濾胞性リンパ腫ガイドライン

−臨
床
血
液−
第 75 回日本血液学会学術集会
リンパ系腫瘍:ALL/ML
EL-25 ガイドライン(標準治療)
濾胞性リンパ腫ガイドライン
渡 辺
隆
Key words : Watchful wait, Rituximab, Radiotherapy, Radioimmunotherapy
lar Lymphoma International Prognostic Index: FLIPI)が,
はじめに
病型特異的予後予測モデルとして提唱された7)。さら
濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma: FL)は代表的
に,FLIPI2 が提唱された8)。
な低悪性度リンパ腫であり,非ホジキンリンパ腫に占め
I 期ないし隣接する II 期の限局期では,エビデンスレ
る頻度は 7∼15%である1, 2)。しかし,最近は増加しつつ
ベルは決して高いものではないが,全ての病巣が照射野
ある。本項では消化管あるいは皮膚に発生する稀な節外
内に含まれる限り,放射線治療は再発が少なく根治率は
性 FL は治療に関するエビデンスが乏しいことから対象
比較的高いとされる。したがって総線量 30∼36 Gy の放
としない。経過が緩徐であり,進行期症例であってもリ
射線治療が一般的な治療選択であり,40%以上の症例に
ツキシマブ登場以前のデータでは,生存期間中央値は
10 年以上の無病生存が得られるとの報告がある9)。
7∼10 年と長い。しかし,ほとんどの進行期症例は組織
III・IV 期すなわち進行期における治癒指向的治療,
学的進展(histologic transformation)などによって化学
あるいは生存期間を改善する標準治療はこれまでのとこ
療 法 抵 抗 性 と な り治癒困難な疾患群である。診 断 時
ろ存在しないが,近年有用性を示す治療法が開発されて
75∼90%の症例が臨床病期 III・IV の進行期であり,骨
きた。全身症状・巨大病変がなく,診断までの経過が緩
髄浸潤を高率に認める3)。1980 年代の報告ではあるが,
慢な症例では,診断後直ちに治療を開始した群に生存期
FL は再発率が高く,寛解期間は平均 24 ヶ月で,無増悪
間が劣らないという観点より,病勢の進行あるいは症状
生 存 期 間(progression-free survival: PFS)は 5 年 後 で
が出現した際に適切な化学療法を開始することを前提と
30∼40%,10 年 後 で 25% と さ れ た 。全 生 存 期 間
して,診断後病勢進行まで無治療経過観察(watchful
(overall survival: OS)割合を中・高悪性度非ホジキンリ
wait,watch & wait,watchful waiting)という選択肢が取
ンパ腫と比べると,最初の 10 年では 35%対 60%と高い
られることもある10)。治療法としては,アルキル化剤単
一方,15 年では 33%対 26%とむしろ低い 。このよう
独,ドキソルビシンを含まない併用化学療法,ドキソル
に寛解維持が困難で長期にわたって再発・再燃がみられ
ビシンを含む併用化学療法,化学療法とインターフェロ
るのは,FL の腫瘍細胞が中・高悪性度非ホジキンリン
ン-a の併用,自家あるいは同種造血幹細胞移植併用大
パ腫の腫瘍細胞に比し,化学療法剤に抵抗性であること
量化学・放射線療法など,多種多様な治療法が行われて
による。近年ではリツキシマブの導入によって予後が改
きた。しかし,これら治療間の優劣は明らかでなかっ
善している。
た。化学療法剤に抵抗性であることから,化学療法と放
3)
3)
FL における病期分類は Ann Arbor 分類が用いられる。
予後予測モデルとしては元来 aggressive lymphoma の予
射線療法を併用する複合療法も行われてきた。また,再
発・再燃を繰り返す間にアルキル化剤や放射線治療が頻
後指標として開発された,国際予後指標(international
用され,自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(high-
prognostic index: IPI)4) が,FL をはじめとする低悪性度
dose chemotherapy with autologous hematopoietic stem
