本文ファイル - 長崎大学 学術研究成果リポジトリ

NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
雲仙普賢岳の噴火活動による降灰の影響およびその対策に関する調
査
Author(s)
高橋, 和雄; 藤井, 真
Citation
地球規模の酸性雨等環境問題が日本西部地域に及ぼす影響評価に関
する共同研究, pp.77-91, 1996年3月
Issue Date
1996-03
URL
http://hdl.handle.net/10069/25701
Right
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地球規模の酸性雨等環境問題が
日本西部地域に及ぼす影響評価
、び成8年3月
に関する共同研究
雲仙普賢岳の噴火活動による降灰の影響
およびその対策に関する調査
高橋和雄*、藤井 真*⇒
1.はじめに
雲仙普賢岳の噴火活動は、平成2年11月17日に始まり、島原市、深江町の両地区に大き
な人的・物的被害を与えた。今回の噴火による主な加害因子は、火砕流、土石流、噴石、
火山灰である。火砕流および土石流は直接人命を脅かしたが、発生地区が限定されたため、
これらに対応した警戒区域の設定、遊砂地、仮設導流堤の建設、河川改修など応急・緊急
対策、治山ダム、砂防ダム施設などの恒久対策が実施されている。降灰は、発生してから
の制御は不可能で地域全体に影響を及ぼす.その発生期間が短期間である場合影響が小さ
いが、長期間に及ぶと地域に重大に影響を及ぼす。降灰対策としては、桜島の火山対策に
制定された活動火山対策特別措置法(活火山法)りが今回の噴火でも適用され、農業の施
設化、プールの上屋の建設、降灰除去対策などが実施された。さらに、雲仙災害対策基金
や島原市および深江町の義援金基金によって各種の事業が行われた。しかし、降灰は予想
以上に農業、漁業などの生産活動、地域の経済活動、市民生活に大きな影響を与えた。降
灰の除去など種々の分野で十分な対策ができなかった。市民は、行政の対策以外に個人レ
ベルの対策により火山灰に対処した。火山灰は噴火活動の沈静化とともに現在はほとんど
発生していない。しかし、活火山を抱える市街地においては、市街地の都市防災のために
も雲仙普賢岳の火山災害における降灰の実態とその対策を評価しておくべきである。そこ
で、本研究では、雲仙普賢岳の火山噴火に伴い発生した火山灰が地域にどのような影響を
与えるのか、また、火山灰に対応できる生活様式、住まいの工夫において具体的にどのよ
うなことが必要であるのかを新聞記事、行政の各種の降灰対策およびアンケート調査をも
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図一1 月別日平均の火砕流堆積量
通商産業省地質調査所
*工学部社会開発工学科、**工学研究科修士課程社会開発工学専攻
一77一
とに明らかにする。
2.降灰状況
火山の噴火現象によって生じる降灰は我々人間の力では止めることのできない、’いわば
制御不可能なものである。火山灰は、山腹に堆積すると少量の雨でも土石流を引き起こす
要因となる。また、火山灰は風によって被災地以外の広い範囲にまで運ばれ降下し、生活
環境や地域環境の悪化、さらに冷害などの地球環境にまでさまざまな影響を及ぼすことが
考えられるZ)。今回の雲仙普賢岳の噴火における降灰の発生頻度は、噴火活動そのものよ
りもむしろ火砕流の発生頻度に大きく関係した。図一1は月別の火砕流の日平均堆積量を
表わしたものであり、火砕流の発生頻度が高い月ほど多量の火山灰に見舞われている。特
に平成5年5月から7月にかけて火山灰が多かった。
先に述べたように、火山灰は風に運ばれて降下するため、降灰を受ける地域は風向きに
よリ大きく異なる。降灰の状況は、農業にとって重要な問題であるため、かなり詳しく調
べられている3)。
また、長崎海洋気象台が発表する普賢岳上空1,500mの風向・風速予報によって1年を
通じての風向・風速の発生頻度が明らかにされている。これによれば、島原市の北東部に
位置する地域は、春から夏にかけてはかなり集中的に降灰に見舞われている.秋口からは、
降灰は深江方向に偏る傾向にある。鹿児島県の桜島では鹿児島市は海から風が吹く夏季に
のみ降灰の影響を受けるのに対し、 生 活
降灰の除去
洗濯物が外に出せない
水道料の負担増大
普賢岳周辺では1年中降灰に見舞
われる地域が存在した。
車のいたみ
公衆電話の故障
供が外で遊べない
老人へのプレッシャー
自転車に乗れない
視力の低下
目の痛み
耳の痛み
3.降灰が地域に及ぼす影響
図一2は、火山灰が地域に及ぼ
す主な影響を新聞報遵やヒヤリン
健 康
グの結果に基いて、分野別にまと
めたものである。火山灰は広範囲
といの詰リ
空調機などのモーター類の故障
窓や戸が開けられない
通行止め
スリップ
交 通
のダメージは小さくてすむ。しか
し、これが長期化すると生活・健
康面への影響、農業、水産業、商
工業などへの影響が出てくる。こ
信号機標識のよごれ
生産力の低下
t
農作物の晶質低下
商品のいたみ
自動販売機の故障
[ijF[
商 業
施般園芸
品種の変夏
客の滅少(外出控)
[1{iiXF[ 漁獲量の滅少
っながり地域全体にダメージを与
えることが考えられる(図一3)。
散水車
転倒
れが住民を心理的・経済的に圧迫
