線型作用素

線型作用素
(X, ∥ ∥X ), (Y, ∥ ∥Y ) をノルム空間とする.X から Y への線型写像を,線型作用素 (linear
operator) ともいう.T : X → Y を線型作用素とする.x ∈ X に対して,T (x) ∈ Y を簡単
に T x と書く.
T が a ∈ X において連続であるとは,任意に与えられた正の実数 ε > 0 に対して,
∥x − a∥X < δ =⇒ ∥T x − T a∥Y < ε
が成り立つような正の実数 δ > 0 が存在することである.この条件は,a に収束する X の
任意の点列 {xn } について,Y の点列 {T xn } が T a に収束すること,すなわち
lim T xn = T ( lim xn )
n→∞
n→∞
が成り立つことと同値である.
加法の連続性と T の線型性により,T がひとつの点 a ∈ X において連続ならば,T
はすべての点において連続,すなわち連続写像である.実際,{xn } が a に収束するとき,
b ∈ X に対して {xn + b} は a + b に収束する.T が a において連続ならば,
lim T (xn + b) = lim (T xn + T b) = T a + T b = T (a + b)
n→∞
n→∞
となるので,T は a + b においても連続である.このとき,線型写像 T は連続な線型作用
素という.
上記の議論により,線型作用素 T : X → Y について次の (i), (ii) は同値である.
(i) T はひとつの点 a ∈ X において連続である.
(ii) T は連続な線型作用素である.
よって,T が連続であることを示すには,たとえば a = 0 において T が連続であるこ
とを確認すればよい.
例 1 X = Y = C([0, 1]) を閉区間 [0, 1] で連続な関数全部の集合とする.x = x(t) ∈ X
に対して,そのノルム
∥x∥∞ = max |x(t)|
0≤t≤1
を考える.
∫
(T x)(t) =
t
x(s)ds
(0 ≤ t ≤ 1)
0
として T x ∈ Y を定めると,写像 T : X → Y は連続な線型作用素である.
実際,明らかに T は線型作用素である.x1 , x2 ∈ X に対して T x1 − T x2 = T (x1 − x2 )
で,
∫ t
∫ t(
) |x1 (s) − x2 (s)|ds
x1 (s) − x2 (s) ds ≤ max
∥T x1 − T x2 ∥∞ = max 0≤t≤1 0
0≤t≤1
0
∫ 1
=
|x1 (s) − x2 (s)|ds ≤ max |x1 (s) − x2 (s)| = ∥x1 − x2 ∥∞
0≤s≤1
0
が成り立つので,T は連続である.
1
例 2 X = C 1 ([0, 1]) を閉区間 [0, 1] で C 1 -級の関数全部の集合とし,Y = C([0, 1]) とす
d
る.x = x(t) ∈ X に対してその導関数を対応させる X から Y への写像 dt
を S とする.
(Sx)(t) =
d
x(t)
dt
S は線型写像であるが連続ではない.実際,xn (t) = n1 e−nt とすると Sxn (t) = −e−nt
で,
1
→ 0 (n → ∞),
∥Sxn ∥∞ = ∥ − e−nt ∥∞ = 1
∥xn ∥∞ =
n
なので,{Sxn } は S( lim xn ) = 0 に収束しない.よって,S は連続ではない.
n→∞
定理 線型作用素 T : (X, ∥ ∥X ) → (Y, ∥ ∥Y ) が連続であるための必要十分条件は,
∥T x∥Y ≤ M ∥x∥X
(x ∈ X)
を満たす定数 0 ≤ M ∈ R が存在することである.
証明 最初に,十分条件であることを示す.すべての x ∈ X に対して ∥T x∥Y ≤ M ∥x∥X
が成り立つような定数 M が存在すると仮定する.T が点 0 ∈ X で連続であることを示
せばよい.∥T xn ∥Y ≤ M ∥xn ∥X なので,X の点列 {xn } が 0 に収束するならば Y の点列
{T xn } は T 0 = 0 に収束する.よって,T は点 0 において連続である.