リンパ腫においても有用であることが報告された5, 6)。
cell transplantation: HDC/AHSCT)後には,治療関連骨
しかしその後,濾胞性リンパ腫国際予後指標(Follicu-
髄異形成症候群または急性骨髄性白血病(treatmentrelated myelodysplastic syndrome or acute myeloid leuke-
小牧市民病院
(1746)200
血液内科
mia: tMDS/tAML)が自家移植 5 年後で 12%の頻度で発
臨
床
血
液 54:10
生したとの報告がある11)。キメラ型抗 CD20 モノクロー
(CQ2),③ R 単独,④②と③の併用療法,
(CQ2)など
ナル抗体リツキシマブ(rituximab: R)が登場し,化学
の治療方法から選択される。ただし,初発例に対しては
療法との併用で高い奏効割合が得られ,微小残存病変の
R+化学療法のほうが化学療法単独よりも推奨される
消失まで得られることが報告されている。そして,従来
(カテゴリー 1)。造血幹細胞移植療法は,初回治療後第
の併用化学療法単独よりも R を併用した化学療法が,
一寛解期には推奨されない(カテゴリー 4)
(CQ6)が,
全生存期間の延長に寄与することが報告されている。さ
再発進行期に検討され得る一つの治療選択肢である
ら に,放 射 性 同 位 元 素 を マ ウ ス・モ ノ ク ロ ー ナ ル 抗
(CQ7)。CQ4 で言及する治療法はわが国では保険適応
CD20 抗体に結合させることにより,リンパ腫細胞を標
外である(図 1)
。
的とした放射線治療が可能となった 。
12)
初発例では限局期のみ放射線治療の適応となる
(CQ3)。進行期では初発例でも再発例でも① watch &
wait (CQ1,CQ2)か ら,② 単 剤 ま た は 併 用 化 学 療 法
図1
初発・再発,限局期・進行期別濾胞性リンパ腫患者の治療アルゴリズム
略語
CQ: クリニカル・クエスチョン
FL: Follicular lymphoma
R: Rituximab
RT: Radiotherapy
RIT: Radioimmunotherapy
RIC: Reduced-intensity conditioning
CMT: Combined modality therapy
201(1747)
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床
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CQ 1.初発進行期(III または IV 期)FL 患者に対
し,どのような場合,無治療経過観察とし,
どのような場合,治療を開始するか
推奨グレード:なし
3.GLSG (German Low-Grade Lymphoma Study Group)
での臨床試験適格規準中の治療介入判断規準17)(カテ
ゴリー 2B)
(1)B 症状あり
(2)Bulky(長径:縦隔では >7.5 cm,その他の部位
解説
>5 cm)
治療開始規準あるいは低腫瘍量の規準として国際的に
(3)正常造血の障害
統一されたものはない。海外の臨床試験グループで主な
(4)急速な病勢進行
臨床試験に用いられてきた代表的な規準を以下に列挙す
る。
注)無治療経過観察は考慮されるべき方法であるが,
明確な規準を持って示しうるような臨床試験のエビデ
のうち,いずれかを認めるもの。
CQ 2.初発進行期(III または IV 期)FL 患者にお
ける標準治療は何が勧められるか
ンスがないため,推奨レベルをなしとした。実臨床に
標準治療は未確立ではあるが,いくつかの患者集団で
おいては,ここにあげる規準を参照し,治療方針を決
は高いエビデンスが示されている治療法があるため,列
定することを推奨する。
挙する。
1.BNLI(British National Lymphoma Investigation)13)
(レビュー
14)
に引用)(カテゴリー 2B)
推奨グレード:カテゴリー 1
R を併用した化学療法が従来の併用化学療法単独より
以下のいずれも認めない場合,無治療経過観察とす
も全生存期間延長に寄与する。
る。
解説
(1)痒疹症または B 症状
R を併用した化学療法が従来の化学療法単独よりも生
存期間延長に寄与する17∼20) ことが報告されている。具
(2)3 ヶ月以内の急激な全身への病勢進行
