1 水 稲 Ⅰ 県内における主要雑草の発生状況 発生面積の推移 水田で最も発生が多い雑草はノビエで、35,008ha と全域で発生している。一年生広葉 雑草では、アゼナ、コナギ、カヤツリグサ、ホタルイの発生面積が多く、コナギは増加 傾向であるが、草種別の発生比率は大きな変化はなかった。多年生雑草の発生は少ない が、キシュウスズメノヒエが 19,100ha と多く、主要雑草となっている。多年生雑草の草 種別発生比率も大きな変化はなかった。 草種名 【一年生雑草】 ノ ビ エ コナギ ホタルイ カヤツリグサ類 アゼナ キカシグサ タカサブロウ ミソハギ類 クサネム アゼガヤ イボクサ アブノメ タデ類 その他広葉雑草 ミゾハコベ ヒデリコ 【多年生雑草】 ウリカワ セ リ ミズカヤツリ クログワイ コウキヤガラ マツバイ キシュウスズメノヒエ 藻 類 平成23年度 平成24年度 平成26年度 平成27年度 発生面積 面積比 発生面積 面積比 発生面積 面積比 発生面積 面積比 ha % % % % 36,044 95.3 36,314 95.8 34,106 93.0 35,008 98.4 26,426 69.8 25,061 66.1 25,893 70.6 26,403 74.2 15,350 40.6 15,714 41.5 14,900 40.6 14,900 41.9 16,600 43.9 17,100 45.1 17,800 48.5 17,700 49.7 24,250 64.1 24,400 64.4 25,900 70.6 26,530 74.6 15,150 40.0 15,150 40.0 12,850 35.0 12,350 34.7 7,350 19.4 7,350 19.4 7,470 20.4 7,480 21.0 8,700 23.0 8,755 23.1 10,870 29.6 10,970 30.8 4,300 11.4 4,400 11.6 4,400 12.0 4,550 12.8 13,470 35.6 14,050 37.1 12,700 34.6 12,700 35.7 2,670 7.1 2,660 7.0 200 0.5 200 0.6 2,620 6.9 2,620 6.9 100 0.3 100 0.3 4,550 12.0 4,550 12.0 650 1.8 450 1.3 650 1.7 650 1.7 - - - - - - - - 800 2.2 1,000 2.8 - - - - 300 0.8 300 0.8 ha 1,820 6,150 1,150 1,430 570 3,050 19,250 16,400 % 4.8 16.3 3.0 3.8 1.5 8.1 50.9 43.3 % 4.9 16.2 3.0 3.6 1.5 7.5 52.7 44.1 1,870 6,150 1,150 1,380 570 2,850 19,950 16,700 注)面積比=発生面積/作付面積(普及指導センター調べ) 1 1,700 3,600 810 1,140 820 2,040 19,450 16,100 % 4.6 9.8 2.2 3.1 2.2 5.6 53.0 43.9 1,950 3,600 810 940 820 2,000 19,100 15,600 % 5.5 10.1 2.3 2.6 2.3 5.6 53.7 43.8 2 22 3 33 4 44 5 55 6 66 7 77 8 88 9 99 10 10 10 11 11 11 12 12 12 13 麦 Ⅰ 類 県内における主要雑草の発生状況 発生面積の推移 麦 ほで 最も 発生が 多い雑 草は スズ メノ テ ッポウ で、20,750ha と全域 で発 生し ている が、新規除草剤の普及に伴い雑草害は軽減されつつある 。カズノコグサは発生面積 16,081ha でスズメノテッポウに次いで発生が多く、ヤエムグラやスズメノカタビラと共 に重要雑草となっている。カラスノエンドウは種子が収穫後の麦類子実に混入して問題 となっており、中耕・土入れや生育中後期剤の処理など、総合的な防除対策が必要であ る。 近年、タデ類やノミノフスマ、ミチヤナギ、ネズミムギ、カラスムギなどの発生が増 加しており防除が必要となっている。 平成23年度 平成24年度 平成26年度 平成27年度 発生面積 面積比 発生面積 面積比 発生面積 面積比 発生面積 面積比 ha % ha % ha % ha % スズメノテッポウ 19,543 96.0 19,812 95.5 20,617 98.1 20,750 98.3 カズノコグサ 15,553 76.4 15,507 74.8 16,081 76.5 16,081 76.1 スズメノカタビラ 7,962 39.1 8,561 41.3 9,331 44.4 9,131 43.2 ノミノフスマ 1,535 7.5 2,030 9.8 5,815 27.7 5,865 27.8 ミチヤナギ 610 3.0 1,440 6.9 4,030 19.2 4,330 20.5 ナズナ 5,600 27.5 5,590 27.0 4,270 20.3 4,070 19.3 ヤエムグラ 12,797 62.9 12,652 61.0 11,350 54.0 11,850 56.1 カラスノエンドウ 8,350 41.0 8,665 41.8 9,360 44.5 9,260 43.8 ママコノシリヌグイ 840 4.1 845 4.1 1,720 8.2 1,720 8.1 トゲミノキツネノボタン 820 4.0 1,699 8.2 4,150 19.7 4,700 22.3 スギナ 1,775 8.7 1,855 8.9 1,795 8.5 1,945 9.2 タデ類 5,620 27.6 6,311 30.4 9,012 42.9 10,062 47.6 ネズミムギ 1,385 6.8 945 4.6 2,180 10.4 2,260 10.7 カラスムギ 1,465 7.2 1,115 5.4 1,950 9.3 1,960 9.3 アメリカフウロ 610 3.0 710 3.4 2,940 14.0 2,940 13.9 セトガヤ - - - - 1,420 6.8 1,020 4.8 ウナギツカミ - - - - 400 1.9 400 1.9 カモジグサ - - - - - - 500 2.4 その他 900 4.4 800 3.9 - - 400 1.9 草種名 注)面積比=発生面積/作付面積(普及指導センター調べ) 13 14 麦 類 Ⅱ 雑草の生態及び防除 1.