価格が伸縮的な場合の開放経済モデル

2016 年度後期 マクロ経済学 2
第 3 回 価格が伸縮的な場合の開放経済モデル Macro 2 第 3 回 page1
今回の講義
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前回の講義 –
財市場と金融市場における対外取引の重要性、両市場の取引の関係
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名目為替レートと実質為替レート –
国際収支
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金利平価条件 今回の講義:価格が伸縮的な場合の開放経済モデル。政策等の長期的影響の分析に用
いる。
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モデル
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貯蓄、投資、貿易収支の決定
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政策の貿易収支への影響
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実質為替レートの決定
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政策の実質為替レートへの影響
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名目為替レートの決定
Macro 2 第 3 回 page2
モデルの基本的設定
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モデルを一言でいうと、価格が伸縮的な場合の資本移動が自由な小国開放経済モデル
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価格が伸縮的:時間が十分に経過した長期。
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このモデルにおける政策等の影響は長期的影響。
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( 国内 ) 総生産 (GDP) は財の供給側のみによって決定される ( 教科書 3 章 ) 。 具体的には生産技術と生産要素によって決まる。
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価格が伸縮的なモデルの総生産のことを自然産出量 (natural level of output) ある
いは潜在産出量 (potential output) と呼ぶ。*テキストにはない。テキストにある自然失業率
に対応する産出量。
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自由な資本 ( 資金 ) 移動:前回導出した金利平価条件 (interest parity condition) が成立。
小国開放経済 (small open economy): この国が世界市場に占める割合は小さく、この国の
経済活動は世界 ( 外国 ) 市場の価格 ( 利子率を含む ) ・数量に影響しない。この国に
とって世界 ( 外国 ) の変数は所与 ( 外生変数 ) 。
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日本など経済規模の大きな国についてはこの仮定は現実的とは言えない。大国
開放経済 (large open economy) のモデルについては教科書 5 章の補論を参照。
Macro 2 第 3 回 page3
モデル
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財市場 ( 学生用は恒等式なし、変数の説明あり )
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*GDP の総需要構成
NX :純輸出(=輸出-輸入) , I :民間投資
恒等式 ( 前回 ):
* 貯蓄の定義より。S :国内総貯蓄 , I T :国内総投資
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総供給の決定 ( 教科書 3 章 ) *先ほどの「資本移動」の資本とは意味が違う。
Y =Ȳ =F ( K̄ , L̄), K̄ :資本ストック(定数) , L̄:労働(定数), F ():生産関数
*経済成長のモデル (II 巻 1-2 章 ) では生産要素・生産技術一定の仮定ははずされる。生産要素、
生産技術一定の仮定は単純化のため ( 前期に学んだ景気循環・マクロ経済政策のモデルに共通 ) 。
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国内需要の各項目の決定 ( 教科書 3 章 ) *海外需要については後ほど
Y : 総所得 ( =総生産 ) , ( 民間 ) 消費関数 C=C (Y − T )
T : 租税-所得移転 ( 外生変数 )
(+ )
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*Y-T :家計の可処分所得
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I =I (Y , r) ( 教科書とは異なる )
( 民間 ) 投資関数 (+, - ) Y : 総需要・総所得 (=総生産 )
r : 実質利子率
政府支出 G は外生変数 *政府消費 + 投資
金融市場:実質金利版の ( カバーなし ) 金利平価条件 ( 前回 ) ( 学生用は式なし変数あり )
r∗ : 世界 ( 外国 ) 実質利子率
*もともとは名目利子率と名
e
目為替レートについて導出
ε ' : 期待実質為替レート
e
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ε ' =ε を暗黙に仮定しているので、 ( 学生用は式なし )
教科書では Macro 2 第 3 回 page4
貯蓄、投資、貿易収支の決定
一つ目の恒等式にモデルの他の式を代
入すると ( 学生用は式なし )
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上式と二つ目の恒等式より ( 学生用は
式なし ) *右辺第1項は S
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*政府投資は外生
左図: ( 国内 ) 貯蓄、投資、貿易収支
の決定 ( 学生用は軸のみ )
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* S は供給側と財政政策により決定。
*小国開放経済 r=r* により実質利子率
が決まると、投資、そして NX が決まる。
*閉鎖経済 r は S=IT となる水準に決ま
る。
* epsilon^e=epsilon を仮定しない場合、
先に p11 のグラフより実質為替レートが決
まり、その後金利平価条件より r が決ま
る。
Macro 2 第 3 回 page5
政策の貿易収支への影響 (1)
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先ほども述べたように、価格が伸
