税ガバナンス - Deloitte

百家 争鳴
CFOプログラム
2016
ISSUE
10
税ガバナンス
∼プロ経営者として税に向き合うということ∼
当たり前のことを当たり前にやる
本田技研工業創業者 本田宗一郎
Photo EPA=時事 Do the right things to do.
ご挨拶
これまで、経営者の責任と税との関係はほとんど語られてきませんでした。
日本では、
「企業活動の終着点で確定する税コストは税法の定めによって納めるものであ
り、経営努力の対象と見るべきではない」
、
「税金を払ってはじめて一人前の会社」といっ
た価値観が広く行き渡っていることがその理由だと考えられます。
(BEPS)に関す
しかし、経済協力開発機構
(OECD)の租税委員会が税源侵食と利益移転
る行動計画を取りまとめるなど、税務に関するコーポレートガバナンスの充実が一段と強
く求められています。
そうした中、日本的な美意識に依拠して税務に向き合うだけでは、ステークホルダーから
賛同を得ることはできません。CFOには、プロの経営者として税に向き合い、適切にマ
ネジメントすることが求められています。
今回のテーマは「税ガバナンス」です。
税コストをいかに管理、抑制すべきか。皆さまがCFOとしての役割を果たす上で、ご参
考となる情報をご提供できれば幸いです。
2016年3月
デロイト トーマツ CFOプログラム
本号の表紙
本田宗一郎
1906年、静岡県生まれ。戦後日本を代表する技術者型経営者の一人。自動
車修理工から身を起こし、1946年に本田技術研究所、1948年に本田技研
工業設立。オートバイ「ドリーム」
「スーパーカブ」などの大ヒット商品を
次々と世に送り出し、1962年に四輪車に進出。72年に開発した低公害エ
ンジンCVCCが、米国のマスキー法(大気汚染防止法)に世界で初めて合
格、同エンジン搭載のシビックで自動車メーカーとしても大躍進した。
「モ
1989年、米国自動車殿堂入り。明るい人柄、旺盛なチャレンジ精神で、
ノ作りのロマンチスト」として慕われ、没後も幅広いファンを持つ。
Tax Governance
税ガバナンス
∼プロ経営者として税に向き合うということ∼
税コストをマネージすることこそが、「税ガバナンス」の究極目標である。
「税ガバナンス」に対する期待が高まっているかどうかは問題ではない。
なぜなら、求められたことに応えるだけでは、経営者責任を果たしたことにはならないからである。
Issue
今、
企業に問われる税ガバナンスとは?
貴方は以下のチェック項目すべてに
Yesと答えられますか?
今、企業に問われる税ガバナンスとは?
税ガバナンスについて株主総会で語ることができる
税ガバナンスの方針はグループ内で共有されている
税ガバナンスの遂行状況は想定通りだ
税ガバナンスと経営者責任
「社内外から税ガバナンスを問題視されたことがない」、「税務調査で大きな指
摘を受けたことがない」、「同業他社と同じ程度の体制は整えている」― こう
したことを根拠にわが社の税ガバナンスは万全であると考えるのは適切ではあ
りません。
現時点でどの程度の税負担があり、今後の投資や収益の変化に応じてどの程度
の税金を支払うことになるのか。様々な要因を適時適切に把握・分析できては
じめて、
「わが社の税ガバナンスに遺漏はないか」という問いに答えることが
できます。
世界的にも税務当局が規制を強化し、企業に開示を求められる範囲が広がりつ
つあります。このため、税ガバナンスについての考え方をCFOが発信し、グルー
プ内で共有、実践することがますます重要となっています。
では、経営責任を果たすために、CFOはいかなる税ガバナンスを確保しなけ
ればならないのでしょうか。
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図表1
税務当局による規制強化、グローバルで起きていることは何か
欧州
英国……… 大企業の税務コンプライアンス向上の強化
オランダ … 税務監督の枠組み導入による企業の自主的法令遵守の促進
ドイツ …… 電子データの標準化による電子税務調査の強化
フランス … 会計帳簿の電子化
(FEC)による税務調査の義務化
米国
FATCAによる
課税強化
ブラジル
オーストラリア
会計財務データ
そのものを税務
当局が管理
税務当局による
大規模ビジネスの
リスクレーティング
移転価格関連の文書化やタックス・プランニングの報告義務等を含む
OECD / G20 BEPSプロジェクトが実施された。それに伴って従来の税務に関する
管理手法およびレポーティングの手法は、各国において変化が求められている。
これらの規制強化を踏まえた上でも、前述のチェック項目にYesと回答できますか?