次に,必要条件であることを示す.どのように定数 M を定めても,それに対して
∥T x∥Y ̸≤ M ∥x∥X となるような x ∈ X が存在すると仮定する.このとき,n に対して
∥T xn ∥Y > n∥xn ∥X となる xn ∈ X が存在する.特に,xn ̸= 0 である.
x′n =
xn
n∥xn ∥X
とおくと,∥x′n ∥X = 1/n だから,{x′n } は 0 に収束する.一方,∥T x′n ∥Y > 1 なので,{T x′n }
は T 0 = 0 に収束しない.よって,T は連続ではない.
上記の定理の条件を満たす T を有界作用素 (bounded operator) という.定理により,
線型作用素に関しては,連続性と有界性は同値である.
(X, ∥ ∥X ) から (Y, ∥ ∥Y ) への有界な (すなわち連続な) 線型作用素全部の集合を
B(X, Y )
で表す.X = Y のときは B(X) とも書く.T, S ∈ B(X, Y ), α ∈ K に対して,
(T + S)x = T x + Sx,
(αT )x = α(T x)
(x ∈ X)
により定義される T + S と αT は X から Y への有界な線型作用素であり,これにより
B(X, Y ) は K 上のベクトル空間である.
T ∈ B(X, Y ) に対して,上記の定理の条件を満たす定数 M のうち最小のものを ∥T ∥ =
∥T ∥B(X,Y ) で表す.
∥T ∥ = ∥T ∥B(X,Y ) = sup
0̸=x∈X
∥T x∥Y
= sup ∥T x∥Y
∥x∥X
∥x∥X =1
= min{M ≥ 0 | ∥T x∥Y ≤ M ∥x∥X for all x ∈ X}
2
補題 ∥T ∥ は B(X, Y ) 上のノルムである.
証明 明らかに ∥T ∥ ≥ 0 で,∥T ∥ = 0 となるのは T = 0 のときに限る.また,α ∈ K
について ∥(αT )x∥Y = ∥α(T x)∥Y = |α| ∥T x∥Y なので,∥αT ∥ = |α| ∥T ∥ である.
S, T ∈ B(X, Y ) に対して,∥(S + T )x∥Y = ∥Sx + T x∥Y ≤ ∥Sx∥Y + ∥T x∥Y であるこ
とより,∥S + T ∥ ≤ ∥S∥ + ∥T ∥ がわかる.よって,∥T ∥ は B(X, Y ) 上のノルムである.
∥T ∥ = ∥T ∥B(X,Y ) を有界線型作用素 T の作用素ノルム (operator norm) という.B(X, Y )
の元の列 {Tn } が作用素ノルムに関して T ∈ B(X, Y ) に収束するとき,{Tn } は T に作用
素ノルムで収束する,あるいは一様収束するという.
補題 T ∈ B(X, Y ), S ∈ B(Y, Z) ならば,合成写像 S◦T を ST で表すと,ST ∈ B(X, Z)
で,
∥ST ∥ ≤ ∥S∥ ∥T ∥
証明 明らかに ST ∈ B(X, Z) である.x ∈ X に対して
∥(ST )x∥Z = ∥S(T x)∥Z ≤ ∥S∥ ∥T x∥Y ≤ ∥S∥ ∥T ∥ ∥x∥X
だから,∥ST ∥ ≤ ∥S∥ ∥T ∥ である.
定理 (X, ∥ ∥X ), (Y, ∥ ∥Y ) をノルム空間とする.(Y, ∥ ∥Y ) が Banach 空間ならば,
B(X, Y ) は作用素ノルムに関して Banach 空間である.
証明 {Tn } を B(X, Y ) における Cauchy 列とする.よって,ε > 0 に対して番号 N が
存在して,m, n > N ならば ∥Tm − Tn ∥ < ε である.作用素ノルムの定義により,任意の
x ∈ X について
∥Tm x − Tn x∥Y = ∥(Tm − Tn )x∥Y ≤ ∥Tm − Tn ∥ ∥x∥X
が成り立つ.x をひとつ固定すると,m, n > N ならば
∥Tm x − Tn x∥Y ≤ ε ∥x∥X
なので,{Tn x} は Y の元の Cauchy 列である.仮定により (Y, ∥ ∥Y ) は Banach 空間なの
で,{Tn x} は Y において収束する.その極限を T x ∈ Y で表すことにより,X から Y へ
の写像 T が得られる.
