何がデジタルリーダーを作るのか – 経営幹部の視点 レポート作成:Economist Intelligence Unit 保険 - デジタル化で新たなチャンスをつかむ スポンサー 保険会社にとって、デジタルテクノロジーはこれま 実際、デジタルモデルをベースとした直販型保険 で不可能だった様々な方法によるデータ活用、商品 会社が成功を収めたことで、その他の個人向け保険 設 計、顧 客 価 値 提 供を可 能 に するもので す。保 険 会社も変化を迫られています。例えば、生命保険会社 会社はこれまでも膨大な顧客情報を活用し、営業、 はデジタルツールを用い、保険契約時から保険請求 マーケティング、顧客サービスといった中核機能にお 時に至るまでの顧客エンゲージメントを高める施策 いて強力なインテグレーションとナレッジ共有を行っ を投入しています。突き詰めれば個人向け・企業向け てきた歴史がありますので、デジタルテクノロジーを いずれの保険会社も、より効果的な保険業務と効率 取り入れることで組織の成長が加速され、より精度 化を可能とするテクノロジーの価値を認識していると の高い保険業務、 より優れた顧客サービス、さらには 言えるでしょう。 顧客ニーズの予測まで行えるようになる可能性があ CSCがスポンサーとなりEconomist Intelligence るでしょう。また、保険会社や営業代理店が単なる Unitがこのほど実施したデジタル・事業戦略調査で 保険商品の販売にとどまらずコンサルティングに軸足 は、保険業界の企業がこの点を認識していることが を置いた顧客関係の構築を望むのであれば、 示 唆されました 。事 実、本 調 査 に 回 答した 5 1 名 の デジタルテクノロジーは不可欠なものとなるはず 保険業界エグゼクティブは今後数年間で他社と同等 です。 あるいはそれ以上の大幅なデジタル化を想定してい 何がデジタルリーダーを作るのか – 経営幹部の視点 保険 ます。また、ほとんどの保険会社の主な関心領域は っていることは驚くべきことではないでしょう。また、 「コラボレーションソフトウェアの開発」、 「 部門間の 保険会社のデジタル化には主に「効率化」 と 「コスト より効果的な情報共有」であり、その他企業と同様、 削減」 (それぞれ41%)2つの目的があることが示され 重点ポイントはデジタル投資による 「効率化」、 「コスト ています。なお、他業種の回答者と比較すると、保険 削減」、 「顧客の期待に応えること」 でした。 会社のエグゼクティブでは効率化よりもコストを重視 リーダーシップと目標 機能へのフォーカス する割合が高くなっています。これはおそらく、保険 業界が近年直面しているコスト削減圧力を反映した その他業種ではIT戦略の主な推進者についての 回答で「CEO」 と 「CIO」が拮抗していましたが、保険 業界のエグゼクティブでは「CEO」 (29%) よりも 「CIO」 (43%)に偏る傾向が見られました。 また、14%の回答 者はCEO・CIO以外の経営幹部がIT戦略を担ってい るとしており (他の企業では8%)、保険会社ではITが 特定の事業機能に統合されるケースが比較的多いこ とが示唆されました。 Arthur J. Gallagher & Co.のChairman, President & Chief Executive Officerである J. Patrick Gallagher Jr.氏はITに対する自社の アプローチについて次のように述べています。 「当社 ものでしょう。デジタル化の理由として3番目に多く 挙げられていたのは「顧客の期待に応えること」の 32%でしたが、 これはその他の回答者と比較して高い 割合でした。 これについては、保険会社では営業と顧 客サービス(保険金支払処理など)が極めて重要であ ることから、IT展開によってさらに顧客の期待に応え ようとすることは自然の流れでしょう。 デ ジ タ ル 化 の 狙 い に つ い て は 、保 険 業 界 の エグゼクティブの目は競合他社よりも顧客に向いてお り、 「競合他社に勝利するため」を選んだ回答者はか なり少なくなっていました。 IT支出と投資優先度 ではすべての部門に個別のCIOがおり、 これらのCIO 保険会社では、本部I T 部署がI T 予算を管理して が各部門の責任者およびコーポレートCIOの下につ いる割合が全体と比較していくぶん低くなっていま いています。 ここで重要なのは、24時間365日、世界 す(57 % 対63 %)。また、保険会社の4 分の1 近くが のどこからであろうと必要なタイミング、必要な場所 IT予算の一部をIT以外の部署が管理しているとして でクライアントが必要とするサービスを提供すること おり、 この割合は他業種と比べてかなり高いものでし です。」 た(22%対13%)。 このことは、ITがすでに他の業務分 調査対象となった業種のなかで保険業界は「主要 野に深く入り込んでいることを反映しているのかもし 機能のデジタル化」のランキングでちょうど中間あた れません。あるいは、いまだにデジタル化に熱心な現 りに位置していることから、多くのエグゼクティブが 場職員による「シャドーIT」の問題が一部保険会社に ITを戦略的な機能としてよりも運営上の機能として扱 残っていることを示唆している可能性もあります。 デジタル化に向かう理由 貴社におけるデジタル化推進の主な目的は何ですか? 最大2つまで選択してください。 (数字は回答の割合) 保険業 その他業種 効率化 コスト削減 既存の競合他社に後れを取らないため 新興デジタル企業に後れを取らないため 競合他社に勝利するため 顧客の期待に応えるため 投資家・アナリストの期待に応えるため 0 小数点以下の四捨五入、「分からない」の回答除外により、 上記を合計しても100%になりません。 2 © The Economist Intelligence Unit Limited 2016 10 20 30 40 50 60 出典:Economist Intelligence Unit(2016年) 何がデジタルリーダーを作るのか – 経営幹部の視点 保険 しかしGallagher氏は次のように付け加えています。 上でテクノロジーの重要性が増していることを示して 「IT支出への意欲は尽きません。