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Case Study
取り組む企業、広がる格差
グループ全社に共通する行動指針
税を企業活動のコストとして捉え、キャッシュ重視の経営を行っている企業は、
税に関する行動・判断の指針を明示し、海外現地法人も含めてグループ一体と
なった税ガバナンスの強化に取り組んでいます。
事例1
•グループ企業共通の税に関する行動指針(タックスポリシー)の制定
•税に係る社内マニュアルの制定
効果
1. 税ガバナンスに係る経営者責任の明確化
2. 優遇税制適用漏れや、ペナルティタックスを含む税務調査追徴金の減額など
による実効税率の低下
3. 海外における税務戦略開示に関するコンプライアンス対応
適時適切なモニタリングを可能にするレポートライン
重要な検討事項は時間的余裕をもって、そして事後的なレポートはもれなく適
切にされ、最終的にCFOを含む経営者層が容易に確認できる様式であること
が最も効果的です。
事例2
•本社・地域統括会社間
◦各税務部の担当範囲・権限・責任の明確化
◦税に関するレポートラインの構築
•各部署
◦決裁書申請前の税に関する担当範囲・権限・責任の明確化
◦決裁書に係る社内税務専門家の関与明確化
効果
6
1. 税ガバナンスに係る経営者責任の遂行状況を把握
2. 実行税率の変動状況を把握
税コストの削減と実効税率低減の具体例
税をコストとみなし、不要なものは削減するというタックスポリシーをCFO
の主導によりグループ内で共有。各事業部の情報を集約するレポートラインを
アクティブなものにすることで、実効税率の低減を実現した例があります。
事例3
•税ガバナンスの強化により16億円の税コスト削減に成功
本社
日本
A事業部
米国
CFO
タックス
ポリシー
B事業部
米国
持株会社
(法人税率40%※)
米国
子会社A
米国
子会社B
翌期70億円の
所得見込
赤字転落により翌期
40億円の欠損見込
米国連結納税制度
所得と欠損の相殺
(40億円×40%※=16億円の税削減効果)
レポートライン
CFO主導による戦略的な税ガバナンス
※ 簡略化のため法人税率を40%と仮定
7
Insight
当たり前を当たり前化する
当たり前の税ガバナンスとは
当たり前の税ガバナンスとは、タックスポリシーをはじめとした税に関する認
識がグループ全体で共有されており、各担当者の行動が有効にモニタリングさ
れている状況を指します。しかし日本では、当たり前の税ガバナンスが定着し
ている企業がことのほか少ないのが現状です。
ボトルネックになっているのは以下のような点ではないでしょうか。
•世界に散らばるグループ会社の税務ポジションの情報が不足しているため、
適正納税額のシュミレーションが十分に行われていない
•税コストへ与える影響の重要性を見込むに足る税務知見の不足により、
税務の検討に適切な工数が投じられていない
税ガバナンスを強化するためには、CFOが「税はコストである」と明確に認
識し、納税額の適正化を自らの職務範囲であると自覚した上で取り組みをス
タートさせることが必要です。
CEO自らがCFOに税ガバナンス強化を指示したり、CFOがCEOをはじめとす
る他のボードメンバーの理解を得て進めた好事例が見受けられます。
言うまでもないことですが、グローバルでのガバナンスを強化するには、
「トッ
プダウン」であることが求められるのです。
8
容易ではない道の先が当たり前の世界
税ガバナンスを強化するための行動指針を導入し、レポートラインの運用を確
立することは、決して容易な道ではありません。しかしながら、当たり前の税
ガバナンスを当たり前に実行することこそが、適切な税コスト負担と実効税率
低下を両立させる唯一の道です。
そして、
「当たり前」の先にこそ持続的成長と企業価値の向上を実現し、グロー
バルでの競争に勝ち残れる企業像を描くことができるのではないでしょうか。
効果的な税ガバナンスを実践する
CFOのための3つの心得
1
税ガバナンスの導入はCFOの役割と理解する
• 役員としてステークホルダーに対して当たり前に果たすべき責務に税ガバナン
スが含まれることを理解する
• 企業利益に与える税コストの重要性を理解する
2
税ガバナンスのリーダーとして自ら企画・立案する
• CFO自らが発信し、結果責任を負う姿勢をもつ
• 適切なプロジェクトチームを組成する
3
最小限の予算で最大限のガバナンス効果を
もたらす具体的な計画を練る
• スケジュール上のマイルストーンを設定する
• 税ガバナンス強化・維持のために要するコストを見積もる
• リターンとしての税コスト効果を設定しKPI化する
9
百家争鳴とは
日本市場におけるCFOの重要性が高まる一方で、CFOに向けて発信される情
報は多くはありません。「百家争鳴」では、デロイト トーマツ グループの各
領域の専門家による編集のもと、企業を取り巻く様々な課題に対し、経営に携