体的な化学療法のレジメンとして R-CVP(シクロホス
(3)生命を脅かす臓器浸潤
(4)骨髄機能障害(Hb<10 g/dl,WBC<3.0-10 /l,
9
または血小板値 <100-109/l)
ファミド,ビンクリスチン,プレドニゾロン)療法18)
や R-CHOP(シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビ
(5)骨病変
ンクリスチン,プレドニゾロン)療法(図 2)17, 20) があ
(6)腎浸潤
げられる。R 登場以前にはアントラサイクリンは生存期
(7)肝浸潤
間延長には寄与しないとされていたが,R-CHOP と RCVP を比較したランダム化比較試験結果の論文報告は
2.GELF(Groupe d=Etude des Lymphomes Folliculaires)15,16)
(レビュー14) に引用)(カテゴリー 2B)
以下のいずれにも該当する(低腫瘍量の定義)場合,
無治療経過観察とする。
(1)節性病変,節外病変にかかわらず最大長径 <
なく,現在最適な R 併用化学療法は明らかでない。ま
た多剤併用療法が適さない患者では,経口アルキル化剤
(シクロホスファミドなど)単独治療21)(R 時代の現在に
応用するなら単剤化学療法剤とその R 併用があり得る)
も候補となりうる。
7 cm
(2)長径 3 cm 以上の腫大リンパ節が 3 つ未満
(3)全身症状(B 症状)なし
推奨グレード:カテゴリー 1
無症候性の患者では,注意深い観察のもとに治療開始
(4)下縁が臍線より下の脾腫(CT 上 <16 cm)
を延期することも考慮されるべきである。
(5)胸水または腹水がない(細胞内容にかかわらず)
解説
(6)局所(硬膜,尿管,眼窩,胃腸などの)の圧迫症
エ ビ デ ン ス レ ベ ル の 高 い 複 数 の 臨 床 試 験 の 結 果22)
(図 3)13) から,無症候性の患者においては,注意深い観
状の危険性なし
(7)白血化(リンパ腫細胞 >5,000/mm3)なし
察のもとに治療開始を延期することも考慮されるべきで
(8)骨髄機能障害(Hb<10 g/dl,WBC<1.0-109/l,
ある。無治療経過観察から最初の全身治療が必要になる
血小板値 <100-10 /l)なし
9
までの期間の中央値は 2.6∼3 年と報告された13)。
(9)LDH,b2 ミクログロブリン正常
推奨グレード:カテゴリー 2A
低腫瘍量(CQ1 の解説中 2.GELF 参照)の患者には
(1748)202
臨
図2
未治療進行期濾胞性リンパ腫を対象に行われたドイツ
低悪性度リンパ腫研究グループ(GLSG)による多施
設 共 同 第 III 相 前 方 視 的 ラ ン ダ ム 化 比 較 試 験 で の
CHOP 群と R-CHOP 群の治療成功期間(time to treatment failure; TTF)
(文献 17 より引用)
4 サイクルで CR 到達例は 6 サイクル,他は 8 サイク
ル施行。60 才未満の患者で CR/PR 導入例は,DexaBEAM による強化療法後,自家造血幹細胞移植併用
骨髄破壊的大量化学・放射線療法,または週 3 回 500
万単位で始めて有害事象により減量するインターフェ
ロン-a による長期維持療法の,いずれかへ 2 回目のラ
図3
ンダム化を受けた。治療不成功例は,CHOP 群では
205 例中 61 例であったのに対し,R-CHOP 群では 223
例 中 28 例 に 過 ぎ な か っ た(p/0.001)。さ ら に,RCHOP 群では初期治療成功後の再発/進行の割合も有
意に低く,奏効期間を有意に延長した(p/0.001)。
OS で R-CHOP の有利が認められた(p/0.016)。2 年
OS は 95%対 90%。
床
血
液 54:10
無症状の進行期低悪性度 NHL 患者に即座の治療が必
要か否かを明らかにするため,イギリス 44 施設で
1981 年から 1990 年に行われた第 III 相試験の原因特
異的生存(cause-specific survival; CSS)
(文献 13 より
引用)
18 歳以上の III・IV 期低悪性度 NHL 患者 309 名(試
験適格規準は本文 CQ 1.の解説 1.BNLI 参照)が無
治療経過観察(watch and wait)か,診断後速やかに 1
日 10 mg の経口クロラムブシル内服群に割付けられ
