固体表面の物理化学 吸着:固体表面に異種物質が付着する現象 (adsorption) ・物理吸着 (physisorption) 表面と吸着分子の間の van der Waals 相互作用 吸着エンタルピーは 20 kJ/mol 程度 H2 8.4 kJ/mol, NH3 38 kJ/mol, N2 21 kJ/mol など ・化学吸着 (chemisorption) 表面と吸着分子の間に化学結合が生成する 吸着エンタルピーは 200 kJ/mol 程度(結合エネルギーに相当) 1 吸着のエネルギー図 エネルギー Ec(化学吸着の活性化エネルギー) ΔH(物理吸着) 表面からの距離 ΔH(化学吸着) ΔH(物理吸着)は小さい ΔH(化学吸着)は大きい Ec(化学吸着の活性化エネルギー)はさまざま (0付近∼数十 kJ/mol) 2 吸着と脱着 吸着 adsorption 物理吸着 化学吸着 脱着 desorption ※ 固体表面での「化学反応」を考える時には 「脱着」は重要なプロセス 3 脱着の速度論 吸着した分子が脱着する速度を考える。 アレニウス型の速度式を仮定: kd = A exp(! Ea ) RT Ea:活性化エネルギー(吸着エンタルピーで近似できる) A:頻度因子(分子表面の振動数として見積る) 物理吸着: Ea kd 化学吸着: Ea kd 25 kJ/mol, A 1012 s‒1 (30 cm‒1) 4 107 s‒1 100 kJ/mol, A 1014 s‒1 (3000 cm‒1) 3 10‒4 s‒1 4 吸着半減期 吸着半減期 脱着によって、吸着分子の量が最初の半分になるまでの時間 脱着は「一分子過程」と考える。 d[M ad ] = kd [M ad ] dt これより [M ad ] = [M ad ]0 exp(!kd t) 1 1 [M ad ] = [M ad ]0 とおいて、 exp(!kd t) = 2 2 よって t= ln 2 kd 5 平均滞在時間 平均滞在時間(吸着分子が脱着するまでの平均時間) 滞在時間が T∼T+dT である分子の数は、 " !d(exp(!kdT )) % [M ad ]0 exp(!kdT ) ![M ad ]0 exp(!kd (T + dT )) = [M ad ]0 $ ' dT # & dT = kd [M ad ]0 exp(!kdT )dT これに T をかけてすべての T について合計(積分)し、 [Mad]0 で割れば T の平均値が出る。 tav = 1 [M ad ]0 # " 0 kdT[M ad ]0 exp(!kdT )dT = 1 1 " [exp(!kdT )(!kdT !1)]0 = kd kd 6 表面被覆率 表面に吸着できる分子の数には上限がある (これ以上無理) 吸着した分子の数 表面被覆率(θ)= 吸着できる分子の最大数 7 固着確率 確率 s (固着確率) (吸着) (分子が表面に衝突) 1–s (吸着せず離れる) 固着確率= 吸着速度 ※ 表面被覆率が高くなると 固着確率は低くなる 衝突頻度 8 吸着等温式 気体が固体表面に吸着される場合を考える。 K A (gas) + M (surface) AM Mは吸着点、AM は吸着点に分子が吸着された状態とする。 被覆率をθ、吸着点の総数を [M]0 とすると: [AM] + [M] = [M]0 [AM] = [M]0θ これより: K= ! [M]0 ! = [A]([M]0 ! ! [M]0 ) [A](1! ! ) [A] = p(A の圧力)と置き、θについて解くと: Kp != (ラングミュア Langmuir の吸着等温式) 1+ Kp 9 Langmuir の吸着等温式の特徴 != Kp 1+ Kp θ 1.0 K = 10 θは高圧では1に近づく p = 1/K のときθ= 0.5 0.5 K = 1.0 温度が変われば K は変化 K = 0.2 (K は平衡定数だから) 0.0 0 1 2 3 4 p 10 Langmuir の吸着等温式:実測値による解析 実際に測定できるのは「吸着された物質の量」 θ= v= 吸着された物質の量 吸着できる物質の最大量 vmax Kp 1+ Kp = より v(1+ Kp) = vmax Kp v vmax ←これは直接測定できない よって p p 1 = + v vmax Kvmax つまり、p/v を p に対してプロットすると直線になり、 傾き= 1/vmax, 切片= 1/Kvmax から K, vmax が求められる。 