し、商工業の転出や人口の流出に
医師会の対応
喉の痛み
住 宅
は、被災地以外ではしばらくの間
不便に耐えなくてはならないもの
ファンの設置
ドーム式施般
Aの痛み
にさまざまな影響を及ぼした。噴
火活動が短期間で終息する場合に
降灰袋配布
乾燥機
海水、海底の汚染
図一2 降灰が地域に及ぼす影響
一78一
環境鯛査
以下に各分野別の影響を詳しく述べる。
3.1生活への影響
日常生活において特に大きな影響
として挙げられるのが、降灰の除去
作業であった.火山灰は放置すると
風や自動車の走行によって空中に舞
しばら
耐える
生活・健康への影響
農業・商工業への影響
い上がったりするため、こまめに除
去しなければならない。散水による
心理的 経済的
除去をするために水道の使用量が増
圧ば の限度
大した。降灰除去作業では、島原市.‘
シルバー人材センターのお年寄りた
商工業の転出
ちが活躍した。シルバー人材センタ
人 の 流 出
ーの契約金額のうち、3分の1以上
は屋外での火山灰の除去費用であった。 図一3 被災地以外くの災害の影響
また、降灰のために屋外に洗濯物を干せないこともしばしばあり、ほとんどの家庭では
室内に干したりあるいは乾燥機の使用などの対策をせざるを得なかった。その他、ガス湯
沸かし器、空調機、自動車、カメラなどのセンサーに火山灰が付着するために誤作動や空
気取り込み口の目づまり、モーターなどの回転部の故障が生じた。また、火山灰の堆積に
より、太陽熱給湯器の能力が低下した。
島原市では、屋外の公衆電話機の故障が増えた。故障は、電話機内に入り込んだ火山灰
がテレホンカードやコインを読み取るセンサーに付着して起こる。これに対してはNTT
長崎支店は島原半島内8箇所に、電話機内に送風し火山灰の侵入を防ぐ仕組みをもつ「フ
ァン付き公衆電話機」を試験的に導入した。桜島の火山灰による電話機のトラブルのため
NTT鹿児島支店が開発したもので、10万円程度コスト高になるが、故障の頻度は減少し、
その効果が確認された。小中学校、高等学校などの教育施設では、降灰対策として空調期
の整備、プール上屋の建設、プールクリーナーの整備、グランド等の降灰除去、散水設備
の整備などがなされた。
3.2健康への影響
火山灰は、生活環境を悪化させるだけでなく皮膚粘膜に付着し刺激するなどの健康への
影響を生じる。火山灰は粒径が小さいために呼吸器系の奥まで侵入し、より重度な障害を
もたらす危険性がある.図一4は島原市保健衛生課が行なった普賢岳噴火災害と健康対策
に関するアンケートの集計結果である。これを見ると、とくに眼の症状・喉の症状で6割
以上の人が「噴火後に悪くなった」と訴えている。症状の主なものとして、 「眼が痛い・
ころころする」、 「喉がいがいがする、声がかすれる」、 「咳、たんがでる」などが挙げ
られている。この項目は、火山灰が皮膚粘膜や呼吸器系に付着したことによる影響が大き
いと考えられる。これに対する健康対策としては、 「眼鏡やゴーグルの着用」、 「耳まで
隠れるような帽子の着用」、 「マスクの使用」、 「うがいの励行」などが挙げられている。
噴火当初は、火山灰に対して多くの人が対策をきちんと行なっていたが、噴火活動の長期
一79一
健康対策
噴火後の変化
症状が強くなった↓
眼の症状
わらい ’あて鰍 雛ぽ
24.4× 53.7S IS.3S
①眼鏡、ゴーグルなどの使用
3.SX②外出後の洗眼、
目薬をさすこと
75%の人が噴火後に悪くなったと訴えています
回数が増えた↓
耳の症状
わらない・4・ 火,罐 雀磁
①耳が隠れる帽子を著用
症状が強くなった↑
②外出後は綿棒等で耳を掃除する
噴火後に悪くなったという人が約半分に及びました
らい6S.TX
3
がた
状つ
症な
度く
鼻の症状
①マスクを着用する
L譜
噴火後に悪くなったと言う人が多いようです
回数が増えた↓
喉の症状
①外出時のマスクや外出後のうがい
症状が強くなった↑
65%の人が噴火後に症状が出てきた、悪くなったと訴えている
風邪の症状
わZいT1.O%
回数が Zた
29.o彪
①外出時のうがい
症状が強くなった↑
②降灰時にはマスク
回数が増えた↓
咳・たんの症状
い54・・ ’28彩験 ぎ・壕
①外出時のマスク着用
症状が強くなった↑
②うがいの励行
噴火後に症状が悪化したという人は女性に多かった
回数が増えたIS.6%↓
喘息発作
父い
・4・・1 火讐彪1…
数年ぷりにでた5.8XT ↑
病状が重くなった1.IX
図一4 島原市保健衛生課
化とともに、対策をしている人は少なくなっていったようである。この原因としては、火
山灰に対する慣れや夏季の暑さの中でのマスクや帽子の着用が苦痛なためとも考えられる。
また、雲仙普賢岳噴火災害の健康影響調査は、長崎大学医学部を中心に詳しい調査が行わ
れている4)。
3.3住宅への影響
住宅面では、火山灰の侵入を防ぐために窓を開けられないことが大きな問題となった。
火山灰は人の出入りや小さな隙間から家の中に入り込み部屋の中をざらっかせ、これによ
って電気製品が故障するなどの影響も出た。また、屋根の雨どいが火山灰の重さによって
一80 一
曲がったり、詰まって雨水が流れない状況も出た。雨どいの清掃は素人には危険であるた
め専門の業者に依頼する場合もあり、負担増のひとっとなったようである。シルバー人材
センターは当初、雨どいに詰まった火山灰の除去を行っていたが、危険ということで中止
