の意向
を踏まえつつ、十分な教育的配慮を持った上で学級替えや転校を柔軟に認めていくことが
望まれること。
保護者等から学習の遅れに対する不安により、進級時の補充指導や原級留置に関する要
望がある場合には、児童生徒の進路選択へ資するよう補充指導等の実施に関して柔軟に対
応するとともに、校長の責任において原級留置の措置をとるなど、適切な対応をとること
も考えられること。また、こうした措置が考えられる際には、予め保護者等の意向を聴い
て参考とするなどの配慮が望まれること。
3
教育委員会の取組の充実
各都道府県及び市町村教育委員会は、自ら不登校に対する認識を深めるとともに、それぞれ
の立場から積極的に施策を展開し、各学校における取組が効果的に行われるよう支援する必要
があること。
(1)
不登校や長期欠席の早期の把握と対応
各市町村教育委員会においては、不登校や長期欠席は、義務教育制度に関わる重大な課題
であることを認識し、学校等の不登校への対応に関する意識を高めるとともに、学校が家庭
や関係機関等と効果的に連携を図り、課題の早期の解決を図るための体制の確立を促すこと
が重要であること。
(2)
学校等の取組を支援するための教育条件等の整備
①
教員の資質向上
教育委員会における教員の採用・研修を通じた資質向上のための取組が今後一層充実
されることが期待されること。
教員採用については、熱意があり人間性豊かな人材が確保されるよう、採用選考方法
の工夫改善に引き続き努めていく必要があること。
- 60 -
また、初任者研修をはじめとする教職経験に応じた研修、生徒指導・教育相談といっ
た専門的な研修、管理職や生徒指導主事を対象とする研修などの体系化とプログラムの
一層の充実を図ること。
②
きめ細かな指導のための適切な人的措置
不登校を未然に防ぐ魅力ある学校づくり、
「心の居場所」としての学校づくりを進める
ためには、少人数授業やティームティーチング、習熟度別指導などのきめ細かな指導が
可能となるよう、適切な教員配置を行うことが必要であること。
また、小・中学校さらには高等学校の間の連携を推進するため、異校種間の人事交流
や兼務などを進めていくことが期待されること。
不登校児童生徒が多く在籍する学校については、教員の加配等、効果的かつ計画的な人的
配置に努める必要があること。そのためにも日頃より各学校の実情を把握し、また加配等の
措置をした後も、この措置が効果的に活用されているか等の検証を十分に行うこと。
さらに、教員による体罰や暴言等、不適切な言動や指導が不登校の原因となっている
場合は、人的措置を含め、厳正な対応をとることが必要であること。
③
保健室や相談室等の整備
養護教諭の果たす役割や「保健室登校」
・「相談室登校」の意義に鑑み、養護教諭の複
数配置や研修機会の充実、保健室等の環境整備、情報通信機器の整備等が望まれること。
(3)
学校における指導等への支援
①
モデル的な個別指導記録の作成
各市町村教育委員会においては、各学校で活用できるよう個別指導記録のモデル案を
作成することが求められること。また、当該個別指導記録が効果的に活用されるよう適
切な指導が望まれること。
②
転校のための柔軟な措置
いじめや教員による不適切な言動や指導等が不登校の原因となっている場合等には、
市町村教育委員会においては、保護者等の意向を踏まえつつ、学校と連携した適切な教
育的配慮の下に、就学すべき学校の指定の変更や区域外就学を認める措置を講じること
が望まれること。また、他の児童生徒を不登校に至らせるような深刻ないじめや暴力行
為があった場合は、必要に応じて出席停止措置を的確に講ずる必要があること。
(4)
適切な対応の見極め(
「アセスメント」
)及びそのための支援体制づくり
不登校の要因・背景の多様化へ対応するため、各学校が、児童生徒の初期段階のアセスメ
ントに当たり、専門知識をもつ外部の者等の協力を得られる地域の体制を構築する必要があ
ること。
(5)
中学校卒業後の課題への対応
①
高等学校入学者選抜等の改善
高等学校入学者選抜について多様化が進む中、高等学校で学ぶ意欲や能力を有する不
登校生徒について、これを適切に評価することが望まれること。
また、国の実施する中学校卒業程度認定試験の活用について、不登校生徒や保護者に
対して適切な情報提供を行うことが望まれること。
②
高等学校における長期欠席・中途退学への取組の充実
各地域の実情に応じて、中高一貫教育の推進や、総合学科や単位制高等学校等の特色
ある高等学校づくり等も含め、多様な取組や工夫が行われることが期待されること。
③
中学校卒業後の就学・就労やひきこもり傾向のある青少年への支援
中学校時に不登校であり高等学校へ進学しなかった者、又は高等学校へ進学したもの
の中途退学をした者等、中学校卒業後に進学も就労もしていない者等に対して、多様な
- 61 -
進学や職業訓練等の機会等について支援するために、関係行政機関等が連携した地域の
サポートネットワークを整備することが期待されること。
(6)
学校外の公的機関等の整備充実及び活用
① 教育支援センター(いわゆる適応指導教室。以下同じ。)の整備充実やそのための指
針づくり
いわゆる適応指導教室については、その役割や機能に照らし、より適切な呼び方を望
む声があったことから、国として標準的な呼称を用いる場合は、不登校児童生徒に対す
る「教育支援センター」という名称を適宜併用することとした。なお、各地域において
は既に様々な親しみやすい名称を付している実態があり、そうした工夫は今後ともあっ
てよいこと。
各都道府県教育委員会においては、教育支援センターの更なる整備充実のために、域
内の市町村教育委員会と緊密な連携を図りつつ、未整備地域を解消して不登校児童生徒
や保護者が利用しやすい環境づくりを進め、別添1の「教育支援センター整備指針(試
案)
」を参考に、地域の実情に応じた指針を作成し、必要な施策を講じていくことが求め
られること。市町村教育委員会は、主体的に教育支援センターの整備充実を進めていく
ことが必要であること。もとより、市町村教育委員会においても、
「教育支援センター整
備指針」を策定することも考えられること。
また、指導体制をめぐっては指導員の量的不足や専門性の不足等についての課題が指
摘されているところであり、常勤職員の配置やカウンセラー等の専門家等の配置、指導
員の研修の充実等が望まれること。
②
教育センターや教育研究所等における教育相談機能の充実
各教育委員会は、所管する教育センターや教育研究所等における教育相談機能を活用
し、保護者や不登校児童生徒をはじめ、学校、教育支援センター等が身近に助言・援助
を得られる体制の整備を図り、域内の不登校に関する連携ネットワークの機能の充実を
図ることが望ましいこと。
③
社会教育施設の体験活動プログラムの積極的な活用
社会教育施設では、都市部の教育支援センターや小規模な教育支援センターでは提供
しにくい野外体験活動プログラム等が実施されている場合が多いため、これらの体験活
動プログラム等を実施する社会教育施設との積極的な連携が望まれること。
(7)
訪問型支援など保護者への支援の充実
各都道府県及び市町村教育委員会においては、保護者全般に対する不登校への理解を深め
るための啓発を行うことや、不登校のみならず子育てについての保護者に対する支援を充実
することが求められること。
なお、ひきこもりがちな不登校児童生徒やその保護者に対しては、必要な配慮の下、訪問
型の支援を積極的に推進することが期待されること。さらに人間関係づくりや学校復帰等の
次のステップにつながるように、十分に配慮しつつ、相談等のきっかけとして IT 等を活用
することも考えられること。
また、保護者自身が悩みを抱えている場合等もあることから、積極的に保護者へ情報提供
を行うことや保護者のネットワークとの連携等による支援の充実が必要であること。
(8)
官民の連携ネットワーク整備の推進
①
他部局との連携協力のための連絡調整(コーディネート)
各教育委員会においては、学校と関係機関との連携協力を推進するため、積極的に保
健・福祉・医療・労働分野の部局等との調整役(コーディネーター)としての役割を果
たす必要があること。
- 62 -
②
関係機関のネットワークづくりと不登校対策の中核的機能の整備充実
各教育委員会においては、不登校へ対応するための学校、教育支援センター、児童相
談所、警察、病院、ハローワーク等の関係機関や民間施設、NPO 等のネットワークづく
りや、その中核的な機能の整備充実に努める必要があること。
③
民間施設等との連携協力のための情報収集・提供等
不登校児童生徒への支援については、民間施設や NPO 等においても様々な取組がなさ
れており、学校、教育支援センター等の公的機関は、民間施設等の取組の自主性や成果
を踏まえつつ、より積極的な連携を図っていくことが望ましいこと。そのために、各教
育委員会においては、日頃から積極的に情報交換や連携に努めること。
公的機関と民間施設等との連携を進めていく観点から、平成4年9月の初等中等教育
局長通知(文初中第 330 号)の別記「民間施設についてのガイドライン(試案)
」を改訂
したこと(別添2)。
なお、義務教育諸学校の不登校児童生徒が学校外の公的機関や民間施設において相談・指
導を受けている場合の指導要録上の出欠の取扱いについては、別記によるものとすること。
(別記)
不登校児童生徒が学校外の公的機関や民間施設において相談・指導を受けている場合の指導要
録上の出欠の取扱いについて
1
趣旨
不登校児童生徒の中には、学校外の施設において相談・指導を受け、学校復帰への懸命の努
力を続けている者もおり、このような児童生徒の努力を学校として評価し支援するため、我が国
の義務教育制度を前提としつつ、一定の要件を満たす場合に、これら施設において相談・指導を
受けた日数を指導要録上出席扱いとすることができることとする。
2
出席扱いの要件
不登校児童生徒が学校外の施設において相談・指導を受けるとき、下記の要件を満たすととも
に、当該施設への通所又は入所が学校への復帰を前提とし、かつ、不登校児童生徒の自立を助ける
うえで有効・適切であると判断される場合に、校長は指導要録上出席扱いとすることができる。
(1)
保護者と学校との間に十分な連携・協力関係が保たれていること。
(2) 当該施設は、教育委員会等が設置する適応指導教室等の公的機関とするが、公的機関で
の指導の機会が得られないあるいは公的機関に通うことが困難な場合で本人や保護者の
希望もあり適切と判断される場合は、民間の相談・指導施設も考慮されてよいこと。
ただし、民間施設における相談・指導が個々の児童生徒にとって適切であるかどうかに
ついては、校長が、設置者である教育委員会と十分な連携をとって判断するものとするこ
と。このため、学校及び教育委員会においては、
「民間施設についてのガイドライン(試
案)」
(別添2)を参考として、上記判断を行う際の何らかの目安を設けておくことが望ま
しいこと。
(3)
3
当該施設に通所又は入所して相談・指導を受ける場合を前提とすること。
指導要録の様式等について
上記の取扱いの際の指導要録の様式等については、
平成 13 年4月 27 日付け文科初第 193 号
「小
学校児童指導要録、中学校生徒指導要録、高等学校生徒指導要録、中等教育学校生徒指導要録並
びに盲学校、聾学校及び養護学校の小学部児童指導要録、中学部生徒指導要録及び高等部生徒指
導要録の改善等について」のとおりとする。
- 63 -
(別添1)
教育支援センター(適応指導教室)整備指針(試案)
1
趣旨
○
教育委員会は、教育支援センター(以下、センターという。
)の整備に当たって、この指
針の定めるところに留意し、不登校児童生徒に対する適切な支援を行わなければならない。
2
設置の目的
○
センターは、不登校児童生徒の集団生活への適応、情緒の安定、基礎学力の補充、基本的
生活習慣の改善等のための相談・適応指導(学習指導を含む。以下同じ。)を行うことによ
り、その学校復帰を支援し、もって不登校児童生徒の社会的自立に資することを基本とする。
3
自己評価・情報の積極的な提供等
○
センターは、その目的を実現するため、その相談・適応指導、その他のセンターの運営状
況について改善・充実を図るとともに、自ら点検及び評価を行い、その結果を公表するよう
努めるものとする。
○
センターは、その相談・適応指導、その他のセンターの運営の状況について、保護者等に
対して積極的に情報を提供するものとする。
4
対象者
○
入室や退室等に関する方針や基準が明らかにされていること。
○
不登校児童生徒の入退室等の決定については、その態様等を踏まえ、センターにおける指
導の効果が達せられるよう児童生徒の実情等の的確な見極め(アセスメント)に努めるもの
とする。その際には、当該児童生徒が在籍する学校関係者はもとより、専門家を含めて検討
を行うことが望ましい。
○
必要に応じて、中学校を卒業した者についても進路等に関して主として教育相談等による
支援を行うことが望ましい。
