作業用PISA in Focus N44 (jpn)--v4.indd

IN FOCUS
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資源の平等な配分は、生徒の成績にどのように影響するの
か?
• 教育資源がどのように分配されるかという問題は、手に入る資源の総量と同じくらい
重要である。
• 良い成績を収めている国・地域では、社会経済的背景にかかわらず、資源をより公平
に配分する傾向にある
• 資源が潤沢にあると校長が回答した学校がある国では、資源配分の公平さと資源
全体の質との間に関連はない。
これまでのPISA調査の結果からは、経済的、人的、物的資源を含む教育に費やさ
れる資源の総量は、生徒の成績とわずかな関連しかないという結果が一貫して示
されている。例えばPISA調査に参加している国・地域のうち、6歳から15歳までの
期間の生徒一人当たりの累計教育支出額が5万米ドル未満の国・地域では、支出
額が多いほど生徒の数学的リテラシーの平均得点は高い。
しかしOECD加盟国の
大部分を含む所得水準の高い国・地域では、PISA調査で好成績を収めるかどうか
をより的確に予測できるのは、それ以外の要素である。
このことからわかるのは、
優れた教育システムを構築するためには生徒一人当たりの最低限の支出のほか
に、単なる金銭以上の何かが必要だということだ。
良い成績を収めている国では、
資源をより公平に配分する傾向にある。
資源配分における公平さは、教育機会の
平等を保障する上で重要であるだけでな
く、教育システム全体の成果にも関係す
る。良い成績を収めている国・地域では、
社会経済的背景にかかわらず、すべての学校に対して資源を公平に配分する傾
向にある。例えばエストニア、フィンランド、
ドイツ、韓国、スロベニアは数学的リ
テラシーでOECD平均を上回る成績を収めているが、
これらの国の社会経済的に
恵まれない学校の校長は、恵まれた学校の校長と同等またはそれ以上に、十分
な教育資源があると回答する傾向が見られる。
PISA in Focus – 2014/10 (October) © OECD 2014
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IN FOCUS
しかし多くの学校システムで、資源の配分に不平等が
は、インターネットに接続しているコンピュータが十
生じている。OECD平均では、社会経済的に恵まれな
分にあると校長が回答している学校に通う社会経済
い学校は恵まれた学校と比べて学級規模が小さい傾
的に恵まれない生徒の割合は54%であるが、恵まれ
向にあり、
また教師の不足と教材や物理的なインフラ
た生徒についてはその割合は74%である。
またルクセ
の不足・不備に悩まされている場合が多い。一般に社
ンブルグでは、社会経済的に恵まれない生徒の40%が
会経済的に恵まれない生徒が多い学校は、恵まれた 「図書室における教材が不足している」
と校長が回答
生徒が多い学校より保有する資源の質が低くなりが
する学校に通っているが、そうした学校に通う社会経
ちである。
済的に恵まれた生徒はわずか22%である。
こうした差
異はOECD加盟国のチリやメキシコを含むラテンアメ
例えばアメリカは資源配分の公平性においてOECD
リカ諸国で、
より大きく現れている。メキシコでは、教
加盟国の中でメキシコに次いで2番目に低く、社会経
科書などの教材が十分にある学校に通っている社会
済的に恵まれない生徒の25%が、
「指導に支障をきた
経済的に恵まれない生徒は2人に1人未満だが、恵ま
すほど、理科実験室の機器・教材が不足している状態
れた生徒の場合は4人中3人より多い。チリでは、社会
であるか」
という質問に対し
「ある程度は不足している」
経済的に恵まれない生徒の62%が、指導に支障をき
「大変不足している」
と校長が回答した学校に通って
たすほど、教材が不足していない学校に通っており、
いるのに対し、そのような学校に通っている恵まれた
その割合は恵まれた生徒の場合では88%である。
生徒の割合はわずか15%である。ニュージーランドで
資源を公平に配分する学校システムでは良い成績を収めている
数学的リテラシーの得点(点)
一人当たりの GDPの影響を取り除いた後
