10 BOOK オンボロボットと少女 長谷川 瑠美

ある日ボロボロのロボットはギィギィと音を
そう言った少女の顔は、無表情で、なにも感情を
立てながら歩いていると、一匹のネズミで遊んで
感じていない様でした。ロボットは少し考えた
いる少女に出会いました。ですが少女の顔は遊んで
素振りを見せたあと言いました。
いるのに全く楽しそうではありません。ロボットは
「じゃあ、探しに行こう!」
そんな少女を不思議に思い、話しかけます。
「え?」
「こんにちは、なにしているの?」
「なくしたのなら 探せば見つかるよ!」
「…ネズミさんと遊んでる」
「……そうかな?、そうかも。探してみようかな」
「楽しいの?」
「わかんない」
「…わからないなんて、いったいどうして?」
「楽しいとか、悲しいとか そういうの、なくし
ちゃった」
そう言った少女は持っていたネズミをぽいっと
「…よし決めた!オレもついて行くヨ!お嬢ちゃん
捨てました。すると捨てたところから「イテッ!」
の感情が戻ったところを見てみたイ!そしてなに
と声がしました。
よりおもしろそうだからナ!」
「ひどいじゃないカ!オレを投げるなんテ!怪 我
したらどうするんダ!」
「ネズミさんは喋れたんだね、びっくりしたよ。
投げてごめんね」
「うわー。本当に感情がないんだナ。謝 っている
のにまったく気持ちが感じねぇヤ…表情も真顔
からちっとも変わんねぇし…」
「ねずみさんも一緒に行くの?いいよ、一緒に行こう」
そうして一体と一人と一匹は歩きだします。
ギィギィ…
とたとた…
ててて…
長いこと歩いていると目の前にそれはそれは
たくさんあ り ま す 。少女はしばらく探していると
大 き い ガ ラ ク タ の 山 が 現 わ れ ま す。イラナイ
少し離れたガラク タ の 山 の 方 か ら「 あ っ た ! 」
ものを捨てるところ、なくした感情があるなら
と 声 が し ま し た。 そして小さいナニカを抱えて
ここだと思う。と少女は言いました。
嬉しそうにロボットが走ってきました。
「それじゃあ、手分けして探そう!」
割れたビン、破れた人形、へこんだお鍋、壊れた傘、
片方しかない小さな靴、そして よくわからないもの
…ガ ラ ク タ の山らしく使えなくなったものたちが
「あったよ、ほら!これ!」
「これで間違いないよ!」
そうしてロボットが持ってきたのは片手で持てる
そうロボットは言い、少女にその輝く石を渡し
くらいの小さなハートの形でキラキラ輝く宝石
ました。 のようなものでした。
その石は少女のもとへ渡るとスッと少女の中に
「キラキラしてキレイ…」
「これが本当にお嬢ちゃんの感情なのカ?」
消えていきました。
「……オイ、大丈夫なのカ?」
「…なんだか急に胸の中がウキウキ?する…よう
な気がする…?」
「…ありがとう」
少女はロボットとネズミに笑おうとしましたが、
ぎこちなく、上手く笑えません。
少女は自分に起きた変化に困惑してるようですが、 「やっぱり感情が戻ってすぐに表情を作るのは
表情は少し明るくなっていました。
「お、お嬢ちゃんの表情、あんなに無表情だったの
に少し明るくなってるんじゃないカ?」
「…これはたぶん【楽】の感情だよ!これで一つ目
だね!残りもがんばって見つけよう」
無理カ…。ま ぁ、 全 部 の 感 情 が 戻 っ た 頃 に は
自 然 に笑えると思うゾ!」
「わかった。頑張ってみる」
ま た そ れ ぞ れ 分 か れ、 ガ ラ ク タ の 山 で 残 り の
少女は少しだけ眉をひそめました。
感情を探していきました。
「…これは【怒】の感情だね」
しばらくすると、またロボットが一つの感情の
「これは、あんまりいいものじゃないね…」
石を持ってきました。
「それでも大切な感情の一部ダ。なくしていいもん
「また見つけたよ!これで二つ目だね!」
