2016 年度後期 マクロ経済学 2 第 9 回 ローマーモデル Macro 2 第 9 回 Page1 今回の講義 ● ● 前々回のソローモデルによれば、長期の経済成長率は ( 労働 ) 人口成長率+技術進歩 率。ソローモデルではどちらも外生変数。 実際にはどちらも経済的要因の影響を受ける ( 前々回、技術進歩率を引き上げる具体的な政 策として、知的所有権に対する適切な規制と基礎的研究開発に対する公的支出を挙げた ) 。技術 進歩率や人口成長率が内生的に決定されるモデルがより望ましい。 ● 今回 – 技術の性質 – 技術進歩を内生化した代表的な内生的成長モデル:ローマー (Romer) モデル – ローマーモデルにおいて技術進歩率そして経済成長率は何によって決まるの か? Macro 2 第 9 回 Page2 技術の性質 ● ● 新しい技術は大学などの研究・教育機関や政府・企業の研究所や工場での研究開発 (R & D) によって生まれる。 より優れた技術はより多くの生産要素を投入するのと同様に産出量を高めるが、技術 と生産要素の性質には大きな違いがある。生産要素が物体であるのに対し、技術はア イデアであることが違いの理由。*現行の SNA では R & D は投資に含まれていないが、 2008SNA で は含まれるように。 生産要素がその使用において競合的 (rival) であるのに対し、技術は非競合的 (nonrival) *企業などの生産者は他の生産者が開発した技術を利用できる。国レベルでいえ ば、技術の遅れた途上国は先進国で開発された技術を導入できる。 生産要素が高い排除性 (excludability) を確保しやすいのに対し、技術は難しい *何らかの法的保護 ( 特許や著作権など ) がなければ、技術開発者が技術開発か ら得られる利益を充分確保することは難しく、技術開発に取りくむ充分なインセ ンティブが得られない傾向が強い。*政府が基礎研究に関わる大きな理由は技術の持 つこれらの性質による ● このような技術の性質を踏まえてモデルを構築する Macro 2 第 9 回 Page3 ローマー (Romer) モデル ● ● ● 技術進歩を内生化した代表的な成長モデル。技術進歩=新しい種類の財の開発 ここで取り上げるのは企業の利潤追求行動と技術開発との間のミクロレベルの関係を 省略した単純なバージョン。モデルの性質は両者の関係を考慮したモデルと同じであ るが、技術進歩=新しい種類の財の開発にはなっていない。これについては Jones and Vollrath, Introduction to Economic Growth, 5.2 を参照 ( 連続時間モデル ) 一国というより新技術の開発国 ( 主に先進国 ) 全体を描写したモデルと解釈するのが妥 当。*技術の性質から先進国でも用いる技術の大部分は ( 少なくとも基本的なアイデアは ) 他国産。要素と 違い自ら支出したもの以外も利用可能 ( 使用に特許料を支払ったり他国のアイデアをベースに類似技術を開 発するのはゼロから開発するよりはるかに低コスト。 ) ● 最終財の生産関数 α 1− α Y t =K t ( A t LYt ) , LYt : 生産活動に従事する労働力 ● 資本蓄積式 ∆ K t =I t− δ K t , 0<δ<1, ∆ K t ≡ K t +1− K t ● ● 労働人口成長 ( 外生 ) ∆ Lt =n Lt 投資関数 I t =s Y t , 0< s<1 Macro 2 第 9 回 Page4 ローマー (Romer) モデル (2) ● 新技術生産関数 ( 学生用は全ての式なし ) 技術開発の生産性が既存技術のストックに依存する場合 技術の蓄積が大きいほど技術開発が容易に ( 困難に ) *技術はアイデ アであることに注意。既存のアイデアの蓄積が新しいアイデアを生み出す生産性に及ぼす影響 加えて技術開発の生産性が従事する ( 他の ) 労働力の減少関数である場合 *同様の技術開発に多くの研究者が取りくんでいる場合。 技術はアイデアであり非競合的であり排除性が低いことを反映。 ● これらを考慮すると 労働力の配分 ( 学生用は式なし ) Macro 2 第 9 回 Page5 均斉成長 全ての変数が一定率で変化する均斉成長 (balanced growth) 経路を考える。このときソロー モデル同様 となることがわかる ( 学生は式なし ) *資本蓄積式より投資と資本の成長率が等しくなり、投資関数より gY=gK 。そして生産関数よ ● り結果が得られる。