冬雷2月号 - 冬雷短歌会

2017 年・ 2 月号
二〇一七年二月一日発行(毎月一回一日発行) 第五十六巻第二号 (通巻六六〇号)
短歌雑誌 TOURAI
冬雷集…………………………………………………桜井美保子他…1
二月集 ………………………………………………大久保修司他…16
作品一 …………………………………………………永田夫佐他…26
作品二 …………………………………………………立谷正男他…58
作品三 ……………………………………………小久保美津子他…72
十二月集十首選 ………………………………………………山﨑英子…11
第 22 回編集委員会賞発表…………………………………………………40
第五十五回冬雷大会記・詠草・他 …………………………………………43
冬雷集評・十二月集評 …………………………中村哲也・小林芳枝…12
十二月号作品一評 ……………………………冨田眞紀恵・嶋田正之…14
コラム「身体感覚を歌う」⑾ ………………………………橘美千代…25
今月の 30 首(ビジュアル世代)……………………………吉田佐好子…54
十二月号作品二評 ………………………………赤羽佳年・中村晴美…56
十二月号作品三評 ……………………………水谷慶一朗・関口正道…70
十二月号作品十首選 ………………………………ふみ・修司・克彦…81
詩歌の紹介 34…………………………………………………立谷正男…82
歌誌「抜錨」を読む⑼ ………………………………………中村哲也…83
今月の画像 ……………………………………………………関口正道…86
歌集・歌書御礼………………………………………………(編集室)…87
表紙絵《桜》嶋田正之 / 作品欄写真 関口正道 /
題字 田口白汀 ■冬雷の表紙画をたどる( 昭和四十九年 )
表紙のことば〈 髙橋雅之 〉
此の仏像の首は、妹が東京のある骨董屋で見つけて来た
もので、店ではなかなか手離さなかったそうである。
店の主人の話によると、此の仏像は五百年前の中国で創
られ、首だけが日本に持込まれて来たという事であり、首
だけで三〇キロもある重いもので、店の車で運ばれて来た。
現在吾家の玄関内に置かれているが、訪ねて来る人で此
の仏像の首を眺めながら、「 夫婦喧嘩をした時に、此の像
を見てれば仲直りが出来る 」などといかにも此の像の面
に惚れてしまって、 冗談を云っているのを聞いて居ると、
現代の殺伐たる忙しい日々を送って居る吾々に心の安らぎ
を与えてくれる様な感慨になって絵筆をとってみた。
*この年より髙橋雅之の画となる。珍しく作者の「 表
紙絵のことば 」があるので転載する。( 編集室 )
2月号 目次
冬 雷 集
冬雷集
那珂川の鮎 神奈川 桜 井 美保子
那珂川の鮎料理の店二度目にてけふはテラスの席に坐りぬ
塩焼きの鮎と蕎麦が運ばれて那珂川のほとりにツアーの昼食
簗のある処までかかる橋ゆけば滾つ早瀬の音に包まる
身の内の何か癒さる那珂川の水の勢ひを目の前にして
田園のなかに立ちゐる遊行柳めざして歩む秋風のなか
紅き色に惹かるる吾か畦道に今を盛りの曼殊沙華の群れ
苔むして太き幹なり芭蕉の見し柳は代を引き継ぎて生く
白河の関跡の森に聳え立ちわれを圧する杉の老木
赤ちやんが大泣きしてゐる温泉場ねむくなつたかお腹すいたか
白きタオル頭に被るお母さん赤ちやんをあやす少し揺すりて
冬の入りに 東京 赤 羽 佳 年
洗ひたるタオルの皺をのばしつつ昼のベランダに昼の陽を浴ぶ
廃校の庭に古りたるヒマラヤ杉冬木となりて鋭角に立つ
蹴上がりも車輪も出来た日もありき廃校校庭の鉄棒に寄る
三度ほどの懸垂を終へ掌の錆を払ひて今の身を知る
高徳院大仏 鎌倉市長谷
1
風向きを見せ池の水皺立てる寒寒として北の風吹く
冬空に低く飛びくる群烏のよこさまにして目の前よぎる
ひとしきり楽流しつつ引売りの灯油の車ゆふべ往き来す
剪定の跡の拳を突き上げて冬の入りにサルスベリ競る
炬燵居の左右一尋に物を置き立つこともなく用足りてゐる
五十年住み経る団地に踏まぬ道不明の道がまだまだありぬ
愛知 澤 木 洋 子 寒気団張り出す予報に張り切りて大根十瓩竿に干しゆく
冴え返る朝の脳にひよつこりと昨夜より迷ふ役者の名前
洗濯機の回転脱水耐へ凌ぐ盗人萩は強かな奴
両手ふり大股に行くいちやう並木何とも嬉し秋の休日
黄一面に立てば自づと力湧くいちやう大樹の落葉さかん
掛川に求めし葛布のブックカバー古語辞典ひくたびひと撫です
夕闇のただよふ「小夜の中山」に聞くは哀しも夜泣石伝承
ほどのよき麦芽糖なりあらぎ屋の床几に舐る子育飴を
往時より踏み均されて金谷坂石畳丸く足裏にやさし
内視鏡検査 大阪 水 谷 慶一朗
ジュレ状の麻酔薬ごくんと吞み下し喉の痺れはときおかずくる
食道の襞を鮮明に写しつつ内視鏡は暗き胃腑に下りゆく
内視鏡が胃腑の内部を照らしつつ滑らかに動くモニター画像
2
冬 雷 集
十二指腸に変形ありしが異常なしと医師は抜きたり内視鏡の管
山法師は一つ秀枝にいさぎよき白を偏せ返り花咲かす
返り花狂ひ花とも人は言ひ寒に咲きたる山法師を仰ぐ
つぼみ堅き梅の枝に来て黄緑色のからだ震はせめじろ囀る
風さむき墓苑の道に堅き音たてて吹かるる朴の乾反り葉
梅雨の季に早苗を植ゑし児童らが稔り田の畔に拍手して並ぶ
先生に引率されたる児童らが稔り田の稲穂に触れて畔ゆく
( 〃 )
福島 松 原 節 子
先生の歌集読みつつすぐにでも歌が詠めると思つてしまふ (川又幸子歌集)
丁寧に生きよと諭す先生の晩年の日々想ふ切なく
喜寿祝ひ無料に撮りくる写真館この町にあり今年はわれら
寒くなる前に法事を済まさうと決めたる日取り小春日のはず
福島は寒いと幾度も言ひやれど薄着に現る東京の姪
良い食事摂つてゐると母褒めらるは血液検査のいつもの結果
(福岡場所)
(十一月二十二日)
大震災に打ちひしがれて始まりたる相撲いつしか活気満ちくる
早朝に震度五弱の余震あり福島県沖まだまだ動くと
久々に生協のなか見まはして母の気力の戻りくるらし
東京 赤 間 洋 子
今年は悲しきことが重なりぬ川又先生と義弟との別れ
今年は嬉しきことも続きたり工芸の公募展二箇所入選
3
民芸館展受賞者の苦労話聞く選者の講評も我が糧になる
制作といふ目標あれば休みなく好奇心持ち展覧会巡る
更紗染めの布が次々染め上がり譲れば友は服を仕立てる
電車にて一 七
• 人程の空席あり詰めてもらひて二人腰掛く
籤運が向いてきたのか大当たり「忠臣蔵」と「第九」のチケット
十一月八日は「いい歯の日」二十九本の歯を持ち表彰される
勉強会グループ展に公募展休む暇なく一年終はる
東京 森 藤 ふ み
小さなる社に一軒建つ小屋の熊手売りをり二の酉までを ひよこ豆クリーム色をゆであげて冷え込む夜のスープに入れる
天に向く鶴の嘴いきほひよく水をふき出す冬青空に
池の面に張り出す枝にカハセミの止まり動かずカメラの並ぶ
頂ける柚子の実ひとつ手のひらに包めば香りアロマの効果
頂けるたくさんの柚子何つくらむ考へをりてやはりジャムにす
刻みゆく柚子の皮のやはらかく甘さ控へめ砂糖を量る
鍋底をかき混ぜながら柚子ジャムの煮詰め加減を確かめてをり
富山 冨 田 眞紀恵 咲くべくは大方咲きてわが庭はしづかに待ちをり今年の冬を
黄ばみそむ黄の葉一ひら手に受けてしみじみわれの齢と思ふ
年々に菊咲く頃は思ひ出す息子の下宿に通ひし菊坂
4
冬 雷 集
友に出す手紙折るとき声にせず幸せですかと問ひ掛けながら
石蕗の花咲きそめてわが庭も今年の色の終となりたり
人生を旅路と言ひしその人の山また川はいかにありしよ
定住の一生と言ひしもそのこころ旅にも似たる思ひはありて
日常を一時なりと離れむと人々はゆく旅路なるかな
ちぎり絵の様に白雲わく空は少女の頃の私に返す
つぶつぶと零れし豆を拾ふごと一首一首とつくるわが歌
茨城 佐 野 智恵子 柿の実の色付く庭が多くあり老人の住む家と知りたり
き いろ
電気の笠拭く事出来ぬ老い独り去年と違ふ悲しみのわく
公孫樹の葉黄色になりて美しく街を明るく秋のひととき
卒業し母校の校章公孫樹の葉九十過ぎて眼の前にあり
校庭に星空仰ぎ名を聞きし甥は元気で居るであらうか
障子あけ上弦の月赤々と吾を迎へてくれたかに見ゆ
クリスマス余計な灯まで飾るいま自然な夜空見るも大切
町中が一夜でよいから灯を消して星空仰ぐ夢をいだけり
故郷で星空仰ぎ美しき空想つきぬ若き日想ふ
龍馬像 東京 櫻 井 一 江
仰ぎ見る袴にブーツの龍馬像さんさん秋日に偉人の威容
龍馬像と共に写真に収まれず高き台座に触れつつ見上ぐ
5
業者撮る龍馬像入りの集合写真に龍馬は堂々海方向を見つ
桂浜公園歩めば高々と松林の上に龍馬像の立つ
土産店へ行く友と分かれ山あひの龍馬記念館への坂道上る
立て札に四百メートルと記しあれど上りの道は中々きつし
汗だくに上り来れる記念館に龍馬の志を想ひ太平洋を眺む
団体の集合時間に縛られて龍馬の資料をそこそこに去る
桂浜を後にし間なく「はりまや橋」を見損じまひぞ小き橋なり
秋から冬へ 東京 天 野 克 彦
縁側に蝋燭とぼし山に鳴く虫の音聴きをりこの静けさや
もみぢ葉の照れる山べに家をれば羨しくもあらず寧楽の山々
ことごとく葉を落としたる椎の木は冬の入り日にいさぎよく立つ
ひと よ
その一生生きがたきこと多かりけむみほとけとなりし君をおもへば
えにしありて歌との交はり十六年君に届くやわが泣く泪
なにとなく日々のいとまに見てゐたる銀杏の黄葉落ちつくしけり
本を読む机の上に冬日さし飛びかふ鳥の影のちらつく
餅を焼くにほひが好きで今年また炭熾しをり欅の火鉢に
岡山 三 木 一 徳 いわし雲流れて秋も深まりぬ魚焼くにほひ路地にただよふ
秋茜の野道を往けばカサコソと枯葉追ひきて吾をせかしむ
風物詩浜辺にゆれゐる干だこは潮風受けて旨味増しゐる
(想・荒木米子)
6
冬 雷 集
引つ張られ足拡げたる干だこは寒風にふるへ晒され揺れる
あちこちと震災起こるその度にテレビのテロップ即伝へをり
今日もまたデイサービスを訪れて最後に皆を大声で笑はす
山梨 有 泉 泰 子 西日受け黄に輝く藤の葉の窓を透して部屋の明かるむ
様々な色して桜葉散り敷けり雨に濡れたる緑の歩道に
夕焼けの空に聳ゆる甲斐の山紅葉に染まる懐かしき色
細細と咲きゐたるインパチェンスを部屋に取り込む雪予報うけ
強風に木の葉舞ひ散る枝間より雪を被ける甲斐駒ケ岳の見ゆ
公園の木々の葉舞ひ散り渦の中園児はかけつこ鬼ごつこしをり
夫の友柿捥ぎせむと脚立より落ちて逝きしと元気でゐたるに
逝きし友の裏庭にある柿の下脚立そのまま置かれてありぬ
東京 荒 木 隆 一 堅実な暮しにほはすバスの客買物袋に葱を覗かせ
ひとしきり朝の冷気を切裂きて椋鳥が騒ぐ季節に移る
団地より畑仕事を見おろされし悔しさ語る老の白髪
大津波の余震で壊れし瓦葺きの旧家もあらかた姿を消しぬ
買ひかぶる友に些か辟易すされど傍ら感謝も忘れず
一面に皇居の濠を覆ひたる夏の名残りの藻が蔓延す
立て並び横積み保存の古文書館地下深き書庫は黴も匂はず
7
廻り道しコスモス見せし勤め先の送迎バスの運転手の粋
ゴールデンレトリバー 埼玉 嶋 田 正 之
ゆるやかな坂の途中に今朝も会ふ犬を乳母車に乗せゆく人に
近頃は小さき犬ひく人多くボルゾイなどにはしばらく会はず
ゴールデンレトリバーとの触れ合ひに癒されにけり気の優しさに
犬小屋の柵に足掛け定刻になれば必ず散歩せがみし
寒中はおだし日選びホースもてふさふさの毛を梳かし洗ひき
ライオンに似たる毛並みの姿にて吠えつく犬を相手にはせず
信号が赤に変はればお座りの姿勢を保ち動かざりしも
待つ犬に声掛けやればあきらかな笑顔を見せて甘く吠えたり
庭隅に骨をうづめて石を置く時折帰る孫が手合はす
東京 池 亀 節 子 祝日はいつも軒先に日の丸立て勤労感謝の今日も際立つ
真夜目覚め窓越に見る外の風景「何時か」当てる一人のゲーム
夜明けごろ雪の予報に気配なく再び見ればおお初雪だ
五叉路なる道路向うのコンビニは夜通し人らの出入りの絶えず
カート重く階上るとき身構へて一段一段気合入れつつ
仕事やめテレビ体操始まれば只五分のみ頑張る我は
強風に目を開けられず薄目して風をさへぎり肩すぼめゆく
栃木 兼 目 久 8
冬 雷 集
高齢ゆゑ賀状を今年限りにて遠慮しますとの先輩のハガキ
書きたいと思ひてゐたる漢字語句出典やうやく調べ見つかる
正月に開催される書道展年内十一月三作書き終ふ
格下に負けたる相撲に憤慨すいつのまに稀勢の里のファンになれり
バスのドアが開くまで席を立たないで運転士が言ふ停車するたび
十一月に三十一年ぶりの雪降りて菜園の野菜雪に隠るる
十月の半ばより肥る白菜を二つに割りて出来ばえを見る
まだ誰も歩いてゐない新雪に足跡残し散歩する夕
うす暗くなりたる夕べわがそばを綿虫が飛ぶ上に下にと
東京 穗 積 千 代
梢から枝の先から陽当たりから木毎にもてる秩序あるらし
早生晩生わづかな差異をみせながら銀杏並木の黄葉はじむ
裸木となれる桜のしだれ枝を透かしてみゆる本堂伽藍
網の目に支への木組み調へて寺院の屋根の修復すすむ
括らるる瓦置かるる寺の屋根弓なりに反る線の麗し
懐かしみ歩み入りたる根津藍染早朝なれば児らの声なし
千葉 堀 口 寛 子 ゆれ乍ら皇帝ダリアの花びらがゆつくりゆつくり大きく咲きぬ
夕べ吹く風に散りたる桃色の皇帝ダリアの花びら拾ふ
発病の夫を案じ会ひに来てくれたる長女に元気を貰ふ
9
血圧もおだやかになり長女との一日夫も笑顔となりぬ
血圧も上らず長女と居るだけで夫も吾れも日常もどる
手術には全身麻酔が夫には大きな負担と医師は話しぬ 神奈川 浦 山 きみ子
夫と娘と住みて穏やかなる日々に誰も健やかなればよしとす
ブロック塀越えて繁れる南天の実の赤々と三房豊けく
穏やかに日々送り来てこの月もすでに半ばを過ぎて月末
日の暮れの静けさ塀の外をゆく靴音さへも遠くなりつつ
午後三時過ぎまで秋の日ざし浴む洗濯ものを背伸びして取る
うとうとと眠くなりゐてメモ帖に書き込める文字斜めに流る
月に二度集ふコーラスの仲間たち明日は忘年会と笑みあふ
コーラスの友らと今年の忘年会親しく声を交し楽しむ
六人のコーラスグループ欠くるなく師の弾き給ふピアノに合はす
東京 近 藤 未希子 川又さんの赤きカーネーションのゑ葉書を大切にしながら失ふは何故
三日間何とはなしに捜しつつ寝る前に見つけうれしく眠る
今度こそなくすまいとぢ込み歌集『母の庭』の書類と共に
その他の川又さんの手紙葉書もまとめおく黒塗りの美しき箱に
鑓水は寒い処と語りたればホカロン一箱送り下さる
背中が寒い朝はホカロンを貼る直ぐ暖かくなり夜までぬくし
10
冬 雷 集
昨年の冬雷大会の休憩時ここに居てと車椅子の横にわれをおくなり
どうするのわが問ひに返事のなくて短き時はすぎ去りゆけり
東京 山 﨑 英 子 気にかかりゐたる朝霞の墓参にと友は優しく誘ひくださる
「百合の花お好きでしたネ」と供へつつ無沙汰を詫びて思ひ出話
「山﨑さん守つてあげて下さい」と声に云ふ友に涙が滲む
いく度の嵐に耐へて散らざりしさくらもみぢの色は鮮やか
朝々を母の削れる鰹節の音に目覚めし幼き日思ふ
味噌汁の香に包まれて朝が来る何故かしきりに昔が恋し
窓覆ふみどりの日除の石蕗の黄の花やさし又南天の紅
食みながら片手ハンドル軽快に若者行けり蝉は時雨れぬ 穂積 千代 巣立ちたるばかりや鷺のふんはりと飛びては止まる電線に二羽 有泉 泰子 ☆
わが家に娘ひとりが加わりてその身にひとつのいのち育む 高松美智子
風邪ぎみにてベッドに臥せば仏壇の写真の夫が頑張れと笑む 石田 里美 覚えなきこの彼岸花は何処より飛び来れるや二年前より 田中しげ子 朱の色を残せる空を黒く行く群れ飛ぶ鷺が時に煌めく 高橋 燿子 ☆
かぼす添え新米友より届きたれば高値の秋刀魚迷わず求む 飯嶋 久子 ☆
一日の幸せ数え床に着く朝の光を信じる心 松中 賀代 ☆ 11
「片観月」といふ語のひびき懐かしく叔母と語らふ今日十三夜 倉浪 ゆみ 秋風が立ちて日の暮れ早まりぬ紫蘇の穂出でて摘む手の香る 林 美智子 ☆
山 﨑 英 子
心臓の検査終りて〇となしバス乗継ぎて街路樹観賞
十二月集十首選
まるで人物でも写すかのように発した
は聞き逃さず心に留めて帰ったようだ。 「 五 ヶ 月 ぶ り の 」 と 覚 え て い た 作 者。 大
五か月ぶりに息子から連絡のあった作
者。 内 容 は「 お 袋 よ 生 き て ゐ る か と 」、
層息子からの連絡を心待ちにしていた模
「 動 か な い で 」 の 言 葉。 ま ま な ら な い 自
様だ
ある意味素っ気無かったようだ。しかし
街灯の光さへぎる椎の木が伐られてゐ
現人の身に起りうる足腰の弱り痛みを
然に思わず発したその切なる言葉を作者
畳屋の跡取り息子フィリピンの少女娶
たりわが窓の前 森藤ふみ
十二月号冬雷集評 中村 哲也
りて明るくなりぬ 白川道子
椎の木の葉陰で街灯の光が届かなかっ
なかなか出会いに恵まれなかった畳屋
の息子。そんな彼がフィリピンの少女の
ような女性を娶った。結句「明るくなり た作者の家の窓。ある日突然、伐採され 老いて楽しまむ 赤羽佳年
ぬ」と、周囲も驚くほどに明るくなった。 て差し込むようになった。その窓の明る 加 齢 と 共 に 訪 れ る 足 腰 の 衰 え や 痛 み。
さの前に立つ作者。「伐られてゐたり」に、 それは「現人の身」であるが故、つまり
土なかに球根は生きて季なれば茎突つ
ばしい出来事であった模様だ。
戸惑いが感じられる。
思っても見なかった状況変化への一種の
いて楽しまむ」に、加齢から生じる体の
生きている証しと捉える作者。結句「老
畳屋の息子をよく知る作者にとっても悦
立てて彼岸花咲く 水谷慶一朗
土の中に埋まる彼岸花の球根。時期到
来と共に一斉に芽吹き始める。その自然
の摂理を神秘的と感ずる作者。そして「茎
のコンテナ久びさ長し」と言う作者。毎
ハロウィンの時期に病院を訪れた作
者。診察室には、かぼちゃの提灯「ジャッ
衰えや痛みを当然のものとして、尚生き
「 金 太 郎 」 上 り 線 路 を 引 き て ゆ く 今 朝
ている事を楽しもうとの前向きな姿勢が
のコンテナ久びさ長し 松原節子
窺える。
JR貨物EH500形電気機関車。そ
の愛称名が「ECO P
- OWER金太郎」 美容室のやうにあかるい診察室けふハ
だ。その電気機関車の曳く貨物を「今朝 ロウィンの南瓜が並ぶ 小林芳枝
させず直ぐに伸び立つ茎の様子に着目し
日眺められる環境にあるのか。それも鉄
突つ立てて咲く」と、しなやかさを感じ
た作者の視点に感心させられた。
ク・ オ ー・ ラ ン タ ン 」 が 飾 ら れ て い た。
風に揺るる百合にカメラを向ける人「動 道フアンなのか。個人的には興味のある
そのしつらえに大満足だった作者。上句
ところだ。
かないで」と言葉かけゐる 桜井美保子
お袋よ生きてゐるかと電話あり五ヶ月 「 美 容 室 の や う に あ か る い 診 察 室 」 は、
百合の群生地に出向いた作者。その風 景 を 写 真 に 撮 る 人 を 見 か け た。 そ し て、 ぶりの安否確認 赤間洋子 作者の大いなる賛辞のように思える。
12
態をコントロールできるようになられた
あの暑さ急に遠のき肌寒く畑の作業サ
「猫バス」が寄って行きそうな無人駅灯
りぼんやりレールを照らす 飯嶋久子 ☆
われる。うっかりミスであればよいが。
笑い話のようだがよく考えると笑えな
い現実。長くお喋りしていたようにも思
クサク進む 中村晴美
のだろう。いつも前向きな方である。
運動会順延となる校庭に万国旗濡れテ
十二月集評 小林 芳枝
ントの濡れをり 有泉泰子
夜の無人駅からジブリのとなりのトト
ロを連想して雰囲気が伝わる。下句の「灯
下句の「サクサク」が全てを表現して
いる。こうしてみると歌は下句が大切な
りぼんやり」も効いている。
のだなあ、と改めて思われる。
四十年前書かれし祖父の俳句読む色紙
楽しみにしていた運動会が順延になり
がっかりというところ、下句の的確な描
写に思いが滲む。
☆
殺処分免れたる馬観光の客車曳きおり
うつむきながら ブレイクあずさ
の筆致は力強くある 関口正道
☆
馬は黙々と客車を曳く。心を痛めるの
は人間だけかもしれないが生きる厳しさ
大声を掛け合ひ乍ら作業するゴミ収集
老いと明るく向き合って暮らす母と娘
の温かい暮しが垣間見える。
めときには笑ふ 石田里美
何かの作業中であろうか、下が安定し
ていなかったのかもしれない。ゆっくり
つつ吾走りゆく きすぎりくお
友の乗る脚立だんだん傾くを見て叫び
出しながら坂道を登っていた。
が背景にある。以前、昇仙峡で北海道か
車は朝八時半 田中しげ子
と傾く梯子を押さえようと叫びながら走
物忘れはげしくなれる母吾をときに慰
作品の背景に感じられる。
父を知らない作者にとって祖父は大切
な存在だったのだろう。敬い慕う気持が
首筋に冷たき空気触れる朝三毳の山が
近づきて見ゆ 高松美智子
季節の変化を首筋に触れる風の冷たさ
で感じる細やかな感性、毎朝見慣れてい
きたからであろう。急激にやってきた今
決まった日の決まった時間に来て元気
よく作業をする声を聞きながら部屋の中
る三毳山が近く見えるのは空気が澄んで
年の秋が爽やかに詠まれている。
の作者も一日の活動を開始するようだ。
る作者がみえるようだ。さて結果は?。
すれば手付かずにあり 黒田江美子
食べたくて注文したが届いた時にはど
うでもよくなっていた。体が欲する時は
がある。小柄な体で背中から白い湯気を
ら来たという馬の曳く馬車に乗ったこと
あるが一時のことだったかもしれない。
記憶力日々おとろへると言ふ叔母が忘
食べたくない時は完全栄養食エンシュア
リキッド飲む術後十五年 大久保修司
れて帰りぬ二枚のハンカチ 倉浪ゆみ
取り寄せの栗鹿の子缶十二入り衝動失
胃を切除されて十五年という、体の状
13
お隣り同志の気配りの効いた生活これ
こそが、一番大切な事だと思います。今
物ではないのですか?