となった。
3.4 交通への影響
交通面では、大量の降灰で視界が不良となったために道路が通行止めになったり、ある
いは徐行を強いられたりする影響がでた。また、路面に積もった火山灰によってスリップ
事故につながったリ、あるいはバイクや自転車などで転倒したりすることもあった。この
ためバイクや自転車に乗る人が減少した。行政はロードスイーパー、散水車によって道路
の降灰の除去を行った。火山灰による信号機、遮断機などの誤作動および車両のエンジン
故障もあったため、鹿児島や阿蘇の降灰対策をもとに漏電対策や除去対策が行われた。
島原警察署や島原地区交通安全協会などは自動車が巻き上げる火山灰によって沿道の歩
行者や作業をしている人たちが迷惑せずにすむよう、ドライバーヘスピードを控えた思い
やりのある気配り運転を心がけてもらおうとチラシを作り「ゆっくり走ろう気配り島原」
キャンペーンを実施した。
3.5農業・水産業への影響 ・
降灰の影響を最も直接的に受けたのは農業の分野であった。農産物に対する降灰対策は、
平成3年2月の再噴火から行政によって開始された。火山灰は農作物に付着するほか、堆
積すると固まって土壌中に水分や酸素が通りにくくなり、植物の育成を妨げる。これによ
って、農作物の生産力は低下し、かつ付着した火山灰によってその商品価値が失われた。
農業は、島原半島の基幹産業であるが、火山灰のため馬鈴薯、白菜、キャベツ、お茶、葉
タバコなどが大きな被害を受けた。これに対して、防塵ハウスなどの導入に加え、火山灰
に強い作物の品種の変更を行って対応した。農業に対する降灰対策は、鹿児島県桜島の降
灰対策の実績があり、かなりきめの細かい対策が実施された。
水産業の面では、海底に火山灰が堆積して魚類のえさとなる底生動物が減少し、水産資
源に影響を及ぼすことが心配された。このため、土石流の底生動物や魚類への影響調査が
行われた鯵)。
3.6商業への影響
商業面では、商品が火山灰によって傷んだり、汚れたりして展示に苦労した。また、降
灰のひどい日には外出する人も少なくまた噴火災害によって観光客も減少して、商品の売
れ行きにも大きく響いた。土石流による島原市の孤立および災害の長期化、そして火山灰
が、直接被害がない商工業に大きな影響を及ぼした。また、自動販売機の硬化投入口に火
’
山灰が詰まったりして故障するなどの問題も出た。
しかし、一方では、やっかいものの火山灰を利用とする試みとして、火山灰を使用した
普賢ガラスを用いた花瓶やコップなどの製作、火山灰を利用した建材の開発などが行われ
た。また、島原市では平成5年10月26日から「観光客の持ち帰り用」にと島原城や武家屋
敷、旅館、ホテルなど主要観光に火山灰の持ち帰りコーナーが設けられた。
一81一
表一1 雲仙岳噴火災害に係る被災者救済対策
平成44F 4月9日
非常対驚本“
分 野
項 日
妨 店 ・ 笹 拠 惇
● 奇 (寓 施 状 視 熔 )
鼻展胎去封鰭
(1) 道路鯵の鼻灰玲吉事章の補助
ア 市町直については活火山法篇11条で
対応
※イ 泉管寝道略については良害宣旧事嵩
で婦応
ウ 学校については災書復田亭禽で対応
工 社会福祉施設にっいでは竃設ヨ営費
ア 現在まで、■道、県道、市道等に
ついて各道路■垣者等が相互に協力
し、降灰を除去
イ 現在★で、公立掌枝4校で障灰を
鈴去
ウ 対象竃酸は29か所である
で旬応
鼻庚防怜対殼簿
〔1)障灰防除亀塘揖疋と障灰防除
施設の設但等
(D 学枚、保冑所等の教育、佐会
稿祉篇震の空■設餌等の敦■等
(2) 匪窟施設、中小企粛者に対ナ
ア 活火山法{第12粂∼第15条)で鴛応
イ 活火山法の地槍摺定により予算槽助
ア 活火山法の適用により島原市及び
漂江町を降灰防験地斌に指定
・低利損賢
る障灰防除のための責金融賢
lH3.7.9官報音示)
イ 児竃福祉施震等の皇■設偏等17か
厨度●済
ウ 鳥.7ほ{中小企粛■係捨口済,
工 唇火山法に基づ台、畠原市及びロ
江町を障灰多量埴域に拍定
(H3.‘.14文郁×臣故定,
ω連庖竃設緊亀整鎗地篇指定.、
喧歯計■策定と亭黄実飽
(D 連矩道■、遥■焙、広■、退
避壕の整個、琴被の不坊●牢化
ア 活火山法〔篇2負∼算7条)で封応
オ 公立学枝1’枝及び瓢立学校5枝の
空寅殴借を藍但済
ア 活火山法の適用によリ■原市の一
部及び擁江町の一齢を造始施設緊■
等
整僧亀填に揃定〔川.9,27官但含示}
イ 遵周施般廉奉整但針●を承胞
〔x3.1,.13}
、
(3}防災営膚施殴蔓鎗静口等の策
(1) ビニールハウス■の被覆施設
定と事藁実施
ア 活火山法(第8条∼篇9条)で対応
一 一
A 長時昂の節1次肪災営農篇設計口
洗浄頃槙施設●の整僧
{3年度分)を承篤(H3,12.13}、第2
欧防災営白施殴計口《4∼6年度分)
を承B《田,3JD
4.降灰に対する行政の対策
4.1 国の対応e)
国は活動火山対策法に基づいて、降灰除去対策として道路等の降灰除去事業の補助や、
降灰防除対策として学校、保育所等の教育、社会福祉施設の空調設備等の整備を行ったり、
医療施設、中小企業者に対する降灰防除のための資金融資を行った(表一1).’活動火山
対策特別措置法は桜島の噴火による火山灰に対して制定された法律である。これまで、桜
島および有珠山の噴火災害時に適用された実績がある。平成3年7月9日に、島原市およ
び深江町が雲仙岳に係る降灰防除地域に指定され、さらに平成4年8月5日に有明町など
.