T x = lim Tn x
n→∞
写像 T : X → Y は線型写像である.実際,u, v ∈ X および α, β ∈ K に対して,
T (αu + βv) = lim Tn (αu + βv)
n→∞
= α lim Tn u + β lim Tn v = αT u + βT v
n→∞
n→∞
が成り立つ.
ノルム ∥ ∥Y の連続性により,m > N を固定して n → ∞ とすると,
∥Tm x − T x∥Y = lim ∥Tm x − Tn x∥Y ≤ ε∥x∥X
n→∞
3
となる.これにより
∥T x∥Y ≤ ∥Tm x − T x∥Y + ∥Tm x∥Y ≤ (ε + ∥Tm ∥)∥x∥X
がわかる.x ∈ X は任意だから,T は有界作用素である.
x ̸= 0 ならば,(Tm − T )x = Tm x − T x について
∥(Tm − T )x∥Y
∥Tm x − T x∥Y
=
≤ε
∥x∥X
∥x∥X
である.これがすべての 0 ̸= x ∈ X について成り立つので,
∥Tm − T ∥ ≤ ε
(m > N )
である.すなわち,{Tn } は作用素ノルムに関して T ∈ B(X, Y ) に収束する.以上により,
定理が証明された.
K = R, C において絶対値 |α| はノルムであり,このノルムに関して K は Banach 空間
である.ノルム空間 (X, ∥ ∥X ) から K への線型写像を線型汎関数 (linear functional) とい
う.有界,すなわち連続な線型汎関数全部の集合を X ∗ で表し,X の共役空間 (conjugate
space) または双対空間 (dual space) という.
X ∗ = B(X, K)
注意 K 上のベクトル空間 X から K への線型写像全部の集合を HomK (X, K) で表す.
X が有限次元ならば X ∗ = HomK (X, K) で X の次元と X ∗ の次元は一致するが,X が無
限次元のときは X ∗ と HomK (X, K) は等しくない.
上記の定理により,次のことがわかる.
系 ノルム空間 (X, ∥ ∥X ) の共役空間 X ∗ は作用素ノルムに関して Banach 空間である.
e ∥ ∥ e ) をノルム空間,(Y, ∥ ∥Y ) を Banach 空間とし,
定理 (有界線型作用素の拡張) (X,
X
e において稠密な部分空間とする.このとき,T ∈ B(X, Y ) に対して,Te ∈ B(X,
e Y)
X をX
で T の拡張であるものが一意的に存在する.さらに,作用素ノルムに関して
∥T ∥B(X,Y ) = ∥Te∥B(X,Y
e )
が成り立つ.
e を任意にひとつとる.X は X
e において稠密な
証明 γ = ∥T ∥B(X,Y ) とし,x ∈ X
ので,X の点列 {xn } で x に収束するものが存在する.特に,{xn } は Cauchy 列である.
∥T xm − T xn ∥Y ≤ γ∥xm − xn ∥X だから,Y の点列 {T xn } は Cauchy 列である.(Y, ∥ ∥Y ) は
Banach 空間だから,{T xn } は Y において収束する.その極限は,x に収束する X の点列
{xn } のとり方に依存しない.実際,{x′n } を x に収束する X の点列とすると,∥xn −x′n ∥X →
0 (n → ∞) で ∥T xn −T x′n ∥Y ≤ γ∥xn −x′n ∥X だから, lim T xn = lim T x′n である.よって,
n→∞
Tex = lim T xn
n→∞
として x ∈ X に対して Tex ∈ Y を定義することができる.