「またロボさんが見つけたのかヨ。すごいじゃ
ないカ」
「えへへ…ぼく なくしもの探すの得意なのかも!」
二つ目の感情の石も少女に中へ消えていきました。
「なんだろう、今度は胸の中がムカムカする…」
じゃない」
「そうだよ!残りも ちゃっちゃと 見つけちゃおう」
そしてガラクタの山にそれぞれ戻り、またしばらく
「そんなことないよ、たまたまぼくが見つけた
時間が経 つとロボットが三つ目の感情の石を
だけだよ」
持ってやってきました。
不思議に思っている二人にロボットはそう言い
「これで三つ目!順調だね!」
ながら少女に感情の宝石を渡しました。宝石は
「みんなロボさん一人で見つけやがったナ…
少女の中に消えていき、少女の目から沢山の涙が
ちゃんと探してるのが馬鹿みたいダ…」
「探し方がダメなのかな?」
れ出しました。
「なんだろう、涙が勝手に出て…それに胸がすご
んじゃないカ?」
く苦しいよ…」
「これは【哀】の感情だね……だいじょうぶ?」
「今までずっと固い表情ばっかりで泣いてない
だろうからナ…溜まってた涙が一気に
最 後 の 感 情 が 戻 る と き に は 表 情 も戻ってくる
れ出た
のかナァ?それにしても最 初 の 頃 と 比 べ り ゃ
ずい ぶ ん 自 然 な 表 情 が で き る よ う に な っ た
じゃないカ。まだぎこちなさが残っているけど
「そうだね!でも、日も暮れてきたし、探すのは
また明日にしようよ」
辺りを見回すとロボットの言うとうり日が落ちて
きていました。
「確かにもう夕方だナ。お嬢ちゃん、ロボ野郎の
言うとうりここはひきあげてまた明日探そうゼ」
「そうだね、そうする」
「きみのお家はどこなの?ご両親は?」
「わあぁ、ごめんね、泣かないで?今日はここで
みんなと泊まろう?ね?」
「そ、そうだゾ!オレらがお嬢ちゃんの寂しい思い
を紛らわせてやるヨ!だから泣くのを止めて休もう」
「……お母さんがいたけど病気で死んじゃって、 「…うん……うん…。そうする…いろいろあって
お父さんは何処にいるかわからない…。帰る家も
…私にはなんにもないよ…」
少女の落ち着いてきた涙はまた止めどなく流れて
いきました。そんな少女を見てロボットとネズミ
の二人は気まずくなりました
私、疲れちゃったよ…」
ガレキの山にあったボロボロのソファーに少女を
落 と し た 感 情 で 間 違 い な い と 言 っ て。 お 前 は
座らせると、少 女 は す ぐ に 寝 て し ま い ま し た。
お嬢ちゃんの落ちた感情のものの形を知って
その様子を見た後、ネズミが少し小さめの声で
いたんだナ」
話し出します。
「……」
「……よし、
お嬢ちゃんは寝たナ。
オイッ!ロボさんヨ、 「続けてお前は二つ目、三つ目も続々と持ってきた。
ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「なに、ねずみさん?」
ロボットも声を小さくして応えます。
「いや、少し気になったのでナ、お嬢ちゃんの感情
のことダ。少なくともオレは感情をなくした人なんて
やつは初めて見たんダ。当然、落ちた感情がどんな
ものなのか分かる訳がない…お嬢ちゃんも探して
いるところを見るにたぶんオレと同じだろう」
「だが、お前は違う。オレらが探し始めてわりと
すぐに一つ目の感情を持ってきた。しかもそれが
それもわりと早くに。オレらが探していたガラクタ
の山は一日探しても半分も探せないぐらいには
大きかった。それをお前は三つの感情を探し出し
たんだ。お前、実はお嬢ちゃんの感情のありか
全部知ってたんだろう?」
しげに聞くネズミにロボットは言います。
「……そうだよ。ぼくはあの子の感情をここで
拾ったんだ」
「拾った?お前、前にここに来てたのか」
なんとなく人になれた気がしたんだ…」
「うん。ぼくは古くなったからいらないって ここに