一年生イネ科雑草 (1)スズメノテッポウ 水田裏作麦では多くのほ場で優占雑草となっており雑草害も著しい。麦の播種時期が早 いほど発生が早く、発生量も多くなる。早播(10 月下旬~11 月上旬)では耕起 1 週間後頃 より出芽し始め、11 月下旬~12 月上旬には発生盛期となる。普通播(11 月中~下旬)で は 12 月中~下旬にかけて最も多く発生し、その後次第に発生は減少し、1月下旬以降は極 めて少なくなる。しかし、いずれの時期ともおおむね最優占種雑草となっており、麦 ほで はスズメノテッポウの防除を最重点に考えることが大切である。なお、水稲収穫から麦播 種までの期間が長くなる早生水稲後では、晩生水稲後よりも播種前の発生が多くなる。 播 種前雑草の防除法としての耕起の効果は高いものの、多発ほ場では移行性を有する非選択 性除草剤(グリホサートなど)による除草を行ったほうが確実である。 なお、2004 年に県内でチフェンスルフロンメチル剤(SU系)に対する抵抗性バイオタ イプが確認され、さらにトリフルラリンやペンディメタリン(ジニトロアニリン系)に対 しても抵抗性であることが判明した。この抵抗性バイオタイプは、年々発生が拡大してお り、防除にはチオカーバメート系のプロスルホカルブやエスプロカルブを含む除草剤が有 効である。また、スズメノテッポウ多発ほ場では、大豆輪作や晩播、浅耕二工程播種法な どの耕種的防除を行う(指導資料を参照)。 (2)カズノコグサ 土壌水分が高いほ場での発生が多く、水稲後作に比べて休閑田で発生は少なく、大豆後 作での発生はほとんど認められない。発生盛期は 12 月~1月であるが、発生は麦播種前か ら3月までみられる。幼植物はスズメノテッポウと酷似し、地上部での判別は困難である が、2 葉期以降であれば根の色が、カスノコグサは白色であるのに対し、スズメノテッポ ウでは赤褐色であることから判別は可能である。生育中~後期の生育量はスズメノテッポ ウよりはるかに大きく、草丈は 70 ㎝程度に達し、多発ほ場では雑草害による麦の減収や倒 伏の原因となり、コンバイン収穫に支障をきたす。 土壌処理除草剤による防除法としては、チオカーバメート系のプロスルホカルブやエス プロカルブを含む除草剤が有効である。除草効果が不十分な場合には、播種後土壌処理に 加え、カズノコグサ3葉期(麦4~4.5 葉期、1月上~中旬)にハーモニー75DF 水和剤 10g/10a を処理する。多発ほ場では、非選択性除草剤の播種前処理も必要である。また、 土壌処理除草剤処理後に発生が見られる場合には、2~3月に小型管理機で条間と畝間を 耕起、作溝することによって抑草可能である。なおカズノコグサは積算気温約 86℃(1月 5日まで)で1葉伸展するので、防除の参考とする。 14 15 麦 類 カズノコグサ多発ほ場における除草体系 播種前 播種直後 カズノコグサ3葉期 非選択性除草剤 播種後土壌処理剤 ハーモニー75DF 水和剤 10g/10a (3)スズメノカタビラ 土壌水分の低い休閑田での発生が多く、麦ほ場では比較的少ない。スズメノテッポウと ほぼ同様の発生消長を示す。初めの葉は細長い線形で、スズメノテッポウに似ている。ス ズメノテッポウの葉は柔らかく薄いのに対し、スズメノカタビラの葉はスズメノテッポウ よりはやや堅く、やや厚みがあって中央で折れ曲がり、先端は舟形である。 麦ほでは本種による減収が問題となるほどの発生は少ないが、ハーモニー剤による除草 効果は期待できないので、土壌処理除草剤を必ず処理する。多発ほ場では、非選択性除草 剤の播種前処理も必要である。土壌処理除草剤処理後に多発した場合は、小型管理機によ り条間と畝間を耕起、作溝して抑草する。 2.一年生広葉雑草 (1)ヤエムグラ 発生時期はやや遅く、12 月中旬~1月中旬にかけて発生し、その後も発生が続き、発生 期間が長い。全雑草に占める割合は地域で異なり、農産と豊前では3月中旬までは 10%程 度、4月中旬には 15~20%となっているが、筑後では 12 月下旬から 30%以上を占めている。 麦にからみついて生育するため麦に及ぼす影響は大きく、収穫作業に支障をきたすだけで なく、種子が収穫した麦に混入して品質を低下させる。種子は長さ 2.0~2.1mm、幅 1.5~ 1.7mm、厚さ 1.5mm で千粒重は 2.95g 程度である。 防除は播種後土壌処理除草剤のみでは困難で、発生に留意し、麦生育中期にハーモニー 75DF 水和剤、エコパートフロアブルまたはアクチノール乳剤を散布する。発生が少なく 点々と発生した場合には手取り除草する。 (2)カラスノエンドウ 発生は畦畔やほ場内の排水良好なところに多い。発生は麦播種前からみられるが、前年 多発したほ場では次年度以降の発生が予想されるので注意する。地表面下 10cm 前後からで も出芽するため、発生は不斉一で長期にわたる。種子は長さ 2.5~3.3mm、幅 2.2~ 3.0mm、 厚さ 2.6~3.2mm、千粒重 14.5g と大きく、麦に混入しやすい。近年カラスノエンドウの種 子混入で麦の品質が低下している例がしばしばみられる。 