米大統領就任会見以降、 日米金利差拡大の再開へ!

【2017年1月18日公開】
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★竹内式「金利解析」理論で為替を解く★
『米大統領就任会見以降、
日米金利差拡大の再開へ!』
執筆者:元HSBCチーフトレーダー
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チーフ為替ディーラー:
「年明けから大手機関投資家さんの動きは緩慢ですね」
顧客担当営業責任者:
「そりゃそうだよ、やはり 1 月 20 日(金)のトランプ(以下 T)次期
米大統領の就任・演説を待たないとどちらにも転ぶ展開があるからね」
チーフ為替ディーラー:
「慎重になるのも当然ですよね」
顧客担当営業責任者:
「ただ、T 氏となりを総合すると、期待値は高そうだよ」
上記は、ある銀行ディーリングルーム内での実際の会話だ。T 氏の就任前であることから、
機関投資家はやや様子見姿勢を貫いている。T 氏の就任を控えてはネガティブな論調も多い
が、本稿では複数の側面から、就任後のシナリオを検証してみた。
T 氏の電撃的な当選から早くも 2 カ月が経過し、閣僚の人選もほぼ完了し、全体像が見えて
きた。以下は通商政策を担う部署の総括だ。
(注)レバレッジド・バイアウトで、買収先企業を担保とした企業買収のこと
各種報道等より筆者作成
この 3 名の共通点は全て対中強硬派であるという点だ。この中で中枢となる国家通商会議
トップ、ナバロ氏は自著「Death by China」で「中国が世界を破滅に導いている」との持
論を展開している。
就任当日 TPP 離脱を既に宣言している T 氏率いる新政権は、貿易赤字の削減を公約してい
る。
「米国第一」を強調していることから、メインタスクは貿易相手国との 2 国間交渉に臨
み、有利な展開に持ち込もうという算段だ。
それでは拡大し続ける米国貿易赤字、なかでも対中貿易赤字はどれ程なのか、過去 30 年に
遡って検証してみた。
米国対中貿易赤字推移30年
4,000
3,500
筆者作成
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0
米対中貿易赤字(億ドル)
米対中輸出/輸入(億ドル)
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
米対中輸出(億ドル)
米対中輸入(億ドル)
米対中貿易赤字(億ドル)右軸
米商務省より筆者作成
中国の経済成長と比例するように対米輸出は増加の一途だ。直近 30 年ではリーマンショッ
ク直後の 2009 年が一時的に落ち込んだだけで、それ以外は全て前年の数値を上回って推移
している。
T 氏の発言は当選前後では、やや整合的でない部分も含まれるから一概には言えないが、就
任当日に財務長官に対し、中国を為替操作国に認定させるとの発言があった。本稿執筆時
点 2017 年 1 月 16 日(月)午前 9 時現在、この発言はウォール・ストリート・ジャーナル
紙のインタビューで週末に撤回された。ただ、為替操作国認定はくすぶり続ける。米財務
省の認定基準は以下の通りだ。
(注:2015 年基準)
、米財務省、米商務省より筆者作成
上記認定基準のなかで、中国に該当するのは①③だけだ。③も持続的ではなく、むしろ T
氏当選後の「トランプ・ラリー」下では人民元安を食い止めるために、巨額の人民元の買
い介入を実施している。その結果、中国人民銀行(中央銀行)の外貨準備は 2014 年比約 25%
の急減で現在約 3 兆ドル程度となっている。
ここで、T 氏の自伝「不動産王にビジネスを学ぶ」
(ちくま書房)の一節をご紹介したい。
「取引で一番望ましいのは優位に立って取引することだ。この優位性(とは相手が望むも
の)をもつことだ。出来れば相手がこれなしでは困るというものをもつことだ」
筆者は仮に今後、中国が為替操作国認定でも T 氏が実業家、ビジネスマンであることから、
自身(米国)が「優位」に立って交渉を進めるための極めて狡猾な誘導手段だと考えてい
る。そもそも米国の一人当たりの GDP は約 5.6 万ドル、実に中国の 7 倍である。中国から
の輸入品に 45%の報復関税をかけたところで、T 氏勝利を支持した中西部の白人労働者階級
には輸入物価の高騰をもたらし直撃となる。
さらに、大統領就任初日に為替操作国認定を指示していれば、中国を巨大生産地としてい
るナイキ、アップルといった株の急落を招いていただろう。特に前者がダウ構成銘柄、後
者もナスダック構成銘柄であり、株価全体の押し下げ要因になっていたのは明らかだ。
更に T 氏は 1 月 6 日(金)のツイートでは「略、MAKE AMERICA GREAT AGAIN、will go to D.C
on January 20th. It will be a GREAT SHOW!」とまで言っている。就任当日に株価の急落
を招くことが GREAT SHOW!の一環とは T 氏の本望だろうか。
ただ、今後を見通せば気掛かりな点もある。上述通商政策を担当する 3 閣僚は通商分野で