4
n→∞
e → Y ; x 7→ Tex が線型写像であることがわか
和とスカラー倍の連続性により,Te : X
る.x ∈ X ならば,xn = x として定まる X の点列 {xn } について Tex = lim T xn = T x な
n→∞
ので,Te は T の拡張である.さらに,xn ∈ X に対して ∥xn ∥X = ∥xn ∥Xe であること,およ
びノルムの連続性により
∥Tex∥Y = ∥ lim T xn ∥Y = lim ∥T xn ∥Y ≤ lim γ∥xn ∥X = γ∥x∥Xe
n→∞
n→∞
n→∞
が成り立つ.このことから,Te が有界で ∥T ∥B(X,Y ) = ∥Te∥B(X,Y
e ) であることがわかる.
e Y ) も T の拡張とする.x ∈ X
e に対して,x に収束する X の点列 {xn } をと
Te′ ∈ B(X,
る.Te, Te′ の連続性,および Texn = Te′ xn = T xn より (Te − Te′ )xn = 0 となることから,
(Te − Te′ )x = lim (Te − Te′ )xn = 0
n→∞
e Y ) の元で T の拡張となるものは一意的である.
となる.よって,Te = Te′ なので,B(X,
以上により,定理が証明された.
有界線型作用素の例
1. 有限次元ノルム空間の線型作用素
有限次元ベクトル空間のノルムはすべて互いに同値で,ノルムに関して Banach 空間
である.X = K n , Y = K m をそれぞれ n 次元および m 次元数ベクトル空間とし,標
準内積から定まるノルムを考える.A = (aij ) を m × n 行列とする.x ∈ K n に対し
て,行列 A を左からかけることにより得られる Ax ∈ K m を対応させる写像を T で表す.
T : K n → K m ; T x = Ax.T は有界な線型作用素で,作用素ノルム ∥T ∥ について
√
max |aij | ≤ ∥T ∥ ≤ mn max |aij |
i,j
i,j
が成り立つ.


x1
 
実際,明らかに T は連続な線型写像である.γ = max |aij | とおくと,x =  ...  に対
i,j
xn
∑n
m
して T x = Ax ∈ K の第 i 成分は j=1 aij xj だから,Schwarz の不等式により
m ∑
n
m
n
n
2 ∑
∑
(∑
)( ∑
)
2
(∥T x∥K m ) =
aij xj ≤
|aij |
|xj |2
2
i=1
≤
j=1
m
n
∑
(∑
i=1
i=1
j=1
j=1
(
)2
)(
)2
γ 2 ∥x∥K n = mnγ 2 ∥x∥K n
j=1
√
なので,∥T ∥ ≤ mn γ である.
一方,γ = |aij | が成り立つような j をひとつ固定する.K n の j 番目の単位ベクトルを
ej とすると T ej ∈ K m の第 i 成分は aij だから,
γ ≤
2
m
∑
)2
(
|aij |2 = ∥T ej ∥K m
i=1
が得られる.∥ej ∥K n = 1 なので,γ ≤ ∥T ∥ である.
5
2. 数列空間 lp (1 ≤ p ≤ ∞) の左シフトと右シフト
x = (xn )∞
n=1 = (x1 , x2 , . . .) ∈ lp に対して
T1 x = (x2 , x3 , . . .),
T2 x = (0, x1 , x2 , . . .)
として lp から lp への写像 T1 , T2 を定めると,これらは有界な線型作用素で,作用素ノル
ムについて
∥T1 ∥ ≤ 1,
∥T2 ∥ = 1
が成り立つ.
3. α = (αn )∞
n=1 ∈ l∞ とする.よって,∥α∥l∞ = sup |αn | < ∞ である.1 ≤ p ≤ ∞ と
n
し,x = (xn )∞
n=1 ∈ lp に対して
T x = (αn xn )∞
n=1 = (α1 x1 , α2 x2 , . . .)
として lp から lp への写像 T を定めると,T は有界な線型作用素で,作用素ノルムについて
∥T ∥ = ∥α∥l∞
が成り立つ.
実際,明らかに T は線型写像である.γ = ∥α∥l∞ とおく.γ = 0 ならば αn = 0 (n =
1, 2, . . .) で ∥T ∥ = γ = 0 なので,γ > 0 と仮定する.