防除は土壌処理除草剤でガレース乳剤、G(粒剤)やゴーゴーサン乳剤、細粒剤Fの効 果が高く、生育期処理との体系防除を行う。生育期処理はアクチノール乳剤を1月中旬~ 3月上旬(カラスノエンドウの草丈5~7cm の時期)に散布するか、ハーモニー75DF 水和 剤を1月下旬~2月中旬(カラスノエンドウの3~6葉期)に 10g/10a 散布する。 15 16 麦 類 (3)タデ類 タデ類は畦畔や畑地、樹園地などに発生する雑草であるが、麦ほ場で発生が見られるも のはイヌタデ、ハルタデ、サナエタデが多い。種子で繁殖する一年生雑草で、やや湿潤な 条件を好む。発生始期は2月中旬頃で、出芽深度が1~3㎝と深く発生期間は長い。また、 種子の生存期間も長く 10 年以上とされるため、一度発生した圃場では数年間にわたって注 意が必要である。 発生始期が遅く播種後の土壌処理除草剤の効果は期待できないので、生育期に広葉雑草 に効果のある茎葉処理剤を散布する。また、中耕・土入れによる除草効果が高い。 防除は茎立ち期前にハーモニー75DF 水和剤を散布するか、雑草発生揃いの3月上~中旬 にアクチノール乳剤を散布する。ハーモニー75DF は低薬量でもタデ類に対して高い除草効 果を示し、発生前の処理でも土壌処理効果が認められる(大段ら,2013)。アクチノール乳 剤の処理時期には麦の草丈が 40cm 以上とかなり繁茂しているので、薬剤が雑草に十分付着 するように、登録の範囲内で薬量及び散布液量を多めにして入念な散布を行う。 (4)ナズナ 畑地及び畦畔等に生育するが、地域によっては麦ほにも発生が認められ問題となってい る。おおむね 12 月下旬から発生し、とくに転換畑での発生が多い。アブラナ科に属し、除 草剤の種類によっては効果が期待できない薬剤があるので、多発ほ場では効果が高い除草 剤を散布するとともに、転換畑期間が長いほ場では水稲を作付けする等の耕種的防除を図 る。 (5)ノミノフスマ 発生はスズメノテッポウと同様に早く、普通期栽培での発生量は 12 月中~下旬に最大 となり、その後の発生は次第に少なくなるが、発生期間はスズメノテッポウより長い。地 域によって発生量が異なり、多発地域での麦作期間における全雑草に占める割合は 20~ 40%である。プロスルホカルブ単剤(ボクサー)はノミノフスマに対する効果が劣るため、 ノミノフスマが多発するほ場では、生育期除草剤との体系防除を行う。 (6)ミチヤナギ 地域によって発生時期及び発生量がかなり異なるが、おおむね 12 月下旬から2月下旬 頃まで長期間にわたり発生し、3月下旬でも比較的多く発生する。しかし、全雑草に占め る割合は麦作期間を通じて5%以下で、発生量としては少ない。ヤエムグラ等との同時防除 が可能である。 3.その他の雑草 (1)スギナ スギナは古くから畑地の強害雑草とされてきたが、一部の麦ほおよび休耕田において発 16 17 麦 類 生している。発生時期は年次によってやや異なるが、麦ほにおいてはおおむね3月中旬か ら下旬にかけて萌芽し始め、4月上旬から中旬が萌芽揃期~萌芽終期となる。4月上旬~ 中旬におけるスギナの風乾重は多いところでは㎡当たり 80g であり、除草を行わなかった 場合には麦収穫時の6月初めには、㎡当たり 250g にも達しており、雑草害は麦の減収(ス ギナの多発生の場合の減収率約 15%)と機械収穫に支障をきたす点の両方から問題となる。 (2)ママコノシリヌグイ タデ科に属する雑草で、茎にトゲがあり麦にからみついて伸長し、種子が収穫物に混入 して問題となる。発生時期は2月下旬~3月中旬で発生は比較的揃いやすい。4月下旬か ら開花し、麦収穫時には草丈 20~50cm となり、結実した種子が麦に混入し品質を低下させ る。種子はかなり大きく、長さ 3.8~4.4mm、幅 2.8~3.4mm、千粒重 16.0g で粒厚や風によ る選別は困難である。 防除は雑草発生揃いの3月上~中旬にアクチノール乳剤を散布する。この時期は麦の草 丈が 40cm 以上とかなり繁茂しているので、薬剤が雑草に十分付着するように、登録の範囲 内で薬量を多めにして入念な散布を行う。 (3)トゲミノキツネノボタン・イボミキンポウゲ 両種はいずれもキンポウゲ科に属する新しい帰化雑草で、一部の地域で発生している。 麦ほにおける発生消長は両種ともほぼ同様の傾向を示し、発生始期は麦の出芽期よりも遅 く 12 月中旬である。発生の盛期は 12 月下旬~1月上旬で、その後の発生は少なくなる。 発生始期が遅いため播種直後の土壌処理剤はほとんど効果が認められない。防除法とし ては、発生揃い後の2月上~中旬にバサグラン液剤の散布が効果が高い。また、ハーモニ ー75DF 水和剤も有効である。 (4)ネズミムギ(イタリアンライグラス) イネ科のドクムギ属に属する一年生植物である。寒地型牧草として全国的に栽培されて いる。温暖地においては、秋期に出芽し越冬後、初夏に出穂開花するという麦類に同調し た冬型一年生の生活を持つ。千粒重は 2.0~2.2g であり、草丈は 100~130cm になる。生育 土壌を選ばないが、耐暑性や耐寒性が比較的弱く、耐乾性も高くない。 近年、東海地方において雑草害による麦類の収穫放棄と次回作付けの断念に至る著しい 被害事例が報告されている。侵入経路としては、法面緑化資材からの逸出、過去に飼料作 として作付がある、近隣の飼料作からの侵入、さらに投入した堆肥に混入して侵入するこ とが考えられる。 麦-大豆を連作する長期固定方式の転作ほ場で発生が多く、水稲との輪換を行っている ほ場では発生が少ない傾向である。一方で、イタリアンライグラスは湛水条件下で種子生 存率が高く、種子を約 90%以上死滅させるためには、50 日以上の連続した湛水条件を維持 する必要があり、間断灌水条件ではほとんど死滅しないことが報告されている。このよう 17 18 麦 類 なことから、イタリアンライグラスの耕種的防除としては夏期の水稲栽培が望ましいが、 高い効果は期待できない。 