た。観察期間中央値は 16 年で,CSS は 2 群間で差な
し。CSS 中央値は,それぞれ,9 年,9.1 年であった。
無治療経過観察から最初の全身治療が必要になるまで
の期間の中央値は 2.6 年であった。経過観察群では 10
年後 19/151 名(13%)が,存命で化学療法を受けな
かった。実際に,リンパ腫で死亡することもなく,10
年間化学療法も必要としなかった患者が 19%(70 歳
を越える高齢者では 40%)あった。この試験結果よ
り無症候性進行期 FL 患者において,注意深い経過観
察のもとに,無治療経過観察も選択肢の一つとなり,
特に 70 歳を越える高齢者では推奨されることが結論
づけられた。
R 単独を初期治療として考慮してもよい。
解説
低腫瘍量の患者には R 単独を初期治療として考慮し
。しかし,この根拠となった第 II
てもよい23∼25) (図 4)
相試験
24)
において増悪までの期間の中央値は 2.2 年で
推奨グレード:カテゴリー 4
放射線治療への化学療法の追加は推奨されない。
あった。一部高腫瘍量の患者を含むため治療成績が低く
推奨グレード:カテゴリー 2B
なっている可能性は否定できないことを考慮しても,上
多剤併用化学療法との combined modality therapy
記の無治療経過観察の治療開始までの期間を凌ぐもので
推奨グレード:カテゴリー 2B
はなく,低腫瘍量において早期から治療開始したほうが
放射線治療が禁忌あるいは回避されるべき場合,無症
よいことを支持するものではない。また,低腫瘍量でも
候性の患者には無治療経過観察が考慮され得る。
R 併用化学療法を行っても構わない。
解説
CQ 3.初発限局期 FL の標準治療は何が勧められる
か
病巣部放射線治療が推奨される9, 26) (図 5)27)。しかし,
疾患全体に占める割合が少ないこともあり,エビデンス
推奨グレード:カテゴリー 2A
レベルは高くない。FL を含む indolent B-cell lymphoma
I 期または隣接する II 期の場合,病巣部放射線治療が
推奨される。
未治療限局期 FL で I 期または隣接する II 期の場合,
に対する放射線療法では,局所制御に必要な照射線量は
30∼36 Gy で十分であるとの国際的な放射線腫瘍医のコ
203(1749)
−臨
床
血
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図4
フランスの 16 施設でリツキシマブ単独治療を初期治
療として受けた GELF の規準で低腫瘍量(本文 CQ1
解説 2. 参照)をもつ II・III・IV 期濾胞性リンパ腫患
者 49 名の第 II 相試験の PFS 長期観察結果(文献 25
より引用)
プライマリー・エンドポイントである day 50 の全奏
効割合 overall response rate (ORR)は 73%,
(完全奏
効[CR] +不 確 定 完 全 奏 効[CRu])割 合 は 13% で,
PFS 中央値は 23.5 ヶ月であった。診断から治療まで
5 ヶ月未満の 18∼75 歳の患者が対象であったので,
診断から治療まで無治療経過観察が十分に行われたう
えで治療介入が開始された患者が試験対象ではなかっ
図5
1873∼2004 年に診断され,データベース解析された
I・II 期濾胞性リンパ腫患者 6,568 名の初期治療に外部
照射ありなしでの NHL 特異的生存(disease-specific
survival; DSS)
(文献 27 より引用)
HR:ハザード比,RT:放射線治療。5,10,15,20 年
次 DSS は,非 RT 群では,それぞれ,81,66,57,51%
であったのに対し,RT 群では,それぞれ,90,79,68,
63%(ハ ザ ー ド 比 0.61 ; 95% 信 頼 区 間[CI]
,
0.55∼0.68;p?0.0001)であった。多変量解析で RT
初回治療が,DSS(p?0.0001,Cox ハザード比 0.65;
95% CI,0.57∼0.72)において独立した予後良好因子
であった。リンパ腫が最大の死因であった(52%)
。
初回治療に RT を受けているのは 34%に過ぎなかっ
た。I・II 期グレード 1,2 の FL は進行するまで無治
療経過観察するよりも,最初から RT を施行したほう