5
指導内容・方法
○
児童生徒の立場に立ち、人命や人格を尊重した人間味のある温かい相談・適応指導を行う。
○
相談に関しては、共感的な理解に立ちつつ、児童生徒の自立を支援する立場から実施する。
○
各教科等の学習指導に関しては、在籍校とも連絡をとり、センター及び児童生徒の実情に
応じて実施する。
○
指導内容は、児童生徒の実態に応じて適切に定め、個別指導と併せて、センター及び児童
生徒の実情に応じて集団指導を実施するものとする。その際、児童生徒の実情に応じて体験
活動を取り入れるものとする。
○
家庭訪問による相談・適応指導は、センター、地域、児童生徒の実情に応じて適切に実施
することが望ましい。通室困難な児童生徒については、学校や他機関との連携の下、適切な
配慮を行うことが望ましい。
○
センターは、不登校児童生徒の保護者に対して、不登校の態様に応じた適切な助言・援助
を行うものとする。
6
指導体制
○
センターには、相談・適応指導などに従事する指導員を置くものとする。
○
指導員は、通所の児童生徒の実定員10人に対して少なくとも2人程度置くことが望ましい。
○
指導員は、相談・適応指導、学習指導等に必要な知識及び経験又は技能を有し、かつその
職務を行うに必要な熱意と識見を有するものをあてるものとする。
- 64 -
○
教育委員会は、指導員の資質向上のため適切な研修の機会を確保するよう努めることとする。
○
カウンセラーなどの専門家を常勤又は非常勤で配置し、児童生徒の指導方針等につき、協
力を得ることが望ましい。
○
その他、年齢、職種等、多様な人材の協力を得ることが望ましい。その際、協力を得る人
材の実情に応じ、適切な研修を行い、又は指導体制等を整えることが望ましい。
7
施設・設備等
○
施設・設備は、相談・適応指導を適切に行うために、保健衛生上、安全上及び管理上適切
なものとする。
○
センターは、集団で活動するための部屋、相談室、職員室などを備えることが望ましい。
○
センターは、運動場を備えるなどスポーツ活動や体験活動の実施に関する配慮がなされて
いることが望ましい。適切な施設を有しない場合は、積極的に他のセンター等と連携するこ
とが望ましい。
○
センターでの個別学習や、家庭との連絡のため、必要な情報通信機器・ネットワークが整
備されていることが望ましい。
○
センターには、相談・適応指導を行うため、児童生徒数に応じ、保健衛生上及び安全上必
要な教具(教科用図書、学習ソフト、心理検査用具等)を備えるものとする。また、これら
の教具は、常に改善し、補充するよう努めなければならない。
8
学校との連携
○
指導員等は、不登校児童生徒の態様に応じ、その支援のため、在籍校との緊密な連携を行う
ものとする(定期的な連絡協議会、支援の進め方に関するコーディネート等の専門的な指導等)
。
○
指導員等は、不登校児童生徒の学校復帰後においても、必要に応じて在籍校との連携を図
り、継続的に支援を行うことが望ましい。
○
指導員等は、児童生徒の実情等の的確な見極め(アセスメント)にそった児童生徒の個々
の回復状況を把握し、守秘義務に配慮した上で、本人、保護者の意向を確かめて在籍校に学
習成果等を連絡するものとする。
○
9
指導員等は、不登校に関し、学校に対する専門的な指導・助言・啓発を行う。
他機関・民間施設・NPO法人等との連携
○
センターは、教育センターや社会教育施設などの教育機関や児童相談所、警察、病院、ハ
ローワーク等の関係機関との連携を適切に図り、不登校に関する地域ぐるみのサポートネッ
トワークづくりに努めるものとする。
○
センターは、不登校関係の民間施設、NPO法人等との連携・協力を適切に図ることが望
ましい。
○
民間施設との連携については国が示している「民間施設についてのガイドライン(試案)」
等に留意するものとする。
10
教育委員会の責務
○
教育委員会は、前各項の趣旨が達せられるよう、教育委員会規則の制定や指導体制の充実
等、センターの整備に関し必要な方策を講じなければならない。
○
教育委員会は管轄地域以外のセンターの連携・協力関係が、適切に図ることができるよう
配慮しなくてはならない。
- 65 -
(別添2)
民間施設についてのガイドライン(試案)
このガイドラインは、個々の民間施設についてその適否を評価するという趣旨のものではなく、
不登校児童生徒が民間施設において相談・指導を受ける際に、保護者や学校、教育委員会として
留意すべき点を目安として示したものである。
民間施設はその性格、規模、活動内容等が様々であり、民間施設を判断する際の指針をすべ
て一律的に示すことは困難である。したがって、実際の運用に当たっては、このガイドラインに
掲げた事項を参考としながら、地域の実態等に応じ、各施設における活動を総合的に判断するこ
とが大切である。
1
実施主体について
法人、個人は問わないが、実施者が不登校児童生徒に対する相談・指導等に関し深い理解と知
識又は経験を有し、かつ社会的信望を有していること。
2
事業運営の在り方と透明性の確保について
① 不登校児童生徒の不適応・問題行動に対する相談・指導を行うことを主たる目的としてい
ること。
② 著しく営利本位でなく、入会金、授業料(月額・年額等)
、入寮費(月額・年額等)等が
明確にされ、保護者等に情報提供がなされていること。
3
相談・指導の在り方について
①
児童生徒の人命や人格を尊重した人間味のある温かい相談や指導が行われていること。
② 情緒的混乱、情緒障害及び非行等の態様の不登校など、相談・指導の対象となる者が当該
施設の相談・指導体制に応じて明確にされていること。また、受入れに当たっては面接を行
うなどして、当該児童生徒のタイプや状況の把握が適切に行われていること。
③ 指導内容・方法、相談手法及び相談・指導の体制があらかじめ明示されており、かつ現に
児童生徒のタイプや状況に応じた適切な内容の相談や指導が行われていること。また、我が
国の義務教育制度を前提としたものであること。
4
④
児童生徒の学習支援や進路の状況等につき、保護者等に情報提供がなされていること。
⑤
体罰などの不適切な指導や人権侵害行為が行われていないこと。
相談・指導スタッフについて
① 相談・指導スタッフは児童生徒の教育に深い理解を有するとともに、不適応・問題行動の
問題について知識・経験をもち、その指導に熱意を有していること。
② 専門的なカウンセリング等の方法を行うにあっては、心理学や精神医学等、それを行うに
ふさわしい専門的知識と経験を備えた指導スタッフが指導にあたっていること。
③ 宿泊による指導を行う施設にあっては、生活指導にあたる者を含め、当該施設の活動を行
うにふさわしい資質を具えたスタッフが配置されていること。
5
施設、設備について
① 各施設にあっては、学習、心理療法、面接等種々の活動を行うために必要な施設、設備を
有していること。
② 特に、宿泊による指導を行う施設にあっては、宿舎をはじめ児童生徒が安全で健康的な生
活を営むために必要な施設、設備を有していること。
6
学校、教育委員会と施設との関係について
児童生徒のプライバシーにも配慮の上、学校と施設が相互に不登校児童生徒やその家庭を支援す
るために必要な情報等を交換するなど、学校との間に十分な連携・協力関係が保たれていること。
7
家庭との関係について
① 施設での指導経過を保護者に定期的に連絡するなど、家庭との間に十分な連携・協力関係
が保たれていること。
② 特に、宿泊による指導を行う施設にあっては、たとえ当該施設の指導方針いかなるもので
あっても、保護者の側に対し面会や退所の自由が確保されていること。
- 66 -
17文科初第485号
平成17年7月6日
各 都 道 府 県 教 育 委 員 会
各 指 定 都 市 教 育 委 員 会
各
都
道
府
県
知
事
殿
附属学校を置く各国立大学法人学長
文部科学省初等中等教育局長
学校教育法施行規則の一部を改正する省令の施行等について(通知)
このたび、別添のとおり、
「学校教育法施行規則の一部を改正する省令」(平成 17 年文部科学
省令第 38 号)、
「学校教育法施行規則の規定によらないで教育課程を編成することができる場合
を定める件」(平成 17 年文部科学省告示第 98 号)及び「教育課程に関し学校教育法施行規則の
規定によらない場合における高等学校又は中等教育学校の後期課程の全課程の修了の認定につ
いて定める件」
(平成 17 年文部科学省告示第 99 号)が平成 17 年7月6日に公布、同日に施行さ
れるとともに、
「不登校児童生徒等を対象とする特別の教育課程を編成して教育を実施する学校
に関する指定要項」(文部科学大臣決定。以下「指定要項」という。)が同日に決定されました。
今回の改正又は制定の趣旨、内容及び留意事項は、下記のとおりですので、十分御了知いただ
くようお願いします。
また、各都道府県教育委員会におかれては、所管の学校及び域内の市町村に、各都道府県知事
におかれては、所轄の学校及び学校法人に対して、このことを十分周知されるようお願いします。
記
第1 趣旨
今回の改正又は制定の趣旨は、不登校児童生徒等の実態に配慮した特別の教育課程を編成する
必要があると認められる場合、特定の学校において教育課程の基準によらずに特別の教育課程を
編成することができるようにするものであり、構造改革特別区域法(平成14年法律第189号)
第2条第3項に規定する規制の特例措置である「不登校児童生徒等を対象とした学校設置に係る
教育課程弾力化事業」を、同法の定める手続によらずに実施できることとするものであること。
第2 内容
1
学校教育法施行規則及び告示関係
(1) 学校生活への適応が困難であるため相当の期間小学校、中学校、高等学校又は中等
教育学校(以下「小学校等」という。
)を欠席していると認められる児童生徒、高等
学校(中等教育学校の後期課程を含む。以下同じ。
)を退学し、その後高等学校に入
学していないと認められる者又は高等学校の入学資格を有するが、高等学校に入学し
ていないと認められる者(以下「不登校児童生徒等」という。
)を対象として、その
実態に配慮した特別の教育課程を編成して教育を実施する必要があると文部科学大
臣が認める場合、教育課程の基準によらずに特別の教育課程を編成して教育を実施す
ることができることとすること。(学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11
号。以下「施行規則」という。
)第26条の3、第57条の4関係)
(2) 教育課程の基準によらないで教育課程を編成することができる場合は、文部科学大臣
が、不登校児童生徒等の実態に配慮した特別の教育課程を編成して教育を実施する必要
があると認めて小学校等を指定する場合とすること。
(文部科学省告示第98号関係)
(3) 施行規則第63条の2ただし書の規定に基づき、教育課程に関し同令の規定によら
ない場合における高等学校の全課程の修了の認定について、特別の教育課程を編成し
て教育を実施する高等学校の指定に係る実施計画に従った教科若しくは科目又はこ
- 67 -
れらに準ずるものを履修し又は習得した生徒について行うものとすること。(文部科
学省告示第99号関係)
(4)
2
その他所要の規定の整備を行うこと。
指定要項関係
不登校児童生徒等を対象とする特別の教育課程を編成して教育を実施する小学校等に関し、以
下の項目について指定要項において定めること。
①
趣旨
②
小学校等の指定
③
実施
④
報告の依頼等
⑤
実施計画の変更
⑥
文部科学大臣の是正措置等
⑦
経過措置(指定要項の決定の際現に構造改革特別区域法第4条第8項の規定による内閣
総理大臣の認定を受けて特別の教育課程を編成して教育を実施している小学校等に係る経
過措置。
)
第3 留意事項
1
児童生徒について、不登校状態であるか否かは、小学校又は中学校における不登校児童
生徒に関する文部科学省の調査で示された年間30日以上の欠席という定義が一つの参考
となり得ると考えられるが、その判断は小学校等又はその管理機関が行うこととし、例え
ば、断続的な不登校や不登校の傾向が見られる児童生徒も対象となり得るものであること。
他方、不登校児童生徒等以外の児童生徒については、特別の教育課程の対象にはなり得
ないこと。
2
特別の教育課程とは、憲法、教育基本法の理念を踏まえ、学校教育法に定める学校教育
の目標の達成に努めつつ、施行規則の定めにかかわらず編成される教育課程であること。
3
特別の教育課程を実施するにあたっては、不登校児童生徒等の実態に配慮し、例えば不
登校児童生徒等の学習状況にあわせた少人数指導や習熟度別指導、個々の児童生徒の実態
に即した支援(家庭訪問や保護者への支援等)、学校外の学習プログラムの積極的な活用
など指導上の工夫をすることが望ましいこと。
4(1) 市町村が新たに設置する高等学校若しくは中等教育学校又は学校法人が新たに設
置する小学校、中学校、高等学校若しくは中等教育学校において特別の教育課程を
編成して教育を実施することを希望する場合、当該学校の設置認可の前に、特別の