11 Langmuir の吸着等温式:実例 木炭に対する CO の吸着量 p/mmHg 100 200 300 400 500 600 700 v/cm3 10.2 18.6 25.5 31.4 36.9 41.6 46.1 v/cm3 [生データ] (p/v)/ (mmHg/cm3) [p/v vs p] 傾き= 0.0090 切片= 9.0 vmax = 111 cm3 K = 0.0010 mmHg p/mmHg p/mmHg 12 Langmuir の吸着等温式:別の解析法 1/p に対して 1/v をプロットしてもよい。 1 1 1 = + v vmax Kp vmax 102(1/v)/cm–3 [1/v vs 1/p] 傾き= 8.88 8 切片= 0.0094 6 vmax = 106 cm3 4 K = 0.0011 mmHg 2 0 0 2 4 6 8 103(1/p)/mmHg–1 10 ※ 数学的には前ページの式と等価だが、 一部の点が狭い範囲にかたまるので、 こちらの方が誤差が大きい 13 他の吸着等温式 Langmuir の式は、「すべての吸着点が等価であり、かつ吸着点の 結合力は常に一定」というモデルに基づく。 他のモデルによれば、別の式が得られる。 フロイントリッヒ (Freundlich) の吸着等温式 ! = cp1 n 経験的にはよく合うことが多い 圧力が高い場合はうまくいかない(飽和挙動がない) BET (Brunauer, Emmett, Teller) 吸着等温式 多層吸着を考慮したモデル w cp = wm ( p0 ! p)((c !1)p + p0 ) w: 吸着分子の量、wm: 単分子で吸着された場合の吸着量 p: 圧力、p0: 吸着物質の蒸気圧 14 BET 吸着等温式の応用:比表面積の測定 w cp = wm ( p0 ! p)((c !1)p + p0 ) wm :単分子で吸着された場合の吸着量=表面積に比例 これを次のように変形する。 " p% 1 c !1 " p % 1 = = A$ ' + B $ '+ w( p0 p !1) wm c # p0 & wm c # p0 & 左辺の量を p/p0 に対してプロットして直線になれば、下の式から wm が求められる。 1 1 1 = = = wm A + B (c !1) wm c +1 wm c c wm c 15 「BET 比表面積」 応用例:N2 ガスの吸着量から wm を求め、N2 一分子あたりの吸着面 積 (0.162 nm2) から物質の表面積を求める(BET 比表面積) 表面積=wm (28/NA) (0.162 10‒18 m2) 吸着したN2の量 N21分子の質量 N21分子の面積 16 固体表面反応の機構 反応機構1 (Eley‒Rideal) B A C ※ 表面に吸着された分子と気相の分子が反応 反応機構2 (Langmuir‒Hinshelwood) A B C ※ 表面に吸着された分子同士が反応 17 固体表面反応の速度論 (Eley‒Rideal) 反応速度=定数 「表面に吸着されたAの量」 「Bの分圧」 d[C] KpA = k! A pB = k pB dt 1+ KpA 18 固体表面反応の速度論 (Langmuir‒Hinshelwood) 2種類の分子が競争的に吸着するので、A, B の吸着に関する平衡 は下のようになる。 KA = [M]0 ! A , pA [M]0 (1! ! A ! ! B ) KB = [M]0 ! B pB[M]0 (1! ! A ! ! B ) ※ [M]0(1‒θA‒θB) が「A, B と結合していない吸着点の数」 θA, θBについて解くと: ! A = よって: pA K A pBK B ! = 1+ pA K A + pBK B , B 1+ p K + p K A A B B d[C] ( pA K A )( pBK B ) = k! A! B = k dt (1+ pA K A + pBK B )2 19 Volcano (火山型)プロット 吸着の自由エネルギー変化を横軸、反応速度を縦軸にとると、 あるところで極大値をとるプロットが得られる=volcano プロット ※ 統計学で出てくる volcano プロットとは別 Jaramillo et al. Science 2007, 317, 100–102. 20
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