一人当たりの GDP の影響を取り除いた後の回帰直線
1
上海
600
シンガポール
オランダ
ロシア
ポーランド
韓国
ベトナム
ポルトガル
エストニア スロベニア
日本
チェコ
フランス
スイス
マカオ
ラトビア
ベルギー
フィンランド
カナダ
ニュージーランド
ドイツ
スロバキア
アイルランド
オーストラリア
クロアチア
アイスランド
イギリス
トルコ
イスラエル
スペイン
ハンガリー セルビア
タイ
ノルウェー
アメリカ
デンマーク
スウェーデンギリシャ
メキシコ
ルーマニア
リトアニア カザフスタン
ウルグアイ
コスタリカ
ルクセンブルグ
チリ マレーシア ブルガリア オーストリア
モンテネグロ
アラブ首長国連邦
ブラジル
イタリア
ヨルダン チュニジア
インドネシア
アルゼンチン
ペルー
コロンビア
香港
台湾
550
500
450
400
350
R 2 = 0.19
300
カタール
公平性が
低い
注:資源配分の公平性とは、社会経済的に恵まれた学校と恵まれない学校の教育資源に関する質の指標の
違いを言う。
1.実線で示す回帰直線の傾きは、統計的に有意である(p < 0.10)。
出典:OECD, PISA 2012 Database, Table IV.1.3.
12 http://dx.doi.org/10.1787/888932957403
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© OECD 2014
PISA in Focus – 2014/10 (October)
公平性が
高い
資源配分の公平性 (指標値の学校間における差)
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全ての生徒が十分な教育資源の恩恵を受けているわけではない
教材が充分にある学校に
通う生徒の割合(%)
0
コスタリカ
ペルー
メキシコ
コロンビア
タイ
ウルグアイ
チリ
インドネシア
ベトナム
アルゼンチン
チュニジア
ブルガリア
ポルトガル
クロアチア
ギリシャ
トルコ
スロベニア
モンテネグロ
アラブ首長国連邦
ブラジル
イタリア
ハンガリー
台湾
オーストラリア
ベルギー
スペイン
上海
ニュージーランド
フランス
カナダ
スロバキア
デンマーク
ロシア
マカオ
ルーマニア
アイルランド
ヨルダン
OECD平均
ルクセンブルグ
マレーシア
韓国
スウェーデン
セルビア
カザフスタン
イスラエル
スイス
日本
ポーランド
チェコ
カタール
イギリス
オーストリア
シンガポール
ラトビア
アメリカ
リヒテンシュタイン
香港
オランダ
アイスランド
リトアニア
ノルウェー
フィンランド
ドイツ
エストニア
10
20
30
40
50
60
70
80
90 100
このような明らかな差異は、各国、特にOECD加盟国
において見られる成績全体の違いの主要因に成り得
る。
一人当たりのGDPの影響を取り除いた後、PISA2012
調査に参加したすべての国・地域における数学的
リテラシーの得点の変動の19%は、
「 理科実験室の
機器・教材」
「教科書などの教材」
「教育用コンピュー
タ」
「インターネットに接続しているコンピュータ」
「
教育用コンピュータソフトウェア」
「 図書室における
教材」が十分にあるかという質問への校長の回答
の違いによって説明可能であった。OECD加盟国に
おいては、数学的リテラシーの得点の変動の少なく
とも30%は、どの程度公平にすべての学校へ資源
配分が行われているかによって、説明可能である。
乏しい教育資源が不公平に配分されているケー
スが余りにも多い。
教育資源が不十分だと校長が回答した学校にOECD
平均より多くの生徒が通う学校システムでは、社会経
済的に恵まれた学校と恵まれない学校の間で、資源
が公平に配分されていることが少ない。メキシコと
OECD非加盟国であるコスタリカ、ペルーでは多くの
学校で指導に支障をきたすほど資源が不足しており、
特に社会経済的に恵まれない学校で顕著である。
こ
れらの国では乏しい教育資源を社会経済的に恵まれ
た学校へ配分する傾向にある。対照的にフィンランド
では、社会経済的背景にかかわらず、
どの学校も同じ
質の資源を享受していると回答する校長が多く見ら
れた。
校長が指導に支障をきたすほど教育資源が不足して
