回廊讃歌 - 形式を突破する道的建築 -

法政大学大学院デザイン工学研究科紀要 Vol.5(2016 年 3 月) 法政大学
回廊讃歌
- 形式を突破する道的建築 HYMN OF GALLEY
ARCHITECTURE LIKE THE WAY WHICH BREAKS THROUGH THE FORMS
山森掌太
Shota YAMAMORI
主査 下吹越武人 副査 網野貞昭・高村雅彦 法政大学大学院デザイン工学研究科建築学専攻修士課程
The purpose of this project is constituting a architectures using the concept called "the way" to
review the contemporary architecture design process and building type, and discovering value
and charm of the new architecture that is different from the value system becoming mainstream
of the modern society by showing new building design technique.
Key Words : The way, Architectural theory, Water strage tank, Gallery
1. 背景
私 は 道 の よ う に ど こ ま で も 続 く よ う な 空 間 に 興 味 が あ る。
2. 道的建築とは
〈事例研究〉
本 来、 道 と は 都 市 の 中 に 張 り 巡 ら さ れ た 移 動・ 交 通 の た め
コルビジェや OMA などの作品のように道をコンセプトとし
の空間である。 またそれと同時に、 道とは様々な 「出来事」
た 建 築 は 数 多 く す る。 私 が 想 像 す る 道 的 建 築 を 定 義 し 相 対
の 連 続 の よ う な 空 間 で あ る と 私 は 思 う。 人 が 商 売 を し て い
化 す る た め に 建 築 に 内 在 す る 道 の 事 例 を 通 し て 研 究 し、 道
た り、 座 っ て 休 憩 を し て い た り、 急 い で 走 っ て い る 人 が い
的 建 築 の 8 つ の タ イ プ に 類 型 化 を す る。 そ れ ら に 共 通 す る
た り、 一 つ の 定 ま っ た 動 き の 中 に 様 々 な 出 来 事 が 存 在 し、
こととして以下のルールが存在する。
そ れ ら は 不 定 形 で と て も 曖 昧 で、 区 別 を す る こ と が で き な
・まずはじめにビルディングタイプが設定されている
い 連 続 的 な 出 来 事 で あ る。 道 と は 不 定 形 な 出 来 事 を 許 容 す
・居室と動線空間という主従関係の崩壊
る 空 間、 誰 も が 自 由 で 平 等 で い ら れ る お お ら か な 空 間 で あ
・何かと何かをつなぐ道的機能を残している
る よ う に 思 う。 一 方 で、 現 代 の 都 市 の 中 に 建 て ら れ た 身 の
〈空間試行〉
回りにあふれている建築というのは身体の動きを尊重した
次 に 私 が 想 像 す る 道 を イ メ ー ジ・ モ デ ル 化 し 空 間 試 行 を 行
空 間 体 験 や、 本 来 的 人 間 性 を 開 放 す る よ う な 空 間 を 構 成 す
う。スタディの過程の中から道的建築とは「道をコラージュ」
る と い っ た 価 値 観 で は な く、20 世 紀 以 降 の モ ダ ニ ズ ム を 中
す る 事 で は な い か と い う 仮 説 が 生 ま れ た。 こ の 仮 説 を 事 例
心とした近代建築に代表されるように経済性や生産性など
研究から読みとったルールと比較すると以下のことが相対
別 の 価 値 観 や 尺 度 に よ っ て 成 り 立 っ て い る。 経 済 の 論 理 に
化される。
支 配 さ れ た 建 築 は、 い つ の ま に か 場 所 と の 応 答 や 人 間 性 を
・道的空間のみで構成している
尊 重 す る こ と を 忘 れ、 人 び と を 効 率 的 に 管 理 す る 方 向 へ 発
・生成された全ての空間を道的空間として等価に扱う
展 し て き て し ま っ た。 こ の よ う な 形 式 を も つ 建 築 と い う も
・つなぐという道の形式の崩壊