1 ≤ p < ∞ とする.
p
(∥T x∥lp ) =
∞
∑
|αn xn | ≤ γ
p
n=1
p
∞
∑
|xn |p = γ p (∥x∥lp )p
n=1
なので,∥T ∥ ≤ γ である.ε > 0 に対して,γ − ε < |αn | となる n が存在する.第 n 成分
が 1 で他の成分がすべて 0 である x = (0, . . . , 0, 1, 0, . . .) について,
γ − ε < |αn | = ∥T x∥lp ≤ ∥T ∥ ∥x∥lp = ∥T ∥
が成り立つ.ε > 0 は任意なので,∥T ∥ ≤ γ と合わせて ∥T ∥ = γ がわかる.
p = ∞ とする.∥ ∥l∞ の定義から,x ∈ l∞ ならば ∥T x∥l∞ ≤ ∥α∥l∞ ∥x∥l∞ がわかるの
で,∥T ∥ ≤ γ である.ε, n, x を上記と同じものとすると,
γ − ε < |αn | = ∥T x∥l∞ ≤ ∥T ∥ ∥x∥l∞ = ∥T ∥
となる.ε > 0 は任意なので,∥T ∥ ≤ γ と合わせて ∥T ∥ = γ がわかる.
4. かけ算作用素
ρ = ρ(t) ∈ L∞ (X) とする.1 ≤ p ≤ ∞ とし,x = x(t) ∈ Lp (X) に対して
(T x)(t) = ρ(t)x(t)
として T x ∈ Lp (X) を定めると,T は Lp (X) から Lp (X) への有界な線型作用素で,その
作用素ノルム ∥T ∥ は ρ の L∞ (X) におけるノルム ∥ρ∥∞ に一致する.
∥T ∥ = ∥ρ∥∞
6
実際,γ = ∥ρ∥∞ とおき,1 ≤ p < ∞ と p = ∞ の場合に分けて考える.1 ≤ p < ∞ の
とき,x = x(t) ∈ Lp (X) に対して
∫
∫
p
p
p
p
(∥T x∥p ) =
|ρ| |x| dt ≤ γ
|x|p dt = γ p (∥x∥p )p
X
X
なので,∥T ∥ ≤ γ である.
γ = 0 ならば,∥T ∥ = ∥ρ∥∞ = 0 が成り立つので,γ > 0 と仮定する.γ > ε > 0 を満
たす ε を任意にひとつとる.このとき,∥ ∥∞ の定義により,
ρ(t) > γ − ε (t ∈ A)
µ(A) > 0,
を満たす可測集合 A が存在する.ただし,µ(A) は A の測度である.
x=
1
χA
µ(A)1/p
とする.ここで,χA は A の定義関数
{
1 (t ∈ A)
χA (t) =
0 (t ∈
̸ A)
である.このとき,
∫
1
(∥T x∥p ) =
|ρ| |x| dt =
µ(A)
X
p
p
∫
|ρ|p dt > (γ − ε)p
p
A
だから,∥T x∥p > γ − ε である.∥x∥p = 1 なので,γ − ε < ∥T ∥ が成り立つ.ε は任意な
ので,∥T ∥ ≤ γ と合わせて ∥T ∥ = γ がわかる.
p = ∞ とする.∥ ∥∞ の定義から,x ∈ L∞ (X) ならば ∥ρx∥∞ ≤ ∥ρ∥∞ ∥x∥∞ なので,
∥T ∥ ≤ γ である.
ε と A を上記のものとし,x = χA とすると
∥ρx∥∞ > γ − ε
が成り立つ.∥x∥∞ = 1 だから,γ − ε < ∥T ∥ である.ε は任意なので,∥T ∥ ≤ γ と合わせ
て ∥T ∥ = γ がわかる.
5. 積分作用素
Ω を Lebesgue 測度空間 (Rn , M(Rn ), µ) の開集合とする.直積集合 Ω × Ω ⊂ R2n 上の
2 乗可積分な関数 k = k(t, s) ∈ L2 (Ω × Ω) をひとつ定める.このとき,x = x(t) ∈ L2 (Ω)
に対して
∫
(T x)(t) = k(t, s)x(s)ds
Ω
として T x を定めると,T x ∈ L2 (Ω) で,写像 T : L2 (Ω) → L2 (Ω) ; x 7→ T x は有界な線型
作用素であり,作用素ノルムについて
∥T ∥ ≤ ∥k∥L2 (Ω×Ω)
7
が成り立つ.ただし,
∥k∥L2 (Ω×Ω) =
(∫
|k(t, s)|2 dtds
)1/2
Ω×Ω
は,k = k(t, s) の L2 (Ω × Ω) におけるノルムである.
k = k(t, s) を積分核,T を Hilbert-Schmidt 型の積分作用素という.