社会経済的に恵まれない生徒
社会経済的に恵まれた生徒
いると答えた学校がOECD平均より少ない国・地域で
は、資源配分の公平性は必ずしも資源の妥当性に対
する認識とは関連しない。そして、資源の妥当性は学
校システムの平均得点とも関連しない。
注:図は、
「指導に支障をきたすほど、教科書などの教材が不足している状態であ
るか」
という質問に対し
「ある程度は不足している」
「大変不足している」
と校長が
回答した学校に通う生徒の割合を示している。社会経済的に恵まれた生徒と恵
まれない生徒の割合の差が大きい順に上から国を並べている。白い記号は、統
計的に有意差がないことを示す。
PISA in Focus – 2014/10 (October) © OECD 2014
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オーストラリアとOECD非加盟国のシンガポール、
カタ
ル)、低い(オーストラリア)
と様々なレベルにあること
ールを含む、教育資源が十分にあると校長が回答し
がわかる。
た学校に多くの生徒が通う国々では、資源の配分にお
ける公平性が、高い(シンガポール)、中程度(カター
資源配分の公平性が高いことは、教育資源の質の高さとは結び付かない
教育資源の配分
公平性が
高い
指標の平均値がOECD平均を下回る
コロンビア
コスタリカ
メキシコ
OECD 平均: 0.05
チュニジア
ペルー
公平性が
低い
指標の平均値がOECD平均を上回る
フィンランド 韓国 ドイツ
ハンガリー
チェコ
クロアチア ノルウェー
オランダ
イギリス
オーストリア
セルビア
モンテネグロ
リトアニア スロベニア
ラトビア
スロバキア
エストニア
シンガポール
ポルトガル 香港
カザフスタン
デンマークイタリア
アイスランド
スイス
スペイン
ロシア
ベルギー フランス
ルクセンブルグ
カタール
カナダ
日本
マレーシア
ギリシャ
台湾
ポーランド
イスラエル
ブルガリア
マカオ
ヨルダン
ルーマニア アラブ首長国連邦
スウェーデン
ベトナム
チリ
アイルランド
オーストラリア
アメリカ
トルコ
アルゼンチン
ウルグアイ
ニュージーランド
タイ
上海
インドネシア
ブラジル
R 2 = 0.33
質が
低い
R 2 = 0.01
質が
高い
教育資源
注:縦軸は、社会経済的に恵まれた学校と恵まれない学校の教育資源に関する質の指標の差を示す。
(恵まれた学校ー恵まれない学校)
横軸は、学校の教育資源に関する質の指標値を示す。
出典:OECD, PISA 2012 Database, Tables IV.3.16 and IV.3.17.
12 http://dx.doi.org/10.1787/888932957327
結論:良い成績を収めている学校システムにおいては、学校の社会経済的背景
にかかわらず、
より公平に資源配分が行われている。社会経済的に恵まれない
学校を支援することは、必ずしもより多くの資源を配分することを意味するの
ではなく、むしろ質の高い人的・物的資源を与えることを意味する。
本稿に関するお問合せ先
担当:Pablo Zoido ([email protected])
出典:OECD (2014), PISA 2012 Results: What Makes Schools Successful? Resources, Policies and Practices(Volume IV),
PISA, OECD Publishing, Paris.
参考サイト:
www.pisa.oecd.org
www.oecd.org/pisa/infocus
Education Indicators in Focus
Teaching in Focus
次回テーマ:
「PISA調査の成績から、
どの程度若年成人の
技能の習熟度を予測できるのか?」
Photo credit: © khoa vu/Flickr/Getty Images © Shutterstock/Kzenon © Simon Jarratt/Corbis
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© OECD 2014
PISA in Focus – 2014/10 (October)