再生医療実現拠点ネットワークプログラム(疾患特異的 iPS 細胞を活用した難病研究) 研究開発課題事後評価(平成28 年度実施) 評価報告書 事 業 名 再生医療実現拠点ネットワークプログラム ( プ ロ グ ラ ム 名 ) (疾患特異的 iPS 細胞を活用した難病研究 樹立拠点) 研 究 開 発 課 題 名 疾患特異的 iPS 細胞樹立促進のための基盤形成 代 表 機 関 名 京都大学 代 表 研 究 者 名 山中 伸弥 1.研究概要 iPS 細胞は、患者を含む特定の個人由来の多能性幹細胞として樹立できる点で画期的であり、患者から樹立 された iPS 細胞(疾患特異的 iPS 細胞)を用いた難治性疾患の疾患研究、創薬、治療法開発が期待されている。 一方で、リプログラミング技術の発展とともにヒト ES 細胞/iPS 細胞の遺伝子改変技術も進歩を遂げており、これ らの細胞の遺伝子改変を行って疾患研究が行われる時代の到来が予測される。このような状況において本拠点 は、様々な疾患特異的 iPS 細胞の樹立、及び疾患責任遺伝子に改変を加えたヒト iPS 細胞の作製を行い、それ らの細胞を公的な細胞バンクに寄託し、我が国における疾患研究や創薬研究等の研究基盤の確立を目指す。 2.評価結果 ①研究開発の達成状況について 疾患特異的 iPS 細胞の樹立・保存・性状評価手法を確立し、樹立方法を標準化し、共同研究拠点に普及させ た。また、患者のリクルートから試料の採取、診療情報収集・登録まで速やかに行えるシステムが構築されており、 今後、さらに疾患特異的 iPS 細胞を作製する場合も、スムーズに対応できることが見込まれる。 現時点までで 167 疾患 318 症例の疾患特異的 iPS 細胞を樹立し、95 疾患 191 症例を理化学研究所バイオ リソースセンターへ寄託した。寄託に関して、現時点で目標の 200 疾患に達していないが、国立病院機構と連携 するなど、ドナーリクルートの体制が改善された結果、樹立数が飛躍的に伸びており、事業終了時点までには 200 疾患以上寄託できる見込みである。引き続き着実な取組が求められる。 疾患特異的 iPS 細胞のみならず、当初の計画になかった健常人の iPS 細胞を作製するため、ドナーリクルー トを実施し、事業終了までに 30 例程度の樹立が見込まれていることは、当初目標以上の成果であり評価される。 以上により、本研究開発課題の達成状況は概ね優れていると評価される。 ②研究開発の成果について 目標の 200 疾患の樹立・寄託に向けて着実に成果をあげており、難病の疾患研究・創薬という社会的ニーズ に対応し、医療の進展に資する成果を上げた。一方、寄託された疾患特異的 iPS 細胞の利活用の促進はこれ からの課題である。 樹立した疾患特異的 iPS 細胞、開発したゲノム編集技術及びレポーター細胞を組み合わせた研究はオリジナ リティが高く、今後の疾患特異的 iPS 細胞を用いた疾患研究・創薬開発に向けた科学的価値の高い技術基盤を 構築した。また本事業開始当初に共同研究拠点に共通した技術的課題の解決や、疾患特異的 iPS 細胞の樹立 方法の適正化・標準化等において、プロジェクト全体の成果に寄与しており、論文発表も十分行われている。さ らに健常人の iPS 細胞の樹立は当初目標以上の成果であり、評価できる。 特許は 20 件も申請されており、知的財産の確保も積極的に行われた。アウトリーチ活動は十分行われたが、 さらに活発であることが望まれる。 以上により、本研究開発課題の成果は概ね優れていると評価される。 ③マネジメント 極めて多忙な拠点代表者をサポートする内部体制が確立しており、プロジェクトは順調に進行している。試料 提供機関や寄託機関との連携も十分であり、ドナーリクルートから疾患特異的 iPS 細胞の樹立、寄託に至るシス テムが構築されており、全体の研究体制は整備されている。若手研究者や技術者を積極的に雇用する等、キャ リアパス支援も図られた。 倫理委員会の承認、個人情報の管理などは各種指針を遵守し適正に実施された。 以上により、本研究開発課題のマネジメントは妥当であると評価される。 ④今後の見通し 疾患特異的 iPS 細胞の樹立と寄託に関しては、目標達成は期待できる。