5町が追加指定された。
4.2長崎県の対応7)
長崎県は国の対策では対応出来ない分野を長崎県義援金基金をもとに補完し、園芸施設
の降灰対策として防塵ビニールハウス、付帯設備等への助成など.を行った(表一2参照)。
表一2 雲仙岳災害対策基金による降灰対策支援事業
平成4年7月
名
分 類
生業の支援事業
事 業
保育所の降灰対策事業
内 容
降灰防除設備整備1/2助成
稚蚕飼育委託事業
稚蚕の半島外へ飼育委託1/2助成
防災営農施設整備事業の補助対象外の整備に対し rその3分の1を助成
降 灰 対 策 事
業
農林業の対策事業
森林被害復旧対策事業
@付帯施設:二1カーテン、加湿機園芸用ハウス
ネ易ハウスの防塵ビニール資材導入に対し通常ピ
jールとの差額の10分の7を功成
森林の復旧事業に要する安全衛生器具、作業用機
Bの整備及びオペレーター養成に対する経費につ
「て降灰による増加分の4分の3を助成
一82一
表一3 島原市義援金基金による降灰対策支援事業
平成4年度
名
事 業
項 目
内容
降灰地域土壌矯正
灰防止・防災除去
土壌矯正資材の購入助成
﨑「施設整備助成
普賢岳地域防災営農対策事業
{ 設 整 備
灰 対 策
降 灰 袋 配
布 事 業
散 水 器 具 支
降灰袋の配布
水道機材セット支給
給事業
4.3島原市および深江町の対応
地元の自治体も国およ
市 町
表一4 降灰に対する島原市・深江町の対応
年 月 日
び県の対策に対して補助
H.3.9.2】
率の嵩上げを行ったり、
H.3.】0.30
島原市
島原市および深江町の義
密着した対策を行った
(表一3、表一4)。
島原市は、降灰除去用
H.4.5.26
H.4.7◆ 1
援金基金によって生活に
H.3. 9.19
深江町
浄施設整備助成
﨑「施股・除灰施設整備助成
H.4. 5.28
H.4.9.22
H.5.6.27
こ と が ら
降灰袋を各世帯に配布
降灰用清掃車と散水車を購入
水中ポンプ30台を公民館に各5台配備
散水セットを全世帯に配布
1律50.000円を各世帯に配布
、
zースを各世帯に配布
月額1.000円の水道料補助
布団乾燥機を各世帯に配布
の降灰袋を各世帯に配布したり、降灰用の清掃車と散水車の購入、水中ポンプの配備、各
世帯への散水セットの配布などを行ったt)。島原市建設課によれば、平成5年6月末現在
の統計で1戸平均80袋、1トン強の火山灰が搬出された。降灰除去のための費用は国と島
原市が2分の1ずっを負担した。火山灰の除去作業は、道路、学校などの公共施設を行政
が行い、私有地を個人が行った。個人が扱う火山灰は降灰袋に詰めて所定の場所に置き、
行政によって回収された。降灰袋は鹿児島市で使用されているものを参考に導入された。
道路上の火山灰は散水車によって側溝に流していたが、道路の勾配がある東西方向は流れ
やすいものの、国道251号沿いの南北方向は流れにくい。また、側溝のふたがカルバート
やコンクリートの場合は流れ込みにくいため、グレイティングのふたへの変更の要望も出
された。散水車が入れなかった4m以下の幅員の狭い道路や、側溝がない道路および歩道
の降灰除去はなされなかった。この原因としては、降灰の発生がいつまで続くかという判
断がっきかねていたことが考えられる。早期に終息すれば過大投資になるおそれがあるた
め、歩道や狭い道路の降灰除去用の機器の導入は行われなかった。
島原市内6地区の婦人会と商工会議所婦人会の代表が平成5年8月4日、島原市役所に
「降灰除去による水道料金が家計を圧迫している」として市財政からの助成を求めた。し
かし、水道事業は税金を使わない独立採算の特別会計であるため、水道料金の値下げは実
現しなかった。島原市の上水道は、その水源をすべて地下水に依存しており、ダム建設の
必要がないため、水道料金は周辺の市や町に比べて半分程度で安いといえる。島原市水道
課の調査によると、市内一般家庭の毎月の水道使用料平均は1,442円で、このうち降灰除
去関連は平均して150円(年間1,800円)程度としており、降灰除去による水道料金の上昇
は、全体で10%程度であったとされている。
深江町は、各世帯へ散水用のホースや布団乾燥機の配布、水道料金の補助などを行った。
一83一
深江町は、火砕流および土石流に
表一5 雲仙岳噴火対策関係経費(降灰対策)
よる人的・物的被害が小さかっ
平成4年度
島原市
たために,義援金は島原市と比
項 目
較して余裕があるので全世帯に
内 容
教育対策
降灰地域特別健康診断事業
水道料などの補助をきめ細かに
児童福祉施設等降灰除去関連対策費
行った。災害で多少とも地域全
灰土砂側溝凌漂事業土砂除去事業
体が被害を受けたことおよび降
降灰対策
_業用施設降灰除去事業
灰除去にも手間がかかっている
ケ路・排水路等の土木施設の降灰除去事業
を勘案して、水道料の名目で各
カ教施設等降灰除去関連対策費
?ケ施設整備事業
所帯に義援金を配分したとも考
えられる。
しかし、市と町で被災者対策に差があったことも反省の材料となった。
平成5年の年末には、長引く噴火災害と景気め低迷による重苦しい空気を吹き飛ばし清
新な気持ちで新年を迎えてもらおうと、島原市は市内の全世帯に2万円分の商品券を配布
した。深江町でも、町内の全住民に対し”越年資金”として一律1万円を配布した。商店
街の活性化のためと降灰除去による水道料の負担増をカバーするものといえる。この他、
島原市は市単独の事業でも降灰対策を実施した(表一5)。
5.アンケートによる降灰が市民生活に及ぼす影響の分析
5.1アンケート調査の概要
降灰に対して、市民がど
