溝上報告資料

大学教育学会2016年度課題研究集会
2016年12月4日(日)
9:30‐12:00 課題研究シンポジウム I
アクティブラーニングの効果検証
-2年目の作業報告-
司会:
◆溝上慎一(京都大学)
話題提供者:
◆溝上慎一(京都大学) 9:30-10:05(35分、趣旨説明を含む)
「企画趣旨ならびにアクティブラーニング(外化)尺度の開発」
紺田広明(関西大学) 10:05-10:30(25分)
◆
「これまでのプレ・ポストの調査結果から見たアクティブラーニングの効果」
森 朋子(関西大学) 10:30-10:55(25分)
◆
「質的データから見るアクティブラーニングの効果」
山田邦雅(北海道大学) 10:55-11:20(25分)
◆
「グループにおける主体性と学習効果」
自由討論 11:20-12:00(40分)
今日の溝上のスライドは溝上HPにアップしていますので、欲しい方はダウンロードしてください
26(35)
1
課題研究を支える理論
企画趣旨について
*
2
課題研究(2015‐2017年)
1. 課題:「アクティブラーニングの効果検証」
2. 研究代表者:溝上慎一
3. 研究組織(下記)
研究メンバー
所 属
役 割
溝上慎一
京都大学教授
研究統括、[1]調査票作成、授業の量的分析
森 朋子
関西大学教授
[1]調査票作成、授業の質的分析
三保紀裕
京都学園大学専任講師
[1]調査票作成、授業の量的分析
本田周二
大妻女子大学専任講師
[1]調査票作成、授業の量的分析
山田嘉徳
大阪産業大学講師
[1]授業の質的分析
紺田広明
関西大学特命助教
[1]データ整理、授業の量的分析
山田邦雅
北海道大学准教授
[2]フリーライダー、主体率測定
長澤多代
三重大学准教授
[3]授業外学習としての学習環境分析
研究協力者
林 透
所 属
[1}チーム新規追加
[1}チーム新規追加
役 割
山口大学准教授
研究協力
関田一彦
創価大学教授
研究協力
高橋哲也
大阪府立大学教授・学長補佐
研究協力
長崎大学助教
研究協力
川越明日香
[1}チーム新規追加
徳井美智代会員は[2]チームより除外
2
3
アクティブラーニング研究・実践の背景
•
•
アクティブラーニング(active learning):大学の大衆化、学生の多様化を背
景に、1980~1990年代初頭において、米国で提唱・概念化されてきた教
授学習の理論。
単なる教育学習の方法以上のものである。
cf. 学習パラダイムへの転換、学校から仕事・社会へのトランジション(移行)
•
•
•
•
2
日本では、1990年代半ばより参加型授業の名のもと、(今でいうところの)
アクティブラーニングの原初形態が徐々に普及し始めた。
『学士課程答申』(2008年)で、学士課程教育における「教えるから学ぶへ
(from teaching to learning)」の教授学習パラダイムの転換が、さまざまな
観点のもと施策化された。
『質的転換答申』(2012年)で、「アクティブ・ラーニング(能動的学修)」が施
策用語となり、単位制に基づく学修の質的な充実化がはかられた。
初等中等教育にも「アクティブ・ラーニング」を導入
 文科大臣の中教審への諮問( 2014年11月20日)
 中央教育審議会『高大接続答申』(2014年12月22日)
 中央教育審議会教育課程部会『審議のまとめ』(2016年8月26日)
主体的・対話的で深い学びとしての「アクティブ・ラーニング」の視点
☞学習指導要領改訂へ
4
教育顧問をしている(神奈川県私立)桐蔭学園
キャリア教育
主権者教育
1
カリキュラム・マネジメント+アセスメント
保護者セミナー
5
アクティブラーニング論の理論的整備
● 溝上慎一 (2014). アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換 東
信堂
溝上慎一・松下佳代 (編) (2014). 高校・大学から仕事へのトランジション―
変容する能力・アイデンティティと教育― ナカニシヤ出版
中原淳・溝上慎一 (編) (2014). 活躍する組織人の探究-大学から企業へ
のトランジション- 東京大学出版会
松下佳代・京都大学高等教育研究開発推進センター (編) (2015). ディー