実際,明らかに T は線型作用素である.Schwarz の不等式により
∫
|(T x)(t)| ≤ |k(t, s)| |x(s)| ds
Ω
(∫
)1/2 ( ∫
)1/2
2
≤
|k(t, s)| ds
|x(s)|2 ds
Ω
Ω
だから,
|(T x)(t)| ≤
2
(∫
|k(t, s)| ds
2
)(
∥x∥2
)2
Ω
この両辺は t の関数であるが,その Ω 上の積分をとる.Fubini の定理により
∫
∫ (∫
)
2
|k(t, s)|2 dtds
|k(t, s)| ds dt =
Ω
Ω×Ω
Ω
なので,
∥T x∥2 ≤ ∥k∥L2 (Ω×Ω) ∥x∥2
が得られる.x ∈ L2 (Ω) は任意だから,T が有界で作用素ノルムについて ∥T ∥ ≤ ∥k∥L2 (Ω×Ω)
が成り立つことがわかる.
6. たたみ込み作用素 (convolution operator)
ρ = ρ(t) ∈ L1 (Rn ) とする.すなわち,ρ は Lebesgue 測度空間 (Rn , M(Rn ), µ) 上の可
積分な関数である.1 ≤ p ≤ ∞ とし,x = x(t) ∈ Lp (Rn ) に対して
∫
(T x)(t) =
ρ(t − s)x(s)ds
Rn
として T x を定めると,T x ∈ Lp (Rn ) で,写像 T : Lp (Rn ) → Lp (Rn ) ; x 7→ T x は有界な
線型作用素であり.作用素ノルムについて
∥T ∥ ≤ ∥ρ∥1
が成り立つ.
T x = ρ ∗ x と表し,たたみ込み (convolution) という.
7. Young の不等式
上記の例の一般化として,次のことが成り立つ.1 ≤ p, r ≤ ∞ で
1 1
+ ≥1
p r
を満たすものをとる.1 ≤ q ≤ ∞ を
1
1 1
= + −1
q
p r
8
となるようにとる.このとき,ρ ∈ Lr (Rn ), x ∈ Lp (Rn ) に対して
∫
(T x)(t) =
ρ(t − s)x(s)ds
Rn
として T x を定めると,T x ∈ Lq (Rn ) で,写像 T : Lp (Rn ) → Lq (Rn ) ; x 7→ T x は有界な
線型作用素であり.作用素ノルムについて
∥T ∥ ≤ ∥ρ∥r
が成り立つ.
8. 軟化作用素 (mollifier)
Rn 上の関数 f = f (t) について,{t ∈ Rn | f (t) ̸= 0} の閉包を f の台 (support) といい,
supp f で表す.Rn 上の無限回微分可能な関数全部の集合を C ∞ (Rn ) で表し,そのうち台
がコンパクトであるもの全部の集合を C0∞ (Rn ) で表す.
ρ = ρ(t) は Rn 上の関数で,次の 3 つの条件を満たすものとする.
(1) ρ ∈ C0∞ (Rn ), supp ρ ⊂ {t ∈ Rn | |t| ≤ 1}
(2) ρ(t) ≥ 0
∫
(3)
ρ(t)dt = 1
Rn
たとえば n = 1 のとき,
ρ(t) =
{
1
(|t| < 1)
C exp(− 1−|t|
2)
(|t| ≥ 1)
0
とし,定数 C は条件 (3) を満たすようにとると,この ρ は 3 つの条件を満たす.
ε > 0 に対して,
1 (t)
ρε (t) = n ρ
ε
ε
として ρε を定める.ρε について,
∫
∞
n
n
ρε ∈ C0 (R ), supp ρε ⊂ {t ∈ R | |t| ≤ ε}, ρε (t) ≥ 0,
ρε (t)dt = 1
Rn
が成り立つ.