教育課程を編成して教育を実施する必要がある学校として指定を受ける必要があ
ること。
(2) 市町村が新たに設置する高等学校若しくは中等教育学校又は学校法人が新たに設
置する小学校、中学校、高等学校若しくは中等教育学校について、文部科学大臣が
指定をした際には、文部科学省はその旨を速やかに、当該学校の設置認可権者(市
町村立の高等学校又は中等教育学校については都道府県教育委員会、私立の小学校、
中学校、高等学校又は中等教育学校については都道府県知事)に対して通知するこ
ととしているので、その旨留意すること。
5
指定を受けた小学校等については、文部科学省ホームページにおいて公表するもので
あること。
- 68 -
28文科初第770号
平成28年9月14日
各 都 道 府 県 教 育 委 員 会 教 育 長
各 指 定 都 市 教 育 委 員 会 教 育 長
各
都
道
府
県
知
事
附属学校を置く各国立大学法人学長
小中高等学校を設置する学校設置会社を
所 轄 す る 構 造 改 革 特 別 区 域 法 第 12 条 第
1 項の認定を受けた各地方公共団体の長
文部科学省初等中等教育局長
不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)
不登校児童生徒への支援につきましては、関係者において様々な努力がなされ、児童生徒の社
会的自立に向けた支援が行われてきたところですが、不登校児童生徒数は依然として高水準で推
移しており、生徒指導上の喫緊の課題となっております。
文部科学省におきましては、こうした状況を踏まえ、平成 27 年 1 月に「不登校に関する調査
研究協力者会議」を発足させ、①不登校児童生徒の実情の把握・分析、②学校における不登校児
童生徒への支援の現状と改善方策、③学校外における不登校児童生徒への支援の現状と改善方策、
④その他不登校に関連する施策の現状と課題について総合的・専門的な観点から検討を願い、本
年 7 月に「不登校児童生徒への支援に関する最終報告~一人一人の多様な課題に対応した切れ目
のない組織的な支援の推進~」を取りまとめていただいたところです。
報告においては、不登校児童生徒を支援する上での基本的な姿勢として、
①
不登校については、取り巻く環境によっては、どの児童生徒にも起こり得ることとして捉え
る必要がある。また、不登校という状況が継続し、結果として十分な支援が受けられない状況
が継続することは、自己肯定感の低下を招くなど、本人の進路や社会的支援のために望ましい
ことではないことから、支援を行う重要性について十分に認識する必要がある。
②
不登校については、その要因や背景が多様・複雑であることから、教育の観点のみで捉えて
対応することが困難な場合があるが、一方で、児童生徒に対して教育が果たす役割が大きいこ
とから、学校や教育関係者が一層充実した指導や家庭への働き掛け等を行うとともに、学校へ
の支援体制や関係機関との連携協力等のネットワークによる支援等を図ることが必要である。
③
不登校とは、多様な要因・背景により、結果として不登校状態になっているということであ
り、その行為を「問題行動」と判断してはならない。不登校児童生徒が悪いという根強い偏見
を払拭し、学校・家庭・社会が不登校児童生徒に寄り添い共感的理解と受容の姿勢を持つこと
が、児童生徒の自己肯定感を高めるためにも重要であり、周囲の大人との信頼関係を構築して
いく過程が社会性や人間性の伸長につながり、結果として児童生徒の社会的自立につながるこ
とが期待される。
という観点が示されたところです。
本通知は、今回取りまとめられた最終報告に基づき、不登校児童生徒への支援についてまと
めたものです。文部科学省としては、この最終報告の趣旨を踏まえ、今後更に施策の充実に取
り組むこととしておりますが、貴職におかれましても、下記により不登校児童生徒への支援の
充実に一層努められるようお願いします。また、都道府県・指定都市教育委員会にあっては所
管の学校及び域内の市区町村教育委員会に対して、都道府県知事にあっては所轄の私立学校に
対して、国立大学法人の長にあっては設置する附属学校に対して、株式会社立学校を認定した
地方公共団体の長にあっては認可した学校に対して、この趣旨について周知を図るとともに、
- 69 -
適切な対応がなされるよう御指導をお願いします。本通知に関しては、その内容について、内
閣府、警察庁、法務省及び厚生労働省と協議済であることを申し添えます。
記
1
不登校児童生徒への支援に対する基本的な考え方
(1)
支援の視点
不登校児童生徒への支援は、
「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではな
く、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す必要がある
こと。また、児童生徒によっては、不登校の時期が休養や自分を見つめ直す等の積極的な
意味を持つことがある一方で、学業の遅れや進路選択上の不利益や社会的自立へのリスク
が存在することに留意すること。
(2)
学校教育の意義・役割
特に義務教育段階の学校は、各個人の有する能力を伸ばしつつ、社会において自立的に
生きる基礎を養うとともに、国家・社会の形成者として必要とされる基本的な資質を培う
ことを目的としており、その役割は極めて大きいことから、学校教育の一層の充実を図る
ための取組が重要であること。また、不登校児童生徒への支援については児童生徒が不登
校となった要因を的確に把握し、学校関係者や家庭、必要に応じて関係機関が情報共有し、
組織的・計画的な、個々の児童生徒に応じたきめ細やかな支援策を策定することや、社会
的自立へ向けて進路の選択肢を広げる支援をすることが重要であること。さらに、既存の
学校教育になじめない児童生徒については、学校としてどのように受け入れていくかを検
討し、なじめない要因の解消に努める必要があること。
また、児童生徒の才能や能力に応じて、それぞれの可能性を伸ばせるよう、本人の希望
を尊重した上で、場合によっては、教育支援センターや不登校特例校、ICTを活用した
学習支援、フリースクール、夜間中学での受入れなど、様々な関係機関等を活用し社会的
自立への支援を行うこと。
その際、フリースクールなどの民間施設やNPO等と積極的に連携し、相互に協力・補
完することの意義は大きいこと。
(3)
不登校の理由に応じた働き掛けや関わりの重要性
不登校児童生徒が、主体的に社会的自立や学校復帰に向かうよう、生徒自身を見守り
つつ、不登校のきっかけや継続理由に応じて、その環境づくりのために適切な支援や働
き掛けを行う必要があること。
(4)
家庭への支援
家庭教育は全ての教育の出発点であり、不登校児童生徒の保護者の個々の状況に応じた
働き掛けを行うことが重要であること。また、不登校の要因・背景によっては、福祉や医
療機関等と連携し、家庭の状況を正確に把握した上で適切な支援や働き掛けを行う必要が
あるため、家庭と学校、関係機関の連携を図ることが不可欠であること。その際、保護者
と課題意識を共有して一緒に取り組むという信頼関係をつくることや、訪問型支援による
保護者への支援等、保護者が気軽に相談できる体制を整えることが重要であること。
2
学校等の取組の充実
(1)
「児童生徒理解・教育支援シート」を活用した組織的・計画的支援
不登校児童生徒への効果的な支援については、学校及び教育支援センターなどの関係機
関を中心として組織的・計画的に実施することが重要であり、また、個々の児童生徒ごと
に不登校になったきっかけや継続理由を的確に把握し、その児童生徒に合った支援策を策
定することが重要であること。その際、学級担任、養護教諭、スクールカウンセラー、ス
クールソーシャルワーカー等の学校関係者が中心となり、児童生徒や保護者と話し合うな
どして、
「児童生徒理解・教育支援シート(試案)」(別添1)
(以下「シート」という。
)
- 70 -
を作成することが望ましいこと。これらの情報は関係者間で共有されて初めて支援の効果
が期待できるものであり、必要に応じて、教育支援センター、医療機関、児童相談所等、
関係者間での情報共有、小・中・高等学校間、転校先等との引継ぎが有効であるとともに、
支援の進捗状況に応じて、定期的にシートの内容を見直すことが必要であること。また、
校務効率化の観点からシートの作成に係る業務を効率化するとともに、引継ぎに当たって
個人情報の取扱いに十分留意することが重要であること。
なお、シートの作成及び活用に当たっては、
「児童生徒理解・教育支援シートの作成と
活用について」
(別添2)を参照すること。
(2)
①
不登校が生じないような学校づくり
魅力あるよりよい学校づくり
児童生徒が不登校になってからの事後的な取組だけでなく、児童生徒が不登校にならな
い、魅力ある学校づくりを目指すことが重要であること。
②
いじめ、暴力行為等問題行動を許さない学校づくり
いじめや暴力行為を許さない学校づくり、問題行動へのき然とした対応が大切であるこ
と。また教職員による体罰や暴言等、不適切な言動や指導は許されず、教職員の不適切な
言動や指導が不登校の原因となっている場合は、懲戒処分も含めた厳正な対応が必要であ
ること。
③
児童生徒の学習状況等に応じた指導・配慮の実施
学業のつまずきから学校へ通うことが苦痛になる等、学業の不振が不登校のきっかけの
一つとなっていることから、児童生徒が学習内容を確実に身に付けることができるよう、
指導方法や指導体制を工夫改善し、個に応じた指導の充実を図ることが望まれること。
④
保護者・地域住民等の連携・協働体制の構築
社会総掛かりで児童生徒を育んでいくため、学校、家庭及び地域等との連携・協働体制
を構築することが重要であること。
⑤
将来の社会的自立に向けた生活習慣づくり
児童生徒が将来の社会的自立に向けて、主体的に生活をコントロールする力を身に付け
ることができるよう、学校や地域における取組を推進することが重要であること。
(3)
①
不登校児童生徒に対する効果的な支援の充実
不登校に対する学校の基本姿勢
校長のリーダーシップの下、教員だけでなく、様々な専門スタッフと連携協力し、組織
的な支援体制を整えることが必要であること。
②
早期支援の重要性
不登校児童生徒の支援においては、予兆への対応を含めた初期段階からの組織的・計画
的な支援が必要であること。
③
効果的な支援に不可欠なアセスメント
不登校の要因や背景を的確に把握するため、学級担任の視点のみならず、スクールカウ
ンセラー及びスクールソーシャルワーカー等によるアセスメント(見立て)が有効である
こと。また、アセスメントにより策定された支援計画を実施するに当たっては、学校、保
護者及び関係機関等で支援計画を共有し、組織的・計画的な支援を行うことが重要である
こと。
④
スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーとの連携協力
学校においては、相談支援体制の両輪である、スクールカウンセラー及びスクールソー
シャルワーカーを効果的に活用し、学校全体の教育力の向上を図ることが重要であること。
- 71 -
⑤
家庭訪問を通じた児童生徒への積極的支援や家庭への適切な働き掛け
学校は、プライバシーに配慮しつつ、定期的に家庭訪問を実施して、児童生徒の理解に
努める必要があること。また、家庭訪問を行う際は、常にその意図・目的、方法及び成果
を検証し適切な家庭訪問を行う必要があること。
なお、家庭訪問や電話連絡を繰り返しても児童生徒の安否が確認できない等の場合は、
直ちに市町村又は児童相談所への通告を行うほか、警察等に情報提供を行うなど、適切な
対処が必要であること。
⑥
不登校児童生徒の登校に当たっての受入体制
不登校児童生徒が登校してきた場合は、温かい雰囲気で迎え入れられるよう配慮すると
ともに、保健室、相談室及び学校図書館等を活用しつつ、徐々に学校生活への適応を図っ
ていけるような指導上の工夫が重要であること。
⑦
児童生徒の立場に立った柔軟な学級替えや転校等の対応
いじめが原因で不登校となっている場合等には、いじめを絶対に許さないき然とした対
応をとることがまずもって大切であること。また、いじめられている児童生徒の緊急避難
としての欠席が弾力的に認められてもよく、そのような場合には、その後の学習に支障が
ないよう配慮が求められること。そのほか、いじめられた児童生徒又はその保護者が希望
する場合には、柔軟に学級替えや転校の措置を活用することが考えられること。
また、
教員による体罰や暴言等、不適切な言動や指導が不登校の原因となっている場合は、
不適切な言動や指導をめぐる問題の解決に真剣に取り組むとともに、保護者等の意向を踏ま
え、十分な教育的配慮の上で学級替えや転校を柔軟に認めていくことが望まれること。
保護者等から学習の遅れに対する不安により、進級時の補充指導や進級や卒業の留保に
関する要望がある場合には、補充指導等の実施に関して柔軟に対応するとともに、校長の
