第18回研究所セミナー

2016 年度
第 18 回 早稲田大学リンアトラス研究所セミナー
講演タイトル
2017 年 2 月7日
「下水道におけるリンの除去および回収の現状と課題」
日本下水道事業団
技術戦略部
上席調査役兼技術開発企画課⻑
橋本敏一
1. はじめに
リンは、窒素と並び、富栄養化の原因物質の⼀つであり、下⽔道においては、⾼度処理に
おける除去対象物質の⼀つである。⼀方で、下⽔道には、リン鉱石として輸入されるリンの
約 4〜5 割に相当するリンが流入していると推計されており、リン資源としての利⽤が着目
されている。
本講演では、下⽔道におけるリンの除去および回収の現状、下⽔処理におけるリン除去法
の原理と特徴、ならびに、下⽔道におけるリンの除去および回収の課題について述べる。
2.下⽔道におけるリンの除去および回収の現状
平成 26 年度末現在、⽔処理施設を有する下⽔処理場は全国 2,139 箇所で稼働しており、
このうち延べ 475 箇所において、窒素やリンの除去などを目的とした⾼度処理が⾏われて
いる(表1)
。リン除去に着目すると、生物学的リン除去法である嫌気無酸素好気法、嫌気
好気活性汚泥法は計 120 箇所であるのに対して、循環式硝化脱窒法やステップ流入式多段
硝化脱窒法などの生物学的窒素除去法に凝集剤添加を併⽤してリン除去を⾏う処理場は計
161 箇所と上回っており、また、生物学的リン除去法において凝集剤添加を併⽤する処理
場は計 67 箇所でおよそ半数である。
⼀方、リン回収・資源化技術の下⽔処理場への導入は、汚泥脱⽔ろ液や嫌気性消化汚泥を
対象とした MAP 法5箇所、処理⽔や返送汚泥を対象とした HAP 法 2 箇所、焼却灰を対象
とした灰アルカリ抽出法 2 箇所などに留まっている。なお、近年、焼却灰の燐酸製造の原
料として利⽤の事例もある。
表1
⾼度処理方式別処理場数
(平成26年度末現在)
処理方式
処理場数
左記のうち、付与されている処理方式等(重複計上)
有機物
添加
凝集剤
添加
急速ろ過
法
担体
オゾン
酸化法
活性炭
吸着法
その他付
与方法
生物学的 リ ン除去法
嫌気無酸素好気法
82
5
59
42
8
6
4
6
循環式硝化脱窒法
53
3
44
38
10
2
0
0
硝化内生脱窒法
6
1
5
5
0
0
0
0
82
13
60
31
8
2
3
1
67
2
52
26
2
1
5
0
38
2
8
7
1
3
0
5
その他処理方式
147
1
59
62
5
8
10
18
合計
475
27
287
211
34
22
22
30
ステップ流⼊式多段硝
化脱窒法
⾼度処理オキシデーショ
ンディッチ法
嫌気好気活性汚泥法
注)複数の処理方式を採⽤している処理場は重複計上とした。
生物学的窒素除去法+凝集剤添加(リン除去)
3.リン除去法の原理と特徴
活性汚泥法における下⽔中からのリンの除去は、窒素とは異なり、リンはガスとして揮散
することがないため、活性汚泥中に取り込まれたリンを余剰汚泥として系外に引き抜くこ
とでのみ⾏われる。したがって、活性汚泥中のリン含有率が大きくなると、リンの除去率が
大きくなる。下⽔処理において⼀般的に利⽤されるリン除去法は、同時凝集法と生物学的リ
ン除去法に大別される。
同時凝集法は、反応タンクにアルミニウム塩や鉄(Ⅲ)塩などの凝集剤を添加することによ
り、難溶性のリン酸塩を生成させ、沈殿除去する方法である。種々の活性汚泥法と組み合わ
せることが可能であり、平均的な流入下⽔の場合、全リン(T-P)除去率は 90%程度を期待
できる。凝集剤の添加量に応じて汚泥発生量が増加することや、汚泥の有効利⽤に影響を及
ぼす場合があるなどの欠点がある。
活性汚泥法では、必須の栄養塩として、活性汚泥の増殖に伴ってリンが摂取されることに
より、リンの除去が⾒られ、通常の活性汚泥法では、活性汚泥中のリン含有率は 1〜2%程
度である。これに対して、生物学的リン除去法(EBPR:Enhanced Biological P Removal)
は、リン蓄積生物(PAO: Phosphate Accumulating Organisms)によるリンの過剰摂取
現象を利⽤し、活性汚泥中のリン含有率を⾼め(2~4%程度)、余剰汚泥として系外にリン
を除去する方法である。平均的な流入下⽔の場合、T-P 除去率は 80%程度を期待できる。
嫌気好気活性汚泥法(AO 法)は、好気タンクの前段に曝気を⾏わない嫌気タンクを設け
ることにより、嫌気タンクで有機物を利⽤して PAO がリンを放出し、好気タンクでリンを
再び摂取することで、生物学的にリン除去を⾏う方法である(図1)
。また、嫌気無酸素好
気法(A2O 法)は、生物学的リン除去プロセスと生物学的窒素除去プロセスを組合せた処
理方法である(図 2)。
生物学的リン除去法では、降⾬な
どによる流入⽔有機物濃度の低下
や溶存酸素の持込み、返送汚泥由来
の硝酸性窒素の持込みにより、嫌気
タンクでのリン放出が不安定とな
りやすく、リン除去性能の低下を生
じやすい傾向がある。そのため、安
定的な処理⽔ T-P 濃度の確保が必
要な場合、凝集剤添加や砂ろ過など
の補完設備が必要である。また、余
剰汚泥が嫌気状態になるとりんが
再放出され、処理⽔のリン濃度に影
図 1 嫌気好気活性汚泥法の処理フロー
響を及ぼす可能性があるため、汚泥
処理に留意が必要である。⼀方、
A2O 法では、窒素除去とリン除去
に適した活性汚泥の系内の滞留時
間(SRT:Sludge Retention Time)
が相反するため、汚泥濃度管理にも
留意が必要である。
図 2 嫌気無酸素好気法の処理フロー
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