餅の窒息事故がなぜ高齢者に起きやすいのか? −専門家の知見から −

別紙1
餅の窒息事故がなぜ高齢者に起き やすいのか?
−専門家の知見から −
昭和大学名誉教授
向井美惠先生に、 餅の特性と 高齢者の口内や喉等の特
徴について伺いまし た。
1 . 餅の特性
( 1 ) 口の中に入っ てから の餅の温度変化が大き く 作用し ます。
①硬さ
餅は、 表面温度が体温に近い 4 0 度以下に低下する と 、 硬さ が増す
特質があり ます。 つまり 、 調理後の熱い餅も 、 口に入れる と 体温に近
い温度と なり 、 硬く なり 始めます。 特に、 冬は餅を 食べる と き の室内
の温度が 2 0 度程度で、 食べて口から 喉に入っ ていく 過程で、 体内に
入る 息の温度が低いために餅の温度は体温よ り も 更に低い温度( 3 0
度から 3 5 度程度) と なっ て、 一層硬く なり やすく なり ます。
②く っ つき やすさ
餅の温度が体温やそれ以下になる と 、 く っ つき やすさ ( 付着性) も
増し ます。 する と 、 口腔内で餅同士がく っ つき やすく なっ たり 、 喉の
粘膜に張り 付き やすく なり 、 さ ら に、 く っ つく と 剥がれにく く なり ま
す。 そのため、 場合によ っ ては気道入り 口に餅がく っ ついて剥がれ
ず、 気道が塞がれて窒息につながる こ と があり ます。
( 2 ) 餅を 食べる と き 、 唾液が重要です。
口の中でかむこ と は食品を 食べやすい大き さ にし ますが、 餅の場合に
は、 よ く かむこ と で餅に唾液を 十分混ぜる こ と ができ 、 飲み込みやすく
なる と と も に、 喉に餅が張り 付く こ と も 防ぎます。 朝は唾液の出が悪い
ので、 食事の前に、 口の準備体操と なる よ う 、 話を し たり する こ と も よ
いこ と です。 また、 いき なり 餅を 食べる のではなく 、 スープ等の滑ら か
なも ので喉を 潤し てから 食べる こ と が、 窒息を 防ぐ こ と に有効です。
2 . 高齢になる と 起こ る 口内や喉の変化
高齢になる と 、 口内や喉の機能等に以下のよ う な変化が生じ ます。 こ
のこ と が、 食べたり 飲み込んだり する と き に大き な影響を 与えます。
・ 奥歯がなく なっ たり 入れ歯になる こ と で、 顎を 安定さ せる 力が低下
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し 、 そし ゃ く 力や飲み込む力が低下し ます。
・ そし ゃ く 力の低下だけでなく 、 唾液の分泌自体も 少なく なる ため、
食べた物がスムーズに飲み込みにく く なり ます。
・ 口内の感覚、 舌の圧力等の低下によ り 、 食べ物を 飲み込んでも 、 喉
に残る 分が生じ やすく なり ます。 喉に食べ物が残っ たまま息を 吸い
込むと 、 食べ物が気道に詰まる こ と があり ます。
・ 食べ物が喉を 通っ ている と き には喉頭が引き 上げら れて気道を 塞ぎ
ますが、 年齢を 重ねる と 喉頭が下がっ てし まう ため、 食べ物が喉を
通る と き に喉頭が上がり き ら ず、 気道を し っ かり 塞ぎき れなく な
り 、 食べ物が気道に入り 込みやすく なり ます。
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