第 2 章 複素インピーダンス インピーダンス 正弦波信号の定常状態を扱う場合,複素表示を用いれば回路方程式(微分方程式)は代数方程 式になる.つまり,抵抗,コイル,コンデンサなどの素子はすべて V = ZI (2.1) i(t) I v(t) という形式で書ける.(V, I は電圧,電流の複素表示)この Z(複素数) Z V をインピーダンスと呼ぶ. 次に各素子についてインピーダンス Z がどのように書けるか考える. [ 抵抗素子 ] i(t ) = 2 | I | sin w t つまり, I =| I | ∠0˚ のとき, v(t ) = Ri(t ) = R 2 | I | sin w t (2.2) i(t) となり,電流と電圧に位相差がないので, V =| V | ∠0˚ I v(t) R V (2.3) という形となることが分かる. つまり,複素表示で V = RI (2.4) と書ける.複素数に定数をかけても偏角(位相)は変わらない. [ インダクタンス素子 ] i(t ) = 2 | I | sin w t ( I =| I | ∠0˚ )のとき, v(t ) = L di(t ) dt = w L 2 | I | cos w t = w L 2 | I | sin(w t + 90˚) となり,電圧は電流に比べ 90˚ 位相が進んでいる.このため, V =| V | ∠90˚= j | V | (2.6) という形になる. | V |= w L | I | だから,複素表示で, - 16 - (2.5) i(t) I v(t) V L V = jw LI (2.7) と書ける.I は実数( I =| I | ∠0˚ )だったが,一般の複素数でも成立する.ある複素数に j をかけ ることは位相が 90˚ 進むことに相当.(後でやる.)(2.7) を図で書くと, v(t) Im 2 ωL|I| ωL|I| 90˚ ωt V i(t) 0 2 |I| Re |I| I [ キャパシタンス素子 ] i(t ) = 2 | I | sin w t ( I =| I | ∠0˚ )のとき, v(t ) = i(t) 1 1 1 i(t )dt = − 2 | I | cos ω t = 2 | I | sin(ω t − 90˚) ∫ ωC ωC C (2.8) I v(t) C V となり,電圧は電流に比べ 90˚ 位相が遅れている.このため, V =| V | ∠ − 90˚= − j | V | (2.9) という形になる.| V |= | I | w C だから,複素表示で, V = − jI wC = 1 jwC I (2.10) と書ける.これを図で書くと, v(t) Im 2 |I| ωC 90˚ 0 ωt V i(t) – 2 |I| - 17 - |I| ωC I |I| Re 結局,抵抗,コイル,コンデンサのインピーダンスは以下のように書ける. 抵抗 Z=R コイル(自己インダクタンス L) Z = jwL コンデンサ(キャパシタンス C) Z= 1 jwC ここで w は正弦波信号の角周波数 w = 2pf (例 1)自己インダクタンスが 1 [H:ヘンリー ] のコイルの 60 [Hz] におけるインピーダンスは? また 120 [Hz] では? Z = jwL = j2p 60 [1/s] 1 [H] = j377 [W] 120 [Hz] では同様の計算から j754 [W] となり,周波数を倍にするとインピーダンスの絶対値も倍 になる.(コイルは高い周波数で電流が流れにくい.高インピーダンス) ( 例 2) キャパシタンスが 1 [µF] のコンデンサの 1 [kHz] におけるインピーダンスは? 2 [kHz] では? Z= 1 jωC = 1 3 j2π 10 [1 / s] 10−6 [F] = − j159 [Ω] 2 [kHz] では同様の計算から –j79.6 [W] となり,周波数を倍にするとインピーダンスの絶対値は半 分になる.(コンデンサは高周波数で電流が流れやすい.つまり,低インピーダンス) 合成インピーダンス 図のように抵抗,コイル,コンデンサといった素子が直列接続 i(t) されている場合を考える.全体の電位差を v(t),素子それぞれの I 電位差を v1(t),v2(t) と置くと, v(t) = v1(t) + v2(t) v (t) (2.11) となる.一方,それぞれの電圧の複素表示を V,V1,V2 とすれば, v(t) V 第 1 章正弦波交流でやったように, V = V1 + V2 V = Z1I + Z2I = (Z1 + Z2)I = ZI 1 Z 2 1 V 1 v (t) 2 V 2 (2.12) が成り立つ.