除草剤としては雑草発生前のガレース乳剤またはムギレンジャー乳剤がやや効果がある 程度で、その他の剤は除草効果が劣る。 (6)カラスムギ イネ科のカラスムギ属に属する一年生植物である。エンバクと混同されていることが多 いが、麦作で問題となっているのはすべてカラスムギである。 温暖地においては、秋期に出芽し越冬後、初夏に出穂開花するという麦類に同調した冬 型一年生の生活を持つ。千粒重は 18g 程度あり、稈長は 60~150cm、登熟期間はコムギよ り短く、出穂後 30~35 日で成熟期に達する。土壌の適応性の幅は広く、泥炭地や重粘土地 でも生育する。耐酸性はコムギやオオムギより強く、pH4.0~8.0 の土壌で生育可能である。 近年埼玉県や茨城県の麦ほ場で被害が著しく、カラスムギの多発ほ場では蔓延後に麦類の 作付を休止する事例が報告されている。また、侵入経路としては堆肥等からの逸出と考え られている。 ネズミムギ同様、麦-大豆を連作する長期固定方式の転作ほ場で発生が多く、水稲との 輪換を行っているほ場では発生が稀である。カラスムギ種子は常時湛水条件 20 日間で 99% 以上死滅し、高温ほど湛水条件下での死滅率が高いことが明らかとなっている。このこと から、麦ほ場でカラスムギが多発した場合は、夏作に水稲を栽培して種子を死滅させるこ とが望ましい。さらに麦を遅播きすると発生量が減少することが報告されている。また、 除草剤としてはシナジオ乳剤が最も効果が高いが、出芽の遅い種子については効果が劣る。 18 19 大 Ⅰ 豆 県内における主要雑草の発生状況 発生面積の推移 大豆ほ場で発生量が多い雑草は、ノビエ、メヒシバ、カヤツリグサ、オヒシバ、アゼ ガヤで、イネ科雑草が発生の中心となっている。近年、ホソアオゲイトウやアサガオ類、 ホオズキ類などの帰化性難防除雑草の発生が急激に拡大し、各地で雑草害が発生してい る。これらの雑草には有効な除草剤が少ないことから、ほ場への侵入防止対策やブロッ クローテーションによる田畑輪換、中耕・培土作業と生育期の除草剤処理を組み合わせ た総合的な防除が必要である。 平成23年度 平成24年度 平成26年度 平成27年度 発生面積 面積比 発生面積 面積比 発生面積 面積比 発生面積 面積比 ha % ha % ha % ha % ノビエ 5,752 73.5 5,807 75.0 5,959 75.1 5,890 71.9 カヤツリグサ 4,230 54.0 4,210 54.4 4,160 52.5 4,210 51.4 メヒシバ 4,380 55.9 4,370 56.4 4,630 58.4 4,730 57.7 オヒシバ 2,630 33.6 2,550 32.9 2,860 36.1 2,960 36.1 アゼガヤ 2,695 34.4 2,875 37.1 2,950 37.2 2,960 36.1 タデ類 1,330 17.0 1,390 17.9 1,580 19.9 1,630 19.9 タカサブロウ 870 11.1 870 11.2 720 9.1 770 9.4 イヌビユ 1,840 23.5 1,740 22.5 1,768 22.3 1,760 21.5 スビリヒユ 250 3.2 1,160 15.0 1,570 19.8 1,570 19.2 ホソアオゲイトウ 1,000 12.8 2,335 30.1 2,550 32.2 2,750 33.6 アオゲイトウ 1,260 16.1 380 4.9 380 4.8 430 5.2 アサガオ類 1,140 14.6 1,170 15.1 - - - - マメアサガオ - - - - 263 3.3 363 4.4 アメリカアサガオ - - - - 123 1.6 143 1.7 マルバアメリカアサガオ - - - - 198 2.5 418 5.1 ホシアサガオ - - - - 198 2.5 293 3.6 マルバルコウ - - - - 279 3.5 329 4.0 ホオズキ類 830 10.6 835 10.8 1,040 13.1 1,280 15.6 イヌホオズキ類 385 4.9 310 4.0 230 2.9 230 2.8 ツユクサ 300 3.8 390 5.0 370 4.7 430 5.2 その他広葉雑草 111 1.4 122 1.6 - - - - クサネム - - - - 70 0.9 70 0.9 イチビ - - - - 53 0.7 50 0.6 アメリカセンダングサ - - - - 3 0.0 3 0.0 ノゲイトウ - - - - - - 21 0.3 草種名 注)面積比=発生面積/作付面積(普及指導センター調べ) 19 20 大 Ⅱ 豆 雑草の生態及び防除 1.雑草の生態及び防除 (1)ノビエ[イネ科] 耕地や非農耕地に発生するヒエ類を総称してノビエと呼ぶ 。水田転換畑ではイヌビエ 、 ヒメイヌビエが多い 。イヌビエは高さ60∼100cmの大株になる 。穂は通常紫褐色を帯び 、 芒の長いものをケイヌビエと呼ぶ。ヒメイヌビエは、高さ30∼80cmでイヌビエに比べて 小型で、稈は斜上して細く、地面をはう傾向がある。 福岡県ではノビエの発生面積が最も多く、メヒシバやオヒシバ、アゼガヤ等とともに イネ科雑草が水田転換畑大豆での優占雑草となっている。播種前雑草を確実に枯殺し、 土壌処理除草剤を適切に使用して初期発生の雑草を防除する。残存した雑草は中耕・培 土により防除するとともに、状況に応じてイネ科雑草対象の生育期処理除草剤を散布す る。イネ科雑草は非イネ科雑草に比べて中耕・培土による除草効果が劣るので、土壌処 理除草剤を必ず散布する。生育期処理除草剤は散布時期が遅れ雑草が大きくなった場合 には効果が劣る。残存した大きな個体は早めに手取り除草する。 (2)メヒシバ、オヒシバ[イネ科] 耕地や非農耕地に広く発生する夏作の代表的な強害草。