が DSS を改善する。米国において限局期低悪性度リ
ンパ腫患者に対してもっと RT を用いて,数千人単位
のリンパ腫による死亡を防ぐべきであると結論づけら
れた。
た。治療介入の適応については言及がなかった。
ンセンサスがある26, 28)。
放射線治療への単剤あるいは多剤併用化学療法の追加
が再発を少なくするという証拠はない29)。一方,多剤併
用化学療法との combined modality therapy が historical
control の放射線治療単独よりも成績が良いとの報告も
ある28) が,照射野内も含めた二次がんが 14%も出現し
たのは問題である28)。National LymphoCare データベー
規準による高腫瘍量に対してのみ,R 維持療法は無増悪
スに前方視的に登録された 206 例の,骨髄穿刺または生
生存期間の延長がみられる(ただし,わが国では保険適
検と CT または PET/CT で病期診断を受けた I 期 FL 患
応承認がない)
。
者では,観察期間中央値 57 ヶ月の PFS 解析で,21%に
解説
相当する 44 人が病勢の進行を認めた。これらの患者に
R 維持療法は GELF 規準による高腫瘍量(① bulky 病
おいて,RT のみで治療を受けた患者に比べ,R-化学療
変(B7 cm),② 長 径 3 cm 以 上 の 別々 の 3 リ ン パ 節,
法または全身療法+RT で治療を受けた患者のほうが
③症候性の脾腫,④腫瘍による臓器圧迫,⑤胸水または
LDH と B 症状で調整した PFS の改善が有意に認められ
腹水,⑥血清 LDH または b2 ミクログロブリンの上昇,
た。しかし,OS には差は認められなかった(ハザード
⑦ B 症状あり,のいずれかをもつもの)のみ無増悪生
比 0.36
[95%CI,
0.16∼0.82]
と 0.11
[95%CI,
0.11∼0.83]
)30)。
存期間を延長させるエビデンスがある32)。ただし,高腫
放射線治療が回避されるべき場合,無症候性の患者に
瘍量に対してでも,全生存期間を延長する証拠は示され
は watchful waiting が考慮され得る 。
31)
ていない。低腫瘍量の初発進行期 FL に対して R 併用化
学療法後の R 維持療法の意義を評価した臨床試験の報
CQ 4.高腫瘍量の初発進行期 FL に対して R 維持
療法を実施すべきか
告はない。さらに現時点ではわが国では R の維持療法
推奨グレード:カテゴリー 1
い。
GELF(Groupe d=Etude des Lymphomes Folliculaires)
(1750)204
はいかなる腫瘍量に対しても保険適応が認められていな
臨
床
血
液 54:10
CQ 5.FL 初回再発時の治療選択としては何が勧め
られるか
推奨グレード:カテゴリー 2A
治療選択肢として様々な方法があり,その優劣につい
ては比較検討した第 III 相試験で論文として公表された
ものは存在しない。
解説
FL の初回再発時の治療選択肢は優劣が不明であるが,
以下に示すものがあげられる。
①
無治療経過観察
②
低腫瘍量の患者では R 単独33)
③
R 抵抗例ではベンダムスチン単独34) (図 6)35)。あ
図6
るいは R+ベンダムスチン(図 7)36)
④
R+フルダラビン37)。フルダラビンを含む多剤併
用化学療法における R 併用の有無の比較試験で,
ルで,奏効が得られているまたは安定 stable disease
である限り,6 サイクルまで継続,さらに,進行ある
いは許容されない毒性が出るまで,6 サイクルまで追
加可能とされた。プライマリー・エンドポイントは
ORR,セカンダリー・エンドポイントは安全性,PFS,
奏 効 期 間。ORR は 77%(CR 割 合 15%,CRu 割 合
19%)で,試験開始前に予想された 35%を上回って
いたが,PFS 中央値 7 ヶ月(95%CI,6∼9 ヶ月),奏
効期間中央値 7 ヶ月(95%CI,5∼10 ヶ月)と短かった。
マントル細胞リンパ腫では全生存で差がみられた
のに対し,FL では全生存では差がなく無増悪生
存でのみ化学療法単独との有意差があった37)。
⑤
先行治療がアントラサイクリンを含まないレジメ
ンの場合,R-CHOP 療法38)
⑥
R を併用したその他の併用化学療法
⑦
限局再発で照射可能である場合,放射線治療
⑧
Radioimmunotherapy (RIT)39)。初 回 再 発 時 の ほ