気づいた作者、なる程と思う。梨も造形
で梨にもいろんな形がある。よくよく見
の若い人達にはこれが薄れていった様な
何事でもこなせる作者でも、やはりご主
ばこその楽しさである。二首目こんなに
らっしゃる気持も分かる様な気がしま
あ る。 此 れ も 健 康 な れ ば と 感 謝 し て い
なと見つめている作者、感慨深いものが
書き物をする時、つくづくと自分の手
を見ながらこの手も良く働いてきたのだ
たるみ魂にあらむ 高島みい子
夜の空にまたたく星は只一つ近く逝き
☆
ると梨にも個性又は色、表情がある事に
気がします。
一万歩術後はじめて歩きたり汗を拭き
家から心配げに電話のきたり 野村灑子
九十一歳今年も頼まず庭のつつじわが
ながら自信とりもどす 本山恵子
十二月号作品一評 冨田眞紀恵
思ふまま整ふは楽し 橋本佳代子
物を書く時に見つむるわが手許節くれ
歩く事はやはり何よりも大切な様で
す。それに拠って術後の自信を得られた
木犀匂ふ下かげに立てば夫在りて倖せ
だちて鎌持つ形 沼尻 操
人の在りし日を懐かしむ、これが夫婦と
作者は今宵の星に川又先生の魂を重ね
て見上げておられるのでしょう。哀悼
のではないでしょうか。
いうものであろう。
す。
浴衣着る男も混じる踊りの輪小さくな
たりし日をまた想ふ 同
一首目、下句が良い。これもお元気なれ
右手出し私の手とり指相撲成長はやき
りて若きら乏し 飯塚澄子
☆
☆
米寿過ぎ九十歳を迎えたり体力弱りて
気力は負けず 高松ヒサ
少子化が進んで若者も混じる盆踊りの
輪。昔は町中は子供の声で溢れていたの
男の子に負ける 永田夫佐
体力は年を重ねると致し方がないとし
ても気力だけは、この作者の考え方は素
だが、今はひっそりとしている。
負けて楽しい何とかですね。お孫さん
でしょう。負けて嬉しそうにしている作
晴らしい。気力は心の底から湧いて来る
プランターに小菊が三種赤白黄秋の陽
者の顔が見えてくる。
かがみ込み「これがお米の成る花」と畦
ものだと思いますね。どうぞこの気概を
をあび朗らほがらに 福士香芽子
下句は「陽を浴びてをり朗らほがらに」
としたい。
持ちつづけて下さい。
ゴロゴロとキッチンの隅に置かれいる梨
の顔にもいろいろありぬ 大川澄枝 ☆
人間にも同じ顔の人がいない様なもの
の稲穂を子らに観せをり 田端五百子
案外子供達は米の花といっても知らな
いかも知れません。それを教えている作
者の優しさ。
夜のふけて雨戸閉まらぬをいぶかしみ隣
14
ぶりに眼科に来たり 大川澄枝
☆
わってくるのだ。
銀杏のつぶら実熟れて黄に映ゆる枝も
銀杏の黄葉の美しさを詠う方は多いが
この歌はたわわに実った実の豊かさを
ろともにゆつさり撓ふ 関口正子
れておられる方には人には見せたくない
確かに杖を持つことに抵抗を感じる方
は多いだろう。特に常日頃健康自慢をさ
姿だろうと察する。しかし作者は初句で
十二月号作品一評 嶋田 正之
鉄の繭から生まれたるロボットのやう
詠っている。落ちた実の匂いにはなかな
たらそれなりの珍味である。
「見栄張りて」と素直に吐露されている
隣りの区の祭りの神輿通り行く山車引
君逝きてもうすぐ八年桜木は枯葉を落
なる歩みの夫のリハビリ 高橋説子
れるのだから順調に回復されておられる
く子らの列の短かし 飯塚澄子
して明るくなりぬ 涌井つや子
か馴染めないが一つ二つ茶碗蒸しに入れ
のだろう。おめでとう。
町の小さな区域の祭りを維持してゆく
ところがなかなか潔い。
かがみ込み「これがお米の成る花」と畦
初句の比喩が何とも愉快である。笑っ
ては失礼だと思うが、こんな比喩が生ま
の
のは大変なことだと想う。伝統を守る為 別れて八年ともなれば、哀しみから少
に は 地 域 の 人 の 協 力 し か な い だ ろ う が、 し解放される時間だろうか、結句の「明
く精米された形で実っていると思う子供
人伝に聴いた話だが、都会に生活する
子供の中に毎日食べるお米は最初から白
普賢岳にいわし雲のかかりゐて秋が来
結句は今の世相を見事に表現している。
読む者に雄大な景色が眼前に立ち上
がってくる歌だ。大きな景を前にした時、
る千曲川輝き流る 増澤幸子
登り来て見放くる湯の町夕やけにうね
少 子 高 齢 化 の 波 は 何 と も 厄 介 な こ と で、 るくなりぬ」に思いを託されたのだろう。
稲穂を子らに観せをり 田端五百子
がいると言う。こんな些細な真実を教え
て又冬が来る 福士香芽子
る事が大切なのかも知れない。
あの普賢岳の爆発そして大火砕流の惨
事は平成三年六月三日の事だった。筆者
相撲も流鏑馬も神に捧げる神事である
が、派手やかな行事の陰で氏子達が藁束
はあの日の出来事をしっかり覚えて居ら
き込まれて命を落としている。多分作者
の会社のカメラマンもあの日火砕流に巻
この歌も雄大な自然の感動を求めて高
尾山に登られたのだろう。そこで見つけ
群れて薊に止まる 酒向陸江
高尾山の山頂近くにアサギマダラ数匹
人は己の存在の小ささを感じる。
流鏑馬に藁をつかふゆゑ隣の区に新藁
一つから協力し伝統を守られている姿を
れるのだろう。だから今静かに「秋が来
た小さな命に眼を注ぐ作者。
と古藁子は持ち行きぬ 小川照子
歌から学び取ることが出来る。
てまた冬が来る」の結句が重く読者に伝
☆
見栄張りて杖の替りに傘を持ち五ヶ月
15
二月集
茨城 大久保 修 司
台風に茎を折られて垂れ下がるジャンボ向日葵種は落とさず
苦しみの動きの跡を光らせて蛞蝓死に居りコンクリの上に
少年野球のグループこゑを出し合ひてグランド均す黄昏時に
冬雷大会終へて満月輝くを車窓に仰ぎ帰り来りぬ
草取りてソーラーランタン現れどふたたび被はれはかなく光る
蜘蛛の巣が雨の雫を煌めかす今は何にも飛んで来るなと
絮毛飛ぶ前に手折れど茎五つ伸ばす背高泡立草は
合歓木の去年は花を付けたるに今は花無き枝を伐りをり
チェリーセージ対なす白き花弁の先は紅可憐な双子
薄紅の数多の花を高々と皇帝ダリア晩秋を締む
神奈川 青 木 初 子
坂道を上りて息を整へる門柱に二つハロウインの南瓜
ハロウインの顔の形に彫られたる南瓜の笑ふ門柱の上
乗客の視線あつめるハロウインの過激な仮装の若人静か
ハロウインの仮装の人を拒む店値引きすると云ふ店のいろいろ
混雑の改札口は諦めて渋谷駅の長きホームを歩く
高徳院大仏 西側より
16
二 月 集
がさがさと驚くほどの硬き音に白木蓮の枯葉落ち来る
枝先まで葉を落しゐる白木蓮つぼみの苞の銀色ひかる
庭内にわれの他には居らざれど音の響けば振り返りたり
東京 大 塚 亮 子
筋肉量、骨量、体重たちまちにタニタの器具の画面に出で来る
やればつきやらねば落つるとトレーナー筋肉量のグラフを指して
筋トレを続けて筋肉ついたらし膝の痛みのいつか和らぐ
窓越しに散りゆく紅葉目に追ひながら自転車漕ぎのストレッチング
公孫樹黄葉の明るむ木下に車椅子止めて男がスケッチ始む
肌を刺す風に足止むる人もなし丈低く咲く皇帝ダリア
現場仕事の好きな夫の作業服油汚れにいつも手こずる
作業服洗ふを厭ひし日もありき今わが暮らしの一部となりぬ
鰹節煮干し昆布にとる出汁の厨に香り母懐かしき
千葉 黒 田 江美子
餅搗きに寄る高齢者の大方は卒業生なり浦安小学校
黄粉餅磯辺にあんこのワンパック小ぶりなれどもそれぞれふたつ
体育館に児童と保護者と高齢者とわれも頂く搗きたて餅を
婦人会に鏡餅づくりを習ふ子の丸くならない餅も重ねる
寺町の風情愉しむ散策と誘はれてゆく日暮里界隈
家綱の乳母開基なる延命院の椎の老樹に生き様を見る
17
関ケ原に関る謂れあるといふ長明寺を探すメンチカツ手に
北へ行く新幹線の次々と走り抜けるを日暮里に見る
陸橋に幼ら待てばたちまちに「はやぶさ」「かがやき」を見分け声あぐ
東京 増 澤 幸 子 折をりに病む友救へと詣りたるとげぬき地蔵に吾がため祈る
壊れさうと痩せたる肩に手を置く友に心ほつこり温められたり
らく や
靴下の五本指色鮮やかに編み分けて履けば楽しや足軽く行く
用賀の里擽野寺の秘仏特別展に十一面観音菩薩拝顔したり
坐像なれど三メートル余の高さにて頭に戴ける仏の眼力強し
もみぢば
二十体の仏安置さるる展示場静もれば心平に手を合せたり
上野の森ゆ散り積りたる紅葉を踏めばさくさく幼の心
コンコンと音させ落ちる銀杏の散らばるを拾ふ百粒程を
十月桜ちらほら咲きて人寄れど香りのあらず華やぎのなし
千葉 涌 井 つや子 亡き夫の使用してゐしケイタイを使ひ続けて八年となる
突然に総てが消えてケイタイは毀れてしまひ寿命と思ふ
そんな時本屋ですと電話あり待ち受け消えても繋つてゐた
繋つてゐるらしケイタイ充電は続けてゐようと心に決める
友よりの連絡次ぎつぎ入りきて話はつながるケイタイOK
ケイタイの充電の灯消えぬ儘点りてゐたり三日間ほど
18
二 月 集
神奈川 関 口 正 道 咳をすれば脇腹に背に響きをり老いたる身体肯ふこころ
ダイエットなど必要の無き吾が身体風邪に寝込みて二キロ減りたり
雨音に耳すましつつ夜の更けに録画せし京都の紅葉を見る
開けてみればシャツの左側にボタンあり〝女もの〟を買ひたる今日の失敗
栞代りに挟みし紙幣を発見す新書の通し番号を点検のときに
缶切りの刃先の錆を落とさむと小さきヤスリを左右に擦る
☆
また今日も無人スタンドの柿買ひて皮剥きは専らヘルパーに頼む
浪花千栄子の琺瑯の看板を飾りたるラーメン店に若者並ぶ
一族の誇りにありし叔父の名を継ぎたる従弟は赤旗を読む
埼玉 江波⼾愛 ⼦
詩の形違えど短歌も五⾏歌も想いは同じと話の尽きず
⼤根と烏賊をくつくつ煮る友の歌に今夜のおかずを決める
例会に出でたる⿊飴舐りつつ鮨を購い夜道を帰る
⼩四と⾼⼆の孫を預かりて朝の厨に⾁を焼きおり
⾊⽩のかわゆい顔だ⾼三の孫の彼⼥と指差す写真
速歩より帰り来りて⽔筒の残りの⽔をひと息に飲む
こんな⽇もたまにはいいね昼⾷の前に夫と⽸ビール飲む
極⽉のさびしき庭に置く鉢の深紅の菊を⼆⼈で愛でる
専⽤の癒しの窓と独りごつビオラの⽩き花を観ながら
19
福島 山 口 嵩
思ふこと億劫になりただ眺む那須の山山車窓に流る
何ごとも否と感ずること多く心のときめきめつきり減ず
黒雲のはざま貫き射しきたる夕日に映ゆる寺の白壁
ぽつかりと開きたる厚き雲間より緋色のカーテン裾野にかかりぬ
もれきたる光彩過り飛びゆきぬ白鳥七羽さらなる高きへ
サークルの資料はなるべく両面使用若干なりともエコになればと
会員の手渡し封書の氏名書き再使用にと「2B」使ふ
異論なき一枚岩の異様さに翼賛政治の亡霊嬉嬉たり
☆
東京 飯 塚 澄 子 黄葉の度合ひを示す池のほとり銀杏の大樹ら個性発揮す
全体を黄葉に染め見事なり霜月末の池畔の一樹
薄茶色に庭の木蓮色づきぬ拾ふ落ち葉はすぐに砕けて
窓外の木蓮の小枝揺れてをり葉を啄むか小鳥飛び立つ
愛用のカメラ何処にゆきぬらむ撮りたき思ひ燻るこの日々
あの雲やこの秋景色曽孫らの姿も撮れずカメラ紛失
篆刻は趣味の一つと二十五年励めど足りぬ日々の努力が
五十号の我がちぎり絵を都展にて見る集ひとて今年も上野に
東京 石 本 啓 子
バスツアーにて行く箱根小涌谷若冲展に心逸らす
20
二 月 集
島根から西条柿がつやつやと久しぶりなる友から届く
ダブルからシングルにする羽根布団に思い切りよく鋏を入れる
慎重に糸で止めたる隙間から羽毛は部屋の隅隅に散る
ポプラの葉剪定されて散る歩道見上げる空は広く明るむ
朗読の茜の会に招かるる龍之介の『蜜柑』読む友
小湊のトロッコ列車に里山の深まる秋を揺れつつ眺む
寡黙なる長子と二人居酒屋で向き合い話す楽しき一夜
岩手 金 野 孝 子 逝く秋の最後の力か彩りを増しゐる荷沢峠の紅葉
雨の降る最中も色を保ちゐて車窓に絵となる荷沢の紅葉
雨上がりの紅葉映ゆる牧場にのどかなるかな草食む牛ら
広大なる牧野の習ひか牛たちは離れず寄らずひたすら草食む
と
も
八十四歳申年うまれのクラス会小学生の顔出し合ひて
いつまでも笑顔であれよと祈りつつ二十人の同級生カメラに向かふ
クラス会のフィナーレ自づと青春に戻りて歌ふ「青い山脈」
都立リハビリテーション病院にて 東京 富 川 愛 子 ま向ひの団地のベランダゆつくりと干し物さがる日曜の朝
リハビリは「嘘をつかない」胸におき車椅子にてリハ室に通ふ
リハビリの痛さに一夜耐へたれば進歩の見えて気分増しくる
リハビリに耐へる栄養目に浮かぶたとへばビフテキああ早く欲し
21
施術にて動かぬ足の回復す感動の体験日々感謝
始めて片足床に着けた日は八月三十一日記念日となり
沢庵の一切れ欲するときのあり管理されたる日々の食事に
S棟は脳梗塞の患者多く殆ど男性若き女性も
隔日に風呂の日ありてありがたし衣類は前日運びくれたり
リハビリの終りの時間に顔合はせ友らとお茶会話しははづむ
茨城 乾 義 江
生活に思いをすればマイカーを手放すことに心は渋る
(十一月十三日)
老人の運転事故の多発にて任意保険の値上がり詮なし
上空に山吹色の月冴える今宵大きなスーパームーン
出漁を休む漁場のしずまりて停泊の漁船に鴎はなれず
周期的に突き上げる如き響きあり些か不気味な海鳴りの音
平磯の浜の浅瀬の岩肌に寄せる白波カモメ飛び交う
見上げるは銀杏大樹の黄金色真青な空に映えて耀う
三日月と宵の明星並びおり茜の上のうす青き空に
葉の落ちて渋柿たわわその柿にたかる鴉の声のかしまし
岩手 佐々木 せい子
空澄みて一番星とにらめっこ術後の目にはまぶしく光る
スーパームーン出たよ出たよと子等の声家並山並穏やかな景
沈みたる夕陽はしばし山並を浮き立ち上げて消えてゆきたり
☆
☆
22
二 月 集
岩手の誇れる大谷翔平君世界に羽撃け傲ることなく
やすらぎの会に加わり月二回歌におどりに温泉に遊ぶ
鮭もサンマもイワシも今年不漁なり海水温の高きと知りぬ
不漁なれば港の活気うすれゆくゴムの合羽片手に皆寡黙なり
前触れもなく強風の吹き出して電柱を背に歩みを止む
茨城 木 村 宏
前足を振り上げしまま秋草に顔をかくして蟷螂の死す
綿雪の降りたる如く山茶花は初冬の庭にきらめきてをり
山荘の入口脇にうす紅の山茶花散りて師走深まる
竜神橋より「結婚するぞ」と宣言しバンジージャンプの若者がとぶ
渓流の紅葉愛でて登る径黄昏迫り寒さつのり来
☆
(常陸太田市)
ルノアール「ピアノ弾く少女」の楽しさの画面に満ちて我もはづめり
夕焼けに染まる地蔵の影伸びて初冬の一日早かげりたり
群馬 山 本 三 男
朝床に目覚めていたり外を吹く木枯らしの音また強くなる
わが庭の落ち葉掃き終え背を伸ばし空見上ぐればすじ雲なびく
増え過ぎたるサボテンいくつか処分せりわれの内なる葛藤を経て
雪積もる南天の実の下側に雫の垂れて透けて輝く
コーヒーを妻と飲みいる食卓に惰性の如く新聞を読む
咲き残る小菊に冬の日は差してアブの羽音のしきりに聞ゆ
23
冬越しに水を断ちたるサボテンにただ待つだけの時過ぎて行く
近隣の工事終えしか機械音今日は聞こえずヒヨドリの声
冬に入る田のあぜ道に青々と繁り見ゆるは彼岸花の葉
腰痛く靴下履くに苦労してにわかにわれは老人となる
福島 中 山 綾 華
はやばやと雪吊りされたる庭園は雪なき庭のかざりとなりぬ
葉牡丹をぐるり植えたる友の家寒さのなかに色の艶やか
合格を知らせるメール LINE
にて喜び一杯の絵文字で届く
学校より帰れば祖母の味噌にぎりそれがおやつの我がおさな頃
迎え待つ水疱瘡の双子等はいつしかトランプに夢中になりぬ
☆
カナダ ブレイクあずさ
蠅も蜘蛛も天道虫もわが部屋をシェルターとせよ初雪降れば
澄ましたるブランド通りと背合わせにスラムと呼ばるる混沌のあり
先住の民の血を継ぐ男らが酔うてつぶれて路上に寝おり
二十二時スラムの地区を行くバスに陽気な声の運転手居る
炊き出しの熱々シチュー渡すひと受けとる人も降る雨の中
盲人にわれもわれもと席を立つスラムの町のバスの乗客
伯母ちやん
底冷えの街を照らせる星のごと声響かせて聖歌隊行く
☆
(☆印は新仮名遣い希望者です)
とわれに懐ける幼子とボール蹴り蹴り日向を目指す
Auntie
珍しく日本人に遇えたのに天気の話ばかりするわれ
24
身体感覚を歌う
⑪
被毛の手触り
橘 美千代
び出した筆者を追って、タクシーに轢ねら
を破り、玩具の取り合いもした。車道に飛
も一緒で後をついてきた。一緒に家の障子
の子犬は、筆者を同類と思ったのか、いつ
にと与えられた柴犬の雑種クロだった。そ
視覚刺激とともに。この感覚が多大な癒し
入り質感として認識される。犬猫の被毛の
脊髄の神経を伝って脳の一次体性感覚野に
柔らかく暖かい被毛の手触りは皮膚感覚
である。指先にある受容体に受けた刺激が
る。老いてゆく様を見まもるのも。
をもたらす。失われた時の喪失感は耐えが
れた。魚野川をのぞむ土手に父が埋葬した。
実物のロミは、子犬を二匹産んだ後、畑に
く、わが犬の被毛の手触りには程遠かった。
いた。触れると陶器製の犬の肌は硬く冷た
「ロミ」と名付け身代わりとして手元に置
その時、従姉からこのフィギュアを貰った。
め手放すことになり、田舎の親戚に託した。
学生の頃、飼っていた子犬を引っ越しのた
るサイズから結構大きいのまであった。小
当時は各家庭によく見られた。手の平に乗
真っ白な犬の陶器製フィギュアが配られ、
社の商標であった。垂れた耳が黒く、全身
製品とするメーカー、日本ビクター株式会
。この犬は、かつて存在し
Masterʼs Voice
た映像機器・音響機器・記録メディアを主
短い付き合いなのが常であった。一四年も
命だったり飼えなくなり人にあげたりで、
思えば、子供の頃から、わが家に関係し
た 動 物 ら は( 先 に 記 し た 他 に も あ る )、 短
虎に赤がよく似合っている。
れ寒いので小型犬用セーターを着せた。茶
い。毛を刈ら
現在声が出な
挿 管 の 為 か、
か、麻酔時の
当叫んだの
た。入院中相
出手術を受け
き数日前に摘
な腫瘍がで
思われる巨大
いた。歌の力を初めて知った出来事だった。
だった。交通事故に遭い大腿骨を骨折して
ミ ー が 戻 っ て き た。 い な く な っ て 六 日 目
猫 の 餌 入 れ の 下 に 置 い た。 そ の 翌 日 早 朝、
もう死んでいるかと諦めかけ、最後の試み
な っ た。 直 後 に 山 里 は 初 雪 に 見 舞 わ れ た。
の利口な猫だった。そのミーが突然居なく
子猫を拾って育てた。招き猫のような被毛
県蔵王の麓に住んでいた学生の頃、三毛の
百人一首にある有名な猫がえしの歌。こ
のまじないが効いた経験が一度ある。山形
まつとしきかば今帰り来む 在原行平
たちわかれいなばの山のみねにおふる
ては声をあげて泣いた。(『ノラや』内田百閒)
時、体調を崩すほど嘆き悲しみ、思い出し
に住みついた野良猫ノラがいなくなった
たい。かの「謹厳な」内田百閒でさえ、家
蒔かれた毒物を誤って食べたらしく、一晩
共に過ごした動物は、この猫が初めてであ
亡くなった主人の声が聞こえてくる蓄
今、 十 四 歳 の 猫 チ ャ ー が わ が 家 に 居 る。
音 機 を、 首 を 傾 げ の ぞ き こ む 犬 の 絵 His 左肩に悪性と
苦しんで死んだ。
にと、この歌の下句を書いた紙を、伏せた
筆者の最初の犬は、三歳の頃、遊び相手
25
作品一
東京 永 田 夫 佐
高校の同級生の荒木様急逝したる知らせの届く
二ヶ月前米子さんと歌会で又ねと別れた言葉が最後
米子さんは患いいたる病にも痛いと言うも愚痴をこぼさず
荒木様の御霊前袋へ名前書く貴女の達筆おもい出しつつ
学友の元気な頃を知っていた私に驚く米子さんの姪
はかなきは人の命と身にしみる米子さんの居ない歌会
短歌とは無縁の私を誘いくれし荒木様との縁忘れじ
深さ十米周囲三十米の池のごときを埋めゆく工事
電線にガス管水道下水道地面の下の知られざる世界
危険箇所表示されたる赤い丸東京の地図を埋める赤丸
☆
福井 橋 本 佳代子 和らかき師走の光背に受けてけふは冬支度にひとり精出す
山峡のけふの小春日たふとびて朝より雪の用意に余念なし
夫の編みし竹簀は今なほ役立ちてわが家を雪より守り呉るなり
老いの手にきつくなりたる雪がこひ頼まずどうにか終へし喜び
雪の用意終へて安らぐ夕べの部屋に写真の夫と熱きコーヒーを飲む
高徳院大仏 東側より
26
作 品 一
満天星の紅葉も散りて冬ざれの庭に目を引く山茶花の白
明け時の径行くわが前ゐのししの親仔が突如横切り駆け去る
曽孫どちの来るけふは早ばや家内を温めて待つも倖せの中
白内障 栃木 髙 橋 説 子 顔寄せてルーペにて読む冬雷誌目の手術前に十二月号きて
ミニルーペを栞がはりに挿みゐて今読み返す『怯むことなく』
人並みの老いをじんじん感じたり立派な白内障と言はれて
日帰りの目の手術なれど新しきパジャマを買ひて一度洗ひぬ
日帰りの目の手術なれど給付金出ますときつぱり保険の担当者
手術前に騒ぎませうと忘年会早めに設定くるる幾人
映画館を出れば木枯し吹きすさびラストシーンのまた浮かび来る
朝日浴び夫婦で散歩する人の後ろ姿をじつと見てゐる
頑なにケータイ所持を拒みゐし時期あり今はスマホに怯む
愛知 小 島 みよ子 雨間縫ひ川沿ひの道歩きたり悠悠と飛ぶ鷺を目に追ひ
川面近くを飛びゆく白鷺目に追ひて早朝の散歩に心温もる
一周忌の近づく今日は娘と共に家の掃除に一日暮れたり
今日の仕事一段落して本開き心和ぎをり秋の日の午後
遠州のみやげに貰ひし葛布の栞うれしく又眺めをり
葛布の栞の手ざはり心地よく清しく透ける栞に和む
27
暖かき冬日に蒲団毛布など充分干して心も軽し
黄鶲の名教はりし友便りなく如何に在すかと心に掛かる
☆
ア ー ス
愛知 山 田 和 子
これ一本切ってしまうと夫の見上ぐわが大切な二俣薔薇を
雨になりスーパームーンを見られずにいつか月よりスーパー earth
見ん
来年も一緒にやろうと誘われてボランティアの更新出してほっとす
噴火後の黒い岩肌の西之島一羽の鳥が写し出される
約束の映画を見ようと電話すれば友は肺炎で静養中と 岩手 田 端 五百子 空仰ぎ幾度もいくつも林檎もぐ腰のフクベのあふるるまでに
