小倉合成工業株式会社 昭和18年の設立以来、化学産業に特化。 最先端の技術力と高品質にこだわり 人材を育て、社会貢献に邁進する 今回お訪ねしたのは、北九州市の小倉合成工業株式会社で す。昭和18年に設立して以来、70年以上化学産業に特化し てきました。確かな技術力と豊富なノウハウを持つスペシャ リストを育成し、最新鋭の生産設備で多様なニーズに応え、 安定した業績をマークしています。今回は、ご自身も技術者 出身という原信吉社長に、同社の過去・現在・未来をうかがい ました。 JR小倉駅から車で5分程度の場所にある本社・工場 ドングリからソルビット製造 戦後は油脂化学で取引先拡大 31年には高圧法油脂分解設備など、 ハード面も徐々に 弊社の設立は、第二次世界大戦末期の昭和18年。 ひまし油加工で技術を磨く 設備も新設、業務の幅を拡大 神戸の商社で活躍していた松本さん、 神戸銀行に勤め ていた吉岡さん、 技術者の竹本さんという3人の方が集 6 充実させ、 業務を広げていきました。 まって立ち上げたと聞いています。海軍の監督工場とし 現在、 メイン原料の一つとなっているひまし油は、昭 て製造していたのは、 グルコースに水素を添加して作る 和31年ごろから取り扱いを始めました。 ひまし油というの ソルビットという成分です。 ソルビットはビタミンCへと合成 は、 インドや中国などで生産される 「ひま」 という植物の され、 兵隊さんの栄養不足を補うために配布されていま 種子から搾油される油。子どもの頃、下剤として飲んだ した。 その原料は、 なんとドングリ。戦時中の深刻な物資 経験がある人もいるかもしれません。粘度が高く、湿分 不足がうかがえます。以前、 工場の敷地内を掘ったとき を保持しやすい、樹脂 に、 大量のドングリの皮が見つかったことがあり 「本当に との相溶性がよいなど ドングリから抽出していたのだな」 と驚きました。 の特性があり、水素添 戦後もソルビットの製造を続けていましたが、昭和25 加(水添) やアルカリ溶 年に油脂統制が解除されたことから、油脂分解、脂肪 融、加水分解や脱水 酸蒸溜設備を作り、 油脂加工業に乗り出しました。例え 反応などを経て製造さ ば、 食用油を作る過程で出たかすを蒸留して脂肪酸に れる化学合成物は、 印 変え、 インクやペンキ、 石けんなどの原料として出荷する、 刷インキや樹脂原料、 といった加工です。昭和28年にはグリセリン蒸溜設備、 化粧品や医薬品、 ウレ ワイエムビジネスレポート 2017. 1月号 No.98 ひまの木。この植物の種から、ひまし油 が搾油される 企業レポート/小倉合成工業株式会社 各種検査に活躍する分析機器室 タンやナイロンなど幅広い用途に用いられています。 昭和33年にひまし油からセバシン酸とオクタノールを 作る製造設備が完成。 セバシン酸は、 ナイロンの原料と して需要が高い成分でした。 その工程はかなり難度が 高く、昔はアメリカから輸入されることも多かったようで す。弊社に転機をもたらしたのは、昭和34年の伊勢湾 台風でした。 「暴風雨で濡れてしまったセバシン酸を再 精製してほしい」 という依頼を受けて対応したところ、 技 術力の高さを認めていただき、 その後、 お取り引き先さま がります。 こういった背景から、大手企業でも試験的に が拡大していったのです。 そのほかにも、 ポマードの原 有機合成化学物が必要な場合は、外部委託するケー ぬか 料になる脂肪酸アマイド製造、米油のかすを使った糠 スが増えています。 ワックス製造など、 引き合いを受けるたびに工夫を重ね、 弊社の場合、 開発受託の相談を受けたら、 研究室で 業務の幅を広げていきました。 試作し工場での製造方法を検討します。 ちょっとした手 一時はセバシン酸の売れ行きがよく、昭和50年代後 順や圧力の掛け方の違いで、 品質にも作業時間にも大 半には輸出もしていました。税関の審査を終えるまで貨 きな差を生じさせることがあるからです。 また、 工場で製 物を置いておける保税倉庫や保税工場の認可を受け、 造を担当する社員からも 「ここの作業は手順を変更した 門司の税関の審査が通ったら社員総出でラベル貼り ほうがよいのでは」 「別の装置を使ったほうが安定する をしたことを思い出します。現在では輸出はほぼゼロで と思う」 といった提案が多数。