それぞれの素子のインピーダンスを Z1,Z2 とすると,上式は Z (2.13) と書ける. - 18 - Z = Z1 + Z2 (2.14) は直列接続の場合の合成インピーダンスである. また,式 (2.13) から I= V Z1 + Z2 (2.15) となり, V1 = Z1 Z1 + Z2 V , V2 = Z2 Z1 + Z2 V (2.16) と複素表示でも抵抗の直列接続と全く同じような関係が成立している. 例えば,図のような回路を考える.抵抗,コイルのインピーダンス V = RI + jwLI = (R + jwL)I (2.17) Z = R + jwL v (t) 1 R v(t) と書け,合成インピーダンスは I i(t) はそれぞれ R,jwL だから, V 1 V v (t) 2 L (2.18) V 2 である. 複素表示を用いない場合, v(t ) = Ri(t ) + L di(t ) dt という微分方程式になるが,正弦波信号の定常状態を扱う場合,複素表示を用いて式 (2.17) のよ うな代数方程式に簡単化されることが分かる. 次に図のようにインピーダンス Z1,Z2 の素子を並列接続した場合 I を考える.この場合,電流の複素表示に I = I1 + I2 I V という関係が成り立つ.これより, I= V Z = V Z1 + V Z2 I 1 (2.19) 2 Z 1 (2.20) となり,並列接続の場合の合成インピーダンス Z は - 19 - Z 2 1 Z = 1 1 + Z1 Z2 (2.21) と書ける.つまり,並列接続回路についても単なる抵抗の並列接続と同様の関係が得られること が分かる. 一般に Z1,Z2,Z3,・・・の直列接続の合成インピーダンス Z は Z = Z1 + Z2 + Z3 + (2.22) Z1,Z2,Z3,・・・の並列接続の合成インピーダンス Z は 1 Z = 1 Z1 + 1 Z2 + 1 Z3 + (2.23) となる. リアクタンス L 1 インピーダンスが Z = r + jX のとき, r:抵抗(正の値) 1 mH L C L 2 mH 10 µF 2 X:リアクタンス (正:誘導性リアクタンス,負:容量性リアクタンス) 例えば,図のような素子接続の 1 kHz におけるイ ンピーダンスは 2 mH (a) (b) −3 3 (a) Z = jω L1 + jω L2 = jω ( L1 + L2 ) = j2π 10 3 10 = j18.8[Ω] 1 (b) Z = 1 jω L ∴Z = + jωC = jω L 1 − ω 2LC = 1 − ω 2LC jω L j2π × 103 2 × 10−3 1 − (2π × 103 )2 2 × 10−3 10 × 10−6 = j59.5[Ω] 一方 2 [kHz] では (a) Z = j37.7 [W] (b) Z = –j11.6 [W] となる.(a) ではリアクタンスは周波数に比例するが,(b) の場合,リアクタンスは周波数により 誘導性から容量性に変化する. - 20 - 各素子の定数を抵抗,インダクタンス,キャ パシタンスの値で表示する場合もあれば,図の ように素子のインピーダンスやインピーダンス の絶対値のみで表すことがある. j10 [Ω] 10 [Ω] j20 [Ω] 20 [ Ω] j20 [Ω] 20 [Ω] –j40 [Ω] 40 [Ω] (a) (b) 次に図のような回路で電圧 V1,V2 の実効値,電源電 I 圧 E との位相差を求める. コイル L のインピーダンス Z1 は, 3 Z1 = jwL = j 2p 10 2 10 –3 L = j12.6 [W] また,抵抗 R とコンデンサ C の合成インピーダンス Z2 は 1 1 = + jωC Z2 R Z2 = = R R(1 − jωCR ) = 1 + jωCR 1 + (ωCR )2 10(1 − j2π × 103 20 × 10−6 10) 1 + (2π × 103 20 × 10−6 10)2 = 3.88 − j4.87 [Ω] となる. 電源 E を E = 10∠0˚ [V] と定義すると,V1 は, V1 = = = Z1 Z1 + Z2 E j12.6 j12.6 10 [ V ] = 10 [ V ] 3.88 + j7.73 (3.88 − j4.87) + j12.6 j12.6(3.88 − j7.73) 3.882 + 7.732 10 [ V ] = 13.0 + j6.53 [ V ] - 21 - 1 2 mH E ∼ 10 V 1 kHz V IR R 10 Ω IC C 20 µF V 2 よって, | V1 |= 13.02 + 6.532 = 14.5 [ V ] ∠V1 = tan −1 6.53 = 26.7˚ 13.0 V1 は E に対して進相である.