縮的なモデルなので、政策の長期
的影響と解釈すべき。
自国の拡張的財政政策 ( 学生は S2 なし )
*簡単化のため当初 NX=0 と仮定。
*また政府投資は不変と仮定。
Macro 2 第 3 回 page6
政策の貿易収支への影響 (2)
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外国の拡張的財政政策 ( 学生は r2 なし )
*簡単化のため当初 NX=0 と仮定。
*外国が大国だとすると、その政策の世
界利子率への影響は閉鎖経済モデルで考
えることができる。
Macro 2 第 3 回 page7
政策の貿易収支への影響 (3)
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民間投資需要の増加 ( 学生はシフト後なし )
*簡単化のため当初 NX=0 と仮定。
*投資への税額控除などによって起こ
る。
Macro 2 第 3 回 page8
純輸出関数 (1)
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政策の実質為替レートへの影響を分析するために、純輸出関数を導出する。
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対外取引が存在する場合の ( 自国財に対する ) 総需要 ( 前回 )( 学生用は式なし変数説明あり ) X :輸出 ,IM :輸入
C+
I +G : 国内の居住者の財に対する総需要 ( 自国財と外国財の双方を含む )
–
–
–
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: 海外の居住者の自国財に対する需要
X
: 国内の居住者の外国財に対する需要 ( 自国財単位で測った需要 )
IM
輸入は とあらわすことができる。 IM =ε Q , Q : 輸入 ( 外国財単位 )
( 外国財の相対価格である実質為替レートを乗じることで自国財で測った価値に換算している )
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輸入関数・輸出関数 ( 学生用は式なし ) (1) 輸入
*消費、投資が Y の増加関数。対外取引があると消費、投資には自
国財だけでなく外国財も用いられる ( もちろん輸出財についても )
わけだから、通常外国財に対する需要である輸入も Y が上昇する
と増加。実質レートの上昇は外国財の相対価格の上昇を意味するから需要減。
(2) 輸出 * Y* は外生変数
Macro 2 第 3 回 page9
純輸出関数 (2)
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純輸出 ( 貿易収支 )( 学生用は式なし )
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実質為替レートは貿易収支へ 3 つの経路から影響
* 間接的な影響というのは Y を通じての影響。これを無視すると実質為替レートの上昇 ( 自国財安 )
は輸出を増加させ、輸入量を減少させるが、輸入財の自国財で測った価格は上昇。よって一般的
に貿易収支が増えるか否かはわからない。
*実質為替レートの上昇自体は名目為替レートの上昇 ( 円安 ) 、外国の価格水準の上昇、あるいは自
国の価格水準の低下によっておこる。
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実質為替レート上昇 ( =自国財安 ) の貿易収支への直接的な影響が正で
あると仮定。*現実のデータでもこの仮定はほぼ支持されている。
よって純輸出関数 ( 教科書とは異なる ) は ( 学生用は式なし ) *ただし短期的にはマイナスの影響が上回ることもある。近年の円安
の貿易収支への影響をみても、円安が輸出増につながるまでには時
間がかかり、当初はむしろ貿易収支は悪化した (J カーブ効果 ) 。詳
しくは学生用にはない最後の2ページのスライドを参照。 Macro 2 第 3 回 page10
実質為替レートの決定
実質為替レートの決定 ( 学生用は両方
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なし )
*先ほど導出したように S− I T = S̄− I T ( Ȳ , r∗ )
が成立することに注意
*教科書 p188 図 5-8,S-I=0 は誤り
*実質為替レートは、純資本流出 (SIT) による自国の自国通貨供給 ( 外国通
貨需要 ) と、純輸出 (NX) による外国の
自国通貨需要 ( 外国通貨供給 ) が等し
くなるように決まる。
Macro 2 第 3 回 page11
政策の実質為替レートへの影響 (1)
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自国の拡張的財政政策
*政府投資は不変と仮定
Macro 2 第 3 回 page12
政策の実質為替レートへの影響 (2)
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外国の拡張的財政政策 ( 学生はシフト
後なし )
*外国が大国だとすると、その政策
の世界利子率への影響は閉鎖経済モ
デルで考えることができる。
Macro 2 第 3 回 page13
政策の実質為替レートへの影響 (3)
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民間投資需要の増加 ( 基本的に省
略。学生はシフト後なし )
*投資への税額控除などによって起
こる。
*貯蓄は不変だが、投資需要が増加
したので、 S-IT が左シフト、 NX が
減少 .
*実質為替レート下落 ( 増価 ) 。輸
出関数より輸出 X 減少、輸入関数よ
り外国財で測った輸入 Q 増加。自国
財評価の輸入 epsilon Q ははっきり
しない。
* 政府投資 GI の上昇も同様。
Macro 2 第 3 回 page14
政策の実質為替レートへの影響 (4)
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保護貿易政策の影響 ( 学生用はシ
フト後の式なし )
Macro 2 第 3 回 page15
名目為替レートの決定
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実質為替レートの定義より、名目為替レート e は ( 学生用は式なし )
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固定為替相場制の場合、上式より価格 ( 物価 ) 水準 P が決まる。 ( 学生用は LM 式なし )
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変動為替相場制の場合、貨幣市場の均衡条件 ( 教科書 4 章 )
e
e
− π ( π : 期待インフレ率 ) 及びモデルの式から P と e が決まる。
r=i
(i : 名目利子率 ),
(LM 式は AD 曲線 )
*金融緩和により M が増加し P が上昇すると e が上昇 ( 減価 ) 。
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第一式 ( 両為替レートの関係式 ) を時間的変化についての式に書き換えると
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