けあらしのさめゆく朝に大漁旗なびかせサンマ船岬めぐり来
ロボットに「ありがたうございます」と言はれたり子の授業料送金すめば
列島を揺らしあかつき地震ありぬうすき残月山端にありて
満月をぐらりとゆらす池の鯉ヒールを鳴らし女すぎゆく
光りつつ夕映の中銀杏散る車椅子の少女視界より消ゆ
暮れなづむ夕べの野づら藁塚の兵馬俑めき整列しをり
二人して掛けしベンチに今独り影とより添ひ日向ぼこする
千葉 野 村 灑 子 親指と次の指との間を持ちてぴつたりとくる下駄といふもの
文人をモデルにしたるテレビ画面皆その人に似るが出でたり
28
作 品 一
集荷時間覚えてをれば速達に出したき文持ち朝の道小走る
灯台のあかり斜めにさしてきて海面穏しき館山の朝
明けやらぬ黒き波間に灯台の光は細く瞬間さしたり
北斗七星らしき柄杓の形せる星が見えをり水平線近きに
野島崎灯台近くの宿にゐて太平洋に続く海見つ
停泊する船は帯なし水平線近き灯りは動かずにゐる
キャンバスに画きたきほどの白雲の沸きて水平線の波は著けし
(十一月二十四日)
埼玉 小 川 照 子 畑に出て土踏む事は倖せなり今年の黒大豆子と取り入れる
年年に花咲きくるる柊は五十四年振りの初雪積みをり
四十五年経ちて取り出す腕時計ネヂ巻けば動く母のかたみなり
七十歳にて逝きし母なり頼まれて最後にウールの着物を縫ひき
百日草片付けをれば散歩のひと夏を楽しみましたと言ひぬ
食用菊の黄の花鮮やか友は夫のつまみ作ると枝折りて行く
こんばんはと突然戻りたる裕貴土日休みにてオートバイで来ぬ
茨城 沼 尻 操 「替へておくよ」と榊を神棚へ上げくれる隣人の愛に頭さがりぬ
雨止みて小砂利の上の水たまり雀らの来て水浴びをする
昨日の雨カラリと晴れて車椅子押し来て庭の小草を引きぬ
庭師来て高き脚立の向きを替へ松はさむ音さはやかなりき
29
耕地整理された畠はトラクターで倅黒々と耕してあり
雨晴れて柿の実空に照り映えて静かにたそがれ迫りくるなり
☆
☆
茨城 関 口 正 子 宇宙より帰還をしたる大西さん「空気おいしい気持が良い」と
群馬から栃木をめぐる紅葉のドライブの途次にいくつものダム
唐松の山が黄金に色づくを愛でつつ湖岸に弁当ひらく
赤や黄に映ゆる山並み眺めつつ上人一休の出湯に浸る
アルカリ度強き出湯はつるつると肌が潤ふああ心地よし
夕暮れが早くなりたり庭先にみかんと柚子が色づきにほふ
ひとり居に慣れてきたるや水泳のお陰か減りぬ降圧剤が
六十分のヨガの講座を終へ帰る気分すつきり背筋伸ばして
栃木 高 松 ヒ サ
日の入りの早くなりたる此の頃は思い通りに用事が足せぬ
欠席のつづく短歌会に新年は元気な顔で出席したい
あおい
庭先に土を作りて七本の菜花を植えて春を楽しむ
六人目の曽孫生れて高松の姓を継ぐ男の子昂生と命名す
水溜りゆっくり進む白雲をきれいに映す秋の日の午後
米寿過ぎ歩行器頼りに温き日は散歩に出かけ近隣巡る
西風の吹かず今年の干柿はうまく出来ずに実は鳥の餌
埼玉 本 山 恵 子
30
作 品 一
しらす漁終る頃なれば本日生しらすありと幟たつ江の島
針のごとくとがったしらすの尾鮮度よき印なると言うしらす丼うまし
悠然と空を舞う鳶数隻のヨット浮かべて初冬の江の島
高齢の吾にふさわしいアシストの自転車選ぶ専門店に
重量と跨ぎやすさを第一に試乗を終えて決めたる一台
風に押され道路を転がりゆく枯葉雀がピョンピョン跳ねるがに見ゆ
千葉 石 田 里 美 晩秋の今年一番の寒風に防寒コート着て子は外出す
今年又新米を頂きてひとりとなりたる友に持ち行く
真夜中に音立てて降る雨音を目ざめてひとり聞きゐるわれは
もういくつ寝るとお正月がやつて来る逝きたる夫はもう三年目
足弱る吾を支へ呉れ紅葉の丘に遊べる今日の幸せ
紙とペン机にひろげ眺めゐる静かな室にストーブが燃ゆ
昨夜おそく吾が室をのぞいたら眠り居てホッとしたわと娘が笑ふ
初雪が降りくる庭に満開の小菊に袋かけ娘は忙し
☆
死ぬことはならぬと兄を送りたる母を思ふ自衛官のスーダン派遣に
東京 大 川 澄 枝
マッサージの先生いつも黒ずくめの対照的な赤いヘルメット
味ポンのコマーシャルまね我が家も鶏手羽を煮る今夜の一品
夫酔えば父思い出す話し方同じ仕草の昭和の男
31
飲むほどに上機嫌になり大正琴を聞かせくれたる我が父なりき
富山 吉 田 睦 子 散歩する川辺の道の枯すすき風に靡きて揺れの止まずも
紅葉の散り終りたる桜樹に黒き小さな蕾が見ゆる
ジグザグの山道行けばお日様は樹木の間を左右に移る
十一月になると食する富有柿知人に分けて共に楽しむ
吾が家の固定資産税十七万円百年経ちたる家屋等等
買物の帰途に眺むる街路灯今日の気温は九度と記す
東京 田 中 しげ子 老い人の耕し作れる冬野菜ダンボールに一つ送り来れり
葱大根里芋柚子迄詰められて地下足袋はける老い浮かび来る
指先の感覚にぶれどゆつくりと要心しつつ庖丁使ふ
老い人の送りくれたる野菜類感謝して食む歳の暮れなり
うつすらと汗かき乍ら機器を踏む晴るる空見ゆリハビリ室より
たなびける雲動かねど西の空未だ明るき師走の夕べ
友の母の百歳と百二歳の喪の報せいよよ長寿の日本の国は
跡取りの若きは見えず年老いておかみさん一人豆屋の店先
鳥取 橋 本 文 子 大山のスキー場わきのナナカマド初冬の日受け赤く輝く
大山のスキー場の芝原に姿よき松三本立てり
32
作 品 一
スキーヤー松の木にぶつかるを案ずれど国立公園なれば伐れずと
大山スキー場初心者コースの樹木には厚き物の巻きつけてあり
海望みスキーのできる冬を待つ若者たちに大いなる大山
雨止みて小き雲間より日のさせばサルビアの花に雨粒光る
十二月ミニトマト二鉢元気よし色づき始めを大切に採る
☆
東京 高 島 みい子 山茶花の紅に初雪降るさまを仏間を開きしばし眺むる
昨日命日あふるる花に墓石に初雪あはく積もりゐるらむ
八十余年仲良しだつた「おすみちやん」煩ふ事なく永久に旅立つ
死の際に子の名呼ばずに我の名を何度か呼びしと喪主に言はるる
池際のふり袖柳は枯れ下がり下のすすきと共にゆれをり
一句さへ自信の持てる歌出来ず飽かずみてゐる白菊の花
遠き日の人を恋ふるは老故か古き写真を開きては閉づ
兵庫 三 村 芙美代
十年目にやっと出合えた万年青の実葉間の花茎に赤い実ふたつ
寒い朝の腰痛辛し這い這いの幼のようにトイレへ急ぐ
緑内障が角膜炎の目薬をキャップの色の違いで気付く
最期まで綺麗であった猫「マル」を想い出しつつ胡蝶蘭買う
友の顔見るなりわが顔歪みいて猫が死んだと涙を流す
手を取りてベッドの上より撫で呉れる友に見舞いの言葉が言えず
33
☆
☆
☆
「マル」の居たあの日のままに置かれたるグッズに囲まれ今宵も眠る
マルに似た子猫が沢山生まれたる夢を見ている明け方のこと
茨城 姫 野 郁 子
娘と二人僧侶迎えたる自宅にて静かに夫の三十七回忌なり
座敷から庭先までへよく通る僧侶の太き声読経の響く
結婚したと赤飯持ちて来たる友娘にも必ず縁有ると言う
蠅叩き持ち椅子からジャンプ素早くて蠅見失い息切れのする
休み休み登る高尾山頂上には澄んで輝く冠雪の富士山
喪中葉書は御主人と知り恵まれた彼女には不幸は似合っていない
親戚は皆富山県寂しくとも帰る事も無く良い年を待つ
栃木 正 田 フミヱ
摘み来たるナズナを洗い炒め煮に野草のおかずは新鮮うまし
子の妻にナズナの炒め煮出しおれば珍しがられ箸の進みゆく
スイセンが晩秋の庭に咲き初めて雪も降りたる佇むばかり
柿の実を啄む小鳥ら騒がしく車通れど飛び立ちもせず
枝先の柿に止まれず小鳥らは啄みながら柿を落としぬ
小鳥らの柿を啄むさまを見る天から姑も見ている気がする
栃木 斉 藤 トミ子
雪残る中洲の葦に止まりいて川面見つめる翡翠見つむ
大河ドラマに薬師堂が出でてより観光の人の数多来ており
34
作 品 一
けり
六文銭の幟はためく薬師堂真田親子の分れの地なり
鳧という鳥の生態追うテレビ鳶に歯向う親鳥写す
紫の花びらちらと覗かせて皇帝ダリアは雪に枯れたり
遅過ぎたる種蒔きにして葉ぼたんは小さきままに色づき初む
土混じる白黒模様の雪達磨得意げに見す初雪に孫は
埼玉 高 橋 燿 子
秋野菜不足と高騰続きいて盗難被害の家庭菜園
豊作の柿の実啄む鳥の群れ諍いもなく木をうつりゆく
黄葉を右に左に眺めつつ登山電車に楽しむ四人
大涌谷の噴煙にマスクつけ興奮する義姉初の体験
杖を突く義姉に厳しい坂登る支える妹号令かけて
木々の中ポーラ美術館に時かけて鑑賞する義姉杖を助けに
空見えるテーブル囲み昼食をとりつつみなが足をいたわる
岐阜 和 田 昌 三
図書館に行きて読みたき新聞を探せば既に人の読み居り
天空のブルーライトの城見上げ糖尿病を病む友思う
逃げもせず親猿道路を横断す子猿三匹続く峠路
ここ数年猿の来なくて軒下の干し柿巧く仕上がりて行く
好天の続き干し柿頃合いと食べて「うまい」と思わず声上ぐ
三か月振りに会いたる曽孫早や危うき程にチョコチョコ走る
☆
☆
35
メールなど心通わぬと思いしに使えば便利とメール打ち合う
「毒煙は地を覆い」と声揃え歌いぬ碑前に闘士の歌を
☆
☆
埼玉 田 中 祐 子 ☆
ランドセルを揺らし駆け行く下校時の児等の歓声に今日も出合えり
明治より潮止の名を継ぎて在るこの小学校に夫も子等も学びし
好みたる花のひとつとパンジーを今年も植える腰庇いつつ
偶然にふたりの幼友達の電話が続く月曜の午後
干し物の取り込みすっかり忘れ居て長話したる電話を反省
僅かなる歳暮の手配が済みたれば再度見蕩れるシクラメンを買う
二夜続き舅が夢に立ちたれば供えの花をあらため慎む
埼玉 浜 田 はるみ
晩年は便利な都心マンションと思っていたのはまだ若き頃
齢とると自然が一層恋しくて田舎暮らしをしてみたくなる
高機能ぬいぐるみを抱っこして介護ロボットに世話されるのか
はめられぬプラチナリング二個つぶし一つに替えて気持新たに
偏差値の高き学生の起こす罪名門校とは言わざるなり
人生に反省すれど悔いは無し裕次郎の唄聞きつつ思う
茨城 糸 賀 浩 子
大木のこの栴檀の枝おろす陰に父母いて遊びし日あり
職人が実家の栴檀伐ると聞き酒・塩・米に線香たむく
36
作 品 一
朝ドラに戦後のシーン見るにつけ我が生き来しを重ねてしまう
五十余年ぶり十一月の初雪の大粒みつつ一人昂奮す
次に見るスーパームーンはあと四年この世わが生永久ならず
乳癌の手術にたえし友五人もみじの筑波を元気に語る
薨れる三笠宮さま「咊」と書き永遠に願いし世界平和
軒下に木質化の浜菊茎伸びて白き花びらが囲む黄の芯
埼玉 野 崎 礼 子
唇で微笑むようなしぐさして我と気がつく病室の友
手の平の温もり伝わる心まで病む友を見舞う別れの握手
古里の訛り飛び交うクラス会今ぞ話せる憧れの人
輪になって校歌歌えばジンとなるまっすぐだった君も私も
元気かと母に電話をするけれど逆にわたしが元気をもらう
又今年野沢菜漬が味わえる古里に母のいるしあわせ
悶々と悩む子あればさっぱり割り切る子もいて孫も其々
珈琲のお代わりしても物足らず熟女四人の平日の午後
東京 酒 向 陸 江
氏神の谷保天満宮に始めたる御朱印帳は深大寺に終る
深大寺の山門くぐれば黄葉のなんじゃもんじゃの大木があり
晩秋の神代植物公園に冬薔薇咲き淡く香れり
衿立てて植物公園巡り来て大温室にコート脱ぎぬ
☆
☆
37
ひと ひ
人は皆「仏と同じ知恵と徳」持つとし聴けば心やすらぐ
身の裡に自ず湧き来る仏讃歌を口遊みつつ一日を過す
十二月八日は釈尊成道会テレビは報ずる真珠湾追悼式
歌会へ向う上りホームにて空青ければ風気にならず
茨城 中 村 晴 美
日に百件超える迷惑メール類を一括削除す朝の日課に
写真館成人式の前撮りの娘を囲む家族の写真
写真館へ年賀はがきを依頼しぬ写真付きは多分最後なり
肥ゆるわれ痩せたる夫がちぐはぐな月日が変へし家族の写真
新聞もネットも大きく広告は歳末恒例カニの脚肉
タラバガニ漁船沈没歳末にニュースは伝ふ荒天画像
寒きなかスノードロップ発芽せり葉は三角のツノの如くに
栃木 高 松 美智子
泣き声が次第に力帯びていく乳欲る児の声リズム伴う
反り返る様に泣きては訴える児の両下肢の力たのもし
目の配り伸びする様も飽きるなく見つめ続ける初めての孫
むせるほど乳が出ますと若き母体重の増え嬉し気に言う
ひと月を過ぎて頬のふっくらとせる児に見つける片側えくぼ
律儀なる嫗の掲げる日の丸が十一月三日の軒先にある
柿の木を深く刈り込み広がれる冬の青空に雲ひとつなし
☆
38
作 品 一
枝高くかりん三つを残すまま裸木を揺すり木枯らしが吹く
茨城 吉 田 綾 子
柿の実を丸ごと銜え悠悠と飛び立つ烏に椋鳥騒ぐ
予報どおり木枯し一号吹き荒れて樫の実たちまち庭に散り敷く
強風にあらかた落ちたる樫の実を熊手に浚えば山盛りいくつ
雨あとの芝生に留まる樫の実は色艶やかに少し潤けて
注連縄用の藁を木槌でこづきいる音たて納屋の日溜りにいる
注連縄を縒りていたれば土間に来て来年もねと息子は笑まう
裏庭に黄葉している榎ありて午後の日照りに厨あかるむ
大霜に劣化の早き隼人瓜の収穫遅れを悔しみいたり
里芋を剥きつつ偲ぶ故郷の竈にたぎりし芋煮の大鍋
埼玉 大 山 敏 夫
美しき黄の光沢粒ぞろひ柚子を並べてしばし眺めつ
蜂蜜と砂糖に漬けてみることも考へて八個は多すぎるとおもふ
☆
貰はねばジャム煮ることなどあらざらむ柚子刻む種を抜くこれが八個目
柚子の実にこれほど種がこびりつくことにあきれてしぼり出しゐる
ジャムに煮てとろみを出すに必須だと教はれば柚子の種を集むる
繰返し繰返し平明にうたひたる日常には小川照子さん在るが儘
巨木にも定義のありて小川家の柊の古木あたまを過る
握りてもひびらくことのなきまでに小川家の古木柊の葉は
39
第二十二回 編集委員会賞
受賞者 吉田佐好子氏
◎資料/推薦の言葉と推薦作品◎
なじで元気もうつる
出来るだけ元気な人に近づこう風邪とお
ばかりだが、既に先頭を任されること数回、
鉢植えの一つ一つに愛情と魔法をかける
◇吉田さんは本年より作品二欄へ昇格された
期待の高さが伺える。茨城の吉田綾子さんと
義母の技あり
◇本郷歌子 ☆
姑・嫁だった、いい親子だ。短歌も高齢化社
会の日常を歌うものが多い。嫁の立場からの
切り取り方も決して単に世相を反映していな
く一定水準を満たした作品を年間百首以上を
◇いつもながら入会以後、いちどの欠詠もな
増え続ける認知症の人の数年で「正常な
がる優しく接す
水遣りもがさつにすれば花でさえ品格下
午後四時の大陽すでに力なく襟元に小き
かずらの花咲き盛る 灼熱の日射しの下を行く人なくのうぜん
で気を付けたい。 (赤羽佳年)
◇歌柄が大きく力強い。四季の花や木のよう
い。茨城は大震災、最近は水害もあった。具
発表する力量を備えている。持前の感性は鋭
人」を凌駕するだろう
スカーフを巻く 体的に動植物などを歌っていて鋭い。歴史・
敏で多岐にわたる詠嘆にも破綻がない。全て
愛嬌を振りまき必死に生きるのは小動物
ふりそそぐ春の日射しを楽しまん菜の花
すを、うまく捉えている作品がよい。
口語体である為やや弱さを感じさせるが、独
の本能なりき
文学も知識が豊富。花粉症に負けないように。
自性の卓抜した姿勢を貫いているのは見事で
ありがたし居宅サービス受けられて動け
群れ咲く土手道を行く ◇身辺の情景、季節の移ろいをのびのびと表
◇吉田佐好子 ☆
ある。 (水谷慶一朗)
ぬ母も徐々に回復
毎月の作品数は多いが、口語の音調の悪さ
が目立つ。助詞遣いの不備も間々見られるの
鉢植えの巾着草は個性的おもちゃのよう
根拠なき「ここはおそらく大丈夫」自然
(関口正道)
な花色かたち
相手に通用はせず
◇前向きな姿勢で思いを率直に述べている。
て厳かに上る
初日の出霞が浦の湖面よりもったいつけ
す動物看護師
ちび犬に注射する医師傍らで上手にあや
界を作っている。 (桜井美保子)
ウィットに富んだ表現で温かみのある作品世
御茶ノ水をバスに過ぎ行く
この街で学んで遊んだ覚えあり懐かしき
き夏は来たりぬ
ひんやりと床の冷たさ伝わりて素足嬉し
がよい。 (桜井美保子)
現している。自身の心もそこに込めているの
小学生ライトノベルがお気に入り漫画世
奔放に腕を伸ばしたユキヤナギ風に揺ら
代のこころを掴む
れて細枝しなる
40
らに伸びゆく
花桃を包み込むがに絡まりて蔦の枝先さ
枚三グラムなり
新しき秤りを買いて試し見る歌稿用紙一
(桜井美保子)
的。 (赤羽佳年)
れている。句またがりの歌、倒置の歌は特徴
夫婦の機微、子や孫との交流も衒いなく詠わ
に思わず触れる
冬雷の表紙絵浅間の空の碧 絵具の起伏
ビスの連絡帳に 将棋さす笑顔のちちの写真ありデイサー
なき空の月を見ている 夜の更けにようやくちちを寝かしつけ雲
☆
小雨降る田沢湖めぐり手摺より見下ろす
◇林 美智子
◇林さんは、訊いた限りだが酒向さん、大滝
水深四〇〇の青
余韻大事に帰らむと夫
コンサート後の中華街行きを取り止めて
(関口正道)
いる。兄妹とはこうだと今度厳しく言いたい。
離れた兄を世話する歌がいい。筆者にも妹が
歌、菜園の仕事と嘱目は多岐にわたる。年の
のかもしれない。美術鑑賞、音楽鑑賞、旅の
身をふたつに折りて挨拶の仕草するをさ
く秋の白雲 背泳ぎをしつつ見てゐる天窓の空流れゆ
考へごとをしてたるやうな ホウーと鳴きしばし間ありてケキョと声
で要注意。 (赤羽佳年)
声調を崩す歌、語句の甘さなどが見られるの
わたり、そつなく機知に富む歌も多い。間々
◇多作者であり、落着いた詠み振りは多岐に
◇関口正子
(水谷慶一朗)
ても遜色を感じさせない上手さがある。
声調が的確であり、先輩会員の作品と比較し
ある。どれも言葉の選択と叙景描写の把握、
スも天性の感覚、感受性にも卓越したものが
は音楽に携わる芸術家で、短歌に関するセン
知れぬが、本年度の作品は抜群である。作者
◇まだ冬雷の新人である。少し早い推薦かも
◇ブレイクあずさ ☆
夫が誘いてくるる ちちの骨おさめて再開するという散歩に
さんと友人らしい。そうすると筆者と同年齢。
だからではないが、思わず膝を打つ指摘、切
独り居の兄の冬物片付けて五時間の滞在
なに出会ひ心はれたり り 口 が 多 い。 家 族 に 恵 ま れ、 友 人 に 恵 ま れ、
瞬く間に過ぐ
母・姉も短歌を詠まれた。環境は整っていた
新しき秤を買いて試し見る歌稿用紙一枚
うの
◇日々の生活のなかの諸々を気負いなく詠っ
きれぬ感情つねに
自由に弾けと師は記すわが課
Get
free
英語にて暮らしを営む日々なれど翻訳し
四年経て春の浜辺に打ち寄せる海の向こ
の水
FUKUSHIMA
◇江波戸愛子 ☆
三グラムなり
二つは狭し
◇日常や旅先での発見や驚きを率直に歌って
て、安定度は高い。家族に向ける目は暖かく
館山に三十年振り四家族集えば十人部屋
いる。歌に清々しさが感じられる作品が多い。
41 は十分に巧みで一日の長がある。立谷さんと
推薦の言葉、推薦作品が届いた。また今回は
た。八月、四名の委員から推薦する会員名と
を推薦順位を付けて三名ずつ挙げてもらっ
を選考委員七名に配布。受賞にふさわしい人
は主義主張にいささか捉え方が異なるもの
は既に「作品一欄」だった。生活詠、自然詠
漆黒の庭を見つめる猫は背にひそかに力
の「戦争反対」の立場は変わらない。立谷さ
題曲バッハの譜面に
蓄えており
面に狂気はひそむ
段なして波の寄せくる寒き浜ふくるる海
せた実力の作品である。 (水谷慶一朗)
もある。掲出歌はいずれも作者の個性を滲ま
が、しばしば作品に見受けられる処が難点で
人である。ただ他誌で身につけた習慣的偏り
◇私の推薦の三名の中では最も歌歴を有する
アコーディオンに「美しき天然」弾きゐ
幾たびも見き
非正規の人が病に苦しむを給付の事務に
法案
臆病な吾一刻も耐へ難き地震の原発戦争
投ずる
当選の覚束なくも原発に抗ふ主婦に票を
(関口正道)
た。社会詠も十分に短歌のジャンルだ。
んの記憶から思わず吐露されたものを抽出し
選考書類回答の結果では吉田佐好子氏を一
位又は二位で推している委員が三名あり吉田
議を行った。
会が開かれ、今回の編集委員会賞について討
二十八年九月十一日、歌会終了後に編集委員
で は な く、 決 定 は 編 集 委 員 会 で 行 う。 平 成
編集委員会賞についてはどんな場合でも選
考書類の回答を集計しただけで決定するわけ
当者なしと回答があった。
選考が難しいということで、二名の委員が該
◇橘 美千代
咲き盛る梅の枝ごしオリオンの矩形をた
たる傷痍軍人白衣浮び来
氏を推薦。この段階で委員四名の票が吉田佐
た。その後、席上で大山編集長も吉田佐好子
氏がトップであることをまず桜井が報告し
どり金星にゆく
好子氏に集まった。さらに討議が重ねられ、
いつのまに風力発電六基ふえ高さ違へて
海風をうく
これからの冬雷で新しい風を起こし活躍を期
の対象である。平成二十八年六月に選考書類
今回は冬雷誌掲載作品、平成二十七年七月
号から平成二十八年六月号までのものが選考
桜井美保子)
に決定した。 (広報
二十二回編集委員会賞受賞者を吉田佐好子氏
ここに編集委員会全員の意見がまとまり、第
佳 年 氏、 森 藤 ふ み 氏 の 賛 成 を 得 た。 そ し て、
待できる人ということで、小林芳枝氏、赤羽
人間の未だゐぬ地球を思はせて蛇行せる
選考から受賞者決定まで
川緑ぬひゆく
◇立谷正男
軸を移しておられるようだ。だが仕事の関係
◇立谷さんは、詩集二冊を出版され自由詩に
で転勤、休詠されたこともあるが、それまで
42
第五十五回冬雷大会記
克彦、橘美千代
◇午後の部評者 赤羽佳年、髙橋説子、天野
格したばかりだと思うが、編集委員の多くが
受賞の言葉があった。吉田氏は作品二欄へ昇
され、大山代表から表彰状が渡され、本人の
児が瞬時両手合わせて行き過ぎる踏み切
れることを期待する。
の受賞によって今後、更に飛躍、秀歌が生ま
推したように、才能豊かな新人の登場で、こ
◇互選結果
り脇の小さな地蔵☆
五十五回の記念なので参加者全員の記念撮
