超高齢社会の中で広がる骨粗鬆症①

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【 デ ー タでみる ぶぎん健康ファイル⑯ 】
す。なぜ女性に多く発症するのでしょうか?
骨密度は男女ともに20歳前後で最大に達
超高齢社会の中で広がる
します。その後、男性が緩やかに下降するの
骨粗鬆症 ①
に対し、女性は50歳前後を境に急激に減少
します。これは閉経により、骨の新陳代謝に
す
骨粗鬆症は、骨に「鬆」が入ったようにス
関わる女性ホルモンのエストロゲンの分泌が
カスカになり、骨折しやすくなる病気です。
急激に低下することが大きな要因です。実
骨は加齢にともない、もろく弱くなりますが、
際、骨粗鬆症の女性の有病率は50歳代から
背中や腰が痛む、腰が曲がる、背が低くなる
増加し始め、60歳代では3人に1人が、70
などの症状は、単なる老化現象ではなく、骨
歳以上では2人に1人が骨粗鬆症と言われて
粗鬆症が原因となっていることが多いのです。
います。
骨粗鬆症になると、転倒やつまずいた時だ
■骨折から寝たきりの原因に
けでなく、物を拾おうとかがんだ時、荷物を
前述のような腰が曲がる、背が低くなるの
持ち上げた時、くしゃみをした時、頭上のも
は背骨が体の重みで押し潰れてしまう「圧迫
のを取ろうと背伸びをした時など、日常の
骨折」によるもので、その原因の多くは骨粗
ちょっとした動作で骨折しやすくなります。
鬆症と言われています。圧迫骨折は痛みを感
骨粗鬆症の怖さは、骨折による日常生活動
じない場合も多く、単なる腰痛として見過ご
作(ADL)が制限されたり、生活の質(QOL)
されがちですが、1ヵ所骨折すると、その周
が低下するだけでなく、社会的な問題となっ
囲の骨にも負担がかかり、連鎖的な骨折(ド
ている寝たきりの原因となることです。日本
ミノ骨折)を引き起こしやすくなります。
では骨粗鬆症に罹っている人は、1,300万人
日本では70歳代の4人に1人、80歳代の
以上と推計されていて、超高齢社会進展でさ
2人に1人に圧迫骨折が認められると報告さ
らに増加すると予想されています。
れています。圧迫骨折により背骨が変形する
■なぜ女性に多い?
と、消化器系や呼吸器系にも障害を及ぼす可
骨粗鬆症の推定患者数を性別にみると、男
能性も高いため、腰痛が長く続いたり、姿勢
性に比べて女性は3倍以上で、現状の1,300万
の変化を指摘されたら、すぐに専門機関を受
人のうち、1,000万人近くを女性が占めていま
診しましょう。
図表1
骨粗鬆症により骨折しやすい
骨粗鬆症有病率の年代別分布
部位は、背骨、脚の付け根、手
首、腕の付け根です。なかでも
60
「大腿骨近位部骨折(大腿骨頸部・
女性
男性
特に問題なのが、脚の付け根の
転子部骨折)
」です。転んだ瞬間
頻 度
40
から立ち上がれず、多くの場合
は手術が必要になり、長期の入
(%)
20
院を余儀なくされます。入院中
は絶対安静で、歩くこともでき
0
40代
前半
40代
後半
50代
前半
50代
後半
60代
前半
60代
後半
70代
前半
70代
後半
80代
前半
80代
後半
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン
(2006)
をもとに作成
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ぶぎんレポート No.207 2017 年 2 月号
ないため筋力や運動能力が衰え
てしまうのです。
特に高齢者は安静期間が長いと寝たきりと
なる可能性も高いので、骨折や転倒には十分
介護が必要となった主な原因
図表 3
1.3%
な注意が必要です。「骨折・転倒」は、介護
が必要になった原因の4位(11.8%)に位
置しますが、男女別にみると、男性が第4位
認知症に次いで第2位(全体の15.1%)と
31.9%
男性
(全体の5.6%)であるのに対し、女性では
28.4%
高い割合を占めています。
大腿骨近位部骨折の発生率は、50歳以下
ではごくわずかですが、60歳以上になると
徐々に増加します。特に閉経後の女性では、
5人に1人の割合で発症すると言われていま
13.3%
10.3%
4.7%
4.4%
こる可能性が高く、そのリスクは4倍近いと
いう報告もあります。屋外はもちろん、室内
患者の3人に1人は男性です。男性の骨粗
鬆症の半数以上は明らかな原因があると言わ
れており、喫煙や過剰飲酒、運動不足などの
生活習慣や、腎不全、呼吸器の疾患、糖尿病
などの内分泌疾患などが指摘されています。
また、骨粗鬆症による骨折頻度は女性に比べ
て低いのですが、重症化しやすいので軽視は
禁物です。
衰弱
骨折・転倒
1.7%
19.3%
4.4%
関節疾患
13.3%
女性
でも転倒には十分な注意が必要です。
認知症
5.6%
す。また、大腿骨近位部骨折は、繰り返し起
脳血管疾患
14.3%
15.1%
17.1%
15.0%
心疾患
その他の原因
不詳
厚労省
「平成25年 国民生活基
礎調査の概況」
をもとに作成
初めて診断される場合が多く、8割近くの方
が未治療と言われています。早期発見・早期
治療のためにも、自分の骨密度はどの位なの
か、また、同年代の平均と比べて多いのか、
■骨粗鬆症検診で骨の健康をチェック
少ないのか把握しておくことが大切です。
が、自覚症状がほとんどないため、骨折して
いので、40歳を迎えたら一度測定をすると、
骨粗鬆症の患者数は年々増加しています
図表 2
大腿骨頸部骨折患者数予測
それが目安となり、以後の測定時に役立ちま
す。多くの自治体では、女性を対象に40歳
から5歳刻みの節目検診として骨粗鬆症検診
(人)
200,000
191,529
200,691
が行われていますので、積極的に受診しま
しょう。そして骨密度が急激に減少する閉経
198,519
女性
121,376
後は、できるだけ年に一度は測定して骨密度
の変化を把握しましょう。
100,000
骨粗鬆症は「骨の生活習慣病」とも言われ
2020
46,385
46,907
46,287
2030
2040
2050
男性
40,853
0
骨密度は40代半ばまでは大きな変化がな
厚生労働科研究
「長寿科学総合研究事業 大腿骨頸部骨折の
発生頻度及び受傷状況に関する全国調査」
をもとに作成
ていますので、できるだけ日常生活の危険因
子を減らすことが予防につながります。男女
ともに40歳を迎えたら「骨粗鬆症予備軍」
と自覚し、生活習慣を見直ましょう。
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