わるCFOとしての考えに示唆をあたえる情報を提供していきます。誌名の「百
家争鳴」は、多くの識者や専門家が遠慮なく、自由に自説を発信、活発に論争
し合うことを意味しています。
「百家争鳴」公式サイト www.deloitte.com/jp/hyakka-somei
バックナンバー
公式サイトにてPDF版を公開しておりますのでぜひご覧ください。
冊子をご希望の際は事務局までお問い合わせください。
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── 第 1 号 ──
── 第 2 号 ──
── 第 3 号 ──
── 第 4 号 ──
── 第 5 号 ──
いま、
日本企業に
問われるグローバル・
キャッシュ・マネジメント
戦略的税務のススメ
データを価値に変える
アイディアを
価値につなげる力
グローバルで
戦うために
── 第 6 号 ──
── 第 7 号 ──
「守り」から
「攻め」へ
─価値の転換
キャッシュを回す
経営へ
── 第 8 号 ──
CFO目線での
積極的なM&Aへの
関与
── 第 9 号 ──
企業価値を守るための
クライシスマネジメント
CFOプログラムとは
CFOプログラムは、日本経済を支える
企業のCFOを支援し、CFO組織の能力
監査
向上に寄与することで、日本経済そのも
のの活性化を目指すデロイト トーマツ
グループによる包括的な取り組みです。
信頼のおけるアドバイザ
(the Trusted
Advisor)として、さまざまな領域のプ
ロフェッショナルが連携し、CFOが抱
える課題の解決をサポート致します。さ
らに、企業や業界の枠を超えたCFOの
フィナンシャル
アドバイザリ-
税務
デロイト
トーマツ
グループ
コンサルティング
リスク
マネジメント
ネットワーキング、グローバル動向も含
めた最新情報の提供を通じ、日本企業の
競争力向上を目指します。
お問い合せ
ご不明な点がございましたらCFOプログラムまでご連絡ください。
どうぞ宜しくお願い申し上げます。
[email protected]
デロイト トーマツ CFOプログラム
〒108-6221 東京都港区港南 2-15-3 品川インターシティC棟
www.deloitte.com/jp/cfo-program
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デロイト トーマツ グループは日本におけるデロイト トウシュ トーマツ リミテッド(英国の法令に基づく保証有
限責任会社)のメンバーファームおよびそのグループ法人
(有限責任監査法人 トーマツ、デロイト トーマツ コンサ
ルティング合同会社、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社、デロイト トーマツ税理士法
人およびDT弁護士法人を含む)の総称です。デロイト トーマツ グループは日本で最大級のビジネスプロフェッ
ショナルグループのひとつであり、各法人がそれぞれの適用法令に従い、監査、税務、法務、コンサルティング、ファ
イナンシャルアドバイザリー等を提供しています。また、国内約40都市に約8,700名の専門家(公認会計士、税理士、
弁護士、コンサルタントなど)を擁し、多国籍企業や主要な日本企業をクライアントとしています。詳細はデロイト
トーマツ グループWebサイト(www.deloitte.com/jp)をご覧ください。
Deloitte(デロイト)は、監査、コンサルティング、ファイナンシャルアドバイザリーサービス、リスクマネジメント、
税務およびこれらに関連するサービスを、さまざまな業種にわたる上場・非上場のクライアントに提供しています。
全世界150を超える国・地域のメンバーファームのネットワークを通じ、デロイトは、高度に複合化されたビジネ
スに取り組むクライアントに向けて、深い洞察に基づき、世界最高水準の陣容をもって高品質なサービスを提供し
ています。デロイトの約225,000名を超える人材は、
“ making an impact that matters”を自らの使命としてい
ます。
Deloitte(デロイト)とは、英国の法令に基づく保証有限責任会社であるデロイト トウシュ トーマツ リミテッド
(
“ DTTL”)ならびにそのネットワーク組織を構成するメンバーファームおよびその関係会社のひとつまたは複数を
指します。DTTLおよび各メンバーファームはそれぞれ法的に独立した別個の組織体です。DTTL(または“ Deloitte
Global”)はクライアントへのサービス提供を行いません。DTTLおよびそのメンバーファームについての詳細は
www.deloitte.com/jp/about をご覧ください。
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