疾患特異的 iPS 細胞バンクは日本 だけでなく、欧米などでも構築が進められていることから、樹立方法や品質管理等に関する国際標準化を見据 えた対応を行い、オリジナリティのあるバンクを構築することが重要である。 一方、バンクの利活用促進は事業のこれからの課題であるが、難病研究に関わる研究機関や医療機関等の ニーズに即し、臨床情報の付随を着実に進めるなどの取組により、寄託された疾患特異的 iPS 細胞がさらに活 用され、疾患研究や創薬、治療法の開発に結びついていくことが望まれる。 また、コントロール細胞、薬効・毒性評価、コホート研究等、様々な目的で利用されることが期待される健常人 iPS 細胞の作製と共に、ゲノム編集技術を用いて遺伝子修復した細胞の作製も継続することが望まれる。 以上により、本研究開発課題の今後の見通しは妥当であると評価される。 ⑤総合評価 疾患特異的 iPS 細胞の樹立方法及び寄託のワークフローを明確化させた点は評価でき、目標の 200 疾患以 上の疾患特異的 iPS 細胞の寄託は達成できる見込みであり、今後の発展にも期待できる。 また、当初目標にはなかった健常人 iPS 細胞を樹立していることは評価できる。国内においては、疾患特異的 iPS 細胞の樹立・保存・性状評価手法を確立し、樹立方法を標準化し、共同研究拠点に普及させ、重要な役割 を担ったが、今後は、広く利活用されるバンクの構築に向けて、海外の動向も考慮して、国際標準化を見据えた 対応や臨床情報付随の着実な促進を期待する。 以上により、本研究開発課題の進捗・成果や今後の見通し等は概ね優れていると評価される。 事 業 名 再生医療実現拠点ネットワークプログラム ( プ ロ グ ラ ム 名 ) (疾患特異的 iPS 細胞を活用した難病研究 共同研究拠点) 研究開発課題名 代 表 機 関 高品質な分化細胞・組織を用いた神経系および視覚系難病の in vitro モデル化と 治療法の開発 名 京都大学 代 表 研 究 者 名 井上 治久 1.研究概要 本拠点では、京都大学及び理化学研究所がこれまで再生医療などの開発を通して蓄積してきたヒト iPS 細胞 の樹立技術、分化技術、純化技術などを応用して、京都大学が「神経系難病」、理化学研究所が「視覚系難病」、 「神経内分泌系難病」及び「神経系難病」を担当し、神経系及び視覚系の疾患モデル細胞・組織を形成する。 それらを難治性疾患実用化研究事業研究班(以下、難病研究班)の臨床研究者に技術提供することで、未だ病 因・病態に不明な点が多い神経系および視覚系の難治性疾患に対する研究の推進と画期的な治療法の開発 への貢献を目指すものである。また、こうした共同研究のためのプラットフォームを製薬企業での開発研究にも 拡げ、当該難治性・希少性疾患に対する治療薬の開発を大幅に加速することを目指す。 ①研究開発の達成状況について 20 疾患 51 症例の疾患特異的 iPS 細胞を樹立し、19 疾患 37 症例を理化学研究所バイオリソースセンターへ 寄託しており細胞の樹立・寄託は順調に進んでいる。 疾患研究に関する論文発表数は 13 報(12 疾患)と現時点では目標にやや達していないが、研究開発終了時 には 20 報に達する見込みである。 創薬スクリーニングは、5 疾患(5 件)について実施し、目標を達成した。今までに、筋萎縮性側索硬化症(ALS) とシャルコー・マリー・トゥース病(CMT)に関して開発候補品1に繋がる化合物を見出し、研究開発が進められて おり、今後の成果が期待される。 講習会、研修会を対象とする疾患特異的 iPS 細胞を用いた研究に関する技術移転件数は 26 件である。 以上により、本研究開発課題の研究開発の達成状況は優れていると評価される。 ②研究開発の成果について 神経系難病、視覚系難病、神経内分泌系難病を対象とし、社会的ニーズや医療の進展に資する成果を挙げ た。大脳皮質、下垂体組織や、小脳プルキンエ細胞などについて新たな分化誘導技術を確立し、特に神経系細 胞の分化誘導について多くの新技術により確立したことは評価できる。また、研究対象とする 18 疾患のうち ALS、 CMT や脊髄小脳変性症等 6 疾患、研究開発終了時までにさらに 4 疾患までスクリーニング系の構築が進む予 定であり、疾患研究は、順調に進められている。しかし、対象疾患から考えてこれらの疾患研究からスクリー ニング系の開発への展開は容易ではなく、見通しがやや不透明である。