2016 年度後期 マクロ経済学 2 第 6 回 ソローモデル (1) Macro 2 第 6 回 Page1 ソローモデル ● ● ● ソロー (Solow) モデル : 経済成長 ( 総生産の持続的上昇 ) を説明する代表的なモデル これまで学習した様々なモデル 価格が硬直的な短期のモデルでは、財の需要側が総生産の決定に影響するため、 総生産 ( 産出量 ) は自然産出量 ( 潜在産出量 ) と必ずしも一致しない 価格が伸縮的な長期のモデルでは、総生産 = 自然産出量 ( 潜在産出量 ) 単純化のため、自然産出量の水準を決定する生産技術と生産要素の賦存量は一定 と仮定 ソローモデルの特徴 価格が伸縮的であり常に総生産 = 自然産出量 ➢ ➢ ➢ 生産技術と生産要素が時間とともに変化 自然産出量の持続的成長を説明 *AS=AD モデルでは:生産関数において労働力、労働生産性とも一定→ 自然産出量一定。 AS=AD モデルでもこれらが外生的に持続的に上昇すれば自然産出量の上昇を説明できる。しかし現 実の経済成長を考える上では資本ストック(機械・工場、インフラ、広義には人的資本も)の成長を考慮すべき。 今回:生産技術と労働人口が一定 ( 資本ストックは変化 ) のシンプル版ソローモデル ● Macro 2 第 6 回 Page2 生産関数 (1) 生産関数 ● Y =F (K , L) K : 資本ストック , L: 労働投入量 生産関数の性質 ● (1) 規模に関して収穫一定 (constant returns to scale) ( 学生用は式なし ) *現実のデータを用いた経済全体の生産関数の推計によっても この仮定がおおむね成立しているという結果が得られている。 (2) 資本の収穫逓減 (decreasing returns to capital) *教科書では資本の限界生産力逓減 ( 学生用は右グラ フなし、 N0 ではなく bar{L}) * 労働投入量をある水準に固定した場合のグラフであるこ とに注意。労働投入を増加させれば上にシフトする。 (3) 労働の収穫逓減 (decreasing returns to labor) * 要素についての収穫逓減はミクロな生産関数を含め標準 的。 * コブ = ダグラス型生産関数による説明 Macro 2 第 6 回 Page3 生産関数 (2) 規模に関する収穫一定の性質より労働投入量 あたりの産出量は ( 学生用は生産関数、グラ フともなし ) 労働者 1 人あたり ( 労働投入量あたり)の産 出量=所得の成長は (1)1 人あたり資本ストックの増加 (2) 技術進歩 (technological progress) のいずれかによる。 *技術進歩とは一定の生産要素を用いてより多くの財が生産 が可能になること。右グラフの上方シフト。純粋な生産技 術の変化だけでなく、戦乱等の政治的混乱、行政サービス の効率性の変化、 1 次産業の場合気候の変化等も技術進歩 (退歩)に反映される。(グラフで説明) *この結果はソローモデルに限らず成立する 今回は技術水準一定を仮定し、資本ストック の成長を通した経済成長に焦点を当てる。* 産出量は資本ストックだけでなく ( 今回は人口成 長は考えないが ) 労働投入量にも依存するがこれ がどのように決まるのかを次に見る。 Macro 2 第 6 回 Page4 資本蓄積の決定 技術進歩率と労働人口成長率がゼロのシンプル版ソローモデルの導出 先ほどの生産関数 Y t =F ( K t , Lt ) K t : t 期における資本ストック , Lt : t 期における労働投入量 *経済成長=時間を通じての産出量の変化を見ていくわけだから変数に t の下付。 価格が伸縮的であるから産出量 = 自然産出量であり、産出量は生産技術と生産要素の賦 存量によって決まる。 