「……でもそれを返そうとしてるよナ?そんな風に
連れてこられたんだ。たくさんのガラクタの山の
思ったら普通返さないだロ、いったい何故ダ?」
中でぼくはぶらぶら歩きながら体が止まるのを
「そういうふうに感じたからこそだよ。こんな
待ってたら、たまたま四つの石ころを見つけたんだ。
素晴らしいものを失くした人が可哀想だと思ったんだ。
キレイだなぁって思って手に取ったらぼくの中に
だから感情を返そうと探してあの子に会ったんだ」
入っていったんだ」
「…お前捨てられたのカ、確かにあちこちサビついて
「感情が芽生えたからこそ、カ…。たしかにこんなに
感情豊かなロボットなんてもんも初めて見るナ」
ボ ロ い ロ ボ ッ ト だ な ぁ っ て 思 っ て い た ガ ……。 「喋るねずみなんてものもなかなか珍しいと思うけどね」
それで、その後は?」
「空がキレイだと思った」
「はぁ?」
「自分の見ている景色が変わったんだよ。何も
感 じ な か っ た 景色が色づいて、いろんなことが
面白くって、あぁ、楽 し い な っ て 思 っ た ん だ。
「それもそうだな!ハハハッ!」
「でもなんでお前、感情を一つずつ返すなんて
面倒なことをしてるんだヨ?返すならいっぺんに
返したらいいじゃないカ」
知らないロボットになってしまうと思うと、
とても、とても怖いんだ」
「だから一つずつで、最後の感情は明日にしよう
ネズミがそう言うとロボットは少し笑って応えました
なんて言ったのカ…。そ れ も ま た 感 情 の せ い
「……情け無い話だけど、怖かったんだ。感情を
な んだろうな…。それで?最後の一つはお嬢ちゃん
返すということは当然ぼくの中の感情が消えていく
ことになる。記憶もどうなるかわからない。
」
「感情が全部消えたぼくは、もうぼくではない
ただ の ロ ボ ッ ト 、 捨 て ら れ て た だ 止 ま る の を
待つだけのなんの感情もない、キ レ イ な 空 を
に返すのカ?返せるのカ?」
「 …… う ん。 も う 大 丈 夫。 返 す よ。 そ の 為 に
あ の 子 を 探 し て い た ん だ 。」
「それにね…」
「…オレはお前さんがお前さんでなくなるのは
「それに?」
悲しい。最後の感情は返さなくてもお嬢ちゃんは
「それにぼくはあの子の感情が戻って、表情が
笑ってくれるだろうし、許してだってくれるんじゃ
表れてきているのを見て、あの子の笑顔が見たい
と思ったんだ…。 ぼ く の 中 に 残 っ て い る の は
今 ま で あ の 子 に 渡 し た 感 情 を 見 る に【 喜 】 の
ないカ……?」
「……私、そんな事になるなら最後の感情なんて
いらないよ…」
感情だ。それを返して、ありがとうって喜んで、 「!」
笑ってほしいんだ、だから、返したい」
「!」
ロボットとネズミ振り返るとそこには今にも
泣 き そ う な 少 女 が い ま し た。 服 の 裾 を 掴 ん で
涙が出るのを堪 えて、ふるふると震えていました。
少女は震える声で言いました。
「ロボットさんが私の感情を持ってたのは薄々
気づいてたの…。でも、そんなのは別にいいよ。
「お嬢ちゃん…いつから聞いていたんダ…」
でもロボットさんがロボットさんじゃなくなるのは
「どこまで聞いてたの?」
いやだよ……だから……だから……」
「……最初から。ネズミさんがなんかロボット
少女の目からは今にも涙が零れ落ちそうです。
さんと話したがってたから…寝たふりしてたの…」
「だから…、だからね、私、【喜】の感情なんて
「寝たふりとか、お嬢ちゃん小さいくせになかなか
いらないよ…。私、ロボットさんがいなくなる方が
やるナ…」
「最初から聞いてたならぼくが君の感情を持って
たのも、ぼくが怖くて一つずつ返してたことも
知られちゃったね…」 いやだよ…。私、もうちゃんと笑える…笑えるよ?
