マンデル=フレミングモデル

2016 年度後期 マクロ経済学 2
第 4 回 マンデル = フレミングモデル
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今回の講義
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前回の講義:価格が伸縮的な場合の開放経済モデル。政策等の長期的影響の分析に用い
る。
今回の講義:価格が硬直的な場合の開放経済モデル ( マンデル = フレミング
[Mundell=Fleming] モデル ) 。政策等の ( 超 ) 短期的影響の分析に用いる。
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モデル
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IS* 曲線と LM* 曲線の導出
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モデルの均衡
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変動為替相場制下の財政政策、金融政策、貿易政策の影響
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固定為替相場制度
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固定為替相場制下の財政政策、金融政策、貿易政策の影響
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モデルの基本的設定
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モデルを一言でいうと、価格が硬直的な場合の資本移動が自由な小国開放経済モデル。
IS-LM モデル ( 教科書 8,9 章 ) の小国開放経済版。
価格が硬直的:価格 ( 物価 ) 水準が変化していない ( 超 ) 短期。
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このモデルにおける政策等の影響は ( 超 ) 短期的影響。
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国内総生産 (GDP) は財の需要側のみによって決定される ( 教科書 7 章 ) 。 –
産出量は自然産出量 ( 潜在産出量 ) と必ずしも一致しない。
自由な資本 ( 資金 ) 移動と小国開放経済 (small open economy) の仮定は、前回の価格が伸
縮的なモデルと同じ。よって金利平価条件が成立し、この国にとって世界 ( 外国 ) の変
数は所与 ( 外生変数 ) 。
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大国開放経済 (large open economy) のモデルについては教科書 10 章の補論を参
照。
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モデル
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財市場 ( 学生用は恒等式・諸関数なし、変数の説明あり )
NX :純輸出(=輸出-輸入) ,G :政府支出
C :民間消費 , I :民間投資
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恒等式 :
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国内総需要の各項目の決定 ( 教科書 3 章 ) ●
*GDP の総需要構成
Y : 総所得 ( =総生産 ) , ( 民間 ) 消費関数
T : 租税-所得移転 ( 外生変数 )
*Y-T :家計の可処分所得
( 民間 ) 投資関数 ( 教科書とは異なる )
Y : 総需要・総所得 ( =総生産 )
r : 実質利子率
政府支出 G は外生変数 *政府消費 + 投資
純輸出関数 ( 前回、教科書とは異なる )
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価格が伸縮的なモデルと異なり、単純化のため外国と自国の物価水準
比 P∗ を 1 に基準化。よって名目為替レート e = 実質為替レート ε ( 以
P
降は単に為替レートと呼び
e で表す )
*価格が硬直的な
ので。単純化のため
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( 国内 ) 総生産は需要側のみによって決定されるので、価格が伸縮的なモデル
と異なり生産関数はない
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モデル (2)
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金融市場
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e
教科書では単純化のため期待インフレ率 π =0 を仮定しているので (8 章脚注
5) 、実質利子率 r = 名目利子率 i ( 以降は単に利子率とよび r で表す )
資産選択: ( 自国 ) 貨幣、自国債券、外国債券*これまで同様、各国とも貨幣と政府の発
行する債券の 2 種類の金融資産のみが存在すると仮定。ある国の居住者にとって外国通貨は自国での
取引に用いることができず利子率はゼロだから、選択対象外であるとみなす ( 実際にはアメリカドル
などの基軸通貨については対外取引に利用できるから保有する価値があるが単純化のため ) 。 –
金利平価条件 ( 前回 ) ( 学生用は式なし変数あり )
r∗ : 世界 ( 外国 ) 利子率
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* P*/P=1 の基準化に注意
e
e
'
:
期待為替レート
e ' e=eを暗黙に仮定しているので、 ( 学生用は式なし )
教科書では e'
e
≠
e の場合のマンデル = フレミングモデルについては、例えばブラ