ベンダムスチン単剤で治療を受けたリツキシマブ抵抗
性濾胞性リンパ腫(グレード 1∼3)または組織学的
進展例 76 名(14 施設)での第 II 相試験結果の PFS
(文献 34 より引用)
ベンダムスチンは 120 mg/m2 連日 2 日を 21 日サイク
うが,それ以降の再発時よりも,より良い完全奏
効割合・奏効期間が期待される40)。なお,R を併
HDC)が全生存期間を延長するとされたが,R の導入
用しない化学療法後の完全奏効・部分奏効が得ら
により自家移植以外の再発後の治療成績も向上した47)
れた例にのみ RIT による地固め療法の有効性を
(カテゴリー 2A)
。ただし,この結果は R を含まない化
示唆するエビデンスがある が,R を併用した化
学療法が初回治療として行われた患者に基づく結果で,
学療法による初回治療後では,その有用性は示さ
また全生存期間は再発時を起点としており,診断時から
れていない。RIT は本邦では再発・再燃例でのみ
の全生存期間ではなかった47)。また,初回治療中に R
適応があり,初回治療に対する奏効後,引続いて
の投与をうけた患者においても,再発時に R を併用し
地固め療法として用いる保険適応はない。
た自家移植が再発以後の全生存期間を延長することが示
41)
CQ 6.FL における自家移植の適応は up-front で
行うべきか
推奨グレード:カテゴリー 4(カテゴリー 1 相当)
FL において,自家移植は初回治療に奏効した後に引
続き up-front で行うべきではない。
解説
初回治療に奏効した後に引続き up-front で行うべきで
された48)。現時点では自家移植は PFS を延長する治療
選択肢の一つと考えられる。
CQ 7.再発 FL 患者に対して自家移植と同種造血幹
細胞移植(allogeneic hematopoietic stem
cell transplantation; allo-HSCT)はそれぞ
れ妥当な治療選択肢であるか
推奨グレード:カテゴリー 2A
。その理由として,二次がんの発生が増加
自家移植と同種移植では後者のほうが治療関連死は高
することが報告されている43, 45, 46)。R 導入後の現在にお
いが再発が少ない。このため両治療間で生存においては
いて,自家移植を何度目の再発時に施行すべきかは不明
差がなく,両者とも選択肢となりうる。
である。
解説
はない
42∼46)
R 導入以前には,再発例に対して,通常量の化学療法
自家移植と同種移植では後者のほうが治療関連死は高
に 比 較 し て 大 量 化 学 療 法(high-dose chemotherapy:
いが再発が少ない。このため両治療間で生存においては
205(1751)
−臨
床
血
液−
繰り返す患者,奏効期間の短い患者での治療選択肢のひ
とつと考えられている。
おわりに
R 時代における濾胞性リンパ腫患者は,R + 化学療
法あるいは R 単独に対する奏効期間によって,大別さ
れることであろう。再発を繰り返す患者もいるので,将
来の後治療に累を及ぼすような治療を避けていくべきと
される。万が一,HT を誘発するような治療,二次がん
を誘発するような治療が存在するならば,最も回避すべ
図7
リツキシマブ併用ベンダムスチン治療を受けた再発低
悪性度 B 細胞またはマントル細胞リンパ腫 66 名に対
する第 II 相試験の PFS(文献 36 より引用)
最後の効果判定時に病勢の進行なく生存または解析時
追跡調査不能例は打切り扱い。day 1 にリツキシマブ,
day 2,3 に ベ ン ダ ム ス チ ン 90 mg/m2 を 28 日 ご と
4∼6 サイクル投与された。プライマリー・エンドポ
イントの ORR は 92%(CR 割合 41%,CRu 割合 14%)
ただし,リツキシマブ不応例は試験の対象から除外さ
れていた。観察期間中央値 20 ヶ月(範囲 19∼22 ヶ
月)で,PFS 中央値は 23ヶ月(95%CI,20∼26 ヶ月)
であった。
き治療ということになる。Watch and wait できる患者を
選択するには熟練を要するといえよう。
著者の COI(conflicts of interest)開示:渡辺隆;講演料(中外
製薬株式会社,全薬工業株式会社,エーザイ株式会社)
文
献
1)Lymphoma Study Group of Japanese Pathologists. The