責任において進級や卒業を留保するなどの措置をとるなど、適切に対応する必要があるこ
と。また、欠席日数が長期にわたる不登校児童生徒の進級や卒業に当たっては、あらかじ
め保護者等の意向を確認するなどの配慮が重要であること。
(4)
不登校児童生徒に対する多様な教育機会の確保
不登校児童生徒の一人一人の状況に応じて、教育支援センター、不登校特例校、フリース
クールなどの民間施設、ICTを活用した学習支援など、多様な教育機会を確保する必要が
あること。また、夜間中学において、本人の希望を尊重した上での受入れも可能であること。
義務教育段階の不登校児童生徒が学校外の公的機関や民間施設において、指導・助言
等を受けている場合の指導要録上の出欠の取扱いについては、別記によるものとし、高
等学校における不登校生徒が学校外の公的機関や民間施設において、指導・助言等を受
けている場合の指導要録上の出欠の取扱いについては、平成 21 年 3 月 12 日付け 20 文科
初第 1346 号「高等学校における不登校生徒が学校外の公的機関や民間施設において相
談・指導を受けている場合の対応について」によるものとすること。また、義務教育段
階の不登校児童生徒が自宅においてICT等を活用した学習活動を行った場合の指導要
録上の出欠の取扱いについては、平成 17 年 7 月 6 日付け 17 文科初第 437 号「不登校児
童生徒が自宅においてIT等を活用した学習活動を行った場合の指導要録上の出欠の取
扱い等について」によるものとすること。その際、不登校児童生徒の懸命の努力を学校
として適切に判断すること。
なお、不登校児童生徒が民間施設において相談・指導を受ける際には、
「民間施設につ
いてのガイドライン(試案)」(別添3)を参考として、判断を行う際の何らかの目安を
設けておくことが望ましいこと。
また、体験活動においては、児童生徒の積極的態度の醸成や自己肯定感の向上等が期待
されることから、青少年教育施設等の体験活動プログラムを積極的に活用することが有効
であること。
- 72 -
(5)
①
中学校卒業後の支援
高等学校入学者選抜等の改善
高等学校入学者選抜について多様化が進む中、高等学校で学ぶ意欲や能力を有する不登
校生徒について、これを適切に評価することが望まれること。
また、国の実施する中学校卒業程度認定試験の活用について、やむを得ない事情により
不登校となっている生徒が在学中に受験できるよう、不登校生徒や保護者に対して適切な
情報提供を行うことが重要であること。
②
高等学校における長期欠席・中途退学への取組の充実
就労支援や教育的ニーズを踏まえた特色ある高等学校づくり等も含め、様々な取組や工
夫が行われることが重要であること。
③
中学校卒業後の就学・就労や「ひきこもり」への支援
中学校時に不登校であり、中学校卒業後に進学も就労もしていない者、高等学校へ進学
したものの学校に通えない者、中途退学した者等に対しては、多様な進学や職業訓練等の
機会等について相談できる窓口や社会的自立を支援するための受皿が必要であること。ま
た、関係行政機関等が連携したり、情報提供を行うなど、社会とのつながりを絶やさない
ための適切な対応が必要であること。
3
教育委員会の取組の充実
(1)
不登校や長期欠席の早期把握と取組
教育委員会においては、学校等の不登校への取組に関する意識を更に高めるとともに、
学校が家庭や関係機関等と効果的に連携を図り、不登校児童生徒に対する早期の支援を図
るための体制の確立を支援することが重要であること。
(2)
①
学校等の取組を支援するための教育条件等の整備等
教員の資質向上
教育委員会における教員の採用・研修を通じた資質向上のための取組は不登校への適切
な対応に資する重要な取組であり、初任者研修を始めとする教職経験に応じた研修、生徒
指導・教育相談といった専門的な研修、管理職や生徒指導主事を対象とする研修などの体
系化とプログラムの一層の充実を図り、不登校に関する知識や理解、児童生徒に対する理
解、関連する分野の基礎的な知識などを身に付けさせていくことが必要であること。また、
指導的な教員を対象にカウンセリングなどの専門的な能力の育成を図るとともに、スクー
ルカウンセラー及びスクールソーシャルワーカー等の専門性と連動した学校教育への更
なる理解を図るといった観点からの研修も重要であること。
②
きめ細やかな指導のための適切な人的措置
不登校が生じないための魅力ある学校づくり、
「心の居場所」としての学校づくりを進
めるためには、児童生徒一人一人に対してきめ細やかな指導が可能となるよう、適切な教
員配置を行うことが必要であること。また、異校種間の人事交流や兼務などを進めていく
ことも重要であること。
不登校児童生徒が多く在籍する学校については、教員の加配等、効果的かつ計画的な
人的配置に努める必要があること。そのためにも日頃より各学校の実情を把握し、また加
配等の措置をした後も、この措置が効果的に活用されているか等の検証を十分に行うこと。
③
保健室、相談室や学校図書館等の整備
養護教諭の果たす役割の大きさに鑑み、養護教諭の複数配置や研修機会の充実、保健室、
相談室及び学校図書館等の環境整備、情報通信機器の整備等が重要であること。
④
転校のための柔軟な措置
- 73 -
いじめや教員による不適切な言動や指導等が不登校の原因となっている場合には、市区町
村教育委員会においては、児童生徒又は保護者等が希望する場合、学校と連携した適切な教
育的配慮の下に、就学すべき学校の指定変更や区域外就学を認めるなどといった対応も重要
であること。また、他の児童生徒を不登校に至らせるような深刻ないじめや暴力行為があっ
た場合は、必要に応じて出席停止措置を講じるなど、き然とした対応の必要があること。
⑤ 義務教育学校設置等による学校段階間の接続の改善
義務教育学校等において9年間を見通した生徒指導の充実等により不登校を生じさせ
ない取組を推進することが重要であること。また、小中一貫教育を通じて蓄積される優れ
た不登校への取組事例を広く普及させることが必要であること。
⑥
アセスメント実施のための体制づくり
不登校の要因・背景が多様・複雑化していることから、初期の段階での適切なアセスメ
ントを行うことが極めて重要であること。そのためには、児童生徒の状態によって、専門
家の協力を得る必要があり、スクールカウンセラー及びスクールソーシャルワーカーの配
置・派遣など学校をサポートしていく体制の検討が必要であること。
(3)
①
教育支援センターの整備充実及び活用
教育支援センターを中核とした体制整備
今後、教育支援センターは通所希望者に対する支援だけでなく、これまでに蓄積された
知見や技能を生かし、通所を希望しない者への訪問型支援、シートのコンサルテーション
の担当など、不登校児童生徒への支援の中核となることが期待されること。
また、不登校児童生徒の無償の学習機会を確保し、不登校児童生徒への支援の中核的な
役割を果たしていくため、未設置地域への教育支援センターの設置又はこれに代わる体制
整備が望まれること。そのため、都道府県教育委員会は、域内の市区町村教育委員会と緊
密な連携を図りつつ、未整備地域を解消して不登校児童生徒や保護者が利用しやすい環境
づくりを進め、
「教育支援センター整備指針(試案)」
(別添 4)を参考に、地域の実情に
応じた指針を作成し必要な施策を講じていくことが求められること。
市区町村教育委員会においては、主体的に教育支援センターの整備充実を進めていくこ
とが必要であり、教育支援センターの設置促進に当たっては、例えば、自治体が施設を設
置し、民間の協力の下に運営する公民協営型の設置等も考えられること。もとより、市区
町村教育委員会においても、「教育支援センター整備指針」を策定することも考えられる
こと。その際には、教育支援センターの運営が不登校児童生徒及びその保護者等のニーズ
に沿ったものとなるよう留意すること。
なお、不登校児童生徒への支援の重要性に鑑み、私立学校等の児童生徒の場合でも、在
籍校と連携の上、教育支援センターの利用を認めるなど柔軟な運用がなされることが望ま
しいこと。
②
教育支援センターを中核とした支援ネットワークの整備
教育委員会は、積極的に、福祉・保健・医療・労働部局等とのコーディネーターとして
の役割を果たす必要があり、各学校が関係機関と連携しやすい体制を構築する必要がある
こと。また、教育支援センター等が関係機関や民間施設等と連携し、不登校児童生徒やそ
の保護者を支援するネットワークを整備することが必要であること。
(4)
訪問型支援など保護者への支援の充実
教育委員会においては、保護者に対し、不登校のみならず子育てや家庭教育についての
相談窓口を周知し、不登校への理解や不登校となった児童生徒への支援に関しての情報提
供や相談対応を行うなど、保護者に寄り添った支援の充実が求められること。また、プラ
イバシーに配慮しつつも、困難を抱えた家庭に対する訪問型支援を積極的に推進すること
が重要であること。
- 74 -
(別記)
義務教育段階の不登校児童生徒が学校外の公的機関や民間施設において相談・指導を受け
ている場合の指導要録上の出欠の取扱いについて
1
趣旨
不登校児童生徒の中には、学校外の施設において相談・指導を受け、学校復帰への懸命の努力
を続けている者もおり、このような児童生徒の努力を学校として評価し支援するため、我が国の
義務教育制度を前提としつつ、一定の要件を満たす場合に、これら施設において相談・指導を受
けた日数を指導要録上出席扱いとすることができることとする。
2
出席扱いの要件
不登校児童生徒が学校外の施設において相談・指導を受けるとき、下記の要件を満たすととも
に、当該施設への通所又は入所が学校への復帰を前提とし、かつ、不登校児童生徒の自立を助け
るうえで有効・適切であると判断される場合に、校長は指導要録上出席扱いとすることができる。
(1)
保護者と学校との間に十分な連携・協力関係が保たれていること。
(2) 当該施設は、教育委員会等が設置する教育支援センター等の公的機関とするが、公的機
関での指導の機会が得られないあるいは公的機関に通うことが困難な場合で本人や保護
者の希望もあり適切と判断される場合は、民間の相談・指導施設も考慮されてよいこと。
ただし、民間施設における相談・指導が個々の児童生徒にとって適切であるかどうかに
ついては、校長が、設置者である教育委員会と十分な連携をとって判断するものとするこ
と。このため、学校及び教育委員会においては、
「民間施設についてのガイドライン」
(別
添3)を参考として、上記判断を行う際の何らかの目安を設けておくことが望ましいこと。
(3)
3
当該施設に通所又は入所して相談・指導を受ける場合を前提とすること。
指導要録の様式等について
上記の取扱いの際の指導要録の様式等については、平成 22 年 5 月 11 日付け 22 文科初第 1 号
「小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及び指導要録の改
善等について」のとおりとする。
- 75 -
別添1
取扱注意
児童生徒理解・教育支援シート(試案)
(小)
(中)
(高)
児童生徒名
分類番号
- 76 -
児童生徒理解・教育支援シート(共通 シート)
作成日:平成○年○月○日
作成者 H○(記入者名) 追記者 H○(記入者名)/H○(記入者名)/…
名前(よみがな)
○学年別欠席日数等 追記日→
性別
生年月日
○/○
年度
学年
小1
小2
小3
小4
小5
出席しなければならない日数
出席日数
別室登校
遅刻
早退
欠席日数
指導要録上の出席扱い
①教育支援センター
②教育委員会所管の機関(①除く。)
③児童相談所・福祉事務所
④保健所、精神保健福祉センター
⑤病院、診療所
⑥民間団体、民間施設
⑦その他の機関等
⑧IT等の活用
○支援を継続する上での基本的な情報
特記事項(本人の強み、アセスメントの情報等)
○家族関係
特記事項(生育歴、本人を取り巻く状況(家族の状況も含む。)、作成日以降の変化等)
備考欄
- 77 -
小6
中1
中2
中3
高1
高2
高3
高4
児童生徒理解・教育支援シート(学年別 シート)
担任名
作成日 平成○年○月○日
作成者 管理職名
追記者 ○/○(記入者名)、○/○(記入者名)、…
名前
性別
学校名
学年
学級
○支援チーム(校内・校外)
○月別欠席状況等 ※追記日→
月
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
出席しなければならない日数
出席日数
別室登校
遅刻
早退
累積欠席日数
欠席日数(出席扱いを含む)
指導要録上の出席扱い
①教育支援センター
②教育委員会所管の機関(①除く。)
③児童相談所・福祉事務所
④保健所、精神保健福祉センター
⑤病院、診療所
⑥民間団体、民間施設
⑦その他の機関等
⑧IT等の活用
○不登校(継続)の理由
○本人の状況・意向
1学期
2学期
3学期
1学期
2学期
3学期
○保護者の状況・意向