影 が あ っ た。 ホ テ ル の 方 の 的 確 な 判 断 で フ
番 四七点 関口みよ子
二位 3番 四〇点 嶋田 正之
一位 月 十六日(日)、ホテルルートイン東京東陽
第 五 十 五 回 冬 雷 大 会 は、 平 成 二 十 八 年 十
言葉にはなさる事なくお二人の祈る御背
関口 正道
町にて開催された。出席者は六三名、懇親会
、
、
、
、
、 は冬雷の将来が期待される。
鴉が騒ぐ 吉田 綾子
無農薬で培う畑の夏野菜色付くトマトに
る嫁がいるなり 斎藤トミ子
せてくれし人逝く 山本 貞子
「冬雷の一一三人」の歌集見て涙しくる
成らざりし恋はるかなり自転車の後に乗
、
62
、 70
も多く冬雷の結束を実感したものと思う。
めて大会に参加された方、入会間もない会員
る冬雷短歌会への応援エールだった。また初
は労作だった。最後は、恒例の山口嵩氏によ
子先生への感謝・追憶の歌が披露され、これ
光った。佐野支部の方々が作詞された川又幸
ケでは中村晴美・中村哲也、両中村氏が断然
会員が夫々の席を離れて歓談された。カラオ
の席に留まることは無く終了間際には多くの
懇親会は、支部、知人同士が同じテーブル
に着くのは止むを得ないが、お酒が入ればそ
表と表彰が行われた。
な感想があった。その後には、互選結果の発
普段例会ではお目に掛かれない方たちの率直
ビュー」は、桜井・高田両氏の巧みな進行で
午 後 の 批 評 の あ と 恒 例 の「 あ な た に イ ン タ
ラッシュのない方が鮮明な画像が得られた。
には四二名の参加があった。
、
93 62 101 46
昨年までの大会と異なるのは、川又幸子先
生が居ないことだった。木島茂夫先生亡きあ
、
らを庭に手招く☆
◇ 大 山 敏 夫 選 2、 、 、
、 、 、
◇ 小 林 芳 枝 選 、 、 、
89 46 91 43
両選者の一致した歌は次の三首。
47
と、長年発行所を務められた川又先生は、五
月十八日、九十五歳で亡くなられた。寂しい
ことだが天寿と思うしかない。いつも川又先
生の坐られた席には、遺影とともに「川又幸
子歌集」が添えられた。
総合司会・大塚亮子氏、開会のことば・山
﨑英子氏、挨拶・大山敏夫代表、作品批評司
会・嶋田正之氏、閉会の言葉・兼目久氏、懇
65
☆
親会司会・高田光氏の方々が担当された。
82 44 89 24
第二十二回編集委員会賞の受賞者は、吉田
佐好子氏。桜井美保子氏から選考過程が報告
午前と午後の評者は昨年に続き、橘美千代
氏、今年は中村哲也氏が加わり、若い両者に
76 24 73
山百合の蜜吸う蝶を見せたくて下校の子
に惨む反戦
三位 9番 三八点 糸賀 浩子
46
◇午前の部評者 中村哲也、澤木洋子、水谷
慶一朗 江波戸愛子
43 24
62
89
第五十五回冬雷大会詠草 ︵短評付き︶
~
75 30
︙橘美千代
午前十時(受付開始九時半)
平成二十八年十月十六日(日) 於
ホテルルートイン東京東陽町
1~ ︙水谷慶一朗・ ~ ︙赤羽佳年・ ~ ︙澤木洋子
~ ︙江波戸愛子・ ~ ︙中村哲也・ ~ ︙髙橋説子・
天野克彦・
118 61 16
105
~
104 60 15
76 31
90 45
1 法師蝉筑紫恋しと打ち鳴きて秋にいりゆくめぐりの気配 赤羽 佳年 俳句的要素が肩肘を張っていて、内容的に矛盾を感じさせる。
●私の注目歌
三木 一徳
3 言葉にはなさる事なくお二人の祈る御背
に滲む反戦 嶋田 正之
ご幼少だった皇太子時代にしか知られな
かった戦禍であったろうに、天皇陛下となら
れてからは、失われた多くの国民の生命を憂
えられ、皇后様を伴われ次々と激戦のあとを
外国にまで訪ねられ慰霊の旅を続けて居られ
ます。深々と頭を垂れられる神々しいお姿を
みる度に、両陛下の御心察するに余りありま
す。この三十一文字にあますところなく表現
されていると思います。
永光 徳子
9 山百合の蜜吸う蝶を見せたくて下校の子
らを庭に手招く 糸賀 浩子☆
穏やかな情景が目に浮かびます。庭に咲い
た山百合の香りに誘われて蜜を吸って居る蝶
う作者の優しい気持ちが良く出ています。最
40
14
17
ました。
て子供達を呼んでいる光景は微笑ましく思い
後の手招くと云う表現が声を出すと驚いて蝶
の姿を下校途中の子供に見せてあげたいと云
3 言葉にはなさる事なくお二人の祈る御背に滲む反戦 嶋田 正之 敬語を駆使して好感。この歌での「反戦」は相応しくないかも。
が逃げてしまうだろうと、そうっと手招きし
6 本土寺のあやめ紫陽花その中に川又先生の面影が顕つ 高島みい子 5 住み慣れし路地におさな児戯れて媼眼で追い見守りており☆ 石本 啓子 嘗ては身近にあった景観。現実なのか回想なのか不明確。
4 慣ひなき高齢社会を生き抜く我に踊りと短歌とボランティアあり 黒田江美子 4
高齢者に仲間入りしての生き様だが、説明的であるのが惜しい。
2 あおばなの咲いてしぼむは半日と蜜吸う虫も早々群れる☆ 豊田 伸一 6
初句は露草、半日花など抒情的に。五句「早々に来る」では。
19
︵☆印は新かな遣い、作者名の下は互選数字です︶
91 46
44
4
川又先生追憶の歌。三句「咲く中に」五句「面影の顕つ」では。
7 心から夫安らかにと祈りつつ僧の読経をじつと聴き入る 小島みよ子 6
4 4
「安らかにと」は平易。「夫の冥福祈りつつ」でよいのでは。
8 好みゐし夫に供ふる肉じやがが煮えたちにほふ梅雨晴れの夕 関口 正子 4
亡夫の好物、肉じゃがを煮て供える尊さ。三句「肉じゃがの」に。
●私の注目歌
様な言い様が、決して嫌では無くむしろ微笑
4
ましく嬉しい気分でいる様子が目に浮かぶ様
4
うに、とするのも有りかとも思いました。
吉田 綾子
身に兆す衰老の自覚じわじわと父母の死
をお祈り致します。
に気をつけて秀歌を詠み続けて下さいます事
者の私には身にしみて解ります。今後も健康
いと思いました。「じわじわ」の表現も高齢
す。お歌の「身に兆す」の一句目が素晴らし
年かな…」等と神妙になることが度々ありま
が気になりはじめ、父母の享年まで「あと何
高齢者になると五体の生活機能がだんだん
衰退してくるのがよく解り、急に父母の寿命
にたる歳に近づく 水谷慶一朗
21
差し水を差した素麺ひと時の静けさの後踊り始める 4 4 植松千恵子 何でも作歌に繋げる意欲は素晴らしい。初句の差しは違う語に。
心まで衰へてなどゐられない言ひ聞かせつつ日々を送りぬ 佐野智恵子 躰は衰えても心まで衰えてはお終い。堅固なる老境覚悟の心情。
薔薇の花むら盛りすぎて日溜りの香りの中に虫の羽音☆ 長尾 弘子 2
「薔薇の花さかり過ぎつつ」で声調もどる。「の」四つは再考。
筒形のつぼみのゆるむ暑き朝ユリは濃やかな香を吹きはじむ 小林 芳枝 ゆるやかな詠嘆で優しい歌。ゆるむ、はじむ、は気になる処です。
垣根ごし「母がお世話になります」と子の声まるで保護者のやうな 澤木 洋子 子は、未だ幼年者のような気がする。それにより結句が活きる。
を家の中で聞いている母親は、その保護者の
爪の色冴えぬを案ず隣席の若きと比して指押して見つ 飯塚 澄子 3
「吾が爪の色の冴えねば」「比べ」「押して見る」で率直になる。
です。初句切れですが垣根ごしに、結句もや
出てきて、垣根ごしに挨拶をしている。それ
一人暮しの作者の家に時々訪れる子が庭の
手入れでもしている時、偶々隣家の人が庭に
の声まるで保護者のやうな 澤木洋子
きすぎりくお
垣根ごし﹁母がお世話になります﹂と子
16
草繁る山の斜面に山百合の倒れたるまま匂ふ四、 五輪 桜井美保子 9
五句やや投げやり的。「倒れたるまま花咲き匂ふ」の方が具象的。
微かな感動もわたくしにしない優しい思いやりの心が見える歌。
9 山百合の蜜吸う蝶を見せたくて下校の子らを庭に手招く☆ 糸賀 浩子 19
38
21
29
11
23
11
堀口 寛子 2
白くひかり道に落ちてる一円をすこしためらひ屈みて拾ふ 斎藤 陽子 下句に作者の心理状態が現われる。「落ちてる」の口語がリアル。
サークルを今日で止めると友人の別れの言葉心に残る 初句、結句ともに具体的なものが欲しい。
45 10
11
12
13
14
15
16
17
18
校長に棒振りさせて校庭は車で埋まる参観日の午後 髙橋 説子 8
ここも具体的に、指示棒振らせ或は指示灯振らせ、となろうか。
●私の注目歌
身に兆す衰老の自覚じわじわと父母の死にたる歳に近づく 水谷慶一朗 初句は不要句。三句の「と」も削除。結句を「近づく日日に」と。
自転車の荷台に乗る時、女性は横座りしない
この歌のお相手は初恋の人かも知れない。
青春映画の一シーンを観る様な、胸をときめ
小川 照子
父ははの夫の思ひ出残る生家まもりて独
想い出の人が逝ってしまったと云う。
どの程度の力で抱き着いたら良いか、そんな
と、みっともないと思われた時代だ。手はお
かせたであろう情景が浮んでくる。不安定な
イギリスがEU脱退決むる夜のカフェに集へる男女の微笑 中村 哲也 3
上下句を分断させ、無関心さを表現した。「の」を取ればなお。
のずから腰のあたりを抱えることになるが、
乗せてくれし人逝く 山本 貞子
嶋田 正之
成らざりし恋はるかなり自転車の後に 24
風に揺る矢車草の水色に花摘む母の姿思ひづ 大野 茜 5
初句切れとしないで「揺るる」と。結句は、思っているの趣。
成らざりし恋はるかなり自転車の後に乗せてくれし人逝く 山本 貞子 初恋は成就しなかったが、何時までも気に掛かっていたのである。
老人ホームの姉を乗せをり涼風に茅花の群れのなびくを見つつ 大久保修司 8
三句末は立場を明快に「乗せきて」と繋げたい。
二千年の夢から醒めて古代蓮薄くれないの莟をひらく☆ 飯嶋 久子 ロマンの歌ではあるが、二千年前の種より甦る︙︙と繫げたら。
川又先生にお会ひしたるは唯一度3・11の冬雷大会 岩渕 綾子 2
整った歌ではあるが、結句冬雷は不要。「年の大会」で通じよう。
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り歳重ねゆく 橋本佳代子
私も友達と逢う度に歳はとりたくないネと
話をします。誰でも歳は重ねて行きます。父
本屋から洋書抱えた青年が歩幅大きく去り行く眩し☆ 横田 晴美 口語歌の勢いの出た歌。結句は、もう少し練りたい。
又此れらがもとに色々な短歌が出来るのでは
守る事は大変な事と思いますが、体に気を付
はは、ご主人様の思い出の残る生家を独りで
亡き母の今年の夏は帰るのか声偲ばるる青酸漿に 立谷 正男 5
親心を感じさせる歌ではあるが、順列組立を考えたい。
守って下さると思います。
田の畔にひまはり並び花咲きて風に揺れつつ稲田見守る 小川 照子 8
な い で し ょ う か、 き っ と 皆 様 が や さ し く 見
けられまして頑張って頂きたいと思います。
縁側の椅子に坐りて嬉しそうに舅の観ていた金柑ひらく☆ 江波戸愛子 6
作者の暖かい眼差しを感じさせる。結句、花を隠しての表現。
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年々の豊洲の友のベランダに友等の会話花火より賑はし 山﨑 英子 7
初句「年々に」と。四句「友等の」は自身も含め「われら」と。
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絵のような風景、ひまわりに見守られおいしいお米ができそうだ。
父ははの夫の思ひ出残る生家まもりて独り歳重ねゆく 橋本佳代子 そこはかと漂う寂寥感、作者はしっかりと覚悟を詠んでいる。
みちのくの八重の桜を背景に夫の写真は最後となりぬ 福士香芽子 7
八重桜を背景にしたご主人の思い出の写真が今も暖かく作者を包む。
冬雷会員の顔見えずとも文交はす歌詠む同志の心は映りて 金野 孝子 お会い出来ずとも互いに切磋琢磨、冬雷はよき表現の交流を生む。
●私の注目歌
豊田 伸一
場内の波打つ団扇が一瞬止まる力士の勝
負きまりし時に 大川 澄枝☆
とつも無く、一瞬の間、団扇が止まるのは自
相撲の醍醐味である。一瞬で勝負が決まる
瞬間を気迫のこもった気持で見ている情景が
あら草の茂みのなかにかそけくも紅の水引たけ低く咲く 倉浪 ゆみ 「かそけくも」と感動を静かに表現、味わい深い一首となった。
気持にさせられる。見事な表現と感じました。
食事つくる仕事忙しき娘のために元気で
涌井つや子
分もそこにいて思わず引き込まれて見ている
あざやかに表現されている。無駄な言葉がひ
傾むけた日傘で顔を隠す人後ろめたさをまだ引き摺りて 荒木 隆一 2
隠す人や引き摺りてなど一首に不穏な空気が張りつめる。
広大なひたち海浜緑映え芝生広場でホールイン目差す☆ 早乙女イチ 1
気分爽快、球の行方を追う作者が見える。「目差す」は拘りか。
兄と野に追いしあのころ懐かしき塩辛とんぼ庭の支柱に☆ 永田 夫佐 4
塩辛とんぼが誰もが抱く郷愁を呼ぶ、五句に少し工夫がほしい。
人人と交はる術も学びつつ齢たどりて増す幸福度 三木 一徳 穏やかな作者の処世術、ますますの幸福度を願う。
美しきドレス纏ひて安らかな師を送りぬ白雲の果て 増澤 幸子 白雲の果てに旅立たれた師を偲ぶ嘆きは深い。表現の難しい場面。
あした
場内の波打つ団扇が一瞬止まる力士の勝負きまりし時に☆ 大川 澄枝 場内の緊張の一瞬を団扇の動きにとらえた視点は素晴しい。
目薬の雫わが眼に心地よし寝ねがたき夜の明けたる朝 松居 光子 一滴の目薬によみがえる様子をまとまりよく詠む。
変わりありません。お互いに頑張りましょう。
まで続くか解りませんが、母である喜びには
生きていた時と同じ苦労をしています。いつ
話をしており、夜には晩酌するので、主人が
と一人でやっているので、朝昼晩の食事の世
娘と息子の違いで幾つになっても母は母
で、私は、息子が生業の金物屋を主人亡きあ
ゐたい今しばらくは 池亀 節子
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食事つくる仕事忙しき娘のために元気でゐたい今しばらくは 池亀 節子 9
母と娘の堅固な結び、どうぞお大事にお励み下さい。
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疲れゆく歩に肩の荷喰ひ込みてあともう少しとぞ吾を励ます 涌井つや子 6
登山の場面か、頑張れと声が出た。下句から読者も一緒に汗をかく。
蔵ひある皿など磨き子供食堂を始める友へ惜しくはあらず 青木 初子 6
最近出現してきた子供食堂は周知に今少しの言葉かもしれない。
●私の注目歌
酔へばつい戦の話あふれくると老いはコッ
櫻井 一江
プ酒一気に呷る 田端五百子
児が瞬時両手合わせて行き過ぎる踏み切り脇の小さな地蔵☆ 関口みよ子 児の一瞬をよく捉えている、地蔵菩薩は子供の守り仏。
あれ存在し続ける。コップ酒を一気に飲んで
戦の話、と聞くだけで立ち止まり耳を傾け
る作者。戦争を潜り抜けて来た人には断じて
玉蜀黍むきゐて急に思ひ出す皮にて作る姉様人形 赤間 洋子 5
皮で作った姉様人形が蘇った作者、その人形で遊んだのでしょうか。
にし、戦争体験者として戦なき七十余年の日
本をこのままに続けよ、の叫びである。身内
もまだ話は尽きないであろうその姿を「老い」
消し去ることの出来ない心の傷がどんな形で
白き木槿つぎつぎと咲き七度目の夏来ぬわれらの傘だつた父 橘 美千代 3
家庭を守ってくれた父親への深い愛情を感じる。
チャットかエスエヌエスか知らないが殺す権利はあなたには無い☆ 浜田はるみ 3
ネット上に書き込まれる誹謗中傷に憤怒の作者。
桜井美保子
屋根裏へ遮熱シートの貼るを決む断熱材
の防げぬ暑さに 中村 晴美
住まいの工夫があるだろう。断熱材を使った
毎年の猛暑をどうしたら元気で乗り越えら
れるかというと、ひとつにはこの歌のように
夏休みの孫たちを呼びわが作るランチに家族の絆あたたむ 白川 道子 5
手作りのランチを食べているお孫さんたちの嬉し顔が浮かびます。
だ。そこで作者は遮熱シートの利用を考えら
碧天の彼方みたまの住めるかと見えねど両の手かざして仰ぐ 東 ミチ 9
碧天の彼方のみたまは川又先生でしょうか。
酔へばつい戦の話あふれくると老いはコップ酒一気に呷る 田端五百子 辛いだろうが体験を伝えてほしい、だからこの戦争は駄目だと付け加えて
木木畑も蚯蚓も人も待ちし雨思はせぶりに遠雷さりぬ 山口 嵩 9
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れた。
があって現代的な素材を一首とした点に惹か
ており、積極的な姿勢が感じられる。生活感
れた。てきぱきと対策を講じる様子がよく出
住まいでも暑さを防ぐのに完全ではないよう
久びさに甥とドライブに岬を行けば建網船に大漁旗たつ☆ 佐々木せい子 1
久しぶりの嬉しいドライブ大漁旗に話が弾んだ事でしょう。
幼らは幼同志で遊びいる偶に奇声をはたまた喧嘩を☆ 乾 義江 3
幼子を優しく見守っている、喧噪は成長過程に必要不可欠。
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か友か客人か聴く人ありてこそ語れるのである。
フランスのテロ続く中息子二人はスペイン旅行終え無事帰る☆ 樗木 紀子 2
帰国の息子たちにホットしている、「フランスにテロ」としたい。
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去っていった遠雷に作者の嘆息が聞こえるようだ。
●私の注目歌
倉浪 ゆみ
ふと過ぎる師の面影は鮮やかに未だ別れ
村上 美江
核兵器廃絶を誓う広島と五輪開幕をみる
も大切に手元に置いてあります。
されました歌稿がなつかしく思われます。今
旧仮名遣いが不勉強のために赤に染まり返送
川又先生の事を詠まれた作品でしょうか…
私も入会以来ながき年月指導を賜りました。
の日の浅くして 田中しげ子
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今までになき都政をと公約の数多を掲げ女性都知事成る☆ 児玉 孝子 6
女性都知事は小池百合子氏、期待をしている作者。
水盤に輝やく花とてなき庭のどくだみの白爽やかに活けたり 野村 灑子 どくだみの花を活けるという発想が素晴らしい。
屋根裏へ遮熱シートの貼るを決む断熱材の防げぬ暑さに 中村 晴美 3
断熱材に遮熱シートを加える暑さ対策は家族を大切に思うから。
出征の兄を見送り涙した小さな駅はダム湖に眠る☆ 松中 賀代 ダム湖の底に眠るふるさとや家族への想いが切ない。
亡き人の吐息のやうな淡き月まあるくかかる暮れなずむ空 森藤 ふみ 「まるく掛かりて」と声調の統一を。
「冬雷の一一三人」の歌集見て涙しくるる嫁がいるなり☆ 斎藤トミ子 「歌集見て」ではなく「歌集読み」涙しくるるでは。
朝の空 雀五・六羽踊るがに 窓の向かうを 飛びゆけり 楽しさうなり 近藤未希子 2
結句「楽しげに飛ぶ」等に集約が必要。
流れに沿ひ流れに向かふ朝の径 今日のスタート手を振り歩む 有泉 泰子 5
「流れ」の語の重複に推敲の余地があるのでは。
夫亡き後家業に励み孫子らと九十二歳迎へて嬉し 沼尻 操 「励み」の連体形は「励む」。よって「家業に励む孫子」では。
街路樹のポプラの上に立つ人の枝剪る音は宙に弾けり 櫻井 一江 弦や鍵盤楽器などの音が「弾けり」。鋏の音は「響けり」では。
梅雨上り清しく晴れた昼下り樹々の葉陰に初蝉の声 吉田 睦子 結句に余韻が欲しい。「初蝉の鳴く」や倒置でも良かったかも。
ふと過ぎる師の面影は鮮やかに未だ別れの日の浅くして 田中しげ子 過ぎるは「すぎる」か「よぎる」か迷った。ルビが欲しい。
八月六日 本山 恵子☆
七十一年前、被爆地広島と長崎の凄惨な戦
争の犠牲の上に今日の日本の平和がある。忘
れてはいけない核の悪。平和のシンボルオリ
ンピックと戦争の事実。相対する「戦争の記
憶と核の現実」この時代にあり、もう一度「平
和とは?」を考えさせる歌として頂きました。
覚えやすく流れも素直で直球の歌。良い歌だ
と思います。
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敗戦忌平和憲法危うしの護憲誓いて被爆樹仰ぐ☆ 野口千寿子 9
「危うしの」ではなく「危うしと」ではなかったか。
草いきれに呼び起こさるるかくれんぼ鼓動抑へてじつと潜みし 鈴木やよい 字余りになるが「潜みしを」と詠嘆を持たせても良かったかも
●私の注目歌
故郷の温泉宿に声あわす廃校決まりし小学校歌☆ 髙橋 燿子 「決まりし」ではなく「決まれる」などではなかったか。
が、庭に咲くユウゲショウ、花の匂いに包ま
はらからの寄りて仏間はにぎやかに母を迎える真白き提灯☆ 酒向 陸江 個人的には「真白き提灯母を迎える」で良かったと感じた。
蓬餅明日は搗かんと餡を練る夜なべする手にブランディグラス☆ 藤田 夏見 2
餡を練る情景とブランディグラスの優雅さが不釣り合いに感じた。
仰向けに蝉とまりをり草とりを止めて叢ちひさく残す 松原 節子 蝉を驚かさぬよう気遣う作者の優しさが溢れる、声調の良い歌。
ユウゲショウ庭一面に咲く花の匂いやさしく我を包めり☆ 木村 宏 5
オシロイバナでしょうか、匂い立つ一首。「花」は重複するので「朝」では?。
三毳峰緑の山肌縫うように印のごとくに大文字焼☆ 高松 ヒサ 2
印のごとくに、が印象深い。峰という程高くないので普通に三毳山としたい。
痛みより解き放たれし先生は大空巡るや千の風となりて 大塚 亮子 川又先生ご自身がまさに「千の風」になると決めておられましたね。
短か目の肥った方が好きですのバナナ買う折例外のなく☆ 矢野 操 6
ユーモラスで好感がもてる。人間もスマートな人より朴訥な人がお好みでは?