特に視覚系難病、神経内分泌系 難病については疾患モデル系の確立とそれを用いた創薬研究にやや遅れが見られる。 アウトリーチ活動や学会発表は活発に行われた。特許出願も 9 件と必要な知的財産の確保が図られている。 以上により、本研究開発課題の研究開発の成果は概ね優れていると評価される。 1 本事業では、 「前臨床試験のための最適化合物」を「開発候補品」と定義している。 ③マネジメント 研究開発開始当初、代表機関が理化学研究所、分担機関が京都大学という体制であったが、事業期間の途 中に代表機関が京都大学に、分担機関が理化学研究所に変更となった。想定外の体制変更にもかかわらず、 新体制では、それぞれの機関の特徴を活かし、代表機関と分担機関の連携強化に向けた努力がなされた点は 評価できる。しかしながら神経内分泌系難病について、三次元立体培養による、疾患モデル系開発への貢献が やや不足している。今後さらなる展開を期待するためには、分担機関が行う研究内容をより明確にする必要があ ると考えられる。 難病研究班との協力は円滑に行われ、また製薬企業の連携も参画 5 社、連携・支援 2 社と順調である。製薬 企業との間では、製薬企業個別調整会議が行われ、製薬企業への技術移転・技術指導が実施されている。さら に、代表機関と分担機関で約 20 名の若手研究者を受け入れるなど、若手研究者のキャリア支援も活発に実施 された。 倫理委員会の承認、個人情報の管理などは各種指針を遵守し、適正に実施された。 以上により、本研究開発課題のマネジメントは妥当であると評価される。 ④今後の見通し 疾患モデルの開発は概ね順調に進んでいるが、スクリーニングや臨床研究に向けての見通しはやや不透明 である。開発候補品の同定には困難が予想されるが、ALS 及び CMT のリード化合物が見つかっており、今後の 成果を期待したい。対象疾患が多岐に渡ることもあり、今後、出口戦略から最終年度の目標設定を絞って着実 に取り組みを進めてほしい。 疾患特異的 iPS 細胞を用いた本システムは、従来アプローチできなかった神経細胞を創薬に用いることを可 能にするものである。また神経・感覚器・内分泌器という、機能が重視される疾患モデル系を、三次元立体培養 の手法を導入して作成し、病態解明に一定の成果をあげており、今後さらなる展開が期待できる。また、製薬企 業の参画も得られていることから、創薬に向けて今後の展開が期待できる。 以上により、本研究開発課題の今後の見通しは妥当であると評価される。 ⑤総合評価 神経難病、視覚系難病及び神経内分泌難病を対象とする疾患特異的 iPS 細胞の樹立及び寄託は順調に行 われ、また疾患研究も、優れた成果を上げた。創薬スクリーニング実施数は、5 疾患と目標を達成したが、開発 候補品の同定には至っていない。また視覚系難病及び神経内分泌難病のスクリーニング系構築にはやや遅れ が見られる。想定外の体制変更があったが、新体制では京都大学と理化学研究所との連携強化に向けた努力 がなされ、そのマネジメントは妥当である。開発候補品の同定には困難が予想されるが、企業の参画も得られて おり、今後の展開が期待できる。よって今後の見通しは妥当である。 以上により、本研究開発課題の研究開発の達成状況・成果や今後の見通し等は、一部に改善が必要な点が 認められるものの、概ね優れていると評価される。 事 業 名 再生医療実現拠点ネットワークプログラム ( プ ロ グ ラ ム 名 ) (疾患特異的 iPS 細胞を活用した難病研究 共同研究拠点) 研 究 開 発 課 題 名 疾患特異的 iPS 細胞技術を用いた神経難病研究 代 表 機 関 名 慶應義塾大学 代 表 研 究 者 名 岡野 栄之 1.研究概要 本拠点は、これまで開発してきた疾患特異的 iPS 細胞樹立システムと各種神経系細胞への分化誘導培養シ ステムを更に効率化して、神経疾患特異的 iPS 細胞を用いた解析を実現し、神経変性疾患に関する病態研究 の加速を目指す。神経変性疾患研究では、患者の病変部位を用いた細胞生物学的、あるいは生化学的な解析 は困難であった。疾患特異的 iPS 細胞は、患者の神経系で起きている現象を生体外で再現する有力な手段と して期待される。