○具体的な支援方針
具体的な支援内容
目標
学校
関係機関
1学期
○月○日
2学期
○月○日
3学期
○月○日
○次年度への引継事項(支援・指導の参考となるエピソード等も含め、多様な視点で記入)
- 78 -
経過・評価
3
計
児童生徒理解・教育支援シート(ケース会議・検討会等記録)
日付 学年・組
記録者
参加者・機関名
名前
○本人の意向
○保護者の意向
○関係機関からの情報
○支援状況
支援目標
機関・分掌ごとの役割分担
短期目標
経過・評価
○確認・同意事項
○特記事項
- 79 -
別添2
児童生徒理解・教育支援シートの作成と活用について
○
児童生徒理解・教育支援シートとは
児童生徒理解・教育支援シートとは、不登校児童生徒一人一人の状況を的確に把握し、当該児
童生徒の置かれた状況を関係機関で情報共有し、組織的・計画的に支援を行うことを目的として、
学級担任、養護教諭、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー等を中心に学校が組
織的に作成するものです。
これまでも児童生徒の状況に合わせた様々な支援計画書が学校現場で作成・利用されてきたと
ころですが、一つの学年だけで利用され、上の学年に引き継がれる仕組みがなかったり、学校の
中でのみ共有され、関係機関との役割分担がうまくいかなかったりすることが多く、一貫した支
援が行われていないこともありました。
不登校には様々な要因・背景があり、教育のみならず、福祉、医療等の関係機関が相互に連携
協力して支援を行うことが必要であり、中長期的な視点で一貫した支援を行うことが求められま
す。また、児童生徒の抱える背景や状況が複雑で、登校し始めても、再度不登校の状態になるこ
ともあるため、小学校から高等学校までの間、以前の情報が共有されることは非常に重要です。
児童生徒理解・教育支援シートを活用することで、不登校児童生徒の支援に必要な情報を集約
し、それに基づく支援計画を学校内や関係機関で共通理解し、さらに、そのシートを校種間で適
切に引き継ぐことによって多角的な視野に立った指導体制が構築できるようになります。こうす
ることで児童生徒やその保護者にとっても、「担当者が変わるたびに同じことを説明しなければ
ならない」といった問題を減少させることが期待できます。そのため、教育委員会又は学校にお
いては、「児童生徒理解・教育支援シート(試案)」をモデルとして、各学校においてシートの
記載項目等をカスタマイズするなど、実態に合わせた形で実践的に使用していくことが望まれます。
○ 作成の対象、時期
基本的には連続又は断続して30日以上欠席した児童生徒のうち、何らかの心理的、情緒的、
身体的、あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にある
者について作成することが望まれます。なお、不登校児童生徒への支援は、早期から行うことが
重要であり、予兆への対応を含めた初期段階から情報を整理し、組織的・計画的な支援につなが
るようにする必要があります。そのため、30日という期間にとらわれることなく、前年度の欠
席状況や、遅刻、早退、保健室登校、別室登校等の状況を鑑みて、早期の段階からシートを作成
することが望まれます。以上のことから、それぞれの地域の実態に合わせて、教育委員会又は中
学校区単位で、作成開始等の基準を設定し、地域として組織的に支援が行えるようにすることが
重要です。
また、学校においては、指導要録や出席簿のほか、特別な教育的支援を必要とする児童生徒に
対する「個別の教育支援計画」や外国人児童生徒に対する指導計画等、児童生徒の課題の状況に
よって様々な表簿や支援計画が作成されています。それらの基本的情報は共通した内容もあると
考えられますので、シートの作成に当たっては、校務の効率化の観点から、現在整備が促進され
ている「統合型校務支援システム」も活用し、記載内容が連動する仕様とすることで、共通する
内容の記述を反映させるなど、作成に係る業務を効率化することも重要です。
加えて、学級担任は、教務日誌等を利用して、学級内の全ての児童生徒に関して日常的に状況
を把握していると思います。児童生徒の気になった点について、他の教諭等からの情報も含めて
記録してあれば、児童生徒理解・教育支援シートを作成するに当たって重要な情報となります。
こうした観点から、教務日誌等を個人のメモではなく、組織として共有できる形で適切に保管し
ておくことは、負担を大きく増すことなく必要な情報が必要な時に得ることができ、継続的な支
援を行うための手立ての一つとなります。同様に、保健室での保健日誌等も体調不良や相談で訪
れた児童生徒の様子が記録されており、支援に当たって大きな手掛かりとなり、児童生徒によっ
ては相談室や学校図書館が主な居場所となっている場合もあるため、気になる児童生徒について、
各担当者が記録し、組織として情報を共有していくことが大切です。
- 80 -
なお、支援の結果、児童生徒が継続的に登校できるようになった場合においても、月別の遅刻、
早退、欠席等の状況を継続して記録し、引き継いでいくことが、一貫した支援を行う上で大切です。
○
内容
児童生徒理解・教育支援シートは、支援に関する情報を集約し、引き継いでいくものであるた
め、複数の関係者が正確な情報を共有できるようにすることが必要です。そのため、主観的な判
断を避け、客観的な事実を記載するという ことが重要となります。また、具体的な支援計画を
立てる根拠となったアセスメントについては、児童生徒の状態の全体像をつかむための大きな情
報となるため、複数回アセスメントを実施した場合はその推移を記載しておくと、協議会等の際
に一目で児童生徒の傾向を把握することができます。
〈共通シート〉
共通シートは、支援全体を通して利用・保存される不登校児童生徒本人の基本情報を記入する
ものです。そこには、遅刻・早退等の不登校に至る前兆や、本人の状態等について記入し、見立
てを行う上で必要な情報を学校内で又は関係機関との間で共有できるようにすることがポイン
トです。
〈学年別シート〉
学年別シートは、対象となる児童生徒の状況を随時追記し、具体的な支援の計画を記入するも
のです。細かい欠席状況や、本人の学習・健康状況等を記載することで、継続的に本人の変化を
把握します。また、関係機関と協議の上決定した支援方針とその実施状況を記入することで、支
援状況の変遷を一覧できるようにします。これらにより、一貫して計画的な支援を行うことがで
きるようにすることがポイントです。
また、不登校児童生徒の支援に関しては、次の学年でも引き続き行っていくことが重要となる
ため、当該学年での支援結果の評価を明確にしておくことが求められます。評価を行い、次年度
における留意点等をまとめておくことで、担任・担当者が変わっても、継続して支援を行うこと
ができます。
〈ケース会議・検討会等記録シート〉
ケース会議・検討会等記録シートは、本人・保護者・関係機関の支援に関連する協議結果をそ
の都度記入・加筆するものです。
本人がどのような状況でどのような支援を望んでいるのか、保護者の希望を直接記入してもら
ったり、面談等で聞き取ったりして、記入・加筆していきます。本人・保護者の思いをできるだ
けそのまま残していくことを基本として、漠然としたニーズについても丁寧に拾い上げて、支援
内容を導き出していくことが重要です。
関係機関との連携については、実際に連携した機関と個別にやりとりしたことも記録すること
で、他の機関とも共有できる形にしておくことで、支援者全体で状況を共通認識することに役立
ちます。支援を開始するために初めて連絡を取るのでなく、普段から情報をやりとりし、お互い
の業務について共通認識できるようにしておくことが重要です。そして、普段のやりとりの中で、
それぞれの機関から得た情報などは、あらかじめケース会議・検討会等記録シート等を利用して
記入・蓄積しておき、支援計画作成の際に活用します。
また、ケース会議・検討会等において、その都度支援計画の進捗状況を確認し、その場で合意・
確認できた事項について、記録しておくことで、参考となるエピソードを集積し、支援の質を高
めることにつながります。
なお、学年別シートや共通シートが作成される前にケース会議などが持たれた場合には、この
ケース会議・検討会等記録シート単独でも積極的に活用し、保存するようにします。こうするこ
とで、不登校の状態になる前の当該児童生徒の情報が確認でき、より的確な要因の把握につなが
ります。
- 81 -
○
引継ぎ
学校や担当者が変わっても、不登校児童生徒一人一人が受けていた支援は、引き続き一貫して
行われなければなりません。しかし、当該児童生徒や保護者の立場からは、進学や転学に当たっ
て、前の学校の情報が引き継がれることに不安を感じるかもしれません。そのため、学校は、児
童生徒や保護者に対して、児童生徒理解・教育支援シートが児童生徒の評価に利用されるもので
はないことや学校における守秘義務等について十分に説明をして、不安感を取り除くとともに、
支援を通じて信頼関係を築き、児童生徒理解・教育支援シートを活用することで、組織的計画的
な支援が可能となり、結果として児童生徒の生活を豊かにすることにつながることを理解しても
らうことが大切です。
また、設置者が異なる中学校から高等学校、公立学校から私立学校等で引継ぎを行うことは、
個人情報の保護への配慮等からためらわれる場合があるかもしれません。しかし、児童生徒理
解・教育支援シートの引継ぎを適切に行い、支援計画の評価や見直しを繰り返しながら継続して
支援していくことで、不登校児童生徒一人一人を支援するネットワークができ、学校だけで抱え
込まない体制の整備につながります。そのためにも、不登校児童生徒の支援に必要な事項につい
ては適切に引継ぎを行うことが大切であり、進学先や転学先への引継ぎについては、原則として、
当該児童生徒や保護者の同意を得る必要があります。
なお、引継ぎに関しては、共通シートのみならず、全てのシート(学年別シート、ケース会議・
検討会等記録シート)を引き継ぐことが重要であり、また、単に児童生徒理解・教育支援シート
の写しを渡すだけではなく、個別に情報交換をする場を設けるなど、責任を持って引継ぎを行う
必要があります。また、児童生徒理解・教育支援シートの引継ぎに当たっては、保護者や関係者
に十分内容を説明した上で、個人情報の取扱いや、関係機関等と共有する情報の範囲、守秘義務
等について共通理解を図る必要があります。
○
個人情報の保護(学校間における情報の引継ぎ)
不登校児童生徒への支援においては、一旦欠席状態が長期化すると、その回復が困難である傾
向が示されており、継続した組織的な支援が重要です。そのため、一度不登校傾向が見られた児
童生徒については、進学・転校後も不登校傾向が続く可能性がある場合が少なくなく、当該児童
生徒の状況等については進学・転学先の学校へ適切に引き継ぎ、継続的・組織的支援を図ってい
く必要があります。また、不登校児童生徒が進学・転校先の学校でも不登校傾向が続いた場合に
は、本人から「本人に係る情報」を確認するのは難しく、進学・転校先において当該児童生徒の
ための適切な支援等が行うことができないことも考えられます。したがって、不登校児童生徒を
継続的・組織的に支援していくためには、進学・転校したら終わりというのではなく、進学・転
校先の学校が承知しておくべき情報については適切に引き継ぎ、双方の学校が連携して当該不登
校児童生徒の支援に当たることが必要です。
個人情報保護の観点からどこまで不登校児童生徒の情報を引き継げるかについては、適用される
関係法令に基づき各学校等が判断することとなります。基本法として、
「個人情報の保護に関する
法律」
(平成 15 年法律第 57 号)があります。個人情報の保護に関する法律は、民間である私立学
校・株立学校等に適用され、また、公立学校には、当該学校を設置する地方公共団体の個人情報保
護条例が、国立学校には「独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律」
(平成 15 年
法律第 59 号)が適用され、個人情報を第三者へ提供する際には本人の同意を得ることが原則とさ
れています。そのため、シートの作成や支援計画の策定、関係機関での個人情報の共有(提供)に
ついては、当該児童生徒やその保護者の同意の下に行うことが必要です。しかし、本人・保護者と
連絡が取れない、本人・保護者が第三者への提供を拒否するなど、本人・保護者の同意を得ること
が困難な場合であっても、不登校児童生徒への継続的・組織的な支援の観点から、進学・転校先へ
の情報共有(提供)が必要となります。その場合の個人情報保護の取扱いに関しては、設置者別に
以下の対応が考えられます。
- 82 -
<公立学校>
公立学校については、各地方公共団体によって個人情報保護条例の内容が異なることから第三
者提供の原則禁止の例外についての規定ぶりを確認する必要があります。また、条例の解釈はあ