1 ≤ p < ∞ とする.f ∈ Lp (Rn ) に対して,
∫
fε (t) =
ρε (t − s)f (s)ds
Rn
として fε を定めると,次の (i), (ii), (iii) が成り立つ.
(i) fε ∈ C ∞ (Rn )
(ii) ∥fε ∥p ≤ ∥f ∥p
(iii) ∥fε − f ∥p → 0 (ε → 0)
f の台が有界ならば,(i) において fε ∈ C0∞ (Rn ) である.
9
Jε : Lp (Rn ) → C ∞ (Rn ) ; f → Jε f = fε を軟化作用素という.
8 の系 1 ≤ p < ∞ ならば,C0∞ (RN ) は Lp (RN ) において稠密である.
実際,h ∈ Lp (RN ) を任意にひとつとり,
{
h(t)
hn (t) =
0
( |t| < n )
( |t| ≥ n )
として hn = hn (t) を定める.hn ∈ Lp (RN ) で hn の台は有界であり,∥hn − h∥p → 0
(n → ∞) を満たす.軟化作用素 Jε を作用させると,Jε hn ∈ C0∞ (RN ) で,各 n について
∥Jε hn − hn ∥p → 0 (ε → 0) が成り立つ.よって,n に対して ∥Jεn hn − hn ∥p < 1/n となる
εn > 0 が存在する.gn = Jεn hn ∈ C0∞ (RN ) とすると,∥gn − h∥p → 0 (n → ∞) である.
よって,C0∞ (RN ) は Lp (RN ) において稠密である.
線型写像 T : X → Y が全単射のとき,その逆写像 T −1 : Y → X; T x 7→ x は線型写像
で全単射であり,T −1 T = IX , T T −1 = IY を満たす.ただし,IX , IY はそれぞれ X およ
び Y 上の恒等写像である.また,(T −1 )−1 = T が成り立つ.T −1 を T の逆作用素 (inverse
operator) という.
例 X = C([0, 1]), Y = {y(t) ∈ C 1 ([0, 1]) | y(0) = 0} とする.2 つの線型写像
∫
t
T : X → Y ; x = x(t) 7→ (T x)(t) =
x(s)ds
0
S : Y → X ; y = y(t) 7→ (Sy)(t) =
d
y(t)
dt
について,(ST )x = x, (T S)y = y だから S = T −1 , T = S −1 である.
X = Y のとき,B(X, X) を簡単のため B(X) で表す
定理 (C. Neumann 級数) (X, ∥ ∥X ) を Banach 空間とし,T ∈ B(X) の作用素ノル
ムは ∥T ∥ < 1 を満たすとする.このとき,
I − T : X → X は全単射で,(I − T )−1 ∈ B(X)
∑∞
である.B(X) において n=0 T n は収束し,
−1
(I − T )
=
∞
∑
Tn = I + T + T2 + ···
n=0
が成り立つ.さらに,作用素ノルムについて
∥(I − T )−1 ∥ ≤
1
1 − ∥T ∥
成り立つ.ただし,I は X 上の恒等写像である.
証明
Sn =
n
∑
Tk = I + T + ··· + Tn
k=0
10
とする.作用素ノルムについて ∥T k ∥ ≤ ∥T ∥k だから,m < n ならば
∥Sm − Sn ∥ = ∥
n
∑
T k∥ ≤
k=m+1
となる.仮定により ∥T ∥ < 1 なので,級数
∞
∑
n
∑
∥T k ∥ ≤
k=m+1
∑∞
n=0
∥T ∥n ≤
n=0
n
∑
∥T ∥k
k=m+1
∥T ∥n は収束して,
1
1 − ∥T ∥
である.よって,{Sn } は B(X) における Cauchy 列である.B(X) は Banach 空間だから,
{Sn } は B(X) において収束する.その極限を S とおく.S ∈ B(X) で
S = lim Sn =
n→∞
∞
∑
Tn
n=0
である.