そこで本研究では、難治性疾患実用化研究事業研究班(以下、難病研究班)と協力して、神経 疾患特異的 iPS 細胞を樹立し、分化誘導して、その病態を再現することにより、疾患病態研究と治療薬開発を 行う。 2.評価結果 ①研究開発の達成状況について 神経難病 16 疾患 57 症例より疾患特異的 iPS 細胞を樹立し、6 疾患 11 症例を理化学研究所バイオリソース センターに寄託した。事業終了時までに拠点の目標を達成する見込みであり、細胞の樹立・寄託は順調に進ん でいる。疾患研究に関する論文は 20 報(7 疾患)に達し、目標を達成した。また、技術移転を 37 件実施した。創 薬スクリーニングの実施は 3 疾患(3 件)で現時点では目標にやや達していないが、事業終了までに新たに 3 疾 患(3 件)で創薬スクリーニングの実施が計画されており、目標は達成できる見込みである。2 疾患で開発候補品 2 を同定したことは評価できる。 以上により、本研究開発課題の達成状況は優れていると評価される。 ②研究開発の成果について 神経難病の克服という社会的ニーズの高い領域を扱い、疾患特異的 iPS 細胞から神経系細胞を分化誘導し、 疾患の表現型を in vitro で再現することができた。これにより、疾患研究が進み、新しい治療法の開発に繋がり、 今後の神経難病医療の進展に寄与し得る成果を上げている。ドーパミンニューロンやグリア細胞への分化技術 の開発や、それらを用いた他機関との共同研究も活発に行われている。また、ゲノム編集技術によって作製 した疾患モデル iPS 細胞を用い、病態表現型の再現に成功した。特許は 4 件出願されている。学会発表や アウトリーチ活動、プレス発表も活発に行われている。創薬スクリーニング法の妥当性については今後更なる検 討を要する疾患もあるが、パーキンソン病では製薬企業で創薬スクリーニングが実施されている。ペンドレッド症 候群及び家族性筋萎縮性側索硬化症(ALS)について、開発候補品の同定まで到達したことは評価できる。さら にペンドレッド症候群について医師主導治験に向けた準備が進められていることも評価できる。 以上により、本研究開発課題の成果は優れていると評価される。 ③マネジメント 2本事業では、 「前臨床試験のための最適化合物」を「開発候補品」と定義している。 代表研究者のリーダーシップにより、代表機関と分担機関との役割分担が明確で、効率的な連携が行われて いる。難病研究班との共同研究体制も円滑であり、技術移転も良好である。難病研究班の若手研究者へのキャ リアパス支援も行われている。さらに製薬企業の参加が増えている点も評価できる。 倫理委員会の承認、個人情報の管理などは各種指針を遵守し、適正に実施された。 以上により、本研究開発課題のマネジメントは優れていると評価される。 ④今後の見通し 各研究項目で優れた成果を上げており、創薬の候補化合物の見通しが立ちつつある。病態解明については 更に進捗が期待できる。一部の疾患では、医師主導治験の準備も進められている状況である。研究基盤が整 備されてきており、今後の発展が期待できる。 疾患特異的 iPS 細胞研究は、神経難病研究におけるブレークスルーとなるべき新分野であり、本拠点におい て成功事例が現れ始めている。疾患特異的 iPS 細胞の樹立、寄託、技術移転が順調に進めば、今後の疾患研 究、治療薬の創出に大いに寄与するものと期待できる。 以上により、本研究開発課題の今後の見通しは概ね優れていると評価される。 ⑤総合評価 2 疾患に対して開発候補品を見出したことは評価できる。多くの神経難病で疾患特異的 iPS 細胞が樹立され、 各種神経系細胞への分化誘導技術の確立、基盤技術の移転等という研究目的が、事業終了時には達成され ていると見込まれる。ゲノム編集技術等の最新のテクノロジーを意欲的に取り入れるなど、iPS 細胞を用いた基礎 的研究の成果も大きいものがある。また、治療薬を開発することは対象疾患の性質上容易ではないが、製薬企 業での創薬スクリーニング、医師主導治験の計画も進められていることから、今後も更なる発展が期待できる。 以上により、本研究開発課題の達成状況・成果や今後の見通し等は優れていると評価される。 事 業 名 事 業 名 再生医療実現拠点ネットワークプログラム ( プ ロ グ ラ ム 名 ) (疾患特異的 iPS 細胞を活用した難病研究 共同研究拠点) 研 究 開 発 課 題 名 iPS 細胞を用いた遺伝性心筋疾患の病態解明および治療法開発 代 表 機 関 名 東京大学 代 表 研 究 者 名 小室 一成 1.