World Health Organization Classification of Malignant
Lymphomas in Japan: Incidence of recently recognized
entities. Pathol Int. 2000; 50: 696-702.
2)Izumo T, Maseki N, Mori S, Tsuchiya E. Practical Utility of
差がない49∼52)。従来再発が比較的多いとされてきた自
the revised European-American classification of lymphoid
家移植例でも最近生存曲線のプラトーが示されるように
neoplasms for Japanese non-Hodgkin=s lymphomas. Jpn J
なった46, 53)。しかし,二次がん特に tMDS/AML の増加
が問題とされている。いずれもシクロホスファミド大量
+全身照射が前処置に用いられていた46, 53)。
骨 髄 非 破 壊 的(Reduced-intensity conditioning: RIC)
造血幹細胞移植の導入により,治療関連死が減った54)
Cancer Res. 2000; 91: 351-360.
3)Rosenberg SA. Karnofsky memorial lecture. The low-grade
non-Hodgkin=s lymphomas: challenges and opportunities. J
Clin Oncol. 1985; 3: 299-310.
4)The International Non-Hodgkin=s Lymphoma Prognostic Factors Project. A predictive model for aggressive non-
結果,自家移植よりも同種移植のほうが良いとの報告が
Hodgkin=s lymphoma. N Engl J Med. 1993; 329: 987-994.
。しかしこれは,ヒト主要組織
ある55) (カテゴリー 2B)
5)López-Guillermo A, Montserrat E, Bosch F, Terol MJ, Campo
適合性抗原(human leukocyte antigen: HLA)一致同胞
E, Rozman C. Applicability of the International Index for
がいる場合には同種,いない場合には自家移植を受けた
aggressive lymphomas to patients with low-grade lympho-
比較試験で,患者集積ペースが遅く早期中止となった臨
床試験のデータである。RIC が同種移植の中で標準治療
になりつつあるが,Center for IBMTR のレジストリー・
ma. J Clin Oncol. 1994; 12: 1343-1348.
6)Hermans J, Krol AD, van Groningen K, et al. International
Prognostic Index for aggressive non-Hodgkin=s lymphoma is
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造血幹細胞移植でより再発が少ないという報告がある56)
ma international prognostic index. Blood. 2004; 104: 1258-
(カテゴリー 2B)
。ただし,両者間で PFS, OS とも統計
学的に有意差はなく,RIC 群では比較的高齢者が多く,
診断から移植までの期間が長かった57) ことから,両者
間の優劣の判断は困難である。
European Group for Blood and Marrow Transplantation
のレジストリー・データから,HLA 適合非血縁者間の
同種移植では 3 年全生存割合 51%,3 年無増悪生存割合
1265.
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テゴリー 2B)
。以上より,同種移植は若年者で,再発を
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