は実績のある猛者だ。1980 年以降、対米貿易黒字が拡大した日本はカラーテレビ、鉄鋼、
そして 90 年代には自動車が貿易摩擦の元凶となった。
昨年 12 月 20 日(月)公開の前回レポートでは、金利の上昇が見込める通貨は継続して上
昇が見込まれると結論付けた。米国では 1990 年代では前半、そして後半に中央銀行である
FRB は利上げを実施した。しかし貿易摩擦が激化した際には金利の上昇が通貨高に直結しな
い歴史も存在する。以下は 1990 年以降の「米ドル/円」と米国の公定歩合であるフェデラ
ルファンド金利の推移だ。
筆者作成
1993 年に就任したビル・クリントン大統領は、一向に減少に向かわない対日貿易赤字に具
体的な削減を数値目標で受け入れるように迫った。議論は平行線を辿り、着地点は 1994 年
2 月 14 日の細川首相・クリントン大統領の日米首脳会談に持ち越された。直前にヘッジフ
ァンド勢はここに政治決着を見込んで莫大な「米ドル買い、円売り」を直前までに仕込み
起死回生の勝負にでた。
結果はまさかの物別れとなり、帰結は一晩で 7 円超の急落となった。数日後の日経新聞 1
面には「読み違えた政治相場、ソロスファンド一晩で 10 億ドルの損失」とのセンセーショ
ナルな記事が蘇る。その後「米ドル/円」は 1995 年に 80 円割れを示現している。貿易摩擦
の終末は削減交渉がまとまらなければ、通貨間の強弱での調整になるという歴史を刻んで
しまった。
さて視点を変えて、米国の政策金利は本年度 3 回の利上げが見込まれている。大統領就任
後 100 日間はハネムーン期間であることから、政策金利の変更を見込むのはやや厳しいか
もしれない。すると有力なのは 6 月、CME Fed Watch でみれば織り込みは本稿執筆時点 1 月
16 日(月)時点で 69.9%であり、この辺が次回の利上げの目途となりそうだ。
http://www.cmegroup.com/trading/interest-rates/countdown-to-fomc.html
より筆者作成
こうした不透明要因はしばらく晴れることはないだろうが、来年以降、米金利上昇が複数
足元では、日米 10 年債金利差も「トランプ・ラリー」後の拡大は一服している。
日米10年債金利差と米ドル円の推移
119.00
2.5
117.00
115.00
2.3
113.00
111.00
2.1
109.00
107.00
1.9
105.00
103.00
1.7
101.00
99.00
6月13日
7月13日
8月13日
米ドル/円
9月13日
10月13日
11月13日 12月13日
1.5
1月13日
日米10年債金利差(%)
筆者作成
以上まとめると、貿易摩擦⇒報復関税の道を辿れば、貿易量の減少も招き、結果当該国の
GDP も減少する。米景気の拡大は今月で 91 カ月目に突入し、
「アメリカを再び偉大に!」を
スローガンに掲げる T 新米大統領が、直接株価の急落を招く政策をとるとも考えにくい。
仮にそうなったら軌道修正すればよい訳で、メインシナリオでは米金利上昇(日米金利差
拡大)が再開するまでは「米ドル/円」は 113-118 円、広めに 110-120 円程度で推移。上昇
が再び加速するのは、T 氏就任会見以降でリフレ策が好感され再び米金利上昇が始まる時、
または利上げが再開される年央以降と考えておきたい。
-------------------------------------------------------------------------------【執筆者:竹内典弘氏(元 HSBC チーフトレーダー)プロフィール】
明治大学法学部 1989 年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴
任。専門は G7 通貨及び金利のトレーディング。1999 年グローバル金融大手英 HSBC ホール
ディングス傘下 HSBC 香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を
務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。相場展望を
する際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情
にも精通している。2010 年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。
-------------------------------------------------------------------------------【本レポートの趣旨】
本レポートは竹内典弘氏より発行されているレポートであり、情報提供のみを目的として
おります。
本レポート中のコメントは独自の見解に基づいたものであり、竹内典弘氏、およびワイジ
ェイFX株式会社共にレポート中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明
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