研究概要 本拠点は、難治性疾患実用化事業研究班(以下、難病研究班)と共同で遺伝性心筋疾患の患者から疾患特 異的 iPS 細胞を樹立、心筋細胞へと分化させた後に純化させた心筋細胞の表現型を解析することで、遺伝子変 異と患者の表現型をつなぐ心筋細胞の異常を明らかにすることを目指す。心疾患は日本における死因の第 2 位 を占めている。医学の発達により様々な心疾患の病態が解明され治療法が開発されたが、遺伝性心筋疾患(心 筋症、遺伝性不整脈)の疾患研究および病態に基づいた治療法の開発は進んでいない。遺伝性心筋疾患の 疾患特異的 iPS 細胞由来心筋細胞を用いて心筋症患者と同一の遺伝子を有する心筋細胞を解析することで、 遺伝性心筋疾患の病態が明らかになると考えられる。本研究では、患者から疾患特異的 iPS 細胞を樹立・寄託 するとともに、心筋細胞を用いた創薬スクリーニング系を確立し、遺伝性心筋疾患治療薬の開発候補化合物を 同定することを目標にしている。 2.評価結果 ①研究開発の達成状況について 遺伝性心筋疾患を対象とし、16 疾患 53 症例で疾患特異的 iPS 細胞を樹立し、6 疾患 11 症例を理化学研究 所バイオリソースセンターに寄託した。疾患特異的 iPS 細胞の樹立数は拠点の目標を達成しているが、寄託数 については現時点で拠点の目標に達しておらず、進捗に遅れが見られる。事業終了時において達成出来る見 込みとされており、今後の着実な取組が望まれる。 疾患研究に関する論文数が 10 報(9 疾患)で現時点では目標に達していないが、現在投稿中の論文を含め、 事業終了時までに論文数の目標をほぼ達成することが見込まれており、今後の着実な取組が望まれる。 創薬スクリーニングは 3 疾患(4 件)について実施し、現時点ではやや目標に達してないが、事業終了までに 更に 1 疾患で創薬スクリーニングの実施が見込まれる。肥大型心筋症の開発候補品3として1化合物を見出した ことは評価できる。また技術移転は 25 件実施された。 中間評価での指摘に従い、研究体制の整備を行い、整備後は疾患特異的 iPS 細胞の樹立や疾患研究・創 薬スクリーニングが加速していることから、事業終了時までに目標をほぼ達成することが期待できる。 以上により、本研究開発課題の研究開発進捗は概ね妥当であると評価される。 ②研究開発の成果について 遺伝性心筋疾患は、社会的ニーズのある分野であり、また疾患特異的 iPS 細胞研究の優位性が発揮される 分野でもあることから、本研究の意義は高い。分かりやすい研究成果と原著論文の発表について評価できるが、 国際競争における独自性、優位性についてはより明確化が望まれる。 創薬スクリーニングで、肥大型心筋症の治療候補薬としてエンドセリン受容体拮抗薬を見いだしたことは評価 され、医療の進展に資する成果を挙げた。もともと肺高血圧症の薬である薬剤が肥大型心筋症にも効く可能性 3本事業では、 「前臨床試験のための最適化合物」を「開発候補品」と定義している。 があることは、既存薬の新しい薬理作用の発見による新たな治療薬開発の可能性という観点からも興味深い。 バリデーションを十分に行い、今後の研究が進められることが期待される。一方、心筋組織等を用いた新たなス クリーニング系を立ち上げようとしていることは評価できるが、事業期間内に成果が得られるかについては疑問 である。 特許出願は 2 件とやや少なく、アウトリーチ活動も少ない。 以上により、本研究開発課題の研究開発の成果は概ね妥当であると評価される。 ③マネジメント 中間評価での指摘を受けて体制を整理し、研究代表者の分担機関訪問による研究進捗状況の確認、実務 者レベルの会合などの連携体制の構築が図られた。いまだ十分とは言い難いが、一定の改善が見られ、研究が 進捗したことは評価できる。拠点内外の役割分担をより明確にし、今後、一層の連携体制の強化が求められる。 参入する企業が少ない状況は理解できるが、企業の参画に向け、より具体的な方策の実行が期待される。 倫理委員会の承認、個人情報の管理などは各種指針を遵守し適正に実施された。特に未成年者に対してイ ンフォームド・アセントを取得する際、副次資料を用いて、小児の理解を促進する工夫がなされている。 