減る人口 増えるGDP 上がる株価

Global Market Outlook
減る人口
増えるGDP
上がる株価
2016年12月6日(火)
第一生命経済研究所 経済調査部
藤代 宏一
TEL 03-5221-4523
日本株は、人口減少で手掛けにくいというイメージが定着して久しいが、デフレ脱却が確かなものと
なれば、そうした見方は修正を迫られる可能性がある。本稿では人口減少下で名目GDPが拡大してい
る現状を踏まえ、日本株を考察したい。
10 月の消費者物価統計では、総合が前年比+0.1%、コアCPI(除く生鮮食品)が▲0.4%、コアコ
アCPI(除く食料・エネルギー)が+0.2%、日銀版コア(除く生鮮食品・エネルギー)が+0.3%と
なり、何れの尺度でみても2%に程遠い状況にあることが示された。そうしたなかで筆者はサービス物
価(帰属家賃を除いたベース、以下全て同じ)が前年比+0.5%とプラス圏を維持して 43 ヶ月連続で上
昇したことに注目。デフレリスクが後退しているとの判断に自信を深めた。
(前年比、%)
4
CPI
(前年比、%)
1.5
3
2
サービス物価(除く帰属家賃)
1
0.5
コア
1
0
0
-0.5
-1
-1
-2
-1.5
コアコア
-3
-2
90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14 16
(備考Thomson Reutersにより作成 消費税調整済み
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10
(備考Thomson Reutersにより作成 消費税調整済み
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現状の日本経済は、労働需給逼迫を背景とした賃金上昇がサービス物価の押し上げに繋がっており、
デフレを「物価と賃金の持続的下落」と定義とした場合、少なくともそれに該当しない状態にある。こ
の点、サービス物価はCPI全体の 35%程度しかカバレッジできていないという難点はあるにせよ、イ
ンフレの趨勢を判断をするうえで最も重視すべき内生的な物価上昇圧力が芽生えつつあることを示して
いる。それ故、サービス物価と賃金には強い連動性が認められる。
(前年比、%)
賃金・物価
1.5
時間あたり賃金
1
0.5
0
-0.5
サービス物価
(除く帰属家賃)
-1
-1.5
-2
-2.5
05 06 07 08 09 10 11
(備考)Thomson Reutersにより作成
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13
14
15
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本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
1
物価と関連の強い労働市場に目を向けると、失業率、有効求人倍率、新規求人倍率、日銀短観の雇用
判断DIなど雇用関連統計が軒並み労働需給の逼迫を示す領域にあることに加え、最近はパート比率の
上昇が一服し、パートを除いた有効求人倍率も節目の1倍を明確に上回るなど、労働市場の質的改善を
示すデータが散見されるようになった。こうした雇用指標の強さはミスマッチによって誇張されている
側面があるにせよ、本質的には労働市場のスラック縮小を意味していると考えられ、労働集約的なサー
ビス物価の上昇を説明している。かつて日本固有の現象であったサービス物価の下落は、空前の人手不
足感が顕現化する下でトレンドが変化した公算が大きい。これは 2013 年以降の物価トレンド反転が単に
円安による輸入物価上昇に起因するものではなかったことを代弁している。こうした構図は企業向けサ
ービス価格指数でも裏付けられている。この指標の前年比上昇は 37 ヶ月連続。これは 1990 年代半ば以
降の最長記録で、2000 年代半ばにみられた(偽りの)デフレ脱却とは大きく異なる。2000 年代半ばは、
新興国の台頭に伴う資源価格上昇による外生的な物価上昇が目立っていた一方で、賃金とサービス物価
が同時に上昇する内生的なインフレのメカニズムはさほど生じていなかった。交易条件悪化が企業の人
件費拡大を抑制したとみられるが、それに対して今次局面では労働集約的なサービス産業を中心に賃金
上昇が価格に転嫁されており、内生的なインフレのメカニズムが発生していると判断される。
サービス物価(除く帰属家賃)
(前年比、%)
企業段階の物価指数(財・サービス)
8
100
6
4
95
サービス価格指数
2
0
90
-2
85
-4
企業物価指数
-6
80
90
95
00
05
(備考Thomson Reutersにより作成 消費税調整済み
10
-8
15
95
00
05
(備考)Thomson Reutersにより作成
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本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
2
1.6
有効求人倍率
パート比率
(パート比率、%)
(前年差、%)
32
2.5
1.4
全体
1.2
2
28
1
1.5
24
0.8
1
20
0.6
0.5
除くパート
0.4
16
0
0.2
(前年差、右)
12
0
90
95
