Economic Indicators 定例経済指標レポート

Market Flash
トランプ介入はじまる
2017年1月18日(水)
第一生命経済研究所 経済調査部
主任エコノミスト 藤代 宏一
TEL 03-5221-4523
【海外経済指標他】
・英国のメイ首相は観測報道どおり、EU単一市場と関税同盟へのアクセスを放棄するという、いわゆるハ
ードブレグジットの意向を表明。リスボン条約第50条を17年3月に発動し、EU離脱の正式な手続きを開
始するとの指針を示した。演説ではEUとの自由貿易協定、非EU加盟国との新たな貿易協定締結、移民
流入管理の厳格化、立法権限の回復など12の項目が表明された。金融市場の反応はGBP買い戻しが目立った
意外に大きな動きはみられなかった。観測報道によって織り込みが進んでいたことが大きい。
・12月米NY連銀製造業景況指数は+6.5と市場予想(+8.5)に概ね一致。ISM換算では50.9へと12月か
ら2.4ptもの改善を記録。9ヶ月ぶりに50を回復した。内訳は出荷(+8.6→+7.3)、新規受注(+10.4→
+3.1)が軟化した一方、雇用(▲12.2→▲1.7)が改善。入荷遅延(▲7.8→▲2.5)、在庫(▲13.9→+
2.5)がそれぞれ指数押し上げに寄与。在庫の急増がやや気掛かりだが、それでもヘッドラインの改善傾向
は顕著。同地区の製造業の業況回復が継続しているとの見方に変わりはない。
60
ISM指数・連銀サーベイ
ISM
55
50
45
NY連銀指数
40
35
07
09
11
13
(備考)Thomson Reutersにより作成
15
17
【海外株式市場・外国為替相場・債券市場】
・前日の米国株市場は続落。トランプ次期大統領が共和党の検討している国境税の課税方式が「複雑すぎる」
としたほか、人民元の意図的な下落が一因とした上で「ドルが高過ぎる」との見解を示したことから、保
護主義的な動きが強まるとの見方が強まった(発言はWSJが13日に実施したインタビューを17日に報じたも
の)。相場を下押しした。また、決算発表が一巡した銀行は材料出尽くし感から売りが優勢。欧州株も軟
調。当初、売りに押された欧州株はメイ首相の演説を通過すると下落幅を縮小したものの、プラス圏回復
はならず。なお、英国株はGBPの大幅な上昇が嫌気されたこともあって1.5%下落。WTI原油は52.48㌦
(+0.11㌦)で引け。
・前日のG10 通貨はUSDの弱さが際立つ一方、GBPの強さが際立った。USDの弱さは上述したトランプ次期大
統領の発言が背景。GBPの強さはメイ首相の演説でサプライズがなかったことが背景。GBP/USDの上昇率は
3%に達した。他方、USD/JPYはUSDが全面安となるなかで1.4%の下落となり113を割れた。その他主要通
貨も総じて弱く、SEKの0.8%を例外に軒並み1%超の下落となった。新興国通貨も急反発、JPMエマージン
グ通貨インデックスは12月13日以来の高水準に回帰。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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・前日の米10年金利は2.325%(▲7.1bp)で引け。米債は連休明けのアジア時間から堅調に推移。メイ首相
の演説をサプライズなく通過すると一旦は売り優勢となったものの、米株が軟調に推移する下、米債は再
び買い優勢に転じた。欧州債市場(10年)は小動き。ドイツ(0.321%、▲0.2bp)、スペイン(1.392%、
▲3.7bp)、ポルトガル(3.844%、▲0.9bp)が金利低下となった反面、イタリア(1.915%、+0.3bp)が
小幅に金利上昇。周縁国加重平均の対独スプレッドはタイトニング。英国は1.309%(▲0.3bp)で引け。
【国内株式市場・アジアオセアニア経済指標・注目点】
・日本株はUSD/JPY下落を受けて安く寄り付いた後、下落幅縮小(11:00)。
<#ドル安志向 #米製造業指標
>
・17日の為替市場ではトランプ次期大統領および経済顧問のスカラムッチ氏の発言が材料視され、USDが全面
安。トランプ次期大統領が中国との貿易を巡る議論の中で「ドルが高過ぎる」としたほか、次期政権の経
済顧問であるスカラムッチ氏がダボス会議のパネルディスカッションでドル高進行の影響について警告し
たことが背景。ドルインデックスはここ数日こそ頭打ち状態となっているものの、大統領選通過後に著し
い上昇を遂げ14年ぶりの高水準で推移していたため、新政権はこうした動きを看過できなかったとみられ
る。こうした牽制発言はUSDの強さが続く限り繰り返されそうだが、現在は好調を維持している製造業関連
の指標が悪化した際には更なる警戒が必要だろう。一般論として製造業指標の悪化はその原因が為替で説
明されることが多い。
・ここで米製造業の指標に目を向けると、手元にある最新データは大統領選後のUSD上昇が完全に反映されて
いないこともあって好調なものが多い。ISM製造業景況指数が54.7と2年ぶり高水準にあるほか、PM
Iをはじめ各種サーベイは好調なものが目立つ。ハードデータでは製造業生産の下げ止まりが確認されて
いる。また、製造業に限定した指標ではないがNFIB中小企業楽観指数が驚くほどの改善を示したことも記
憶に新しい。
・問題はこうした改善傾向が反転した局面だろう。特に製造業の業況悪化を示すデータが相次ぐ局面では警
戒トーンを強める必要。中国やメキシコを念頭に置き、保護主義的な姿勢を強めると共にUSD安志向を明確
に打ち出す可能性がある。
160
ISM製造業景況指数
ドルインデックス(DXY)
65
60
140
55
120
50
45
100
40
80
35
30
60
70
75
80
85
90
95
00
05
(備考)Thomson Reutersにより作成 四半期ベース
(%)
10
00
15
02
04
06
08
10
12
14
16
(備考)Thomson Reutersにより作成
米 鉱工業生産
110
NFIB中小企業楽観指数
105
5
100
95
0
90
-5
12
13
14
15
(備考)Thomson Reutersにより作成 3ヶ月前比年率
16
85
17
10
11
12
13
14
15
16
(備考)Thomson Reutersにより作成 太線:3ヶ月平均
17
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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