以上により、本研究開発課題のマネジメントはやや不十分であると評価される。 ④今後の見通し 中間評価での指摘を受けて研究体制を改善したことにより、研究が進捗し具体的な成果が挙がってきた段階 である。創薬スクリーニングによって開発候補品が見出されていることから、創薬技術については評価できる。今 後は、創薬スクリーニング系構築のスピードアップを図るなど、事業終了時には目標を達成することを期待する。 東京女子医科大学との共同研究による心筋組織等を用いた新たなスクリーニング系を立ち上げようとしている ことは評価できるが、事業期間内に成果が得られるかについては疑問であることから、今後、より明確な計画が 求められる。 遺伝性心筋疾患は、社会的ニーズのある分野であり、また疾患特異的 iPS 細胞研究の優位性が発揮される 分野でもあることから、強固な連携体制を構築することによって今後の疾患研究に寄与することを期待する。 以上により、本研究開発課題の今後の見通しは概ね妥当であると評価される。 ⑤総合評価 疾患特異的 iPS 細胞の樹立数は目標に達している。寄託数や創薬スクリーニング実施数、疾患研究論文数 において現時点では不十分であったが、事業終了時にはこれら目標を達成できると期待できる。 心臓という特殊性から、遺伝性心筋疾患の疾患研究、創薬研究が進んでいない中にあって、疾患特異的 iPS 細胞の樹立、分化誘導を経て、製薬企業の参加も得て研究が進捗し、肥大型心筋症の開発候補品としてエンド セリン受容体拮抗薬を見出したことは評価でき、社会的ニーズに応えつつある。事業開始当初の研究体制の不 備により、全体として研究の進捗に遅れが見られることは否めないが、中間評価の指摘を受けて研究体制の改 善を行い成果が挙がってきたことから、最終年度の成果に期待したい。 以上により、本研究開発課題の進捗・成果や今後の見通し等は概ね妥当であると評価される。 事 業 名 再生医療実現拠点ネットワークプログラム ( プ ロ グ ラ ム 名 ) (疾患特異的 iPS 細胞を活用した難病研究 共同研究拠点) 研 究 開 発 課 題 名 疾患特異的 iPS 細胞を活用した筋骨格系難病研究 代 表 機 関 名 京都大学 代 表 研 究 者 名 戸口田 淳也 1.研究概要 本拠点では、骨・軟骨領域及び骨格筋領域において、疾患研究と創薬スクリーニングに取り組む。骨・軟骨・ 骨格筋領域には数多くの遺伝性疾患が存在しているが、ほとんどの疾患に対して根治的な治療法が無いだけ ではなく、進行を抑制することも症状を軽減することもできないのが現状である。多くが全身性の疾患であるため 細胞を用いた再生医療のターゲットにもなり難く、新規治療法の開発が切望されている。そこで本研究は、難治 性疾患実用化研究事業研究班(以下、難病研究班)との連携のもとに収集した、稀な筋骨格系の難治性疾患罹 患者の体細胞より疾患特異的 iPS 細胞を樹立し、これまでに培った分化誘導技術を用いて品質評価を行い、疾 患研究・創薬研究に供することで、革新的治療法の開発を推進する。 2.評価結果 ①研究開発の達成状況について 研究対象の 17 疾患全てで合計 99 症例の疾患特異的 iPS 細胞を樹立し、13 疾患 43 症例を理化学研究所 バイオリソースセンターに寄託した。事業終了時までに拠点の目標を達成する見込みであり、細胞の樹立・寄託 は順調に進んでいる。 疾患研究に関する論文数は 11 報(6 疾患)で現時点では目標に達していないが、研究開発の進捗状況が良 好と認められることから、事業終了までに、更に発表論文が増えることが望まれる。 技術講習会を定期的に計画・実施し、疾患研究者へ iPS 細胞樹立及び培養技術、目的細胞への分化誘導 技術等の疾患特異的 iPS 細胞を用いる研究に必要な技術の普及を図った。技術移転件数は 16 件である。 疾患モデル系を構築して、創薬スクリーニングを 4 疾患(3 件)実施し、現時点では目標にやや達していない が、事業終了までに更に 3 疾患で創薬スクリーニングの実施が見込まれており、目標は達成できる見込みであ る。3 疾患(2 化合物)で既存薬から開発候補品4の同定に成功したことは評価できる。 以上により、本研究開発課題の達成状況は優れていると評価される。 ②研究開発の成果について 筋骨格系の難病を対象とし、社会的ニーズや医療の進展に資する成果を上げた。特に進行性骨化性線維異 形成症(FOP)における iPS 細胞技術とゲノム編集技術の組み合わせによる新規性の高い分子機構の解明、 FGFR3 病(軟骨無形成症とタナトフォリック骨異形成症)における疾患特異的 iPS 細胞による疾患研究やマウス モデルを用いた in vivo での有効性の検証など、科学的価値の高い成果を上げた。FGFR3 病における開発候 補品としてスタチンを同定した過程は、今後の疾患特異的 iPS 細胞研究の一つの模範となる方法論を示したと 言える。また、既存薬の新しい薬理作用の発見による新たな治療薬開発の可能性を示した点も評価できる。さら に、同定に成功した開発候補品については医師主導治験が計画されているなど、成果の達成状況は優れてい ると認められる。一方、臨床研究に向けては、製薬企業とより緊密な連携を行う必要がある。 4 本事業では、 「前臨床試験のための最適化合物」を「開発候補品」と定義している。 学会発表やアウトリーチ活動も活発であり、特許出願が 10 件なされており、知的財産の確保が積極的に行わ れた。 以上により、本研究開発課題の成果は優れていると評価される。 ③マネジメント 骨・軟骨領域、骨格筋の各研究領域が密に連携体制を構築している点が評価される。製薬企業との共同研 究マネジメントには工夫を要するものの、難病研究班 14 機関との共同研究がなされ、そのうち 11 研究には製薬 企業の参加があり、成果を上げており、適切な組織連携体制である。領域カンファレンスを毎年開催しており、 大学院生等も含め参加人数が増加していることも評価できる。 倫理委員会の承認、個人情報の管理などは各種指針を遵守し適正に実施された。特に小児に対してインフ ォームド・アセントを取得する際、副次資料を用いて、小児の理解を促進する工夫がなされている。 以上により、本研究開発課題のマネジメントは妥当と評価される。 ④今後の見通し 筋骨格系疾患において、疾患特異的 iPS 細胞からの分化誘導技術が確立していること、また疾患表現型が 比較的明確な点を利用して、既に 3 疾患(2 化合物)の開発候補品の同定に成功し、医師主導治験も計画され ており、今後の発展が期待できる。一方で、臨床試験に向けた企業との連携については十分とは言い難い。学 究的な側面に留まらず、高い国際競争に打ち勝ち、創薬の成功例を創出するための戦略を検討してほしい。 また、疾患特異的 iPS 細胞技術にゲノム編集技術などを組み合わせる新しいアプローチや、疾患特異的 iPS 細胞技術の、細胞-細胞相互間研究等の発展性が高いと考えられる領域への応用に意欲的に取り組んでおり、 今後、難治性疾患だけでなく、一般的な疾患でも動物モデルでは病態を再現できないような疾患への応用が非 常に期待される。 以上により、本研究開発課題の見通しは概ね優れていると評価される。 ⑤総合評価 疾患特異的 iPS 細胞の樹立、寄託、分化誘導、創薬スクリーニング系の確立、開発候補品の同定など目標を 達成し、成果を上げている。これまでに、3 疾患に対して開発候補品(2 化合物)を同定したことは評価できる。ま た、難病研究班との連携構築も良好であり、今後創薬スクリーニングが実施される予定の 3 疾患のうち 2 疾患に ついては、製薬企業と共同で実施される予定である。さらに、将来の展開が期待できる新しい技術の研究に着 手していることが評価できる。 以上により、本研究開発課題の達成状況・成果や今後の見通し等は優れていると評価される。 事 業 名 再生医療実現拠点ネットワークプログラム ( プ ロ グ ラ ム 名 ) (疾患特異的 iPS 細胞を活用した難病研究 共同研究拠点) 研 究 開 発 課 題 名 難治性血液・免疫疾患由来の疾患特異的 iPS 細胞の樹立と新規治療法開発 代 表 機 関 名 京都大学 代 表 研 究 者 名 中畑 龍俊 1.研究概要 本拠点は、疾患特異的 iPS 細胞を用いて、難治性血液・免疫疾患の疾患研究及び新たな治療の開発を目 指す。血液疾患の根治的治療は多くの場合、造血幹細胞移植に頼っており、より低侵襲の特異的治療が多くの 疾患で望まれている。