地表にほふく茎を伸ばし、所 々から根をおろす。成植物は分げつして株になり、メヒシバは高さ40∼80cm、オヒシバ は20∼50cmになる。メヒシバの葉は柔らかく、茎が円柱状で葉や葉鞘に毛があるが、オ ヒシバの葉は堅く茎は扁平で、茎葉とも無毛であるので区別できる。また、オヒシバは 茎葉ともに丈夫で根張りが良く、容易に引き抜けない。防除法はノビエに準ずる。 (3)アゼガヤ[イネ科] 畑地や水田畦畔での発生が多いが、近年、水田内における発生が増加しており問題と なっている。成植物の茎は細く直立し、根元から分枝して少し横にはい、節から根をお ろして高さ30∼70cmの大株にもなる。葉はやや扁平線形で2つ折となり、薄く淡緑色。 稈の先に淡紫褐色の穂をつける。穂の形状で、キシュウスズメノヒエ等と区別できる。 防除法はノビエに準ずる。 (4)カヤツリグサ[カヤツリグサ科] ノビエに次いで発生量が多い転換畑の強害草。幼苗の葉は細長い線形で先はしだいに 尖り、三方向に出る。成植物は茎が3稜形(切り口が三角形)で、地際から直立し高さ 30∼40㎝になる。防除は土壌処理除草剤と中耕・培土を組み合わせて実施する。 (5)タデ類[タデ科] タデ科の植物は多いが、転換畑ではイヌタデとオオイヌタデの発生が多い。イヌタデ は最も普通に見られるタデで、いたるところに生育する。茎は根元で分枝し株になる。 成植物の高さは30∼70cmで、花は紅紫色で稀に白色がある。オオイヌタデは高さ1∼1. 5mにもなる大型のタデで、茎は太く節は著しく高くふくれる。花の多くは白色で薄い淡 紅色が混じるものもある。幼植物の葉の両面に綿のような毛が密生するので他のタデ類 20 20 21 大 豆 と区別できる。 防除は中耕・培土の効果が比較的高く、土壌処理除草剤と組み合わせて実施する。ま た、田畑輪換による抑制効果が大きい。残存した大型の個体は早めに手取り除草する。 (6)アサガオ類[ヒルガオ科] 大豆圃場で確認されているアサガオ類はアメリカアサガオ、ホシアサガオ、マメアサ ガオ、マルバルコウなどで、葉の形状で区別が可能である。いずれもアメリカ原産の帰 化雑草で、多発生すると減収するとともに、大豆のコンバイン収穫時に大量の蔓が収穫 部に入り込み作業に支障をきたす。蔓性で夏から秋にかけてロート状の花が咲き種子を つける。畦などから侵入し、大豆を連作すると顕著に発生量が増加する。土壌処理剤や 生育処理剤であるベンタゾン剤では効果が劣るため、発生を認め次第抜き取る。畦畔除 草剤としてはグルホシネート液剤の株元散布の防除効果が高く、圃場に侵入する前に畦 畔の防除を念入りに行うことで圃場内での蔓延を抑制できる。 (7)イヌホオズキ類、ホオズキ類[ナス科] 近年、イヌホオズキやアメリカ原産のオオイヌホオ ズキ、ヒロハフウリンホオズキなどの発生が報告され ている。成植物の高さは20∼90cmで、枝は斜めに分か れて広がる。イヌホオズキとオオイヌホオズキは白い 花が咲き、黒い球状の実をつける。ヒロハフウリンホ オズキは淡黄色の花が咲き、褐色の萼の中に緑色の実 をつける。いずれも多発生すると減収するとともに、 大豆収穫時の茎水分が高く果実がコンバイン内部に滞 留することで汚粒発生の要因となる。種子が大きく深 い所から発生するため土壌処理剤の効果が劣り、ベン タゾンの効果も不十分である。リニュロンの効果が高 いことが報告されている。防除法はアサガオ類に準ず るが、畦畔からの侵入を早期に防止することが重要で イヌホオズキ (日本原色雑草図鑑より) ある。 ヒロハフウリンホオズキ 21 21 22 (8)ヒユ類[ヒユ科] 1年生で畑地に生育する、夏の畑地広葉雑草の代表種である。主な草種としては、イ ヌビユ、アオビユ、ホソアオゲイトウなどがあり、ホソアオゲイトウは熱帯アメリカ原 産の帰化雑草である。大豆生育期にかけて発生し、草高が0.3∼2.0mと大型化するため 多発すると大豆収穫が困難となり、汚損粒の原因にもなる。 イヌビユは4月上旬から発生が始まり,夏まで発生が続く。草高は30∼60cmでヒユ類 の間では小さい。発生深度は1cm前後と浅く,土壌中の生存年限は4年程度である。葉 は先がくぼんでおり,円柱状の花穂は太くて短い。 アオビユは全国に分布し,草高は1m前後とイヌビユより少し大きくなる。種子が成 熟する頃には花穂が伸びて先が垂れ下がる。葉は卵型で,長い葉柄がある。 ホソアオゲイトウは温暖地以西に発生が多いが,草高が2mにも達するヒユ類の間で は最も大型の草種である。葉には3∼5cmの長い葉柄があり,ひし状の卵型で光沢のな い緑色をしている。円錐形の穂状花序を形成するが,ヒユ類の間では成熟期が遅い晩生 である。大豆の欠株部分から出芽し、大型化する(中山ら,2010 )。 これらヒユ類はいずれも一般の畑地に発生するだけでなく,特に牛ふん堆肥が散布さ れる畑で発生が多く,家畜の飼料に混入したこれら種子が家畜の体内で消化されず,堆 肥と一緒に再び畑に散布されて繁殖するからである。 中耕培土による防除効果は低く、特にホソアオゲイトウが大型化するため、大豆の出 芽苗立ちを確保し大豆の欠株による雑草の大型化を防ぐ。 除草剤による防除は、播種後の土壌処理剤と大豆生育期の茎葉処理剤との組合せで行 うことで防除効果が高まる。土壌処理剤のみでは除草効果は低く、茎葉処理剤である大 豆バサグラン液剤もヒユ類に対しては除草効果が劣るため、リニュロン剤の畦間株間処 理により防除を行う。 除草剤による防除が出来ず残草が目立つ場合は、コンバイン収穫までに必ず手で抜き 取る。 ホソアオゲイトウの多発ほ場 22 22 ホソアオゲイトウ 23 (9)ツユクサ類 ( ツユクサ属 ) 近年、一部地域の大豆圃場で発生が増加している一年生雑草で、茎を四方八方に広げて節か ら根を下ろし、地面を這うように繁殖する。