のような問題を抱え、ど
のようなことが必要だと
考えているのかを知るた
めに、平成5年10月から
同年12月にかけて島原市
全体の約1割程度の世帯
を対象に、 「降灰が市民’
生活に及ぼす影響について」
表一6 地区別配布数、回収数、回収率
世帯数
地区
三会地区
杉谷地区
森岳地区
霊丘地区
白山地区
安中地区
N. A,
合 計
1 1 5 8
配布数
1 2 0
回収数
回収率
8 2
6 8. 3%
1 2 6 3
1 2 9
9 3
7 2, 1%
2 8 6 3
2 7 9
2 1 1
7 5, 6%
2 5 4 6
2 4 6
1 5 5
6 3. 0%
2 9 5 6
2 8 7
2 2 0
7 6. 7%
1 9 7 8
2 0 2
1 2 8
6 3. 4%
一
1 2 7 6 4
1 2 6 3
4.7%
と題するアンケート調査を
6 3
9 5 2
一
7 5. 4 %
%
日1日に1回
130
13.7
Z1週間に1回
541
56.9
匿]1ヵ月に1回
N2∼3ヵノヨに1回
実施した。調査票は、島原
〔]半年に1回
市内の190の町内会の各町
1S6
21
2
0
口全くない
皿季節によリ異なる2T
45
口
A計
X合
内会長に配布を依頼し、郵
送方式で回収した。市内の
952
全世帯の約1割の世帯に合
計1,263部を配布し、952部
を回収した。回収率は75.4
%であった(表一6)。
調査内容として降灰の発
図一5 平成5年の降灰の発生頻度(N−= 952人)
一84一
19.5
2.2
0之
0.0
2.8
4.T
生頻度の認識や生活面、職業面への降灰の影響、降灰に対する工夫などを聞いた。
5.2降灰の発生頻度の認識
島原市における降灰の発生頻度は、前述したように火山の爆発よりもむしろ火砕流の発
生頻度に大きく関係しており、火砕流の発生頻度の高い月ほど多量の降灰に見舞われる。
降灰を受ける地域は、火砕流の発生頻度や風向きなどに大きく関係しており時期的に異な
る.平成5年は5月から7月にかけて特に大量の降灰に見舞われたが、平成5年の1年間
を通してみると、市民の半数以上が平均して「1週間に1回程度」であったと認識してい
ることがわかる(図一5)。
長崎海洋気象台では、島原地方の気象情報として上空の風向き予報を発表している。市
民の97%がこのことを知っており、知っていた全員が発表される風向き予想を生活の上で
参考にしているようである。降灰に見舞われる地域は風向きに大きく影響されるために、
風向き予想は、特に農業関係者にとって降灰を予測する上で大変有益な情報となっていた
ようである。
5.3 日常生活への影響 ’
降灰は日常生活にも様々な影響を及ぼしている。降灰があると、洗濯物に火山灰が付着
したり、汚れて黒ずんだりするのを避けるため、屋外に干すことができなくなる。火山灰
で屋外に洗濯物が干せずに困った経験がある市民は、 「しばしばある」が90%近く、 「た‘
まにある」を合わせると、ほぼ全員が困っていることがわかる。これに対する対策として
ほとんどの家庭が室内に干している.しかし、屋外に干すのに比べるとどうしても乾きに
くく、布団乾燥機や洗濯物乾燥機を利用して乾かしている家庭が25%程度となo,ている。
「噴火前に比べ水道の使用量が増えましたか」という設問では、実に95%が噴火前に比
べ「増えた」と回答している。火山灰を除去するために、水道水を使用した結果といえる。
また、島原市は湧水に恵まれているため、水路や都市下水路から揚水ポンプによって町内
レベルの降灰除去が行われた.
また、 「降灰で自家用車が故障したことがありますか」という設問にっいては、半数程
度が「ある」と回答している(図一6.)。その故障内容は「窓(電動式のパワーウィンド
ウ等)」、 「ドア」の故障が
%
多く、次いで「ワイパー」、
「エンジン」、 「エアクリ
ーナー」と続き被害が多岐
日ある
囲ない
482 50.6
口N.A.
合 計
112 11.S
952
35s 31.6
にわたっている。自家用車
以外にも故障しやすくなっ
たものを聞くと、 「空調器」
が60%を占め、次いで「自
動販売機」、 「公衆電話」
などが火山灰の影響で故障
しやすくなったようである。
そのほか、パソコンやワープ
図一6 降灰による自家用車の故障 (N;952人)
一85 一
ロ、コピー機、カメラ、AV機器 表一7 日常生活のなかで困ること
設
なども挙げられており、屋外に N=952人 (複数回答)
人数
項 目
降灰の除去
置されているものばかりでなく
洗濯物が外に干せないこと
室内に置かれているコンピユー
車の故障やいたみ
自転車に乗れないこと
タなどの機械類にまで影響が及
目やのどなどの痛み
んでいたことがわかる。
子供が外で自由に遊べないこと
島原市における降灰は、火砕
家屋のいたみ
流の発生に伴って砕けた火山灰
が降ってくるため、鹿児島県の
桜島における爆発に伴う火山灰
植木や草花が育たないこと
飲料水への不安
窓が開けられないこと
戸や窓が開けにくくなること
ペット(犬や猫など)を飼いにくくなったこと
に比べると非常に粒子が小さい。
家畜に健康などで何らかの変化があったこと
そのため、屋外に設置された公
水道料の負担が大きくなったこと
衆電話や自動販売機の硬貨投入
口から内部に入り込んだリ、小
さな隙間などから室内に侵入し
877
902
482
163
603
347
534
699
241
882
667
108
26
585
802
329
屋根の雨どいが詰まること
太陽熱給湯器の能力が低下した
77
21
その他
N.A.