夕立に両手で頭抱えつつ子等は駈け行くランドセル揺らして☆ 永光 徳子 様な憧れです。
川上美智子
夕立に両手で頭を抱えつつ子等は駈け行
願います。
達の未来が明るく平和な日本であるようにと
わいい声が浮かびます。健やかな成長と子供
セルを背負った子供達が急ぎ走りゆく姿やか
最近はカラフルなランドセルがあり急な雨
の中、小さな手を翳して色とりどりのランド
くランドセル揺らして 永光 徳子☆
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れるとは、作者の花に酔う姿を想像してみま
した。ごちゃごちゃした下町に住む私の夢の
一首読み、うらやましい│の思いでした。
ユウゲショウの花を見たことはないのです
しく我を包めり 木村 宏☆
大川 澄枝
ユウゲショウ庭一面に咲く花の匂いやさ
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核兵器廃絶を誓う広島と五輪開幕をみる八月六日☆ 本山 恵子 5
同日に重なった式典祭典に対する作者の思いが判らなかった。
憧るるものあるごとく坂があり今夕映えに美しく映えつつ 冨田眞紀恵 2
作者が憧れる「坂」とはどんなものだったのか判らなかった。
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映像が浮かぶ評判が良かった歌。最後の「て」は無くても。
洗われて紺地の浴衣は身軽なり巻積雲の海を泳ぎぬ☆ ブレイクあずさ 2
巻積雲が固くわかりにくいので、まだら雲、鰯雲では?。
青空の水面をタツタタタ水切りの石は走りてせみ鳴き初めぬ 松本 英夫 1
タッタタタが軽快で水切りの躍動感がある。語順を変えて整えたい。
山の木の幹に耳あて吸ひ上げる水音求めし若きありき 橋本 文子 5
作者が昔を思い出しているなら「若き日ありき」では?。
●私の注目歌
穂積 千代
昼の暑さ残す夜風が運びくる虫の音確か
に季節は動く 川俣美治子☆
然界のたくまざる有り様に、秋の到来の遠か
殊の外暑かったこの夏は、秋を待つ想いが
一層募りました。夜風は涼しくはなく、明日
閉店の軒下残る燕の巣壊れし儘に春過ぎてゆく☆ 川上美智子 軒下に残る、としたい。閉店し燕も今年は来なかったのですね。
無駄のない表現に詠まれており、気持よく読
ませていただきました。
らぬことを喜ぶ様が、ことばの運びもよく、
の暑さも思われるなか、すだく虫の音に、自
スーパーに若きママさん真剣に「鮫の切り身」の調理を問い来☆ 田中 祐子 2 真剣に、は例えば「メモ取りて」など。問い来、は「聞きおり」では?。
廃棄する長年使った冷蔵庫感謝をこめて奇麗に磨く☆ 鵜崎 芳子 5
きれいにしてから捨てる。頭の下がる生き方です。
金野 孝子
無農薬で培う畑の夏野菜色付くトマトに鴉が騒ぐ☆ 吉田 綾子 下句が楽しいと評判の良かった歌。初句無農薬で、は無農薬にとしたい。
曇り空膝腰しびれリハビリへ電気治療に身の解かれくる 及川智香子 1
下句の表現がとてもいいと思う。曇り空、リハビリは不要では。
玉原の山登る道咲きたての赤い穂揺れる
小さき花瞬き消えた無口なる人と点した線香花火☆ 三村芙美代 3
無口なる人と点した線香花火小さき火花は瞬き消えた、では?。
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昼の暑さ残す夜風が運びくる虫の音確かに季節は動く☆ 川俣美治子 季節の移りの情感は誰もが感じる程度のもの、一押しが欲しい。
「ひと群れ」に一層すすきの様子が見えて
きます。つい声に出して読みました。
お歌も清すがしく調べがいいのですね。
足をとめて見る景色は格別でしょう。だから
友人は事故で右足骨折し全治三个月重症なり☆ 永野 雅子 1
歌は人の心を種とするもの、作者の心の思いが出ていない。
ありがとうございました。
のですね。私は車の中から見るのみですが、
すすきは枯れても白い色を保ち、趣があり
ますが赤い穂がまたなんとも季節を感じるも
すすきのひと群れ 伊澤 直子☆
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玉原の山登る道咲きたての赤い穂揺れるすすきのひと群れ☆ 伊澤 直子 4
素直に景色を詠んでいて好感、このまま前へ進めば良いと思う。
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泣き止まぬ乳呑み児抱いて母親はエコノミーの通路を行き来す☆ 本郷 歌子 5
母親の困惑がよく伝わる。下句の七・七にひと工夫が必要。
助詞ひとつ調べひとつに迷いを重ね言葉を研ぎたる歌集は遺る☆ 高松美智子 歌作りの基本を述べている。あぁそうですかの域を出ていない。
●私の注目歌
草刈れば流れる汗の塩辛し〃人も地球も七割は水〃☆ 林 美智子 5
地球の水の総量は月の体積の半分以下、七割とは水の面積です。
警棒で民衆を叩く警官らデモに強権をふるふ中国 兼目 久 3
マスメディアに誘導された中国嫌い、日本にも過去にあった。
子の努力の道。一歩踏み出す度に、作者は安
る程に子が成長したことへの喜び~がうかが
目標に向かう娘たちの姿を見守る作者の親
心~子の目標達成への祈り、無理はしないで
み し や が
形よき我が家の西瓜食べどきと包丁入れれど赤みの足りず☆ 山田 和子 2
結局は見かけだおしの西瓜であった。下の句がオチになっている。
射鹿池朝霧が立ちこめ青の世界に包まる 星 敬子 2
蓼科にある御
われる。親が決して代わってあげられない、
堵し、子を労い、また支えていく。作者とお
野口千寿子
銃声の無き世にあれど自衛隊機はけふも
思います。
為政者の嘘を見破る力を持ち戦争への道を
辿らぬよう考える機会を与えてくださったと
ふたたび戦争への道筋をあゆむ訓練ではな
いかと想像したのです。
てくださいました。
戦争体験の記憶が乏しい私にとってこの一
首はこれからの人生に反戦活動の勇気を与え
湘南を低空にて飛ぶ 関口 正道
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プール通い三年経ても泳げなく行く所有りやる事有る幸☆ 姫野 郁子 0
自足・自適の生活を謳歌されておられる様子が見えて楽しい歌。
年二回同窓四人の食事会五十年経ても変わらぬ仲良し☆ 卯嶋 貴子 5
こころが晴れる歌だが、もう少し具体的な中身が欲しい。
試験ありレポート続きの娘らの小さき一歩は看護師の道☆ 加藤 富子 8
下句と上句を入れ替え、焦点を明確にすればどうでしょう。
銃声の無き世にあれど自衛隊機はけふも湘南を低空にて飛ぶ 関口 正道 輪郭的、傍観的、思わせぶり、作者のこころが見えない。
こみあぐるものあるならむメダル手に選手は思ひをつかへつつ言ふ きすぎりくお テレビを見ての感慨、感想に終わっていて詩への昇華が欲しい、
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ほしいという心配、自分で進路を選び努力す
料亭の味といへども独老のかをり湯を注ぐだけの味噌汁 大山 敏夫 8
ライトヴァース、軽い歌だが内容の詰まった妙味ある作品。
嬢様がた、それぞれを応援したくなる。
歩は看護師の道 加藤富子☆
中島千加子
試験ありレポート続きの娘らの小さき一
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開催は四年に一度同期会逝去の文字の名簿に多し☆ 廣野 恵子 3
下句に作者の感慨が出ているがやや常識的か。
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未発表歌の規定を守って。「蓼科の御射鹿池に朝霧の立ちて包まる青の世界に」と。
二十五キロ余痩せ細りたる力瘤ひと握りなり生身の素枯れ☆ 佐藤 初雄 2
我が身が枯れてゆくような寂しさを小さくなった力瘤に実感した。
厚切りでサラダにすれば歯触り良く胡瓜の美味しさ改めて知る☆ 大塚 雅子 6
「で」を「にして」と。発見かも知れないが説明的。表現は素直。
つきつめずすごすひとつに今日食せる熟れ無花果のかは剥かざりし 穂積 千代 6
共感できる。初句二句が効いている。皮ごと無花果を食べる自由さ。
●私の注目歌
花群れの紅の鮮けし百日紅我が物顔に空に揺れ居り 高田 光 8
我が物顔は言い過ぎでは。百日紅の様子を写実すればよいのでは。
した。酸味と甘さのある無花果は私の大好物。
な性質の方なのではないでしょうか? それ
故つきつめることの辛さも知って意識的に加
それぞれに揺れたき幅と向きのあり葉柳の枝つぎの風待つ 中島千加子 風にゆれる柳の葉の艶やかさ。あたかも意思あるような結句がよい。
立谷 正男
情景が思いが想像できる気がしました。
糧のため疲れ切った男達スマホ片手に車中に眠る☆ 野崎 礼子 生きるため懸命に働く男達が疲れ切ってスマホを手に眠る安らかさ。
それぞれに揺れたき幅と向きのあり葉柳
桜葉の黄の病葉落ち初む暑きなかにも季はめぐり来 西谷 純子 6
「桜木の黄の病葉に落ち初むる暑きなかにも季節はめぐる」とする。
減をしているようなそんな作者像が浮かびま
日月の過ぎゆく速さいまさらに思ひてみても為む術もなし 天野 克彦 7
「早さに」と。誰でもが思っていること。年をとるほどスピードが増す。
作 者 は 本 来 追 求 心 の あ る「 真 摯 」「 深 見 」
作者のつぶやきのように思え何か興味の惹
かれる想像力の広がる一首でした。
れ無花果のかは剥かざりし 穂積千代
高松美智子
つきつめずすごすひとつに今日食せる熟
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この坂を下りてひとつあの門を右に曲れば吾が家に見えつ 永田 つぎ 0
古里に戻り昔のままの坂道を下り門を曲がれば家が見えくる期待感。
ネックレス優雅な真珠をつけたれば途端に飛び去る素のわれ残し☆ 正田フミエ 2
優雅な真珠を身につけ変身できたと思った途端もとに戻った失望。
素晴らしいです。自然随順の心、共に学び合
を見つめ心を委ねる姿勢が葉揺れに感じとれ
されます。自然と一体となる心こそ後悔のな
いたいものです。
て感嘆しました。つぎの風待つという表現も
い人生を送れると教えているようです。自然
御大典を祝ひ昭和を生きつぎぬ昭和の子供たりしわれら 岩上榮美子 3
即位の礼、大嘗祭と一連の儀式を合わせた御大典に昭和を回想する。
この歌を読むと良寛和尚の「裏をみせ表を
みせて散るもみぢ」という辞世の句が思い出
の枝つぎの風待つ 中島千加子
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施餓鬼会の寺院にすつくと紅つぼみ広き蓮葉に二つの菩薩 村上 美江 3
仏教行事にお寺に行き紅い蕾の蓮を手に立たれる菩薩に会えた歓び。
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編集委員会賞受賞後第一作
ビジュアル世代
吉田佐好子
☆
冬の夜オリオン座をまず探す見つけて安堵今日も終わりぬ
天体の勉強をした小学生夜空を見あげうんちく語る
天空は北極星を中心に何億光年超然と回る
地球での争い悲しみ何もかも知っているよと星は煌めく
泰然と星空の様にわが心事ある時も平静保つ
深夜には星は見た目の輝度上げて宇宙に広がるダイヤモンドよ
眠れない人の多くは寝る前に取り越し苦労を自ら行う
今それを心配したとてしょうがない取り越し苦労は万病のもと
悪口を言ってる美人の顔だんだん般若の面をかぶせたように
不平不満自分が一番不幸だと他人に言うも何も変わらず
失敗は辛いものではあるけれど勇気をもって原因探る
すぐ怒る人にベストな対応は怒りをもって言い返さぬこと
アイラブミー自分を一番愛すこと尊重すること褒める事
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今月の 30 首
勉強もビジネス上の付き合いも漫画で学ぶビジュアル世代
アドラーも百人一首も漫画からすんなり入って頭に残す
平安の世から数えて千余年漫画に描かれる美男子武将
通い婚来ぬ恋人を待ちわびて内侍は妄想怒り悲しむ
望月を眺めて故郷懐かしむ平安の世から同じクレーター
これやこの意味わからずに小学生詠人の名を弾丸と言う
ラジオから大岡信の記したる「折々のうた」おもしろき評
受験生大岡信は鉄板で試験問題折々のうた
新聞のコラムから読む人多し折々のうたは知性くすぐる
自然派の前田夕暮めずらしきペンネーム先に世に知られたり
ネットにて前田夕暮検索しついでに詠草解説も読む
漱石は物理学にも精通す没後百年逸話が残る
漱石の研究者多し科学者の視点から見る面白き本
吾輩は猫であるにも漱石の物理好きなる描写があるらし
親友の寺田寅彦への書簡アインシュタインにも触れており
質量がエネルギーに関与する相撲を見れば確かにそうだ
相対性理論は特殊と一般があると明治の文豪も知る
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十二月号作品二評
赤羽 佳年
くれない
曇天にダリアがパッと花開くその紅に
詠い、椎の譲葉を表現している。四句は 「孫」と体言止めに言切りたい。
「後の葉育ち」で声調もよくなろう。
留守番を強いられたるかアパートの窓
☆
に終日外を見る猫 田中祐子
のうちに、猫に心を寄せている。近隣の
☆
息抜きと称して娘は帰省する我にもそ
素直な詠い振りで気持のよく出た歌で
ある。こうして気分転換、リフレッシュ
ちょっとした叙景。
「 終 日 外 を 見 る 猫 」 の 結 句 に 作 者 も 気
にかかり頻繁に見ていたのだろう。推測
して明日からの生活に向うのである。同
膝上の孫のゆびさすヒヨコの絵ピヨピ
んな思い出がある 野崎礼子
ダリアの開花を「パッと」の表現が適
切かどうかは別として、初句との対比が
じ道を歩む娘さんに、自身の体験も話さ
ヨピヨと絵本に遊ぶ 長尾弘子
☆
あって面白い。曇天に鮮やかな明るさが
れたことであろう。理解できる歌。
絵本のひよ子をピヨピヨピヨと泣かせ
敵う者なく 吉田佐好子
感じられ、比喩としての表現と見た。結
スマートフォンにポケモン捕へる人の
☆
句の「敵う者なく」は、「物」或は「もの」?