草種はツユクサ、シマツユクサ、カロライナツユ クサなどがあり、京築地域で発生が確認されているのは、主にカロライナツユクサである。 ツユクサ類の多発田では大豆播種後 14 日頃から発生し、播種後 30 日頃にはほ場一面に繁 茂するため、大豆の生育を著しく阻害する。また、大豆収穫期にはツユクサ類がコンバインに 絡まり収穫作業能率が低下するだけでなく、ツユクサ類の茎葉水分が高いため、汚損粒発生の 原因となる。 防除は、播種後土壌処理剤の効果が低く、また中耕では切断された節から発根し再生するた め、大豆生育中期に茎葉処理剤を散布する。除草効果の高い薬剤は、ベンタゾン剤やジクワッ ト・パラコート液剤 ( 畝間処理 ) で、グルホシネート液剤の効果はやや低い。 23 23 24 水路及び水田畦畔 Ⅰ 雑草の生態及び防除 用排水路(クリーク)の清掃、泥あげや水田畦畔の草刈りなどの管理作業が 地域ないし個人で定期的に行われていた頃は、水路及び水田畦畔雑草が問題に なることは少なかった。しかし、最近は管理が十分でなく、特に下記の雑草が 問題となっている。これらの雑草は、水の流れを妨げ、水田に侵入して作物に 被害を及ぼし、また病害虫の発生源となっているだけでなく、地域の環境を著 しく悪化させている。 キシュウスズメノヒエ・アゼガヤ:畦畔から水田内または水路に侵入 チ ク ゴ ス ズ メ ノ ヒ エ ・ ホ テ イ ア オ イ ・ オ オ フ サ モ : 用 排 水 路 (ク リ ー ク )で 繁 茂 サヤヌカグサ:白葉枯病菌の発生源 ここではこれらの雑草の生態と防除法をとりまとめた。 1.キシュウスズメノヒエ及びチクゴスズメノヒエ (1)来歴及び分布:キシュウスズメノヒエは、熱帯アジア原産で、北米、中 米 の 温 帯 、熱 帯 に 広 く 分 布 し て お り 、日 本 で は 関 東 以 西 の 暖 地 に 分 布 す る 。 従来から陸生の雑草として問題視されていたが、近年では畦畔雑草やクリ ーク雑草としても問題になっている。 ( 2 )形 態 : イ ネ 科 の 多 年 草 で あ る 。草 高 は 、畦 や 道 路 ぎ わ で は 数 cm ~ 十 数 cm 程 度 で あ る が 、休 耕 田 や ク リ ー ク で は 30~ 60cm に ま で 高 く な り 、そ の 他 の 諸形質も大幅に変化する。 チクゴスズメノヒエは、キシュウスズメノヒエより、葉身、茎、根とも 大型で、葉鞘全体に毛茸が多く、粗剛である。また、チクゴスズメノヒエ は葉身と葉鞘の接目(カラー)が赤褐色を呈しており、葉舌が退化してい る等の特徴がある。 (3)増殖:4月上旬頃に萌芽始期となり、4月下旬には萌芽揃いとなる。そ の後はほふく茎を伸ばし増殖を開始する。夏の最適条件下では、葉身展開 速 度 は 0.5 葉 /日 程 度 で 、 ほ ふ く 茎 は 1 日 に 3 cm 程 度 伸 長 す る 。 ま た 、 ほ ふく茎の伸長は、その他の大型雑草・作物雑草や作物などの遮へい物があ ると著しく阻害される。なお、クリークでの増殖力は、明らかにチクゴス ズメノヒエがキシュウスズメノヒエより旺盛である。 キ シ ュ ウ ス ズ メ ノ ヒ エ と チ ク ゴ ス ズ メ ノ ヒ エ は 、冬 期 間 で も 土 中 な い し 24 25 水路及び水田畦畔 水 中 の 茎 は 枯 死 す る こ と な く 越 冬 す る た め 、放 任 し た 場 合 に は 確 実 に 増 殖 し広がっていく。種子による増殖も認められている。 (4)防除法:発生の初期段階での防除が最も重要である。生態面からみた防 除適期は、越冬性の養分がほぼ消失し、増殖茎の養分の蓄積が十分でない 5月下旬頃である。 ア 畦畔の場合…水田や水路へ侵入しないように定期的な草刈りを行う。な お、薬剤による防除法は、使用基準を参照のこと。 イ 水稲刈跡の場合…水稲収穫後の水田に再生した個体は翌年の発生源とな り 、特 に 早 期 や 早 植 栽 培 で は 問 題 と な る 。水 稲 刈 跡 の 再 生 個 体 を 防 除 す る ことにより、翌年の発生を大幅に抑制することが可能である。 水 稲 収 穫 後 、稲 わ ら か ら 再 生 個 体 が 表 面 に 現 れ た 頃 、グ リ ホ サ ー ト 液 剤 ま た は グ ル ホ シ ネ ー ト 液 剤 を 散 布 す る 。気 温 が 低 下 し て か ら の 処 理 で は 効 果 発 現 に 長 期 間 を 要 す る こ と か ら 、 10 月 中 旬 頃 ま で に 処 理 を 行 う 。 ウ 休 耕 田 の 場 合 … 5 月 下 旬 頃 に 深 め に 耕 起 し 、そ の 10~ 20 日 後 に 茎 葉 が 十 分 埋 没 す る よ う に 代 か き を す る 。薬 剤 に よ る 防 除 法 は 、畦 畔 の 場 合 と 同 様 。 エ 用排水路(クリーク)の場合…従来から行われている定期的な引き上げ や泥あげが最も基本的な防除法である。用排水路に使用登録のある除草剤 はない。 2.アゼガヤ (1)来歴及び分布:中国南東部、マレーシアからインド、オーストラリア 北 部 に 分 布 す る 。日 本 で は 本 州 か ら 九 州 に 分 布 す る 。水 田 で は 田 面 が 露 出 した場合に問題となる。畦畔際から匍匐茎を伸ばして本田に侵入する。 ( 2 ) 形 態 : イ ネ 科 の 一 年 生 雑 草 で あ る 。草 高 は 、 畦 や 道 路 ぎ わ で は 30~ 70cm で、緑色だが紫を帯びることが多い。 茎には節があり、基部ではよく分枝し、節ごとに根を下ろして地上を這 い 、先 端 は や や 斜 め に 立 つ 。 葉 は 節 ご と に 出 て 、葉 身 は 長 さ 7-15cm 、幅 は 3-7mm、 無 毛 で つ や は な く 、 扁 平 で や や 薄 手 で あ る 。 (3)増殖:5月頃から出芽を始め、その後はほふく茎を伸ばし増殖を開始す る。8月頃、間の先に淡褐紫色の円錐花序を出し、種子繁殖する。 (4)防除法:発生の初期段階での防除が最も重要である。 ア 畦畔の場合…水田や水路へ侵入しないように定期的な草刈りを行う。な お、薬剤による防除法は、使用基準を参照のこと。 25 26 水路及び水田畦畔 イ 休耕田の場合…5月下旬頃に深めに耕起し、種子が埋没するように代か きを行い、湛水を継続する。薬剤による防除法は、畦畔の場合と同様。 3.ホテイアオイ ( 1 )来 歴 と 分 布:ブ ラ ジ ル 原 産 で 大 型 の 浮 遊 性 多 年 草 で あ る 。明 治 20 年 頃 ア メリカから観賞用に持ち込まれたものが逸出帰化し、大正初期から九州で 大繁殖を始めた。現在では関東・北陸以西の池沼や水路などにみられる。 ( 2 )形 態:草 高 は 増 殖 の 初 期 で は 10cm 程 度 で あ る が 、ク リ ー ク 面 に 繁 茂 後 は 急 速 に 伸 長 し て 、60 ~ 100cm に な る 。葉 柄 は 中 央 部 が 広 倒 卵 形 又 は 球 形 で 、 内部は多孔質で海綿状をなし、水に浮かぶ。 (3)増殖:九州北部では4月下旬頃から生育を開始する。水生雑草の中では 最 も 繁 殖 力 が 旺 盛 で 、第 1 表 に 示 す よ う に 、4 月 19 日 に 6 株 で あ っ た の が 、 8 月 1 日 に は 3,891 株 に ま で 増 殖 し て お り 、 一 夏 で ク リ ー ク 全 面 を 被 覆 す る繁殖力を持っている。ホテイアオイは冬季の寒さに弱いため、寒さが厳 しいほど越冬する株数は減少し、翌年の発生が少なくなる。しかし、暖冬 の翌年には大発生する可能性がある。なお、種子繁殖も一部で認められて いる。 第1表 ホ テ イ ア オ イ の 増 殖 力 (1979 年 、 筑 後 分 場 ) 調査月日 4 月 19 日 5 月 19 日 6 月 13 日 6 月 22 日 7月 5日 8月 1日 被 覆 面 積 (㎡ ) - 0.2 l.9 4.3 13.7 66.5 6 11 98 215 505 3,891 株 数 (株 ) (4)防除法:冬季の寒さで大半の株は枯死する(大型の株ほど寒さに弱い) が、越冬した株については生育量が最も少ない4月上~下旬(萌芽期)頃 に引き上げる方法が最も効果的である。 4.オオフサモ (1)来歴と分布:南米ブラジル原産の帰化水草で、日本各地の池沼、河川及 び 一 部 の 休 耕 田 な ど の 水 中 に 群 生 す る 抽 水 性 常 緑 の 多 年 草 で あ る 。本 州( 福 島県以西)及び九州に分布する。 (2)形態:水面からの草高は増殖初期では5~6㎝程度であるが、群落形成 後 は 20~ 30cm と な る 。節 が 多 く 泥 中 ま た は 水 中 を 分 枝 し な が ら 横 走 し 、長 さ 1 m に 達 す る 。 茎 の 節 か ら 長 さ 20~ 40cm の 糸 状 根 を 数 本 出 し 、 長 さ 10 ~ 30cm の 緑 色 の 茎 を 抽 出 さ せ 、 羽 状 葉 を 輪 生 す る 。 26 27 水路及び水田畦畔 (3)増殖:主に根茎で越冬するが、九州では地上部も枯死することなく越冬 し、クリーク雑草の中では最も早い3月上旬頃から生育を開始する。発生 場所は閉鎖的なクリークで局部的に発生することが多い。乾燥に対する抵 抗性はキシュウスズメノヒエやチクゴスズメノヒエより弱い。 (4)防除法:生育量が比較的少ない3月下旬~4月中旬頃に法面に引き上げ 乾燥による死滅を図る。 5.サヤヌカグサ (1)来歴と分布:河川、水路、休耕田などに生育するイネ科の多年草で、日 本全土に分布する。 (2)形態:稈は細く、株は横に広がって分枝する。節には細毛がある。葉は 広 線 形 で 、長 さ 10~ 20cm、幅 5 ~ 10cm 程 度 で や や ざ ら ざ ら し て い る( こ の 草種によく似たアシカキは葉身だけでなく茎もざらざらしている)。8~ 10 月 ご ろ に 、イ ネ の 穂 を 小 型 に し た よ う な 穂 を 出 し 、一 般 に 穂 首 節 は 完 全 に抽出していないことが多い。これらの穂の形態は他の草種と区別する有 力な特徴である。また、非常に脱粒しやすい。 ( 3 ) 増 殖 : 平 均 気 温 が 10℃ 前 後 に な る 3 月 下 旬 ~ 4 月 上 旬 に 萌 芽 期 と な る 。 水 辺 で は こ れ よ り 10~ 15 日 早 い 。4 月 下 旬 に は 4 葉 程 度 と な り 、そ の 後 葉 身 展 開 速 度 は 0.1 葉 / 日 程 度 で あ る 。 ま た 、 4 葉 以 上 に な る と 分 げ つ が 発 生し始める。越冬地下茎からの萌芽は5月中旬頃までで、それ以降の茎数 増加は分げつによるものが主である。草高は、出芽後伸長を続けるが、一 定 の 高 さ ( 50~ 60cm : 6 月 上 旬 ) に な る と 横 に な び い た 状 態 と な り 、 地 表 面からの高さはこれ以上とならない。8月頃になると、地際節と地上茎が な び き 土 に 接 着 し た 節 か ら 地 下 茎 が 形 成 さ れ 、そ の 長 さ は 30cm 以 上 に 達 す ることもある。また、種子による増殖も確認されているが、その実態は不 明である。 (4)防除法:越冬地下茎からの萌芽がほぼ完了し、分げつ発生の初期段階の 4 月 下 旬 か ら 5 月 上 旬( 草 丈 20cm)頃 が 防 除 適 期 と 考 え ら れ る 。地 上 部 だ け刈り払ってもすぐ再生してくるため、地下茎まで完全に除去する必要が ある。 6.