(%)
92.
94.
50.
17,
63.
36.
56.
73.
25。
92.
70.
11.
2.
61.
84.
34.
1
7
6
1
3
4
1
4
3
6
1
3
7
4
2
6
8,
1
2.
2
た火山灰がコンピュータ類の内部に入り込んだりして故障の原因になっているものと考え
られる。
日常生活全体について、降灰の影響で困っていることを尋ねた結果を表一7に示す。こ
れを見ると、特に「火山灰の除去」、 「洗濯物が屋外に干せないこと」、 「窓が開けられ
ないこと」の3項目が90%以上の回答率で挙げられている。そのほか、 「雨どい、が詰まる
こと」や「植物が育たないこと」、 「戸や窓が開閉しにくくなること」などが続いている。
火山灰は、放置しておくと風などによって再び空中に巻き上げられるため、灰があるたび
に除去しなければならず、除去作業は市民にとって苦痛となった。また、火山灰の室内へ
の侵入を防ぐため夏季.の暑い日でも窓を開けることができず、クーラーの使用が多くなり
電気使用料金も増大した。雨樋が詰まると修理が必要とな6が、素人には難しく専門業者
に依頼することとなり、これもまた家計の負担にっながったようである。
雨水や地下水への影響を尋ねたところ、影響が「あった」と回答した人は5%程度で半数
表一8 具体的な症状
以上の人が「わからない」と回答している。
N= 626人
5.4健康面への影響
市民は、火山灰の影響に
より身体の不調を訴えたり
あるいは病気にかかったり
と、健康面での影響を受け
項 目
目の痛み、目がころころする
のどがいがいがする
咳やたんが出る
鼻水が出る、鼻がむずむずする
た市民は66%に達している。
視力の低下
具体的な症状を表一8に示
その他
す。これを見ると特に「目
耳の痛み
の痛み、目がころころする」
人数(人)
82.9
373
59.6
240
38.3
199
31.8
99
36
15
一86一
(%)
519
60
N. A.
(複数回答)
15.8
9.6
5.8
2.4
や「のどがいがいがする」、 「咳やたんがでる」といった「目」や「のど」に関する項目
が上げられている。そのほか、降灰の除去作業に伴う腰痛や腕の痛みなどを訴えた人もあ
った.
市民は健康面で降灰に対して、主に目薬の使用やマスクを着用するなどして対策してい
た。防塵マスクやゴーグルの使用も10%程度も見受けられる。
5.5交通面への影響
市民すべてが自動車やバイクを利用するとは限らないが、全体の25%がスリップ事故に
あったり、転倒してけがをしたりした経験がある。スリップ事故と転倒がともに半数を占
める。
5.6農業・水産業への影響
農業関係者に、降灰から受ける主な影響とそれに対する対策にっいて尋ねたところ、回
答者126人中121人(96%)が降灰の影響で困ったことが「ある」と答ており、農業面へかな
りの影響が及んでいることがわかる。主な影響として、火山灰が堆積することにより「水
はけが悪くなる」ことや火山灰が固まったりして「土壌の悪化Lにっながっている」こと、
火山灰が作物に付着して日光を遮断し「成育不良になったり商品価値を低下させる」こと
などが挙げられている。そのほか、稲刈り機や脱穀機などの「農業機具の故障」も引き起
こしている。これに対して、図一7のように、防塵ビニールハウスなどで被覆したり、機
械類の整備・点検をこまめに行ったりして対策している。また、野菜などの作物は出荷前
に水洗いして商 (影 響) (対 策)
品価値の低下を 降灰の堆積により土Sが悪化する
防庄ビニールハウス等で被覆する
軽減させている 灰が作物に付着し、生育を妨げる
が、これに伴っ
ビニールハウスに灰が積もり日光
て出荷時の手数 降灰のたびに灰を除去する
を遮断する
および経費の増
大にもっながっ 稲刈機、脱般槙、トラクターなど エンジンオイルの早期取り替え
の故障 エアクリーナーの早期点検
た。
水産業関係者 灰で作物が汚れ・商品価値が低下
野菜などは出荷前に水洗いする
に、火山灰から する
受ける主な影響
とそれに対する対
図一7 農業への主な影響と対策
策について尋ねたところ、
表一9 漁業への影響と対策
32人中31人(97%)が火山灰
N=31人 (複数回答)
項 目
の影響で困ったことが「あ
る」と答ている。主な影響
として「漁獲量が減った」
が90%近くに上がっている
ほか、 「海水が濁った」、
人数(人)
漁獲量が減った・
27
海水が濁った
23
海藻類が減ってきた
19
魚の種類が変わった