技術進歩率と労働人口成長率がゼロ ( 関数 F は不変で Lt =L ) なので、資本ストックが 決まれば産出量は決まる。 つまり産出量の時間的変化は資本ストックの時間的変化 ( 資本蓄積 ) によって決まる。 * 工場の建設、生産用機械の発注・設置などに時間がかかるものと仮定。もちろんこの仮定の下でも ( 労働市 場のように ) 資本市場に摩擦が存在し、全ての現存する資本ストックが生産に用いられるのでなければ、現存 する資本ストックの稼働率はモデル内で決定されなければならない。 投資が新たな資本ストックとして具現化するのに 1 期かかるとすると 次期の資本ストック=今期までの投資の総計 ( 資本の減耗を除く ) = ( 今期の資本ストック ) + ( 今期の投資 ) - ( 今期から次期の間の資本の減耗 ) よって次の資本蓄積式が成立 ( 学生用は式なし ) *今期の資本ストックについても同様の式が成立 ● ● ● Macro 2 第 6 回 Page5 投資の決定 ● 投資の決定 ( 学生用は以下の式なし ) 海外との取引がなく ( 閉鎖経済 ) 、政府部門が存在しないものと仮定すると 消費関数 *IS=LM モデル ( 正確には乗数モデル ) で用いた関数と異なり切片が 0 であることに注意。これらのモデルは景気循 環に焦点を当てたものであったが、そのような景気循環の局面では切片が正、つまり不況時に平均消費性向が上昇 し、好況時に低下することはデータで確認されている。これに対し成長モデルは自然産出量の持続的上昇に焦点を 当てたもの。そのような長期においては平均消費性向はほぼ一定 ( 実際には切片はプラスであるが、景気循環局面 と比べはるかにその値は小さい ) 。 貯蓄の定義は だから – 消費関数より とおくと *s は平均・限界貯蓄性向 – よって * 投資関数が出てこないことについては次ページを参照。 Macro 2 第 6 回 Page6 資本ストック・産出量のダイナミックス (1) まとめ Y t =F ( K t , L) ( 生産関数 ) K t +1=(1− δ) K t + I t ( 資本ストック蓄積式 ) *以上のモデルには価格・利子率が出てこないが、利子率は従来の ( ケイン ズ I t =s Y t ( 財市場の均衡条件 ) ) 投資関数より決定され ( または完全な資本市場が存在すれば利子率=資 本の限界生産性の条件より決定され ) 、価格は金融市場の均衡条件に利子 率、産出量を代入することにより求められる。つまり価格・利子率決定には AS=AD(AS は垂直 ) 、 IS = LM の枠組みを用いればよい ( ケ インズ型投資関数では投資は [ 限界生産性-実質利子率 ] の増加関数 ) 。上の式は家計による投資財供給を表しており、均衡では利子 率に依存する企業の投資需要と一致することになる(あるいはレンタル市場での資本ストック需要)。 ● ● 第 1 式と第 3 式を第 2 式に代入 K t +1 =(1− δ) K t + s F ( K t , L) 今期の資本ストック K t が来期の資本ストック K t 1 を決定 来期の産出量 Y t 1 は生産関数により決まる 0 期の資本ストック を与えてやればそれ以降の資本ストックと産出量が求まる K0 変数を労働人口あたりに直して分析 *見たいのは所得水準の時間的変化。ここでは労働人口一定だから一 K t +1 K t s F ( K t , L) =(1− δ) + L L L ● 人あたりにしなくても同じだが一般的には異なる。 生産関数の規模に関する収穫一定性を用いると ( 以下学生用は式なし ) * (1 人あたり ) 資本ストックの変化 = (1 人あたり ) 貯蓄 - (1 人あたり ) 資本減耗 = (1 人あたり ) 投資 - (1 人あたり ) 資本減耗 *資本ストック増 ( 減 )⇔( 投資 ≷ 資本減耗 ) Macro 2 第 6 回 Page7 資本ストック・産出量の ダイナミックス (2) ● ● グラフによる資本ストックと産出量の 変化の分析 ( 学生用はグラフは軸の み) 資本蓄積方程式 Macro 2 第 6 回 Page8 定常状態 ● k=k∗ のとき経済は諸変数が変化しない定常状態 (steady state) にある ( つまり長期 的には経済成長率はゼロ ) 。 * 技術進歩・人口成長を導入すれば正となる。 定常状態では労働者 1 人あたりの資本ストックは次式の解。 sf (k∗ )=δ k∗ *資本蓄積方程式より明らか。 ● ● 労働者 1 人当たりの産出量は y∗ =f (k∗ ) 数値例 1 1 2 生産関数 (以下の式なし) Y = K L2 ● ● s=0.3 δ =0.1 のときは 貯蓄率 、資本減耗率 Macro 2 第 6 回 Page9 貯蓄率 ( 投資率 ) と産出量 ( 学生用は s2 のときのグラフなし ) 貯蓄率 ( 投資率 ) 上昇の影響 (1) 貯蓄率 ( 投資率 ) と長期的な経済 成長率との関係 ● *資本の収穫逓減より長期の経済成長率は貯蓄 率に関係なく 0 。これはある量の産出量の増 加のために必要な資本ストックが資本蓄積が 進むにつれて大きくなっていくが、その資本 蓄積を増やすのに必要な投資=貯蓄は常に産 出量の一定割合であるため。 (2) 貯蓄率 ( 投資率 ) と長期における 1 人当り産出量 ( 所得 ) との関係 *貯蓄率の から への 上昇により定 常点は から へ移動 *貯蓄率の上昇は長期における 1 人あたり 産出量を増加させる。 *よって貯蓄率の上昇は一時的には経済成 長率を高める。 *閉鎖経済であるため、国内の貯蓄率 = 投資 率。開放経済であれば、外国の貯蓄により ファイナンスすることも可能に。したがっ て本当に重要なのは投資率。 Macro 2 第 6 回 Page10 資本の黄金律 貯蓄 ( 投資 ) 率の上昇=定常状態における 1 人あたり産出量 ( 所得 ) の上昇。では貯蓄 ( 投資 ) 率=1は望ましいといえるのか? いえない。なぜなら消費=0。 定常状態における 1 人あたり消費 ( 学生用は以下の式なし) *貯蓄率の上昇が定常状態における 1 人当たりに消費に与える影響は 2 種類。直接的効 果と産出量への影響を通じての効果。 資本の黄金律水準 (golden-rule level of capital) : 定常状態における 1 人あたり消費を最大化する貯蓄 率における資本ストックの水準。現実の経済における資本ストックの水準 ≪ 黄金律水準。貯蓄率=投資率を上昇させるこ とが出来れば厚生が増加。このモデルでいえば、貯蓄率が固定されているとき、消費に課税し、その歳入を政府貯蓄 = 投資 用資金として(政府消費ではなく)用いれば、投資そして一人あたり消費が増加する可能性がある。ただし次回の授業で見 るように、技術進歩を考慮すれば、長期の 1 人あたり所得の成長率は技術進歩率により決まる。その意味で貯蓄率よりも技 術進歩が長期の経済成長において重要。 数値例 1 1 – 生産関数 (学生用は以下の式なし) Y = K 2 L2 – 定常状態における 1 人あたり消費 * 1 人当たり消費が最大になるのは のときで *よって資本の黄金律水準 (1 人あたり)は Macro 2 第 6 回 Page11 資本の黄金律 (2) ● ● より直接的に資本の黄金律水準を求める方法 ( 学生用は以下の全ての式なし) – 資本の黄金律水準に対応する貯蓄率は – 先ほどの数値例 当初資本が黄金律水準でない定常状態にあるとき、黄金律水準が定常状態になるよう貯 蓄率が変更された後の移行過程については、教科書 p24-28 を参照のこと Macro 2 第 6 回 Page12
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