久しいが、下句に期待感を見る。
町内の新マンションの三棟に若い世代
入り子供の多し 樗木紀子 ☆
国民生活白書に少子化が言われ始めて
いて、結句の動きなどであろう。
六階より見下ろせば夫に似たる人早朝
の路をせはしげに行く 山本貞子
顔貌が見える訳だはなく、仕草が似て
飛躍があり、味わいのある面白味を醸
し出す。
群れ異様に見ゆる理解の出来ず
て、お孫さんを遊ばせている楽しい時間。
未経験の青函トンネルを新幹線と勇み 東 ミチ
て乗るもただのトンネル 高田 光 ぱっくりと内部が見えて焼き栗の黄の
社 会 現 象 と も な り 喧 伝 さ れ る と こ ろ。
負の感慨が詠いだされている。上句の 明るさよ三人家族 関口みよ子 ☆
字余りの不安定感と、三句の格助詞「と」 下句のストレートな物言いに同調する。
の効果か。初句は「未体験」?。
廊下越え射し込む秋の日ゆらゆらと柳
映して波寄る如し 本郷歌子 ☆
柳の枝越しに秋の日射しは、部屋の奥
☆
耳遠くなりたる自覚無けれども「テレ
一ヵ月組まれた足場片付きて気持のし
ばり解けてきたり 伊澤直子 ☆
憂鬱であった緊張の一ヵ月が過ぎ解放
まで届く。季節感の出た歌。柳→ゆらゆ
二三句の感情は理解できる。老化現象
と言われてしまえばそれまでだが、補聴
感に、ほっと一息する様子が表出された。
ビの音が大きい」と孫は 和田昌三
器などの利器もある。結句の「孫は」は
ら、イメージが面白い。
椎落葉毎日掃きて思うなり後の葉の育
て落ちゆく自然 糸賀浩子 ☆
日常の行為のひとつに、常磐木落葉を
56
十二月号作品二評
中村 晴美
☆
台風が稲刈りの予定狂わせて稲の穂先
はたわわに揺れる 吉田佐好子
大雨の後は晴れても直ぐ稲刈りができ
ない。天候に左右され安定感に乏しい農
事実を作者も知るひとりですね。
クラでしょうか。花もオクラの味がする
に。花は日持ちしないので自家菜園のオ
テレビで血糖値の急上昇を抑えるとオ
クラを刻み水で伸ばすを紹介されブーム
役買っているものである。各自、できる
の為になるだけでなく地域の活性化に一
サンマの擂り身汁。行事に参加は、本人
秋空の下、ウォーキングを完歩した作
者。そして待っていたのは名物であろう。
ばそれぞれスマホに夢中 金野孝子
弾みゐたる男女の会話はたと止む見れ
範囲で積極的に参加したい。
☆
オイチイと言ったと娘が驚きぬ言葉が
一つ増えたね今日は 野崎礼子
タイムリーに今を歌っている。時代が
流れればスマホも過去になる。ある調査
業の担い手は難しい。しかし輸入頼りも
だけの記念になるし多少大目に見てもと
によれば人と直接会うよりネットが楽し
孫の成長を娘と共に喜ぶ作者。甘くな
ると孫の歌は批判されたりしますが、今
思う。
危険だ。今後を考えさせられる一首。
車窓から見る街路樹は黄に変りドウダ
て電車乗り越す 山本貞子
親友の認知症のすすみゆく早さ思ひゐ
ト社会は貢献してしまってる感じである。
ンツツジは木下に赤し 高田 光
☆
く思う人の方が多いとか。少子化にネッ
ビの音が大きい」と孫は 和田昌三
耳遠くなりたる自覚無けれども「テレ
黄は公孫樹でしょうか。赤は具体的な
表現に対し黄があやふやでバランスが悪
成長した孫からの指摘が悲しい歌。孫
が可愛い時期は短い。
い。ただ市街地であっても見事な赤い紅
葉を見せるドウダンツツジは美しい。
に終日外を見る猫 田中祐子
電車を乗り越すほどショックだった親
友の認知症。長寿社会になって新たな問
自治体によっては猫を外に出すことを
禁止している。外に出すとトラブルの元
一ヵ月組まれた足場片付きて気持のし
留守番を強いられたるかアパートの窓
になるので自主的に出さないのか。猫本
お決まりの悪役の居て納得す平和な時
代の昔の映画 浜田はるみ
来の生き方を考えると少し可哀相です。
ばり解けてきたり 伊澤直子 ☆
家に職人が出入りするのも落ち着かない
もの。終わった解放感が伝わる歌。
分の意志とは関係ないのがはがゆい。
題。新薬がそのうち解決すると良いが自
勧善懲悪の分りやすい昔の映画。複雑
な人間模様は年を重ねると疲れる。色々
完歩証手にしたる後さらにまたサンマ
☆
考えても仕方ない。シンプルな生き方が
擂り身汁御馳走になる 及川智香子
☆
オクラの花黄なるもまぜて水加え納豆
一番と悟りの境地までも伝わります。
☆
と和え今日も食べおり 糸賀浩子
57
作品二
茨城 立 谷 正 男
公園に保育所の子ら放たれて思ひ思ひに落葉集める
お晩方声懐かしき挨拶を道路誘導の老人に聞く
小村の昔を誘ふ秋景色山裾の田に藁ぼつち立つ
屋根壁の塗装に励む若者に我が子の如く茶菓子差し出す
水深く屈める人の積み上げる蓮根小舟に白く輝く
朝なさな白き姿に立ち呉れし厨の母を雪に偲びぬ
雪ののち紐新しく結ばれて小菊朝夕垣に連なる
人麻呂の長歌反歌を思ひ出で退位ゆだねる陛下かなしむ
茨城 吉 田 佐好子
街路樹の色が日ごとに変化する速度落としてもみじ楽しむ
万葉の天皇も詠む筑波嶺は平野にそびえる穏やかな山
山頂は二峰になりて柔らかなシルエット描くつくばの紫峰
土の上に散れるもみじの数枚はきれいに洗われ浴槽に浮かぶ
もみじ湯は我が家の秋の風物詩湯船から出る人と一緒に
葉の落ちた禿枝の先は太陽に向かいて節に新芽ふくらむ
寒き中それでも次の春に向け新しき芽は育ち始める
☆
与謝野晶子歌碑
58
作 品 二
のら猫は暖を求めて停めたての車の上にひょいと飛び乗る
洗いたるばかりの車のボンネットに肉球を付けるなじみの野良猫
栃木 早乙女 イ チ ☆
「おばあちゃんドクターヘリで足利の赤十字病院に運ばれたのよ」と孫言う
事故に遭い何も覚えなく病院で手当されおりベッドの上に
声かけられ気付いて見れば目が見えぬ何もできないどうしようかと
全盲にならず少しでも見えればと祈りつつ左目の手術を受ける
病院に毎日来ては色々と世話してくれる家族に感謝
青森 東 ミ チ 五能線深浦町字金ヶ沢に日本一大きな銀杏を訪ぬ
海沿ひの小さな村に千年余生きて銀杏は日本一の黄葉輝かす
町内の一人暮しの食事会舞踊の慰問受けて華やぐ
素晴らしい月と見上げて帰宅すればニュースは伝ふスーパームーンと
友に言ふ車は私の足代り膝の治療中多く歩けず
町内の老人クラブの忘年会に余興それぞれ我は笛吹く
鳥インフルエンザ近くに発生五千羽のアヒルの命哀れなり
岩手 岩 渕 綾 子 震災後にわが身をあづけし仮設住宅は中学校の校庭に在り
わが部屋の真向かひにある中学校ジャージー姿は眼裏にあり
霜月の川沿ひにある四季桜われを励ます花のひそけく
59
境遇を同じにしたる者同志心がかよひ絆はつよし
仮設住宅の役目を終へて霜月に撤去決まりて感謝に集ふ
五年余の仮設ぐらしにけり付けて皆あちこちの住家をめざす
わが短歌に返歌くれたる中学生今いづこかの大学生らし
雪降れば仮設の除雪に汗ながし第一中学校は文武に猛し
なたづけ
東京 樗 木 紀 子
近所の友と惣菜漬物のレシピを時々交換し料理を作る
友から貰いたるレシピにて大根の鉈漬作る美味しく仕上がる
小春日公園で輪投げ練習す親子づれ交え楽しく過ごす
☆
東京 西 谷 純 子 人通りめつきり少ない商店街角の花屋には客の姿有り
白菜の四ツ切り一つ鮮度良き株を選びてかき鍋とする
かき鍋に白菜春菊葱きのこ風邪引く吾には薬より食
京葱に油揚げ豆腐それだけで出し汁香り旨み増しくる
早朝にベランダの手摺に止まりゐる鵯啼きて糞落し行く
教材で娘の編みたるマフラーは三十年経てど吾には温し
風強き日には散歩もままならず寒さ逃れてスーパーを散策
いみ び
埼玉 倉 浪 ゆ み 白粉花のほろほろ零るる種を採る来年の夏この種まかむ
地ひくく咲きて清けし黄の小菊母の忌日の供花とするなり
60
作 品 二
見事なる友の家の蔦もみぢ「とらないで下さい」と貼紙のあり
公園で遊べる児等を追ひ払ひ北風がこぐブランコ揺れる
「ご自由にどうぞ」と柿の実のありて秋の陽あびて輝くその色
町ははやイルミネーション点灯し行き交ふ人らは着ぶくれてゐる
玄関に小さきツリーを飾りたり我の心にも明りがともる
師走近くなりて今年もまた届く喪中の挨拶に胸いたみくる
東京 長 尾 弘 子
黄のカバーしたるランドセル子供等の背に跳ねている初雪の道
もみじ
裸木の辛夷の枝先膨らみて今日の小さな喜びとなる
街路樹の辛夷の黄葉枝はなれかそけき音をさせて転がる
枝々に雀宿りて騒がしく唐楓の葉折々散らす
その昔鰊の大群来たという増毛線に最後の列車
☆
岩手 及 川 智香子 枝揺すり落ちたる柿を拾ふ間に籠に入りたる蝗一匹
動物の知恵かポストに泥足を掛けた跡あり干柿の下
人里に熊の出没確からし鋭き爪跡柿の木に有り
発表会やつと終はりて手紙書く大正琴も七十の手習ひ
四十余年わかめの芯抜き一筋の姉の右指「く」の字に曲がる
終活と言ふこと気になり衣類など展げて仕舞ふこと繰り返す
話下手は物を捨てぬと言はるるとわれへの忠告子はいろいろと
61
東京 林 美智子
初雪に幼が作れる雪うさぎ冷凍庫にて二十日過ぎたり
柚子とりてお風呂に浮かべて下さいと無沙汰の詫びを記して送る
独り居の兄への訪問重なれば中央線にてしばしば富士見る
立川より日野へ多摩川渡る時白く耀く大き富士見ゆ
富士を誉め見知らぬ人と高尾まではては家族や趣味まで語らう
師走初旬好天続きの日曜は高尾駅前に人溢れおり
登山者の多くは元気な高齢者高尾駅北口にバスを待つ列
高校の文化祭にて母の買いし椿半世紀を我が庭に咲く
東京 関 口 みよ子
建て替えはお互い様の理解なりされど隣人は家を手放す
隣家の側面クレーンに剥がされてあからさまなり生活のあと
☆
☆
☆
ついさっき寝たばかりです土曜日もオーライオーライとユンボ入り来る
人去りし解体現場に若き猫足の置き場を選りつつ巡る
隣家の失せて我が家の南窓まるで原始のような明るさ
水たまりに灯りが滲む雨上がりうつつ踏みしめ帰るとすらむ
どの窓に赤子が泣くや新築のマンション増えてカラスが騒ぐ
地に触るる寸前にして反り返る鉢よりあふるるミントの腹筋
東京 佐 藤 初 雄
落ち葉して枝あらわなる柿の木に雀の群れが又飛び来たる
62
作 品 二
柿の葉は散り尽くしたり青空の光は眩し部屋に射し来て
夏柑の円ら実数多垂れさがり庭は黄に照る今年成り年
柿も枇杷も好むと電線伝い来て我が屋根裏に住むハクビシン
体機能の劣化は定めと恙なく生かされて居る九十五歳
拡大鏡に片眼で頼る煩わしさ読書は既に生活の外
三陸の海岸の旅思い出は白壁続きの商家の街並
杖を頼る老人多く整形外科の待合室は何時も満席
設置初期異と思いたる優先席いまは若者悠然と座す
茨城 飯 嶋 久 子
白き息吐きつつ歩む千波湖畔冬桜数本主張せず咲く
赤信号わたる白鳥を保護したる警官に思わず笑顔広がる
☆
☆
久慈川に遡上する鮭見んとして土手沿いの道ノルディックウオーク
次に繋ぐ役目果たして命果つ鮭のむくろに鴉集い来
生と死を共存させて久慈川は冬の陽を浴びきらめき流る
一万歩今日の目標達したり「清流の里」に熱き蕎麦食む
過保護といわれながらも脳トレの一つと思い弁当詰める
無人駅に降り立つ二人の女子高生ひと時駅は華やぎ見せる
香川 矢 野 操
十一月末に月見草の花ふたつあと二、三時間のいのちを摘まず
皮にそばかすすり傷のある「わけあり」のみかんを選ぶ自分用にと
63
十六時になればスーパーが気にかかるパンや魚の半額シール
フランス産カマンベールの半額にコーヒーブレイクまれな贅沢
手にとれる帯に「ご一生ものです」と光る言葉ありセンスを買いぬ
切れ目なき対向車のなかトラックは右折うながすサインを出しぬ
☆
☆
東京 山 本 貞 子 出合ひなく別れのみなる年暮れぬ身を庇ひつつ歌詠みてゆく
生きてゐる証の如き年賀状老いて逢へざる人の増したり
「人間はさう簡単には死なない」の年上の友の言葉諾ふ
昭和一桁戦中戦後の貧しさに耐へ来て老の不足なき日々
ひとりには余るおでんの鍋置きて箸とる部屋のガラスが曇る
バス停の風なき道に山茶花の白が降り来て存在示す
わが顔を窺ひながら距離おきて過り行く猫に知らん顔する
東京 卯 嶋 貴 子
入院し二ヶ月経ちて体調をとりもどしたる九十三歳の母
自転車を押しつつ歩く地下道を二ヶ月通い体力あがる
赤や黄の紅葉たのしみ病院に毎月通う諏訪神社の森
からす等のさわがしき道を自転車で帰る夫の待つ夕方に
栃木 本 郷 歌 子
木枯らしの吹き抜け夕べの月冴えて群青色の空の明るし
西風に背中押されて職場への上りの道のペダルの軽し
64
作 品 二
ニューヨークより月の絵葉書届きたり頭上の月と等しく煌めく
敗荷に見え隠れする鴛鴦の黄羽根際立つ冬来たりけり
見霽かす海に船影ひとつなく白波寄する音の響ける
白波は寄せては返し砂浜と青き海とを分けて縁取る
山裾を巻きつつバスは進み行く見え隠れする海の煌めく
海沿いを走る電車に波しぶきかかりたる如雨降り始む
それぞれが持ち来るだろうと思い込みカメラを持たぬ旅行となりぬ
東京 鈴 木 やよい 霜月の朝に積もれる初雪を見つつ昨夜の豚汁温む
子らに交じり玉を入れんと伸び上がれば飛び交ふ玉の向かうに空見ゆ
子が吹き出すシャボン玉の流れきて最後の一つが消ゆるまで見る
暗き道をぼんやり照らす外灯に散りたる銀杏の黄が浮き上がる
葉牡丹の上に輝く水滴に手袋外し触れてみるなり
静岡 植 松 千恵子 一頻り空気引裂く百舌のこゑ落穂を拾ふ刈田日暮れて
新米に土の匂ひのぷんとする一年の労作感謝して食む
荒野原が以前田んぼと誰が知るあつといふ間に茅生え伸びて
流れ星数多流れると見てをれば点滅しつつ機影過ぎゆく
荒れた田を数年越しに耕して今年は立派に稲田となりぬ
コンクリートに根を張る草を引き抜けど抵抗強くして意地を見る
65
赤穂浪士ガイド 東京 高 田 光
明後日の「赤穂浪士」の下調べ吉良邸暗し松坂町に
広大な屋敷の跡の一隅を町の有志は公園とせり
表門裏門の位置炭部屋を確かめて暗誦すガイドポイント
探索の拠点と言へど伊助宅と吉良の裏門あまりに近し
安兵衛と他の隠れ家もほど近く何やら臭ふ幕府のやらせ
いつかう に り
講談や歌舞伎のなかの陣太鼓華やかなれど嘘と断ずる
かたき
山鹿流一向二裏の陣立ての奇襲攻撃勝利は易きか
誰一人敵の顔を知らぬまま落とせし首は上野介と
岩手 村 上 美 江 雲間より差しくる冬陽幾筋も真つ直ぐに光り吾が里にふる
買ひ求めそれで満足か未使用の立派な品を友は手放す
冬の陽は温かくしてガラス戸を突き抜け部屋のシクラメン喜ぶ
両の指紙絆創膏できつちりと捲きて働き叔母の逝きたり
背を丸め女手ひとつで育てたる五人の娘に見守られ逝く
「おばあちやん」ハキハキと男孫はお別れに強く生きると誓ひを述べる
大好きな寡黙なる叔母はニコニコと手を拭きながら外から戻りき
東京 伊 澤 直 子 ☆
どこからか舞いおりてきたひとひらのいちょうが紅いシクラメンに乗る
今川氏累代の墓ある観泉寺築地塀にもみじの続く
66
作 品 二
境内の高き銀杏は夕日浴び深き黄金の色に輝く
こう
冬空に白き富士山くっきりと大きく見える小金井あたり
三宝寺池巡る木道に散るもみじきれいと拾い束ねる皓子
散りもみじ束ねて幼稚園に持ち行くとうれしげに言う声はずませて
☆
集めたるきれいなもみじを持ち帰り大皿に散らす幼なのアイデア
高知 松 中 賀 代
退院の途中娘が買いくれしシャコバサボテン今盛りなり
何事も忘れて今は眠るべし何と言っても家が一番
静かなる暮らしに戻り気が緩み時をかまわず新聞を読む
杖をひき畑に出ても力なく同じ作業に苛ついてくる
留守の間に太ってくれてありがとう「土佐紅」と言う芋を掘りだす
アカマンマひとにぎり摘み小春日の畦に座りて足を休ます
ランタナに覆われていたオキザリス日向に出せば一斉に芽吹く
岩手 斎 藤 陽 子 声高く師の歌集読むしらべ良き歌多くして胸にしみたり
たくあんを六十本漬け安堵せり一大事業終へたるごとく
一分間の黙祷長しとおもひゐてすこし目をあけ手を組みなほす
寒菊を刈ると鎌先向けたれど今日はやめようまだ香るから
家計簿の不足は涙でおぎなへとさとしてくれた祖父を思ふ日
春来れば末の男の子も家を発つ七人家族四人となる日
67
(子福桜)
☆
忍性は生は誕八〇〇年特別展 神奈川 山 本 述 子 忍性は亡母の望みを叶へんと僧侶になりき偉大な僧侶に
極楽寺開祖の功績偉大なり他寺建立にも尽力ありと
忍性は癩患者の養生所境内に建て数多収容す
紅葉なす木々に紛れてひと本の桜咲き散る吹雪の如く
街角のクリスマスメドレーの生演奏立ち止まり聞く一時間ほど
黄金色の公孫樹並木は朝日受け行き交ふ人ら顔の明るき
参道に次々聞こゆる外国語日本語会話あれば安堵す
じ 新潟 橘 美千代
ふ よ ん
十四歳になるわが猫の背に大き腫瘍できたり悪性らしも
猫の居ぬ部屋の空間あじけなし獣医に一泊入院させて
寝室の戸を少しだけ開けておく入院中の猫と知りつつ
風呂あがり戸をあけるわが足元に飛びつききたり幼きころは
手術受け戻れる猫は不信の目われに向けつつ押入れに籠もる
こ よひ
手術受け毛を刈られたるわが猫に小型犬用セーター着せやる
雪おこし今夜しきりにとどろけり二王子山に冠雪ありて
真白なる飯豊連峰のぞむ道冬タイヤ積みてスタンドに向かふ
栃木 川 俣 美治子
寒々と降る雨止まず耳すます冬の夜が静かに過ぎる
誕生日目前にして思うことひとつ歳とる重みと軽さ
68
作 品 二
窓ごしの冬の日ざしは柔らかく思い出さるる祖母のひなたぼっこ
忙しく踊る枯葉はにぎやかにカラコロコロと西風まかせ
☆
たまにある気分が晴れぬそんな日は見るものすべてにフィルターかかる
オレンジの色鮮やかに店頭の旬の売場にみかん陣取る
久しぶり駆け寄る孫を抱くとき鼓動とぬくもり温く伝わる
東京 永 光 徳 子
奥武蔵の林を抜けるローカル線車窓に秋の色移り行く
境内に雅楽流れる七五三晴れ着の少女の袂が揺れる
水面に白鷺一羽佇みて入り日に影を長く映しぬ
亡き義母が植えてくれたる磯菊は淡き黄の花庭に拡げる
星空に上弦の月浮かび出て磯菊の花仄かに照らす
晩秋の雪で倒れた数々の植木刈り取り芽吹く春待つ
天気予報はずれて嬉しき青空に高尾の山の紅葉見に行く
東京 小 林 芳 枝
ふくよかに成熟したる柚子の実をいただく今年の冬のはじめに
売り物とさうでない実のあるといふ柚子の格差を考へてゐる
切れぐあひ鈍くなりたる包丁を研ぎぬ日のさす床に坐りて
均等にほそく切りゆく柚子の皮ボウルの底にふつくら積もる
とろとろと煮詰まるジャムの味をみるきのふ肉じやが作りし鍋に
ほんの少し食べておいしいと言ひながら離れてゆけりをさなき子等は
69
十二月号作品三評
の歌と関連の一首だろうか。三、四句の
くとよい。「蜜柑の枝にひらひら下りた
る黒揚羽傷ある翅をやや傾けて」では。
な怒りたぎる日のあり 横田晴美
慎ましい姿勢が共感を呼ぶところ。
微かな怒りと断りながら、亡夫へその
怒りを滾らす感情は遺恨そのもの。亡父
んだ」と呟かれたのを思い出した。
性を常に崇めておれば波風は立たないも
☆
れるつくつくぼうし 川上美智子
に似た子息の容姿にまた母は苛立つか。
子の顔が次第に似てくる亡き夫へ微か
森林に鳴きしきる法師蝉の声をを輪唱
と捉えたのは新鮮である。つくつくぼう
水谷慶一朗
保育園の小さき畑に茄子ふたつ色くす
しと確かな抑揚の声も聴かなくなった。
或る日、一杯やりながら木島先生が「女
☆
☆
み残る秋の陽のなか 鈴木やよい
ふたしかで夏秋もなき天候に時をちが
輪唱のように弾んで鳴きしきる林に群
下がる」の方が音便は確かと思うが。
えて咲く庭の花 廣野恵子
☆
園児たちの育てた茄子二つが色艶なく
残るのは種茄子だろう。四句「色褪せて
古くなり空き部屋多きアパートに洗濯
物乾す一部屋のあり 山本三男
音か木々の騒ぎか 大沢幸子
湯に漬かりいる 乾 義江
まさしく共感の一首。私は二病息災で
いるが孤独感はない。然し健康不安に絶
独と不安渦巻く 片本はじめ
人生劇場退場はさみし 町田勝男
☆
あれば夏秋の」で収まる。下句は「季を
若葉の森夜風の運びくるものは瀑布の
ほとんど空き室となつた古いアパート
の一室に干される洗濯物に質素な生活感
違えて咲く庭の花」では。庭の花は具体
初 句 の 若 葉 は 夜 ゆ え 不 要。「 夜 の 風 が
森より運びくるものは」でよい。下句は
夏秋となれば天候でなく気候、季節が
確実でしょう。上句は「不確かな気候に
が窺える。五句は「一つ部屋あり」と強
的に花の名を示してもよかった。
初句「浴槽の外」は浴室に虫が潜んで
いるのか?露天風呂か?とも考えるが、
えず怯える。独居老人の悲哀でもある。
お父さんと呼んだ子息がいつしかおや
ぢと呼ぶ。成長の証だがこれを喜びとす
とき
めて言うのもよいか。
人前には一人で気楽と笑へども内心孤 「 瀑 布 の 音 と 樹 木 の 騒 ぎ 」 に し て「 か 」
の疑問符は無い方がいい。瀑布は「早瀬
家風呂ならば「浴室の外より聞こゆ虫の
黒揚羽蜜柑の枝に舞ひ降りる翅に傷あ
たが
浴槽の外より聞えくる虫の音色楽しみ
声湯に浸りいてしばし楽しむ」でよい。
り少し傾く 大野 茜
交代人生劇場に比喩の愉快さが滲む。
る反面、寂しさを託っている作者。主役
お父さんがおやぢになれば息子が主役
の音と」としてもよいか。
祈りとは手を合わせること掌に親心つ
4ク4ロ4ア4ゲ4ハ蝶の生態を観察した一首。
舞い降りるは俗です。黒揚羽は四句に置
☆
つみ合格ねがふ 斎藤陽子
十二月号の作品評に採用した孫の就活
70
関口 正道
十二月号作品三評
川又幸子先生は金木犀の芳香を「甘い
香り」と表現するのは、平凡だと指導さ
るり深呼吸する 山本述子
愚痴も混りぬ 廣野恵子
☆
ドクターヘリ駐機場にあるをみて今日
も静かな一日をと願う 加藤富子
ドクターヘリが駐機して居るのと、居
ないのとでは状況は全く違う。重病人が
出ないことを願う作者の誠実さを思う。
☆
悉く葉を食われたる山椒は芽吹きのは
やく強かに生う 児玉孝子
山椒の葉の蝕まれても勢いよく蘇る様
を「強かに」と巧みに捉えられた。
人でコンバイン出す 藤田夏見
☆
我をしてリハビリ中。民舞・旅行と〝故
同 期 会 の 四 首、 年 齢 を 詮 索 し な い が、