そこで本研究では、難治性疾患実用化研究事業研究班(以下、難病研究班)と連携し、 難治性血液・免疫疾患の患者体細胞より疾患特異的 iPS 細胞を樹立し、疾患特異的 iPS 細胞及び分化誘導さ れた細胞を難病研究班に提供することで、難治性血液・免疫疾患の病態研究及び創薬などの治療法開発を加 速する。 2.評価結果 ①研究開発の達成状況について 難治性血液・免疫疾患の 24 疾患 47 症例で疾患特異的 iPS 細胞を樹立し、7 疾患 15 症例を理化学研究所 バイオリソースセンターに寄託した。樹立数は拠点の目標をほぼ達成している。寄託数については現時点で拠 点の目標に達していないが、事業終了時までに拠点の目標を達成する見込みであり、細胞の樹立・寄託は順調 に進んでいるといえる。 疾患研究に関する論文は 13 報(7 疾患)で現時点では目標にやや達していないが、投稿中の論文もあり、研 究開発終了時には 20 報に達する見込みである。 疾患モデル系を構築して、創薬スクリーニングを 3 疾患(3 件)実施した。そのうち 1 疾患では、製薬企業にお ける大規模な創薬スクリーニングを行い、薬効のある化合物の絞り込みが進んでいる。創薬スクリーニング件数 は現時点では目標にやや達していないが、事業終了までに更に 1 疾患(1 件)において実施が計画されている。 技術講習会や研究員の受け入れを行い、開発したフィーダーフリー血球分化法や単球系分化法などを難病 研究班へ積極的に技術移転(14 件)していることは評価できる。 以上により、本研究開発課題の達成状況は概ね優れていると評価される。 ②研究開発の成果について 難治性血液・免疫疾患は今後増加が見込まれる疾患であり、本研究の社会的意義は高い。血液疾患の解析 に必要となる疾患特異的 iPS 細胞からの造血系分化誘導が技術的に困難であり、また免疫疾患は疾患モデル やマーカーの確立も難しい。その中で、血液・免疫疾患に対する疾患研究、創薬スクリーニングが開始されてお り、本拠点で開発された樹立技術・機能解析技術の科学的価値は高く、医療の進展に資する成果を上げた。血 液系の疾患については順調に研究が進展しているが、一方で、免疫系の疾患については疾患特異的 iPS 細胞 をどのように利用するのかより明確にする必要がある。 4 件の特許出願があり必要な知的財産の確保が図られている。学会活動やアウトリーチ活動なども活発に行 われた。 以上により、本研究開発課題の成果は概ね優れていると評価される。 ③マネジメント 代表研究者のリーダーシップで、代表機関、分担機関、難病研究班との連携が密にとられており、うまく機能 し成果を上げる原動力なっている。若手研究者の雇用、大学院生の研究への参加などキャリアパス支援も積極 的に行われている。研究対象疾患の性質上難しい面もあるが、製薬企業の参画は増えているものの十分とは言 い難い。今後更なる連携が望まれる。 倫理委員会の承認、個人情報の管理などは各種指針を遵守し適正に実施された。 以上により、本研究開発課題のマネジメントは妥当であると評価される。 ④今後の見通し 樹立した疾患特異的 iPS 細胞を用いた有用な疾患モデルの作製と病態研究が今後の課題である。多くの疾 患に対して様々な工夫をしながら、積極的に研究が進められている。また 1 疾患において薬効のある化合物の 絞り込みが進むなど、創薬に結びつく知見も得られており、今後の発展が期待できる。今後は製薬企業との連 携を更に緊密にし、創薬スクリーニングを進展させることを期待したい。 以上により、本研究開発課題の今後の見通しは優れていると評価される。 ⑤総合評価 難治性血液・免疫疾患を対象とし、疾患特異的 iPS 細胞の樹立及び寄託は順調に行われ、また病態研究も、 科学的価値の高い成果を上げ、今後の発展も期待できる。多くの難病研究班で疾患特異的 iPS 細胞を用いた 研究が行われ、大規模な創薬スクリーニングが実施された点も評価できる。一方、免疫系の疾患については、疾 患特異的 iPS 細胞をどのように利用するのか、より明確にする必要がある。今後は、現行の造血幹細胞移植、ス テロイド・免疫抑制剤や生物学的製剤の投与よりも優れた治療法の開発を目指すという観点も必要になると考え られる。 以上により、本研究開発課題の達成状況・成果や今後の見通し等は優れていると評価できる。
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