くまで当該地方公共団体が行うものですが、仮に、行政機関の保有する個人情報保護に関する法
律第8条(参考①参照)と同様の規定ぶりを有する条例の下では、公立学校が公立学校又は国立
学校に、不登校児童生徒への継続的・組織的な支援のために、必要不可欠な範囲で情報を提供す
ることは、一般に、社会通念上客観的にみて合理的な理由があるものと認められ、同法第8条第
2項第3号に相当する規定の「相当な理由のあるとき」に該当し、また、私立学校・株立学校に
同様の情報を提供することは、一般に同項第4号に相当する規定の「本人以外の者に提供するこ
とが明らかに本人の利益になるとき」に該当し、本人や保護者の同意を得ることが困難であって
も、第三者提供の原則禁止の例外として認められるとも考えられます。ただし、繰り返しになり
ますが、条例の解釈はあくまで当該地方公共団体が行うことになりますので、後述の国立学校や
私立学校等の場合の例も参考にしつつ、各地方公共団体・各学校において適切に対応することが
必要です。
また、私立学校・株立学校への情報提供については、条例によっては個人情報保護審議会の意
見を聴取することが必要とされている場合もあるため、その規定ぶりをよく確認した上で、適切
な手続をとることが必要です。
<国立学校>
国立学校について、国立学校又は公立学校に、不登校児童生徒への継続的・組織的な支援のた
めに必要不可欠な範囲で情報を提供することは、上記と同様に、一般に、社会通念上客観的にみ
て合理的な理由があるものと認められ、独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律
第9条第2項第3号(参考②参照)の「相当な理由のあるとき」に、私立学校・株立学校に、同
様の情報を提供することは、同項第4号の「本人以外の者に情報を提供することが明らかに本人
の利益になるとき」に該当すると考えられることから、第三者提供の原則禁止の例外として認め
られると考えられます。
<私立学校・株立学校>
私立学校及び株立学校について、他の学校に不登校児童生徒への継続的・組織的な支援のため
に必要不可欠な範囲で情報を提供することは、「○個人情報の保護(学校間における情報の引継
ぎ)」に記載する観点等に鑑みて、個人情報の保護に関する法律第23条第1項第3号(参考③
参照)により、第三者提供の原則禁止の例外として認められると考えられます※。この点、文部
科学省所管事業分野における個人情報保護に関するガイドライン(平成27年8月31日文部科学省
告示第132号)(参考④参照)においても、第三者提供の制限に関する例外として、「公衆衛生
の向上又は子供・若者の健やかな育成等の推進のために、特に個人データを第三者に提供する必
要がある場合に、本人の同意を得ることが困難であるとき」とされています(注)。
※ 当該私立学校及び株立学校が、個人情報の保護に関する法律に規定する「個人情報取扱事業者」に該
当する場合。
<留意点>
なお、引き継ぎについては、前述のとおり、あくまでも本人・保護者の同意を得ることが原則で
あり、引き継ぎを望まない場合であっても、その理由を聞きつつ、引き継ぐことの利点や、どの程
度の内容であれば引き継ぐことが可能かについて話し合うなど丁寧に対応することが求められます。
同意を得る努力をしないまま安易に引き継ぐことは適切ではないことに留意が必要です。
また、情報の引き継ぎについて、本人・保護者の同意を得る際には、本人・保護者に対して、
提供しようとする情報の内容を具体的に示すことが必要です。
- 83 -
○
個人情報の保護(民間施設等への情報提供)
不登校児童生徒が、学校外の民間施設等を利用する場合には、一定の情報を適切に提供し、学
校及び民間施設等双方が連携して当該不登校児童生徒の支援に当たることが効果的と考えられ
るケースもあります。その際、当該民間施設等において、守秘義務を負っているか否かをあらか
じめ確認し、それを当該児童生徒や保護者に十分説明した上で、その個人情報の提供について同
意を得ることが望ましいと考えられます。
○
保存
児童生徒理解・教育支援シートは、条例や法人の各種規程に基づいて適切に保存されるもので
すが、出席の状況等指導要録の記載内容と重なる部分もあることから、指導要録の保存期間に合
わせて、5年間保存されることが文書管理上望ましいと考えられます。
(注)
個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する
法律の一部を改正する法律(平成27年9月3日成立・同月9日公布)の施行が平成29年春頃に予定されて
おり、その施行に伴い、文部科学省所管事業分野における個人情報保護に関するガイドライン(平成27
年8月31日文部科学省告示第132号)が廃止され、全ての事業分野に適用される汎用的な「個人情報
の保護に関する法律についてのガイドライン」が発出される予定です。
(参考)
①
行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(抄)
(平成十五年五月三十日法律第五十八号)
(利用及び提供の制限)
第八条
2
行政機関の長は、法令に基づく場合を除き、利用目的以外の目的のために保有個人情報
を自ら利用し、又は提供してはならない。
前項の規定にかかわらず、行政機関の長は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、
利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供することができる。ただし、
保有個人情報を利用目的以外の目的のために自ら利用し、又は提供することによって、本人又
は第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められるときは、この限りでない。
一
本人の同意があるとき、又は本人に提供するとき。
二 行政機関が法令の定める所掌事務の遂行に必要な限度で保有個人情報を内部で利用する
場合であって、当該保有個人情報を利用することについて相当な理由のあるとき。
三 他の行政機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人に保有個人情報を提
供する場合において、保有個人情報の提供を受ける者が、法令の定める事務又は業務の遂行
に必要な限度で提供に係る個人情報を利用し、かつ、当該個人情報を利用することについて
相当な理由のあるとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、専ら統計の作成又は学術研究の目的のために保有個人情報を
提供するとき、本人以外の者に提供することが明らかに本人の利益になるとき、その他保有
個人情報を提供することについて特別の理由のあるとき。
3
前項の規定は、保有個人情報の利用又は提供を制限する他の法令の規定の適用を妨げるもの
ではない。
4
行政機関の長は、個人の権利利益を保護するため特に必要があると認めるときは、保有個人
情報の利用目的以外の目的のための行政機関の内部における利用を特定の部局又は機関に限
るものとする。
②
独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(抄)
(平成十五年五月三十日法律第五十九号)
- 84 -
(利用及び提供の制限)
第九条
②
独立行政法人等は、法令に基づく場合を除き、利用目的以外の目的のために保有個人情
報を自ら利用し、又は提供してはならない。
前項の規定にかかわらず、独立行政法人等は、次の各号のいずれかに該当すると認めるとき
は、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供することができる。ただ
し、保有個人情報を利用目的以外の目的のために自ら利用し、又は提供することによって、本人
又は第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められるときは、この限りでない。
一
本人の同意があるとき、又は本人に提供するとき。
二 独立行政法人等が法令の定める業務の遂行に必要な限度で保有個人情報を内部で利用する
場合であって、当該保有個人情報を利用することについて相当な理由のあるとき。
三 行政機関(行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十八号。
以下「行政機関個人情報保護法」という。)第二条第一項に規定する行政機関をいう。以下
同じ。)、他の独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人に保有個人情報を提供
する場合において、保有個人情報の提供を受ける者が、法令の定める事務又は業務の遂行に
必要な限度で提供に係る個人情報を利用し、かつ、当該個人情報を利用することについて相
当な理由のあるとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、専ら統計の作成又は学術研究の目的のために保有個人情報を
提供するとき、本人以外の者に提供することが明らかに本人の利益になるとき、その他保有
個人情報を提供することについて特別の理由のあるとき。
③
個人情報の保護に関する法律(抄)
(平成十五年五月三十日法律第五十七号)
(第三者提供の制限)
第二十三条
一
個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得な
いで、個人データを第三者に提供してはならない。
法令に基づく場合
二 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ること
が困難であるとき。
三 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人
の同意を得ることが困難であるとき。
四 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行する
ことに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂
行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
④
文部科学省所管事業分野における個人情報保護に関するガイドライン(抄)
(平成二十七年八月三十一日文部科学省告示第百三十二号)
第7 個人データの第三者提供に関する義務
(2)
第三者提供の制限に関する例外(法第23条第1項関係)
以下の1.~4.のいずれかに該当する場合は、(1)の規定にかかわらず、個人データ
を第三者に提供することができる。
3
公衆衛生の向上又は子供・若者の健やかな育成等の推進のために、特に個人データを第三者
に提供する必要がある場合に、本人の同意を得ることが困難であるとき
- 85 -
- 86 -
別添3
民間施設についてのガイドライン(試案)
このガイドラインは、個々の民間施設についてその適否を評価するという趣旨のものではなく、
不登校児童生徒が民間施設において相談・指導を受ける際に、保護者や学校、教育委員会として
留意すべき点を目安として示したものである。
民間施設はその性格、規模、活動内容等が様々であり、民間施設を判断する際の指針をすべて
一律的に示すことは困難である。したがって、実際の運用に当たっては、このガイドラインに掲
げた事項を参考としながら、地域の実態等に応じ、各施設における活動を総合的に判断すること
が大切である。
1
実施主体について
法人、個人は問わないが、実施者が不登校児童生徒に対する相談・指導等に関し深い理解と知
識又は経験を有し、かつ社会的信望を有していること。
2
事業運営の在り方と透明性の確保について
① 不登校児童生徒に対する相談・指導を行うことを主たる目的としていること。
② 著しく営利本位でなく、入会金、授業料(月額・年額等)
、入寮費(月額・年額等)等が
明確にされ、保護者等に情報提供がなされていること。
3
相談・指導の在り方について
① 児童生徒の人命や人格を尊重した人間味のある温かい相談や指導が行われていること。
② 情緒的混乱、情緒障害及び非行等の態様の不登校など、相談・指導の対象となる者が当該
施設の相談・指導体制に応じて明確にされていること。また、受入れに当たっては面接を行
うなどして、当該児童生徒のタイプや状況の把握が適切に行われていること。
③ 指導内容・方法、相談手法及び相談・指導の体制があらかじめ明示されており、かつ現に
児童生徒のタイプや状況に応じた適切な内容の相談や指導が行われていること。また、我が
国の義務教育制度を前提としたものであること。
④ 児童生徒の学習支援や進路の状況等につき、保護者等に情報提供がなされていること。
⑤ 体罰などの不適切な指導や人権侵害行為が行われていないこと。
4
相談・指導スタッフについて
① 相談・指導スタッフは児童生徒の教育に深い理解を有するとともに、不登校への支援につ