僅かな時間で昔と今が交錯する。その愚
れていたように思う。この三欄に金木犀
故障持つ後期高齢者多くゐて踊り構成
の 歌 が 数 首 あ る が、「 ゆ る り 深 呼 吸 」 し
たびたび変る 小久保美津子
何 は と も あ れ 作 者 の 歌 作 復 帰 は 歓 迎。 たこの歌がいちばん良いような気がする。
前期高齢者にもならない作者だが、大怪
一次二次三次会まで参加する話に徐々に
障〟する前の身体に戻りつつある。例会
痴はご主人か、お子さんへか、男性なら
台風が襲来せぬ前の慌ただしさが窺え
にも大会にも早く復帰して欲しい。
神主の祝詞を聞いてゐるごとく静かに
政治と年金の話になるかも知れない。
は、昭和の終りまで貨物線があった。
真つ暗な瀬戸内海に目を凝らす闇があ
な事実も取り上げられているのだろう。
☆
並ぶ房飾りの馬 鈴木やよい
台風の進路と聞きてこの晴れ間夫と二
流鏑馬の行事を待っている馬の大人し
さを巧みに捉えられた。これから疾駆し
し、「並ぶ」も訓練のたまものだろう。
なければいけない馬の運命も感じさせる
桜木町鉄道始めの記念碑を読みつつ明 る。生業に真摯な作者が居る。
治に引込まれゐる 大野 茜 集ふたび会の話題も変り来て此度は介
日本の近代化は「神奈川から」が筆者 護マンションのこと 松居光子
の興味とお国自慢だが、とりわけ鉄道に
クラス会はずっと続いていると解釈す
関しては、横浜は肯える。今の「汽車道」 る。旧友なら腹蔵なく話せるし、具体的
高校の着替へのときの浅田君「パンツ
黄の花を大きく咲かすおくらの実はあ
おあおと茹であがりたり 卯嶋貴子 ☆
「 こ の 花 は 何?」 と 散 歩 時 に 訊 い た こ
だわりがあるのかと勝手に思う次第。
るから光生まれる 中島千加子
結句は理屈ではなく何か光を捉えたの
かも知れない。瀬戸内海にも何かしらこ
春の思い出の一ページになっている。
とがある。小さなパラボラアンテナを思 ハイティーン」笑ひは今も 松本英夫
わ せ る 形 で 可 憐。 日 本 料 理 の 特 徴 だ が、 ダ ジ ャ レ を 言 っ た 旧 友 の 追 憶。 軽 い
タッチの歌だが、それゆえ浅田君は、青
生、乃至茹でるだけで素材が生きる。
ゆふぐれに金木犀の香りたつ小路にゆ
71
作品三
アウシュヴィッツ 埼玉 小久保 美津子
本好きの多読のころに出会ひたる『アンネの日記』『夜と霧』など
隠れ家の少女の日々の小さき恋惹かれて読みぬ『アンネの日記』
没収棚ドイツ老舗のニベア缶アウシュヴィッツに収容者の物
年間に一万五千の日本人アウシュヴィッツを観光したり
生と死の丸刈丸裸体験すわれの頭手術アンネの収容所
「働けば自由になる」と掲げらるアウシュビッツに命絶たるる
美しきをみなの金髪織物とすナチスドイツの有効利用
五つ星つきたるホテルの窓辺寄りダビデの星か瞬き見ゆる
秋深き街を歩きぬ四日間アウシュヴィッツに心身疲労 埼玉 町 田 勝 男 関越道北国街道果つるところ出雲崎にと良寛もとめて
記念館順路めぐれば靭彦の良寛像は友にかも似ん
良寛様に誰もがなれるわけぢやない漢字かな文字風のふくやう
手まりつき子らと遊べる良寛の影こそ見ゆれくがみ草庵
ひそかにも恋ふや美形の貞心尼鄙に積む雪埋むすべもなく
高徳院仁王門
72
作 品 三
黒ずみし柱も梁もそのかみのたつきかたりぬ熱燗酌めば
秋色のスカイラインにペダル漕ぐ若者たちの幾たりを見ぬ
佐渡を見よ佐渡を見よとてうなさかは遠がすみして島影見えず
東京 大 塚 雅 子
肌を刺す風吹く夜の帰り道ストールに顔を埋めて歩く
カイロ代わりの缶コーヒーを握りしめ冬の夜道を家へと急ぐ
☆
)
インターネット誰かの書きこむ「月がきれい」にベランダに出て空を見上げる 宮城 中 村 哲 也
己が顔に色付け施す若者らこれハロウィンと電車に乗り来る
邸宅の植栽剪定二日目も軽トラ荷台に枝葉山盛る
( 一月二十二日
十
古ぼけた携帯に撮るスーパームーンかすみて灯りの如く写れり
携帯の警告音と地震の揺れ朝の六時ににはかに目覚む
震度三乃至四かと思ひつつ揺るるベッドに終息を待つ
地震のあと電気にガスに水道の通れば食事終へ支度して出づ
地震後の運休遅延に乗り継げぬ人のなきらしホーム空きをり
大風や落ち葉でも遅れし仙山線地震の後も動くは意外
茨城 豊 田 伸 一 ☆
屋根上に七羽のすずめが地を見つめ隣家がえさをまくのを待ちぬ
泣きじゃくり我に飛びつく隣の児母にしかられ逃げ場を求む
音立てて走るバイクは朝刊を配り廻りて遠く近くに
73
黄金に色付きたるは銀杏の葉やがて散るらむ秋の陽差しに
緑黄のあざやかに照りゆずが生る奥久慈の里の変わらぬ景色
足腰に寒気を覚え股引きをはいて温もり気温の差知る
風が吹き光り輝くさざ波は秋の終りの陽差しを受けて
神奈川 大 野 茜 日は暮れてなほ蒸し暑き公園に短パン姿で走る若人
き
ん
妻と二人旅を重ねて踏みし地を地図に線引き想ひ出しゐる
記念樹に金木犀植ゑ三年目甘き香りの黄金の花咲く
ひとひらの雲なき冬の青空は貴きものぞ敷布を洗ふ
ランチとる向うの席の紳士らは退職者らし豊かに笑ふ
足をもつと高く上げよと体操の先生は叫ぶ息継ぎ挑戦
国を挙げてデジタルテレビ奨めしが何れの局も番組似たり
☆
埼玉 星 敬 子 紅の山茶花の咲く時逝きし弟よ早や一年忌来ぬ
賜れる花梨一果を掌に香り楽しむ立冬の夜
久々の茶道会館は秋盛り錦あやなす芝庭囲み
寒風の中を自転車に漕ぎて来る体操教室は今日もにぎやか
庭の辺に鮮やかな黄の柚子の実が枝しならせて光り輝く
高知 川 上 美智子
初夏の土佐を旅立ちひとっ飛び利尻島には早春の風
74
作 品 三
世界一強い体力気力でも癌の征服ならず田部井さん
☆
(登山家田部井淳子さん逝く)
東京 永 野 雅 子
大会の出席三度目の今年見知れる人の徐々に増えおり
今年こそしっかり短歌を学ぼうと先生の歌集抱えて戻る
先生に添削された短歌読み巧な言い回しに納得する
八日前に退院したるという友が松葉杖つきて茶会に来たり
久し振りに飲んだ抹茶が美味しかったと友は微笑み礼を伝える ☆
東京 山 口 満 子 ☆
マザー牧場のサラブレッドはトナカイの姿となりてトラックに乗る
カピバラの背を撫でれば長い毛はたわしの固さで手のひらを刺す
笛の音でシープドッグは敏捷に動きて羊の行く手を塞ぐ
夕飯に南房総名物のホンビノス貝をバター炒めす
噂通りホンビノス貝の口は固く焼こうが蒸そうが一向に開かず
東京 廣 野 恵 子
脂汗に足地につかず気味悪し高血圧がさせる悪さか
みちる香は色とりどりの菊の花気づかぬ内に秋になりける
元気よく玄関入りくる夫座してしばし立てぬは久し振りなり
身うごきのその都度顔をしかめおり肋骨折り全治三週間の夫
冬仕度まだ手つかずの秋の日に咲く菊倒し雪積りいる
足もとに踏む地のなくて階段の空間白く広がりており
75
救急車の探しくれたる慈恵医大幸い骨折は手首のみなり
愛知 鵜 﨑 芳 子
コンサート軽やか気分に友と来て懐かしく聞くリコーダの音
アメリカの渦巻く矛盾うつし出す大統領選挙報道に見入る
雲浮かぶ青空見上げ嫌なこと吹きとんで行く秋のひととき
紅葉待ちしナンキンハゼの並木道枝払われて幹並びおり
なんとなくルート替え行く散歩道目をひく今日の銀杏の並木
下山道の樹林の中に振り返り仰ぐ紅葉かがやきて見ゆ
☆
奈良 片 本 はじめ 隣室の女が今宵は帰宅せりコツコツコツとハイヒールの音
スーパーのベンチに酒を飲む媼の姿見えなくなりぬ
コンビニへ深夜に行けば入口に若き男女らしやがみたむろす
知らぬ間に我は還暦迎へゐて母の電話に初めて気付く
誕生日に一人たらふく焼き肉を食ひ酒飲めば腹痛となる
休業中のお好み焼き屋の媼より電話のありて花持ちて行く
足骨折したる媼は八十歳を越えてお好み焼き屋をたたまむと言ふ
栃木 加 藤 富 子 ☆ 生きるため翅をふるわせ蜜を吸うただそれだけなのに嫌われる蜂
自然界花を求めて生きる蜂彼らとて人を刺したくないはず
秋深き畑野の土には小菊咲き牡丹の茎には春の芽光る
76
作 品 三
秋草は種が成るから早く抜けそれが出来ずにこぼれて枯れる
黄落の降りて積もれる黄金道一人歩きて靴音楽しむ
退院後一ヶ月となる夫はあれこれ自宅の不備を指摘す
リハビリを勧めてみるが意欲なき夫が孫のため銀行へ行く
空からの天使の梯子降りてくるそっと見上げる草取りの午後
下部 東京 松 本 英 夫
身延線の列車少なくゆとりあるプランを立てて駅弁を買ふ
整理券取り忘れてもとがめなしワンマン電車は身延線を行く
昼間には訪ふ人もなく時止まり枯れ葉落ち行く下部の湯郷
四名の太鼓の桴のピタリ合ひ息張り詰める下部のホテル
山の端にオリオン星座のあらはれて下部にも木枯し一号近し
無人駅食ひはぐれると案じ来て巡り合へたる割烹ランチ
にこにこと道を教へる老夫婦ぬくもり胸に碑林公園へ
王義之の書をうつす碑や妻の目に若き日浮かぶ碑林公園
身延線のダイヤを拾ふ旅にして帰路の「あずさ」に野の香りせり
埼玉 横 田 晴 美
幼子がネオンもないと呟いた駅舎の周りはバス停並ぶ
茶畑で拾い集めた白花をそっと抱えて園児ら帰る
師の君が刻した落款鮮やかに小さく打たれわが歌締まる
師の君は無言のままに王義之の蘭亭序を抱く特攻の兵
☆
77
雪被り雲海の上に浮かぶ富士親子で眺める機上風景
海越えて遠き沖縄首里の城朝日に映えて朱色鮮やか
琉球の踊り手の舞う裳裾揺れ三線響く首里王城に
長崎 野 口 千寿子
歳晩にバス待ち時間本を手に少女は話す「思考の整理学」
曾孫は公孫樹の落葉拾い来て地蔵の膝にのせ手を合わす
車窓より軍艦見ゆる佐世保港しぐれくるなか吾は目を閉づ
愛知 児 玉 孝 子
風なきに表をみせて裏をみせ寺庭に散る桜もみじは
古木なる高き銀杏は真宗の本廟修復成るを飾りぬ
ひつじ だ
澄む空に薄紫の花映ゆる皇帝ダリアは今年も高く
穭 田の黄金に広がるを見つつゆく小さき稲穂も少し実りて
体調が悪いと起きて来ぬ夫は抗生物質の点滴を受く
トランプ氏の旋風おこるアメリカに情報僅かも穏やかならず
広島 藤 田 夏 見
安静を命じられいたる身重の娘身二つとなり息つく思いす
ようやくに身二つとなり婆の役重荷ひとつを今宵おろせり
友垣に従弟を見せんと連れ来れば息詰め見つむ少年たちは
襁褓換え生れて六日の従弟抱き少女はしばしじっと見ている
八人も九人も一緒飯炊きは誰れも朗らか夕餉の時は
☆
☆
☆
78
作 品 三
七日居て四百キロを帰り行く二人の父となりたる婿は
埼玉 きすぎ りくお
風疾き日七十三歳迎ふるに人と諍ひ祝ぐに祝げざり
夜遊びも酒も煙草も賭け事も野球もゴルフも知らず歌詠む
参道の葛のトンネル潜りゆく七草名乗る長瀞の寺
荒木米子氏御逝去を悼みて 東京 佐久間 淑 江
友逝きて共に学びし若き頃想い出しつつ夕月仰ぐ
図書室で互いにノートを見せ合いて学びし友の瞳今も忘れず
風邪熱にベッドに臥して行けざりし告別式に手を合わせいる
東京 大 沢 幸 子
いつの間に戻る静けさ朝の鳥人の気配に飛び去れるらし
雨上がり朝日出でくる日曜日子の素振りするバットの音す
朝四時に響くはいつものカラスなり仄暗き空鳴き渡り行く
いつもとは違う鳥の声名は何と問うても鳴いて分からぬままよ
連なりて横断してる雀たち列乱れつつ無事渡りきる
南天は難を転じる縁起物見つつだんだん心晴れくる
埼玉 須 藤 紀 子
年毎に祭の菊を持ち行きし母が居らねば今年は買わず
この秋は虫の鳴く音を聞かざりき八月に母を見送りて後
母死にて駆け付け来たる弟は窓辺に立ちてただ黙し居り
☆
☆
☆
79
ご苦労様と言葉交わして弟と介護の日々の終止符とする
雪晴れの陽に暖まる犬と居て木蓮の葉の散るを見ている
三重 松 居 光 子
日々繰りて頁の擦れたる家計簿に年賀葉書の代金記す
来年の家計簿迷はず贖ひぬ四十年来なじみし物を
遠き日の炬燵なつかし子らと在りてゲームに興じ賑はひし頃
華やかなクリスマスソングを聞きながら孫に車の玩具選りをり
イブの夜はサンタクロースに手紙書きふたりの子らは眠りにつきし
幼き字に「サンタさんありがとう」と書かれたる手紙は今もわが宝物
東京 中 島 千加子
煮込むほど夕焼けのいろに近づきて南瓜のシチューは甘さ増しゆく
ふむふむと味見楽しみ仕上げたりとろりと甘き南瓜のシチュー
独り居の大鍋シチューしばらくは吾が帰り待つ甘みを増して
何もかもクリスマスになる散歩するチワワはサンタの赤き服着て
何歳になつても欲しいクリスマス・ブーツ見てゐるだけでときめく
宣教師がくれたるチョコの独特の異国の甘さ口に残りぬ
降誕節にはCDの讃美歌と合唱しつつ夕食つくる
讃美歌のリズムに合はせ皿洗ふ時折スプーンを指揮棒にして
夢想なら何にでもなれる指揮者にもダンサー薔薇の花にもなれる
夢想から覚めれば自由と孤独とのマーブル模様のめまひに落ちる
80
汗を流しぬ
酒向 陸江 ☆
一碗を作らむと土捏ねゆけば冷たき土のかす
圏イベント 山口 嵩
長雨のようやく上がり秋の陽をあびて高尾に
の声聴こゆ 正田フミヱ ☆
風評を未だ引きずる温泉地女将ら集ひて都市
無きこの無人駅 三村芙美代 ☆
実りたる青きみかんに雨がふる歌集開けば師
にもいろいろありぬ 大川 澄枝 ☆
車椅子の人を見かけぬこの町のエレベーター
戴と来る 小川 照子
ゴロゴロとキッチンの隅に置かれいる梨の顔
には止りて待ちぬ 青木 初子
八十歳の運転免許更新し友は友を乗せ花を頂
に子は猫抱くといふ 高橋 説子
スピードを落とさぬ人と自転車の揺れ来る人
気ままさが寂しさに寄りきられると猫カフェ
作 品 一 森藤 ふみ
鳴き声 佐藤 初雄 ☆
足場立ち荒れたる庭のまん中に深紅のばらが
山の夕焼け 関口みよ子 ☆
朝の戸を開けたる庭の暗がりに初鈴虫の透る
老いの食事は 金野 孝子
病みこもるわれに麗し写メールの海の朝焼け
入る涙堪えて 和田 昌三 ☆
大まかに糸蒟蒻をザクザクと切りなほしする
中秋の月 樗木 紀子 ☆
紀伊国屋ホールに「郡上の立百姓」仲間と見
となる 西谷 純子
提灯と高層マンションの明りの上夜空に高く
絵となりて 本郷 歌子 ☆
谷間に重機の音だけ響きをりこの深谷は水底
処に 立谷 正男
秋の日の落ち行く先へ蝙蝠の二つ三つ飛ぶ影
者なく 吉田佐好子 ☆
さるすべり
百日紅学校終えて集ひたる広場の友の行方何
曇天にダリアがパッと花開くその紅いに敵う
作 品 二 大久保修司
の香り 永光 德子 ☆
くつくぼうし 川上美智子 ☆
秋晴れに古本市は賑わいて並ぶテントは昭和
ぎしばし 木村 宏
輪唱のように弾んで鳴きしきる林に群れるつ
風ほほをなで行く 中山 綾華 ☆
庭に咲く赤く小さき花の名を図鑑に探す午過
呼吸する 山本 述子
風になびくすすきも見えてさわやかな十月の
わだつ 乾 義江 ☆
ゆふぐれに金木犀の香りたつ小路にゆるり深
と茹であがりたり 卯嶋 貴子 ☆
一面に草茫々のひとところ大待宵草の黄花き
餌に群れ 山本 三男 ☆
黄の花を大きく咲かすおくらの実はあおあお
洗濯物干す 鈴木やよい
これ程の多くのアリが土の中潜み居たるか今
と疲る 小久保美津子
雨のしづく竿に残れど待ちきれず耀く朝日に
舞扇翳す角度を直されるけふは三度目ほとほ
作 品 三 天野 克彦
十二月号 十首選
すかに温む 大塚 亮子
丈高き皇帝ダリアは台風に靡くことなく一気
一輪開く 伊澤 直子 ☆
くれない
に折れる 吉田 綾子 ☆
十二月号 十首選
81
詩歌の紹介 たちやまさお詩歌集
『 故 郷 の 道 』 よ り 立谷 正男
「子鹿のバンビ」
子鹿のバンビは やさしいな
池に氷が はるころは
とんすけうさぎと スケートよ
子鹿のバンビは 元気だね
ちらちら雪が 降りだして
細いあんよで かけだせば
野原のちょうちょも こんにちは
子鹿のバンビは くり毛色
せなかに白い てんてんよ
森のこやぶで 生まれたと
みみずくおじさん 言ってたよ
お花がにおう 春の朝
子鹿のバンビは かわいいな
34
弱虫いじめ しないもの
今に大きく なったなら
すてきな僕らの 王様だ
私は童謡が好きだ、いつまでも幼いままだ。
何年かぶりにコーラスに加わり、唱歌「ふる
「ピアノ」
嬢ちゃん嬢ちゃん
もっとピアノをひいとくれ
あやめのおばさんきいている
白秋等美しい童謡を残してくれたことにつく
童謡を口遊むと回顧の思いに胸が疼く。雨情、
かえるのおじさんうたいだす
もっとピアノをひいとくれ
嬢ちゃん嬢ちゃん
大きなお耳できいている
づく頭が下がる。昔、音楽の時間、先生に言
お昼寝終えてうたいだす
さ と 」 を 歌 っ た。 涙 が 滲 ん で き た。 こ の 頃、
われてみんなの前で独唱した思い出が消えな
間などより童謡の時間を増やして欲しい。子
に立つ童謡を歌い継いで貰いたい。英語の時
今、音楽の教科書はどんな歌を選んでいる
のだろうか。日本古来のわらべ唄やその伝統
セージだ。
の「弱虫いじめしないもの」も素晴らしいメッ
さぎと生き生きした交流を描き美しい。最後
と思う。この歌、みみずく、ちょうちょ、う
薔薇のお花にひとやすみ
蝶ちょの姉さんひとやすみ
もっとピアノをひいとくれ
嬢ちゃん嬢ちゃん
みんな来いよとおどりだす
雀の兄さんおどりだす
もっとピアノをひいとくれ
嬢ちゃん嬢ちゃん
い。その時の歌がこの子鹿のバンビであった
供たちが声を合わせて歌ってくれれば。
福島の原発避難の子がいじめられるという。
この子供達が「ふるさと」を歌う時は私の何
倍も涙を流すだろう。
82
歌誌「抜錨」を読む⑼
者自身関心の深い一連ではなからうか。
昭和十二年この一連を発表した茂吉は
昭和十年五月在原元方の歌に一種の憐
憫 を 覺 え た の も 故 な い 亊 で は な い。 即
ち 茂 吉 の は 憐 憫 で あ つ て「 象 徴 象 徴 と
特集号の様相を呈している。
うに六月号掲載出来なかった文も含めて散文
前回申し述べた通り、抜錨七月号において
は六月号の屋代の編輯後記でも触れられたよ
雨 」 か ら 来 て い る。 此 歌 は「 寒 雲 」 の
るおもひにて音の聞こゆるあけがたの
合 餘 情 と は「 さ だ か な ら ぬ 希 望 に 似 た
れ は 茂 吉 か ら の 餘 情 で あ つ た。 私 の 場
ろ が あ る な と 思 つ た の で あ つ た が、 そ
私も元方の歌を読みつつ何かいいとこ
る が、」 以 上 同 書 一 二 頁 の 抜 書 で あ る。
る時雨かな』の誤記 に
) 続けたところ
に新味があるやうに僕も感ずるのであ
が 借 物 の や う に 目 立 つ て し ま ふ。 因 み
首 の 中 の 現 実 的 な「 ご と く ふ る 」 の み
の 歌 風 の 氣 分 的 な も の が 鼻 に つ き、 一
な」に音楽的 美な技巧はあるが、當時
切つて、纖細にと心掛け「や」
「けむ」
「か
「 二・三 句 」「 四・五 句 」 と 一 首 を 三 句 に
二首を比較するに、元方の歌は「一句」
いたに過ぎない。」と言つてゐる。いま
ま 象 徴 の こ と に 触 れ た か ら、 こ こ に 書
成 し て ゐ な い の で あ る が、 言 が た ま た
七月号(二巻七号)概略 2 中 村 哲 也
狙つたのはどうも僕にはおもしろくな
その中でも特に独創的な内容の文は木島茂
中 の「 涓 滴 」 に あ る。 私 は、 寒 雲 は 茂
に 茂 吉 に は「 か な 」 を 結 句 に 生 か し た
い。 新 勅 撰 集 の 元 方 の 歌 は ち つ と も 賛
夫の作歌覺書 三及四 と思う。
(
)
三 は
) 抜錨六月号に掲載
本来、作歌覺書 (
予定であったのであろう。それを何らかの事
吉の作歌史に於けるひとつの髙峯と思
のぞみ
情で掲載を落としてしまった。故に七月号で
ふ が、 そ の 目 次 の 百 二 十 九 の 題 に ひ と
三 と 四 の同時掲載になったと思われる。
(
)
(
)
三
( の
) 副題は『「寒雲」の愛誦歌』
歌 が 必 ず い く つ か あ る 筈 だ が、 寒 雲 に
作歌覺書
である。
は「 浅 草 の み 寺 を こ め て 一 目 な る 平 ら
遠 い 距 離 を 感 ず る。 さ て 茂 吉 の 雨 の 歌
たひ
つ を 選 へ ば「 涓 滴 」 で あ つ て、 そ の 一
なる市街かなと見おろす」の一首のみ
に は「 ご と く 」 の 語 は な い。 け れ ど も
ひと め
連十六首は寒雲の代表作と思つてゐる。
つ い で に 此 題 は、 寒 雲 の 他 の 題 に 比 す
「 似 た る お も ひ に て 」 は「 ご と く 」 よ
マ
右の歌はその十六首の第一番目の歌で
あ る。 如 何 に も 写 実 的 で 元 方 の 歌 に は
と象徴的で題自体が一つの作品とも言
マ
家を求め空しく東京から帰つた妹は茂吉
「 涓 滴 」 の 題 の 最 も 切 実 な 一 首 で あ る。
「 新 勅 撰 集 の 在 原 元 方 の 歌 に、『 わ び
ことや神無月にはなりにけむなみだの
へ る。 こ の 様 な 題 の 選 び 方 を 見 て も 作
し がい
の「短歌一家言」を土産に買って来た。
ごくふる時雨かな』 注
( ・『 わ び 人 や 神
無月とはなりにけむなみだのごとくふ
83
さしこよひの月夜あきらけくこそ」涓
ゐ る。 萬 葉 の「 渡 津 海 の 豊 旗 雲 に 入 日
少なくとも破調に近い重量感を持つて
異 な 重 量 感 を 放 出 す る。 極 端 に 言 へ ば
から力が籠るから一句は七音にして特
構 成 で、 最 後 の 二 音 の 小 數 に は お の づ
で あ る ば か り で は な く、 五 音 と 二 音 の
を 以 て 救 つ て ゐ る。 こ の 結 句 は 名 詞 止
あるが、その技法には「あけがたの雨」
頭が重く一首の安定感を欠くおそれが
と 奥 行 を 持 た せ て ゐ る。 初 句 の 破 調 は
の で は な い。 こ の 破 調 が こ の 句 に 重 味
ならぬ希望」とは簡単に言ひ切れるも