*労働投入量あたりの産出量の成長率は技術進歩と等しくなる。*ソローモデルと同じ結果。 ● 技術進歩率の導出 ( 学生は式なし ) *明らかに でなければ BGP は存在しない。 近似的には * Romer(1990) では であり、 gA は LA 増加とともに上昇し続ける (SS 存在せず ) *人口成長率と技術進歩率との関係:増加関数。新技術生産関数で が一定の場合 ( 、 ) 、つ まり過去の技術の蓄積や ( 他の )R&D 従事者の影響がない場合を考えると分かりやすいが、このとき新技術の数は R&D 従事者の数に比例。 R&D 従事者は人口の一定割合と仮定されているので、技術進歩率は人口成長率に等しい。 *ソローモデルでは人口成長率の上昇は一人あたり資本を希釈させ、短中期的に成長率を低下させる。マルサスモデル では人口が増加すると一人あたりの土地が少なくなり、所得水準が低下するのと対照的。 *投資率 ( 貯蓄率 ) と技術進歩率との関係:*ソローモデル同様、長期の技術進歩率・経済成長率は投資率 や政策に依存しない。 R&D 従事者の割合にも依存しない。 ( シュンペーターモデルでは政策が長期成長率に影響 ) *新技術生産関数のパラメターと技術進歩率との関係:*過去の技術の蓄積が技術開発の生産性にプラス ( マイナス ) の影響を及ぼすとき、つまり >(<)0 のとき、(他の R&D 従事者の存在の負の影響がなければ)技術 進歩率は人口成長率を上回る ( 下回る ) 。さらに ( 他の )R&D 従事者の存在が、技術開発の生産性に及ぼすマイナス の影響が大きいとき、つまり が小さいとき、技術進歩率は低くなる。 Macro 2 第 9 回 Page6 移行過程 変数の変化率が一定でない場合の分析。Φ<1 を仮定。 ● 技術進歩以外の部分はソローモデルと基本的に同じであり、技術進歩率は資本蓄積とは 独立に決まることに注意。 ( 学生用は式なし ) ● したがって技術進歩率を上式によって求めた後、残りの変数の動きはソローモデルと同 様に分析すればよい。 ● ソローモデルの結果 ( 第 7 回 Page 6) を参考にすると、実効労働あたりの資本ストック と産出量の変化率は α α− 1 ● [( ) k t +1 kt 1 =1+ s γ A kt 1+g A ,t +n − (δ+g A ,t +n) ] ( ) y t +1 k t +1 = yt kt L0λ 当初の技術水準と資本ストック ( 特に後者 ) が低く、したがって が定常状態水準 − A 10 Φ k0 よりも高く が定常状態水準よりはるかに低い場合を考える *「はるかに」: gA,0 のもとでの k* より低い ● Macro 2 第 9 回 Page7 移行過程 (2) ● 技術進歩率の時間的変化 ( 学生用はグラフなし ) *技術進歩率の低下が最初は 大きく、だんだん小さくなっ ていくことが式からわかる。 Macro 2 第 9 回 Page8 移行過程 (3) ● 労働投入量あたり資本ストックと産出量の成長率の時間的変化 *実効労働あたり資本ストックの変化 Page 7 の式より * k0 が「一時的」定常状態水準より低く gA,t が減少していく ( つまり直線の傾きが 緩やかになっていき k* が遠ざかっていく ) ので、 kt は上昇していく (kt の変化率の変化ははっきりしない ) 。 *労働投入量あたり資本ストックの成長率 ~ k t+1 1+g A , t k t +1 1− α α− 1 = s ( 1− γ A ) なので、 k t ) +(1− δ) Page 7 の式より ~ =(1+g A , t ) ( k t 1+g A , t +n kt 当初技術進歩率が高く、 k が低いので、一人あたり資本の成長率は高い。以降は技術 進歩率が低下し、 k が上昇していくので、一人あたり資本の成長率は低下していく。 最終的には先に分析した均斉成長経路に収束する。 *労働投入量あたり産出量の成長率 ~ α ~ α 1− α y k 1 −α t +1 t+1 Y t =K t ( A t LYt ) より なので、 =(1+ g A , t ) ~ ~ yt kt [ ] ( ) ● モデルのパラメター ( 定数 ) の変化が一時的そして長期的にどのような影響を及ぼすか を分析することもできる。 Macro 2 第 9 回 Page9
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