プ・アクティブラーニング-大学授業を深化させるために- 勁草書房
● 溝上慎一 (監修) (2016). アクティブラーニングシリーズ全7巻(東信堂)
・第1巻 アクティブラーニングの技法・授業デザイン
(安永悟・関田一彦・水野正朗編)
・第2巻 アクティブラーニングとしてのPBLと探究的な学習
(溝上慎一・成田秀夫編)
・第3巻 アクティブラーニングの評価(松下佳代・石井英真編)
・第4巻 高等学校におけるアクティブラーニング:理論編(溝上慎一編)
・第5巻 高等学校におけるアクティブラーニング:事例編(溝上慎一編)
・第6巻 アクティブラーニングをどう始めるか(成田秀夫著)
1 ・第7巻 失敗事例から学ぶ大学でのアクティブラーニング(亀倉正彦著)
8
講義一辺倒の授業を脱却してアクティブラーニング型授業へ
溝上(2014)
(聴く)
講義+アクティブラーニング(AL)
=アクティブラーニング型授業
ALの2ポイント
 活動への関与
 認知プロセスの外化
表現(書く・話す・発表する)
講義
傘概念(umbrella term)
(協同学習、ジグソー法、PBL、LTD話し合い学習法など)
講義
講義のなかでも議論・グ
ループワーク
2
AL効果検証のターゲット授業は「講義科目」
9
表現の観点から見たアクティブ・ラーニングのプロセス
Output
正解
発見・創造
(イノベーション)
(練習・演習)問題
講義
頭の整理、思考力を育てる
(思考:あることと他のことを繋ぎその根拠や論理を考えること)
解
解
解
正しいr知識
課題の発見
講義+アクティブラーニング
32
(聴く)
(書く・話す・発表する)
Input
Output
(表現)
正しい知識
課題
正解がない問題に取り組み解決する(探究・問題解決)
10
「アクティブラーニング(外化)尺度」の開発について
溝上慎一・森朋子・紺田広明・河井亨・三保紀裕・本田周二・山田嘉徳
(2016). Bifactorモデルによるアクティブラーニング(外化)尺度の開発 京都
大学高等教育研究, 22 (印刷中)
*
11
これまでのAL効果指標と問題点
• これまでのAL効果を報告する論文や報告書では、
 記憶定着率が上がること
 学習が向上すること(たとえば、授業外学習
時間、学習意欲、学習へのアプローチなど)
 能力(技能・態度を含む)が向上すること
 クラス全体の成績が上がること
 達成度テストの得点や合格率が上がること
等の指標をもとに、
 伝統的な講義型授業と比較して、
 授業開始期(プレ)と終了期(ポスト)を比較して
プレ・ポストでの変化
紺田さん発表スライド
アクティブラーニングの効果を示してきた。
(Akınoğlu & Tandoğan, 2007; Bowen, 2000; Crouch & Mazur, 2001; 松本・秋山, 2013; Prince, 2004; 所, 2016; 和井田・小泉・田中, 2016など)。
• 教育効果と呼べるかは横におき、授業アンケートの結果をふまえた授業成果の報告
まで含めれば、その数はかなり膨大となる。
2
ALそれ自体のプロセスを測定する指標が必要
12
ALの「外化」に焦点を当てた「アクティブラーニング尺度」を開発する
紺田さん発表スライド
(研究の目的)
尺度の構成要素。12項目作成
 外化 「議論や発表の中で自分の考えをはっきり示す」
 外化-気づき 「クラスメイトの考えが自分と異なることに気づく」
 外化-内化 「議論や発表を通じて授業の内容についての理解が深まる」
2
13
研究1
【データ】10年トランジション調査のデータを使用
 2015年11-12月に実施
 分析対象者:大学1年生4,677名
男性1,792名、女性2,850名
人文系1,011名、社会系962名、理科系1,292名、
4年制医療系439名、6年制医療系241名ほか
ウェブサイト:
京都大学・河合塾「学校と社会をつなぐ調査」
http://www.highedu.kyoto‐u.ac.jp/trans/
溝上慎一 (責任編集) 京都大学高等教育研究開
発推進センター・河合塾 (編) (2015). どんな高校
生が大学、社会で成長するのか-「学校と社会
をつなぐ調査」からわかった伸びる高校生のタイ