の は 窮 屈 で あ り、 建 築 の 本 来 持 っ て い る 自 由 さ を 失 っ て い
「道をコラージュ」 するということを道的建築の普遍的な概
る。 本 研 究 で は 道 的 空 間 概 念 を 用 い た 新 た な 建 築 と そ の 設
念として定義し設計を行う。
計 方 法 を 提 案 し、 経 済 的 価 値 や 管 理 を 優 先 し た 建 築 の 持 つ
形式というものを突破することを目的とする。
図 1 モデルによる空間試行
図 2 道的建築概念 / 道のコラージュ
4. 提案
3. 敷地
敷 地 は 世 田 谷 区 代 田 橋 に あ る 「和 田 堀 給 水 所」 で あ る。 こ
の 敷 地 内 に は 円 と 矩 形、2 つ の 貯 水 タ ン ク が 存 在 す る。 土
〈和田堀給水所における 3 つのテーマ〉
私は和田堀給水所という敷地において以下の 3 つのことを
木構造物の巨大なスケールや独特なシルエットは無個性な
メインテーマとして提案する。
住 宅 密 集 地 に 強 い シ ン ボ ル と し て 存 在 し て い る。 ま た 敷 地
・ 外周に存在した小さな公共性の再編
の 外 周 部 に は 巨 大 な ス ケ ー ル の タ ン ク と は 対 比 的 に、 和 田
・タンクという閉ざされた土木構造物の開放
堀給水所の敷地の外周部には人々のための小さな居場所が
・道的建築による新たな建築の在り方
あ っ た。 広 場 や ベ ン チ、 腰 掛 け ら れ る 高 さ の 石 垣、 公 民 館
理不尽で暴力的な都市計画によって失われた地域の居場所
やレストランなど周辺地域の人のためのささやかな居場所
を 取 り 戻 す と 同 時 に、 貯 水 機 能 だ け で は 存 在 意 義 を 失 い か
が 敷 地 の 縁 に 点 在 し、 ま ち に と っ て の 公 共 の 場 が 都 市 の 中
け て い る 給 水 タ ン ク を 人 の た め の 空 間 へ と 開 放 し、 コ ス ト
を 一 周 し な が ら 形 成 さ れ て い た。 特 に 水 道 局 の 人 び と が 利
や機能性などとは違う価値観によってこのタンクを残して
用 し て い た 木 造 の 大 原 会 館 は そ の 後、 芸 術 家 の 筒 井 は じ め
い く と い う 2 つ の テ ー マ を、 道 的 建 築 と い う も う 一 つ の 大
に よ っ て 「 都 会 の 森 ガ ー デ ン 」 と し て ギ ャ ラ リ ー や 食 堂、
き な テ ー マ に 沿 い な が ら 両 者 を 同 時 に 構 築 す る。 ま た 計 画
大浴場などといった新たな居場所として生まれ変った。(こ
場所やプログラムを選定するために地域の居場所となって
のような建築のことをコミュニティハウスと以後呼ぶ)
いたコミュニティハウスの構成プロセスである 「 過去から
現在までの時間が蓄積した時間軸に、概念を与えるこ
とで動き出す新たな時間軸を重ねる」ということを参
考にし、 私は 1 号給水地に隠された回廊空間に道的概念を
挿入し、 面築を計画する。
Community
House
水道局員のための宿泊施設
利用が終わり、機能を失う
「都会の森」という概念が建築に介入する
コミュニティハウスへ生まれ変わる
Tank
水を防御するための二種類の壁
外壁を外し防御の機能を失う/ 回廊空間を顕在化
道的建築という概念を与える
形式を突破した建築へ
建物に時間が蓄積される
Time Line
新しい時間軸の発生
明確な機能を有する建築・構造物の誕生
機能の消失
新たな価値観の介入
多様なふるまいを許容する空間へ再編される
図 4 コミュニティハウスの構成プロセス
〈具体的設計手法〉
「道」 とその 「コラージュの仕方」 は敷地が持つ歴史や時間
図 3 和田堀給水所
軸といった場所性に起因すると特殊性をもっているはずだ。
し か し、 和 田 堀 給 水 所 を 含 め、 代 田 の 駅 は 都 市 計 画 に よ っ
そ の 特 殊 性 を 発 見 し、 そ れ ら を 具 体 的 な 設 計 手 法 と し て 取
て 大 き な 転 換 期 を 迎 え よ う と し て い る。 放 射 第 23 号 線 ( 井
り 込 む。 私 は コ ラ ー ジ ュ す る 「道」 の 素 材 と し て 和 田 堀 給
の頭通り ) の直通化計画や、京王線の高架化など新たな交通
水 所 に 接 す る 外 周 の 道 に 着 目 す る。 こ の 道 沿 い に は 公 園 や
インフラの整備によって和田堀給水所内を幹線道路が直通