研究室と工場、双方のス す。 セバシン酸合成で培ってきたアルカリ溶解技術は、 タッフの力を結集することで、 より高い品質とより低いコス 各種高級アルコールや長鎖カルボン酸製品などの生産 トの両立を追求しています。 に応用・発展させています。 セバシンに次ぐ収益源にと、 取り組みを始めたのが高 圧水添の分野。圧力をかけることで、特殊な水素添加 反応が可能になります。 低圧水添の設備も整備し、 現在 では幅広い水添が可能になっています。 ISO9001取得をきっかけとして 人間力もスパイラルアップ 品質マネジメントシステムISO9001の認証は、 平成15 年に取得しました。前年からコンサルタント会社に指導 ニーズに応える受託生産 人間力と設備の両面を磨く に入ってもらい、準備期間は約1年。記録の残し方をシ ステム化するなど、管理レベル向上を目的に取り組みま した。ISOは取得した後もスパイラルアップが必要なの 確かな技術力が評価されて、増えつつあるのが「ケ で大変ですが、PDCA(プラン-ドゥ-チェック-アクション) ミカルズ開発受託部門」です。 お客さまのニーズに応え サイクルを基本としたモノづくりが定着。 少しでもイレギュ て、 柔軟な対応をしています。 ラーなことがあれば異常報告が上がってくるようになり、 技術革新は日進月歩。新たな合成物を生産ラインで 不良品や事故を未然に防げる体制に進化しました。制 安定的に生産するには、 最新鋭かつ環境に配慮した設 度を整えることで、品質に対する意識が高まったことは 備と、 生産技術が必要です。 自社で製造するには、 高額 大きな成果です。 な特殊装置への投資と、 安全に効率よく作業を進めるノ 品質管理を行う上で大事な「4M」つまりマシン、 マテ ウハウが欠かせません。時に危険物や有害物質を扱う リアル、 マン、 メソッドの4つのうち、 一番重要なのがマン、 こともあるため、公害処理施設の整備もコスト高につな 人だと考えています。 弊社で働いている人は、 全員正社 ワイエムビジネスレポート 2017. 1月号 No.98 7 品質方針 当社は「国際化への対応」 と 「お客さま第一主義」の経 営理念に基づいて、油脂化学製品および工業薬品に対 する顧客の品質要求に応え、常に最良の製品品質を顧 客へ提供することを最重点として、品質方針を下記の通 り制定する。 1 お客さまが必要としている品質を管理し、当社の 化学技術力を十分に発揮して製造を行い、お客さ まの要求事項を満足する製品品質を提供する。 2 営業、受注、製造、引渡しおよび品質保証のす べてのプロセスにおいて、誰もがその課せられた 責任と権限を確実に果して、品質マネジメントシス テムを運用し、 その有効性について継続的に改善 を実施する。 果、 受託部門の受注を増やそうと取り組んだことが現在 につながっています。受託生産ではこれまでに300種類 以上の有機化合物を商業ベースで生産し、 納入した実 績を持っています。 週替わり、 時には日替わりで異なる物 質を取り扱うため、 原料やラインの調整などに細心の注 意が必要ですが、 業務の幅は確実に広がり、 ノウハウも 蓄積できるなどよい影響が多々出ています。 高圧水添などの設備を備えている企業は、全国でも 3、4カ所しかありません。2011年の東日本大震災により 関東地方の同業者が操業ストップに陥り、 弊社がSOSを 受けて急遽仕事を代行したことがあります。 北九州市は 幸い大きな地震に見舞われておらず、 大型台風の通過 合成設備の一部 も少ないことから、地の利には恵まれているようです。 と はいえ万が一に備えてBCP (事業継続計画) を策定し、 他社とのネットワークも構築しているところです。 先日、 営業担当者が離職することになり、 技術者が急 遽、 営業に回ることになりました。 「災い転じて福となす」 ということわざがありますが、最初から専門的な打ち合 わせができるとお客さまに好評で、受注にも結びつきつ つあります。私たちの強みは「技術力」そして「高品質」 へのこだわりだと、 改めて感じた出来事でした。 お取引先さまの先には、 私たちの化合物を間接的に 員です。 アルバイトや契約社員といった短期の雇用で 利用されるエンドユーザーの皆さまがいらっしゃいます。 は、品質は守れないと考えます。