もし私が予算は無 います。 制限だと言ったら必ず支出過多になるでしょう。そこ 総合的には、 レガシーシステムを脱却し、ITによる で節度ある予算配分のためにCIOと協力し、各部署で アドバンテージをますます強固にすることが保険会社 適切な支出と効果的なソリューション展開がなされて の主な優先事項であると言えるでしょう。 いるか確認するようにしています。」 制約があるもののITに自信 保 険 会 社 の 9 8 % は 従 来 型 の オ ン プ レ ミス 保険会社のエグゼクティブらはさらなるデジタル化 サーバーを利用していますが、パブリッククラウド (96%対82%)、ハイブリッドクラウド(94%対83%)、 コラボレーションソフトウェア (96%対62%)にも投資 を重視しており、今後3年間で「戦略」 (63%対39%)、 「財務」 (6 3 % 対4 4 % )、 「顧客サービス」 (47 % 対 42%)などの面で「完全にデジタル化」すると答えた していると回答した割合は他業種よりも高いものでし 保険会社エグゼクティブの割合はその他回答者よりも た。 とはいえ他業種に比べてデスクトップ/ノートPC 高いものでした。 の利用を「減らす」または「止める」 と回答した割合が また同エグゼクティブらは「予算の制約」 (41%)を 低かったことから (6%対10%)、 レガシーテクノロジー IT目標達成に向けた最大の障壁と見なしている点で も引き続き利用されることになるでしょう。 その他の企業エグゼクティブと見解を同じくしていま 全 体 として 保 険 会 社 の 支 出 パ タ ー ン は 最 新 すが、2番目に回答の多かった障壁は「ITがどのように デジタルテクノロジーへのゆっくりとした移行、継続的 戦略目標の達成に貢献できるかという点について、 なコラボレーション重視を反映したものとなっていま 会社レベルの戦略的ビジョンがない」 となっており、そ す。Gallagher氏は次のように言います。 「10年前は の割合は他業種の2倍近くありました(24%対13%)。 書類はすべて紙。14年前企業で一般的だった一般 台帳もありませんでした。 (テクノロジーがなければ) 今のような会社にはなっていなかったでしょう。」 これはおそらく、保険会社のエグゼクティブが「IT」 と 「組織上層部が策定する戦略」を紐付けることを特 IT機能を強化するための保険会社の主な取り組み は「新たなソフトウェア開発プラットフォームの活用」 と 「アプリケーションモダナイゼーション」 (いずれも 37%)でした。また保険会社が今後従業員に求める 能力についてはコラボレーション(67%)、データ分析 (49%)、ITリテラシー(47%)が上位にランクインし ていますが、このことは全体的な業績向上を目指す に重視しているためでしょう。なお、 「リソースが主に 既存のIT管理業務に振り分けられていること」を戦略 目標達成の障壁として挙げた割合は他の企業と比べ て低いものでした(20%対32%)。 とはいえ、全体としては保険会社も他業種と同じく 今後数年間のITによる事業戦略サポートにかなりの 自信を持っており、 「テクノロジー」、 「機能」両面におい デジタル化する機能 次に示す各機能について、今後3年の間に、貴社の業務を どの程度デジタル化すべきとお考えですか? (数字は「完全にデジタル化」の回答割合) 保険業 その他業種 戦略 マーケティング・営業 財務 サプライチェーン 製造 IT 顧客サービス 0 10 小数点以下の四捨五入、「分からない」の回答除外により、 上記を合計しても100%になりません。 3 © The Economist Intelligence Unit Limited 2016 20 30 40 50 60 70 80 出典:Economist Intelligence Unit(2016年) What 何がデジタルリーダーを作るのか makes digital leaders: A full C-suite – 経営幹部の視点 perspective Insurance 保険 て88%が自信ありとしていました。 いまや保険会社は新たなテクノロジーと膨大な デ ータを活 用 することで 顧 客 サ ービスを向 上し、 新たな市場を開拓し、効率化を実現できる状況にあ ります。確かに多くの保険会社はITを戦略的な視点 ではなく運営上の視点で捉えているかもしれません が、事業戦略の成功に不可欠な要素としてITを認識し はじめている企業も出てきています。また、保険会 社はこれまでにないデジタル化に向けてモダナイ ゼーションとコラボレーションへの投資にコミットして いるようです。 本調査について 「何がデジタルリーダーを作るのか - 経営幹部の 視点」と題した本調査は、 「デジタルテクノロジーと 戦略的成功の関連性」、 「 現時点でのIT投資状況」、 「 企 業 による デ ジタ ル テクノロ ジ ー 推 進 計 画 の 状況」を考察するためにC S C がスポンサーとなり Economist Intelligence Unitが実施した調査で す。本レポートの内容は、様々な業種・地域の企業 レポートはこちらからご覧頂けます。 また、本レポート作成にあたって貴重なご意見を いただいたJ. Patrick Gallagher Jr.氏(Arthur J. Gallagher & Co.のChief Technology Officer)に 感謝申し上げます。 本レポートはScott Leffが執筆し、Josselyn Simpsonが編集しました。 のCIO、シニアエグゼクティブ514名から得られた 表紙:Shutterstock アンケート回答に基づ いています。本調査全体の 4 本レポートの正確性については万全を期しておりますが、本書に記載されている情報、見解、結論に依拠してなされた意思決定・行動などに ついてEconomist Intelligence Unit Ltd.および本レポートのスポンサーは一切責任を負いません。 © The Economist Intelligence Unit Limited 2016
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