オオアレチノギク (1)来歴と分布:南アメリカ原産で、日本では昭和初期からの帰化植物。道 端や荒れ地で見られる雑草。近年、水田畦畔でよく見られる。 27 28 水路及び水田畦畔 ( 2 ) 形 態 : 茎 は 直 立 し 、 高 さ 60~ 180cm と な る 。葉 は 互 生 で 根 出 葉 は 長 さ 10 ~ 20cm で 幅 2 か ら 3cm の へ ら 状 長 倒 楕 円 形 で 5 ~ 7 対 の 波 上 歯 ふ ち で 花 時 には枯れる。茎葉は細長い皮針形で低鋸歯があり、上部の葉は線形で鋸歯 がない。 ( 3 )増 殖 : 9 ~ 10 月 ご ろ 発 芽 し 、ロ ゼ ッ ト 形 で 越 冬 す る 。8 ~ 10 月 頃 系 3 ~ 4 mm 長 さ 5 mm く ら い の 多 数 の 頭 花 が 円 錐 状 に つ く 。頭 花 は 、淡 褐 色 の 舌 状 花をもつが小さく、総苞の外にはほとんど出ない。そう果(種子)は淡黄 褐色の冠毛を持ち、淡黄褐色から濃黄色である。種子繁殖する。 (4)防除法:グリホサートの感受性が低下している個体が増えており、グリ ホサートにより他の雑草が枯れることにより、春先にはオオアレチノギク が優占する畦畔や法面が見られる。グリホサート剤を散布しても枯れない 場 合 に は 、 グ ル ホ シ ネ ー ト 剤 を 使 用 す る か 、 グ リ ホ サ ー ト 剤 に 2,4-D を 混 用して散布する。 6.その他の水路及び畦畔雑草 (1)草種:生育環境が異なるため草種はきわめて多種である。有害雑草とし てはキシュウスズメノヒエ以外にメヒシバ、チガヤを主体とするイネ科雑 草やヨモギ、ヨメナ、ツユクサ及びセイタカアワダチソウなとがあげられ る。近年では県北の一部の地域において河岸の湿地、畦畔や水路を中心に 北米原産のキク科ヌマツルギクが優占草種となって問題となっている。ま た 、こ こ 数 年 、熱 帯 ア フ リ カ 原 産 サ ト イ モ 科 の 浮 遊 性 雑 草 ボ タ ン ウ キ ク サ 、 南米原産セリ科のブラジルチドメグサ、中南米原産キク科のミズヒマワリ が県南地域のクリークで局所的に発生が認められている。 (2)防除のねらい:畦畔土壌の流亡防止の面からも草を完全に除草する必要 はなく、ねらいとして圃場の環境保全と病害虫の発生源とならないための 雑草防除である。また、ボタンウキクサはホテイアオイに似て、繁殖力が 強いため、発生した場合は除去の必要性がある。 28 29 水路及び水田畦畔 (3)防除法:定期的な草刈りが最も基本的な防除法である。なお、有害雑草 以外については完全に枯死させるのではなく、生育を抑制するという前提 で薬剤、散布濃度等を決定する必要がある。作物の出芽後や移植後の散布 では、薬液の飛散により薬害を生じるので、ドリフト防止用の噴口や器具 を使用して散布するか、専用器具で塗布処理を行う。ヌマツルギクは草刈 りした茎が地面や水に接すると不定根を数日で発生させて着生するため、 切断茎が水路からほ場内に流れ込まないように注意する。 また、ボタンウキクサが発生した場合には、耕種的防除はホテイアオイ に準ずる。ブラジル(アマゾン)チドメグサやミズヒマワリも生育量が最 も少ない4月上~下旬頃に法面に引き上げる方法が効果的である。 6.基盤整備後の用排水路雑草の管理 基盤整備後の用排水路において、造成1~2年目までの強害雑草の発生はほ とんどみられないが、3年目頃から水際や法面で局部的にキシュウスズメノヒ エ、チクゴスズメノヒエ、マコモ、ヨシ、セイタカアワダチソウ等の強害雑草 の発生がみられるようになる。これを放置した場合、チクゴスズメノヒエはそ の後2~3年で用排水路一面を覆ってしまうまでに繁茂する可能性がある。 また、マコモやヨシは主に水際で、セイタカアワダチソウは法面上で優占化 するおそれがある。 これら強害草が繁茂してからではその防除に多大の労力を要するので、初期 段階での防除が重要である。 (1)管理法:春季と秋季に用排水路を定期的に巡回し、雑草の発生を認めた 場合は下記のような防除を行う。 ア ヨシ、マコモやセイタカアワダチソウ等直立型の大型雑草:手取りまた は地際部からの刈り取り イ チクゴスズメノヒエ、キシュウスズメノヒエ等のほふく型の強害草:手 取りまたは除草剤の局所散布(法面) (2)留意点 ア 除草剤は薬液が雑草の茎葉に十分付着するように散布する。 イ 除草剤は薬液の飛散により隣接する作物に薬害を生じるので、散布にあ たっては厳重に注意する。 29 30 水路及び水田畦畔 7.抑草剤の使用方法 畦畔法面の雑草管理は枯殺により完全除草を行うと、降雨などにより土壌流 亡が起こり、水田を守る畦畔としての目的が達せられなくなる。抑草剤は一定 期間、雑草の生育を抑制し、草刈り等の畦畔管理を省力化しようとするもので ある。 抑草剤にはグラスショート液剤やクサピカフロアブルがある。これらの薬剤 の 作 用 特 性 は 茎 葉 部 か ら の 吸 収 移 行 で あ る た め 、 雑 草 の 生 育 初 期 ( 草 丈 10cm 以下)に薬剤が茎葉全体に均一にかかるように散布する必要がある。雑草が大 きくなると効果が減少するので散布時期を逸しないように注意する。また、雑 草の種類によっては効果が変動することがある。グラスショート液剤は、チガ ヤ等の多年生イネ科雑草主体の畦畔に散布すると効果が高いが、同じイネ科で もイタリアンライグラスには抑草効果が劣る。一方、クサピカフロアブルは、 ススキを除く多年生雑草主体の畦畔に使用するが、カモガヤ、セイタカアワダ チソウやアメリカセンダングサ等の大型雑草が多い場合には基準の範囲内で使 用量を多くする。薬剤の使用に当たっては除草剤一覧を参照する。 30
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