「雨」に止め隙がない。初句も「さだか
句 を 感 覺 的 に「 音 」 か ら 起 し て 名 詞 の
点 だ。 一 首 を「 に て 」 で 小 休 止 し て 下
直ちに模倣したい所で容易になし得ぬ
る。 特 に「 に て 」 に 到 つ て は、 吾 々 の
象徴象徴と狙つた元方の歌の遠く及ぶ
流に言へばこれは「写生の歌」であつて、
る 場 合 の 私 を も 擁 護 し て く れ る。 茂 吉
で は な い か。 此 の 歌 の 象 徴 性 は 如 何 な
説に比し如何に遜色なきかを教へるの
感 動 を 與 へ る と い ふ 亊 は、 短 歌 が 私 小
三十一文字が一人の人間にこれだけの
に 希 望 を 持 ち、 作 歌 に も 安 心 を 得 た。
後日この雨の歌を読むに及んで生活
の 時 の 最 後 の 歌 が 雨 の 歌 で あ つ た が、
は 遂 に 一 時 作 歌 を や め て し ま つ た。 そ
作つてゐて自信がなくなり昭和九年に
あ る。 私 は 病 身 の 頃 虚 無 的 な 歌 ば か り
こよなくいとしくなつて来るばかりで
が ひ と つ も な い。 た だ 自 分 の い の ち が
あ る が、 そ こ に は ニ ヒ リ チ ッ ク な も の
る な ら ば、 何 か は か な く、 悲 し い の で
以 上 自 己 流 に 分 析 しマてマ来 て、 い ま 心
をしづめ茂吉の雨の二首の内容に対す
一」の音感で破調感がある。
留学より帰国直前に届いた義父の病院であ
る青山脳病院の全焼。その後の病院の再建と
この辺りの事情は、岡井隆著『今から読む
斎藤茂吉』(砂子屋書房刊)に詳しい。
の第十二歌集の発行である。
第三歌集『つゆじも』であろうが、いきなり
第二歌集『あらたま』の発行から実に二十
年目の歌集発行になる。時系列で言えば本来
(五十七歳)までの歌の収録とあった。
昭和十二年(五十五歳)から昭和十四年十月
ホームページの歌集解題で解説を見てみると
首 収 載 の 歌 集 で あ る。 な お 斎 藤 茂 吉 記 念 館
四百五十六頁定価三円。一頁三首組千百十五
日 古 今 書 院 発 行。 四 六 判 上 製 カ バ ー 装 箱 入
れ て い る。 そ れ に よ れ ば 昭 和 十 五 年 三 月 一
出版当時の歌集及び箱の写真及び詳細が書か
新聞社文庫版の歌集寒雲斎藤茂吉のカバーに
長々と抜粋した。歌集『寒雲』は言うまで
も無く、斎藤茂吉の第十二歌集である。短歌
である。 日頃勤務先の机の中に入れてゐた想出
焼かれた時も寒雲一冊のみ残つたのは、
滴 三 首 目「 極 ま り は 一 つ に な り ぬ こ の
べ く も な い。 こ こ を、 吾 々 は 學 ば ね ば
経営。また「アララギ」の中心人物島木赤彦
破調で、結句は「四・三」よりも「四・二・
吾を死骸とおもはば安らけくこそ」の
な ら な い。 こ の 一 首 を 私 は 何 千 回 暗 誦
の死により「アララギ」の代表として作歌し、
り 一 歩 進 ん だ 観 入 で あ り、 技 法 で も あ
結 句 に 通 ふ も の で あ る。 ま た 涓 滴 に は
し て 來 た か 数 へ る こ と が 出 来 な い。 こ
はる ひ がん
ちまた
と
きは
「春彼岸の寒き一日をとほく行く者のご
れ は 私 の 愛 誦 歌 で あ る。 大 森 で 住 居 を
し がひ
と く に 衢 を 徒 歩 す 」 の 一 首 が あ り「 ご
ほ
と く 」 の 語 も 見 え る が、 此 歌 も 初 句 は
84
賞法として岡井は
ようだ。またそれまでの茂吉短歌の一般的鑑
集「寒雲」の刊行に到ったというのが実情の
めて困難であった。故にいきなりの第十二歌
というような事情で時系列順の歌集刊行が極
ら再構成したものであつた。
歴 』 の 二 歌 集 は、 の ち に 手 帳 や 日 記 か
し、作れなかつたのである。『遠遊』『遍
直後まではほとんど歌を作らなかつた
の大正十二年から大正十四年一月帰国
一
( 九四六年 で
) あつた。茂吉は自分で
も 書 い て ゐ る や う に、 ヨ ー ロ ッ パ 留 学
出版に到つては敗戦後の昭和二十一年
た歌が多く、編集は昭和十六年であり、
長崎時代の歌を含む『つゆじも』は、
ずつと後になってから手帳から起こし
余裕が生じたという事情でもあり。その上で
が形になった時点で、ようやく歌集をまとめる
歌 論 を 書 き、 ま た 散 文 も 書 き、『 柿 本 人 麿 』
このような中での待望の歌集『寒雲』の刊
行である。短歌界の熱狂と歓喜が見て取れよ
と述べている。
つた。
た が、 あ り が た い 存 在 と し て そ れ は あ
ずゐ分と抜けてゐるずさんなのもあつ
からの切り抜きの精密なものもあれば、
読 み に く い の も あ り、 ま た、 新 聞 雑 誌
い ろ の 人 の 筆 跡 の 写 本 で あ つ た か ら、
い ふ タ イ ト ル の も の が 多 か つ た。 い ろ
でも写本を作つた。『あらたま以後』と
手 の 写 本 を い く つ か 借 り う け て、 自 分
づ父や父周辺のアララギ歌人からこの
た テ ィ ー ン エ イ ジ の 少 年 だ つ た が、 ま
た し は、 戦 後 に な つ て 歌 を 作 り は じ め
ご く あ た り 前 の 風 習 だ つ た や う だ。 わ
写 本 歌 集 を 作 つ て ゐ た。 こ れ は、 当 時
い の で、 仕 方 な く、 雑 誌 等 か ら 写 し て
集 を 読 み た が つ た。 し か し 歌 集 は 出 な
文 名 は さ ら に 高 ま つ た か ら、 皆 早 く 歌
に応じて、さかんに歌を作り、文を書き、
た 茂 吉 は、 早 速 ジ ャ ー ナ リ ズ ム の 求 め
大正十二年にヨーロッパから帰つて来
歌は一句から五句まで連続して切れる
す る の は 即 ち 現 実 を 見 る こ と で あ る。
希望に似たるおもひ」は作者の解釈で
あけがたの雨」だけで、「さだかならぬ
い る の で あ る。 実 質 は「 音 の 聞 こ ゆ る
表現を得たときの作者の満足を伝えて
も の で あ る 」 と い っ て い る の は、 こ の
い ふ 感 じ を 得 た が、 歌 に 出 来 ず に ゐ た
いい。「作歌四十年」で「これは屢かう
望に似たるおもひ」といったのが実に
な ご む よ う な 雨 音 を「 さ だ か な ら ぬ 希
い る。 一 雨 ご と に 暖 か に な る 頃 の 心 の
あ け が た の 雨 の 音 を、 な に か 漠 然 と
した希望のような気持で寝床で聞いて
としたい。
波新書)に佐太郎の解説があるので鑑賞の助
の聞こゆるあけがたの雨
であるが、佐藤佐太郎著『茂吉秀歌』下巻(岩
さだかならぬ希望に似たるおもひにて音
その
と こ ろ が な い。 こ う い う 形 態 は、 ど う
留めて、鑑賞する必要があるように思う。
見い出した己の愛誦歌である。その事を心に
くの短歌作者と同じように貪り読み、そして
あ る。 し か し、 詩 に お い て 現 実 を 解 釈
のぞみ
ことを知つてゐる。『赤光』『あらたま』
う。
( た し た ち、 と い ふ べ き
わたしは わ
で 世 に 知 ら れ た 茂 吉 は、 多 く の 人 に よ
この短歌界全体の高揚の中で木島が他の多
か 、)茂吉ファンが指をくはへて、茂吉
の歌集の出版を待ってゐたのではない
つ て そ の あ と の 歌 集 出 版 が 待 た れ た。
85
か す る と 調 子 が た る み が ち だ が、 こ の
歌 は 息 長 く い っ て、 し か も た る ん だ と
ママ
ころがない。「さだかならぬ」とか「希
望に似たるおもい」とか具象性のない
言 葉 だ が、 そ れ で い て こ れ も 見 た と い
う 実 質 の あ る 言 葉 で あ る。 い う べ き こ
とをいいおおせたという安らかな形態
の一首である。
と、やはり口ずさむに適する歌である事が窺
えよう。
各人「好きな歌」と問われれば数首、人に
よってはもっと沢山の歌が浮かんでこよう
が、いざあなたの「愛誦歌」はと問われれば、
初心者の私などは躊躇しそうだ。
( 『「
) 寒雲」の愛誦
木島茂夫の作歌覺書 三
歌』は無論、当時の抜錨短歌會の初心者向け
に発せられた作歌覚書であるが、現在の我々
も学ぶべきものがあるようだ。
それは短歌総合誌においても「私の愛誦歌」
が掲載され、その理由や思い入れなどの文章
掲載を時折り目にするが、日常の作歌活動の
他にも「私の愛誦歌」を探し、または増やし
)
てゆく作業も作歌上達の途上では必要である
というメッセージのように思われる。
(く
続
◇今月の画像 鶴岡八幡宮と共に鎌倉を代表
する名所が高徳院の大仏。鎌倉
の仏像では唯一の国宝。鎌倉幕
府・第4代執権・北条経時の時
代、 木 造 の 大 仏 が 開 眼 し た が、
程 な く 暴 風 雨 の 為 に 倒 壊。 後
に 1 2 5 2 年、 新 た に 金 剛 の
大 仏 が 造 営 さ れ 始 め た。 高 さ
1 1・4 メ ー ト ル、 重 量 1 2 1
トン。宋から輸入された中国銭
が原料で青銅製。これを覆う大
仏殿は、その百年後の台風、更
には大津波で押し流され〝露座〟
になってしまった。この本尊は
阿弥陀如来。 鎌倉や御仏なれど釈迦牟尼は
美男におはす夏木立かな 与謝野晶子
釈迦如来ではないが、与謝野
晶子なら少々の間違いは許容さ
れ歌碑がある。木島茂夫先生に
は昭和四十年「胎内憧憬」十首
がある。料金二十円にて今も胎
内に入れる。 (関口)
黄 蝶 過 ぎ ゆ く 小林 芳枝
納骨の日を思ひをり夏過ぎて彼岸すぎ
たる今日の暑さに
石造りの五輪の塔に注ぐ水しづかに滲
みて地輪を伝ふ
共に来る約束は叶はなかつたけど忘れ
ない川又さんの居る蓮光寺
出来立ての最期の歌集は消えのこる豊
洲運河の夕映のいろ
月号より転載)
供へたる花に近づくかとみえてただゆ
らゆらと黄蝶過ぎゆく
(うた新聞
11
86
編 集 室
ば記号に骨ならべ置く
二十八年四月二十五日発行。
テージョ川より吹き来る風に輝きて青く
輝けるベレンの街区アカシアの花咲き花
光れるリスボンの町
をして次の段階に生きておられる。無理をし
のこぼれ散る頃
いわゆる「佐太郎調」というものから抜け
出てひとつの形を作り出している。定年退職
て来た躰は病気も出勝ち。労り乍ら新しい生
町なのだろう。二首とも情景を美しく捉えて
リスボン、ベレンでの詠嘆である。作者が
親しみを持ち自らを生き生きとさせてくれる
いて旅情を湛えている。以下既刊六歌集抄の
活を維持し、前向きに志していかねばならな
『運河」選者、副代表の山谷氏の第四歌集。 い。そういう気持が感じられる歌集であった。
平成十九年からあの大震災に遭遇したまでの 「私は依然として、ただ先生ひとりだけの眼
中より印象の濃い作品を挙げた。
(東奥文庫叢書
意義深い事と察せられる。 )
りがおぼろにともる
対岸のグループホームの窓々に老のあか
んぽつんと坐る
日課ゆゑいでてくるらし庭芝に老人ぽつ
タリア語やポルトガル語の現代小説の翻訳を
行。短歌のみならず短編小説、エッセイ、イ
を終えた後は一人だけで個人誌を十年間発
所属したとある。そして職業人としての生活
として時期によって異なる結社誌や同人誌に
目の歌集である。あとがきには作品発表の場
に降る昼の雪 「カンティ」
低丘に連なりたてる裸木のこぬれおぼろ
る子の眠る墓 「夏の家族」
立ち並ぶ墓石にひかる雨粒を見つつ近寄
業は時に魔性を帯ぶ 「半島」
金利という透明酷薄な因子ありて我が生
みにでかける 「黄昏微唱」
夕暮れの水引草に立つ風を袂に入れて飲
り亡き父の声 「メヌエット」
欅木の並木を渡る夜の風のとよみに混じ
たらしき母の指ふれつ 「花信帖」
綾とりのあやのかそけく娘の指とそのあ
を畏れている」と長澤一作氏を偲んでいる。
間の三六〇首を収める。
長澤一作氏が独立して「運河」を創刊した
時に一緒に「歩道」を出られた。その長澤氏
もすでに故人である。
みどり児を見せあふ若き母らゐて診察前
の時間がはづむ
■村野幸紀歌集﹃変奏曲﹄
(以上担当 大山敏夫)
てながしひと日は
本集は新作八一首と既刊六歌集から選んだ
二三四首をもって編まれた村野幸紀氏の七番
引越の荷解きつつおそらくはひと世整理
するなど幅広い文芸活動をされている。平成
(以上担当 桜井美保子)
(現代短歌ホメロス叢書6 飯塚書店刊)
のつかぬいろいろ
のつかぬまで病む
経営に力つくしし一年に身はとりかへし
入院のための検査に配送の荷のごとくゐ
28
お住まいの地の「東奥日報社」創刊一二五
周年記念事業の、叢書の一つとしての刊行も
こうした言葉も純粋で心を打つ。
■山谷英雄歌集﹃寒流﹄
歌集 / 歌書
御礼
いまもなほ死者あらはれて判別のつかね
87
〈会員の皆様へ〉…お願い・お知らせ
◇新会員、購読会員のご紹介のお願い
◇冬雷短歌会文庫の新しい試みについて
既刊 で、現在 の『小川照子歌集』を進行中ですが、以後の刊
行分については本文組み方の改訂を致します。現行は今の主流であ
る一首を一行にて纏め、頁あたり五六首組みになっておりますが、
くす方向へと切り替えます。
数減は断じて行いたくありませんので、会員増加をはかり残部を無
ます。 〈編集室〉
れですと歌数は三五〇前後程度が適当です。左に体裁見本を貼付け
一首を二行に組むことでフォントも更なる大型化が可能です。小
さな文庫サイズなので、冬雷では一頁四首組みを基本とします。こ
今後は一首を二行に流して組みます。旧い歌集等では常識的なこの
先の冬雷大会でお話申し上げました通り、本年は「会員五十名増
加運動」の年と致したいと思います。
かつて「アララギ」の地位を不動のものとさせた島木赤彦は、部
数六百部からどんどん増やし二千部の大雑誌に成長させました。小
と思います。どうぞ皆様。目標は「たったの五十」です。
くまで「攻め」の会員、或は購読会員「五十名増加」を目指したい
り」の対応です。護りには長い眼で観て限度も無理も生じます。あ
員五十名増でさしあたっての残部ゼロとなるのですが、それは「護
維持会員になって下さる方も徐々に増加しております。維持会員
「一名増=残一部減」となりこれも非常に有難いことです。維持会
現状に歯止めもかかりません。
は単純に比較出来ませんが「増やそう」という姿勢を保たなければ
うなぎ上り、最盛期には五百名に迫りました。あの高度成長期と今
活用しバラマクというような指示をしておりました。結果会員数は
の部数を印刷し、広く宣伝の配布、寄贈、そして会員にも、余りを
誌創設者の木島茂夫も、会員少数の事実を認識しながらもほぼ十倍
現在も約五十部の残部が毎月発生しております。これ以上の発行部
体裁ですが、なかなか捨て難い「歌の味」が出ます。
025
創刊の時より頑張り通して来た発行部数の確保が難しくなり、三
年前に百部減の決定を下しましたが、その後も状況は好転せず、今
24
下は文庫見開きの「印刷用トンボ付きサム
ネイル版」です。
作品は大型の 12 ポイント活字です。実際
サイズは、文庫と言っても余白ゆったりの
体裁となります。これで歌集を作ってみた
い方はご相談下さい。
88
時間なので、行きは短歌関連の本
い。ぼうっとしていては勿体ない
発する磯子駅からの移動時間が長
はいつも上福岡駅前であるが、出
させていただいている。集合場所
▽毎月一回発行所での校正に参加
たのでご覧ください。
賞者決定までの過程をまとめまし
れていると思う。選考の資料と受
作の一連にも、その実力は発揮さ
が魅力である。本号の受賞後第一
ん。充分な力量と個性的な表現力
た。受賞されたのは吉田佐好子さ
委員会賞の発表と表彰が行われ
▽昨年秋の大会で第二十二回編集
後 記
編 集
だいて秋の一日をご一緒に楽しみ
たい。多くの方に会場に来ていた
会で今後の企画を話し合ってゆき
た貴重なご意見を基に、編集委員
一日にしたいと思っている。戴い
である」と仰っていたが有意義な
何時も「大会は年に一度のお祭り
が届いていて有難い。木島先生は
しい時期にも関わらず、毎日回答
お願いしたところ年末年始のお忙
皆様に大会に関するアンケートを
▽この度、五十六回大会について
である。
方は雰囲気を感じて戴ければ幸い
して戴き、ご都合のつかなかった
れた方は懐かしくあの日を思い返
事が詳しく載っている。ご出席さ
には昨年十月に行われた大会の記
ントは秋の大会であろう。今月号
ている結社があろうか。編集室も
えどどこに元旦から校正作業をし
冬雷という歌だ。歌壇ひろしと云
し手袋探して嵌めて
という一首がある。まさにこれぞ
元旦に校正届き先づ始む指無
▽『川又幸子歌集』の中に、
ず、スケジュールを空けている。
退して久しいが、その流れを変え
中を選んでいる。編集室も現役引
狙いから、年末年始の長い休暇の
たり時間を取ってやりたいという
集を組むのは、面倒な組版をゆっ
面倒である。毎年二月号に大会特
三枚重ねた組版となっていて結構
はレイヤーと云う透明フィルムを
が、前にも書いたが、この欄の頁
▽毎年このパターンの記事である
選にもなっている。
小泉桄代様 松野登喜子
▽寄附御礼
合うのが仲間である。(大山敏夫)
ぜひご寄稿を。必要に応じ励まし
募集する。寄贈等を受けた諸氏は
集『美しいもの捜し』の批評文を
▽二月十五日締切で、野村灑子歌
わらずタイトなスケジュールだ。
くデータを渡さねばならず、相変
印刷所も多忙なので、なるべく早
に担当集合の上での再校である。
三日に初校訂正。そして本日六日
▽本号も三十日に初校出し。正月
今年も充実した冬雷誌を皆様にお
事務局が上段掲載の作品に相応し
草欄下段の「私の選んだ一首」は
たのであった。多くの方の家庭を
便に託し自分の正月の準備に入っ
編集後記
を帰りはそれ以外のちょっとした たいと願っている。 (小林芳枝) 元旦からの校正作業は望んでいな
軽 い も の を 読 ん で リ フ レ ッ シ ュ。 ▽今月は大会の記事を集めた。詠 いが、みそかに組版完了、即宅急
届けするために頑張りたい。
続されて来た。心より感謝する。
犠牲にしての貢献の上に冬雷は継
(桜井美保子) いような文を選んでくれた。同時
▽冬雷の年間行事の中で最大イベ に会員総てが参加出来るような人
冬雷本部例会のご案内
2月 12 日( 第2日曜日 )。
第1研修室 午後1時~5時迄
*出席者の誌上掲載作品をすべて
批評致します。
「 豊洲シビックセンター8階 」です。
*会場は、ゆりかもめ「 豊洲 」駅前
頒 価 500 円
ホームページ http://www.tourai.jp 一、この会則は、平成二十七年十二月一日よ
〉
[email protected][email protected]
データ制作 冬 雷 編 集 室 印刷・製本 ㈱ ローヤル企画 発 行 所 冬 雷 短 歌 会
350-1142 川越市藤間 540-2-207
電話 049-247-1789 事 務 局 125-0063 葛飾区白鳥 4-15-9-409 振替 00140-8-92027
≲冬雷規定・掲載用≳
小林芳枝〈
大山敏夫〈
≲Eメールでの投稿案内≳
一、Eメールによる投稿は左記で対応する。
方は実際の締切日より早めに投函する。
て必ず同じ歌稿を二通、及び返信先を表
記した封筒に切手を貼り同封する。一週
間以内に戻すことに努めている。添削は
入会後五年程度を目処とする。
一、事情があって担当選者以外に歌稿を送る
名の下に☆印を記入する。 一、無料で添削に応じる。一通を返信用とし
原稿用紙はB5判二百字詰めタテ型を使
用し、何月号、所属作品欄を明記して各
作品欄担当選者宛に直送する。原稿用紙
が二枚以上になる時は右肩を綴じる。締
切りは十五日、発表は翌々月号。新会員、
再入会の方は「作品三欄」の所属とする。
担当選者は原則として左記。
作品一欄&作品三欄 担当 大山敏夫
作品二欄 担当 小林芳枝
一、表記は自由とするが、新仮名希望者は氏
り執行する。
一、本会は冬雷短歌会と称し昭和三十七年四
≲投稿規定≳
月一日創立した。(代表は大山敏夫)
一、事務局は「東京都葛飾区白鳥四の十五の
一、歌稿は月一回未発表十首まで投稿できる。
九の四〇九 小林方」に置き、責任者小
林芳枝とする。(事務局は副代表を兼務)
一、短歌を通して会員相互の親睦を深め、短
歌の道の向上をはかると共に地域社会の
文化の発展に寄与する事を目的とする。
一、会費を納入すれば誰でも会員になれる。
一、長年選者等を務め著しい功績のある会員
を名誉会員とする事がある。
一、会員は本会主催の諸会合に参加出来る。
一、月刊誌「冬雷」を発行する。会員は「冬雷」
に作品および文章を投稿できる。ただし
取捨は編集部一任とする「冬雷」の発行
所を「川越市藤間五四〇の二の二〇七」
とし、編集責任者を大山敏夫とする。
一、編集委員若干名を選出して、合議によっ
て「冬雷」の制作や会の運営に当る。
一、会費は月額(購読料を含む)次の通りと
し、六か月以上前納とする。ただし途中
退会された場合の会費は返金しない。
*会費は原則として振替にて納入する事。
A 普通会員(作品三欄所属) 千円
B 作品二欄所属会員 千二百円
C 作品一欄所属会員 千五百円
D 維持会員(二部購入分含む)二千円
E 購読会員 五百円
《選者住所》 大山敏夫 350-1142 川越市藤間 540-2-207 TEL 090-2565-2263
小林芳枝 125-0063 葛飾区白鳥 4-15-9-409 TEL 03-3604-3655
2017 年 2 月1日発行
編集発行人 大 山 敏 夫