ンシャールのテキストを参照 * この場合は閉鎖経済モデルとグラフが近い
金融市場参加者がリスクを考慮する場合の金利平価条件とマンデル =
フレミングモデルについては教科書 10-4 を参照
貨幣と債券との間の選択:貨幣市場の均衡条件 ( 教科書 8 章 )( 学生用は式なし
変数あり )
M : 名目貨幣供給量(外生変数) , P: 価格水準(外生変数)
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貨幣需要関数に外国債券の利子率が入っていないのは 金利平価条件の導出時に説明したように自国の消費者 にとっての収益率は等しくなるから *外国基軸通貨の保有額 (= 需要額 ) も Y と r の関数となる。よって基軸通貨発行国の国内貨幣需要は他国の Y と
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r にも依存することになる。
IS* 曲線
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財市場に関する式と金利平価
条件より ( 学生用は式なし )
上式をみたす e と Y の組み合
わせを描いた IS* 曲線の導出
( 学生用はシフト後のグラフな
し) *為替レート e の上昇 ( 自国通
貨減価 ) の Y への影響
* 産出量の純輸出を通じての総需
要への影響は負であるが、この
効果が消費、投資を通じての効
果を上回ることはない。なぜな
ら C+I - εQ= 国内居住者の自国
財への需要が Y の減少関数にな
ることはないから。 Macro 2 第 4 回 page6
LM* 曲線
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貨幣市場の均衡条件と金利平価
条件より ( 学生用は式なし )
上式をみたす e と Y の組み合わせ
を描いた LM* 曲線の導出 ( 学生用
は全てのグラフなし )
* Y は LM* のみによって決まる。 Macro 2 第 4 回 page7
マンデル=フレミングモデル
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以上のようにマンデル = フレミン
グモデルは次の二式に集約される
Y =C (Y − T )+ I (r∗ ,Y )+G
+ NX (Y , Y∗ , e) ( IS ∗ )
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M
∗
=L(r∗ ,Y ) ,( LM )
P
モデルの均衡
= フレミン
e の場合のマンデル
' e≠ e
グモデル ( 例えばブランシャールの
テキストを参照 ) では、通常の
IS=LM モデルと同様のグラフによっ
て Y と r が決まり、金利平価条件に
よって e が決まる。政策の効果は以
下とかなり異なる。 ( 学生
用はグラフなし )
* e=e^e でないモデルでは IS=LM
モデル同様のグラフによって Y と r
が決まり、金利平価条件によって
e
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変動相場制下の財政政策
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拡張的財政政策 ( 政府支出の増加
あるいは減税、↔緊縮的財政政
策 ) の影響 ( 学生用はシフト後の
グラフなし )
* Y への影響なし (e^e=e でないモデ
ルでは Y は増加 )
* IS* が右シフト。為替レートは低
下 ( 増価 ) 、よって純輸出は減少 ( 輸
出減少、外国財で測った輸入増加 ) 。
*直観的説明:拡張的財政政策によ
る財の総需要の増加は r に上昇圧力を
もたらす ( 閉鎖経済モデルを考えると
よい ) 。 r の上昇圧力より外国から資
金が流入、これにより自国通貨が増
価。 LM* 式よりこの効果が財政政策
による Y 増加を相殺するほど大きい
ため Y が不変。
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変動相場制下の金融政策
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金融緩和政策 ( 貨幣供給量
増加、↔金融引締政策 ) の
影響 ( 学生用はシフト後の
グラフなし )
* LM* が右シフト。 Y 増加、
為替レート上昇 ( 減価 ) 。よっ
て C,I も上昇。純輸出への影響
は ?( 輸出は増加、外国財で
測った輸入は ?)( 教科書と異な
る)
*直観的説明:金融緩和政策
による貨幣供給量の増加は r に
低下圧力をもたらす。 r の低下
圧力より外国へ資金が流出、
これにより自国通貨が減価。
自国通貨の減価が純輸出にプ
ラスの影響を及ぼし、 Y が増
加。
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変動相場制下の貿易政策
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輸入制限政策 ( 輸入割当の拡大や関税の引き上げ ) の影響 ( 学生用はシフト後のグ
ラフなし )
*所与の内生変数のもとで純輸出を増加させる政策と解釈できる。
*よって IS* が右シフト。 Y は不変で、 e は低下 ( 増価 ) 。 Y=C+I+G+NX で Y が不変なの
で、 NX も不変。政策の影響と e の低下が相殺。つまり貿易額は減少。
* e^e=e でないモデルでは Y は増加。 e の低下と Y の増加は純輸出にマイナスの影響を及ぼ
すが、総効果についてははっきりしない。
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固定為替相場制度
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変動為替相場制度 : 外国為替市場の需給によって自由に為替レートが決定される。
日本、アメリカ、ユーロ圏。近年では途上国の多くも。
固定為替相場制度 : ある特定の外国通貨 ( 米ドルやユーロ ) や通貨バスケットに対す
る名目為替レートを固定 ( ペッグ ) 。正確に言えば、一定の為替レートが維持されるよ