また,V2 についても同様に, V2 = = Z2 Z1 + Z2 E 3.88 − j4.87 3.88 − j4.87 10 [ V ] = 10 [ V ] (3.88 − j4.87) + j12.6 3.88 + j7.73 これより, | V2 |= 3.882 + 4.872 3.882 + 7.732 ∠V2 = − tan −1 10 = 7.20 [ V ] 4.87 7.73 − tan −1 = −51.5˚−63.3˚= −11 15˚ 3.88 3.88 V2 は E に対して遅相である. ここで,複素数 z1 = |z1|∠q1,z2 = |z2|∠q2 のとき, z1 z2 = | z1 | | z2 | ∠(q1 − q2 ) (2.25) を用いた.(証明は第 3 章でやる.) E,V1,V2 の波形(それぞれ e(t),v1(t),v2(t))を書く. e(t ) = 10 2 sin w t = 14.1 sin w t [ V ] v1 (t ) = 14.6 2 sin(w t + 26.7˚) = 20.6 sin(w t + 26.7˚) [ V ] v2 (t ) = 7.20 2 sin(w t − 115˚) = 10.1 sin(w t − 115˚) [ V ] となるので,波形は図のようになる. |V1| > |E| となっているが L,C を含んだ交流回路ではこのようなことが起こりうる.詳しくは 5 章共振回路で説明する.時間波形を見てみると v1 と v2 がほぼ逆位相になって両者のたし算が e になっている様子が分かる.(V1 + V2 = E となっている.) - 22 - [V] 20 v1(t) e(t) v (t) 2 10 26.7˚ 0 ωt –10 115˚ –20 次に,IR と IC も見てみる. IR = V2 R = 3.88 − j4.87 10 3.88 − j4.87 [A] [A] = 3.88 + j7.73 10 3.88 + j7.73 IC = jωCV2 = j2π103 20 × 10−6 = 3.88 − j4.87 10 [ A ] 3.88 + j7.73 3.88 − j4.87 j1.26 [ A ] 3.88 + j7.73 よって, | I R |= 3.882 + 4.872 3.882 + 7.732 ∠I R = − tan −1 | IC |= 4.87 7.73 − tan −1 = −51.5˚−63.3˚= −115 5˚ 3.88 3.88 3.882 + 4.872 2 2 3.88 + 7.73 ∠IC = − tan −1 = 0.720 [ A ] × 1.26 = 0.907 [ A]] 4.87 7.73 1.26 6 = −51.5˚−63.3˚+90˚= −25˚ − tan −1 + tan −1 3.88 3.88 0 ここで, z1 z2 =| z1 || z2 | ∠(q1 + q2 ) (2.26) を用いた.(これも証明は第 3 章でやる.) - 23 - また, [A] I= 10 E [A] = Z1 + Z2 3.88 + j7.73 10 | I |= 3.882 + 7.732 ∠I = tan −1 2 63.3˚ 1 iC(t) i(t) iR(t) = 1.16 [ A ] ωt 0 0 7.73 − tan −1 = −63.3˚ 10 3.88 –1 であるから,これらの波形は図のようになる. 115˚ 25˚ –2 なお,iR(t) + iC(t) = i(t)(IR + IC = I)となっている. アドミタンス インピーダンスを Z とすると, Y= 1 = G + jB Z (2.27) で定義される Y をアドミタンスと呼ぶ. また,アドミタンスの実数部,虚数部は, 実数部 G:コンダクタンス(正の値) 虚数部 B:サセプタンス(正および負の値) と呼ぶ. 並列回路ではアドミタンスを使うと計算が便利である.例えば図のようなアドミタンス Y1, Y2,...の並列回路の合成アドミタンス Y は Y = Y1 + Y2 + Y3 + (2.28) (2.29) であり, I = YV I のように書ける. V Y 1 - 24 - Y 2 Y 3 例として図の回路の合成アドミタンス,コンダクタ I ンス,サセプタンスを求める.回路のアドミタンス Y は, R Y= = R 1 1 1 + + 5 5 + j3 − j2 V 1 1 5 − j3 + +j 5 52 + 32 2 1 5Ω 2 5Ω X X –j2 Ω L j3 Ω = 0.2 + 0.147 − j0.0882 + j0.5 = 0.347 + j0.412 [S] これから,回路のコンダクタンス G = 0.347 [S],サセプタンス B = 0.412 [S] となる. 電圧 V,電流 I の関係は I = YV = (0.347 + j0.412)V と書ける. - 25 - C
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