(I − T )Sn = Sn (I − T ) = I − T n+1
であること,および ∥T n ∥ ≤ ∥T ∥n → 0 (n → ∞) であることから,I − T ∈ B(X) の連続
性により
(I − T )S = S(I − T ) = lim (I − T n+1 ) = I
n→∞
が得られる.よって,I − T は全単射で,(I − T )−1 = S である.
n
n
∑
∑
1 − ∥T ∥n+1
1
k
∥T ∥k =
T ≤
∥Sn ∥ =
≤
1 − ∥T ∥
1 − ∥T ∥
k=0
k=0
だから,ノルムの連続性により
∥S∥ = lim Sn = lim ∥Sn ∥ ≤
n→∞
n→∞
1
1 − ∥T ∥
が成り立つ.
∑∞
2
n=0 I + T + T + · · · を,T の C. Neumann の級数という.
(X, ∥ ∥X ) が Banach 空間で T ∈ B(X) が ∥T ∥ < 1 を満たすとき,上記の定理により,
y ∈ X に対して
x − Tx = y
を満たす x ∈ X は唯一つ存在し,それは
−1
x = (I − T ) y =
∞
∑
T ny
n=0
で与えられることがわかる.
より一般に,0 ̸= λ ∈ C として λI − T = λ(I − (1/λ)T ) について考える.∥T ∥ < |λ| な
らば ∥(1/λ)T ∥ < 1 だから,前定理により次のことがわかる.
11
(i) λI − T : X → X は全単射で,(λI − T )−1 ∈ B(X) である.
∞
∑
1
−1
(ii) (λI − T ) =
Tn
n+1
λ
n=0
(iii) ∥(λI − T )−1 ∥ ≤
1
|λ| − ∥T ∥
よって,y ∈ X に対して
λx − T x = y
を満たす x ∈ X は唯一つ存在し,
∞
∑
1
x=
T ny
n+1
λ
n=0
である.
定理 (X, ∥ ∥X ) を Banach 空間とし,T ∈ B(X) は全単射で T −1 ∈ B(X) とする.こ
のとき,S ∈ B(X) が
1
∥T − S∥ <
∥T −1 ∥
を満たすならば,S は全単射で,S −1 ∈ B(X) であり,作用素ノルムについて次の不等式
が成り立つ.
∥T −1 ∥
1 − ∥T −1 ∥ ∥T − S∥
∥T −1 ∥2 ∥T − S∥
∥S −1 − T −1 ∥ ≤
1 − ∥T −1 ∥ ∥T − S∥
∥S −1 ∥ ≤
(
)
証明 1 = ∥I∥ = ∥T −1 T ∥ ≤ ∥T −1 ∥ ∥T ∥ に注意する.S = T I − T −1 (T − S) におい
て,仮定により
∥T −1 (T − S)∥ ≤ ∥T −1 ∥ ∥T − S∥ < 1
−1
だから,F = T −1 (T
∑∞− S)nとすると,前定理により I − F は全単射で (I − F ) ∈ B(X)
である.さらに, n=0 F は B(X) において収束して,
−1
(I − F )
=
∞
∑
Fn
n=0
が成り立つ.
S = T (I − F ) なので,T に関する仮定により S は全単射で,S −1 = (I − F )−1 T −1 ∈
B(X) であることがわかる.作用素ノルムについて,前定理により
∥(I − F )−1 ∥ ≤
1
1 − ∥F ∥
であるが,∥F ∥ ≤ ∥T −1 ∥ ∥T − S∥ < 1 だから,
1
1
≤
−1
1 − ∥F ∥
1 − ∥T ∥ ∥T − S∥
12
なので,
∥S −1 ∥ ≤ ∥(I − F )−1 ∥ ∥T −1 ∥ ≤
∥T −1 ∥
1 − ∥T −1 ∥ ∥T − S∥
が得られる.
∑
n
S −1 = (I − F )−1 T −1 で (I − F )−1 = ∞
n=0 F なので,
S −1 − T −1 =
∞
(∑
n=1
∞
)
(∑
)
F n T −1 = F
F n T −1 = F (I − F )−1 T −1 = F S −1
n=0
である.よって,
∥S −1 − T −1 ∥ ≤ ∥F ∥ ∥S −1 ∥ ≤ ∥T −1 ∥ ∥T − S∥ ∥S −1 ∥
がわかる.この不等式と 1 番目の不等式から,2 番目の不等式が得られる.
13