プ- 学事出版
2時点目成果報告会(2016年9月24日@京都キャンパスプラザ):
(ダイジェスト版報告書PDFは上記のウェブサイトにあります)
1
14
探索的因子分析結果
・スクリーテスト:1因子示唆
・ガットマン基準:2因子示唆
・MAPテスト(主成分分析で生成される主成分
を利用して因子数を決定する):2因子示唆
表 因子分析結果(最尤法、Promax回転)
次元
「外化」は抽出される
2
項⽬No
項⽬
外化-気づき・内化因⼦
外化因⼦
共通性
外化-気づき AL10
議論や発表を通じて新しい物事の⾒⽅に気づく
.840
-.001
.704
外化-内化 AL8
議論や発表を通じて授業の内容に関する知識が増える
.831
-.003
.688
外化-内化 AL13
議論や発表を通じて,複数の視点から授業の内容への理解が深まる
.828
.000
.687
外化-気づき AL6
クラスメイトの異なる意⾒を知って刺激を受ける
.794
.020
.655
外化-気づき AL7
議論や発表を通じて⾃分の考え⽅に間違いがあると気づく
.726
.006
.534
外化-内化 AL3
議論や発表を通じて授業の内容についての理解が深まる
.665
.180
.649
外化-気づき AL12
議論や発表を通じて⾃分の考えが偏っていることに気づく
.664
-.038
.407
外化-内化 AL9
議論や発表を通じて⾃分が何を考えていたのかを理解する
.641
.173
.602
外化-気づき AL2
クラスメイトの考えが⾃分と異なることに気づく
.582
.202
.551
-.087
.941
.775
外化
AL4
根拠を持ってクラスメイトに⾃分の意⾒を⾔う
外化
AL1
議論や発表の中で⾃分の考えをはっきり⽰す
.058
.723
.587
外化
AL5
クラスメイトに⾃分の考えをうまく伝えられる⽅法を考える
.135
.696
.640
因⼦間相関
しかし、外化-気づき・内化と高い相関
1
.768
1
15
「外化」はグループ変数として抽出される
Bifactorモデル(直行回転)による因子分析結果
次元
項⽬No.
項⽬
外化
AL1
議論や発表の中で⾃分の考えをはっきり⽰す
.596
.482
-.015
.589
外化-気づき
AL2
クラスメイトの考えが⾃分と異なることに気づく
.724
.133
.148
.564
外化-内化 AL3
議論や発表を通じて授業の内容についての理解が深まる
.807
.094
-.103
.671
外化
AL4
根拠を持ってクラスメイトに⾃分の意⾒を⾔う
.615
.625
-.003
.770
外化
AL5
クラスメイトに⾃分の考えをうまく伝えられる⽅法を考える
.653
.462
.013
.641
外化-気づき
AL6
クラスメイトの異なる意⾒を知って刺激を受ける
.802
.003
.119
.658
外化-気づき
AL7
議論や発表を通じて⾃分の考え⽅に間違いがあると気づく
.725
-.006
.342
.643
外化-内化 AL8
議論や発表を通じて授業の内容に関する知識が増える
.842
-.040
-.114
.723
外化-内化 AL9
議論や発表を通じて⾃分が何を考えていたのかを理解する
.769
.099
-.010
.602
外化-気づき
AL10
議論や発表を通じて新しい物事の⾒⽅に気づく
.836
-.018
-.003
.700
外化-気づき
AL12
議論や発表を通じて⾃分の考えが偏っていることに気づく
.626
-.029
.334
.505
外化-内化 AL13
議論や発表を通じて,複数の視点から授業の内容への理解が深まる
.832
-.026
-.051
.696
因⼦間相関
1
1因子構造は「一般因子」として前提とした
.65
.74
.81
.68
AL1
e1
AL1
e1
AL2
e2
AL2
e2
AL3
e3
AL3
e3
AL4
e4
AL5
e5
AL6
e6
.73
AL7
e7
.83
AL8
e8
.78
AL9
e9
.82 .63 .84
AL10
e10
AL12
e12
AL13
e13
.45
.61
AL4
AL5
e4
.81
e5
AL因⼦
AL6
e6
.72
AL7
e7