入社してから2、3年は 直接顔を合わせることはない方々にも、 感謝の気持ちを 徹底的に基本を学び、 スペシャリストとしての基礎を築く 忘れないことが大事です。国際化や地球温暖化、 経済 時期。 その後も九州生産性大学の講座を受講してもら 成長の鈍化など厳しい状況が続いていますが、 これま うなど、 できるだけ教育の機会を設け、 社員一人ひとりの で培ったノウハウを生かし、 化学技術の分野から広く社 実力アップに努めています。 また毎月一回「安全の日」に 会に貢献していきたいと思います。 は全員が集合。 「運搬機の安全運行」など月間テーマ を発表し、 安全意識を高めています。 技術力と品質が自社の強み 顧客への感謝を忘れずに おかげさまで弊社の業績は、景気の動向に大きく左 右されることなく、 これまで安定して伸びてきました。唯 一、 出荷量が激減したのがリーマン・ショックの時です。 私はちょうど、社長に就任したばかりでした。検討の結 8 ワイエムビジネスレポート 2017. 1月号 No.98 不純物を取り除く 蒸留塔 企業レポート/小倉合成工業株式会社 社長に お聞きしました! 私の朝時間 朝は6時半ごろに起床します。愛犬の豆 柴が、朝ご飯の間ずっとそばにいて離れ ません。好きなものをねだられるたびに与 代表取締役社長 原 信吉 えてしまい、気付くとおかずが半分ぐらい なくなっている日もあります (笑) 。7時すぎ に出社したら、 まずは書類のチェック。実 は、7時半から社内で幹部会議が行われ 概 要 ているのですが、 「 社長がいると話しにく <所在地> 北九州市小倉北区東港一丁目4-8 い」 と言われ、私は出席していません。8 < 設 立 > 昭和18年 <資 本 金> 5,000万円 < 従業員数 > 77名 < 得意分野 > 水素化/高圧水添/低圧水添/ニトリル化/アミノ 時からのミーティングで、相談や指示をす るようにしています。 化/エステル化/アルカリ溶融/ハイドロアミネー 好きな言葉 ション/アセチル化/蒸留/精密蒸留/晶析 < 拠 点 > 本社・工場(北九州市)、営業所(大阪市) < 所属団体 > (社)日本化学会/(社)日本油化学協会/(社)有機 合成化学協会/(社)高圧ガス保安協会/(社)産業 父親がしたためていた「仁・義・礼・智・ 公害防止協会/(社)発明協会/酵素工学研究会/ 信」の五徳は、幼いころから親しんでき 塩ビ食品衛生協議会/ポリオレフィン等衛生協議会 た言葉です。儒教の教えだそうですが、 /潤滑油協会/触媒学会 思いやり、正義を貫く姿勢、礼を尽くす こと、道理が分かり知識が豊富なことな ど、人として大切な要素が詰まっていま す。兄の名前に「義」、私の名前に「信」 の1文字が入っているのは、父の願いそ のものだと思います。 企業沿革 昭和18年 ソルビット製造を目的に設立。海軍の監督工場指定 昭和25年 油脂統制解除。油脂分解、脂肪酸蒸溜設備を完成し油脂加工 昭和28年 グリセリン蒸溜設備完成 業に進出 私 の お 気 に 入り 会社の先輩たちに手ほどきを受け、 40歳 ぐらいで始めたゴルフが趣味です。ゴル フ歴は30年ほどになります。先日、 犬と遊 んでいるときに愛用のメガネを壊されてし 昭和31年 高圧法油脂分解設備完成 昭和33年 セバシン酸、 オクタノール製造設備完成 昭和35年 水添設備完成 昭和42年 脱水ひまし油製造開始 昭和55年 現在地に本社と新工場完成、移転 昭和57年 保税倉庫、保税工場、保税上屋の認可 昭和61年 高圧水添機2機増設 まい、 代わりのメガネでプレーしました。 「メ 平成7年 ウレタン原料生産設備新設 ガネがいつもと違うから、調子が出ない」 平成13年 油脂自動分析装置新設 と言い訳をしながら、結果は110。最近、 100がなかなか切れなくなったのはメガネ 平成15年 ISO 9001:2000認証取得 平成20年 エステル化設備、反応・溶剤回収工場新設 のせいではなく、歳のせいでしょう。 これか らはスコアに一喜一憂せず、 「楽しむゴル フ」 をモットーに、長く続けていきたいと思 います。 ワイエムビジネスレポート 2017. 1月号 No.98 9
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