不動産証券化制度を 社会に貢献するように活用

巻 頭 言
Special
不動産証券化制度を
社会に貢献するように活用
更を受け、それに対応するため毎年のように改正が
行われてきた。しかし、2015 年の税制改正は、
「一
杉本 茂
さくら綜合事務所 代表取締役
公認会計士
(不動産証券化協会フェロー)
時差異等調整引当額 」「 一時差異等調整積立金 」
という新たな概念を導入することにより、個別問題へ
の応急措置ではなく、税会不一致問題一般について
の対応がとられた。今後は、ペイスルー制度を、特別
2001 年に誕生したJ-REITの市場は、2016 年 8月
措置ではなく恒久措置として、法人税法本文に移行
末時点で上場 55 銘柄 、時価総額では11 兆円を超え
するとともに、内容的にも今後予想されるIFRS 等コン
る規模までに成長した。かつて、最も固定的な資産
バージェンスに対応できるもう一歩踏み込んだ改正も
である不動産の証券化は、複雑な規制が絡む我が
視野に入れるべきだろう。
国では空想論と呼ばれた時代もあった。しかし、当
流通税についても、投資法人や特定目的会社と
協会を中心とする関係各位のご尽力で現在の制度
いった法定ヴィークルへの軽減措置があるが、信託
が誕生した。その後も幾多の危機もあったが、今で
受益権での譲渡との比較で現物資産での譲渡には
は不動産投資市場においてのみでなく、我が国経済
まだ負担感が残っている。譲渡益について課税がな
全体を支える重要な役割を担うようになったといえる。
されるのは当然であるが、買換え特例による繰延制
振り返れば 2008 年秋のリーマンショックに際して、
度が措置されていながら、先に述べたペイスルー要
世界的に資産証券化に関する疑念が生じた時期も
件との関係でその適用が事実上制限されていること
あった。しかし、取得時の不動産の現物確認を重視
もある。不動産市場において法定ヴィークルが担って
するわが国の制度は、証券化対象不動産の実在性
いる重要な役割を考えると、移転を促す新たな措置も
そのものに関する問題を引き起こしたことは、自分の
検討すべきであろう。また、市場の拡大及び情報技
知る限り一度もない。制度的にも2009 年のREIT 間
術の進展にあわせた、鑑定評価を含む不動産情報
の合併手続きを明確にする法改正をはじめ、その後
の充実も忘れてはならない課題である。
も2013 年には、REITの自己投資口の取得規制の緩
安倍政権における日本再興戦略 2016では、今後
和、
ライツ・オファリング制度 、
インサイダー取引規制の
のニーズの増加が見込まれる観光や介護等の分野
導入、ガバナンスの強化により、更に市場の信頼性・
における不 動 産 供 給を促 進し、2020 年 頃までに
安定性を高める改正がなされてきた。
REIT 等の資産総額を30 兆円の規模に倍増させる
15 年を経て、わが国経済で重要かつ信頼性の高
目標が掲げられた。15 周年を迎えた証券化の制度
いセクターとなった不動産証券化制度だが、税制面
は、ヘルスケア等の新たな領域を含め、経済全体の
ではペイスルー制度 、つまり原則として発生利益のほ
発展への重要な貢献が期待されている。
とんど全てを配当する事業体についてヴィークル段階
かつて空想論と呼ばれた不動産証券化の技術
での課税を免除するという制度は、いまだに租税特
は、現在は不動産市場のみならず我が国経済全体
別措置法の中にある。つまりは税制面での制度的枠
に重要な位置づけを持つまでに至った。今後とも、関
組みは、いまだにリリーフピッチャー扱いのままだ。
係各位のご尽力を得て、より幅広く社会に貢献してい
確かに、ペイスルー制度の要件は、会計基準の変
く制度として発展していくことを切に希望している。
November-December 2016
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