6
その他
6
「海藻類が減ってきた」な
一87一
(%)
87.1
74.2
61.3
19.4
19.4
どが挙げられている(表一9)。海洋汚染は、土石流による流出土砂の影響もあり、火山灰
だけとは限らないが、海水が濁って魚の餌となる底生動物が減少しており、その付近では
魚の数が減少しているようである.これに対して、漁場を変えるなどして対策した。
5.7商業への影響
商工業関係者に降灰から受ける主な影響とそれに対する対策について尋ねたところ、回
答者192人中172人〔89.6%)が降灰で困ったことが「ある」と答えている。図一8のように
主な影響としてr商品に火山灰が積リ、商晶価値が低下すること」や「来店客の減少」、
「自動販売機などの故障」が挙げられている。店頭に展示された商品に灰が積もると、商
品が汚れたり傷んだりして商品価値が低下する。それを防ぐために、店の周辺に散水した
りまめに掃除しているほか、店頭販売をやめ、訪問販売やカタログ販売に重点を置いてい
るところもある。また、自動販売機などの機械類の故障を防ぐために、周辺の掃除や散水
を行っている。しかし、 「来店客の減少」に関しては、価格を下げてサービスしているも
を
戸
、を
の
一
点
に
グ
販売
ロ
ト
シ
明
や
重
減
ーら
ロ00
を
以前に比べると売り
の
透
タ
客足は伸びず、噴火
口ぐ
入防
観光客の減少などで
り入るや
品に灰が積 、 品価値が
低下 る (53
た侵す一
民が外出を控えたり
しのをバ
カ
商造
水灰除力
る改
散降掃ンる売
にめにロせ販くすの
路閉めイ被問お示舗
道をまナを訪を展店
のの、降灰時には市 (影 響) (対 策)
す
上げはかなり落ちこ
灰の影 で 店 が減った
んだ。
ぐ
防
を
工夫
一にり
のがなった8)
サービス
の る
灰るす
せす水
被除散
を掃に
対する個人や地域の
販 やコン ユータ
・来店客を増やすため低価格で
バめわ
カまま
5.8 降灰対策に
24)
侵 入
※()内は人数
図一8 商工業への主な影響と対策
降灰が市民生活に及ぼす影 表一10 降灰対策に対する個人・地域の工夫
響は、これまで述べてきた
ように健康面や生活面、職
業面など多岐にわたってい
る。これに対し、個人や地
域でもいろいろ工夫をして
降灰対策をしている(表一1
0)。
個人では、屋根の勾配を
急にして火山灰が積もりに
(1)個人での工夫
・屋根の勾配を急にする。
・建物の軒樋を取り外しておくe
・家の廻りにU字溝を作り屋根の灰を流す。
・風による屋根に積もった降灰のまき上げが多いので、屋根瓦の
清掃をこまめにやる。
・電話機をビニールでつつむ。
・風向きによりビニールシートで車および品物におおいをする。
・窓を頻繁に開けられないので、空気洗浄器を各部屋に購入。
・除湿器活用。
・クーラーのドライ使用。
・傘を持ち歩く。
・窓枠にテープをはる。
・タンクローリーを利用した自家製散水車(会社)。
・土壌中和の為に石灰、油かす、牛糞を混ぜる。
・ビニールハウスでは降灰除去の為に、スプリンクラーを取り付
くくしたり、雨どいを取り
けている。
外したり、あるいは家のま
(2)地域での工夫
・降灰があったら近所が一度に出て灰の除去にあたるe
・町内会で手押し車を購入し、灰を運ぷのに大変助けられた。
わりにU字溝を作って屋根
の火山灰を流すなど住まい
の面での工夫が特に目立っ
ている。また、外出時には
・水中ポンプの貸出し。
・噴射水機を購入して小川の水を利用して道路又屋根の降灰を近
所の人と一緒に洗い流している。
・降灰の兆しのある時は、すぐ近所に知らせる.
一88一
マスク・ゴーグルの他に、
表一11 これからの街づくりへの要望
女性の場合日傘が必需品と
N=952人
なった。地域的には、共同
で降灰除去作業を行ったり、
散水用の水中ポンプを貸し
出すなどして火山灰を除去
している。地域での共同作
業は、個人ではできないよ
項 目
歩道にシェルターをつける
地下街をつくる
散水車の台数を増やして迅遠に除去する
散水車が入れないような狭い道路の降灰除去
降灰注意報などの情報を流す
降灰を流しやすいように側溝の構造を工夫する
ドーム式の 一ルやスポーツ施設をつくる
降灰置き場の指定および搬出方法を改善する
(複数回答)
人数
13 1
81
730
663
356
618
364
350
その他
N.A.
30
30
(%)
13.
8、
76.
69.
37.
64.
38.
36.
8
5
7
3.
3.