いて知識・経験をもち、その指導に熱意を有していること。
② 専門的なカウンセリング等の方法を行うにあっては、心理学や精神医学等、それを行うに
ふさわしい専門的知識と経験を備えた指導スタッフが指導にあたっていること。
③ 宿泊による指導を行う施設にあっては、生活指導にあたる者を含め、当該施設の活動を行
うにふさわしい資質を具えたスタッフが配置されていること。
5
施設、設備について
① 各施設にあっては、学習、心理療法、面接等種々の活動を行うために必要な施設、設備を
有していること。
② 特に、宿泊による指導を行う施設にあっては、宿舎をはじめ児童生徒が安全で健康的な生
活を営むために必要な施設、設備を有していること。
6
学校、教育委員会と施設との関係について
児童生徒のプライバシーにも配慮の上、学校と施設が相互に不登校児童生徒やその家庭を支援す
るために必要な情報等を交換するなど、学校との間に十分な連携・協力関係が保たれていること。
7
家庭との関係について
① 施設での指導経過を保護者に定期的に連絡するなど、家庭との間に十分な連携・協力関係
が保たれていること。
② 特に、宿泊による指導を行う施設にあっては、たとえ当該施設の指導方針いかなるもので
あっても、保護者の側に対し面会や退所の自由が確保されていること。
- 87 -
別添4
教育支援センター整備指針(試案)
1
趣旨
○ 教育委員会は、教育支援センター(以下「センター」という。
)の整備に当たって、この
指針の定めるところに留意し、不登校児童生徒に対する適切な支援を行わなければならない。
2
設置の目的
○ センターは、不登校児童生徒の集団生活への適応、情緒の安定、基礎学力の補充、基本的
生活習慣の改善等のための相談・指導(学習指導を含む。以下同じ。
)を行うことにより、
その学校復帰を支援し、もって不登校児童生徒の社会的自立に資することを基本とする。
3
自己評価・情報の積極的な提供等
○ センターは、その目的を実現するため、その相談・指導、その他のセンターの運営状況に
ついて改善・充実を図るとともに、自ら点検及び評価を行い、その結果を公表するよう努め
るものとする。
○ センターは、その相談・指導、その他のセンターの運営の状況について、保護者等に対し
て積極的に情報を提供するものとする。
4
対象者
○ 入室や退室等に関する方針や基準が明らかにされていること。
○ 不登校児童生徒の入退室等の決定については、その態様等を踏まえ、センターにおける指
導の効果が達せられるよう児童生徒の実情等の的確な見立て(アセスメント)に努めるもの
とする。その際には、当該児童生徒が在籍する学校関係者はもとより、専門家を含めて検討
を行うことが望ましい。
○ 必要に応じて、中学校を卒業した者についても進路等に関して主として教育相談等による
支援を行うことが望ましい。
5
指導内容・方法
○ 児童生徒の立場に立ち、人命や人格を尊重した人間味のある温かい相談・指導を行う。
○ 相談に関しては、共感的な理解に立ちつつ、児童生徒の自立を支援する立場から実施する。
○ 各教科等の学習指導に関しては、在籍校とも連絡をとり、センター及び児童生徒の実情に
応じて実施する。
○ 指導内容は、児童生徒の実態に応じて適切に定め、個別指導と併せて、センター及び児童
生徒の実情に応じて集団指導を実施するものとする。その際、児童生徒の実情に応じて体験
活動を取り入れるものとする。
○ 家庭訪問による相談・指導は、センター、地域、児童生徒の実情に応じて適切に実施する
ことが望ましい。通所困難な児童生徒については、学校や他機関との連携の下、適切な配慮
を行うことが望ましい。
○ センターは、不登校児童生徒の保護者に対して、不登校の態様に応じた適切な助言・援助
を行うものとする。
6
指導体制
○ センターには、相談・指導などに従事する指導員を置くものとする。
○ 指導員は、
通所の児童生徒の実定員 10 人に対して少なくとも2人程度置くことが望ましい。
○ 指導員には、相談・指導、学習指導等に必要な知識及び経験又は技能を有し、かつその職
務を行うに必要な熱意と識見を有する者を充てるものとする。
○
教育委員会は、指導員の資質向上のため適切な研修の機会を確保するよう努めることとする。
○ カウンセラーなどの専門家を常勤又は非常勤で配置し、児童生徒の指導方針等につき、協
力を得ることが望ましい。
- 88 -
○ その他、年齢、職種等、多様な人材の協力を得ることが望ましい。その際、協力を得る人
材の実情に応じ、適切な研修を行い、又は指導体制等を整えることが望ましい。
7
施設・設備等
○ 施設・設備は、相談・指導を適切に行うために、保健衛生上、安全上及び管理上適切なも
のとする。
○ センターは、集団で活動するための部屋、相談室、職員室などを備えることが望ましい。
○ センターは、運動場を備えるなどスポーツ活動や体験活動の実施に関する配慮がなされて
いることが望ましい。適切な施設を有しない場合は、積極的に他のセンター等と連携するこ
とが望ましい。
○ センターでの個別学習や、家庭との連絡のため、必要な情報通信機器・ネットワークが整
備されていることが望ましい。
○ センターには、相談・指導を行うため、児童生徒数に応じ、保健衛生上及び安全上必要な
教具(教科用図書、学習ソフト、心理検査用具等)を備えるものとする。また、これらの教
具は、常に改善し、補充するよう努めなければならない。
8
学校との連携
○ 指導員等は、不登校児童生徒の態様に応じ、その支援のため、在籍校との緊密な
連携を
行うものとする(定期的な連絡協議会、支援の進め方に関するコーディネート等の専門的な
指導等)
。
○ 指導員等は、不登校児童生徒の学校復帰後においても、必要に応じて在籍校との連携を図
り、継続的に支援を行うことが望ましい。
○ 指導員等は、児童生徒の実情等の的確な見立て(アセスメント)にそった児童生徒の個々
の回復状況を把握し、守秘義務に配慮した上で、本人、保護者の意向を確かめて在籍校に学
習成果等を連絡するものとする。
○ 指導員等は、不登校に関し、学校に対する専門的な指導・助言・啓発を行う。
9
他機関・民間施設・NPO法人等との連携
○ センターは、教育センターや社会教育施設などの教育機関や児童相談所、警察、病院、ハ
ローワーク等の関係機関との連携を適切に図り、不登校に関する地域ぐるみのサポートネッ
トワークづくりに努めるものとする。
○ センターは、不登校関係の民間施設、NPO法人等との連携・協力を適切に図ることが望
ましい。
○ 民間施設との連携については国が示している「民間施設についてのガイドライン」等に留
意するものとする。
10
教育委員会の責務
○ 教育委員会は、前各項の趣旨が達せられるよう、教育委員会規則の制定や指導体制の充実
等、センターの整備に関し必要な方策を講じなければならない。
○ 教育委員会は管轄地域以外のセンターの連携・協力関係が、適切に図ることができるよう
配慮しなくてはならない。
- 89 -
【参考資料】義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律
目次
第一章 総則(第一条-第六条)
第二章 基本指針(第七条)
第三章 不登校児童生徒等に対する教育機会の確保等(第八条-第十三条)
第四章 夜間その他特別な時間において授業を行う学校における就学の機会の提供等(第十四
条・第十五条)
第五章 教育機会の確保等に関するその他の施策(第十六条-第二十条)
附則
第一章
総則
(目的)
第一条 この法律は、教育基本法(平成十八年法律第百二十号)及び児童の権利に関する条約等
の教育に関する条約の趣旨にのっとり、
教育機会の確保等に関する施策に関し、基本理念を定め、
並びに国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、基本指針の策定その他の必要な事項
を定めることにより、教育機会の確保等に関する施策を総合的に推進することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところ
による。
一 学校 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する小学校、中学校、義
務教育学校、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部若しくは中学部をいう。
二 児童生徒 学校教育法第十八条に規定する学齢児童又は学齢生徒をいう。
三 不登校児童生徒 相当の期間学校を欠席する児童生徒であって、学校における集団の生活
に関する心理的な負担その他の事由のために就学が困難である状況として文部科学大臣が
定める状況にあると認められるものをいう。
四 教育機会の確保等 不登校児童生徒に対する教育の機会の確保、夜間その他特別な時間に
おいて授業を行う学校における就学の機会の提供その他の義務教育の段階における普通教
育に相当する教育の機会の確保及び当該教育を十分に受けていない者に対する支援をいう。
(基本理念)
第三条 教育機会の確保等に関する施策は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければな
らない。
一 全ての児童生徒が豊かな学校生活を送り、安心して教育を受けられるよう、学校におけ
る環境の確保が図られるようにすること。
二 不登校児童生徒が行う多様な学習活動の実情を踏まえ、個々の不登校児童生徒の状況に
応じた必要な支援が行われるようにすること。
三 不登校児童生徒が安心して教育を十分に受けられるよう、学校における環境の整備が図
られるようにすること。
四 義務教育の段階における普通教育に相当する教育を十分に受けていない者の意思を十分
に尊重しつつ、その年齢又は国籍その他の置かれている事情にかかわりなく、その能力に
応じた教育を受ける機会が確保されるようにするとともに、その者が、その教育を通じて、
社会において自立的に生きる基礎を培い、豊かな人生を送ることができるよう、その教育
水準の維持向上が図られるようにすること。
五 国、地方公共団体、教育機会の確保等に関する活動を行う民間の団体その他の関係者の
相互の密接な連携の下に行われるようにすること。
(国の責務)
第四条 国は、前条の基本理念にのっとり、教育機会の確保等に関する施策を総合的に策定し、
及び実施する責務を有する。
(地方公共団体の責務)
第五条 地方公共団体は、第三条の基本理念にのっとり、教育機会の確保等に関する施策につい
て、国と協力しつつ、当該地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。
(財政上の措置等)
- 90 -
第六条 国及び地方公共団体は、教育機会の確保等に関する施策を実施するため必要な財政上の
措置その他の措置を講ずるよう努めるものとする。
第二章 基本指針
第七条 文部科学大臣は、教育機会の確保等に関する施策を総合的に推進するための基本的な指
針(以下この条において「基本指針」という。)を定めるものとする。
2 基本指針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 教育機会の確保等に関する基本的事項
二 不登校児童生徒等に対する教育機会の確保等に関する事項
三 夜間その他特別な時間において授業を行う学校における就学の機会の提供等に関する事項
四 その他教育機会の確保等に関する施策を総合的に推進するために必要な事項
3 文部科学大臣は、基本指針を作成し、又はこれを変更しようとするときは、あらかじめ、地
方公共団体及び教育機会の確保等に関する活動を行う民間の団体その他の関係者の意見を反
映させるために必要な措置を講ずるものとする。
4 文部科学大臣は、基本指針を定め、又はこれを変更したときは、遅滞なく、これを公表しな
ければならない。
第三章 不登校児童生徒等に対する教育機会の確保等
(学校における取組への支援)
第八条 国及び地方公共団体は、全ての児童生徒が豊かな学校生活を送り、安心して教育を受け
られるよう、児童生徒と学校の教職員との信頼関係及び児童生徒相互の良好な関係の構築を図
るための取組、児童生徒の置かれている環境その他の事情及びその意思を把握するための取組、
学校生活上の困難を有する個々の児童生徒の状況に応じた支援その他の学校における取組を
支援するために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
(支援の状況等に係る情報の共有の促進等)
第九条 国及び地方公共団体は、不登校児童生徒に対する適切な支援が組織的かつ継続的に行わ
れることとなるよう、不登校児童生徒の状況及び不登校児童生徒に対する支援の状況に係る情
報を学校の教職員、心理、福祉等に関する専門的知識を有する者その他の関係者間で共有する
ことを促進するために必要な措置その他の措置を講ずるものとする。