う通貨当局が為替市場に介入。為替レートの変更はまれ。小規模な途上国に多い。 * 西アフリカ旧仏領、中東の産油国、香港 ( カレンシーボード:中銀が国内通貨を支えるだけの外国通貨を保有)
など。 *通貨バスケット:複数の主要通貨 ( ドルとユーロとか ) の加重平均をとったもの。 * もちろんペッグ相手以外の変動相場制をしく国の通貨との交換レートは変動 * 固定レートは自動的に維持されるのではなく通貨当局の介入が必要となる ( 資本移動を完全にコントロール
するのでなければ ) 。経済情勢等の大きな変化によって介入によってもレートが維持できなくなった場合にはレートが変更
される(以下の用語は突然の大きな変更を指す)*為替レートの特に短期的な変動のリスクを回避 ( ただし実質レートは変
動)。
平価切上げ (revaluation), 平価切下げ (devaluation)
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実際には上の 2 つの制度の中間的形態をとる国も多い。 *伸縮性の限定されたフロート制:例えば人民元 ( 通貨バスケット制でもある ) の場合アメリカドルに対しての 1 日
の変動率は 2.0% 以内に制限 (2014 年 3 月以降 ) 。ベトナム、シンガポール、カンボジア、コロンビアなども。 *管理(された)変動相場制 *日・米など変動相場制を導入している国でもレートの急激な短期的変化を緩和するための中央銀行の市場介入は許
されているわけだから、完全な変動相場制とは言えない ( 震災直後の G7 協調介入、 2011 年 10-11 月の介入 ) 。
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金融市場における対外取引 ( 資本移動 ) の自由化とともに、近年では途上国でも変動相
場制を採用する国が増加。*変動相場制 = 資本移動自由ではない。資本移動に制限があっても政府が市
場に介入しなければ変動相場。 *固定相場制を維持するためには通貨当局の介入が必要であるが、自由な資本移動の下でレートを維持するの
は困難。アジア通貨危機、ロシア通貨危機 (1998) 。ただし最近はやや中間的形態をとる途上国が増加傾向。
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変動相場制と固定相場制のメリット・デメリットについては教科書 10-5 を参照。
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固定為替相場制における貨幣供給量の決定
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左図 ( 右図 ) :現在の均衡為替レートが固定レートを上 ( 下 ) 回っている場合 ( 学生用は
シフト後のグラフなし )
*左図の説明:現在の均衡レート ( 点 A) が固定レートを上回っている ( 自国通貨安 ) ので、通貨
当局は固定レートで自国通貨を買って、外国通貨を売る介入を行う。 ( 裁定業者は現在の均衡
レートで ( 安くで ) 民間から自国通貨を買い、固定レートで ( 高くで ) 通貨当局に売ることで利益
を上げることができる。 ) その結果経済から自国通貨が減少、つまり貨幣供給量が減少。この介
入を続けることで固定レートに落ち着く。
*つまり通貨当局は固定レートで貨幣市場の均衡が成立するよう M を調整する必要がある ( 内生変
数)。
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固定為替相場制下の財政政策
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拡張的財政政策の影響 ( 学生
用はシフト後のグラフなし )
*IS* が右シフト。 Y が増加。
LM* は貨幣市場の均衡が維持
されるよう右シフト。つまり
貨幣供給量が増加。
*Y 増加より純輸出減少 ( 輸入
増)
* ( 直観的説明 ) IS* 右シフト
により利子率上昇圧力、つま
り自国通貨高圧力。通貨当局
はこの圧力に対抗するため、
自国通貨を売って外国通貨を
買う介入を実施。結果貨幣供
給量が増加。 r,E 一定の下で
総需要が増加したため Y が増
加。
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固定為替相場制下の金融政策
先ほど述べたように、固定為替相場制
下では為替レートを維持するために貨
幣供給量を調整する必要がある。した
がって貨幣供給量を手段とした金融政
策を行うことはできない。
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能動的な為替レートの切り下げあるい
は切り上げは、固定相場制下で取りう
る金融政策といえる
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右図:平価切下げの影響 ( 学生用はシ
フト後のグラフなし、 )
平価切下げ = 自国通貨安であることに
注意。平価切下げのために外国通貨を
買い、自国通貨を売る介入を実施。こ
れにより M が増加。よって LM* が右
シフト。 Y が増加 (C, I も ) 、純輸出へ
の影響はわからない。
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固定為替相場制下の貿易政策
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輸入制限政策 ( 輸入割当の拡大や関税
の引き上げ ) の影響 ( 基本的に省略。
学生用はシフト後のグラフなし )
*所与の内生変数のもとで純輸出を増加
させる政策と解釈できる。
*IS* が右シフト。 Y が増加。 LM* は
貨幣市場の均衡が維持されるよう右
シフト。つまり貨幣供給量が増加。
*よって IS* が右シフト。政策のプラス
の影響と Y の増加のマイナスの影響があ
るので純輸出への影響はわからない。 ( 教
科書では NX は Y に依存しない [ また I も
Y に依存しない ] ので、 NX は増加。 )
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