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(備考)Thomson Reutersにより作成
10
90
15
95
00
05
10
-0.5
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(備考)Thomson Reutersにより作成
ところで、5年ほど前に物議を醸した議論に「デフレの根本は人口動態にある」との主張があった。
端的に言うと、生産年齢人口の減少によって家計支出が減少すると経済全体が需要不足に陥り、そうし
た下では企業が常に供給能力を削減しようとするため、経済の体温である物価が下落するというものだ。
つまるところ人口減少下でデフレが長期間にわたって続くという主張で、当時は生産年齢人口と名目G
DP、消費者物価指数を描いたグラフが脚光を浴びた。しかしながら、そうした主張は少なくとも現状
を上手く説明できていない。上述のとおり目下の日本経済は、生産年齢人口の減少が人手不足と賃金上
昇圧力を生み出すことで、物価と賃金が互いに上昇基調にあり、実際、2013 年以降の名目GDPは年率
2%程度のペースで増加している。
(兆円)
名目GDP
生産年齢人口
(万人)
8500
600
550
(2015=100)
コアコアCPI 生産年齢人口
120
(万人)
8500
110
名目GDP
500
コアコアCPI 8000
8000
100
450
生産年齢人口
400
7500
350
生産年齢人口
90
7500
80
7000
300
7000
70
250
200
6500
80
90
00
(備考)Thomson Reutersにより作成
(前年比、%)
3
10
6500
80
90
00
(備考)Thomson Reutersにより作成
(前年比、%)
生産年齢人口
10
名目GDP
10
8
6
4
2
0
-2
-4
-6
-8
-10
2.5
2
1.5
1
0.5
0
-0.5
-1
-1.5
70
80
90
(備考)Thomson Reutersにより作成
60
00
90
95
00
05
(備考)Thomson Reutersにより作成
10
10
15
太線:4四半期平均
2013年以降の名目GDP成長率の内訳は、実質GDP成長率が1%程度、GDPデフレータが1%程度
であった。この間、名目GDPの伸びは消費増税、原油価格下落(輸入はGDP控除項目)によって嵩上
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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げていることに注意が必要だが、それを除いても1%程度の伸びが確保されており、基調は明確に反転し
ている。先行きに目を向けると、当社日本経済短期予測チームは2016年度の実質GDP成長率を+1.0%、
17年度を+1.2%、18年度を+1.1%、GDPデフレータを3年度ともに0%近傍と予想。名目GDPは16
年度+0.9%、17年度+1.1%、18年度+1.3%と安定的な拡大を予想している。
ここで名目GDPの水準に目を向けると、直近の値(季節調整値)は506兆円と2011年4-6月期(465兆
円)をボトムに明確な回復傾向にあり、既往最高水準である1997年の524兆円が目前に迫っている。当社の
予想どおり名目GDPが1%成長を遂げた場合、2020年には過去最高を更新することになるので、こうし
た状況はデフレ脱却、内需復活を象徴する。なお、人手不足を背景とした人件費の上昇等によりGDPデ
フレータが+0.5%で推移したと仮定すると、名目GDPは2018-19年頃に過去最高を更新する計算になる。
早ければ来年には名目GDPのピーク更新が話題になるかもしれない。
最後に、名目GDPが営業余剰(≒営業利益)と雇用者報酬(≒人件費)の和であることを付け加えて
おきたい。つまるところ名目GDPの増加は、企業支出の源泉となる「企業利益」と個人消費の源泉とな
る「賃金」が増加することを意味しており、これは真の意味での「稼ぎ」が増加していることに他ならな
い。人口減少と名目GDP増加。株価にとって重要なのは後者である。日本株は名目GDPが縮小を始め
た1990年代後半からレンジ相場に移行したが、複数年にわたって名目GDPが拡大するなか、2015年に上
値抵抗線を突破した。先行きも名目GDP拡大がより持続的なものとなれば、日本株の上値は一段と伸び
ることが期待される。日本株は人口減少による内需縮小が一つのテーマとなり敬遠されてきた節があるも
のの、そうしたイメージは名目GDPが拡大を続けるなかで徐々に払拭されよう。
(兆円)
540
名目GDP・日本株
日本 名目GDP
1000
520
500
名目GDP
TOPIX
480
100
460
440
420
400
1.5%で延伸
10
55
90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14 16 18 20
(備考)Thomson Reutersにより作成 太線:4四半期平均
60
65
70
75
80
85
90
95
00
05
10
15
20
(備考)内閣府、IMF、Bloombergにより作成。1970年1Q=100,対数表示
16年以降のGDPはIMF予測
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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