6
4
9
2
8
2
2
うな場所の火山灰を除去で
きるなどの利点があるが、
表一12 行政への要望
作業に参加しない者や、会
社勤め、病気がち等で参加
できない者もあり人間関係
がぎくしゃくしマイナス面
が出てきたといった意見も
聞かれた。
項 目
歩道や狭い道路への散水
水道料金の値下げ、割り引き、減免
灰の迅速な除去
散水車の台数を増やす
降灰袋をもっと早く回収する、個人で捨てられる
謔、な場所の確保 ・
側溝の構造の改善
降灰除去専用車(吸引式)の導入
降灰状況を知らせる
人
数
69
54
53
47
3 1
27
15
13
5.9これからの街つくリへの要望
今後も噴火活動が続き長期化した場合、街づくりのうえで必要と思われることを自由記
入よりに聞いた。主な内容をまとめると、表一11の結果を得た。市民は「散水車の台数を
増やし、降灰を迅速に除去できるようにすること」や「散水車が入れないような狭い道路
の降灰除去」、 「降灰を流しやすいような側溝の構造を工夫すること」を特に強く望んで
いる。これらはいずれも火山灰の除去に関する項目で、 「歩道にシェルターの設置」や
「地下街をっくる」といった降灰から逃れるための対策に関する項目を回答者数のうえで
はるかに上回っている。学校のプールが屋根付きに改造されたが、屋内施設を積極的に作
るべきだとまでは至っていない。降灰が発生した場合、最も問題となるのは火山灰の除去
である.今後、降灰に強い街づくりを考えていくうえでは、行政、町内会(自主防災組織)
、個人が一体となって降灰に対応できるような体制、および資機材を備えておくことな
どが必要である。
5.10行政への要望
降灰対策に関して、市民は行政にどのようなことを望んでいるのかを聞いたところ表一
12に示す結果を得た.散水車は国道などの幹線道路にだけ導入されており、幅員が4m以
下の市路では散水車が入って行けないこともあり導入されていない。そのため、周辺に住
む市民の手によって散水や降灰除去がなされたが、これは容易な作業ではない。特に、
「歩道や狭い道路への散水、降灰除去」が行政の手によって行われることを市民は強く望
んでいる。火山灰を散水車などによって流すと、後続の車が水を跳ね上げて歩道を歩く人
の衣服を汚したり、川や海の汚染の原因にもなった。このため、吸収式の降灰除去車の導
入も挙げられているが、島原に降った火山灰の粒子は細かいため、吸引式の降灰除去車の
適用はできなかったようである。
一89−一一
また、島原市が行っている降灰袋の回収に関しても、回収ペースが遅すぎることもある
ため、長期間放置されたままの降灰袋も目だった。市民は回収ペースを早くしたり、除去
した降灰を個人で捨てることができるような場所の確保などを行政に望んでいる。
6.まとめ
本報告では、雲仙普賢岳の噴火活動によって発生した降灰が地域に及ぼした影響および
その対策、降灰に対応できる生活様式、住まいの工夫において具体的にどのようなことが
必要であるかを述べた。降灰に強い生活様式および街づくりを考えるべきである。
(1)噴火活動にともなう降灰は、火砕流および土石流と異なって地域全体に影響を及ぼ
す。噴火活動が長期化すると、火山灰は生活、健康面、農業、水産業、商工業など広範囲
にわたってさまざまな影響を及ぼした。これが住民を心理的・経済的に圧迫し、商工業の
市外への転出や人口の流出にっながり地域全体がダメージを受けることが懸念された。
(2)アンケート調査から火山灰は明らかに日常生活のプレッシャーとなり、地域全体の
経済活動や市民生活に大きな影響を及ほした。これに対し、行政による降灰対策とともに、
個人レベルでの様々な降灰対策が実施された。個人での対策としては、火山灰の積もりに
くい勾配の屋根にする、火山灰を流す側溝を作るなど住宅面での工夫が挙げられる。しか
し、各業種や日常生活においてもほとんど有効的な対策をとることができずにいたのが現
実であった。
(3)行政による降灰対策は、短期に終息すると仮定した対策を取ったため、十分な対策
がたてられなかった。早期に終息した場合に、無益な投資となる懸念もあったためであろ
う。しかし、降灰除去の方法、除去しやすい道路の側溝の構造、お年寄りの家庭など火山
灰の除去が困難な世帯への対応など多くの課題を残したままであった。
(4)降灰対策に関する行政への要望に関しては、散水車が導入されていない幅員が4m
以下の狭い道路や歩道の降灰除去および散水対策、また公園.駐車場、空き地などに積も
った火山灰の除去が必要とされていた.これらは、いずれも行政による対策が不十分であ
ったところである。その他、降灰袋の早期回収や、除去した火山灰を個人でも捨てられる
ような場所の確保、火山灰が流しやすいような側溝の構造への改善などが望まれた。
(5)これからの街づくりの展望、行政への要望などを見ても降灰対策に関する市民のニ
ーズは火山灰の除去に関することがらが大部分を占めた。降灰が発生した場合、最も問題
となるのは降灰の除去である。降灰除去の有効的方法の1つである地域共同での降灰除去
作業は、約半数の町内会でしか実施されなかった。今後、行政、町内会(自主防災組織)、
個人が一体となって火山灰に対応できるような体制づくり、および器材の備蓄などが必要
である。
本調査を行うにあたり、アンケートに記入して頂いた島原市民の皆様、アンケートの配
布・回収にあたって島原市企画課、島原市町内会長および島原市の職員の協力を得た.ま
た、アンケートの集計にあたっては、長崎大学工学部社会開発工学科土木構造学研究室の
大学院生、卒論生の協力を得た。なお、本調査には平成5年度長崎大学教育研究学内特別
経費(学長指定プロジェクト)および平成5年度(財)前田記念工学振興財団の研究助成の援
助を受けたことを付記する。
一90一
参考文献
1)鹿児島市降灰対策室:桜島火山対策要覧,全247頁,1985.4
2)土木学会火山工学小委員会編:火山とっきあう,pp.46∼49, pp.74∼77, pp.86∼89,
土木学会,1995.7
3)池永敏彦・武政剛弘:土壌改良剤を用いた雲仙火山灰土での作物栽培試験,雲仙火山
災害の調査研究(第2報),雲仙火山災害長崎大学調査研究グループ,pp.64∼70,1993.6
4)竹本泰一郎・田川雅子:雲仙普賢岳噴火災害の健康影響、雲仙・普賢岳火山災害にい
どむ一長崎大学からの提言一.長崎大学生涯学習教育研究センター運営委員会編,大蔵省
印刷局,pp.177∼203,1994.3
5)東幹夫・西ノ首英之・合田政次:水無川河口周辺海域における底生動物の分布、雲仙・
普賢岳火山災害にいどむ一長崎大学からの提言一,長崎大学生涯学習教育研究センター運
営委員会編,大蔵省印刷局,pp.141∼153,1994.3
6)国土庁;雲仙岳噴火災害対策一覧(第7回改訂版),全35頁,1993.7
7)(財)雲仙岳災害対策基金:たくましく復興への歩み基金事業一覧,全17頁,1992.7
8)(財)島原市義援金募金:平成4年度事業報告書決算書,全14頁,1993.5
一91一