.82
AL8
e8
.78
AL9
e9
.82 .63 .83
AL10
e10
AL12
e12
AL13
e13
.80
.63
.67
AL因⼦
0
1
0
0
1
AL外化因⼦
.74
.70
2
⼀般因⼦ グループ因⼦1 グループ因⼦2 共通性
.81
(⼀般因⼦)
図 1因子モデルの確認的因子分析
*χ2(54)=3395.537, p<.001、CFI=.911、RMSEA=.115、AIC=3443.537
.63
(グループ因⼦)
.44
クロンバックのα係数
 AL12項目版 α=.938
 AL外化3項目版 α=.851
確認的因子分析の結果から
Bifactorモデルのほうが妥当
図2 Bifactorモデルの確認的因子分析
*χ2 (51)=1267.662, p<.001、CFI=.968、
RMSEA=.072、AIC=1321.662
16
研究2
【データ】 インターネットリサーチで収集
 2016年11月に実施
 分析対象者:大学1-3年生1,854名 男性927名、女性927名
1年生618名、2年生618名、3年生618名
人文系447名、社会系483名、理科系477名、
4年制医療系169名、6年制医療系94名ほか
外部変数との関連
AL>AL外化で相関が高い。rs=0.3~0.6
平均(SD)
学習変数
能力変数
2
AL(一般因子)
AL外化(グループ因子)
学習意欲
主体的な学習態度
深い学習
浅い学習
計画実行力(AL)
他者理解力(AL)
コミュニケーション・リーダーシップ力(AL)
社会文化探究心(AL)
成績
3.60 (0.71)
3.47 (0.82)
3.08 (0.92)
3.14 (0.65)
3.34 (0.71)
3.19 (0.68)
3.01 (1.15)
3.26 (1.25)
3.17 (1.20)
3.07 (1.18)
2.39 (1.12)
AL
(一般因子)
-
**
.829
**
.410
**
.424
**
.601
**
.005
**
.404
**
.419
**
.441
**
.421
**
-.205
AL外化
(グループ因子)
**
.829
-
**
.367
**
.358
**
.513
**
-.053
**
.328
**
.311
**
.379
**
.333
**
-.193
*
p< .05 ** p <.01
「成績」とは負の相関
ALとAL外化
の高い相関
「深い学習」
と高い相関
17
今後の作業
•
アクティブラーニング(外化)尺度のBifactorモデルを個別の授業データに適
用する
 個人単位での分析結果はすでに確認済み
2015年授業Postデータ(N=3,891名)
-1因子モデルの確認的因子分析
χ2 (54)=2521.706, p<.001、CFI=.926、RMSEA=.108、AIC=2569.706
-Bifactorモデルの確認的因子分析
χ2 (51)=1175.835, p<.001、CFI=.966、RMSEA=.075、AIC=1229.835
 個人単位+授業単位でのマルチレベル分析をおこなう必要性あり
•
•
2
活動主義(ウィギンズ・マクタイ, 2012)や「活動あって学びなし」は妥当な批判
だったのか?
少なくとも、個人の認知レベルでは活動ができている(外化)=気づきや内化
もある、ということではないのか?(さらに検討)
18
ご清聴有り難うございました
(ご質問は、討論の時間で受け付けます)
司会:
◆溝上慎一(京都大学)
話題提供者:
◆溝上慎一(京都大学) 9:30-10:05(35分、趣旨説明を含む)
「企画趣旨ならびにアクティブラーニング(外化)尺度の開発」
紺田広明(関西大学) 10:05-10:30(25分)
◆
「これまでのプレ・ポストの調査結果から見たアクティブラーニングの効果」
森 朋子(関西大学) 10:30-10:55(25分)
◆
「質的データから見るアクティブラーニングの効果」
山田邦雅(北海道大学) 10:55-11:20(25分)
◆
「グループにおける主体性と学習効果」
自由討論 11:20-12:00(40分)
今日のスライドは溝上HPにアップしますので、欲しい方はダウンロードしてください
19