神 社、 石 垣 や ベ ン チ、 そ し て か つ て の コ ミ ュ ニ テ ィ ハ ウ ス
し よ う と し て い る。 そ の 工 事 の た め に 敷 地 は 閉 ざ さ れ、 給
な ど 何 気 な い 小 さ な 人 々 の 居 場 所 が 点 在 し て い た。 ま た こ
水 所 に 存 在 し て い た 公 共 性 は 完 全 に 影 を 潜 め て し ま っ た。
の 道 を 歩 く と 2 つ の タ ン ク が 突 然 目 に 飛 び 込 ん で 来 る。 こ
外周に点在した居場所が失われたと同時に老朽化によるタ
の 道 は 街 と 貯 水 池 が 極 限 ま で 近 く な れ る 場 所 で あ る。 地 域
ン ク の 建 て 替 え 計 画 も 行 わ れ よ う と し て い る。 私 は 敷 地 の
の心象風景とも言えるこの道を私は素材として選定する。
外周にある居場所と周辺の風景を作ってきた2つのタンク
次 に こ の 道 を ド ロ ー イ ン グ し 一 つ の 絵 に 起 こ す。 そ し て こ
を継承し閉ざされたこの場所を公共の場として蘇らせる。
の 道 を 一 本 道 に 分 解 し、 計 画 敷 地 で あ る 回 廊 部 分 に 巻 き 付
ける。 外周の道は約 1000 mであり、 スケールを合わせなが
ら道をタンクに巻きつけるとタンクを 3 回巻くことが出来
る。3 周巻きつけた時、自動的に道のイメージのコラージュ
が 行 わ れ て い る こ と に 気 づ く。 場 所 固 有 の 道 を 場 所 固 有 の
コ ラ ー ジ ュ の 仕 方 に よ っ て 作 っ て い く 道 的 建 築。 こ の ダ イ
アグラムによって形作られた偶発的な空間は機能や目的に
よ っ て 導 き 出 さ れ た 空 間 と は 根 本 的 に 異 な る、 建 築 の 形 式
図 4 放射第 23 号線の直通化工事に伴う給水所の再編
を突破するための建築構成プロセスである。
図 5 外周部の道をドローイングし、抽出する
図 5 抽出した道を分解しタンクに巻きつけ再構築する
5. 結論
「道」 というキーワードから建築を構想すろことで、 社会の
枠組みによって無意識的に束縛されていた人間の自由なふ
るまいをもう一度開放するような建築が形成されていくだ
ろう。またこの道的建築の概念は場所や時間を超越し , あら
ゆる環境下においても自由で平等でおおらかな道的建築が
人々のために展開出来ると信じている。
6. 謝辞
本 研 究 を 進 め る に あ た っ て、 下 吹 越 武 人 教 授 に は 多 く の 時
間 を 割 い て 頂 き、 御 指 導 下 さ っ た こ と を 深 く 感 謝 申 し 上 げ
ま す。 ま た 副 査 と し て 指 導 を 頂 い た 網 野 禎 昭 教 授、 並 び に
高村雅彦 教授、 修士設計スタジオで御指導下さった飯田善
彦先生にも深く感謝申し上げます。 そして、 修士設計を行
う に あ た り 日 々 切 磋 琢 磨 し 合 っ た 研 究 室 の 仲 間 と、 本 研 究
の成功のために力を貸してくれた後輩達にも大変感謝して
おります。6 年間素晴らしい環境で建築を学べたことを誇り
に思います。 本当に有り難うございました。
7. 参考文献
1)「原 っ ぱ と 遊 園 地」青 木 淳 / 王 国 社
2)「ル ・ コ ル ビ ュ ジ エ 建 築 の 詩 ―12 の 住 宅 の 空 間 構 成」富 永 譲
3)「[email protected]+u Rem Koolhaas―a+u Special Issue」OMA
4)「形 の 合 成 に 関 す る ノ ー ト / 都 市 は ツ リ ー で は な い」ク リ ス ト フ ァ ー ・ ア レ
グザンダー
5)「パ タ ン ・ ラ ン ゲ ー ジ」ク リ ス ト フ ァ ー ・ ア レ グ ザ ン ダ ー
6)「ま ち 路 地 再 生 の デ ザ イ ン ― 路 地 に 学 ぶ 生 活 空 間 の 再 生 術」宇 杉 和 夫 , 井 関
和朗 , 岡本 哲志 , 青木 仁
7)「青 木 淳 1991 ‐ 1999」青 木 淳 建 築 計 画 事 務 所 / 彰 国 社
8)「青 木 淳 JUN AOKI COMPLETE WORKS|1| 1991-2004」青 木 淳 , モ ー セ ン ・ ム
スタファヴィ , 保坂 健二朗
9)「表 徴 の 帝 国」 ロ ラ ン ・ バ ル ト
図 7 道的建築
10)「権 力 の 空 間 / 空 間 の 権 力 個 人 と 国 家 の 〈あ い だ〉 を 設 計 せ よ」山 本 理 顕