【喜】
の感情がなくてもできるよ?だから…だから!
【喜】の感情は持っててよ…」
涙を堪 えながら必死に訴 える少女にロボットは
思っ た の は 空 が キ レ イ だ と い う 感 動。 そ れ を
少し笑って少女の頭を撫でて言いました。
感じられたことの【喜び】なん だ よ …。 そ れ が
「ぼくは別に死ぬわけじゃないよ?大袈裟だなぁ
君は…あはは」
「その気持ちは嬉しいけどね、この感情は、ぼくが
今嬉しいと感じるこの感情は君のなんだ。このまま
ぼくの中にあると君はずっとこの感情を感じられない。
それはぼく、いやだなぁ」
感じられただけで壊れるのを待つだけだった
ぼくには十分だったんだ。だから、もう必要ない。
この感情は君が持つべきだよ」
「君にぼくが感じた【喜び】を一番感じてほしいんだよ…
だからお願い。君の【喜】の感情、ぼくに返させて?」
「…………………わかった…」
「でも……」
少女はまだ暗い表情のままですが、はっきりと
「今思えば、ぼくに感情が芽生えて一番最初に
言いました。
「……それともう一つぼくのお願い。感情がなくなって
「へへ…みんな優しいなぁ、ぼく、本当は感情が
ただのロボットになったぼく で も、 友 達 に な っ て
なくなるよりも、ただのロボットになっ た ら
く れないかなぁ。やっぱり一人は寂しいからさ…
みんなぼくのこと嫌いになると思って怖かった
ね?ねずみさんも…」
んだ。ありがとう。もう怖いことはない、安心して
「そんなの当たり前だよ…感情がなくなっても
ロボットさんは友達だよ!」
「聞くまでもねぇ、当然だロ!オレがそんな薄情
に見えるのかヨ?」
君に感情を返せるよ」
「……じゃあ、返そうか。最後の感情を」
ロボットの言葉は片言のようになり、ところどころ
「…うん」
淡々としているように感じます。
ロボットは自分の胸に手を当てると、突然光り出し、 「お嬢ちゃん!」
少女とネズミは眩しさに目を閉じました。
「わかってる…それがロボットさんのお願い
光りが収まり、ゆっくりと目を開けると少女の
だ もんね。ちゃんと受け取るよ」
目の 前 に は 見 覚 え のあ る 小 さ な ハートの 形 で
少女が手に取ると少女の中にその石は消えて
キラ キ ラ 輝 く 宝 石 の よ う な も の が ロ ボ ッ ト の
いきました。
手にありました。
そしてロボットはガシャンとその場に倒れて
「はイ。こレガ君の最後ノ感情。【喜】の感情ダヨ。
ドウゾ…」
「ロボットさん…」
しまいます。
「お、おい!ロボさん!大丈夫カ!」
「ロボットさん!」
ロボットが目を開けると目の前には小さな少女と
少女はロボットに微笑みました。その笑顔はとても
ネズミがいました。
可愛らしく、そして優しい笑顔でした。
「キミタチハ、イッタイ…誰デスカ?ドウシタノ
デスカ?」
「やっぱり記憶はないのカ…」
「…私たちはあなたの友達だよ。覚えてないみたい
だけどあなたは私の大事なものを探してくれたの」
「トモダチ……?ワタシニ…トモダチ……?」
「そう、友達。何もなくなってひとりぼっちだった
私にいろんなものをくれた大切な友達…。と て も
嬉しかった。本当にありがとう」
少女の笑顔を見たロボットは首を傾げてこう
言いました。
「…ワタシニハワカリマセンガ、ワタシハ、アナタノ
ソノ表情ガ見タカッタ気ガスルノデス」
そのとき少女とネズミは、ロボットが少し笑った
ように見えたのでした。
おわり