(特別の教育課程に基づく教育を行う学校の整備等)
第十条 国及び地方公共団体は、不登校児童生徒に対しその実態に配慮して特別に編成された教
育課程に基づく教育を行う学校の整備及び当該教育を行う学校における教育の充実のために
必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
(学習支援を行う教育施設の整備等)
第十一条 国及び地方公共団体は、不登校児童生徒の学習活動に対する支援を行う公立の教育施
設の整備及び当該支援を行う公立の教育施設における教育の充実のために必要な措置を講ず
るよう努めるものとする。
(学校以外の場における学習活動の状況等の継続的な把握)
第十二条 国及び地方公共団体は、不登校児童生徒が学校以外の場において行う学習活動の状況、
不登校児童生徒の心身の状況その他の不登校児童生徒の状況を継続的に把握するために必要
な措置を講ずるものとする。
(学校以外の場における学習活動等を行う不登校児童生徒に対する支援)
第十三条 国及び地方公共団体は、不登校児童生徒が学校以外の場において行う多様で適切な学
習活動の重要性に鑑み、個々の不登校児童生徒の休養の必要性を踏まえ、当該不登校児童生徒
の状況に応じた学習活動が行われることとなるよう、当該不登校児童生徒及びその保護者(学
校教育法第十六条に規定する保護者をいう。)に対する必要な情報の提供、助言その他の支援
を行うために必要な措置を講ずるものとする。
第四章 夜間その他特別な時間において授業を行う学校における就学の機会の提供等
(就学の機会の提供等)
第十四条 地方公共団体は、学齢期を経過した者(その者の満六歳に達した日の翌日以後におけ
る最初の学年の初めから満十五歳に達した日の属する学年の終わりまでの期間を経過した者
をいう。次条第二項第三号において同じ。)であって学校における就学の機会が提供されなか
ったもののうちにその機会の提供を希望する者が多く存在することを踏まえ、夜間その他特別
な時間において授業を行う学校における就学の機会の提供その他の必要な措置を講ずるもの
とする。
- 91 -
(協議会)
第十五条 都道府県及び当該都道府県の区域内の市町村は、前条に規定する就学の機会の提供そ
の他の必要な措置に係る事務についての当該都道府県及び当該市町村の役割分担に関する事
項の協議並びに当該事務の実施に係る連絡調整を行うための協議会(以下この条において「協
議会」という。)を組織することができる。
2 協議会は、次に掲げる者をもって構成する。
一 都道府県の知事及び教育委員会
二 当該都道府県の区域内の市町村の長及び教育委員会
三 学齢期を経過した者であって学校における就学の機会が提供されなかったもののうちそ
の機会の提供を希望する者に対する支援活動を行う民間の団体その他の当該都道府県及び
当該市町村が必要と認める者
3 協議会において協議が調った事項については、協議会の構成員は、その協議の結果を尊重し
なければならない。
4 前三項に定めるもののほか、協議会の運営に関し必要な事項は、協議会が定める。
第五章 教育機会の確保等に関するその他の施策
(調査研究等)
第十六条 国は、義務教育の段階における普通教育に相当する教育を十分に受けていない者の実
態の把握に努めるとともに、その者の学習活動に対する支援の方法に関する調査研究並びにこ
れに関する情報の収集、整理、分析及び提供を行うものとする。
(国民の理解の増進)
第十七条 国及び地方公共団体は、広報活動等を通じて、教育機会の確保等に関する国民の理解
を深めるよう必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
(人材の確保等)
第十八条 国及び地方公共団体は、教育機会の確保等が専門的知識に基づき適切に行われるよう、
学校の教職員その他の教育機会の確保等に携わる者の養成及び研修の充実を通じたこれらの
者の資質の向上、教育機会の確保等に係る体制等の充実のための学校の教職員の配置、心理、
福祉等に関する専門的知識を有する者であって教育相談に応じるものの確保その他の必要な
措置を講ずるよう努めるものとする。
(教材の提供その他の学習の支援)
第十九条 国及び地方公共団体は、義務教育の段階における普通教育に相当する教育を十分に受
けていない者のうち中学校を卒業した者と同等以上の学力を修得することを希望する者に対
して、教材の提供(通信の方法によるものを含む。)その他の学習の支援のために必要な措置
を講ずるよう努めるものとする。
(相談体制の整備)
第二十条 国及び地方公共団体は、義務教育の段階における普通教育に相当する教育を十分に受
けていない者及びこれらの者以外の者であって学校生活上の困難を有する児童生徒であるも
の並びにこれらの者の家族からの教育及び福祉に関する相談をはじめとする各種の相談に総
合的に応ずることができるようにするため、関係省庁相互間その他関係機関、学校及び民間の
団体の間の連携の強化その他必要な体制の整備に努めるものとする。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から起算して二月を経過した日から施行する。ただし、第四章の規
定は、公布の日から施行する。
(検討)
2 政府は、速やかに、教育機会の確保等のために必要な経済的支援の在り方について検討を
加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
3 政府は、義務教育の段階における普通教育に相当する教育を十分に受けていない者が行う
多様な学習活動の実情を踏まえ、この法律の施行後三年以内にこの法律の施行の状況につい
て検討を加え、その結果に基づき、教育機会の確保等の在り方の見直しを含め、必要な措置
を講ずるものとする。
- 92 -
義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律案に対する
附帯決議
平成二十八年十一月十八日
衆議院文部科学委員会
政府及び関係者は、本法の施行に当たり、次の事項について特段の配慮をすべきである。
一
本法に定める不登校児童生徒に対する支援に当たっては、全ての児童生徒に教育を受ける
権利を保障する憲法のほか、教育基本法及び生存の確保を定める児童の権利に関する条約等
の趣旨にのっとって、不登校の児童生徒やその保護者を追い詰めることのないよう配慮する
とともに、児童生徒の意思を十分に尊重して支援が行われるよう配慮すること。
二
本法第二条第三号に定義された不登校児童生徒への支援、その他不登校に関する施策の実
施に当たっては、不登校は学校生活その他の様々な要因によって生じるものであり、どの児
童生徒にも起こり得るものであるとの視点に立って、不登校が当該児童生徒に起因するもの
と一般に受け取られないよう、また、不登校というだけで問題行動であると受け取られない
よう配慮すること。
三
文部科学大臣は、本法第七条の基本指針の策定に当たっては、特に児童生徒や保護者、学
校関係者などの当事者の意見を多面的に聴取しその意見を反映させるとともに、本法第三条
第一号に掲げる基本理念にのっとり、多様な児童生徒を包摂し共生することのできる学校環
境の実現を図ること。また、その学校環境の実現のために、教職員が児童生徒と向き合う時
間を十分に確保できるよう、必要な措置を講ずること。
四
本法第八条の運用に当たっては、本法第十三条の趣旨も踏まえ、例えば、いじめから身を
守るために一定期間休むことを認めるなど、児童生徒の状況に応じた支援を行うこと。
五
本法第三章に定める不登校児童生徒の環境や学習活動、支援などについての状況の把握、
情報の共有に当たっては、家庭環境や学校生活におけるいじめ等の深刻な問題の把握に努め
つつ、個人のプライバシーの保護に配慮して、原則として当該児童生徒や保護者の意思を尊
重すること。
六
本法第十条に定める不登校特例校の整備に当たっては、営利を目的とする団体による設
置・管理には慎重を期すこととし、過度に営利を目的として教育水準の低下を招くおそれが
ある場合には、これを認めないこと。また、不登校特例校や本法第十一条に定める学習支援
施設の運用においては、本人の意思を尊重することが重要であり、不登校となった児童生徒
が一般の学校・学級で学ぶ権利を損ねることのないようにすること。
七
本法第十四条に定める夜間その他特別な時間において授業を行う学校における就学の機会
の提供その他の必要な措置により、就学の機会を希望する学齢超過者に対し、就学の機会が
可及的速やかに提供されるよう、地方公共団体は、本法第十五条に定める協議会の全ての都
道府県への設置に努めるとともに、政府は、地方公共団体に対して積極的な支援を行うこと。
八
夜間その他特別な時間において授業を行う学校の実態を踏まえ、教員の加配も含めた教職
員の配置の拡充や教職員の研修の充実を図ること。
九
不登校の児童生徒が、いわゆるフリースクール等の学校以外の場において行う多様な学習
活動に対しては、その負担の軽減のための経済的支援の在り方について検討し、その結果に
基づき必要な財政上の措置を講ずること。
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義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律案に対する
附帯決議
平成二十八年十二月六日
参議院文教科学委員会
政府及び関係者は、本法の施行に当たり、次の事項について特段の配慮をすべきである。
一、本法に定める不登校児童生徒に対する支援に当たっては、全ての児童生徒に教育を受ける
権利を保障する憲法のほか、教育基本法及び児童の権利に関する条約等の趣旨にのっとり、
不登校の児童生徒やその保護者を追い詰めることのないよう配慮するとともに、児童生徒の
意思を十分に尊重して支援が行われるよう配慮すること。
二、本法第二条第三号に定義された不登校児童生徒への支援、その他不登校に関する施策の実
施に当たっては、不登校は学校生活その他の様々な要因によって生じるものであり、どの児
童生徒にも起こり得るものであるとの視点に立って、不登校が当該児童生徒に起因するもの
と一般に受け取られないよう、また、不登校というだけで問題行動であると受け取られない
よう配慮すること。
三、文部科学大臣は、本法第七条の基本指針の策定に当たっては、特に児童生徒や保護者、学
校関係者などの当事者の意見を多面的に聴取しその意見を反映させるとともに、本法第三条
第一号に掲げる基本理念にのっとり、多様な児童生徒を包摂し共生することのできる学校環
境の実現を図ること。また、その学校環境の実現のために、教職員が児童生徒と向き合う時
間を十分に確保できるよう、必要な措置を講ずること。
四、本法第八条の運用に当たっては、本法第十三条の趣旨も踏まえ、例えば、いじめから身を
守るために一定期間休むことを認めるなど、児童生徒の状況に応じた支援を行うこと。
五、本法第三章に定める不登校児童生徒の環境や学習活動、支援などについての状況の把握、
情報の共有に当たっては、家庭環境や学校生活におけるいじめ等の深刻な問題の把握に努め
つつ、個人のプライバシーの保護に配慮して、原則として当該児童生徒や保護者の意思を尊
重すること。
六、本法第十条に定める不登校特例校の整備や第十九条に定める教材の提供その他の学習の支
援に当たっては、営利を目的とする団体等によるものには慎重を期すこととし、教育水準の
低下を招くおそれがある場合には、これを認めないこと。また、不登校特例校や本法第十一
条に定める学習支援施設の運用に当たっては、本人や保護者の意思が最優先であるとの基本
認識の下、本人や保護者の意見を聴取するなどし、不登校となった児童生徒が一般の学校・
学級で学ぶ権利を損ねることのないようにすること。
七、本法第十四条に定める夜間その他特別な時間において授業を行う学校における就学の機会
の提供その他の必要な措置により、就学の機会を希望する学齢超過者に対し、就学の機会が
可及的速やかに提供されるよう、地方公共団体は、本法第十五条に定める協議会の全ての都
道府県への設置に努めるとともに、政府は、地方公共団体に対して積極的な支援を行うこと。
八、夜間その他特別な時間において授業を行う学校が、不登校の生徒を受け入れる場合におい
ても、様々な事情で義務教育を受けることができなかった学齢超過者等の教育を保障する役
割を担っていることを今後も十分に尊重するとともに、その実態を踏まえ、教員の加配も含
めた教職員の配置の拡充や教職員の研修の充実を図ること。また、その整備に当たっては、
地域の実情を十分に考慮し、画一的なものとならないようにすること。
九、不登校の児童生徒が、いわゆるフリースクール等の学校以外の場において行う多様な学習
活動に対しては、その負担の軽減のための経済的支援の在り方について検討し、その結果に
基づき必要な財政上の措置を講ずること。
右決議する。
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